36.少女身柄拉致問題




カカリコ村に平和が戻り、人々は勇者一行を快く改めて出迎え、お礼と村の復活を祝って宴を開いた。

夜が明けるまで続けられそうなほどの宴の中、舞はリンクの看病を、ダークは村人に紛れてお酒を飲みまくる。

村の女将さんも手伝ってくれていたが、村の人に呼ばれて出て行ってしまったのが数分前。

ナビィも今の内に次の賢者様の居場所を聞いてくる、と情報収集に出て行ってしまった。

外から聞こえるどんちゃん騒ぎに耳を傾けながら、舞は水を含んだタオルを絞った。


「熱はないんだけど…」


一向に目を覚まさないのは、やっぱり疲れの所為なのか。
絞ったばかりのタオルを額に置き、少しずれた布団を掛けなおした。

また近くに引き摺ってきた椅子に座りなおすと、タオルの冷たさに気づいたリンクがもぞもぞと動いた。

気づいた舞も慌てて覗き込むと、強く瞑られた碧眼がゆっくりと顔を出した。


「……、舞…?」


風邪後のような掠れた声で名前を呼ばれ、リンクが目覚めた事を感じさせられた。






少女身柄拉致問題








「リンク!良かった、大丈夫?」


まだ少し眠たそうな目を擦り、リンクは体を起き上がらせようとした。
が、トランス状態によって体にかかる負担は大きい。今の彼には起き上がるのも辛い。その証拠に、起き上げようとした体がベッドから落ちそうになった。

慌てて舞が支え、苦しそうに声を漏らすリンクをベッドに戻した。


「まだ休んでなきゃ駄目よ。貴方、自分の限界地を越える程の戦いをしたのよ」

「限界、を……――…分かった…」


大人しく従い、舞に身を預けながらゆっくりとベッドに体を寝かす。
体勢が落ち着くと、部屋には外の騒ぎ声が聞こえるほど静寂に包まれた。


「…?皆、何してるんだ…?」

「ああ、村の復活を祝って宴を開いたの。
あと、あたし達を歓迎してくれる象徴だとか言ってたけど」


林檎いる?と聞けば弱弱しく肯定を示した。
近くの小さなテーブルに飾られた果物カゴから赤い果実を1つ手に取った。


「なあ、舞…」


林檎の皮を剥くだけの音しかしない部屋に、リンクのか細い声が響いた。それでも近くにいた分聞こえた舞は、顔は向けずに声だけで反応した。


「ん?どうしたの?」


「オレ…闇の魔物と戦ってる時…君に駆け寄った、よな…」


ドスッ
思わず手に持っていた果物ナイフが落ちた。危ない刃物だと言うのに、今の部屋内には注意を出来る者がいない。
錆びついたロボットのように舞は真っ赤な顔をギギギ…と動かした。


「あ、ああ…あのね、リンクッ
そ、その時の、その…貴方の言葉、なんだけど〜……」


あの時の言葉、それはリンクが恥ずかしげもなく言った言葉…

「舞を守るために戦う」

…だ。
リンクも恥ずかしがってるのでは、と思い触れないようにしていた事を聞かれ、思わずわたわたと慌てる。


「?言葉…?オレ、何か言ってたっけ…?」

「……………え?」


その様子を枕に頭を埋めて見ていたリンクは、頭上に?マークを浮かべていた。
リンクの思いがけない言葉に、舞まで?マークを飛ばした。惚(とぼ)けてる…わけでもなさそうだし…


「え、覚えてないの?」

「うん…オレ、何か言ったかなァ…」


可笑しいな、と首を傾げるリンクを見つめていてハッ、と思い出した。
そう言えば…ダークが言ってた、トランス状態の間は『我を忘れて暴走する』と……という事は、

必死に思い出そうと首を捻るリンクの肩に、優しく手をポンと置いた。そのままの体勢できらきらと輝く笑顔を向けて舞は一言。


「ごめん、あたしの勘違いだったわ!気にしないでね!」

「え?あ、うん…良かった、何か忘れてるのかと、思ったよ」


本当に安心しているのか、安堵感を見せる笑顔でリンクは溜息をついた。もうここは忘れさせよう、そして自分も忘れてしまおう、それが一番だ。
自分の中で自己解決を済ませて、さっき落とした果物ナイフを拾った。新しいナイフを取り、皮むきを再開する。


「は、話反れちゃったわね。ゴメン、続き言ってくれる?」

「あ、うん。
…舞に闇の魔物の攻撃が行った時…オレ、駆け寄れてた?」

「ええ、バッチリよ。あの時はリンクのお陰で助かったのよね、本当にありがとう」


軽く頭を下げ、もう一度リンクの顔を見直したとき…リンクの表情は嬉しそうに綻んでいた。
その視線の先には間違いなく舞がいる…


「そっか…良かったよ…
…今度は…ちゃんと、君を守れたんだな…」

「今度、は?どうして?」

「……今までの神殿、ボスの時には全然守れなかったから……
ダークが仲間に入ってからは…舞の頼りも、ダークにいってたの…気づいてたんだ……」

「!」

「それが…凄く、悔しかったんだ。
一番長く一緒にいたのはオレなのに…全然守れてない自分が、情けなかった…」

「リンク…」


苦しそうに呟くのは、きっと体の疲れの所為じゃないだろう。
暖かい布団の中で眠ってた所為か、リンクの目から涙が1つ落ち、枕に染みを作った。


「…強くなりたいのに…」


額に腕を翳し、隠せていない涙を視界に移しながら、舞は心の中に黒い渦が巻いた。




違う。悪いのはリンクじゃない。
誰かの為に頑張っているのに、そんな彼に更に重みを加えている。悪いのは…頼り切っている自分自身だ。

知らない世界に勝手に連れて来られてから、守ってもらうのがいつの間にか当然と思っている自分がいるのを、あたしは認めている。
最悪だ…こんなに頑張られてるなんてあたし、思わなかった。


