38.ストップ変態化

++翌日++





コンコンッ
―――カチャ

おはようダーリンv今日もいい天気よ!私達のラブラブライフが今日も幕を開けるわぁ!!
…あら、まだ眠ってるの?んもぅっその可愛い寝顔、見てるだけで美味そ……ゴフッ
ねェ、まだ眠たい?起きたくないの?全くもうっしょうがないわね、お寝坊さんっ。ドゥフフフフvまだ目が覚めないならあたいの熱烈Kiss☆お目々パッチリさせたげるわ!
さあ行くわよダーリン!まだ寝てろよ!!我が行動に悔いなしぃぃぃぃぃぃ!!(ジャンプッ)」

「止まれおっさーーーーーん!!!」


ゴガッ!!(飛び蹴り)






ストップ変態化





見事なまでのドロップキックで魔王沈めました。御機嫌よう、女子高生です。
前回魔王に連れ去られてから1日が経過してしまい、仕方なくもあたしは専用に充てられた部屋で朝を迎えた。
…しかし、あの魔王の事だ、いつ何してくるか分からない。用心に用心を重ね、あたしはベッドではなく、丁度部屋に置かれていたハンモックで就寝。
その結果はどうだったかと言うと、目の前でベッドに突っ伏している変態魔王様の無様な姿を見れば分かってもらえるだろう。


「全く、まさかとは思ってたけど、人の寝込みを本当に襲うなんて…一体どういう神経してるのよ」

「……フッ」

「?」


ドゥフフフフ、舞の香りで俺の息子が盛んにっ

「そのまま沈め」


危険発言を漏らす変態魔王の上に、部屋に置かれてある分厚い本を何十冊と載せてやった。本の下から蛙の潰れたような声が聞こえてきた事に満足。
静かになった変態魔王に、安堵とストレスの溜息を吐く。前回までのシリアスムードは何処へ行ったのやら、闇の居城はパロディ満載のパーティ会場となってしまった。


「もういいっ、こんな奴相手にしてたら日が暮れちゃうわ」


いそいそとハンモックを片付けて足先を入り口へ向ける。
片手には暗い場所を照らす為の蝋燭を持って


「何処かへ行くのか?」

Σうわああぁおっ!?生きてたのかあんた!!
ってか喋るならその体制直してから喋りなさいよ!解剖された蛙みたいな魔王って気色悪いから!!(汗)」


変態魔王はまだベッドに突っ伏したままの状態。その格好で喋られたら平泳ぎしながら溺れた夢遊病者みたいにしか思えん。
自分でやった事とは言え、間抜けすぎるぞ悪の帝王ならぬアクの強い帝王。


よっこらせ。逃げるなら無駄な抵抗だぞ、此処から外へ行くには徒歩では戻れないからな」

「(親父め)徒歩じゃ無理、ですって?…いいわよ別に、どうせ散歩してみるだけだものリンク達が来るのを待つだけだわ」

「ふん、あの軟弱な小僧か…あんなもの忘れろ、幾ら時の勇者でもその願いを叶える事は―――」

「っ煩いわね、どうであろうと信じることは人の勝手でしょ!それにリンク達を甘く見てもらっちゃ困るわ、彼らには貴方にはない勇気と根性と大事なネジがちゃんとあるんだもの!」


本を上から退かせた魔王を押しのけ、あたしは今度こそ乱暴に扉を開け放った。身を外に投げ出し、小さな音を立てて扉が閉まるのを確認するとそのまま当てもなく歩き出す。


「そうよ、あたしがリンク達を信じなくてどうするの」


少し揺らいでしまった心を持ち直して、静かな靴音を響かせる廊下を渡り歩く。密かに、部屋から変態魔王の不気味な笑い声が聞こえてきた。
笑ってる…あたしには何も出来ないと思ってるのね。


「いいわ、やってやるっ、あいつが笑ってられる暇がなくなるように」


あたしの全力をぶつけるまでだ!少し駆け足で足を動かしたのは、部屋から聞こえてくる笑い声から少しでも遠ざかりたかったからかもしれない。
何故だろう、暗い所為なのか、妙にあたしの心臓はバクバクと鳴っている。蝋燭を持つ手が震えている。

