24.温暖化現象上昇中




『あ、そうだリンク!それ、メダルだよネ?もしかして…また1人賢者様を目覚めさせタの!?』


オレの両手に抱えられている『森のメダル』を見て、ナビィは嬉しそうに傍を飛んだ。
舞も興味津々にメダルを覗き込んだ。


「あ、これがそうなの?シークに詳しい事を聞いたんだけど…綺麗ね」


何故舞がシークを知っているのか聞こうとすると、遮るようにナビィが問いかけてきた。


『ねえリンク!森の賢者様はどんな人だったノ?』


その言葉を聞いてオレの顔から笑顔か消えたような感じがした。


「森の賢者は…サリアだったんだ」

「―――……え?」


オレの答えに反応したのは、問いかけてきたナビィじゃなくて舞だった。









温暖化現象上昇中








「サリアが…賢者?」


言葉を返せない代わりにリンクは首を縦に振った。
舞は舞で、何が何だか分からないと言った様子だった。


「これからは、賢者としてこの森を守っていくんだって言ってたよ」

『サリア…』

「で、でも!それじゃあサリアとはもう会えないって言うの!?」


返答のないリンク。それを肯定ととった舞はその場に膝をついた。


「あたし、まだサリアに言いたいことあるのに…今まで何度も助けてくれた友達に、まだお礼も、さよならさえも言ってないのに…」

『舞…』

「こんな、こんな終わり方ないわよ…!まだ…まだ…!!」


力強く握った拳に舞の長い爪が食い込んだ。
それを見かねたリンクは目線を合わせるためにしゃがみ、彼女の拳に手を乗せた。


「舞、それ、違うと思うんだ。」

「…?違う?」


ようやく顔を上げた舞に見えたのは、大人の微笑を漏らすリンク。
子供をあやす様に、リンクは舞の握り拳を何度も摩った。


「確かにサリアは賢者になった。でも、サリア言ってたんだ。

『それでも、サリア達は友達よ。どんなに困難でも、舞に会いたいもの!絶対会いに行く。』


って…。あのサリアが、易々と大好きな舞を放っておくわけないだろ?」

「サリアが…そんな事を…」


「この『森のメダル』は友情の証だよ。これがある限り、ずっとオレ達友達だ。だから…また会えるって」


にこっと笑ったリンクに、舞の目から耐え切れずに涙が1つ落ちた。
傍を飛ぶナビィも彼女の肩に止まって励ました。

先に立ち上がったリンクが手を差し伸べた。舞はその手を見て理解し、リンクの手に自分の手を重ねた。
一気に引っ張りあげられて立ち上がると、リンクは手を離しまた笑顔になった。


「さあ行こう!舞、ナビィ!早くこの旅を終わらせて皆で一緒にまた遊ぼう!!」

「ええ…!」

『うん!』


ナビィは舞の肩から離れ、本来の相棒の許へと飛んでいった。
聖域から出て行こうとするリンクの後に続いた舞が、ふとその足を止めた。

神殿の方にふり返り、さっき流れた涙を拭った。


「……リンクの話しを聞いて、これが指すのは『もう会えない』って事かと思った…」


そう言いながら舞がポケットから取り出したのは…―――

大きく砕けた破片となり、砕け散った木製のオカリナだった。闇の空間の圧迫に耐え切れなくなり壊れたものだろう。


「でも…違った。これからは賢者となって『すぐ傍で見てくれている』って事だから…もうオカリナは必要なくなったのね。」


舞が苦く微笑むと、少し強い風が彼女の体を通り過ぎていった。砕けたオカリナはその風に乗り、遥か向こうへ。


―――――うん、そうだよ!





その時、風に乗って聞きたかった声が聞こえたような気がした。
舞はそれに一瞬驚くと瞳を瞑り、口に弧を描いた。さっきリンクが行った方向へ足を向けると、顔だけ後ろに振り向かせた。



「サリアが、一番の…――――」


「行ってきますサリア。あたしの…一番の、親友」





吹っ切って走っていく舞。その顔にもう悲しみも迷いもなかった。


彼女の姿が完全に消え去る前に、もう一度さっきの場所に強い風が吹いた。切り株のところに、風と共に現れた…緑髪の女の子が笑顔で座っている。しかし何故か、その体から後ろの景色が透けて見えた。

透き通った女の子は笑顔のまま、胸の中に溜まった思いをはき捨てるように涙と共に言葉を溢した。



――――忘れないで舞…
サリア達、ずっと、ずっと…親友だよ……













*****







――あれ?森が…光が戻ってる!?

