22.コキリのメカニズム
僕は生まれたときから自然が好きだった。
静かに流れる命の源である、川で流れる水も、
高き太陽を目指して立派に生え生きる木々も、
色とりどりに咲き己の存在を主張する花々も……
けれど何よりも好んだのは、この世の全てを超越した広大なる存在
蒼き空そのもの。
その存在はとてつもなく大きく、無限の可能性を秘めていると昔の人は説いた説がある。
彼女も、その小さな体に無限の謎を秘めていた。
自分の決めた道を真っ直ぐ歩こうと、生きようとする儚い生命(いのち)…
彼女は一体…何を抱え込んでいるのか。
【あの人】の化身である僕は、それを知ってしまっているなんて…とても言えなかった。
コキリのメカニズム
えー…とりあえずこんにちは。女子高生です。
前回までの話を覚えていますでしょうか?あたしはシークと共にサリアを助けるために故郷である【コキリの森】にやってきたのね。
迷いの森を抜けて中間地点までやってきたんだけど…
今現在進行形で、ある少年に行く道を塞がれています。
「とっとと出て行け!!余所者は絶対森には入れねえぞ!!」
意気込んで言うのはいいが、既にあたし達が森に入ったことに気づいてないんだろう。
少年の気迫は痛いほど伝わってくる。けどあたしが驚くのはそこじゃない。
何故こんな所に彼がいるのか……彼、ミド少年が。
「この少年…見たところ、コキリ族の子供のようだが?」
ちらり、とシークが視線を寄越してくる。多分その理由はあたしがコキリの森に来たことがあるのを知っているからだと思う。
「ええそうね。しかもこの子は間違いなくミド少年よ」
あたしは頷いて彼の言葉に隠れた質問に答える。
「誰が少年だ!しかも人の名前を勝手に………ん?ミド、少年…?」
ミド少年は持っていたデクの棒を若干下に下げる。
それでもまだ警戒心は完全には消え去っていない。
「何か…どっかで聞いた事のある呼び方、だな……あ``〜〜、どこだっけ?」
「(覚えてない、みたいね…)」
まあ7年も経ってしまったんだからしょうがないけど…あたしに対するミド少年の愛が薄いことにちょっぴりショック(涙)
落胆していると、背後にいたシークが耳元に顔を近づけてきた。
こんなに急接近するもんだから、てっきりあたしは誘っているのかと思っちゃったわ。(絶対違う)
「彼は思い出しかけている。此処を通してもらわないといけない、何かきっかけを作るんだ」
「き、きっかけ?でも、あたし何したらいいのか……」
「そうだな…例えば、君が此処にいた時に彼と遊んだ遊びとか、あるいは印象的な会話とか。そう言った事を言えば思い出すんじゃないのかい?」
成る程。けど、あたしはミド少年と遊んだ事なんてないし、印象的な会話なんていうのもなー…
兎に角、あたしの名前を言えばいいのかな?
「ミド少年、あたし舞よ!以前リンクと一緒にこの森を出て旅立ったの、7年前の事よ!」
「…………………………は?
んなっ!舞だ〜〜〜!?嘘つくなよ!!」
あら?
「嘘じゃないわよ!」
「ぜってぇ嘘だ!だってあいつはそんなマント着けてなかったぞ!?
