33.カカリコバイオレンス



正直、夢を見ているんじゃないかと思った。

影は、確かに主たる主体に着いて行くものだ。だから今の形態が本来の姿だろう。

だが…俺は作られた影、闇の欠片。その欠片を創りあげた創造主に、己は着いて行く役目がある。

だから絶対、闇から逃げる事なんて出来ないのに……

対立する者が共に行けば、いつかは消滅する筈。

それは今の俺【闇】と、あいつ…勇者【光】も例外じゃない






カカリコバイオレンス






家の中の一角、部屋中に霧が立ち込めていた。温かみを混ぜた霧の向こうには、大きくお湯を張った岩の囲いがある。
その広大な浴場の中に、リンク達はいた。


「……。」


温泉に浸かったダークは、丹念に腕のマッサージをしながら何かを考え込んでいた。


「(村の状況が回復するまで待つしかないな)」


左手で掬い上げたお湯を右手首にかける。自己で解決案が出ると、間もなく考えを中断させ、神経を温泉の温もりに傾けた。


ズダアァァァン!!
「いたーーーー!!」


騒音が鳴り響くのも同時に


「…………」


いつも回りに気を配っているダークは、部屋に入ってきた気配に敏感に反応し、思わず傍に置いておいた剣に手を伸ばしてしまった。
誰のものか、完全に読めなかったのだ。


「(馬鹿の気配ぐらい読めよな俺)」


自分の神経に情けなさを感じながらも、温泉から出て音のあった入り口へ向かう。
湯気でその姿は見づらいものの、一際輝く金色には関係ない。


「何やってんだお前」


呆れた視線を寄越し、頭を抱えているリンクに冷たく言い放った。
頭上からの声に気づき、リンクは頭を上げる。


「ダーク!この床って滑るのか!?」

「濡れてんだからな、当たり前だろ。でも歩いて渡れば扱ける筈がない。
…走ったな」

うっ


苦虫を潰したような顔になり、ダークはそれを見て確信した。お前そろそろ自分の歳頭に入れろよと心の中で呟きながら。
相手をこれ以上する気もなく、冷えた体を浴場に向けた。
それを見たリンクは、首を横に傾ける。


「ダーク、お風呂って入ったら先ず何すればいいんだ?」

「あ?何するって……今までと同じやり方だろ」

「だから、今までの入浴経験がないから分からないんだって」

「………は?


普段のクールな彼からは全く想像がつかない、そう言いたくなるほどの驚愕の表情をダークはしていた。
疑問の対象は自分が原因と気づかず、同じく目を瞬きしていた。


「お前…まさか………」


いや、まさか…そんなわけ……
頭の中で否定の言葉が次々と浮かび上がる。信じたくはないが…ダークは恐る恐る口を開いた。


「今まで、一回も風呂に入ったこと…ないのか?」

「うん」


…ッ!!?

「きったねえぇえぇえええぇえぇぇえぇぇ!!」


ザパァァッ、と勢いあまって入ったばかりの湯から身を飛び出す。
そのまま、ダークの反応に目を点にしているリンクにずかずかとにじり寄った。


「お前ッ…世界救う奴が不衛生でどうすんだ!!後に語られた時、レッテルに『時の勇者』ならぬ不潔勇者が貼られるぞ!?
そうか、最近豪く妖精が増えたと思った。あれ一匹以外ハエだろ!!世界が闇に覆われる前に、最速ハイラルの空気が汚染されてんじゃねえか!!