此処がモンスターの巣穴だからか?それとも、いつも1人ではなかった分、皆と離れてしまい怖がっているのか?それだと、それこそガノンドロフの思う壺だ。


「ああ、もう!頑張れあたし!!モンスターが何よっ、それだったら変態魔王の危ない思考回路とか、裏ボス最終兵器ダークの黒オーラの方が怖いわ!!」


頭を無造作に振って自分の弱いところを振り放そうとする。此処は2階のようだし、それなら1階へ降りる為の階段を探さなきゃならない。
駆け足のまま、通り過ぎていく景色を引っ切り無しに見渡した。


「―――!あ、あったっ」


走る足に急ブレーキをかけて視界の隅に入った階段を発見。此処からでも、その階段は下に向かって伸びているのが分かる。


「よし、とりあえず此処が何処か把握して、それから外に逃げ出さないと」


蝋燭を持っていないほうの手をぐるりと回す。ポキポキッといい音が聞こえ、今度は足を動かした。
少し舞い上がり過ぎて大丈夫かとも思うけど、今は考えるより行動した方が早い。リンク達を待つだけでなく、自分で動かなくては。


「こんなカビ臭い陰気臭い場所、さっさと出て―――」

「何処へ行く気だ?」

「―――!!」


コッ、自分から鳴っていた靴音がピタリと止まった。
聞こえた声に反応してさっきよりも大きく鳴る心音、カタカタと音が聞こえてくる程の手の震え。進ませたくない足を進ませて、本来の目的である階段へと近づいた。

今の声は…まさか

陰になって見えなかった、階段の支柱。凭れ掛かるように、気づかないうちに会いたくないと思っていた人を見つけてしまった。


「シーク……」

「………」


呼び声に反応しないまま彼は顔を俯かせている。どうしてかは分からない、それはあたしと顔を合わせ辛いから?それならあたしだって同じなのに。

止まっていた靴音がまた、カツンと響いた。


「逃げるつもりかい?」

「ぁ…っ」

「無理なことだ、諦めた方がいい。君の力ではどうすることも出来ないだろう」

「…シー、ク…?」

「無力な者よ…時の勇者も直滅び堕ちる。安らかに、身を闇に委ねよ」

「っ!ど、どうして!?」


腹のそこから出した、ようやく出せた声は案外大きかったようで、廊下中に響き渡りそうなほど。
一瞬、彼の肩が小さく揺れたのが見えた。


「どうして…どうして貴方が此処にいるのよ!それにどうしてそんな事言うの!」

「当たり前だ、僕は…ガノンドロフ様に仕える存在でしかない」

「ち、違うわっ、貴方あたしと一緒に森の神殿に行ってくれたじゃない!」

「…そんな事知らない」

「あたしが捕まった時助けてくれたでしょう…!?」

「……何の事だ?」

「リンクにもオカリナの曲を教えてくれたわ!ダークに仲間になるようにも言ってくれた!あたしに頑張れって…!!」

「――全て、忘れたよ」

「!!」


最後の一言を言う時、ようやくシークがこっちに振り返った。赤の瞳は、見たことがないぐらいに鋭く尖っている。以前の優しい雰囲気なんてなくて、冷たい空気しかない。
どうして…何でこうなってしまった。前の優しい彼は何処に行ったの、それとも前の彼は嘘?


「シーク…どうして…」


ぽたっ、と雫があたしの目から落ちた。それと同時に、カランと乾いた音を立てて蝋燭が地面に落ちた。
石造りの床は火を広げることなく、含んだ湿りで炎を消した。
何も持たなくなった腕で目を覆った。まるで小さい子どもが泣くように、泣き顔を見せないように。


「その涙は弱さの証だ。君には、何も出来ないという証。」

「…っ、そ、れでも…あたしは…、あたしは……行く、わっ」

「……何故、そこまで頑張ろうとする。鬼ごっこなど無意味なのに」

「あたしは、逃げる側よっ…逃げなきゃ…鬼ごっこに、っならないわ!」


彼から逃げるように、あたしは早々と階段へ向かう。もう直ぐそこにはシークがいる。いつものあたしなら笑顔で飛び掛る勢いだけど、今は…顔も見たくない。
真横を通り過ぎた。何かしてくるかと身構えていたあたしは拍子抜けして、思わず彼の体をドンッ!と乱暴についてしまった。
その勢いのまま階段を一気に駆け下りていく。


「………」


シークの視線を後ろから感じる。涙が流れる目を乱暴にマントで擦って、振り返る事もせずに走った。
ぐちゃぐちゃになる頭を抱えたまま、曲がり角を越えたあたしに彼からの視線は感じなくなった。足跡の変わりに後に残ったのは、ほんの少しの涙の痕




