18.スパルタでFight!!



神の力を授かったトライフォースは


人々に幸福を齎すと言われている。


だけど、それと同時に恐ろしいほどの


不幸をも共に、授けられるとも言われていた――――。






スパルタでFight!!






**2週間後**



今はまだ、人々が眠りに付く夜。
舞がゲルド族の谷に来て、2週間が経った時だった。

彼女に異変が起きだしたのは…


「…っ」


布団に包まったまま、舞は何か唸っていた。
さっきまでは非常に体が暑かったというのに、今では体がガチガチ震える程寒い。

両手で腕を摩りながら、必死に眠りに付こうとした。


「はっ…しんど……っ」


ヒュー…という乾いた音しか出ない喉の気管を押さえながら、天井を見上げるため体を反転させる。
こんな事、今までなかった。

どうにか頭の中で考えていると、いよいよ疲れてきたのか、どんどんと意識が朦朧としてきた。
心の中で眠れる事にほっとしながらも、彼女は瞳を下ろしていった。









****



此処は何処だ。
自分は今立っているのか?それさえも分からなくなるほどの


真っ暗な空間。


まただ…此処に来るのはもう3度目になる。
その度に異なる人たちが現れてくるが、今日は一体誰…?


以前と違い、目の前に小さな赤い光が現れた。それはどんどん具現化していき、最後には【人】のような形になる。

目の前に現れた【人】が、伏せていた瞳を開く。


「貴方…誰…?」


あたしの問いかけに、目の前の【人】はにこっと笑った。
そのまま両手をあたしの頬の位置まで添えるように持ってくると、


バチーーーン!!

「ぅあいったああぁぁ!!!」

『痛い?』

「あ、当たり前じゃないですか!!」


突然強烈なビンタをかましてくれた。ヒリヒリと痛む頬を押さえながら、あたしは下から睨むように【人】を見つめた。


『悪いね、こうでもしなきゃ夢としか思われないかと思ってさ!ま、此処は実際夢の中の出来事なんだけど』

「……。貴方は誰?」


さっきと同じ質問を繰り返す。目の前の【人】は思い出したようにポンッと左手の上に右手を置いた。


『そう言えば、まだ自己紹介がまだだったね。
あたしは聖三角に力を宿す三大神の1人、ディンだ』

「さ、三大神…?」


ハッ


「聖三角…トライフォースの守護者!!」

『その通り。』


目の前にいる【ディン】と名のる人物はニヤっと笑った。
一瞬ポケーっと呆けてしまったけど、それは呆れ顔へと変わった。


「…そ、そんな訳ないでしょう。三大神は架空の存在、実在なんてしてない筈よ」

『そう、あたし達三大神は実際には存在しない。だからこうやって。あんたの夢の中で姿を具現化させるのさ。』

「けれど、貴方がその三大神の一人だという証拠なんてないでしょ?」

『やっぱゼルダ姫が見込んだとおり、鋭い勘を持ってるわね。
じゃあ…そうだね、何か証拠を見せればいい?』


証拠…見せてくれればそりゃこっちとしては好都合だけど。
あたしは考えるよりも先に動き、首を縦に振った。


『オッケー。じゃ、証拠も兼ねてあたしの話を聞いてくれる?異世界の住人』

「な!何でそれを……」

『あんたを呼ぶ際、ゼルダ姫に力を与えたのはあたし達だからね。
ま、その様子だともうこの世界に連れて来られた意味も聞いたんだろうけど』

「あんなの、理由を聞いたにも何にもならないわ。全然意味が分からないんだもの!」

『あ?…何だ、あんた意外に馬鹿だったのか』

「馬鹿とは何だ馬鹿とは」


立ちっぱなしで痺れる足を、つま先でトントンと床を蹴った。


「ゼルダが言ってたわ、あたしは『悪の力の制御者』だって。
でもあたしには、悪の親玉を押さえつけるほどの力なんて備わってないの。
それはゼルダが一番分かってくれてる筈なのに!」

『そう、その意味を理解させるためにあたしが此処に来たの』


ディンはあたしとの間で保っていた距離を短くし、すぐ近くまで近寄ってきた。
あたしには逃げようとする気もなく、彼女が目の前に来てもさほど驚かなかった。
言うなれば、キンチョー…(ドキドキ)


『舞、こっちの都合で勝手にあんたを連れてきてしまったのには、本当に申し訳ないと思っている。
けど、今この世界は暗黒の支配者により消滅されようとしてるんだ』


ディンが、あたしの両手を包み込む。


『あんたの力が必要なの。あたし達にとっても、あの少年にとっても…』


―――少年?

