32.突撃!隣りの神隠し
やあ、こんにちは!オレ、リンク。
一応時の勇者って事になってるんだ!!
え?前回までぶっ倒れてた、って?はは、そりゃ人はいずれ起きるでしょ?
オレも今日の朝起きたんだ。
何か鼻をつくきつい薬の臭いがして、変な感じがするから目を覚ましたんだ。起きた途端、映画のバイ●ハザードが再現されたのかと思うほどグロテスクな生き物に囲まれてたもんだから…思わず絶叫。
そしたら隣りの部屋から誰かが入ってきたんだ!誰でもいいから今は人が近くにいてほしいっ、そう思って振り返ると…
ゾンビがいた
(たまたま部屋が暗くて、光なんてカプセルから漏れる変な色の光だけ)
思わず絶叫(パート2)
気絶しそうになったら、別の部屋から飛び込むように見慣れた人が。オレの仲間の1人、舞だ!!
もう気絶するのも忘れて思いっきり舞に飛びついて後ろに隠れてたっけ…うっ、かっこ悪い(顔赤)
勿論、外から戻ってきたダークとナビィも交えて説明してもらえたよ。みずうみ博士の事も、オレが倒れてからここに一泊止まらせてもらった事も。
それに朝ごはんまで用意してくれて、そのご飯も凄く美味しかった!!ごめんなさいみずうみ博士、貴方の事をゾンビなんて思っちゃって(汗)
「誤解が解けて、良かったわね」
『うん、ウン』
ありがとう2人とも。向こうを向いて欠伸を漏らしているダークにもお礼を言っておいた。
お世話になったんだから当然で、食べたものの片付けが完全に終わり、またオレ達はテーブルについた。
紅茶を入れてくれるみずうみ博士に失礼して、テーブルに両手をつきながら聞いた。
「みずうみ博士、ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん?何じゃ」
ポットから注がれた紅茶が、カップに入った途端湯気を立ち上げながらいい香りを部屋中に広げた。
思わず緩みそうになる顔の筋肉を引き締めなおした。
「賢者様の事で聞きたい事があるんです!」
突撃!隣りの神隠し
「賢者様は6人に分けられており、それぞれが己のおるべき場所で眠っている。
個々の役目を果たし終えるのは、勇者と共にこの世界に光を満たした時だけじゃと言われておる。
お前さん等が水の神殿に封印されていると言われる賢者様の封印を解いたのが真ならば、次は屍が集う場所やもしれぬ」
「…で、何でカカリコ村?」
既に草原は渡りきり、空は快晴な青空となり絶好の冒険日和!
…だと言うのに、心の中はどんよりと曇りに曇りきって、正直足を進めたくない気持ちで一杯。
重たい足を引き摺りながら、次の賢者様がいると言われているカカリコ村へ向かっている女子高生です。
「仕方ねえだろ、あの博士がココだって言ってんだから」
「それにカカリコ村には墓地があるんだ!村の人たちはあまり近づかないようにしてるみたいだけど、村に伝わる言い伝えで取り壊しもできないんみたいだし」
『…っテ、博士も言ってたしネ』
「まあねェ」
彼らの言うとおり、博士は確かにこの村に次の賢者様が関連していると言っていた。
まあもう直ぐそこまで来てしまったんだから引き返す事も出来ず、遣る瀬無さの溜息と共にまた階段を一段上った。
「そんなに嫌なのかお前、この村」
「嫌…ってわけでもないわよ、第一あの村は凄く好きなところだし。
まあ、あの頃の筋肉痛がなかったらもっと好きなんだけど」
「何だそれ」
不快な返答だったのか、眉間を寄せたダークは横目であたしを見てきていた。
その時、前方にいたリンクが冷や汗を流しながら何処か遠くへ視線を泳がせていた。
そうか、自覚してくれてたんだ
それを見て肩を落とし、もう触れないでやろうと思いながらまた一段上った。
村はもう直ぐそこだ
「まあ、兎に角いい所よ。小さいけど、空気だって美味しかったわ」
「ちっぽけな村か…不便多そうだな」
「その為に城下町の近くに村を作ったんでしょ?