静かな階段の上に残ったのは…


「……舞…僕は…、―――」








***










++inガノン城入り口++




ザッ―――

「そ、そんな…」


全力疾走をした舞は、肩を大きく上げ下げさせながら目を驚愕に開いた。無理もない、逃げようと思って出口にやって来た彼女の視界に映ったのは…


「溶岩…マグマ?」


目下に広がる真っ赤なマグマ。しかも、どうしてかこの城と向こうの地上には数百メートルの距離がある。つまりは浮いているのだ、この城が。
どうやって浮いているのかは分からない、だが支える支柱もなければ繋ぐ橋も見当たらない事から、向こう側へ行くのは無理だと感づいた。


―――無理なことだ、諦めた方がいい。

―――此処から外へ行くには徒歩では戻れないからな



「こういう事だったのね…」


今まで持っていたやる気が抜け、舞は片手で額に手をついた。重いため息は彼女がどれだけ困難に陥っているかが分かる。
さて、どうする。視界に映る景色を見たところで、此処がどこの近くにあるのかも分からない。それほどの荒れ果てた場所なんだ。


「何もしないわけにもいかないわね、逃げる手段が見つからなくても、せめて何かを――」

【―――オイ、聞イタカアノ話?】

「!」


策を練っている彼女の耳に、人間ではない妙な声が聞こえた。自然と体に力が入る事と冷や汗が流れることから、それがモンスターのものだと気づく。
戦う術もない舞は徐々にこちらへ、出口へ向かってくるモンスターの声に心音を大きくした。


【アア、聞イタ聞イタ。何デモガノンドロフ様ガ直々ニ向カッタンダッテ?】

【ソウミタイダゾ。色ンナボスクラスノ方々ガ束にナッテモ敵ワナカッタ時ノ勇者ヲ倒シタトカ】

「(なっ…!?彼はまだ生きてるわよっ)」

【イヤ〜オッカナイネェ、ソノ時ニ女モ攫ッテ来タンダッテ?】

「(ん?あたしの事かしら…)」

【オオ、ソウソウ!何デモ、ガノンドロフ様ノ奥方ニナラレル方ダソウダ】


Σハアアァアァァ!!?奥方だぁ!?
声にもならない悲鳴を上げる舞。何だか裏で色々と色づけされているが…どうなってる!誰が流したそんなデマ!?調べなくともこんな都合のいい噂の発信源は恐らくあいつだろうが。

次にあの豚もどきが視界に入った時、全力のラリアットをかましてやろう。そう密かに決意した。


【ソレニシテモ、一番驚タイノハ勇者ノ影様ノ裏切リダヨナ。アンナ腕ヲ持ッテ自ラ地位ヲ捨テルトハ…】

【確カガノンドロフ様ノ右腕ダロ?勿体無イヨナー、俺ナラ捨テルナンテ出来ナイネ】

「!(ガノンドロフの右腕!?)」


右腕という事は、ダークはガノンドロフの手下達の中でもトップに立つ。
きっと地位は高い事だろうとは思っていたが…まさかそれ程の実力の持ち主だったと始めて知り、その驚愕の表情は隠せなかった。


「(ダークが…)」

【マア別ニイインジャナイカ?勇者ノ影様ハ幼少ノ頃カラガノンドロフ様ニ鍛エラレテイタッテ聞イタシナ。キット、モウソレホドノ実力ガツイタンダ、従ウ気ガナクナッタジャ…】

【オイ!!ソンナ事聞カレテタラ、オ前ガノンドロフ様ニ殺サレルゾ!!】

【ウワ不味イッ、ソレハ勘弁ダッテ!…デモサ、オ前勇者ノ影様ノ幼少ノ頃、ドンナダッタカ知ッテルカ?】

「(ダークの幼少の頃?)」


そう言えば、と舞は今までの自分を振り返ってみた。彼とはもう何日も一緒に旅をしているのに、今だ彼の事は良く知らない。
ハイリア湖の時、住んでいた場所がどんな所だったのかは聞けたが…それ以外、特に小さい頃の事は結局聞くことが出来なかった。


「(もしかして…此処なら彼の事が分かるんじゃ…?)」

【イヤ、オレハ知ラナイゼ。オ前知ッテルノカ?】

【オレハ…―――ッ!?ナッ!!】

「!!」


話ながら出てきたのは、鎧を身に纏い、古びた剣と盾を持ったガイコツモンスター、スタルフォスだった。
呑気に敵の話に耳を傾けていた舞は、今更ながらしまった!と両腕を構えた。いつでも応戦をとれるようにだ。

…だが、2体のスタルフォスは何を思ったのか片膝をつき、恭しく舞に向かって頭を下げた。


「…は?