――戻ったんだ!森の緑が豊かに戻った―――!!



森の聖域、そして迷いの森を抜けるとコキリの森へと出た。家から恐る恐る出てきたコキリ族の子供達の顔に笑顔が広がっていった。


『ヨカッタ。皆嬉しそうに笑ってるヨ!』

「魔物達もいなくなってる、もう大丈夫よね…」


こんにちは。ようやくリンク達と合流できました女子高生です。
サリアを助けに来たというのに彼女が賢者だと知り少々心配しています、まあ理由は分かっていただけると思いますけど……

シークの説明を思い出せば、彼女に当て嵌まるのは『深き森の賢者』。オカリナの事も今までの事も何もお礼を言ってないけど、まあそれはいつか会った時にでもという事で自己完結した。


「(それよりも今は…)」

「やっぱ皆全然変わってないなー」


きょろきょろと辺りを見渡すリンクと違い、あたしの目線の先は下のほうだった。
何でリンク…手繋いでるのに照れ臭くないのかな。

あたしが泣いた事で、「舞を不安にはさせないよ!」って言って半ば無理矢理だったんだけど。


萌え死ぬ…!!

『?ア、ところデサ。デクの樹サマの広場に行っタ?』

「え?行ってないけど、何かあるのか?」

『コキリ族の子達の会話を聞いたんだケド、デクの樹サマの生まれ変わりが生まれタンだって!』

「へ〜!じゃあこの森も大丈夫かもな。挨拶がてら、ちょっと見に行ってみようか、な!舞!」

「え?そりゃあもうリンクったら白タイツが似合っちゃってるけど

「よし!じゃあ行こう!!」



『今話しが噛み合ってナかったような…(汗)』


そんなこんなでデクの樹サマの広場へ向かう勇者一行。
途中、リンクがこそこそと隠れながら向かって行った事に、疑問を抱く他なかった。







***






数分と経たない内に、敵の障害もなくあたし達はデクの樹サマの広場に到着。
大きい広場には、枯れ果ててしまい、7年前に見たときよりも色は褪せて、皮も脆くなっていたデクの樹サマしかいなかった。

隣にいるリンクはその変わり果てたデクの樹サマの姿に眉間を寄せて、意を決したように前に足を踏み出した。


「(リンク…)」

「此処も変わってないんだな」


繋がったままの手。リンクは少し苦い笑顔で笑いかけてきた。
心成しか、前を飛んでいるナビィも心配そうに光を曇らせた。

デクの樹サマの方へもう一度視線を向ける。うん、やはり光景は変わらない。枯れたデクの樹サマ、そして根元部分には大きなトゲが……


……ん?
トゲ?


「何、あのトゲ?」

「?トゲ?」


リンクは一度あたしを見てからもう一度目を細めて先を見た。
彼も気づいたのか、隣で首を傾げてからまた足を進めた。

流石に今は繋いでいた手を離して、リンクはいつでも戦闘態勢に入れるように剣に手をかけた。


『何だロ、コレ?』


一足早くついたナビィはそのトゲらしきものを旋廻している。
あたしより前を歩くリンクも、興味心が勝ったのか身を乗り出してトゲを覗き込んだ。


そのまま終われば世界のいざこざなんてどうってことないのにね。



グッ―――

「ん?」

ボコッ!!