それに、どんなに不便でも村の人たち皆優しいから全然問題ないのよ、きっと!」
「ふぅ〜ん、そりゃいいんだけどよ――」
そして、村までの階段の最後の一段を上った。目の前には、以前見たままの光景が…
「その優しい村の人たちが1人も見当たんねえぞ」
広がってなかった。
不穏な空気と、ありえないほどの不気味さが村全体に漂っていた。よく耳を澄ませば、鳥っていうよりモンスターの「ギャアギャア!」という鳴き声も聞こえてくる。
「こ、これって…?オレ達、道間違ったっけ?」
『ソ、そんナ訳ないヨ!地図通り来たんダシ、何より門には【カカリコ村】って書かれてルよ』
「じゃあ…どうして前と全然違うんだよ!?」
「り、リンクの言う通りよ
のどかだし、村にはコッコの鳴き声と子供達の笑い声が響きわたって、村全体暖かい空気で満ちている。
それがカカリコ村でしょ!?」
「不気味さに加え、村にはカラスの鳴き声とモンスターの笑い声が響きわたって、村全体冷たい空気が漂ってるって言うなら間違いねえけどな」
認めたくないものの彼の言う通り、この村は変わりすぎている。
その村の変わりっぷりにはマ●ケル・ジャ●ソンもビックリだ
初めて見るダークはそんな事を呟きながら門前から村へ足を踏み入れた。ココで立ち尽くしていても何も変わらないか…謎めいた村の変表さに怯えながらあたし達も村に一歩足を進めた。
―――来ないで
「え?舞、何か言った?」
「へ?何も言ってないわよ?」
んー、じゃあ気のせいか。そう言って頭を掻きながら、リンクはまた村へ踏み入る足を進める。
隣りを歩くダークはきょろきょろと村を見回し、明かりとなるナビィも少し羽が元気なさそうに下がっていた。
…にしても……
「本当に村の人たちが1人も見当たらないわよ」
「気配はするな、何らかの事情で家の中に閉じこもってんだ」
そう、こんな空気の所為か、村の人たちは姿を表に出そうとしていない。結構この短期間でダークが敏感なのはココまで来る時に分かった、つまり彼が言うという事は間違いなさそうだ。
話を伺いたいけど、この村の村長さんの家が何処なのか分からない。という事は、知る手掛かりはなし。
『どうシよっか』
「とりあえず、村の宿に行きましょう。そこで聞き込みでもしましょう」
確か、前に来た時に宿屋は村に入って西向きの方角。
肌を叩きつける寒くて痛い空気にピリピリしながら、あたし達は宿屋があるであろう方角へ向かった。
「………」
「?」
ふと、結構近くから溜息が聞こえてきた。誰かいるのかと反応した体は素直に従い、聞こえてきた声に向かって首を動かす。
首許まで伸びた栗色の髪、緑や白を取り入れたワンピースを羽織っている女性が、木の柵の前で頬に手を添えて俯いていた。
思わず足が止まり、その異変に気づいたリンク達に声を掛けられてようやく我に帰る。
…あの人って確か、昔……
聞いてみようか。
「あ〜…ちょっとあたし寄る所見つけたから、ちょっとそこへ行って来るわね!直ぐに戻るから、先に宿の部屋とっておいてくれる?」
「え?いいけど…1人で大丈夫なのか?」
『ナビィ一緒に居ようカ?』
「ありがとう。でも大丈夫、そんなに時間掛からないから。
ダーク、これお金!貴方が管理しておいて」
「ん」
彼が仲間になるまで、リンクに任せるのが不安であたしが管理していたお金を、リンクよりは信用できる彼に渡す。
一度手を振り、返されるのを見届けると一直線に先ほどの女性に向かっていった。
横目で後ろを見ると、あたしの行く先に気づかず彼らは真っ直ぐに宿へ向かっているのも見えた。それに良かったと息をつきながら、遠慮気味に後ろから声を掛ける。
「あの〜…すみません」
「!あ…旅の方ですか?」
「ええ、はい。そうなんです。さっき着いたばかりで」
女性は顔全体を青ざめ、まるで何かに怯えているような顔で振り返った。でもそれが何の害もないと分かってくれたのか、女性の表情は和らいだ。
両手を胸の前で組み、改めて向き直ると、女性は何かに気づいたように少し目を開いた。
「あら?その黒髪に黒い目…どこかで見たことがあるような…?」
「えっと、私舞って言います。貴方はコッコに触ることが出来ないって言ってた人ですよね?