それにあいつはオレたちと同じ10歳だったんだ!!」
「あたしはコキリ族じゃないでしょ!?だから大人になるのは当然でしょうが!」
「う…で、でもあいつの恰好を真似た偽者かもしんねえだろ!!」
ミド少年は睨みを利かせてもう一度デクの棒を強く握り締めた。駄目だ…ミド少年はあの男の子と違って警戒心が強い。
どうしたもんか。きっかけを作れってシークは言ったけど…ならばここは1つ、7年前にあった事を話せばいいのかもしれない。
あたしは心の中でそう解決し、一度コホンッと咳を1つ溢した。
「分かった、じゃあ貴方関係の情報を言うわ。
えー…先ずひとつ、私は旅に出る前に貴方から『コキリの盾』を貰ったわよね?」
「え?あ、ああ…」
「ふたつ、ミド少年はこのコキリの森のリーダーであり、5、6人の部下を連れている筈よ」
「あ、合ってる……」
ほっ、良かった…
「まだあるわよ。
あたしは7年前、デクの木サマが死んだ後に貴方の家へ行って妖精に体当たりしたわ」
「したな(即答)」
「その後に貴方の家の宝箱を開けたし、その後の会話後に見たミド少年の赤面顔はレアものだった!」
「げっ」
何だその「げっ」ってのは…
「しかもミド少年はサリア嬢の事が好きって噂も聞いたわよ!
そして…最後に!!刻は7年前、某○月□日!ミド少年の下着の色は青「っだーーーーー!!!わ、分かったから!それ以上もう言うな!!言うんじゃねえぇぇぇえぇぇえええぇ!!!」
今からが一番大事なところだってのに!!
ミド少年は顔を真っ赤にしながら肩を上下に揺らして深呼吸を繰り返した。
「舞…キミは7年前にそんな事をしでかしていたのかい?」
「人は前を向いて強くなっていくものなのよシーク」
後ろから溜息が聞こえた。もう呆れられる事には慣れたわ(イヤな慣れ)
ゼーゼー、と前で深呼吸を繰り返していたミド少年は、まだ困惑した瞳のまま見上げてきた。
「ほ…本当にあの舞なのか?」
「何度も言うけど、あたしは舞よ。一応…貴方達の仲間って事になってるのよ」
デクの樹様がそう言ってたから言ってもいいわよね?自分で言って照れ臭くなりあたしは苦笑しながら後ろ手で頭を掻いた。
「お、お前だったのか…、あ!!そうだ舞!お前に頼みがあんだよ!!」
「え?頼み?」
ミド少年は持っていたデクの棒を払い捨て、慌ただしい様子で駆け寄ってきた。
「大変なんだ!森が、サリアが…!!」
「お、落ち着いてよミド少年!サリアがどうしたの?」
「実は、少し前にサリアが突然『森の聖域が危ない』って言ってこの森にやってきたんだ。
ホントはオレも行きたかったんだけどよ…サリアに此処で止められて……
だからせめて、ここでモンスターの進行を食い止めようとしたんだ」
「そうなの…ミド少年は怪我なかった?」
ああ、と言うミド少年の体を一通り見てみる。嘘は言ってないようで、彼の体には傷のようなものは見えなかった。
「サリアったら、あの子無茶して!」
「ならば尚の事急いで行かないと。舞の話を聞く限り、随分時間が経っている。今どうなっているかも分からないからね」
そうよね、急がないと…
例え彼女が太刀打ち出来たとしても、今のガノンドロフの配下に襲われちゃあ無事ではすまないだろう。
「ミド少年、あたし達サリアから助けを求められて戻ってきたの。
お願い、あたし達が何とかしてくるから此処を通してくれない?」
「……ああ、分かった。お前なら信用できるからな」
そこの兄ちゃんも舞の仲間なら、とシークを見ながらミド少年は警戒を解いた。
通り道を塞いでいたため、ミド少年は体をずらしてあたし達が通れる道を開けてくれた。
「舞、急ごう」
「ええ!」