「っ!?」


疑問を問いかけようとした時、突然あたしの両手を包んだディンの手から赤い光が漏れ出した。
それに続くように、右手の甲に鋭い熱い痛みを覚えた。


「ちょっ…!い、痛い痛い!!」

『……よし。舞、これであんたも…これからは、あたしの――――…』


ディンの言葉は全てを言い終わる前に途切れてしまった。
支えられていた糸が支えていた糸がぷつんと切れたようにあたしの体の力が切れた。















****







―――――−−-・


「という夢を見たんですけど」

「そりゃ夢じゃないんじゃないのかい?」


目線を向けることなく、あたしと向き合う形で座っているナボールさん。
あたしはその晩に見た夢の内容を全部語ったけれど、やはり彼女も夢ではないと思っているわけで…


「大体夢の中の出来事なら、こんな大火傷するわけないだろ?」

「うっ…いや、それはそうですけど……」


あたしの右手に何重も巻かれているのは、白い包帯。
夢から覚めた途端、夢の中と同じように焼けるように熱い痛みが右手の甲にあった。だから今こうして診てもらってるんだけど…


「よし、これでいいだろ!まあ夢の中といえどディン様にお会い出来たんだ、それだけでも幸せもんだよ!!」


パシンッと今治療が完了したばかりの手を叩いた。
その地味だけど痛恨な攻撃に涙を浮かべながら、あたしは返事を返しておいた。

やっぱり、あれは三大神の1人、ディンだったの…?


「もういいです!この事は忘れますから」


もう開き直ったとばかりに胸を踏ん反り返る。残念ながら、今出来る胸はないんだけど(涙)
ナボールさんと向き合っていた形だから、後ろから近寄っている気配に気づかなかった。


ヒヒィィン!

「Σおぉわっ!?び、吃驚した…何だ〜子馬のアンか」

「そりゃ違うジャンルだろ。」


「そう言えば、あたしまだこの子馬の名前つけてませんでしたねー」


たてがみを沿うように撫でると、子馬はかくんと首を傾けた。
う〜ん…どういう名前がいいんだろう。


「名前ねぇ…」

「そうですね〜、ポニーなんてどうです?」

「そりゃ馬を英語にしただけだろ」


駄目かやっぱり!そもそも英語なんてこの世界にあるの…?(疑問点)


「んじゃマスオさん!」

「あー、それはもう他の馬につけてるから駄目だね」


Σマスオさん活用されてる!?


「ではザブサーフアタックシャボン…」

「洗剤の名前くっつけただけの長い名前却下」

「じゃあナボールさん!」

「Σそれはあたしの名前だ!!」

「それじゃあ此処はオスカルで」

「Oh!!!アンドレーー!!」


Σとうとう突っ込みし過ぎの影響でナボールさんが壊れた!?(その後怒りの拳で頭を殴られたけど)


「(痛い〜)うぅ…幼児虐待……」

「馬鹿!心配しなくともこの子には名前があるよ!」

「へ?」


首を傾けるあたしを気にせず、ナボールさんは子馬の背中にある装飾物に手をかけた。


「ホラ、これ見てみな」


手招きされ、呼ばれるままにナボールさんの隣へ。
装飾物の裏には可愛らしい丸っこい文字が。


「…なんて書かれてあるんですか?」

「は?何って、…………。
舞、あんたもしかして…ハイリア文字が読めないのかい?」

「そうそれです!(ビシッ)」

「……。」


そんな呆れた視線寄越さなくても。
あたしに分かるように、ナボールさんは文字に指を這わせながら丁寧に1つ1つはっきりと言ってくれた。


「『E、P、O、N、A』」

「エポナ?」


にっこり笑って頷く。子馬、もとい『エポナ』は名前を呼ばれてか嬉しそうに擦り寄ってきた。
エポナって言うのね…やっと名前が決まった!