「うわあぁぁぁあぁぁ!!?」

『キャアアアアアア!!!』


トゲがいきなり急成長を遂げた!!
見事驚いたリンクとナビィは、後退どころか見事に吹っ飛んだ。慌てて駆け寄ろうとするものの、後ろから聞こえた声に足が止まった。


「ハーーイこんにちは!ボクデクの樹の子どもデス!!」

「だ、誰?」


近くまで駆け寄ったリンクの腕を引っ張りながら、さっき急成長を遂げたトゲを見た。
トゲかと思ったそれは小さな樹のような姿。


「アレ?どうしてそんな所にいるデスか?さっき近くにいた気配してたデスけど」

それを貴方のインパクトな登場がフッ飛ばしたの

「そうなんデスか〜!大丈夫デスか?」


無邪気な顔してこの子は…まだ小さい子どもだから許されることだけど。
リンクもようやく立ち上がり、さっき出かけた剣をきっちりと鞘に戻した。


「び、吃驚したー…(ドキドキ)」

「そりゃね(汗)と、ところで貴方、どうしてそんな所に生えているの?」


此処は神聖なデクの樹サマの広場なのに、そう付け加えると今までニコニコと笑っていた顔がきょとんとなった。


「あれ?聞いてないデスか?デクの樹の子どもが生まれたっていうの」

『あ、聞いた聞いた!…って、もしかして貴方がそうナノ!?』

「そうデスよー!ボクがデクの樹の子どもデス!」


以後お見知りおきを、と達者な口で喋る樹の子どもを再度まじまじと見た。
言われて見れば、確かにこの子どもはデクの樹サマの木皮と性質が似ている。それに、デクの樹サマ独特の優しさだって微力ながら感じた。


「デクの樹サマの生まれ変わりか…じゃあこれからはキミがこの森を支えていくんだな!」

「そうデス!あ、でもボク、やらなくちゃいけないことがも1つあるデス」

「?やらなくちゃ、いけないこと?」


首を傾げながら隣にいるリンクがオウム返しをする。


「ハイ!実はボク、デクの樹に貴方の事をお話しろって言われてたんデス!
貴方、リンクさんがコキリの森に『来た』理由や、リンクさんのお母さんの事を」

「!母さんの事!?」


ある語句を聞くとリンクは目を大きく見開いた。
あたしも一緒に驚いた。リンクの、コキリ族の子達の家族の事は触れちゃいけないかと思って聞いたことがなかったから。


「な、なあ!その事教えてくれよ!!」

「勿論デス。じゃあ、まずはリンクさんがこの森に『来た』時の事から、お話しますデス」

「ねぇ…話しに水をさすようで悪いんだけど、リンクが森に『来た』ってどういう事?彼は元々、この森に生まれ育ったんじゃ……」

「その事も含めてお話ししますデス!」


それなら…、と思ってあたしはリンクと並んでデクの樹サマの子どもの前に座った。
頭上を旋廻していたナビィも、今はリンクの帽子の上にとまっている(可愛いな)


「それじゃあお話しするデス。
リンクさん、貴方は小さい頃から皆と何か違和感を感じた事がありませんか?」

「違和感…オレだけ妖精が来なかった事かな?
あ、でも…オレ一人だけ成長している感じがあったんだ。一年明けていく度、少しずつ大きくなっていったっていうか」

「そうデス、それなんデス。その成長は確かなものだったんデス!
何故ならリンクさんは、成長しないコキリ族ではないんデスから」

「!!」

『リンクが…コキリ族ジャ、ない?』


リンクは眉間を寄せ、あたしとナビィは吃驚した表情で前を見据えた。
コキリ族の子どもでしかこの森は入れない。まああたしもそうなんだけど…それでも突拍子の言葉にあたし達は肝を抜かれた。


「どうして…なんでそんな事言えるんだよ?」

「…まだリンクさんが赤ん坊の頃、貴方の街は盗賊や魔物達が襲い掛かってきた事により壊滅状態に陥りました。町の者が皆死に絶えてゆく中、一人の女性が赤ん坊を抱いて必死にこの森まで逃げてきたデス。
デクの樹に会いに行くと『この子をお願いします』って頼んだデス。それから彼女は間もなく息を引き取りました。

その時の赤ん坊がリンクさん、貴方だったんデス。」

「じゃあ…死に際にオレを連れて来たっていうのは…」

「きっとリンクさんのお母様でしょう」

「……っ」


ほんの一瞬、リンクが心臓の部分を服の上から掴んだのが視界に入った。
何もしてあげられないから、あたしはせめてもの慈悲で彼の手を握った。少しだけ、リンクは弱弱しく握り返してくれる。


『ジャア、リンクは外から来た人間ってコト?だとしたら…』

「はいそうデス。リンクさんは…純潔な彼らの血を受け継いだ者」


デクの樹サマの子どもがそこまで言うと、リンクはあたしの手を強く握った。血が通わなくて、指先がピリピリする。
だけどそれよりも、彼から伝わってくる鼓動の早さによってあたしは吹っ切れなかった。