「…リンク…」


ごめん、とでかかった言葉を、喉の奥に飲み込んだ。この言葉は、今のリンクには酷すぎるものだ。
彼の頑張りを否定するような言い方はしたくない…

言おうとした言葉に首を小さく横に振り、舞は少しだけ間を置いて、リンクの涙で濡れた枕に手を翳した。


「――…うん、ありがとう」


蒼い瞳が限界まで開かれた。涙で霞んではいるものの、その瞳に上手く笑えている舞が映っているのは、間違いではない。
汗で引っ付いた前髪を掻き分け、彼の長い耳にかけた。


「もう、今日はおやすみ」


なるべく優しく、子どもに言い聞かせるように呟いた声はリンクに届いたのか。
只、力が抜け切ったのが彼の頬が緩んだ事で分かる。ゆっくりと閉じられた瞳から、また一つ涙が零れた。

暫くすると、静かな部屋にはまたリンクの寝息しか聞こえず、緊迫した空気が解れる。
彼女の肩も下りるが、どうやら、彼に伸ばした手は離れなさそうだ……
掌に、包まれたリンクの指の温もりを感じながらひっそりとそう思った。


「……眠たくなってきた」


漏れた欠伸を噛み締めながら、視線を窓に映した。外から聞こえる声は止みそうもなく、よくもあんなに元気でいられるものだと感心した。
それと同時に、自分で自分が年寄りまがいだとも感じ、少しだけ口元に笑みを広げた。


リンクが眠るベッドに頭を預けると、安定したリズムの鼓動の音が聞こえた。布団越しに感じる彼の温もりを感じる為、舞は瞼を下ろした。


外の歓声とリンクの鼓動だけが舞の世界となった―――





***







―――…?
体に感じていたリンクの温もりと、聞こえてきた彼の鼓動がいつの間にかなくなっていた。
その行方も気になるが、それよりも周りの景色に視線が赴いた。あたしが立っている地を中心に、辺りには色とりどりの丸い盤が、それぞれ不思議な模様を刻んで足場になっている。

それ以外は青で統べられた空間には、今まで見たことがないとはっきり言える。
ここを一言で表すのなら―――神聖な地、聖地。


「此処は…何処…?」


黒い空間とはまた違った見覚えのない場所に、只あたしは呆然と立ち竦むだけだった。


「―――ようやく見つけた。随分探したぞ、舞」

「…?」


何処からかかけられた声に辺りを見渡す。けれどあたし以外には誰もいなく、その為に空耳かと思ったけど、後ろから「後ろだ」と声が聞こえ、それに弾かれて後ろに向いた。
そこには思いもよらない人物が腕組をしながらこっちを見ていた。


「い、インパさん!?ど、どうして…」

「私がここにいては不満か?」

「いい、いえ!別に、そういう意味で言ったんじゃなくてッ」


慌てて弁解すると、予想外に現れたゼルダの乳母―インパさんはクールに微笑んだ。


「冗談だ。すまないな、少しからかってみたんだ。
…元気にしているようだな」

「勿論ですよッ、リンク達も皆元気です」


そうか…それを聞いて安心した。そう呟き、インパさんはさっきのクールな笑顔を絶やさぬまま瞳を伏せた。
それにしても驚いた…まさかこんな所でこの人と再会するとは。
インパさんはどうやって此処に来たんだろう。見た所あまり慌てていない様子だけど、もしかしてココが何処だか知ってるのかしら?


「成長しておるではないか。体もそうだが、何より以前よりも逞しい瞳になっている」

「そ、そうですか?ありがとうございます!段々とこの世界にも溶けこめるようになりました」

「そのようだな」

「…あの、インパさん…その、ゼルダはどうなったんですか?7年前の雨の日、貴方と白馬に乗って逃げているのを見ました」

「姫様の、安否を気遣ってくれているのか?…それはそれは…」


楽しそうに喉でくつくつと笑い、インパさんの様子に首を傾げていると彼女はかつかつとヒール音を立てながら近づいてきた。
直ぐ目の前に来ると、インパさんを見上げるよりも先に頭に暖かい掌が置かれた。


「ゼルダ様が聞かれると喜ばれる言葉だな。是非とも今すぐお伝えに行きたいものだ」

「え?じゃ、じゃあ、もしかして…」

「按ずるな、姫様は無事だ。身を潜めているが、何れはお会い出来るであろう」

「ほ、本当ですか!?よかった…それを聞いて、ちょっと安心しました」

「ふふ、そうか。それは良かったな」


くしゃり、と最後に撫でられて頭から彼女の手が離れた。
そうか…ゼルダは無事だったんだ。そう思うと、元気そうに笑うゼルダの笑顔が頭に浮かんだ。それに笑顔を広げながら彼女との思い出に浸ってみる……―――。


…………どうしよう、困った。彼女との思い出といったら黒く染まったものしか思い当たらん!(汗)
呆れ返るかもしれない、だけど初登場時からのインパクトが強すぎるんだものあの子!!


