31.休息ライフ





前回、ダークという心強い人が仲間になり、喜んだのも束の間リンクが空腹により突然倒れた。

仕方なく、近くの民家にお邪魔させてもらおうと言う話になったのだが…


――トントントンッ


「すみませーん」










休息ライフ










「―――そうか、お主らがハイリア湖を元通りにしてくれたのか。感謝するぞ」

「そんな…現に頑張ったのは、彼らのほうですし、あたしは…」


目の前に置かれた紅茶に、お構いなく、と遠慮の言葉だけ置いておこう。
皆さんこんにちは、何やら周りを怪しい物体どもで囲まれている女子高生です。
怖いです。

よくに言う、実験室、というやつだろうか?カプセルのようなものに入った物体は、生き物やら謎の植物やらと兎に角たくさんあった。

やっぱりイヤな所はあるけど、置いてもらっている身として、そんな事言えるわけない。ナビィは興味津々にじっと見ているし、ダークは平気そうに紅茶飲んでるし、リンクは…………うん(何)


「しかし、この青年も凄いのう。まだ17あたりで、あのおっかない神殿に立ち向かうとは…大した者じゃ」


そしてこの家のご当主、みずうみ博士。彼は長年ココで研究を積んできているらしく、ハイラルの歴史は勿論、色んな事を知っていたりするらしい。

傍に置かれたベッドの上で眠っているリンクを覗き込み、興味深そうに見ながら考えていた。


「すみません、彼が起きるまで、少し休ませてもらえます?」

「ああ、構わんよ。何じゃったら、今日は泊まっていくといい。もう夕暮れは近い、この時間帯に外に出ると危ないじゃろ」


みずうみ博士の言うとおり、さっき神殿をクリアした時はまだ空が明るかったのに、今はもう橙色に染まりかけている。
この分だと、外に出れば野宿は確定でしょう。


「お邪魔にならなかったら、そうさせてもらいたいです」

「うむ。何もないが、ゆっくりしていけ。お前さんらの部屋は2階に用意しといてやるぞ」


腰を低めたご老人は、杖をつきながら木製の階段を上がっていった。
嬉しいお気遣いに嬉しくて、頬が緩む。
…只心配なのは、何やら泊まると言った時、妙に怪しく笑っていた事が気になるんだけど…