時が止まる――――








「れっきとした”ハイラル人”デス」






「リンクが…ハイラル人」


ぽつりとあたしは呟く。一瞬、リンクの震えが止まった。


『そ、そんナ……』



「っ!!!」

「あ!り、リンク!?」


今まで握っていた手を振り放し、リンクは広場の入り口に向かって全力疾走した。それは、この場から逃げたと同じこと。
あたしは徐に立ち上がり、首を後ろに向けた。


「な、ナビィ!あたしリンクを追いかけてくるわ、だから残りの話しを聞いておいて!」

『う、ウン!』


自分なりの全力で走った。

今、思いもしなかった現実全てを頭に叩き込まれたリンクが、今どうなっているのか。
そう考えると、自然と走る速度は早くなった。


「リンク…!!」


集落と広場を結ぶ小さな小道。そこを全力で走り抜けた後に残ったのは、森を浮遊している小さな光だけだった。














++++












ハァッ…ハァッ……


「…っ、……」


森を駆け抜けた青年へと成長を遂げたリンクは、肩を上下させながら木に手を添えた。
誰もいない、静かな小さい広場。此処は迷いの森、そして森の神殿への入り口。

今さっき此処を出てきたばかりなのに、リンクは無我無心で此処まで走ってきていた。


神殿から最も近い位置にある木に寄り添って、今までの事を頭の中で整理した。
ハイリア人の事、自分が森の人間ではない事、そして…母親をほぼ、自分が死なせてしまった事。

信じたくない事ばかりだが、証拠はとりそろえられていて、リンクは信じる以外なかった。



「リンクーーー!!」


森の聖域の入り口、階段状になっている坂から仲間の声が聞こえた。
振り向くことは出来なかったものの、彼女の深呼吸が聞こえる事から全力で走ってきた事が分かる。


「ハァッ、ハァッ……リンク、走るの速すぎよ!追いつくの、大変だったんだからっ」

「…ごめんな、舞」

「ううん、勝手に追いかけてきたのはあたしだもの。気にしないで」


リンクは苦しそうに手を添えていた木を爪で引っ掻いた。


「違うよ、オレが謝ってるのは…オレ自信の存在に謝ってるんだ」

「え?」


後ろにいる舞は、そんな彼の様子に額の汗を拭いながら目を大きく開いた。


「オレ、今まで自分が誇り高いコキリ族だと信じていたんだ。コキリ族は小さな子どもの集まりだけど、それでも、オレは胸を張って『自分はコキリ族だ』って言える位、この森の皆が大好きなんだよ。

それなのに、皮を向けばどうだよ…本当は何の特別もない一般の人間で、それどころか、自分の母親さえ殺してしまった!」

「リンク…」

「舞も見ただろ?オレがコキリ族の皆に気づかれないよう歩いていたこと。
…皆、7年後の【オレ】を知らないから。子どもの【オレ】しか知らない皆は、珍しそうに見上げるだけだったよ。
『お兄ちゃん、誰?』って……所詮、蚊帳の外の”人間”だからな、オレ」


だからあんなにこそこそとしながら広場に向かっていったんだ。


「しかも、それなのに今まで嘘を突き通して…オレ、最低な奴だよ。自分がどんなに醜い生き物なのかも知らずに」

「…それは違うわ。だって貴方は、今までたくさんの人達を助けてきたじゃない。だから」

「助けてなんてないっ、それはオレがヒーロー気取りでやってきた事だ…!」

「でも、あたしは貴方の味方よ?貴方を助けたいと思う者の1人で……」

「自分勝手な事ばっかり言うなよ!!!」


リンクは森中に響くぐらい大きな声を出すと握りこぶしをつくった手で木を殴った。
その大きな声と衝撃に舞はリンクより小さな肩をビクッとさせる。


「リンク…!?」


舞は困惑の瞳で背中を向けるリンクを見つめた。彼女からは見えない、光をなくした虚空の瞳のままリンクは静かに、だけどハッキリと言った。






「偽善者気取りとか、止めてくれよな。
…迷惑だ」

「!」


見えない剣が胸を貫いた。口元を覆うマントを掴む手は小刻みに震えている。


「そうやって信じられたら、また調子になって一緒に信じたくなる。
そんな事して、また失うのは嫌だ……」


リンクの言葉を最後に森の聖域は痛いほど静寂な空気に包まれた。
暫くの間その空気が流れたが、とうとうその静寂が破られた。下を俯いたまま、体を震わせている舞によって


「…によ……」

「…?舞?」

「何よ!リンクのヘタレ!!