「そう言えば…この村の呪いを解いたのはお前達だと聞いたぞ」


ゼルダとの(超濃い)思い出に浸っていると、ふと思い出したようにインパさんが呟いた。


「闇の魔物と幽霊を取り払ってくれたのだな…この説は世話になった、誠に感謝するぞ」


考えを中断させて見上げれば、安心したように微笑んだインパさんがいる。
どういたしまして、と頭を下げようとしたけど、インパさんの言葉で突っかかった事があり、慌ててまた向き直った。


「あ…あの、インパさん。その幽霊の事でお話しておきたい事があるんですが、いいですか?」

「ん?ああ、別に構わない」


承諾をとり、これから話す為に大きく深呼吸をして呼吸を整えると、直ぐにアナンタさん達の事を話した。
この幽霊騒動の訳、村の伝説の由来、神殿の中でお世話になった事…
あたしが話す間、インパさんは口も挟まずに真剣に話を聞いてくれた。


「―――…そうか、そうだったのか…。確かに昔記されていた文献に書かれていた家族達だが…
まさかそのような事をしてくれていたとは……」

「リンク達が闇の魔物を倒せたのも、まことのメガネをくれたアナンタさん達のお陰です。
皆さんに誤解されたくもないし、何とかこれを伝えられませんか?」

「……私は、訳あってこの場から離れることができないのだ。だから、舞。お前が村の者達に伝えてくれないか?」

「あ、あたしがですか!?でも…」

「心配するな。村を救ってくれた勇者達の言葉に、耳を傾けぬ者はいない。
…それに、あの村の者は皆優しい者ばかりだからな。耳を傾け、話を聞きいれてくれると私は信じている」

「そう、ですね…皆さん本当に優しい人達だという事は、あたしにも分かります。
でも……――そうですよね、分かりました、何とかやってみます!村の人たちが納得できるよう、全力を尽くしてみます」

「すまないな、よろしく頼む。それこそが、カカリコ村の発展に繋がるだろう」


インパさんに頼まれたから、という理由で働くんじゃなくて…あたしはアナンタさん達の為に、という理由で頑張りたい。
アナンタさん達が頑張った分、今度はあたし達が頑張る番だ。


「でも、良かった。今回の戦いでは賢者様の封印は解けなかったけど、この村の進歩に繋がるような事も出来たし」

「?賢者…?舞、お前―――」


驚きに染まるインパさんに聞き返すけど、彼女は答えを返さずに只俯いていた。密かに唇が動いていたが、声は届かなかった。
でも、動きだけ見ると『そうか、気づいていないのか』と言ってるように見える。


「賢者に会えなかったのか?」

「ええ…今回はリンクも一緒に出てきてたし、きっと彼も貰ってないでしょう」

「ふふ、そうか、そうか」

「?インパさん?」


楽しそうに笑う彼女に疑問を投げかけると、インパさんは背を向けて何処かへ歩き出した。
数歩歩き、辿り着いたのは、数多もの数ある数個の盤の一つ…紫色の盤。


「だがな、舞、一つお前も見落としているぞ」

「え、何がですか?」


足が盤に降り立つと同時に、インパさんはまたもや口を開いた。背を向けたままこちらに向かないで、だ。


「賢者とは代々、形は違えど少なからず王家に繋がりを持つ者達の事。今までの者達もそうであったろう?」

「まあ、そうですよね…」

「そうだろう。己が目で見た筈、それは間違いではない。そしてそれは今回も例外ではなく、無論の理だ」

「えーっと、どういう事でしょう?」


インパさんの遠まわしの言葉は不可解で、思わず首を傾げる。全然分かっていないあたしの反応に何も言わず、只口元に弧を描きながら徐に振り返った。
掌を上にした手を向けながら、まるでその上に乗っているものを見せるかのように。


「この私、インパも賢者の一人と言う事だ」


そう呟いたインパさんは、掌の上に紫色に輝くメダルを抱いていた。
さらりと言われた事と、出されたそれにあたしの目が驚愕に開かれた。


「え…ええぇえぇぇ!?こ、こここれって…まさか、メダル!?」

「ああ、その通りだ。そして主の元に戻るもの…
さあ、受け取るがいい未来の担い手よ。我が半身『闇のメダル』を」


インパさんの言葉を堺に、メダルが手から離れ宙に浮いた。思わぬビックリバンショーに口が開くが、向かってくるメダルを慌てて両手を伸ばした。
指先に触れるとストン、と重力が加わって手の中に落ちた。先程までインパさんの手の中にあった、紫色の『闇のメダル』が…


「す、凄い…手品でしょうか?」

「そう捉えるのだな」

「すみません馬鹿で」



ええ、違うとは思っていましたけど。
でもビックリなものを目の前で見せられれば、そりゃ誰でも驚くに決まってる。両手で持つと、メダルはあまりそこまで大きくない事が今頃分かった…

メダルに見入っているあたしを見てか、インパさんは小さく笑った。その声に反応して顔を上げてみる。


「次なる賢者は砂地が覆う聖地で眠っている。私も陰ながら応援しているぞ」

「有難う御座います!頑張りますねっ、ゼルダもハイラルもあの変態魔王には渡しませんから」

「…ああ。しかし、舞。お前自身も気をつけるのだぞ、お前もゼルダ様同様狙われている」

「え?…あ、ああ。あいつの事ですよね、確かにセクハラ紛いな気の狂ったはしてきますが、でもそれぐらいだったら――」


リンク達がいるから大丈夫、と言おうとした言葉は首を横に振るインパさんに止められた。その様子からだと違う意味、と捉えるんだけど…他に理由があるんだろうか?