先頭を切るようにシークが先に大きな穴に入っていった。
あたしも後に続こうとした時、急にミド少年に止められた。
「舞!言うの忘れてたけどよ、お前らが来る前に知らねえ兄ちゃんがやってきたんだ!!」
「え?コキリ族以外なのに、その人無事だったの?」
それはシークも同じ事だけど、彼は一度入ったことがあるような口ぶりだったからね。
「よくわかんねえけど…その兄ちゃん、コキリ族みたいな恰好してたんだ」
「コキリ族の…?」
「ああ、それだけ伝えときたくて。…止めて悪かったな」
「ううん、ありがとう。ミド少年は集落に戻って皆を守ってあげてて!皆、リーダーがいなくて不安になってるみたいなのよ」
あたしの頼みに暫く考えてからミド少年は了承を得てくれた。
集落のことは彼に任せて、あたしはシークに追いつく為全力で走った。
それにしても…コキリ族の恰好の、お兄さんって…
「(一体誰のこと?)」
「大丈夫かい?遅かったけど…」
と、ミド少年がいた所から少し離れた所でシークは待っていてくれた。
「ごめんなさい、ミド少年があたし達より先に誰かが入って行ったって言ってきたの」
シークに追いつき、そのまま森の奥へ向かって走る。
「僕達より先に?誰なんだ?」
「それがよく分からないの。ミド少年が言うには、その人コキリ族のような恰好をしてたって」
「コキリ族?」
まさか…、隣を走るシークが意味ありげに小さく呟く。
「どうしたの?」と聞いても何もないと首を横に振るだけだった。
コキリ族…まさか、リンク?いや、彼は大人にはならないから違う。ミド少年の言い方だとシークぐらいの体格だろうからね。
少しだけ溜息が出た。
「(彼じゃないわね…)」
「(彼かもしれないな…)」
****
++in森の聖域++
「着いた!!」
呼吸不足の肺に酸素を送る。
両膝に手をついて見上げる形で森の聖域に視線を向けた。
「此処が森の聖域か…」
シークは興味深そうに辺りを見渡しながら前に進んでいく。
そう、此処があたしの始まりの地。
此処はこの世界で来た始めての場所で、此処はサリアと出会った思い出の場所……
「(サリア…)」
ポケットの中に入っているオカリナを掴んだ。
心成しか、握っている手が震えている。
「行かなきゃ」
ザッザッ、音を立てながら前へと前進する。切り取られた木の幹でできた切り株の上に登る。
此処からだと…少しだけ見える。
「きっとあそこよ。あそこにサリアがいる」
「『森の神殿』だね」
「森の神殿?」
あたしの後ろから同じく足音が聞こえてくる。
その音の原因は見なくても自ずと知れる。
「賢者の一人が眠ると言われる聖地の1つだ。あそこから闇の魔力が漏れている…
きっと、あそこが魔力の原因の場所であり、『森の神殿』だろう」
「じゃあ早速行ってみましょうか!
…って、言ってもあそこってどうやって入ればいいの?」
明らかに高い。
肩車しても届く距離ではないというのに、どうやってあそこまでいけというのか。
「舞、あそこは闇の魔力の根源だ。当然魔物も凶暴化している。
それでも君は行くのかい?」
「勿論よ。そのためにここまで来たんだから」
あたしの答えに「そうか…」と後ろでシークが呟いたような気がする。
それにしても突然何故そんな事を聞いてくるんだろう?そう思ってあたしは後ろを振り返った。
…だけど、それよりも早く突然地面から足が離れた。
そして妙に体に纏わりつく浮遊感。
…………ん?
「捕まって」
「し、シークぅぅぅ!?」
そう、今の体制は横抱き。つまりはプリンセスホールド!!
この美味しい体制は嬉しいんだけど、つか2回目だけども!毎回いきなりなもんだからそんな思いも出来ないのよね――――!!