7年前、緑色の服に金髪の男の子が、貴方に頼まれてコッコを集めるのを手伝ってたんですけど…」
「あぁっ!あの時の…じゃあ貴方は、あの時の坊やの仲間さんね?
…何だか、我が子を想うみたい。大きくなったのね」
「いえ、そんな…」
コッコ嫌いの女性は、長いこと会ってなかった我が子と会えた時の喜びを表すかのような笑顔で、あたしに笑いかけてくれた。
両手を振って否定をとると、女性は少しだけ困ったように瞳を伏せした。
「こんな時じゃなかったら、心から歓迎するんだけど…今の村の状態だと、お客様を迎え入れる余裕なんて、全くと言っていいほどないの…」
「あ…あたしそれを聞こうと来たんです。
以前に比べて、随分と村の空気が重くなっている気がしていたんですけど…やっぱり、何かあったんですか?」
「ええ……とても不吉な事が起きたのよ…」
「もし良かったらでいいんですけど、お話伺えませんか?」
「!え、ええ…そうね……」
女性はあたしの言葉に暫く考えると、木の柵に凭れ掛かり隣りに来るよう促した。あたしはそれに大人しく従い、隣に寄り添うように真似して凭れ掛かる。
少し勇気がいるのか、女性は俯いて瞳を閉じている。無理に話させる気はない、相手から話してくれるのをじっと待つ事数分後…
ようやく決心したように、その人は重たい口をゆっくりと開いた。
「数日前、いつもと変わりない平穏な日に突然起こった事なの。
私はコッコに触れるように、近くに座って空を見上げていた…
すると、突然今まで照らしていた太陽が黒い雲に覆われて姿を隠してしまったの。
それに連動するように、今度は薄っすらと村全体を黒い霧が覆って、当然村の人たちはざわついた」
「黒い霧、ですか?」
「ええ…最初は、異常気象が起こったのだろう、と私達は気にせずにしていたの。でも、月日が流れようとも霧は晴れず、それどころか益々濃くなっていく…
平原を照らす太陽が出ようとも、その光が村を照らす事はなかった。
それでも、村人は皆お互いで支えあい、明るく振舞うよう頑張っていたわ。村を維持するために」
「でも…一見、村の人たちの姿は見えないんですけど。あたしの仲間は、家の中に気配を感じるとは言っていましたが」
「…ここから始まったの、村を恐怖で覆う事件は起きたのは」
あたしの質問を聞いた途端、話し始めた時より女性は顔を青ざめた。組んでいる腕はカタカタと震えている。
あからさまに、今の村に怯えているんだ。
「確かに、村の人たちは家の中に閉じこもっているわ。
でも…それは以前よりも遥かに少量のものなの……。
他の村の人たちは…皆、皆…っ」
「…ゆっくりで、構いませんよ」
なるべく刺激しないよう、あたしは震える女性の背中を手で摩った。ありがとう、と青く変色した唇から小さく漏れた。
見るに耐えないくらいの怯えよう…一体何が起こったのか、想像も出来ない。
少しだけ落ち着いた女性は息を吐き、真っ直ぐとあたしを見据えてこう言った。
「いなくなってしまったの…皆。というよりも、消えてしまった…」
「!き、消えた!?それって、どういう…」
「そのままよ…村の人たちは予告もなしに消えていっているの。最初は子供達から始まり、それからは何の関連性もなく、次々と皆消えていく…
しかも、家の中でも何かしら事件があるのよ。突然家が揺れたり、寝ていると妙な声が聞こえたりって…
消えていった人たち、皆そんな事を体験したららしいの。
そ、それに……っ」
「…?それに、どうしたんですか?」
予想外の事実を聞いて飛び上がりたい衝動を抑え、またもや震えだした女性に目を向ける。
自分の腕で両手を抱えた女性は、また何かに恐怖を示した。
「わ、私…最近誰かに見られてる気がするの…!