「ええ!?じゃあ、最近ナビィが文句言ってたのってそれか!?」


自分で先ず自覚しろよ!!
本気で知りませんでしたと物語っているリンクの表情に、ダークは怒りを通り越して呆れを感じた。
肩を落とすも、このまま汚い事を知った者を放っておける訳もなく、無理矢理リンクの腕を掴み、一番近くの椅子に座らせた。


「ん?」

「ん?じゃねえよッ、兎に角洗え!!」

「でもオレやり方知らないよ」

「〜〜〜!!だぁっ、くそ!!」


洗面桶にお湯を入れて、予告もなしにそれをリンクの頭にぶっ掛ける。突然の事にリンクも驚き、少し飲んでしまったお湯を咽こむ。


「ゲホッ、だ、ダーク!何か言ってくれよ!」

「洗ってやんだ、それぐらい目ぇ潰れ」


謝る気もなく、今度はシャワーの近くに置かれているシャンプーを2滴手に垂らし、抵抗はあったがリンクの髪の毛に乱暴にぐしゃぐしゃと絡ませていく。
さっきの怒りも消えうせ、どんどん泡立っていく自分の頭を鏡で見てリンクは「お〜」と歓声の声を漏らしている。


「(…餓鬼)お前、今までどうやって体調の清潔管理してたんだよ。
!ま、まさか生まれてこの方洗ったことねえのか!?」

「ん〜…森にいた時は森の精霊が洗浄してくれてたから入る必要なかったし、7年経つ間はクリスタルの中だったからな、服も変わってたし、いいと思って」


こいつは…不便じゃない生活送ってたな、と心の中で呟きながら、洗う手は止めない。
まあ、森の精霊が洗浄してくれるならまだ構わないだろう。自分は城にいた時から自分で洗ってたからその詳しさは分からないが、見たところ病気にもかかっていない。なら、いいか。
考えてる所為で喋る事もなくなり、少しの静寂の空気が流れたが、考えが終わったのを見計らったように鏡に映るリンクが笑った。


…何だよ、気持ち悪いな

「き、気持ち悪いって言うなよ!!オレはこうやって友達とお風呂に入れたの喜んでんのにさッ」

「?友達…?」


一瞬、リンクの言葉にダークの手が止まった。直ぐに再開するも、鏡に映ったリンクは当然だというような笑みを作っているのが見えた。


「デクの樹サマに、聞いたことあるんだ。オレは森の民だけど、いつかは他の民の人とも仲良くなれるって。
その時は何の事か分からなかったけど、今ならその言葉も分かる」

「……」

「凄い幸せだよな、オレって。こうやって体洗うのってそのまま『体洗う仲』って言うんだろ?」


嬉しそうに笑顔を綻ばせたままリンクは話す。目許に落ちてきたシャンプーの泡に吃驚して慌てた顔になるものの、鏡を通して見ていたダークは少しうつ伏せがちだった。


「くだらねぇ…」


ぽつり、と呟かれた彼の言葉は、丁度一緒にお湯を流した時の音によってリンクには聞こえなかった。
まるで犬のように髪についた水滴を首を振って飛ばし、ダークは散ってきたそれを感じて遠慮なくグーでリンクの頭を殴った。

勿論痛かったそれに、今回2度目になる頭の激痛を抱えた。
ダークは満足そうににやりと笑っているが。






『リンク!!大変だヨッ、攫われてる!女の人ガ!!』

「「!!」」

「ナビィの声!?」


外からの相棒の声に耳を傾け、リンクはダーク同様傍に置いていたマスターソードを掴んだ。
お風呂場の入り口へ向かおうとしたが、外を映すガラス窓の向こう側に、夜の中では目立つ光が漏れていた。


「あれか…!」


すぐさま入り口に向けていた体を方向転換させ、浴場の向こう側の窓を開け放った。
窓と外を繋ぐ竹製の柵、3メートル近くあるそれを地面を強く蹴って難なく飛び越える。宙を跳ぶまま目を凝らすと、茶色の髪を生やした女性が気絶したまま抱えられているのが見えた。
抱えているものが人間ではありえない光を体から発しているのも見える……あいつ、ダークが言っていた幽霊か!!


「待て!その人を連れて行くな!!」

【!】


女性を抱えた幽霊は驚いて顔を上げる。が、それよりも早くリンクの剣が敵を捉え、実体のない幽霊に剣を振りかざす!


ザンッ!!