【コレハ!舞様デハアリマセンカ!】

「あ、あの…?」

【コノ様ナ所デオ目ニカカレルトハ、何タル幸セ!!】

「えーっと…すみませんけど、何故に頭下げるんですか?」

【丁寧語ナド恐レ多イ!通常ノ話シ方デ結構デス!】

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…じゃなくてね、さっきの質問なんだけど、どうして頭を下げるの?」

【ソレハ勿論、貴方様ガ我等ガ王、ガノンドロフ様ノ奥方様デアルカラデアリマス!】

Σ奥…っ!!誰が変態魔王の奥方ですって!?さっきの話でも出てきたけど、そんな誤解持たないでよ、おぞましいわ!


スタルフォスの言葉に過剰に反応した舞は、腕に鳥肌を立たせながら指摘する。その彼女の様子に、2体のスタルフォスはきょとん、と呆けた。


【シ、シカシ…我々ハ貴方様ガ奥方様ダトオ聞キシテ…】

「じゃあ聞きたいんだけど、その情報源は何処から入ったの?」

【勿論、ガノンドロフ様カラデゴザイマス】


やっぱりあいつか!!あの野郎っ、人をフロンガスに仲間入りさせる気なの!?くっきりと額に青筋が立っていた。
そして決意


「今度会った時はラリアットプラスストレートアームバーかます!!」

【チョッ、殺サレマスヨ奥方様!?】

「今正に殺そうとしてるのよ」


闘志を燃やす舞の脳内に、爽やかに笑うガノンドロフが親指を突き立てていた。お前はあれか、エド●るみか。
自分の中に燃え滾る闘志を胸に、舞はふとある事を思い出した。


「そうだ、あんなゲテモノはどうでもいいとして。貴方達、もしかしてダークの事知ってる?」

【(ガノンドロフ様ヲゲテモノ呼バワリ…凄イナコノ人)ダ、ダークト仰イマスト?】

「貴方達から言えば、勇者の影の彼よ。ダークって名前なの!」

【ハァ、ソウナンデスカ。イヤ、実ハ私達モ良クハ知ラナイノデス】

「ほんの少しも?ちょっとでいいの、彼の小さい頃の事とか、友人がいたか、とか」

【スミマセンガ…】


申し訳なさそうに言う辺り、本当に知らないようだ。舞はまた振り出しに戻ってしまった事に小さくため息をつく。


「(仕方ないか…やっぱり、彼の事って難しいのね…)」

【タダ、勇者ノ影様ノ友人ナラ知ッテマスガ…】

「!えっ、それ本当!?」

【ア、イエ…ソコマデ期待デキル様ナ者デハナインデスガ…】

「全然いいのっ、その人今この城にいるの?いるんだったら、是非とも会わせてほしいんだけど!」


思わぬ収穫に舞は飛びつく。当初の目的からかけ離れてしまっているが、今の自分ではどうにも出来そうにないと判断した。
ならば別の事をと決めた彼女は誰にも止められそうにない。


【会ワセルノハイイノデスガ…ソコハ実験材料ノゴミ捨テ場デシテ、貴方様ヲソンナ所ヘオ連レシテ行ッテイイモノナノカ】

「構わないわ、あたしが望んだんだもの。あの変態魔王が言ってきたら、責任は全部あたしが持つから!
お願い、そこに案内して!」

【ドウスル?】

【ウーン……】


ガシャン、と体を鳴らしながら困ったように頭を掻いている。その微妙な表情は読み取ることが出来ない。…それ以前に表情なんてないのだが、だってガイコツだし。


【奥方様ノ御命令ハガノンドロフ様ノ御命令……分カリマシタ、案内シマショウ。
シカシ、アマリ御無理ハナサラナイデ下サイネ】

「本当!?あ、ありがとう!」

【イエ、構イマセン。ソレデハ早速御案内シマス。オイオ前、俺ノ分モ見張リ頼ムゼ】

【分カッタヨ、失礼ノナイヨウニナ】


簡単な会話を終えると、前にいたスタルフォスの片方が舞に振り返った。それを見て、彼女も急いで駆け足で追いかける。
もう片方の残る方に「ありがとう」と言うと、とんでもないと言わんばかりに頭を下げられた。