「いや、そうではない。奴はお前の中に眠る力を狙っている」

「え?で、でもあたし、そんな力持ってませんよ」

「そんな事はない。現に、お前のその手の甲に描かれた聖三角が証拠だ。それは並みの人間が与えられるものではない」

「そ、そうかもしれませんけど……」

「認めたくはないだろうが、これが現実だ。奴はいつお前の元に現れるか分からない。くれぐれも用心は怠るな」


真剣な眼差しで言われ、ついあたしも表情を引き締めて「はい」と言ってしまった。
そう、例えどんなにお馬鹿で寧ろダークの方が魔王っぽいんじゃないの?と言っても(そんな事言ってない)、あいつこそ聖三角に選ばれた1人。
インパさんの言うとおり、用心は怠ってはいけない。


「まあ、あの頼もしい勇者が守っているんだ。心配はないだろう……
さて、そろそろお前を現世に戻す。私の代わりに頼む、ゼルダ様を助けてやってくれ」

「わ、分かりました!」


最後に、両腕でメダルを大事に抱えたまま頭を低く下げた。顔は上げていない分、少し笑ったインパさんの声が聞こえたかと思うと、あたしの視界が揺れた。
視界と一緒に体が揺れる為に目を固く瞑ると、案外、気分は悪くならなかった。













―――姫様を…カカリコ村を、頼む!!













「―――…」


体に感じる事のなくなった浮遊感。ゆっくりと控えめに目を開けると、先ず視界に入ったのは清清しく金色に輝く光りの色。
窓を通して入ってくるその光を朝日の木漏れ日だと理解するのに、そう時間は要らなかった。


「………よしっ」


まだ眠っているリンクに申し訳ないと思いながらも、握られた彼の手を自分の手から離した。
ガチャッ、と扉を開けると身を切り裂くほどの風を受けて思わず震える。それでも、壁に掛けてあるマント羽織り、音も立てずに扉を閉めた。



その後、リンク達が目覚めたのは…既に正午を過ぎた時刻だった。













***











「本当にお世話になりました」


真昼を告げる太陽が真上に着いた頃、カカリコ村の入り口に村人が全員集っていた。
その先頭に位置するのは、この村の村長を務めている男性であり、その後ろに村人がついている。

頭を下げた先には、目を覚ましたリンクと、傍でひらひらと舞うナビィ、満足そうに笑う舞に、少し頭を抑えたダークだ。


「この村をお救い下さった皆様には、本当に頭が上がりません」

「そんな、いいんですよ。オレ達も旅の目的を叶えられたんだし、お相子です!」


そう笑う彼の手には大事そうにメダルが抱えられている。夢と思っていた出来事により、舞が闇の賢者インパより授かったもの。
リンクと共に笑い合っていた村長も、瞳を伏せる。


「しかし、我々を攫ったと思い込んでいた幽霊が、まさか文献に載っていたご家族だったとは…
その事に関してもお礼を申し上げます。以前のままだと、我々は大きな勘違いを持ったままだったでしょうから」

「それについては、彼女に一番お礼を言ってあげて下さい。オレ達が戦いで疲れていた体を休めている間にも頑張ってくれた彼女に」

「おお、勿論です。全く、浮かれ騒いでいた自分達がお恥ずかしい」


す、とリンクが右手で指した方向には舞がいた。それに気づいた舞は顔を横に振る。


「いいえ、村の皆さんの信頼あってこその結果です。これから、この事実が村の発展へと赴く事を願います。」

「そうですね…ありがとうございます。決して貴方様の努力をこの村にも、彼らにも恥じない結果にしとうございます」

「そうして頂けると、アナンタさんを含む多くのポゥが報われると思いますよ」


遠回りにはなったものの、こうしてアナンタさん達の願いは果たされた。そう思うと、舞も目元を押さえたくなった。


「…っ、くそ…」

「!…ダーク」


彼女の隣に立つダークがふらふらしているが…どうやら、酒の飲みすぎとこの人の群れに気分が悪くなっているんだろう。元々彼は、大勢の蟠りを好む性格ではないから。

どうやらリンクもそれを見兼ねてくれたようで、首だけをふり返らせていた。舞とリンクが頷き合うと、村長が率いる村人に向き直った。


「それじゃあそろそろ、オレたち行きます!あまり長居するつもりはありませんでしたから」

「おお、そうなのですか…?旅の身だとはお伺いしましたが、そこまで急かれておられるとは」

「すみません、でもこの村ももう安泰しましたし、オレたちも次の―――」


「ま、待ってください!」


…え?
ざわ、と小さく賑わう村人たちの中から、まるで掻き分けるように人が進んできていた。
すみません、と一言謝ると、その人物は最後の波を掻き分けて村長と同じぐらいの距離にやってきた。


「お、お姉さん!?」

「はァ…良かった、間に合ったわ」


少し息苦しそうに呼吸するが、その人は間違いなく、舞に村での出来事を教えたコッコ嫌いの女性だった。
以前見た時よりも明るい顔色に、思わず舞の表情も明るくなる。


「ご無事だったんですね!でも、どうしたんですか?人込みを掻き分けてまで…」

「発たれる前に、お礼だけでも言っておきたくて…貴方達には、大きなお礼を一度に2つも貰ってしまったから」

「え?2つ?」


それって、何ですか?そう言おうと口を開いたが、舞の視線が女性の手元にいった。嫌、正しくは…女性の腕に抱かれているものに。


「あ、あれ?こ、コッコ!?に…苦手だったんじゃ?」

「ええ、以前までは。
…でも、幽霊の子に連れて行かれそうになった夜、この子達私を必死に助けようとしてくれていたの。
その時の姿、今でも覚えているわ。土壇場な状況だったのに、本当に鮮明に覚えてる…」


