35.勇者歌劇団




――――前回の暴走開始から30分後


「ふぅ…終わったな」

「満足そうに額拭ってるけどねダーク、その返り血怖いから拭いてくれない?


ようやく気が済んだのか、殺戮ショーに終止符を打った彼は普段見せない程清清しい笑みを浮かべている。
只…その右手に持った紅いマスターソードが柄だけならず刃まで真っ赤な訳だから、冗談じゃ済みそうにない恐ろしさが加えられている。


デドハンドもピクピクしながら地に横たわり、青い炎に包まれて消えてしまった。
デドハンドッ!!(思わず涙)


「これからはダークの扱いに気をつけないとな…(汗)」

『ホントだよ』


モンスターがいなくなった空間には、勇者と妖精の呟き声と、剣を鞘に納めた高い音のみ響き渡った。






勇者歌劇団





恐怖の斬殺劇を目の辺りにしました女子高生です、こんにちは。視覚的に破滅な状況がやっと静まり返った事にホッとするも、返り血を拭っているダークにはまだ恐怖が芽生えそうです。


「さて…倒したはいいが、これからどうすんだ?」


完璧に拭いきると、唐突にダークはあたし達の方へ顔を向けてきた。
彼は普通のつもりなんだろうけど…あたしはさっきの事もあって思わず、ずざっ!とリンクと共に下がり、彼の後ろに隠れた。


「おい、何もしねえから遠ざかるんじゃねえよ」

「その言葉寧ろ煽ってる様に聞こえるけどそれよかエロいね」

「訳わかんねえよ。こら勇者、お前もこの状況どうにかしろ」

「お、オレ!?」


でも、何もないとオレも何したらいいか…、そう呟きながらもリンクもダークの許へ歩み寄っていった。


「さっきのモンスター、まさかフェイントじゃないの?」

『エぇ、でもまだ魔力は感じるヨ?さっきの特殊なヤツ、だからきっとアルと思うんだけど…』


肩にとまったナビィも、自分で言うも少し自信無さ気に羽を垂れさせていた。
とは言っても…この部屋に何かあるとしたら美形2人が語り合っている絵だけだ



―――呪いが、解けた


「え?何か言った?」

『ううん、別に…、…!舞!!』


ペチ、と羽で頬を叩かれるように顔を別方向へ向かされた。変な音が首から鳴ったけど、突っ込む事も忘れて只向いた方向を見つめた。

禍々しい空気の部屋の中、向いた先から淡い金色の光が包み込む。


「な、何だ!?」


向こうにいるリンク達も異変に気がついた声がこっちまで届いた。
金色の光の中心ではより一層輝きが集り、神々しい光に思わず目を瞑ってしまった。
まるでそれに気遣ってくれたように光は力を弱め、徐々にその金色の光をなくしていった。

それに気づき、あたしも目をもう一度開ける。


「…!」


強い光を放った場所が完全に力を落とすと、そこに、蒼い光を纏った4人の人が佇んでいた。
その蒼い光は見覚えがある。カカリコ村の騒動を起こした人物も、同じものを纏っていた…


『ゆ、幽霊ガ…4人…?』


小さな幽霊が2人、大きな幽霊が2人。その中の2つ…小さな幽霊の片方は、少し違うが分かった。
フードを取り除いたツンツンの髪の毛の男の子は、この部屋まであたし達を誘導した男の子の幽霊、の筈。
初めて見た顔は、幽霊とは思えないほど生き生きしていて…


【お兄ちゃん達、この部屋の呪いを解いてくれたんだね!ありがとう!!】


さっきまでの子には見えない笑顔を顔中に広げた。
…あれー?


君…キャラ変わってない?