―――タンッ
「大丈夫か?」
「いや、もう色々と駄目……」
心臓に悪すぎる!そう反抗しようとしたけど、結果的には上まで運んでくれたんだからあまり出来なかった。
シークに降ろしてもらい、スカートを軽く払った。
「さあ、此処からね」
体を真っ直ぐと立たせ、目の前に聳える古い神殿を見据える。
「シークはこれからどうする?」と遠慮気味に問いかけると「僕はここまでしか行けないんだ」と言ってきた。
理由はというと、ここに入ると彼の存在が敵に知られてしまうという事。
彼は秘密に動く一族だからガノンドロフにばれると不味いらしい…
「そうなの…分かったわ!ここまで着いてきてくれてありがとう」
「すまない、本当は君を一人にするのは抵抗があるんだが……」
「ううん、大丈夫。元々あたしの問題だもの」
そう、これはあたしがサリアに助けを求められて出来た事。シークを無理に巻き込むわけにはいかない。
少しだけまだ怯える心を落ち着かせるために一度大きく深呼吸をする。
…うん。
「じゃあ行ってきます」
「ああ、気をつけて…舞」
あたしは返事と共に見守ってくれている彼に手を振って中へと駆け込んだ。
完全に姿が見えなくなっても、シークはそこにいた。
彼は空を仰ぐと、祈りを込めるように瞳を閉じた。
「三大神よ…狼の群れに立ち向かった勇敢なる子羊をどうかお守りください……」
***
++in森の神殿++
「そ、それにしても…やっぱり一人になると不安になるものね」
これでも一応あたしだって(腐った)ヲトメ。そりゃあ凶暴な生き物がうろついている所に何も準備なしに入ったら当然の事。
それでも、何とかサリアを助けたいと思う心と、この先を知りたいという好奇心により足は前に進む。
暫く進んだ先に鉄製の扉が見えた。重苦しい音を立てながら開くと、その先は大きくあけた部屋だった。
「うわっ…大きい」
魔物の姿も見当たらない事を確認してから中央に歩いていく。
凄く細かな造り…正に森の『聖域』に位置する神殿と言っても過言ではない。
「…ん?」
何の気なしに歩いていたけど、中央の所に4つの蜀台があるのに気づいた。
それは何の変哲もない金色で作られた蜀台だった。ただ1つ、灯火が1つしか灯っていないという事を覗いては…
「何これ?どうして火が1つしか点いてないの?」
もしかして、魔物が消してしまったのかな。だとしたら、これには深い意味があるのかも。
そう考えながら一つだけ灯火の点いた蜀台を見つめる。
―――ポゥ
「!な、火が点いた…!?」
1つだけ火の灯った蜀台を見ていると、その隣の蜀第に火が点いた。それも突然。
しかも、今度の火の色は赤ではなく『青』
「何で青色の炎…?」
炎の色や突然点いた炎の意味が分からず、思わず頭を抱え込んでしまった。
ゆらゆらと揺れる炎のお陰で、一瞬蜀台の金が光った。
「あ、文字が彫られてある」
あまり光がないから目を細めて見る。ハイラル文字で書かれてあるけど、ゲルド族にいる間に勉強していたからそれは害なく読めた。
「えーと、何々…
『4つの灯火に宿りし魔力、森に眠る血で繋がりし闇の霊が支配する。
赤の灯火、二次に君臨する赤の魂。
青の灯火、三次に君臨する青の魂。
緑の灯火、最下に君臨する緑の魂。
全てを統べる紫の霊魂、3つの魂を眠りにつかせた時、聖者の目前に命(みこと)現す
全てを極めし者にのみ、隠された路の導を手に入れるもの也―――――』
森に眠る、血で繋がりし闇の霊?」
血で繋がっているという事は…家族という事だろうか。それに文の中にある二次や三次、それから最下というのは一番下で、全てを統べるという事は一番上。
「もしかして…4人の兄弟か姉妹の霊?」
じゃあもし、この蜀台の炎をその兄弟霊一人一人が守ってるとしたら…
きっとこの『隠された路』というのがキーワードだ。この隠された路の先に、森を支配するここの頭がいるのかもしれない。
つまりはと言うと…まさか、幽霊を倒さなくちゃいけないって事!?