愛しく撫でる女性の手にコッコも素直に擦り寄り、その光景は以前の彼女には絶対に見られないものだ。
ポカン、と舞が呆けて見つめていると、女性が可笑しそうにクスッと笑みを溢す。


「ショック療法、って言うのかしら…
何にせよ、このきっかけは貴方達がくれたものよ」

「で、でも…連れ去ろうとしたのは幽霊の子だし、第一体を張ったコッコ達が一番…」

「ええ、確かにそうだわ。でも、貴方にあの夜『家の中で大人しくしていた方がいい』って言われた瞬間、この子達を家の中に入れなきゃ!って思ったの。」


そう言えば…あの時、女性が俯きながら寄り添っていた柵の中には10羽程のコッコたちがいた。そうか…そこから自分の家まで非難させるために連れて帰っていたのか。


「ずっと外の柵だったから…今思えば私、酷い事してた。それでも助けてくれたこの子達に、そして貴方と素敵な仲間さんにお礼を言いたかった…!」


何故か、悲痛な表情で語る女性に、舞が手を伸ばそうとすると、女性の瞳から涙が零れた。
女性も気づき、慌てて涙を拭う。舞は女性のその姿を見て気づいた。一人で抱えきれないほどのものをずっと持っていたから、きっと女性は開放感と祝福間に涙を……

そうだったんだ…、少し俯きがちに事実を思い知らされる舞の肩に、後ろからリンクが肩を叩いた。
目線を配らせると、穏やかに彼の目が「良かったな」と言っていた気がした。

思わず、一瞬舞の涙腺が緩んだ。


「ありがとうっ、本当に、この村を救ってくれて…、ありがとう!」

「いえ、そんな…」

「…貴方達の旅は、きっとこれからも長いものになるんでしょうね…
でも、負けないで!きっと貴方達なら、絶対乗り越えられるわ」


まだ涙を流す女性は、舞の両手を強く握った。母に、両手をこんなに強く握ってもらえた事があっただろうか…
ぼう、っとする視界の中に、女性の後ろからも続くように声が飛び出してくる。


「頑張れ金髪坊や!絶対負けんな!!」

「嬢ちゃんも妖精ちゃんも、女の子があんま無茶すんじゃないよ!」

「黒色の坊主――!!飲み勝負はまだまだこれからだっ、また勝負しに来いよ!!」

「苦しい事あったら、いつでもこの村に来てね!!」

「このハイラルにまた…本当の光を取り戻してくれ!勇者一行!!」


村人からの声援に目を開くのは、舞だけでなくリンクも、ふらついているダークもだった。こんなに小さな村でもやっぱり、不便なんてものはなかった。
寧ろ、大きな場所では得られないものがそこには確かにある。


「あ――ありがとうございます!!オレ達、頑張るよ!」

「また…また、来ますっ、いつか、きっと…」


名残惜しそうに体を反転させ、リンク達はカカリコ村に背を向けた。3人と1匹の背には大きな声援がかけられ、支えきれないのでは、と思うほど。


「舞ちゃん!」

「…?」


先ほどの女性の声が…それに気づいてふり返る舞だが、もう1つ気づいた。あの女性に初めて自分の名前が呼ばれたことに。
ふり返ると、大きな声を張り上げながら、涙をまた溢している女性がいた。


「貴方の帰る場所、私の所にも作っておくわ!それだけは覚えておいてね!!」

「!…あ…―――ありがとう、ございますッ」


とうとう、我慢しきれなくなった舞は涙を落とした。だけど、丁度頭を下げた為に、それは本人以外確認できていない。

大きなハイラルの一角に聳える、小さな村での感興。人々が笑顔で勇者一行を見送る上空………不気味なカラスが飛び交っていたなど、誰も気づかず…―――。


















***



―――ポゥ


「――…また1つ、光が世に戻された」


赤髪の女性、ディン。彼女はいつものように黒い空間で祈りを捧げるようにしていたが、徐に姿勢を解くと嬉しそうに笑った。

彼女が自らの力で作った赤い魔法玉…その中には多くの人々に手を振るリンク達が映されている。


「良かった…彼らなら、もしかしたら信じても大丈夫かもしれない。必ず、光がこの地に…」


赴くと……―――。ふっ、と瞳を閉じた女性の体を暖かな光が包みこんだ。光に身を委ねたディンの表情が和らいだ瞬間、体を包む光に混沌の闇が指した。


「っ!な、何!?」


バッ!とすぐさまその場から飛び退き、己を取り巻いていた光共々身から離した。彼女が先ほどまでいた場所には、輝く光が浮遊しているが、その中に紛れるように黒い闇が巣食っていた。


「な…っ」


驚くディンだが、彼女に構わず黒い光りは大きくなり、先ほどディンを包んでいた光を全て取り込むと、周りの黒い空間に溶け込んで姿を隠してしまった。
シン…と静まり返る中、彼女は冷や汗を流し、その場に片膝をついた。


「い、今の…――まさかっ、あいつが!?」


何かに気づき、ディンは最初の時のように魔法玉を両手一杯に生み出した。その中に草原を渡る勇者一行の姿を見つけたが、それ以外のものを探すように目を見張っている。


「頼む…予想が、外れていて…!」


祈る思いもそのまま、ディンはじっと何かを目だけ動かして探し出す。この広い草原の中、一体彼女は何を探し、その探しているものが見つけ出せるのか……










***





――― 一方、噂の勇者一行



++inハイラル平原++






『ウンしょ、ウンしょ…ッ』


妖精ナビィは小柄な体に力を振り絞って水の入ったカップを運んでいた。人間では片手で運べるものそれは、小さな彼女にはとても大きくて、それを一生懸命に運んでいる姿は微笑ましく見える。