【ッ!】


ある筈のない手応え、しかし幽霊には十分の奇襲になったようで、抱えていた女性をつい落としてしまう。
その所為で女性の体が宙に投げ出される。


「あ!しまっ―――」


受け止めようと手を伸ばそうとすると、隣りを黒い影が走った。黒い影はリンクよりも先に地面に降り立つと、着地すると同時に女性を上手くキャッチした。


「ダーク!!」

「ふんっ」


女性の身体を抱えなおして体制を整えている影を見て、それがダークなんだと気づく。
女性の方は心配もなくなり、リンクは地面に上手く着地すると、もう一度剣を構えて体制を立て直した。

必然的に視界に入る幽霊を改めてみて、彼の瞳は大きく開かれる。


「な…!子ども!?」


そう、リンクと対峙した幽霊は小さな女の子霊。女の子は思わぬ登場に口元に手を当てて大きく目を開いて驚いている。
だが、暫くもせずの内に泣きそうな顔になって、己の身体をふっ…と空気と溶け込ませて、消えてしまった。


「あ!待て!!」


慌てて制止の声を掛けるも、既に幽霊はその姿を完全に消してしまっていた。
暫くその場から動けずに呆けていると、先に鞘に剣を納めたダークが息を吐いた。チン、と剣を納めた音で我に帰り、リンクは困惑の瞳のままダークに視線を移す。


「ダーク!い、今のって」

「ああ、間違いない。研究員の霊だ。多分、双子の子どもの片割れだろうな」

「やっぱり…」

「だが今ので確信したな。村の怪奇現象…やはり原因は間違いなくあの家族達だ」


村人を攫おうとしているところを自分達が目の当たりにしたんだ、間違いはないと思う…
リンクもダークに習い、自分の剣を一緒に持ってきていた鞘に納めた。安堵から出てくる息を吐くと、少し遠くから声が聞こえた。


「リンク!ダーク!!」

「!舞!!無事だった!?」

「ええ、あたし達は何とか平気………」

「…?どうしたんだ?」


宿屋から来て駆け寄ってきた舞は、リンク達と真正面に向き合うと硬直した。
突然動きを止めた彼女に不信感を抱き、大丈夫かと聞こうとするも、先に舞のうろたえた声に遮られる。


「ちょッ…!なッ、何で2人ともタオル1枚なのよ!!?」

「え?だって、ナビィの声が聞こえて直ぐに飛び出したから…」

「だからって1枚よ、1枚!!確かにそりゃあたしにとって喜ばしいベストの格好だし、正義感が働いたのは分かるけど角度によっちゃハプニング起きるわよ!!
今のあんた達じゃ幽霊騒動どころか己の格好に気がいっちゃうでしょ!外はいいから、早く着替えてきなさい!!」


ストップは聞かせぬ舞のマシンガントークと共に、2人はぐいぐいと背中を押される。
まあ確かに、この格好で敵と戦うわけにもいかない。寧ろ困る

さっきの女の子の幽霊もいつ出てくるか分からない、女性を宿屋に休ませるため、抱えたまま彼らは宿屋に戻っていった。














リンク達が宿屋に入り数分後、先ほど剣を交えた場所に一陣の冷たい風が吹いた。
色を帯びた風は形を成していき、最後にヒュッ、と短い音を響かせて消えた。完全に形を作ったそれは、小さな影を作っている。
今度は、小さな『男の子』の霊が


【……あれが…】


深く被ったフードは顔を隠し、捕らえる事が出来ない視線の代わりに、顔の向きは宿屋に向いている。
じっ、と見つめた後、己の使命を思い出した少年は両手で作った円の中に黒い靄を作った。


【よし……――】


―――始めよ










***







「ええ?女の子の幽霊?」


バタバタと階段を駆け下りながら、最後尾を追いかける舞はリンク達の言葉を疑った。
そんな、馬鹿な。
先頭を切るリンクは首だけを後ろに振り向かせ、きちんと着なおした服と帽子を整える。