夜になると体が重くなって…昼間外を歩いていると誰かの視線を感じて…振り返っても誰もいなくて、また歩き出したら視線を感じて…ッ」
「(じゃあ…さっき村に入った時に聞こえた声って…)」
紛れもない、幻聴ではない筈。リンクにも聞こえたあの透き通った声…実際透き通った人から発せられたものなんだ。
「私、きっと次に連れ去られちゃうのよ!絶対そう、そうじゃなきゃこんな…!!」
「お、お姉さん、落ち着いてください。
貴方のお気持ちは察しますけど、そうやって怯えてちゃ余計に駄目なんですよッ」
もう自分自身どうしたらいいのか分からず、兎に角女性から移動してきそうな恐怖から逃れるためにも、先ずこの人を落ち着かせないと。
あたしの言葉に女性は体の震えを落ち着かせようとしていた。
「あの…幽霊って、怖がっている人の許に自分から来るもんなんです。
だから、あまり強く考えちゃ駄目ですよ」
「そう、なの…?ご、ごめんなさい…私、本当にもう、どうしたらいいのか…分からなくてッ」
「分かりますよそのお気持ち…
…兎に角、今は家の中でじっとしていた方がいいかもしれません。謎の怪奇現象については、あたしが仲間と一緒に調べてみますから」
「!そ、そんな事が出来るの!?」
さっきの弱気は何処行ったのか、女性はまるで何もない闇の中で光を見つけたかのように、すがり付いてきた。
完全に出来るとは断言できないものの、その場凌ぎの落ち着きの言葉をあげないといけないだろう。
「あたし達、今まで色んな所を回ってモンスター達と戦ってるんです。だから、きっと大丈夫。
その間お姉さんは、御自分の家で静かに待っていてください。何かあれば宿屋に来てくれれば、あたし達そこに泊まっていますから」
「!……わ、分かったわ…
ごめんなさい、私のほうが年上なのに…こんな、無茶を押し付けて…」
「そんな。あたしが言うのも何ですが…一大事に、年も地位も関係ないと思いますよ。
今は自分の身を考えて、狙われている可能性があるなら尚更の事。
さ、あたしも直ぐに仲間に事情を話してくるので、お姉さんは家に急いで戻ってください」
「ええ…貴方も、無理は…しないでね…」
ありがとう、と呟き、女性はあたしを力強く抱き締めた。きっと、縋りつくものが欲しかったんだろう、気持ちを読み取ったあたしも女性の背に手を回してポンポン、と叩く。大丈夫、という意味をこめて。
名残惜しそうに女性は身を話、肩に羽織ったタオルケットを押さえ、早足に家に向かって走った。
それを見届け、今度はあたしが後ろに振り返り早足にその場を離れる。
「…っ!」
さっきの話を思い出し、自分が狙われる!とないはずの確信が思い上がった。それの所為で走る足は急ぎ、息が切れ切れになるほどの速さで宿屋に辿り着いた。
まだ荒れている息を整える暇も与えず、まるで後ろから誰かに追いかけられてるようにすぐさま扉を開けて身体を中に滑り込ませた。
「…っ、はぁ…」
『ア、舞!お帰りナさい、大丈夫ダった?』
カウンターにいる店員の声よりも早く、耳に届いたのはいつも聞くナビィの声。階段から下りてくるリンクの肩に止まった彼女だ。
ダークはいないものの、彼らを見た途端、緊張の糸が途切れて、身体を扉に寄りかからせた。
異変に気づき、近くまで駆け寄ってきたリンクが顔を覗いてきた。
「大丈夫舞!?顔が真っ青じゃないか!」
『汗も凄ク掻いてるし、唇も青いヨ!とりあえず、身体を温めヨッ、お風呂に入らなキャ!』
「え、ええ…そうね」
本当はさっきの女性の話をしようかとも思ったけど、自分で触れた指先は死人のように冷たかった。
ほんの少し時間が違った所で、問題はないと納得させた。先ずは体の体調を気にしよう、そうしないと、さっきのお姉さんと交わした約束も果たせなくなる。
お風呂に入るために脱いだあたしのマントを持とうとしてくれるリンク。その厚意に素直に従い、彼の手にマントを乗せながら彼の名を呼んだ。
「?どうしたんだ?」
「さっき…この村の事情を聞いてきたの。お風呂から出たら真っ先にそれを話すわ」
「え、ほんと!?…分かった、部屋で待ってるよッ」
『舞、何かアルといけないから、ナビィも一緒に着いてクね』
「ありがとう」