「いいと思ったんだけどな〜、オスカル」

「それはもういい!!」


そ、そんなに否定しなくとも


「…さて、名前も決まったところで馬の乗り方を教えるよ!」

「は、はい!!」


やっと来たか…ナボールさん直伝なんて凄いね。
その前に先ず、乗る時のために必要な道具を取り付けるため倉庫に行ったり来たり。






***




「それじゃ、教えるよ」


返事を返すように、エポナがぶるるっと鳴いた。うう、緊張するな〜…


「先ず馬の左に立つ。その次に左手で手綱とたてがみを一緒に掴むんだ。」

「手綱と、たてがみを…」

「そう。それから左足をあぶみにかけて、右手で鞍をつかんだら、右足で地面を踏み切って体を持ち上げる。やってみな?」


一気に言われてちょっとたじろぎながらも、言われたとおりの手順でやっていく。
最初に比べ、大分大人しくなったエポナの背中に上る。

……と、したら


グラッ

「うわ!?」


ドサッ!!


「「…………」」

「舞、あんた……何やってんの?」

「や、ちょっと……(汗)」


何ともバランス感覚の悪い事か、あたしの体は乗る前にも関わらず地面に転倒。
つまりは落馬。


「て、手順は合ってるんだ!!ほら、もう一回やってみな!」

「は、はい!」


言われるままにもう一度!
結果、落馬。


「「………」」

「もう一回!!」

「はいぃ!!」


もう1回、落馬。

もう1回、落馬。

もう(以下省略)








++3時間後++




「や、やっと乗れた…」

「ある意味あんた只者じゃないねぇ(汗)」


乗馬だけで約3時間、詳しく言うなら2時間と48分の時間を軽少。
乗るだけで凄い疲労感が…(汗)


「大丈夫かい?ちょっと休憩とろうか」

「い、いえ!このまま、続けます…」


早いところ、馬の乗り方を覚えておかないと。
それは自分の為だけでなく、これから一緒に旅をするリンク達の為でもある。

戦えない分、こういう事で彼の役にたちたい。


「いつ、リンク達が此処に迎えに来るか分かりませんので」

「…そうかい。
じゃあ、あたいも付き合ってやるよ」

「すみません」


返事を返す代わりに背中を叩いてくれた。
ナボールさんに迷惑をかけたくもないし、早く覚えないと。


「馬を操るのに一番肝心なのは手綱。それを上手く使いこなさないと、馬を動かすのは不可能だから。
あとその次に大切なのが合図ね」

「合図、ですか?」

「そ。乗りながら馬の腹を軽く蹴るんだ。両足で叩いて前に進むとか、腹と手綱を同時に叩いてダッシュするとかね。
あたい達はそういう風に決めてるよ!」


成る程。物は試しに、弱い力でエポナの腹を足でポンと1回叩く。
その合図を聞き取ってか、エポナが前に前進した。

おおおお!


「そう、そうやって動かすんだ。これが基本の動き」

「凄いですねー」

「まあ馬は知能が高いって言われてるからね」


感心しながらエポナの頭を撫でてあげる。この3時間、よく耐え抜いてくれたっ(涙)
ナボールさんは顎に手を掛けながら何かを考え出した。


「これで基本の動きは出来たね。後はもう少し詳しい動きを教えるだけだ!」

「そうですね!」

「…が、かと言ってこのままちょびちょび教えても、さっきの乗馬の時みたいに3時間程度かかっちまうかもしれない」

「え?」


まあ確かにそうかも…何たってあたし自他共に認める運動音痴ですから。

うんうんと心の中で頷く。


「と、いうわけで―――」


ナボールさんは背後に隠し持っていた弓を取り出した。
それに矢をセットして、その攻撃の先をあたしとエポナに……

え``!?


「ココは身を持って体に叩き込む!!」

「ななな、ナボールさん!?」


まるでその瞳は獲物を狙うハンターの如く!覚悟とばかりにナボールさんは躊躇なく矢を放ってきた。


「ヒィィ!?」


上手く危機を察したエポナが前足を上げた。
けれど、第二の矢をセットしたナボールさんは既に次の攻撃の準備をしていた!