何故彼女がこんな事をしているのか…理由は明白だ。


『リンクがまダ昨日の疲れが取れきってナイんだカラ、こう言ったコトでナビィが頑張らなくチャ!』


闇の魔物との戦いの時、自分は舞を守ると言ったが、結局はリンクがトランス状態になってまで助けてしまった始末。自分が何も出来なかった事を少なからず彼女も気にしていたようで、こうして恩を返そうとしているのだ。

しかしもう1つの疑問は、何故ナビィがこうしてまで水を必要としているのかだ。それを頼んだのは紛れもなく彼女の仲間なのだが…

数滴水が零れながらも懸命に運んでいると、一本の古い大木が視界に入った。目印にしている、終点場所だ。
スピードを上げてその木へ近づくと、木の幹に凭れ掛かったリンクの姿が見えた。躊躇なく、彼の許へ飛び寄るナビィ。


『リンク、大丈夫?』

「ナビィ、平気だよ!…ゴメンな、無理させて」

『いいんだヨ!どんどんお願いしてネッ、ナビィ出来る事なら何でもするヨ!』

「ナビィ…ありがとな、その気持ちだけでも嬉しいよ」


ナビィを掌で撫でるように包む込むと、ナビィの体も嬉しそうに黄色に染まった。ほのぼのとした空気が彼らの周辺に広がる一方……何故か、数メートル先では邪険なオーラが感じられた。
気づいたナビィはリンクの手の中からそちらへ視線を向ける。――と、そこには


出っさなっきゃ負っけよ!あーとだーしジャンケン、じゃんけんポンッ!!」

っ!!(ぴたっ)」

「こらダーク!早く出しなさいよ、出さなきゃ負けよ!?」

「ならテメェが出したらどうだ!つーか後だしじゃんけんの癖に出さなきゃ負けって無理だろ!どのみち負けちまうじゃねえか!!」

「さっきまで『じゃんけんって何だ?』って言ってた奴が何知ったような口を!気づいちゃったらじゃんけん立証できないじゃないっ、じゃんけんがどんなものか教えてあげるんだから早く出して!そら出して!!今すぐ出して!!

「普通のじゃんけんやらせろ!!大体初っ端からひっかけもんやらそうとすんじゃねえ馬鹿女!!(激怒)」

『…じゃんけん?』


ぎゃーぎゃー!と言い争う彼らの話の中から、さっきから聞こえてくる「じゃんけん」という言葉にナビィは?マークを浮かべた。
何故じゃんけんをしているのだろう…というより、じゃんけん1つで何をあそこまで揉め合っているものなのか……


「どっちが薪拾いに行くかじゃんけんで決めてるらしいんだ。オレがやろうとしたら、舞が全力で『リンクはまだ完治してないから駄目!!』って止めるしさ」

『あー、そっか、そりゃソウだよネ。ナビィもそノ為に頑張ってタんだシ…
それでも舞は昨日夜遅くからリンクの面倒見てて、今日は朝早くから働きまわってたし、ダークは昨日一晩中飲んでて2日酔いが凄いきついだろうから…2人とも少なからず疲れてるだろうカラね〜』

「…やっぱり、オレが行ったほうが…」

『それはダメだよ!!リンクは昨日ずっと寝てたケド、トランスの後遺症はそれぐらいジャ治らないんだカラっ。勇者として、いつでも戦闘に対応出来る様にしとかなキャ!』

「う、うん…」


こうも強く押されちゃ反論も出来ない…それでもまだ残る罪悪感を抱えながらリンクは数メートル先で行われているじゃんけんバトルを見入った。
もう分かるだろうが、彼女達が一生懸命働くのは、こうして休憩中だからだ。お昼を作るのに水が必要だった為、ナビィがこの役を買って出たのである。


「し、仕方ないわね…こうなったら、望みどおり普通のじゃんけんで決着つけましょう!」

「普通に最初からそうしろよ」

「勝負は一回切り!卑怯なしの正々堂々勝負よっ、いいわねダーク?」

「へぇへぇ」

「よ〜し、それじゃっいざ尋常にしょ〜〜ぶ!」


少しだけ適当な返事をするダークにむっとしたが、舞もぐるんと腕を回してやる気を見せる。
ダークと舞が対峙する形で構えると、緊迫した空気が間を流れていった。


じゃんけんで変な緊張感が漂ってるネ…(汗)

「頑張れ〜!」


ナビィの呆れ声とリンクの応援を受け、ダークと舞は暫しの間睨み合い、勢いをつけて――
いざ、勝負!!


「さいしょっはグーーーー!」

ポン☆

舞→パー
ダーク→チョキ


ガカァァッ!!!


鋭い稲妻があたしたちの間に落ちた。負けたーーーーー!!!??
ショックのあまりその体制のまま固まるあたしとは対象にダークは威張りながら嘲笑った。


「ズルだししてるのに負けてる!?」

『超ダセェェェェェェェェ!!!』


「そこ!!お黙り!!」


後ろから見事な勇者達の突っ込みが入るのが見えたのでビシィ!と指でそっちの方向を指す。
勢いにのされ、パフッとすぐさまリンク達は自分の口を覆った。失言だと気づいたが、既にそれは相手に届いた後。