【んー、っていうか僕の性格が元々こんなんだから。
今までのは演技だよ!騒いだら気づかれちゃうッ】


その豹変ぶりに驚いてるのはあたしだけでなく、リンク達も驚いている。そんなあたし達を他所に、大きな幽霊の1人が浮いたまま近寄ってきた。
思わず警戒したリンク達は、直ぐにあたしとナビィの許に駆け寄ってきた。


【大丈夫、俺達は敵ではありません】


心情を読み取ったように、近づいてきた幽霊は太陽を思わせる、暖かな笑顔でにっこりと笑った。


【寧ろ、貴方方に力を貸したいと思っています】

「…お前達、文献に載っていた研究員の家族だな?」


ダークの言葉に、幽霊は驚いたように目を見開いた。でもそれも一瞬であり、もう一度見た時にはさっきの優しい笑顔に戻っていた。


【そうですか…読まれていたんですね。ならご説明は必要ないでしょう…
貴方の言うとおり、俺達は王家に生き埋めにされた研究員の家族です。俺はアナンタと言います】

「初めまして!オレ、リンクって言います!」

「馬鹿ッ、敵か味方かも分からねえ奴に名前バラしてどうする!」

「敵じゃないだろ、オレ達に力を貸してくれるって言ったんだからさ」


リンクの真っ直ぐな言葉に驚いたのは、ダークだけじゃなく幽霊もだった。あたかも当然だというように言ったリンクに、思わず口元が緩む。


【とても…寛大な方なんですね…だからこそ、此処に来てくれたのでしょう。
失礼ですが、そちらの方々は?】


幽霊の視線が、後ろにいるあたしとリンクの隣りのダークに向いた。ダークはまだ警戒してるようだけど、あたしはリンクのお陰でかそうも警戒は出来なかった。


「舞です。こっちはダークで、妖精のナビィ」

『ヨロシク!』

「……」

【警戒されてるんですね…誰でもそうだと思います。
ご紹介します、こっちは妻のメイルと双子の子どもです。男の子の方がキノ、女の子の方はリノです】


男の幽霊、アナンタさんの言葉に後ろの3人の幽霊も近づいてきた。
メイルと呼ばれた女性は優しそうに笑いお辞儀をしてきたから、ついあたしもお辞儀を返す。
男の子はニカッと笑っているけど、女の子の方は恥ずかしそうにメイルさんの後ろから顔を覗かせるだけだった。


「あの…話は変わりますけど、どうしてカカリコ村の人達を攫おうとしたんですか?」


ずっと思っていた質問をすると、応えたのはアナンタさんではなく、メイルさんだった。


【私達は、村の人達を攫おうとしたのではないのです。只、離れた場所へ連れて行きたかった】

「意図が見えねえな。何の為だ」

【…自分達の魂が、闇の魔物の近くにあったからか、闇の魔物の暴走を…私達は感じ取っていました】

「!」


【私達の魂が葬られようと、何とか闇の魔物をおし留める事だけはしようとしたのです。
ですが、戦法も何も知らない私達の力だけでは足らず…いつかその力が村に被害を及ぼす事は分かっていました】

『どうしテ、村の人たちを助けようト?もう自分達とハ時代も違う、関係のナイ人達なノに…』

【例え知らなくとも、彼らは俺達と共に生きた村の人々の血を引き継いでる。
…子孫なんです】


静かに見守っていたアナンタさんは、子どものキノ君を抱き上げながら言葉を紡いだ。


【俺達の死が原因で、大好きな村の人々はこのような所に封印され、その身を魔物にしてしまった…】

「ポゥの事ですね」

【ええ、その通りです。死して尚その事実に目を背ける事は出来ませんでした…
だから、せめてもの償いに、彼らの子孫だけは守ろうとしたのです。以前の私達の様にならぬよう】

「たった、それだけの理由でか?死んだ後と言っても、魂を食われれば一生闇の魔物の中で苦しみ生きないといけないんだぞ。
それを承知した上で?」

【はい】


アナンタさんは、全く迷いのない澄んだ瞳のまま首を縦に振った。
自分達が殺され、生きている人達を憎んでもいいぐらいなのに…それを助けようとするなんて。


【村の人達なら、僕とリノで運んだよ!皆、ダンペイって人の家で眠ってる!】

「だ、ダンペイさん!?あの人幽霊だろ!?」

【勿論、ダンペイさんからは承諾を取りましたわ。彼も死んだ身なので、気持ちをご理解してくれました】

「リンク、ダンペイさんって人が死んでるって知ってるの?」

「うん。だってオレ、死んだダンペイさんと追いかけっこしたから!」

「…はい?