「本当だよ!!ダークも見たし、さっきの話はやっぱり本当だったんだ!」

『ナビィもさっき見たケド…さっきの人、光ってタ。やっぱり幽霊だッタんだ』

「それにしても…本当に霊が人を攫うなんて…、…!
そうだダーク!さっきのお姉さん、どうしたの?」

「部屋に寝かせてある。置手紙も置いてるから、大丈夫だろ」


たんたん、とリズミカルに階段を下りきり、その騒々しさに何事かと店員に聞かれた。それを簡潔にまとめて事情を話し、そうこうさせる間もなく入り口の扉を開け放った。

バンッ、と戸を開けると、リンク達の視界には暗い紫が写った。
さっきまで見た真っ暗な夜の黒じゃない、禍々しい紫を帯びた何かを含んだ……霧。


「こ、この霧なんだ!?さっきまでは、何もなかったのに!!」

「この霧、魔力が含まれてやがる…ッ」

『ナビィも感じるヨ。ダークの時程じゃないけど…普通の魔力じゃなイ!』


視界を遮るそれが中に入らぬよう、すぐさま身を外に投げ出して扉を閉めた。唯一頼りになる灯りであるナビィを目印に、リンク達と逸れないように注意した。
きょろきょろ、と辺りを見渡しながら進んでいると、何かに気づいたダークが目を開き、自分の後方にいる舞に振り返った。


「おい、舞!!」

「え?」


ダークの言葉に目を瞬かせながら舞は振り返った。すると…視界を覆う霧とは違う、蒼い霧のようなものが彼女の身体を透き抜けて行った。


「ぅわッ…!?」


思わずその場にしゃがみ込み、見かねたリンクも同じくしゃがみ込んだ。


「舞!大丈夫!?」

「え、ええ…特に変わったことは…」


何が起こったのか分からず、目を開きながら自分の体に触れる。が、特にこれといった異常もなく、どういうことだと首を傾げた。
…そして、透き通っていった『何か』が行った方向へ顔を向けると…そこには男の子が佇んでいた。

見た目こそ違和感はないが、男の子の体からは光が漏れ、後ろにある筈の景色は透き通って見える。
…つまり、完璧に幽霊だ。


「お前…さっきの餓鬼の霊の仲間だな」


疑問ではなく、確信で捉えた言葉は間違いなく少年の霊に向けられた。言葉を待つ間も警戒心を解くことなく、ダークはマスターソードに手を掛ける。


「この村で騒動を起こしてんのはテメェらだろ。何が目的でこんな事をしてる」

【………】

「答えろ!!」


今にも剣を抜きそうなダークに怯えることなく、少年はじっと佇んだままでいる。
少しうつ伏せがちに顔を下に向け、フードから密かに覗いている口がゆっくりと動いた。




【―――逃げて】

『エ?』





―――ドオォオォォォォン!!!


「!?」

「な、何!?」


少年から意識が反れ、リンク達の意識は近くに落ちた雷に向いた。普通の雷とは違い、青色の雷が民家を撃ちつけ、赤い炎を燃え上がらせた。


「い、家が燃えてるわよ!」


その炎はまた隣りの家へ燃え移り、そしてまた燃え移り…と、次々と炎が村を飲み込んでいく。


『大変!このままジャ、村ガ!!』

「火をどうにかしないと…!」


慌てふためく中、ふとダークの視線は少年に向いた。少年はじっ、と燃えていく家を見ている。表ぶりは冷静そうだが、少なからず冷や汗を掻いて困っている。
ダークにはそれが読み取れ、同時に少年から感じる魔力も読み取った。


「(…もしかしたら…)」


視線を横目に向け、燃え上がっている家に向ける。だけどそれも直ぐにまた視線を戻し、今度は少年に自ら向かっていった。
まさか来るとは思っていなかった少年も一瞬身体を跳ね上げ、少し身構えている。
遠慮もなしに直ぐ近くまで歩み寄ると、ダークは少年と目線が合う高さに屈んだ。