Σへ、ヘタレ!?


今の彼に効果音をつければ面白い音が取れるだろう。それほどリンクはショックを受けている。
怒りからか、悔しさからか、顔を赤くした舞はその勢いを少しだけ静めた。

「怖いんでしょリンク!」

「!違う!!」

「違わないわよ。怖がってるからそんな事言うんでしょ!?またいなくなっちゃうのが怖いから、もう一度やってみようとしないだけ!」


もう一度違うと言おうとしたが、リンクは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
言い返せなかった。違うと思う半分、心の隅ではそれを肯定する自分がいる。そのリンクの姿を見て、怒りで頭に血が上っていた舞も、落ち着いた。


「…大人に成長した分、精神も成長したのねリンク。昔の貴方なら、そんなもの恐れずにやろうとした筈」

「そんな事…」

「ないって言いたいの?あるわよ!!
7年前、デクの樹サマに使命を言い渡されて森を出る時、貴方はあたしを信じてくれるって言ったでしょ?冒険なんて知らないあたしだって、怖くてもその言葉を信じてここまで頑張ってきたっ」


後半部分になって、舞の声が掠れた様に聞こえた。
リンクに見られていない事をいい事に、彼女は両手の甲で浮かんだ涙を拭う。


「あたしは別にそこら辺の人に偽善者だと思われてもいい。
でもリンクには、そう思ってほしくないのよ。本当に、あたしは貴方に力を貸してあげたいだけだから」

「どうして…オレは、人殺しなんだよ?それも今までキミを騙してきた、最低の人殺しだ」

「本当の事を知らなかったんだもの、そんなの仕方ないわ。」

「それでもキミがそこまでオレを気遣う理由なんてない!!それならいっそ、放っておいてくれた方がマシだ!!」


自分で言った言葉にも関わらず、リンクはまた心臓部分の位置で服掴んだ。それを後ろから見ていた舞も、視線だけ下に向けた。


「リンク…貴方は気づいてないかもしれないけど、何度も何度も…あたしが危険な時になると、貴方は助けにきてくれてたのよ?
…あたしは戦えないし、ナビィみたいにサポートしてあげられないけど…でもその分、こういった事で助けてあげたいの」

「助ける?オレは…どこも傷ついてないのに?」

「傷ついてるじゃない。一番厄介な精神…それも、今なんて誰よりも深く」


それを言われてリンクは服を掴んでいる手を見た。その手が自然と掴んでいたのは、胸が苦しんでいたからだと気づく。


「何もしてあげられないけど、それでもあたしは…………。」

「……」

「…あたし、もう一度リンクを信じるわ。だからリンクも、また調子に乗って信じたらいいじゃない。
コキリ族じゃない、何の特別もない一般の人間でいいのよ。あたしだってそう…」

「舞…」

「リンク…貴方があたしを助けてくれるなら、あたしはその分、貴方を助けるわ」


舞の言葉にリンクは肩に乗った重い荷が落ちた気がした。さっき殴りつけた凹んでいる箇所をそっと指でなぞる。


「もう1回だけ…信じてもいいのかな……」

「…それは、あたしが決める事じゃないでしょ?リンク」


ゆっくりとした歩調で舞はリンクの許まで歩み寄った。
数歩歩き、ようやく止まった時には、そこはリンクのすぐ後ろの位置だった。

舞が真後ろまで来た事に気づいたリンクは、眉間を垂れさせながらゆっくりと彼女の方に向かってふり返った。
あんなに酷いことを言ったのに、真っ直ぐと自分を見てくれる彼女に涙が浮かんだ。


「これだけは覚えておいてリンク。
苦しい時も悲しい時も、何時だって貴方の隣にはあたしもナビィも、コキリ族の皆だっていてくれてるからね」

「…っ、舞…っ!!」


堪えきれなくなったリンクは震える腕を瞬時に舞に回した。
身長差があるのにも関わらず、リンクは自分より低い位置にある舞の肩に顔を埋めた。肩に落ちる水の冷たさを感じる。

彼女もリンクの背に手を回し、眉間を垂れさせて目を瞑った。

世界の為の使命を負った時の勇者も、誰とも変わらぬただの弱い人間。三大神は、それを分かっているのか?



「オレ、また信じてみるよ…、…皆の為に戦うから…っ」

「ありがとう、リンク」




舞の白い服に、黒い染みがいくつも作られた。






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