彼の言葉に思わず眉間が歪んだ。
笑顔で幽霊とか追いかけっこした!と意味不明な事言われても…逝っちゃった人としか思えないんだけど(ごめんねリンク)
彼の言葉に考えていたら、アナンタさんはじっとリンクを見つめていた。


【リンクさん…でしたよね?】

「あ、はい。オレが何か」

【貴方は『真実の目』を探しているとキノから聞きました。見つけた後、どうするおつもりで?】

「勿論、闇の魔物を倒してきます!」

【!闇の魔物を!?…戦うつもりなんですか?】

「はい!だってそうしないと、村の人たちもアナンタさん達も落ち着かないでしょ?」


首を縦に振るリンクに、幽霊ご一家は驚いていた。
それでも少し考えていると思うと、アナンタさんは白衣の中に手を差し入れ、何かを探りだした。暫くして見つけたのか、ゆっくりと白衣の中から手を出す。

その手には、紫に塗られた丸い鏡のようなものが握られていた。


【貴方方が探されている、『まことのメガネ』…すなわち『真実の目』です。
リンクさん…貴方にこれをお渡しします】

「これって、アナンタさんのなんですか!?」

【はい、カカリコ村で持った、新しい研究テーマがこれだったんです。
あの頃の世は、世界の理を正しく見つめる者が少なかった…ほんの少しでも世界の為になるよう、
俺が開発したんです】


説明されながらリンクの掌に置かれたメガネ…それは、シークの言っていた『真実の目』だった。
驚いて見入っているリンクに、アナンタさんはまた言葉を投げかける。


【闇の魔物は、この部屋から更に先にいます。戦う事があれば、それをお使い下さい】

「アナンタさん…有難う御座います!!オレ達、絶対に勝ってきますから!」


お願いします、と呟き、アナンタさんは深く頭を下げた。それを慌てたリンクが止めようとしている。
…でもアナンタさんが頭を下げたい気持ちは分かる気がする。

死んだ後、村の人の為に2度目の命を掛けて守ろうとしたんだ。彼らが、村の人たちをどれだけ大切に思っているのかが分かる。

何て優しい人達だろう。


「………」


あたしがそんな事を考えている間、後ろではダークが何も言わずに俯いていた。それに気づく間もなく、前で話をしていたリンクがこちらへ振り向いてきた。


「よし!それじゃあ、アナンタさん達の為にも早速行こう!!」

『オッケー!』

「ええ!ダーク、行きましょうッ」


前を行くリンクの背中を追いかけ、その際に通り過ぎた幽霊ご一家に頭を下げておいた。アナンタさんも返してくれ、メイルさんは【お気をつけて】と心配そうに言ってくれた。
キノ君は頑張って!と言ってきて、全然喋らなかったリノちゃんも小さく手を振っていた。

4人の優しさが身に沁みて、尚更闇の魔物に向かう闘争心が強くなった。


一足遅れて向かうダークは、下を向いたまま追いかける。家族の前を通り過ぎようとすると、アナンタが俯く彼に小さく声を掛けた。


【貴方は…元々闇の世界にいた人ですね?】

「!…だったら何だ。俺は行かなくていいってのか?」

【いいえ……只、俺達の話をしている時、お辛そうに見えたので。少し気になっただけです】


アナンタの言葉に思わず足が止まり、暫くの間ダークはじっ、とアナンタを見つめた。
笑顔を絶やさずに向かい合うアナンタに舌打ちを漏らし、止めていた足をまた動かせ、リンク達を追った。