気のせいよ、きっと大丈夫、そう自分に言い聞かせて、凄く不安になる自分自身を押さえ込んだ。

気を落ち着かせる事も踏まえ、出されたお茶に手を掛けた紅茶を口に運ぶ。
ハーブを使っているんだろう、心地よい葉の香りが鼻を掠め、喉に潤いと共に流れ込んでいった。


「さて…ダーク、明日には此処を発つけど、それでいいのよね?」

「ああ、構わねえ」

「じゃあ今日は休息日ね。
あたし少し外歩いてくるわ」


残りの紅茶を無理矢理流し込んでから壁にかけてあったマントを手に取った。
まるで朝のサラリーマンのように手にマントを掛け、そのまま扉に手を掛けた。


「なるべく、近くにいるから。何かあったら呼んでね」

「ん」


返って来た声はダークのだけ。ナビィは、と軽く見わたせば、まだカプセルに入っている謎の生物に見入っていた。
その生き物の何処かいいのナビィ。

疑問を浮かべながら、あたしは扉をゆっくり静かに閉めた。外の寒気が、遠慮なくあたしの体を叩きつける。







++






「………」


舞が扉を出て行ったのを見届け、ダークは最後の一口をゆっくりと流し込む。やる事もなくなり、静かな部屋の中、テーブルの上で指を躍らせて音をならせた。

退屈になり、部屋の中を見回した。
光る妖精、謎の生物、妙な色の水が入ったカプセル、大量の本……

どれも暇を持て余せそうになく、ダークは思わず溜息をついた。また顔を元に戻し、彼女が出て行った扉を横目で見た。


「(ん?)」


と、さっき気づかなかったものを、扉の近くの棚の上で見つけた。
暫く見ていたものの、椅子から立ち上がり、その目に留まったものまで歩み寄る。

放置されていたのだろう、少し埃被った【それ】は銀色に光り輝いていた。
埃を掃い、じっと静かに見つめた。













***








肌寒い、慣れた手付きで留め金を外し、薄茶色のマントを肩に掛けた。
中に入ってしまった髪を外に出す。手ぐしで髪を空きながら、水の戻ったハイリア湖に視線を向けた。

ハイリア湖を一望できる、橋で繋がれた1つの孤島。今のあたしは、そこにいる。
特にする事もなく、ぼーっと傾いていく夕陽を眺めた。


「あたし…知らない間にとんでもない事に巻き込まれてたんだなァ」


ぽつり、と何気なく呟いた一言は、体にのしかかる程重たかった。
この世界の人たちの為といえど、全く無関係な別世界のあたしが、命をかけて危険な旅に同行しているんだから。


(全く、無関係?)


「戻った方が、いいかなァ」


する事もないんだし、そうしよう。退屈しのぎとは言わないけど、どうせなら家に戻ってナビィと話に花を咲かせようか。
今後の計画を頭の中で組みながら、凭れ掛かっていた木から身を離し方向転換。


「何だったらリンクの寝顔をウォッチングでも…、
……っ!?」


思わず、突然の視界への飛び入りに肩が飛び跳ねた。さっきまで、誰もいなかった聖三角が描かれた盤の上。
そこに、金色のハープを抱えたシーカー族の生き残りが、こちらを見ながら静かに佇んでいた。

言わずもながら、シークだ。


「し、シーク!?どうして…っていうか、さっきまでそこに…」

「今来たんだ。驚かせてすまない、気配を消すのが癖でね」


土を踏みしめ、盤の上から降りたシークはあたしの隣りに歩み寄ってきた。

どんな癖だと突っ込み損ねたじゃないか


「空は輝き、王と化す太陽は光を放つ。
黄金に輝ける光が清らかな流れを反射させ、蒼き水面は散りばめられた宝石があるかのように光に満ちる……――――。

…昨日までのハイリア湖なら、この光景はなかっただろうね」

「凄いわよね、リンクはこの7年で凄い力がついた。彼はどんどんハイラルを救っているわ」


目の前に広がる光景
改めて見ると、金の色と水の蒼のデコレーションがより一層湖を輝かせて見せた。


「僕は、君の力も凄いと思う。勇者と共に立ち向かい、新たな仲間を加える優しさ」

「全然、だって…あたしは只リンクの背中を盾にした従者よ。ダークの事だって、彼がどれだけさり気ない優しさで救ってあげたか」


パシャリ、と水面に魚が跳ね上がった。


「今改めて思えば、不思議よね。元々敵だった人を仲間にするって、とんでもなく凄い事だもの。
…リンクには、7年前からそう、人を引きつける力があると思う。だから、こんなに傍にいて幸せだと思えるのよ」


ハイリア湖に生属する特別な魚だろう、鱗が虹色に輝いている。


「勇者だから、その素質が備わっているのかもしれないが?」

「…素質が備わっているのは認めるけど、『勇者』だから当たり前って捕らえるのは認めないわ。
彼は『勇者』なんて大それたものじゃないもの。
寝ぼすけで、馬鹿で、天然で田舎もののお人よし、更にはヘタレな純情少年よ