心配してくれる彼女の言葉、正直そうしてくれると、凄く有難い。
1人にでもなれば、さっきの話を思い出して身体が硬直しそうだから。
入り口から真っ直ぐ右手にある通路、そこから覗く赤い暖簾を潜り、暖かい空気の漂う空間へナビィと一緒に入っていく。
***
++in宿部屋++
「―――で、その人が狙われてるかもしれないの。分かった?」
「成る程〜…」
コト、とテーブルに湯気の立つコーヒーを置いて、リンクの横に椅子を引いた。
お風呂から出てすぐに長話をした事で喉が乾き、まだ少し熱いコーヒーを口につける。
「じゃあ、やっぱりこの村にも悪いことが…これもあいつの仕業なのか」
『その話をしタ人は?』
「今は、自分の家に篭もってるわ。あたしがそうしててって言ったの。
そうでもしなきゃ危ないと思って…」
窓で塞がれた外の景色、そこからは不気味を知らせるカラスの鳴き声がガラスを通して聞こえてくる。
まるであたしの目を盗むかのように、ナビィはこっそりとリンクの耳元に飛んで行った。
『ねェリンク、村で起きてる怪奇現象…原因ってもしかシテ…』
「ああ、さっきの話が関係してるのかもしれない」
「?話しって?」
リンク達の話しが耳に入り、彼らからの不可解な言葉に振り向く。
今の話だと、リンク達も何かを知ってそうな口ぶりだったんだけど…
そのあたしの考えは間違ってはいなかった。
「舞がまだ帰ってきていない頃、オレ達も自分也に情報集めをしていたんだ。
と、言っても…ココで聞けるのはカウンターにいた店員さんだけなんだけどね」
苦笑を漏らす彼は、さっき一緒にいれたコーヒーが入ったカップの取っ手を持った。
飲むのを待つまで、続きをテーブルにとまるナビィに聞く。
「それで、その時何を聞いたの?」
『この村の歴史。
…とってモ凄かったヨ』
「歴史?」
まだ熱かったのか、コーヒーを口にした途端、彼は慌ててカップを離した。
相当か、少し目尻に涙が浮かんでいる。
くっ…!例え15越えようと、幼き頃の可愛さは衰えてないのか!!(堪えろ)
『…舞、話してもイイ?』
「すみませんどうぞ」
『じゃア話すネ。
えっと…これはあまり知られていなイお話しなんだケド……―――。
―――遥か昔、今のカカリコ村が作られる頃の物語。
今と変わらないおだやかな村に、元旅人だった男の人がいた。
彼は旅で疲れた心身をこの小さな村で休ませようとやって来たのだ。
村の第一印象はとてもよく、彼は酷く気に入った。
以前住んでいた故郷では研究をしていたからか、彼は人々と顔をあわせることもなく、家に閉じこもる日々を続けた。
そんなある日の事…村に住み着いて数日、研究から頭が離れなかった男は、とうとう村の地下に自分の研究室を作った。
誰にも邪魔されないよう、地の下にこっそりと。
ある研究テーマを決めた男は、研究を続けていった。
着々と研究は進み、もう結果も会い見えた頃合に……まるで計ったかのように事件はおきた。
ある日、男が薬物実験をしていた時、失敗した際に生まれた爆発により男は死んでしまった。
微弱だったそれは、上の地上には被害もなく、知られるほどでもないものだった。
そしてまたある日、何もない村に、突然見知らぬ者達がやってきたのだ。
大きな権力を持っていたのか、何故か村の人たちは逆らうことも出来ず、相手の意思に従うままだった。
見知らぬ者達は村の開拓を行うと発表し、その工事は進められてしまう。村人は皆その工事を知っていた為、しばしの間村を離れていた。
しかし…人と関わることをしなかった男は、地下深くにいた為に誰にも知られず、骨になった後、供養されずにそのまま埋められた。
男はその時の憎しみがこもり、いつしか怨念が生まれた。
怨念は自縛霊と化して、今も尚、村に永久に留まっている……
―――っていうのガ、カカリコ村の歴史の1つにあるんだッテ』
「だから、この歴史を元に『村の人々はお互い協力し合わなければいけませんよ』っていう決まり事が出来たらしいんだ」
「ことわざの由来のようなものね」
すっかり空になってしまったカップは、スプーンを回すと乾いた音しか発さなかった。
「でも、それがどうして今の村の怪奇現象に関係しているの?