生きた者達がいなくなった部屋は死者独特の冷たさが広がり、静かにアナンタは目を閉じた。


【パパ…あの人……こわい】

【僕もそう思う。あの人目が真っ赤で鋭くて…モンスターみたいに!】

【キノ、リノ。…止めなさい。俺達を助けようとしてくれてる人達に、何てことを言うんだ】

【う…ごめんなさい】


しゅん、と俯いたキノに、少し言い過ぎたと思ったアナンタは背中を優しく叩いた。同じく少し俯いたリノの頭を撫でながら、メイルは視線をアナンタへと向けた。


【あなた…あの人たち、大丈夫なのでしょうか…?】

【心配か?何、きっと大丈夫さ。彼らなら、必ず闇の魔物を倒してくれる】

【そんな…どうしてそう言い切れるんです?デドハンドは倒しても、闇の魔物の力は桁違いに強いのに…】


不安そうにそう言うメイルにアナンタは笑いかけ、また視線を移した。リンク達が向かっていった、強い敵が待ち構える部屋へ繋ぐ道に…


【さあね。只の…勘だよ】










***









『コッチ、コッチ!闇の魔物はコッチだよ!』


あたし達はアナンタさんに教えられた道を真っ直ぐと突き抜けていっている。ナビィのナビゲートに従い、何も言わずに従って着いていく。
隣りを走っていたリンクは、走りながらもぽつりと言葉を漏らした。


「それにしても…凄いよな。自分達が殺されて、悔しさとかたくさんあってもいいぐらいなのに」

「自分達より、村の人達の事を優先にしてるんだもの。正直、あの話には感動したわね」

「…なァ舞。オレも、あんな風に真っ直ぐ言えるかなァ」

「?何を?」


少し出っ張りになった部分を飛び越え、襲い掛かってきたキースを前を走るダークが切り捨てた。
残骸は地に落ち、また蒼い炎に包まれて消えた。


「ハイラルを守る、って事や仲間を守るって事とか…少し、不安なんだ」

「確かに、アナンタさんもそうだけど、家族全員真っ直ぐと前を向いていたものね。
…はっきりとは言えないけど、リンクなら大丈夫よ。貴方だって、他人を思いやる気持ちは大きいんだし」

「必ずしも他人を思う事が一番とは限らねえがな」


ふと、突然ダークが走りながら言葉を漏らした。でも顔は前を向いたままで、時折襲い掛かってくるモンスターだってなぎ倒している。


「あまり周りばかり見すぎてると、自分の体が侵食されていってるのを見落とすぞ」

「そうかもしれないけど…相手を思うことは大切だろ?」

「知らねえな、そんな事。
生憎、俺は我が身が一番大事なんでね」


また一匹、モンスターが斬り倒された。何だか重い意味を持ったその言葉に、何故か心がざわついた。
でもダーク…、とリンクが呟いたと思うと、


「!待てッ」


突然今まで走っていたダークが止まった。


「ぶっ!!」


勿論、後ろを追いかけていたあたしは顔面がぶつかり、リンクはダークの横を少し通り過ぎただけで終わった。
ぶつけた鼻を押さえながら、ぎらりと目をダークにやる。


「な、何でいきなり止まるのよ!?」

「待てって言っただろ。それより…前、見て分かんねえのか?」

「へ?」


前?…と言っても、あたしの視界では麗しのダーク様の美しい背中しか見えませんが。
輝きを放っています!!