結果にも言葉にも悔しがる舞に上からダークの皮肉な笑い声が聞こえてきた。


「はっ、所詮目に見えてる手だな。
ほらほら、さっさと薪拾いに行ったらどうだ〜?日が暮れちまうぞォ?」

「ぐ…!!くっそぉ!初心者の癖にズルだしという高等テクを知ってるなんてえぇぇぇぇ!!」


何の捨て台詞だ。「覚えてなさい!」と悪役の王道台詞を捨てた彼女の後姿を見送りながら、ダークは心の中で突っ込みを入れた。
ふぅ、と呆れと疲れが混ざったような溜息を溢すと、身を翻した。


「あ、ダーク。終わった、みたいだな」

「まあな。あの馬鹿女分かり易すぎるぜ、顔に出てんだからな」

「…――、」


クス…と小さく笑う声が聞こえ、ダークは視線を目下に移した。リンクが口元に手を添え、可笑しそうに笑っているのが見えた。


「…何だよ、何が可笑しいんだ」

「いやさ、ダークが楽しそうにしてるから、良かったなって思って」

「……お前、前から勘違いが多すぎるぞ。俺はなァ」

「え、でもダーク笑ってたぞ?楽しそうに、なぁナビィ!」

『エ?う〜ん…言われて見れバ、そうだッタかモ』


ナビィも賛同した言葉に、ダークは一瞬だけ驚いて目を開いた。だが、忘れたいと言うように首を左右に振ると、眉間に皺を寄せてドスンッ、とぶっきらぼうに座った。


「気持ち悪い事言ってんじゃねえ…俺がそんな面してたまるか」

『(そう言うト思っタ)』

「えェ、何でさ。いい事だろ?」

「五月蝿ぇ、もう言うな。それより勇者」

「……なァ、何でダーク、いっつもオレの事『勇者』って呼ぶんだ?舞の事は普通に呼んでるのに。
オレもリンクって呼んだらいいだろ?」


リンクは子どものように口を尖らせて不満を漏らした。そう言えば、今までの事を思い返せば、ダークがリンクの事を名前で呼んだ事は、一度も無い。
あるのは水の神殿で、ダークがリンクの姿に化けていた時に騙しの言葉として使っていただけで、それ以降は全く使っていなかった。


「嫌だね、気色悪い。誰が好き好んで男の名前呼ばなきゃなんねえんだ」


べ、と舌を出してダークはごろん、と寝転がった。何とも理由が彼らしい。


「えー…でも、オレだけ仲間外れされてるみたいで何か嫌じゃんか」

「ケッ、絶対嫌だ。元々憎んでたってのもあんだ、諦めろ」

「…ダークってさ、




舞の事好きなの?


ばふっ!!思いっきりダークの口から何かが噴出された。気管に詰まったのか、体を起こして苦しそうに咽返っている。
予想外な反応に、リンクもナビィも目がきょとんとなっている。


「だ、ダーク?」

『まま、まさか本当に舞のコト…!?

「ば…!!馬鹿言うなアホ垂れ共!!何で俺があんな馬鹿女好きになんなきゃなんねえんだ!!」

「でも、そう言ってる割には顔赤いぞ?」

「う、うっせえ!!テメェらが妙な事突然言い出すからだろ!!
お前分かんねえのか!?あいつは直ぐに変な事噴出すし、それに美形だ何だ言って変態紛いな発言出しやがんだぞ!!あんなの女じゃねえ!
大体、俺にはもう…―――――ッ!


ハッ、としてダークは顔を赤くして口元を押さえた。気まずそうに視線を泳がしている姿にリンクは首を傾げるが、ナビィは気づいたようで体をピンク色に染めた。


『エっ、ダークってもうそんな人いるノ!?誰々、誰なのソノ人〜〜!?』

「Σだだ誰もいねえよ…!!ふ、ふざけた事のたまんな妖精!!」

キャーーッ耳まデ真っ赤だヨ!やっぱいるんダァっ、誰だロぉぉ!!』


滅多に見られないほどあたふたと慌てふためくダークを他所に、ナビィは彼の周りを楽しそうに飛び回る。
流石は女の子、恋愛話には興味があるらしい。リンクは2人の葛藤姿に一瞬驚いて止まっていたが、(彼から見れば)楽しそうな光景に微笑ましく笑った。


「(良かった…ダークが、溶け込めて)」

『ねェ、誰なノ〜〜!?』


ナビィの声とともに、近くからほんの瞬間、草を踏みしめる音が聞こえた。


「ああ、五月蝿ぇな!!だからっ、俺にはそんな奴――――」


いない、と言おうとしたダークは、リンクを見た途端動きを止めた。リンクは自分が見られているのに気がつき、何か顔についているのかと思い腕でごしごしと顔を擦った。
それでも尚見ているダークに疑問が浮かび、首を傾げた。


「ダーク?」

「あ…ああ……っ」

「ダーク?おい、どうしたんだよ?」


声を掛けた途端、今度は顔面を真っ青にして歯をガタガタと震わせ出した。いい加減心配になったリンクが立ち上がろうとするよりも先に、彼と向き合っていたナビィがふり返った。


『どうしたノダーク?リンクに何かあっタ…―――!!り、リンク!後ろォ!!』

「え?」


よく見れば、彼の視線がリンクの後ろの方へと向かっている。


「――ふんっ、ちっとも変わっていないな小僧」


ドクンッ!!リンクの悲鳴が大きく悲鳴を上げた…。
今のは、今の声は……まさか…―――!