「お前…その魔力を俺にちょいと貸せ。死ぬほどは抜きとらねえ…って言っても、もう死んでるがな」

【…ッ】

「この村の火を消してやるって言ってんだよ。
…事情は知ったこっちゃねえが、お前らにも困るんだろ?」

【!】


ダークの言葉に、少年は思わずハッ、と顔を上げた。青白い肌が一瞬だけ見え、それが禍々しい気を帯びているものではない事が分かる。
少年の返答も待たず、ダークは己の手を突き出した。勿論、何のことだか分からず、少年は戸惑う。


「俺の手にお前の手を翳せ。…何だ、触れないのが不安か?
そんなもん振りだけでいい、急げ!!」

【!……分かったッ】


初めて生者の前で出した声で了承し、少年は透き通った手をダークの手に翳す。

少年の手を通して、ダークは自分に何かが流れ込んでくるのを感じる。
まだ溶け込みきれていないそれを頭の中でイメージしながら混ぜ込ませていくと…一瞬、本当にほんの一瞬だけ、自分の魔力と融合した。

それを感じ取った瞬間、天に向かって右手を掲げる――――



パキンッ


指を鳴らした瞬間、闇を告げる黒い空から冷たい雨が降り注いだ。
大降りという程でもないそれは、まるで意思を持ったように家を燃やす火に向かって落ちていく。
ゆっくりと手を降ろすダークに見入り、ぽかんとしたままリンクは大きく目を見開いた。


「だ、ダーク!これ…お前がやったのか?」

「ああ、まあな。…只俺だけの魔力じゃ足んねえ、だから俺の中にある魔力とこいつの魔力を符合させて作ったんだ。元々俺の属性は水だからな」


こいつ、と指された紛れもなく幽霊の少年。少し疲れたように深い息を繰り返す少年は、胸の位置を掴んでリンク達を見上げた。


【……やっぱり…そうなんだ……父さんの、言った通り…】

『ダ、大丈夫?』


幽霊と言えど心配するのは彼女の優しさが染み出ている証拠。ナビィが心配そうに寄ろうとするが、少年はぐっ、と力を込めて真っ直ぐに立った。
ちらり、と宿屋がある方向へ視線を向けると、重たそうに口を開いた。


【村の人たちは…もう皆移動したよ…後はお兄さん達だけ】

「!ど、どうして…どうしてこんな事するんだッ?君達は何が目的でこんなことしてるんだ!?」

【………!説明してる、暇ないんだ…ッ】


だぼだぼな長い袖で隠れた手を持ち上げ、下にずり落ちた事で覗いた指で井戸を指した。


【怖いのが、ボク等を狙ってる…ッ、だから…お兄さん達も、早く…逃げてッ】

「怖いの…?貴方、凄く震えているわよ?一体何が…」

【!もう直ぐソコに来てる…!!早く、早く逃げて!!】

「あ、ちょっと!」


そう一言言うと、少年はぽんっと地面を蹴って宙に跳び、一回転をして姿を消してしまった。
止めようと伸ばした手は行き場をなくし、口元に添えた。


「どういう事?逃げてって言葉も気になるし、それに…」


怯えながら呟いていた、『怖いの』というものの存在。死んだ後でもあの子が怯えるものって…
考えを張り巡らせていると、リンクはダークの方へ顔を向けた。


「どうするんだ?」

「どうこうしろと言われても、先ずはこの村をどうにかしないといけねえだろ。それに、さっきの餓鬼が言った事も……――――」


―――ゴトゴトゴトッ!!


『!井戸ニ何かいルよ!!』


ナビィの声、そして後方から聞こえた木の揺れる音に反応して、真っ先にリンクが振り向いた。
続けて舞達も振り向くと、井戸を塞ぐ蓋がガタガタと震えていた。まるで…中から飛び出しがっているように


「何だ?何かいる!?ナビィ分かるか!?」

『……魔力しか感じないヨ!でも、もう直ぐソコに来てル!!』


うろたえるリンク達とは反対に、冷静に武器を構えたダークは舞を後ろに持ってくると、前に出て隠すように片手を広げる。


「下がってろ」

「う、うん?」


半疑問形で返事を返し、言われたままに舞が一歩下がると、丁度同じく井戸の蓋が弾け飛んだ!!