「(凄い言われてるぞリンク)」


やばっあたしこのリンクへのキャッチフレーズ気に入ったわ
魚は虹色の鱗を黄金の光りで美しく輝かせ、水中へ帰っていった。


「でもそれがいいの。それが『リンク』なんだから。

『勇者』の素質じゃなくて、『リンク』の素質が備わっているのよ、彼には」


少し泳げば同じ種類の魚がたくさんいる、きっと仲間だろうその群れに混じっていく。


「だからあたしもダークも、リンクの傍にいて安心するのね…」


間もなくに地色に輝く魚は、嬉しそうに仲間と共に向こうへ泳いでいった。





「…君は、不思議な存在だ。君のような心の持ち主、滅多にいないよ」

「そう?なら、良かった」


いい評価だととって、あたしはそこで口を閉めた。自分の考えが認めてもらえて、嬉しいと思ったんだと思う。

ほんの数分、お互いの間で沈黙が漂う。だけど、視界に広がる神々しい光景に見入っていたから、それは心地よい沈黙だった。


「そろそろ、戻らなきゃ。ナビィが心配してるかもしれないし」

「…ああ」


暖かな空気が溶け込んだ緩やかな風、身を任せる髪を手で抑える。夕暮れの時間も、あとほんの少しで終わりそう。


「ねェ、シークはあたし達の事見ててくれてるんでしょ?いつも、助言を残していってくれるし」

「ああ、まあ一応はな」

「じゃあ、シークもあたし達の仲間ね。一人じゃ寂しいだろうし、神出鬼没とならず、いつでもあたし達の所に来てね」


一瞬、金色の髪でより一層協調された青の眼が大きく開いた。満足な反応に口元が緩み、口と一緒に目も曲線を描いた。
足を踏み出し、手を後ろで組みながらみずうみ博士の家方面の橋へ歩を進めた。
きっとまだ後ろにはシークがいるだろう。今日のお別れをちゃんと言っておかないと


「……今日始めて気づいたよ」


「ばいばい」の言葉を掛けようとした矢先、先に彼が口を開いた。振り返りながら首を傾げる。
数メートル先にいる彼はこっちに振り向かず、背中を向けたままだった。


「君にとって、傍にいて幸せになる存在がリンクだ」

「?うん」


何?と聞こうとしたら、また遮られた。


「けれど…僕にとって傍にいて幸せになる存在は――もしかしたら…君なのかもしれない」


彼からの、信じがたい言葉によって

目をいっぱいに開いた時にはもう視界には彼の影もなく、慌ててさっきまでシークがいた所に駆け寄った。
辺りを見渡しても、もしかしたらと思い、覗いた湖にも姿は見えなかった。


「…え?あの人、今の素??


だとしたら………。

さっきのは…さっきのはっ
告白ととってもいいのかシークさぁあぁぁぁぁあああぁぁん!!!

ハイリア湖の中心で悶えを叫びたくなる舞なのでした(今日のわ●こ風)











***










陽は落ち、完全な夜となった時間帯。勿論皆家の中に戻っていて、その中には舞もいた。


「博士、これってこっちでいいんですか?」

「うむ。あと、サンプルCに薬を投与、サンプルSに石灰水を入れてくれ」

「はい」


薬、と呼ばれた白い粉を振り撒き、別のビーカーに入れられたものを別のカプセルに入れる。水の色が変色し、中のものの形が変化した。


「よしっ、うまくいったようじゃ!礼を言うぞ舞、お主の発想も大したものじゃ」

「いや、あたしは只学校の授業のものを使っただけで…」


きゅ、とボトルのキャップを閉め、色んな薬が並べられている棚の中に閉まった。
大きく腕を伸ばし、背伸びさせた腕を垂れさせると、丁度上から降りてきたナビィが近寄ってきた。