どんどん早くなっていく鼓動を落ち着かせるように服の上からぎゅう、と握りしめ、リンクは後ろを振り返った。
相手の足元が見えた時、一瞬心臓が止まったように思えた。


「軟弱なオーラだ、所詮は小物だな」

「―――っ!!」


勇気を出して思い切って顔を上げた。視界に入ったのは、ガングロの肌、高い鼻、風に靡く黒いマントに超越したようなオーラ。
何故…何故こいつがこんな所に……どうしてっ


「ガノン、ドロフッ!!」


悪の帝王、ガノンドロフがこんな所にいるんだ!?リンクの表情を見て読み取ったガノンドロフは鼻で嘲笑った。


「悠長に話しに華を咲かせているとはな…時の勇者も落ちぶれたものだ。…ああ、俺の評価が無駄に高かったのか」

「…っ、何…!」

「…まあ―――どこぞの裏切り者よりはまだマシかもしれんがな」

「っ!!」


裏切り者、そう言われた途端ダークの体がビクッ!と跳ね上がり、さっきよりも大きく震えだした。その姿を鋭くも冷たい目で見下ろすと、今度はその視線をリンクへと向けた。


「醜い…実に醜いぞ。滑稽なものだ、それでよく勇者一行と名乗れるものだな」

「…何の用だガノンドロフっ、何故ここにいる!!」

「ふっ、イヤ何、どこかの情けない部下共の所為で俺の計画が栃狂ってばかりでな…仕方なく、俺直々に来てやったんだ。
計画の執行…時の勇者暗殺、及び―――」


バサァッ!!


「異世界の聖女の捕獲のな」


「っ!舞!!」


ガノンドロフが身に纏っていたマント、開かれたそこには立ってはいるが瞳を閉じた舞がいた。息をしているところを見ると生きているようだが…


「だが今回はお前の命は繋げておいてやる…我が目的の第一は、この少女…舞の捕獲だからな」


ガノンドロフの言葉も聞かず手を伸ばそうとすると、リンクの両脇を何かがスィーっと飛んで行った。


「ケケケッ、時の勇者と言えどこの程度かい」

「ヒヒヒッ、情けないのォ…やはりこの娘はガノンドロフ様が預からなきゃねェ」

「な…っ!」


通り過ぎて行ったのは、箒に跨った2人の老婆。ガノンドロフを囲うように左右で飛び交っていると、リンクの後ろで真っ青になったダークが震える口を開いた。


「つ、ツインローバ、様…!!」

「ツイン、ローバ…?」


この2人の老婆の名前か、瞬時に判断したリンクは鋭い目で睨み上げた。だがそんな彼の視線も容易く受け流し、ガノンドロフは意識のない舞の体を横抱きに抱えた。


「按ずるな、今はツインローバの力で眠っているのみ。
まあ、これで舞の顔を見るのは最後かもしれんがな…どうだ、精々先ほどのように話に華でも咲かせているというのは?」


ククク…ッ、と喉で笑うと、ガノンドロフの体の周りを黒い闇が覆った。それがどんどん奴の体を消していく…消えようとしているんだ!
舞がまだ抱えられているのに、連れ去られては困る!!リンクは背に掛けたマスターソードを引き抜くと、体を持ち上げた。


「待て!ガノンドロフ!!逃がしはしない!!」


だっ!と急いで駆け寄ると、両手で抱えたマスターソードを振り下ろした!それに気づいたガノンドロフは顔色も変えずに振り向いた。
瞬間、2人の間に1つの影が割り入った。


―――ガキィィン!!


「!!な…っ!?」


リンクの蒼い瞳が驚愕に開かれた。驚く蒼の瞳に映るのは、金の色と紅い色の混色。見覚えのある装束に身を包むのは……リンク達を助けてきた、シーカー族を名乗るシークだった。


「シーク!お前…!!」

「ガノンドロフ様の邪魔は許さないよ」


キィンッ!
あまり力の込められない刀身を片手で簡単に薙ぎ払われ、リンクは勢いで後ろに尻餅をついた。痛む暇なども見せずに、シークをも巻き込んで黒い歪は徐々に姿を消そうとした。


「ま、待て!!おい、シーク!舞を―――」


リンクの言葉虚しく、彼の言葉を言い切る前に黒の歪はぷつりと姿を消した。伸ばした腕は相手を見失い宙を彷徨ったまま、主人も呆然と目を開いたままだった。


「う、そ…――」


呆然とさ迷う視線を漂わせる相棒に、ナビィが心配そうに近寄った。


『り、リンク…ッ』

「な…何だよ今の……」


だが、彼女の声も聞こえていない力を失くしたリンクの手からするりと剣が離れ、寂しく光りながら乾いた音を立てて草むらに落ちてしまった。


「何でだよ?可笑しい、だろ…どうして……、…ガノンドロフが、いきなり…どうして舞を……どうして、シークが…!!」


突然の悪の支配者の出現、突然の守ると決めた人の消失、突然の…味方だと思っていた者の裏切り。
伸ばした腕ももう片方の腕も、握りこぶしを作った彼の手がドンッ!!と乱暴に地面を打ちつけた。


「どうしてだよ!!可笑しいだろッ、いきなりさァ!!」


ダンッ、ダンッ!何度も打ちつけ、リンクの手には血が滲み出した。それでも止めずに、何度も地面に拳を打ちつける。


「訳分かんねえよ!!シークも、ガノンドロフも、舞がいない事も…!」


さっきまで自分の前で笑っていた、自分の体を気遣ってくれていた少女が、突然



いなくなった】…



頭の中から舞の存在が消えた途端、抑えていた糸が切れたように、ぶわっ、とリンクの両目から涙が溢れた。


「―――っ!!」


ダンッ!と最後に力強く叩くと、リンクは涙で濡れる顔をまるで獣の遠吠え姿のように天を仰いだ。


「舞―――――!!!」


蒼く澄み渡った青空とは異なっていた悲痛な叫び声は、広大な草原一杯に響きわたった。






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