呪いたいのは分かるけど、そんなの今更のことじゃないじゃない」
「それは、分からない。店員さんも知らないって言ってたし…」
『【どうして先代の処罰を、あたしが受けなきゃなんないのよ!】って怒ってたよネ』
「そう、なの。大変なのね…」
まあ確かにそうかもしれない。思えば、とばっちりのようなものだし、お気の毒様だ。
…でも、まだ納得できない所がある
確かに霊の力は凄い。人間の強さは力や体力かもしれないけど、霊の強さは心の強さ…つまりは『念』の力により決まると誰かが言っていた。
骨のまま残されて悔しいのは分かるけど、自分自身が村の人たちから避けてた所もあるんだから、気づいてもらえなくても当然かもしれないと思うところも、あると思う。
その怨念がいくら強いからとはいえ…
「霊1人でこんな騒動起こせるものなの?」
―――ガチャッ
「そんなの出来るわけねえだろ。
怨念と言っても、強けりゃ俺みたいな似た境遇の奴には響いてくるから大きさも分かる」
「ダーク!」
「響いてはきたが、その霊の念はその話の者とは違う」
扉を開けて入ってきたのは、片手に何かを持ったリンクの影、ダークだ。
手に持った何かを肩に担いで、目を伏せながらテーブルに近寄ってくる。
「ダーク!今まで何処行ってたんだ!?」
リンクの問いに「ちょっとな」と軽い返答を返すと、つかつかと部屋に入ってきてテーブルに何かを放り投げた。
パサッ
「?何、これ?」
彼の手から放り捨てられたのは、少し古く痛んだ薄い本。手に取ると、少し本に積まれた埃がぱらぱら、と落ちた。
表面は色褪せたんだろう、元は赤色の表紙で、ハイラル文字により何かが書かれていた。
それを読み取るよりも早く、壁に凭れ掛かった彼の口から答えが発せられる。
「村の記録だ。この村を作った当主…インパの家にあった物」
「い、インパさんの!?ダーク、インパさんの家が分かったのか?」
「店員に場所聞いてな。
それより、それ読んでみたら違う事実が判明したぞ。さっきお前らが言ってた昔話とは違う、ほんまもんの事実だ」
「?」
ほんの少し端が破けたページをパラリ、と開く。
明らかに手書きの文字に目を這わせながら、隣で語るダークの言葉に耳を傾ける。
「村にやってきた男は、昔の王家に追放され、途方に暮れていた男だった。元々、城で研究員として働いていたらしいからな。
その後、平原のモンスターから命からがら逃げてきて、辿り着いたのがこの村だった」
『【男はその後、村の人々に歓迎されて一命を取り留める。優しい村の人々の温もりと、村で出来た妻との生活にとても充実していた】…。
村の人たちはコノ男の人の事を知ってたんダ!』
「それから双子の子どもが出来て、男は幸せの絶頂だった、他にはもう何もいらないと。
そんなある日、男はどうしてもやってみたい研究テーマがあって村の地下に研究室を作る事を考えた」
「そこはオレ達が聞いたのと同じなんだな」
「男の妻は、同じく元々研究をしていた身。同じ境遇同士からか、妻は男の研究を止めることなく、寧ろ応援していた。
無論、聞きつけた村人も、村の発展になるかもしれないと思い、男を応援した。
愛する妻と子ども、それと世話になった村人に恩を返したくて、男は研究に励んでいた…」
少し食い違いはあるものの、リンク達が話していた事と大差変わりはない。
そう思って口にすると、ダークは首を横に振り、続きがあると言葉を制した。違うのはここからだ、と
「ある日の事、妻は男が研究に励んでいる姿を見たくて、子供達を連れて地下へ向かった。
妻達が傍にいる事で男は嬉しく思い、いつもよりも張り切った。
その日と同日…突然王家からの遣いが村にやってきた。いきなりの事に驚いた村人はすぐさま理由を問い詰める。
王家の遣いは、村の開拓工事をすると言ったんだ」
「大きな権力…じゃあさっきの話の大きな権力者って、王家の事だったのね」
「だろうな。
それから村人は猛反対をしたが、王家の遣いは応援を呼び、村人を離れた場所へ連れて行かせて、全員がいなくなって安全だと分かり、その間に工事に取り掛かった。