飛んできた木の破片を両腕で庇いながら防ぎ、破片の嵐が止んだのを隙に視線を井戸に戻した。
井戸の中から飛び出したモノの姿を見て、リンク達は目を見開いた。


「何だあれ!?」

お、おぞましいッ!!(汗)

…まあな…


井戸から這うように出てきたのは、固体からされていない紫色の禍々しい『念』そのもの。


『あの魔力…村を覆う霧と同じダ!!』

「じゃあ、あいつを……あいつをやっつければ、この村も治まるんだな!」


おぞましい動きを見せるそれに怯むものの、勇気のトライフォースに選ばれたリンクはマスターソードを引き抜き立ち向かった。
いざ攻撃!と飛び出そうとした時、おぞましい『念』が目にも留まらぬ速さでリンクの剣を弾き飛ばした。


「あッ!」

「!おい、避けろ!!」


その速さに目を見張っていると、無防備なところをいい事に『念』がリンクに向かっていった。
避けきる事が出来ず、代わりに対峙しようとしたダークが舌打ちを漏らしながら飛び出す。


―――ガッ!

「なッ…!?」


…だが彼の武器も弾き飛ばされ、動きを読み取る間も見せずに『念』は2人の体を掴み、近くの民家に向けて投げ飛ばした。


ガシャアアァァンッ!!


「り、リンク!ダーク!!」


見ていた舞は思わずその惨状に顔を両手で包み、悲痛な声を漏らした。駆け寄ろうとする彼女をナビィ引止め、今度は舞の声に反応した『念』が狙いを彼女に定めた。


『あ、危なイ!逃げるヨ舞!!』


ナビィの誘導の声に本能が従い足を動かすが、それよりも早く『念』が動き出し、逃げようとする彼女達に向かって突進してきた。
後ろ目でそれを見つけると、少しでも遠くへ逃げようと足を早く動かした。もう直ぐ後ろにくる衝撃に体が怯え、冷たい汗が背中を流れる。






その時、固体化された『何か』に背中を打たれた。というよりも…押された。


「ううわっ!?」


前に押された力に走っていた勢いも加わり、前のめりになった体は重力に従って地面に倒れた。
ナビィの悲鳴も聞こえ、顔を上げようとすると今度はさっきの固体化した『何か』にだろう、体を地面に押さえつけられ、顔を上げる事も許されなかった。
だが、丁度自分の頭上をさっきの『念』が狙いを外し、そのまま物凄い速さと力で通過していったのが分かる。


「ああ、危…ッ!!
殺す気か己はーーーー!!!

殺す気なんダヨ


こんなところでミニコントを繰り広げるな
またこっちに戻ってくるかと思ったら『念』は舞達を無視して全く別の方向へ消えていった。


『念』が村から姿を消し、雨の降る音だけが漂うと、我慢していたものがどっとあふれ出した。その証拠に、体に冷や汗が流れる。


『危なかっタね…大丈夫?』

「え、ええ……でも、背中に何かが」


今も続く重力感、その正体が分からずまたもや不安を生み出していると、今まで乗っていた『何か』が背中から退いた。
それを機に地面に突っ伏していた体を上げ、服についた土や草を払いながら退いた『何か』を見上げた。


「シーク!?」

「…荒っぽい事をしてすまなかった。こうでもしないと、今の奴にやられていただろうからな」

「じゃあ、今のは貴方が……
助けてくれたのね」


てっきり敵か何かだと思っていたあたしは、その正体がシークだとは思わなかった。
「ありがとう」とお礼を言うと、気にしなくていいとでもいうように首を振った。立とうとする舞に手を差し伸べる。