『お疲れ様舞!布団の準備はバッチリだヨッ』

「ありがとうナビィ、これで何時でも寝れるわね。
…?あれ、ねえダークは?」


体に掛けてあった実験用の白衣を脱ぎ、その色と対の黒を身に纏った彼を目だけで探した。
それに気づき、隣を飛ぶ妖精から、あァ、と言う声が漏れた。


『ダークなら、ご飯食べ終わってカラ外に行っちゃッタよ』

「そうだったの?直ぐに博士の手伝いしてたから気づかなかったわ…一言言ってくれればいいのにっ」

『1人になりタイところがあったんダよ。明日発つから、今日ノ内にハイリア湖を目に焼き付けときたイんだって』

「そう…彼もやっぱり、故郷は惜しむのね」


結んであった髪を解くと、重力に従った髪は肩まで落ちてくる。完璧にいつもの格好に戻り、1つ溜息をついた。

そこで何かに思い出し、眼鏡を取り外しているみずうみ博士の方に振り返った。


「博士、もし良かったらタオル貸してもらえません?大きなの」

「ん?別に構わんが…」

『大きなタオルなんてどうすルの?』


みずうみ博士は直ぐに言葉を飲み込んでくれ、部屋の隅に置かれた編みこみで作られた棚の引き出しを探ってくれている。


「ほら、最近忙しくってろくにお風呂に入れてないでしょ?外もそこまで寒くないし、折角だから湖で水浴びでもしてこようかと思って」

『ソっか、シャワーも浴びれないから、女の子にとッチャ地獄だヨね!ナビィココで待ってるから、痴漢とか出たら大声で叫んデよネ!!』

「う、うん。ありがとナビィ(汗)」

「ほれ、これでよいか?」

「あ、ありがとうございます博士!」


薄水色の大きなタオルが2枚、ふわふわしててとても気持ちいい。
ついでに、服を外で脱ぐなら使え、と言われて、両手で持てるほどのカゴを貸してくれた。

何から何までしてもらって申し訳なく、直ぐに戻ってくるからと一言残して、扉の取っ手に手を掛けた。










****








――パシャッ、チャプ


足のつま先を水に浸し、あたしは水の温度を確かめた。外の外気もあり、案外思っていたよりも暖かい。
ぬるめのお湯ぐらいの温度に丁度いいと感じ、体にタオルを巻いてそのまま水の中に足を進めた。


「あー、気持ちいい〜」


年寄り紛いな、ついそう突っ込んでしまいそうな声を出しながら身を水に浸った。
水に濡れて重みを増した髪をよく水につけ手で梳く。丁度真っ直ぐ入る視界には、夜のハイリア湖と、水面に映される大きな月だけだった。

これはこれで、美しい光景と言える。


「あたしだけこんなに気持ちよくなっていいのかな…」


ふと、疑問に浮かんだ言葉を口にすると、頭の中にはリンクとダークの顔が浮かんだ。


「リンク、空腹だけなのに豪く寝てるわね(汗)」


日頃の疲れも溜まっているからなのか?考えるように顎下に手を添えながら俯く。
別にこっちは構わないんだけど、こうぶっ通しで眠られるとこっちも心配でままならん。


「(うわっ、何だか母親のような気持ちが(汗))」












♪〜…♪♪〜


「…?」


水面が揺れ、ちゃぷ、という小さな音が静かなハイリア湖に響いた。
音が止むと、今度は存在を無くした音楽の音色が夜の中に響く。甲高い、透き通るような音。

この音…確か聞き覚えがあるような。


気になってしまい、水に浸かったまま、尚且つ警戒しながら辺りを見渡す。
だけどやっぱり見えるのは、夜のハイリア湖、大きな三日月、みずうみ博士の家に、小高い丘……

…ん?


「小高い、丘?」


そう、後ろの方向にあったためにさっきまで見えなかった小高い丘、それは確かに存在していた。
小高い丘の上には一本の【大きな】枯れ木、只それだけなのに…

何故だろう、この音色があの枯れ木から聞こえてくるのは。
じっ、と凝視するものの、やっぱりそこには枯れ木しか見えない。視力は結構いい方なのに…


「何もないのかなァ」


髪を手で抑えながら、顔をまた正面へと戻した。

―――……。

…あれ?
異変に気がつき、少し俯かせていた顔を持ち上げた。


「音が止んだ…」


どうして、と思う疑問を押さえ、さっきの小高い丘のほうへ視線を移した。もうそこからは音がしなくなっている。
それと…見間違いだろうか、枯れ木が【小さく】なってる?別に擬人法でもなんでもない、言葉そのものだ。
枯れ木がさっきに比べ小さくなってる、むしろ、細くなってしまった。