そんなあたしの視線に気づいたのか、ダークは眉間に皺を寄せて体を横にずらした。
彼がいなくなって視界が変わり、見えたのは…ドクロの絵。


「何、あれ?ドクロの肖像画?」

『う〜ン…っていうか、形を成せなかった霊の魂が封じられているノ。だから一応、アレも喋るんだヨ』

「しゃ、喋る!?絵が喋るのか!?」

「まあな。只…何でか知らねえが、こういう奴等はしょうもない手を使って騙してくる。
だから騙されんなよ、腹立つから

「(子どもみたいな理由ね)」

『声はナビィとダークにしか聞こえないと思うヨ、リンク達全然聞こえないでショ?』

「そうね、あたしには全く。何て言ってるの?ダーク、通訳通訳!」

「ちょっと待て、今聞いてやるから黙ってろ」


ダークはそう言うと、神経を研ぎ澄ませるかのように目を閉じた。じっと待つ事数分、ようやく聞き取ったのかダークは目を開いた。
…只、何か気に入らないように眉間に皺を寄せているのが気になるんだけど


「何言ってんだこのドクロ?頭イかれてんのか?」

「?何て言ってるんだ?」


リンクの問いにダークはああ、と呟き頭を掻いた。


『【こっちに来たらリンクやダークの○秘盗撮写真見せてやるからこっち来い】だって』

「ふんッ、騙す理由なら他にあるだろうに、生憎こいつ脳みそがどうかして…」

「(ピクッ)……○秘、盗撮写真ですって?

『…


ダークとナビィが呆れたように解説した言葉に、あたしの精神が反応した。だって、あたしは彼らと日々一緒にいるけど、○秘場面なんて見たことないのよ!


「このあたしを差し置いて隠そうと言うのなら無駄な事よ!!
今すぐに見せなさいその○秘写真!!」(ダッ!)

「ってああしまった!!今のはこいつ専用の餌だったのか!?」

「あれ?舞どうしたの?待ってよ〜!!」

Σ待て待て待て!!(汗)馬鹿勇者!テメェも追いかけんじゃねえ!!」


今のあたしの脳内に、気をつけるという言葉はありません。
腐りきったあたしの精神にはもはや○秘写真の事しかない、勿論後ろから聞こえてくるダーク達の声も聞こえない。

そして、あと少しでドクロの肖像画に触れようとした時…地面の感触が無くなった。
その感覚は間違いでないようで、あたしと追いかけてきたリンクの体は足場のない穴へ落ちていくように下がった。


「――え``」

「あれ?」



今頃になって、頭が一気に冷めて冷静に判断できた。
もしかしてこれ………見えない落とし穴?


Σギャーーーー!!?罠だったあぁああぁぁぁあ!!!

「だっから言ってんだろ馬鹿野郎!!(汗)」

『舞!リンク〜〜!!』


こんな時までも突っ込み精神を忘れていないダークに拍手も惜しいッ
急激に落ちていく体は、当たり前だけど止まるという事を知らない。このままだと死んでしまう!!


「舞!手、伸ばして!!」


隣りからの声に、落ちながらも引きつった顔を横に向けた。手をいっぱいにこっちに向かって伸ばしているリンクが見え、考える暇もなく彼の手を握った。
それでも落ちる勢いは止まらず、地面が見えた。

―――ぶつかる!!


ボヨンッ!!


「Σうわぁお!?」

「うわわッ!?」



…折角衝撃に備えて目を瞑ったのに、体には激痛ではなく大きな弾力感が響いた。
痛くはないけど凄く驚いた!違う意味で殺されるかと思った…(ドキドキ)


「舞、大丈夫?」

「大丈夫だけど…ここは何処?」


周りを見渡しても、ずっと先も暗いために何も見えない。それに、あたしが一番心配しているのはこの部屋の空気より尚繋げられているリンクの手。
麗しのリンクの手はビ●レでも使ったのかと思うほどすべすべで、あたしの方がカサカサなんじゃと思うほど…!!

――ボン、ボン


「わわ!?り、リンク!楽しいのは分かるけど跳ねないでッ」

「え?オレ、何もしてないよ?」

「…え?」

―――ボンッ、ボンッ

「だ、だって地面が…」

「っていうかこれ…トランポリン?」

―――ボンッ!ボンッ!!