珍しくあたしとエポナの波長が合い、ナボールさんの言葉を思い出して足と手綱を使って同時に叩いた。

ダッシュで逃げる馬は速い!早いのに後ろから追いかけてくるナボールさんが同じくらいのスピードを出しているのは何故!?


「ぃやあああぁぁああぁ!!!(滝汗)」

「あはははははは〜〜〜!!」



後ろから追いかけてくる鬼に恐怖を覚えつつ、あたしとエポナは全速力で逃げる!
だ、誰か助けてーーーーー!!!(号泣)















***







「イヤァ、いい運動したねー!こんなにいい汗掻いたの久しぶりだよ!!」

「し、死ぬかと…思った……」


キラキラと輝かせんばかりの表情をするナボールさんの隣で、過呼吸になりかけのあたしとエポナ。
嫌な緊張感の所為で、あたしまで疲れてしまう羽目に(汗汗)

もう日も傾き、夕暮れが砦を映やした。


「でもこれで大体は分かっただろ?明日ももう一回ぐらいやっとくか!!」

「え``」


いやに楽しそうな顔をする彼女を見て、嗚呼…きっとこの人は日々のストレスを発散してるんだなと感じざるを得なかった。







*





エポナを小屋に帰し、あたしは溜息をついた。
いろんな事に不安を抱えていた。

うん、その中に明日の地獄の特訓も含まれているのは否定しない(汗)



他に例えるのならば、馬に慣れることが出来るのか、とか。
このまま此処にいても大丈夫なのか、とか。


果たしてリンク達は、あたしを迎えに来てくれるのか。

あたしにハイラルを救う手助けが出来るのか。

元の世界に…戻る事が出来るのか。


いろんな考えと悩みが頭の中をぐるぐる回る。
と、その時砦の頂上からあたしを呼ぶ声が聞こえた。


「おーい舞!!ちょっとこっちへ上がってきな〜〜!!」

「ナボールさん…?」


大きく手を振っている。けど…


あの高い所まで上って来いと!?
疲労が溜まっている体にはちょっときついですよ…!!

ちょっと心の中で文句を言いながらも、あたしは呼ばれたままに頂上を目指した。










ゲルド族の方々に道を尋ねながら頂上を目指して約10分。
ちょっと息を乱しながらもナボールさんの許へ…


「ハー、ハー…な、何でござり、ましょうか……?」

「悪い悪い、ちょっとこっちへ来てみなよ」


何だろう…疑問を抱きながらも、大人しく彼女の隣へ行った。
隣に来ても何も言わないナボールさん。じっと真剣に何かを見つめているから、彼女の視線を辿ってあたしも視線を向けた。






視界一杯に広がったのは、夕暮れの色に染まった…ハイラルの姿が見えた。


その神々しい光景に、思わず息を呑む。





「あんたは、リンクって奴と一緒にこの世界を守るんだね」


ナボールさんはじっとその光景を見ながら、突然口を開いた。
あたしは、視線を夕焼けからナボールさんへ変える。


「その小さな体に、大きな宿命を背負わせられた。
今思えば、神様も女神様も残酷な考えの持ち主だよね」

「そうかもしれませんね…」

「…でも、あたいもその残酷の心の持ち主の一人かもしれないんだよ」

「?」


彼女の言葉の意味が理解できず、顔を上げた。
あげた先には、最初の日に見たときと同じような母性のように優しい笑顔。


「何だかね、あんたならやれるって思っちまうんだ。
もちろん、あたい達だって何かしら努力はするよ!

…でも、このハイラルが闇に覆われた時、完全に取り除くことが出来るのは、あんたと、そのリンクって奴なんじゃないかって思ってね」

ナボールさんは、照れくさそうに頬を掻いて視線をまた夕焼けに戻した。

あたしも、それに釣られて顔を正面へと向けた。


「考えすぎないでいいから。何かあったら、此処に戻ってきていいから」

―嗚呼、きっとこれがこの人也の心配を取り除く方法なんだろうな。―

「あたい達と協力し合いながらさ、この夕焼けを一緒に守ろうな!!」





その時のナボールさんの照れくさそうな笑顔は

あたしの雲っていた表情は


目の前に広がる神々しい夕焼けの景色と同じくらい、




「はい!」




輝いていた。











――Child Story “END”
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