「そんな―――!!実体のない幽霊をどうやって倒せって言うの!?」
確か幽霊に効くのはお経とかお祓いとかだって聞いたことあるけど…そんなの出来ない……
そこまで考えてハッと気づいた。
「ちょっと待って…今2つの灯火が蜀第に戻ってるのよね?」
誰に問いかけているわけじゃないけど、あたしは赤と青の火が灯った蜀台を見上げた。
「これは予想だけど、蜀台の炎は幽霊を倒さないと戻らない!という事は…」
あたし以外の誰かが、幽霊を倒している?
一体誰かと考えたけど、その答えは自ずと知れた。
―――――
「舞!言うの忘れてたけどよ、お前らが来る前に知らねえ兄ちゃんがやってきたんだ!!」
「よくわかんねえけど…その兄ちゃん、コキリ族みたいな恰好してたんだ」
―――――
「ミド少年が言ってた、コキリ族の人?」
正体は分からないけど、だとしたら心強い。もしかしたら鉢合わせするかもしれない…
そう期待を抱いてあたしは灯火の灯っていない蜀台のある方向を向いた。
「あっちの方向…扉がある」
どの部屋にいけばいいのか分からないあたしは、そういう小さな可能性にかけるしかなかった。
行く道を決めたあたしは、その場から駆け出して見据える扉へ向かった。
**
…って、意気込んで入ったまでは良かったけど。
「敵多すぎよーーーー!!(汗汗)」
そう、数に問題が!!いやね、シークに言われた事もあって敵の数が多い事は分かってたのよ?うん。
だけどほら…やっぱりそれでも完全に覚悟出来ている訳じゃないのよ!
「ッハァ〜〜!全く…よくこんなに密集しようと思うものね!!」
ツタが絡まって出来た梯子を上りながら文句をぐちぐちと言う。
此処までくるのにも大デクババやらスタルフォスやらと魔物に出くわしてきた。正直言ってキツイ…
「よいしょっ!…フゥ〜、何とか上に来られたわ。」
上りきった事に達成感を感じ、額の汗を拭う。呼吸を整えながら目の前に聳える扉を開ける。
今度は一直線に進む通路で、その先にまた扉がある。
何の障害もなく通りぬけた先へと進んでいくと、最初に見た所より少し小さいが広い部屋に出た。
「これまた大きい部屋。」
静かな部屋にあたしが歩くたびに靴音が響いた。
段差になっている為、下に降りようと地面を軽く蹴った。
トンッ、と小さく音がして足が地面についた途端、今まで何もなかった空間に突然5個のブロックと絵が現れた。
「な!何これ!?」
そりゃいきなりの事だから吃驚よ。
けれど更に吃驚させるかのように、部屋中にクスクスと笑い声が響いた。
でで、出た!?
「だ、誰!?」
【此処まで来た人間なんて…貴方が初めてです。】
スゥー…というようにさっき出た絵から絵そのものの幽霊が出てきた。
【私は四姉妹幽霊の末妹、エイミー。
ねえ、私退屈してたんですよ!パズル勝負、受けていただけません?】
「パズル、勝負?」
【ハイ】
目の前をふよふよと浮いているエイミー。四姉妹の幽霊と言った辺り、きっとこの子があの蜀台の炎を守る幽霊なんだわ。
にしても、まさか幽霊がパズル勝負だ何て……うーん、
「(後で交渉したいし、機嫌をとっておくか)ええ、いいわよ」
【やった〜!じゃあこのブロックを時間内に全部組み合わせれば貴方の勝ちっ!】
楽しそうに両手を挙げながら周りを飛び回っているエイミーにふと微笑が零れた。
可愛い妹のような感じがして、不釣合いだけど可愛いと思ってしまった。
ふと動きを止めて「でも…」と呟いた。その続きを聞いて、さっきまでの気持ちがなくなった。
【もし貴方が負けた時…その時は、貴方の命を貰いますよ】
「!!い、命ですって…!?」
【ええそうです。貴方が負けて命を貰った暁には、私が生き返り貴方の体で生きていきます。
そして貴方は…次の訪問者が訪れ、勝負に勝つまでここからは出られない。
所謂、呪縛の輪廻ってとこですよね】
最初現れた時のように、エイミーはクスクスと笑い出した。
体がぞっとして、背中に嫌な汗が流れる。
「そ、そんな勝負…」
【受けないんですか?断るのは自由ですけど、一度願いを受けた以上、『受けない』は『負け』を意味しますので】
な…そんなの、どっちにしろ勝負を受けなくちゃならないって事!?