「―――おい、何やってんだ」


一瞬…サァ、と冷たい風が吹いた。その冷たさに体を震わせ、幻聴かと聞きたくなるほどの透き通った声に自然と顔を向かせた。

向かった先は、ここからだと上になる、さっき見た小高い丘よりも小さな丘。


「水…?水浴び、してたのか?」


少し驚いたような声で、謎の人物は声を漏らした。月の光が伸び、まるであたしに教えてくれるように丁度その人物の顔に光を灯した。

闇に溶け込む黒、月を宿す銀、そして…何もかも見透かされそうな真っ赤な朱。
その人物は間違いない、さっきまであたしが探していた人。


「ダーク…」


――ん?ちょっと待てよ…
今ダークはあたしを上から見てる。うん、それは別にいい、けど…

今、あたしはどうしてる?



水浴びをする為に服を脱いで、念のためのタオルを体に巻いているものの、やっぱりまだ心配な点はある。
そこにヲトメの羞恥をプラスすると?この状況は…?

………………。


「Σおぎゃああぁぁあああぁぁあぁああぁあああっ!!!」

「何か生まれたぞ」

「ちょっ、ちょちょ…!ダーク!!人がタオル一丁の一張羅になってるんだから、そんなに凝視しないでよ!!
冷静に突っ込みいれてないで、その目腐らせたくなかったら潰す勢いで目をつぶれ!!

それじゃ腐るどころか失明するわ!!
人の目心配してんのかしてないのかはっきりしない発言すんなよ!


そりゃまあそうだ
つい彼の突っ込みに賛同してしまった。
とはいえ、人の裸見られて嬉しいわけなく、意味もなく体を沈めて口元まで水に浸かった。

それに気づいたダークが目線を逸らし、後ろに持っていった手で頭をポリポリと掻いた。
丁度その時、上げられた彼の手に何かが握られている事に気がつく。


「ダーク、それ…何?」

「ん?それ?…ああ、これか」


あたしの視線に気づき、ダークは持っていたものを顔の辺りまで持ち上げた。
同じ銀色なのか、ソレはダークの髪と、後ろの大きな月と同化している。勿論、あたしはソレを見たことあるから、彼に聞かずとも何か分かった。


「フルートじゃない、何処で見つけたの?」

「家の中にあった。埃被ってたからもう使われてないと思ってな、取ってきた」

「じゃあ…さっきの音色はそのフルートだったの」


なるほど、そういう事か。視線を彼の手元に置いたまま、あたしは自分で納得した。
「見せて」と頼むと、ダークは何も言わずにあたしのいる水面に向かって跳んだ。

思わず、その光景に驚き、咄嗟に眼を瞑った。


…が、水音に落ちる派手な音は聞こえず、恐る恐る目を開くと、月をバックに何も無い水面に何故か立っているダークが見えた。


「み、水の上…立てるの?」

「一応水の神殿の守護者だからな」


ホレ、と言いながらダークは持っていたフルートを投げてきた。慌てて両手で受け止め、改めてフルートに見入った。

特別な装飾がされているわけではない、だけど、何処か惹きつけられる気がするのは、彼が持っていたからだろうか?


…に、しても


さっきまでこれをダークが吹いてたのよねー

おい。人を恍惚な目で見るな、吐くぞ


グッサリくるよ幾らあたしでも。
容赦ないダークの突っ込みに少し落ち込み。視線をまた手元のフルートに一度移し、それからダークにソレを返した。


「そう言えば…ダークってどうやってフルートの吹き方覚えたの?誰かに教えてもらった?」

「いや、本を読んで覚えた。小せえ頃はそれこそ本しか回りにはなかったからな」


小さい頃…


「…ねェダーク、貴方の小さい頃って、どんな子だったの?」

「俺の?…別に、大して聞くもんじゃねえよ」

「でも、仲間なんだから。それじゃ駄目?」

「…仲間…ね」


全く灯りがないというのに、空を覆う程の無数の星の明かりが、2人を照らす。


「生憎、まだ俺はお前らを心から信じてる訳じゃない。だから、言うつもりもない」

「信じてくれてないの?」

「ああ」

「…そう、寂しいわね」


当然だと言う様に、ダークは胸を踏ん反り返る。まあ、これ以上言って聞いてくれるという保障はないだろうし、仕方なく諦めて小さな溜息をついた。
あたし、この旅を始めてから溜息が多くなったような気がする。