徐々に回数を増すごとに体が大きく跳ね上がる。まるで、何かがこの地面を揺らしているような…
キラッ、と視界の隅で何かが光った。突然の光にリンクも気づいたようで、少し先に視線を向けた。

瞬間、大きな真っ赤な目がぎょろりと開かれた。その威圧に、体が震える。


「ま、まさか…あれが闇の魔物!?」


リンクが叫んだ途端、あたし達の近くを強烈な風が襲った。それは冷たい気配と一緒に、あたし達に向かってこようとしてるような…


――ザンッ!!

「わっ!?」

「馬鹿野郎!!ボケッとしてないで戦えッ、殺されるぞ!!」

「ご、ごめん!」


あたし達と同じく上から落下してきたダークは、その勢いを加担させて強力な攻撃を繰り出した。
何も見えないのに、そこには血溜まりが出来ていた。
さっきの風は、闇の魔物の攻撃が来ていたんだ…


【グゥッ…!人間共…私ノ邪魔ヲスル気カ…!!命欲シクバ直チニ立チ去レ!!】

「ふざけるな!お前の所為で、どれだけの人が苦しんでいると思ってる!!
これ以上好き勝手な事はさせないぞ!!」


ダークに指摘され、剣を構えなおしたリンクは声を張り上げた。同時に地を蹴り、見えない敵に向かって駆け出した!


「行くぞダーク!」

「当たり前だッ」

『舞はナビィが見てるから心配しないでネ!』


あたしは赤ちゃんか…
あたしの突っ込みも他所に、リンクはアナンタさんに貰ったまことのメガネをセットして、見えない筈の敵に斬りかかって行った。

…!ちょっ、片方しかないけどメガネかけたリンクって萌える…!!この心の底から震える悶え…あたしはこれをどうしたらいいのかしらッ!?
いや、それもあるけどさッ一番はやっぱり――


「どうしましょナビィッ!まさかのチラリズムパラダイスが!楽園が!!

場違いだよソレ!!あぁホラッ、ダークが凄い勢いで睨んでル!


Σ怖いよ兄さーーーん!!嫌だって、地面弾むたびにスカートがピラリッ☆てなって…!まあ下着は2人とも白タイツという隠れ武器で防御してるから見えないものの、それもまたグッと来るというか!(止まってくれ)










――ボヨンッ!

「うわ!くっそー、やりづらいなァ」


地面が弾む所為か、やっぱり動きが制限される。それでも休む事もなく、リンク達は剣を振った。
後ろに飛び下がったダークは、取り出した弓を瞬時にセットして矢を放った。
その時丁度闇の魔物が目を開き、体をズラした敵の目に直撃する!


【!グオアアァアアァァァアアアア!!!】

「な、何だ!?急に苦しんだぞ!?」

「…!そうかッ、勇者!あいつの弱点は目だ!!そこを狙え!!」

「ああ、分かった!」


ダークのアドバイスを飲み込んで、リンクも同じく弓矢を取り出した。矢をセットしようとすると、苦しみ悶える闇の魔物が無茶苦茶に巨大な手を振り回し始める。
姿の見えるダークとリンクはトランポリンの弾力を利用して跳んで避けたりしている。

…が、全く見えない舞の方へ、闇の魔物の片腕が向かった。


「お、おい舞!!」

「へ?」

『舞!右に避けテ!!』


気配に気づかなかったナビィも慌てて指示を出すが、普段動きなれない舞はそれに対応出来ない。
さっきと同じ強い風を感じ、攻撃が来た事だけは分かり、体中の血が何処かへ行った感覚を覚えた。


振り返ったリンクの視界に、怖そうに目を固く瞑り頭を抱える舞の姿が見えた。


「ッ!舞!!」


また、大きな傷を負う少女の未来の姿が頭を掠めると、自然と体が動いていた。不安そうに、怖そうに歪める表情は何かに怯えている。




―――……なァ【オレ】…

また、守れなかったのか?