…でも、王家の忠告で唯一逃げていない者達がまだ村にいた」
『アッ!研究してル家族達!!』
「ああそうだ。土は音を通さない。故に地上の音も声も地下まで聞こえず、何も知らない家族はそのままだったんだ。当然王家の遣いも気づかずに…」
そんな…あまりにも酷い。
「村から遠ざけられてからしばらくして、村人達は地下で研究をしている男とその家族たちがいない事に気づき、急いで王家の遣いの者に報告しようとした。
しかし、奴らは話を全く聞かず、そのまま工事を進めた。
勿論…知らせも助けもなかった家族達はそのまま埋められる。つまり、生き埋めだ」
「そんな…」
「しかもそれだけじゃない。
その家族達がいた地下には、古く昔に闇の魔物が封印された場所。開拓工事が終わった後、急いで村人全員で地下を探したものの、家族達の遺体は見つからなかった。
…恐らく、封印された闇の魔物に魂と一緒に持っていかれたんだろう」
『………』
「これが、その記録に載っていた村の記録だ」
彼の口から語られたこの村の過去。
…正直言って、後味がいいものではない。いい筈がない。
「…生き埋めは、埋められてからでも暫くは生きていられるもの。
きっとその人たち、闇の魔物に怯えながら死んでいったのね……」
『可哀想、なんて言葉ジャ最低すぎルよ…』
「………」
暗くなった部屋の空気をどうこうするつもりもなく、あたし達は只目線を足元に向けていた。
唯一、先に聞いていて平然としてるダークは、小さな溜息を漏らした。壁から背を離し、足音を立てながらベッドへと向かう。
「兎に角、この村の原因は恐らくその家族達のものだろう。
怨念と化した今、4人もいりゃ十分出来る。『念』の強さも相当でかい、響いてくるからな。
…明日、日を改めて調査するぞ」
「…?ダーク、何処へ行くの?」
ベッドヘッドに掛けられた大きなバスタオル、それを片手に持つとダークは入ってきたばかりの入り口にまた向かっていった。
「風呂。折角だし、浴びてくる」
「あ、待ってよダーク。オレも行く!」
同じくベッドヘッドから掛けられたバスタオルを奪いとり、リンクは出て行こうとするダークを追いかけた。
扉を閉めようとしたら、慌てて顔をまた部屋にいるあたしに向けてくる。
「舞!何かあったら大声出して、絶対知らない人は部屋に入れちゃ駄目だぞ!」
「わ、分かったわ…でも一応あたしも17だから、それぐらいは分かってるからね」
あたしの返答が聞こえたのか聞こえていないのか、すぐ戻るから!と一言言い残し、扉を閉めて彼らは出て行った。
一人になった静寂な空気が流れる部屋の中、ふと今頃になって重大な事に気づく。
…………。
「ナビィ………
彼らだけじゃ不安よ、あたし達も追った方が…!」
『うん、言い訳は上手だけどネ舞、魂胆見え見えだヨ。
目がランランとしてるシ』
「うっ…」
幾らシリアス後の展開だとしても甘さを見せないか。厳しく見抜かれたナビィはさも悟ったように冷たく言葉を放った。
「だ、だってさ!タオルと湯気の向こうにはミラクルワールド、又の名を萌えワールドが広がっているのよ!?ナビィもヲトメならこの気持ち分かるでしょ?ね!?」
『ゴメン舞、ナビィは健全な乙女でいたいノ。
だからこの手を離して、お願いだカラ!それにそんな未知の世界に何テナビィ行きたくナイ!ってか行っちゃイケナイ気がすル!!(汗)』
上手く読み取った妖精は必死に逃れようと押さえつけられた羽根を動かそうとする。
仕方ない、渋々掴んでいた手を離し自由をあげてあげた。
安堵の息をついて、ひらひらとナビィはランプの上にとまった。
やることも話す相手もいなくなり、あたしは顔をテーブルについた。何かを見るわけでもなく、只ボーッと…
「あ〜ぁ、仕方ない。今度はこっそり忍ぼう」
『ナビィ聞いちゃっタからネ』
言わない方が見つからずに行けたのかも。
視界に映るまっ黒な外の景色に目を向けながら、今更ながら自分の行った過ちに無念が生まれる。
目を瞑ると、まだ残っているあの頃のカカリコ村の香りが鼻先を掠めた。
Next Story.