「じゃあ…せめて、住んでいた所!どんな感じだったか、それぐらいは教えてよ」

「何でそこまでして知りたがるんだ?」

「何でって…ダークは認めてなくても、あたしは貴方の事仲間って思ってるから。
仲間の事、もっと知っておきたいのよ」


一瞬、ほんの一瞬だけ朱の瞳が大きく開かれた。照れ隠しか、頭を掻きながら溜息をついた彼は、視線だけ何処かに泳がせる。
今更だが、もう彼にタオル一丁の姿を見られても恥ずかしくなくなっていた。


「…お前、真っ暗な所ってどんな感じか、知ってるか?」

「え?」


激突に漏らされた言葉に、白い息を吐きながら顔を向けた。


「真っ暗か…そう言えば小さい頃に、悪いことしたらお蔵に入れられたような…
今は何ともないけど、あの頃だと凄く怖くて、泣きながら謝ってたわね。灯りなんて、屋根のヒビから入ってくる1mmの光りだけで、本当に怖かった記憶があるわ」


ダークの質問に考えながら、当時の泣き喚いていた自分を思い出した。泣きすぎた所為で、お蔵から出された後も泣き続いていた記憶も、ある。
今思い出せば、小さい頃の自分には悪いが笑えて来る。ダークも、そんな過去があるのだろう。


「―――土なんてない」

「ん?」

「窓もない、ヒビもない、部屋の明かりどころか、蝋燭の灯火でさえない」

「ダーク…?」

「しかも地獄を思わせるほどの最下層。地の奥深くに作られた城の、奥深い場所にある、冷たいなんて分からないくらい寒い部屋。」


「俺の家は、そこだった」


ほんの僅かな間、その間にダークの眉間が歪んだ。苦しさを訴えるように、皺を寄せて…
正直、彼が何を言っているのか分からない。そう思いたくなるほど、彼の話は重すぎる。


「…友達は、いたの?」

「変わった反応すんだな。大抵なら馬鹿にするか、沈むかなのに…まあいい。
そうだな…同じ境遇のやつなら、いた」


それは、友達と自分が認めているのだろうか。
曖昧な返答にどうとったらいいのか、眉を寄せて目線を横に泳がしていると、水面にあった黒い影がゆらりと動いた。


「わりいけど、俺そろそろ寝るわ。
明日発つんなら、早めに休息を取っておいた方がよさそうだしな」

「あ、うん。お休み」

「ん。
…ああそうだ、言っとくが水温が数分前より冷たくなってるぜ。
今髪濡らすのは馬鹿のやる事だからな」

「え?あ、ありがとう!」


さり気なく優しさを見せ、体を冷やす事を心配しての忠告を残してくれた。
直ぐにそっぽ向いて家方面に向かっていったけど、それは照れ隠しなんだという事にしておこう。

自然と緩む顔の筋肉を隠すこと無く、タオルで身を包んだまま水から上がる。


―――あんなに優しいのに…ダークは、闇の世界でその身を黒に染められた。


予めもう1枚用意されていた乾いたタオルを使い、濡れた体を素早く拭き取っていく。折角ダークが忠告してくれたんだ、風を引くような真似したくない。

拭きながらふと視線を巡らせると、視界には大きな銀色の月が入ってきた。


「ダーク…」


同じ銀だからか、何故かそれを見ると、思い出すのはさっきの悲しそうに語るダークの苦しい表情。


――――−−---・

「生憎、まだ俺はお前らを心から信じてる訳じゃない。
だから、言うつもりもない」


――――−−---・




(イウツモリモナイ)





「貴方は一体、何を隠してるの…?」




心の中を支配する思いが2つ、中を交差していく。
1つは彼からの優しさで温もる心、もう1つは…彼から語られた重い過去を思い出して広がる寒い心。






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