怖くてびびりまくっていた自分。
頼りになるのは前を向いたダークだった。


「え!?や、ホラ…つ、強い仲間が一人でもいると心強いじゃない!?」


森の神殿の時も、炎の神殿の時も、水の神殿の時だって…彼女を守れなくて苦しい思いをさせた。

弱い自分が悔しくて…だから、頑張った。
皆に見つからないように、夜に素振りだってたくさんしていた。

ようやく君を守れると思っても、それはまた崩されて…そしてとうとう、


「ダーク、通訳通訳!」


君は…ダークばかりを見るようになった。



違うッ、違うんだ舞…!!
ダークじゃない、オレを見てほしいんだよ!


「リンク…手、繋いでおきましょ」


不安そうな瞳じゃなくて、可能性を求めた眼差しに焦がれてるのに…ッ

見ていて欲しいんだ…口先だけじゃない、オレの勇気の証をっ




「ありがとう、リンク」


強く思った途端、リンクは…己の心臓が高鳴った。



――ドクンッ――




ダンッ―――ズザザァッ!!


「!?り、リンク!!」


突き飛ばすように、だけど衝撃が無いように舞の体を抱えるリンクは、普段見せないような鋭い目で敵を睨みつけていた。


「――ッ!」


いつものリンクではない、真剣以上の真剣。別人のように振舞ったオーラは、まるで…鬼神


「下がって」

「え、うん…」


獲物を狙う狼のような瞳に、舞はゴクリ、と喉鳴らした。
闇の魔物が彼の早さに驚いている隙をつき、動きが止まった腕の片方をダークが斬り裂いた。


【ウグアァッ!!?】

「ふん、遅いな」


ニヤリと笑ったダークを恨めしそうに見るが、彼のずっと後方にいるリンクが、こっちに向けて弓を構えている姿が見えた。
攻撃が襲い掛かろうとしている事に気がつき、闇の魔物は冷や汗を流した。


【キ、貴様、マダ邪魔ヲスル気カ!?】

「邪魔をしているんじゃない」


肝が据わったリンクは、いつもの平穏な空気を見せずに只睨みつけていた。最高まで矢が引き伸ばされ、最も力が一番強い位置まで引くと、引っ掛けた指を離した。


「邪魔をしているのは―――お前達だッ」


冷たい声が放たれ…

ドスッ!!

音が響き、闇の魔物に矢が突き刺さった。さっきよりも深く刺さったのか、闇の魔物は苦しそうにもがいた。


【ウァ…!ア``ア``ア``ア``ァアァァァァァアアアアァァ!!!】


血を流し、呻き声を上げる闇の魔物の体を蒼い炎が包み込んだ。リンク達よりも近くにいるダークはそれが終わりの合図だと気づき、マスターソードを鞘に戻した。


【ワ…我ラガガノンドロフ様ノ野望…ソレヲオ前達ハ、何故…止メヨウト…戦ウ……ッ
所詮…悪足掻キニ…済マヌモノ……!】


恨めしそうに声を漏らし、闇の魔物は過ぎ去ろうとするダークを通してリンクに訴えた。
ダークが近づいてくるのを視界の隅で捕らえ、リンクは座っている舞に手を貸しながら呟いた。


「…オレは…ガノンドロフの野望を止める為に戦うんじゃない」


リンクの思いもよらない言葉に、闇の魔物が目を開いた。でも、もう生きる力もなくなったようで、その瞳はゆっくりと閉じられる。

完全に瞳を閉じた時、蒼い炎が闇の魔物を包んだ。


「オレは、世界を――舞を守るために戦う」


チン、と音を立てて、マスターソードが鞘に戻されるのも同時だった。
闇の魔物が消え去り、部屋の中には沈黙が流れた。と言うのも、舞はキッパリと言われたリンクの言葉に硬直し、ナビィは体をピンク色に染めて光速で飛びまわり、ダークは呆然としている。