上手くいけば、ダークの事が分かるかもしれない。そう考えると嬉しそうに口元が綻ぶ。舞はそれを隠そうとはしなかった。




***





【コチラデス。足元ニ御気ヲツケ下サイ】


スタルフォスの手によって開け放たれた部屋、扉越しからも聞こえてきた耳を劈くような悲鳴が飛び交っている。
実験材料のゴミ捨て場…確かに彼はそう言った。だから部品やら薬品やらを捨ててあるんだと思っていたあたしは油断した。


酷すぎる…失敗した合成獣、モンスターと融合された人間の死骸。10歳にも満たない子どもたちの成れの果て…
見るに耐えない光景に思わず口元を覆った。誰もが助けて、と言ってくるのが、何故かあたしには分かった。


「酷い…これ、全部処分されるの?」

【ハイ。ウルフォス等ノ餌ニナッタリ、今後ノ薬物実験ニ回サレルデショウ】

「これ全部生きているんでしょう?最悪だわ…こんな事、予想してなかった」


耳を押さえても大きすぎる悲鳴は聞こえてくる、寧ろそっちの方がイヤだ。
隣を歩くスタルフォスの陰に隠れながら、見ていられなくなったあたしは思わず目をそらす。

大量の血の匂いにふらふらになりそうな足を前に進めた。少しずつ、大きな悲鳴も血の臭いも遠ざかっていく。






【着キマシタ、コチラデス】


より一層重苦しい鋼鉄製の扉。それを目前にするとスタルフォスは足を止める。
腰辺りを手探りで探し、暫くすると骨だけの指で1つの鍵を手に取った。それを錠に嵌めて回すと、短くカシャンッと音がした。

スタルフォスが片手で押すと簡単に扉は開いた。


【私ガ聞イタ所ニヨルト、此処ニイル者は勇者ノ影様ガ幼少ノ頃、唯一傍ニイタンダソウデス】

「彼の無二の友達って事?」

【サアドウデショウ…勇者ノ影様ノ手足トナッタ道具ダトカ、2人デ手ヲ組ンデ100人斬リヲシタトカ言ウ噂モアリマシタカラ、真実ハ分カッテイナイノデス】

「100人斬り…ダーク暴れてたのかな(汗)」


以前、闇の神殿で暴走した彼の姿が脳内を過ぎる。何故だろう、納得できてしまう自分がいるのは
一体彼は何をしていたのか、そしてその彼と一緒にいた人って一体…?

たらり、と流れる冷や汗をそのまま、前を行くスタルフォスについていく。入った部屋はガランとしてるが、部屋の中央に大きな鉄の檻が置かれている。


【瀕死ノ状態ナノデ期待ハ出来マセンガ…】


鉄の檻にはそれ相応の大きさの布が被せられている。一旦盾と剣を置いたスタルフォスはしっかりと布の端を掴んだ。


【マア何モナイヨリカハマシカト】


―――バサァッ!!


古びた薄茶色の布が宙を舞う。一緒に飛び交う埃に咳き込みながらも、防ぐ物がなくなった檻の中を見た。

苦しそうにゼーゼー息を吐く口元には妙なマスクのような物を取り付けられている。体中についている傷はさっきの魔物達の非ではないくらいのものばかり。
嫌、あたしが一番に驚いたのはそこじゃない


「う、馬!?」

【ハイ、ソウデス】


そう、檻の中にいた者が――馬だと言う事実に驚いた。あたしは豪く馬にご縁があるな…なんて呑気に考えていたり。
エポナとは違い、真っ黒の体に白銀の鬣を持った馬を見つめるままだったけど、苦しそうな息遣いによりようやく我に返った。


「どうしてこんな所に繋げているの?」

【間モナクコノ馬ハ処刑サレマスノデ、別ニ分ケテイルノデス】

「しょ、処刑!?どうしてそんな…」

【ガノンドロフ様ノ言ウコトモ聞カズ暴レマスシ、本来、作ラレタ目的ヲ実行シヨウトシナイカラデス】

「作られた、目的?」


じゃあこの馬は、まさか人工的に作られたというのか?
スタルフォスが付け加えるように、そしてあたしの心の声が聞こえたように首を振った。


【詳シク言ウト、改造サレタノデス。ツインローバ様ガ作ラレタ秘薬ニヨリ、時ヲ見ルコトガ出来ルヨウニト】

「時…未来や、過去を見る事が出来るって事?」

【ハイ。シカシサッキモ言ッタヨウニ、コイツハソノ素振リヲ見セマセン。失敗結果トナッタ者ハ不要デスカラ】

「そんな…」


馬は体中を押さえつけられている。手足の枷は暴れないため、口元のマスクは噛み付かないようにだろう。
それでも生きようとしている生命力は、彼の目を通して伝わってくる。