遠慮なく手を借りながら立ち上がり、心の中でシークの手を握れた事に萌えていた。
こんな状況でお前…


『あいつ…何処行ったノ?違う所行ったケド…
確かあっちッテ…』


「あっちは…墓地だッ…あの野郎、闇の神殿に向かった!!」

『!ダーク!それにリンクも…ッ大丈夫!?』


自分達の背後から聞こえた声に振り返ると、そこには剣を支えに立っていたダークとリンクがいた。
ダークに肩を貸してもらいながら歩いているリンクだが、よく見れば彼の足から血が出ている。
それはダークも同じで、切れた口から流れ込んだ血を吐き出している。


「あいつ…凄い強い。捕まれた時イヤな感じがしたんだ」

『リンク……』

「…そうだダーク、今闇の神殿、って言った?」

「ああ。あそこは怨念と憎悪の住処…野郎は恐らく、そこに向かったんだろうな」


ずる、と肩から下ろされたリンクはゆっくりと地面に座り込む。苦しそうに眉間が歪んでいる姿を見て、慌てて舞が駆け寄った。
彼女に後ろに立っていたシークは、じっと『念』の消えて入った墓地に見入っている。間もなく振り返った時には、普段クールな分見たことがない焦りの色が見て取れる。


「リンク…大変な事になったぞ!今のはおそらく、古く昔に封印された闇の魔物。
奴はガノンドロフの力によって魔力が増減し、封印を自分の力で解き放ったんだ!」

「い、今のが、ダークの言ってた闇の魔物なのか!?じゃあ、もしそうだとすれば、あいつを放っておくと…」

『大変!カカリコ村だけジャなく、各地に危険ガ及んジャうよ!!』


「そうだ、だからその為に奴を倒さなければいけない。
だが…今さっきはまだ力が完全じゃなかったから姿は見えたが、本体はあんなものじゃない。君達が向かう頃には、己の力を最大限に思い出し完全に姿を隠す」


それでは…戦う時に不利なんじゃ?姿の見えない敵を捉えるのは、広い草原の中で小さな針を見つけ出すよりも難しい。


「でも、どうすれば…じゃあこの戦い、オレたちじゃ勝てないって事?」

『じゃアナビィ達は黙って見てろッテ言うノ?そんナ〜…』


ダンッ!!!


「「「『!?』」」」


ナビィの言葉を合図に、地面を力強く踏む音が静かな村に響いた。発信源を辿ると、先ほどまで説明をしていたシークでもなく、ましてや怪我人のリンクでもダークでもない。
ナビィは体が小さいからそんな事できるはずがなく……だとすれば、残ったのは只1人。


「あ、舞…?ど、どうしたんだ?」


そう、リンクが言ったとおり今のは舞。地面を力強く蹴った彼女は下を俯いたまま握り拳を強く握っている。
何か不都合でも起きたのだろうか、そう尋ねたくとも何故か怖くて聞き出せない。


「……問題発生か?」

『何処か具合悪イのかな〜?』

「大丈夫舞?」

「ふふふふふふふ」

「駄目みたいだな」


初めて見る程邪険なその雰囲気に、リンクとナビィが怯える。ダークは呆れた視線を寄越し、シークはじっと見ている。
体から妙なオーラ発してるんですけど


「あの化け物絶対に許さないわ。大事な大事な美形を1人ならず2人も傷物にしたんだから絶対許しちゃ駄目なのよ。
見つけたら毛毟りとって縛り上げて火で炙って丸焼きにしてやる。
覚悟しときなさいよんほほほほほほほほほ」

「Σうわーーーーー!!舞が可笑しくなったーーーーー!!!(涙)」

「こいつは元から可笑しいだろ」

『デモ何か怖いヨこれは!!』


腐女子の力が働きかけ、ずたずたにされたリンクとダークを見てふつふつと湧き上がった怒りが露わになった。
折角闇の魔物がいなくなって静かになった村に、またもや違う意味で邪険なオーラが漂った。



勇者一行はこの暴走を止める事が出来るのか!?そして、カカリコ村は一体どうなる!?

次回、「血みどろの一行
乞うご期待!!(※嘘です)


ダーク止めろや管理人







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