「あ〜、リンク…その……」


硬直が解け出した舞は口篭りながらも声を掛けようとすると、前にいるリンクの体がふっと崩れた。


「り、リンク!!」


ナビィの悲鳴と舞の驚愕な声が響くと、地に落ちる前にダークが片腕で支えた。


『リンク!だ、大丈夫!?』

「……心配すんな、気を失ってるだけだよ。
…まあ、トランス状態で暴れまわったんだ、仕方ねえな」

「?…トランス状態?」

「精神の限界地を超えた時に起こる現象だ。我を忘れて暴走してしまい、その間は入神の域に達する程と言われてるんだ」

『一生懸命だったモン。頑張っタねリンク』


汗だくで眠るリンクには聞こえないが、ナビィは弟を褒めるように優しく話しかけた。
何とも言えない舞は何か言おうとしても口を閉ざす。何も言えないまま、直ぐ近くに出来た青い魔法陣に視線を移した。


「…とりあえず、行きましょうか」

『だネ』

「はァ、またこいつ運ぶのか」


眠ったリンクをダークが背負い、その後ろを舞がナビィと共についていく。
少し俯きがちな舞の様子に気がつき、ダークは首だけ後ろに向けた。


「どした?」

「………び」

「?何だ?」

「美形がおんぶって萌えるわよねッ」

「…そうか俯いてたのはそれが原因か」

「Σちょちょちょっ!!け、剣を向けるのは勘弁!ほら、リンク落ちそうよ!!」

「知るかそんなの」

「ココで仲間を捨てるかサリア二代目」



とりあえずその剣を下ろして頂戴!そう必死に弁解するとダークは渋々下ろした。
何故渋々する…本当に斬りたかったのか!?

内心冷や汗だらだらにして、舞はまた歩き出したダークに着いていく。ナビィもダークの頭にとまり、多分、こっちは向いてないだろう。


俯いていた理由を、上手く誤魔化す事は出来たろうか…?


青い魔法陣の中に足を踏み入れると、体を優しい光が包むこむ。
ちらり、と横目で見ればまだ息を荒くしながら眠っているリンクが見えた。少しだけ口元が緩み、意識が飛ぼうとしていた。


最後、飛ばされる意識の中……―――



ありがとう



の言葉を4つ…聞きながら。












***




―――ザワザワッ


小さなカカリコ村の中、ほんの少ししかいない村人達は、全員不思議そうに「何故あんなところにいたんだ?」「どうして無事なんだろう」等と言葉を口にしながら首を傾げていた。
その中には…リンク達により助けられた女性も混じっている。

女性は村人と同じく立ちすくみ、頬に手を添えて考え込んでいた。


「(私は確かに…幽霊に攫われた筈。なのに何故…)」


ふと、考え込んでいる女性は頭の中に黒髪の少女の顔が浮かび上がった。
そう言えば…彼女の姿が見えない。それに、仲間さんも。

きょろきょろと辺りを見渡しても影も形も見えず、少なからず不安を心に抱いた。


「(まさか…いえ、そんな訳……)」


イヤな予感が頭を過ぎり、女性は自分で自分の腕を抱えた。
…すると、体を包む温もりを体全体で感じた。
覚えのある感覚…それにハッ、として慌てて辺りを見回すと、他の人々も異変に気がついていた。

明るい光は徐々に範囲を広げ、それは自分達の許へと辿り着いた。
女性はまさか、と思い顔を上げる。
すると…視界に映った景色に、ぽつぽつとしか聞こえなかった歓喜の声が村全員に広がった。

それから誰かの声が響く。


『む、村が……
カカリコ村がまた光を取り戻したぞ――――!!!』


その声により、確実に村にまた太陽が射した事を胸いっぱいに感じた。
わっ!!と大きな歓声とすすり泣く声が聞こえ、今まで暗かった村人達は顔に笑顔を綻ばせていた。

言い表せない嬉しさ、女性も思わず涙が浮かぶ目元を覆い、久しぶりに見る金色の光に見入った。


その大きな歓声は、丁度闇の神殿から光を伝って墓地へ戻ってきた舞達にも聞こえていた。






Next Story.