目の前でさっきの陽気さを無くし、幽霊独特の恐怖で金縛りを受けさせる幽霊に悪寒がした。
【どうします?受けるんですか?受けないんですか?】
「……分かったわ、その勝負、受ける」
一瞬、エイミーの顔がニヤリと笑って見えた。
【それじゃあ、私が出すスタートの合図と共にブロックを組み合わせてください。
私は一切合切邪魔はしませんので】
そう言うと、エイミーは観客席とでもいうように掛け軸の中に戻っていった。
こうなったら、やるしかない…
【それじゃあ……スタート!!】
彼女の合図と共に、掛け軸の隣に大きな電子時計が現れた。
それに気にしてる暇もなく、あたしは一番近いところにあるブロックを押した。
「く、ぉ…っ!(お、重い!!)」
力いっぱい押してもほんの少ししか動かない。それでも、何とか時間を気にしながらブロックを押す。
【あと2分〜】
楽しそうなエイミーの言葉が聞こえてきた。
こっちはそれどころじゃない…!!
ズズズ、と重たいブロックを押していると急に動かなくなった。
見やれば、押していたブロックが他のブロックにくっついていた。
「(よ、よし!1つ!)」
次の絵柄が描かれてあるブロックを押す。
どうやら絵柄を見る限り、このブロックの絵はエイミーの姿自身だ。1つだけ青い色のブロックがあるけど、それは違う幽霊の絵。
ズキッ
「ぁいた…っ!」
右手に走る鋭い痛み、視線だけ向かえばそれは包帯。
あの火傷だ…あまり傷が開いたりしなければいいんだけど…!
苦しい思いをしながら押していくと、ブロックがこれ以上進まない。やっと2つ目。
残りのブロックはあと2つ!
【残り…1分30秒です】
エイミーの声のトーンが落ちた。この調子でいけば大丈夫、勝てる!
3つめのブロックは、エイミーの下半分。
少しずつ、だけど確実にブロックは動いていく。やっぱり後半部分になると体力の負担は大きい。
【あと、1分】
ガチンッ!エイミーの言葉と共に、3つ目のブロックが完成!
あ、後1つ!!
勝てる可能性が大きい事に、顔に笑顔が広がった。その時、エイミーが何かを考えているのにも気づかない。
「あと…あと1つ!」
両手に力を全部集めて、懇親の力を振り出してブロックを押す。
あと、もう少し!熱で赤くなった頬に汗が流れる。
…と、あと少しと言うところで、突然あたしの体が動かなくなった。
「なっ!?」
ど、どうして!?両手をブロックに突き出した恰好のまま、あたしの体は停止した。
何とか足を前に動かそうとしたけど動かない。
どうして!?混乱する頭で理由を考えていると、エイミーのクスクスという笑い声が聞こえた。
その声にハッとして顔をエイミーに向けた。どうやら頭は動くらしい
「え、エイミー!貴方の仕業ね!?」
【そうですよ。少し金縛りを受けてもらいました。】
カチッカチッ…音を立てて電子時計が着々と時を進める。
「ちょっと!邪魔は一切合切しないって言ったじゃない!!あれ嘘!?」
【別に、ただ貴方の力なら此処まで来るなんて思ってませんでしたから。なのであの約束は受けました。
しかし、思ったより貴方やるようですね。仕方ありません、私は生き返りたいので】
んな無茶苦茶な!!
クスクスと楽しげに笑う末妹の幽霊にぞっと寒気がした。
タイムリミットはあと50秒……
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