「えと…じゃあこの子がダークと一緒にいた子?」

【ソウデス。オ分カリニナラレマシタカ?アマリ期待出来ナイト言ウ意味ヲ】

「言葉が通じない相手だったとは…此処は予想外な事が多すぎるわね」


思わず項垂れそうになる頭を抑えた。だが、何もないよりかはマシだ、有力な情報になるかもしれないし。それに自分はエポナと言う凶暴な馬を手懐けた経験がある、きっと大丈夫だ…そうだと信じたい。


【奥方様、私ハソロソロ仕事ニ戻ラセテ頂キマスガ、宜シイデショウカ?】

「あ、うんいいよ。ありがとうねスーちゃん、助かったわ!」

【イエ、コレシキノ…Σスーチャン!?

「勿論!だってスタルフォスでしょ?
親しみと今回のお礼を込めて素晴らしき称号を貴方に捧げるわ(爽笑)」

【ヨ、喜ンデモイイモノナノデショウカ…?(汗)】

「いいのいいの、じゃああたしこれからこの子と意思疎通させるから。出来れば邪魔しないでね」

【ハア、分カリマシタ……オ戻リニナル時ハイカガ致シマショウ?】

「大丈夫、だと思うけど…何とか自分で戻るわ。ありがとうね」

【イエ、ソレデハコレデ失礼サセテ頂キマス!】


最後に体をカシャンと揺らしたスーちゃん(採用)は深々とお辞儀をして部屋を出て行った。
何気にモンスターと仲良くなっているあたし。帰ったらリンク達に自慢しよう、うん。


「…さて、どうしよう…先ずはこの子の怪我を何とか―――」

ブルルッ

「!」


振り向いたあたしの視界に、檻の中に入ったままであるけれど、何とか立とうとしている馬が入る。
でも、やっぱりダメージは大きいか。1度体を起き上がらせても、また直ぐに大きな音を立てて地面に崩れ落ちた。


「あっ」


慌ててその様子を見て駆け寄るが、馬の苦しそうな様子は変わらない。
カシャリ、と音を立てた牢の柱。ダメだ、鍵も持っていないあたしには開けられない。せめて何か道具でもあれば治療ぐらいは出来るのに…

でもこの部屋にそんなもの見当たらない。まさか処刑予定の者の為に置くわけはないと思ってたけど…


「ど、どうしよう…」

ブルッ…
「え?」


すると突然、檻の中の馬が真っ青な顔で何かを指してきた。その先には、あたしの制服についているポケット…
ポケット?何か入れてただろうか、そう考えながらも一応手で探ってみる。

何もない―――と、思った矢先、爪先に硬いものがコツンッと当たった。
あれ…?


「何…?」


触れたものを確かに掌で掴み、視界に映る高さに持ち上げた。透き通る桃色の珠の中に浮かぶ、変わった色の珊瑚。
見覚えのあるそれは、確かにあたしの記憶の中に残っている。


「さ、珊瑚の真珠…!」


子どもの頃【ゾーラのサファイア】と共にルト姫から貰ったもの。そう言えば背中の傷を治す為に貰ったのに、結局は使わずにずっととったままだった。
あの時の背中の傷なら、たちまち治ると――― !


「そうだ!これ、煎じて飲んだら治るかも」


そうだとしたら水が必要になる。部屋を軽く見渡すと、隅の方に湧き水が少し流れていた。丁度いい、少し不安だけど今はあの水を使おう。
黒馬に一言謝ってから急いでその水の近くへ駆け寄る。きっと大丈夫だ、近くにはあの黒馬の為だろう、鉄製の入れ物もある。


コンクリートの破片で真珠を叩き割り、粉々に砕けていくものを更に磨り潰して粉状にする。簡単に壊れていくそれを見つめ、よく今まで割れなかったものだ、と関心しながら。
さらさらになった事を確認して、今度はその入れ物に水を注ぐ。少し濁っていた水も、その珊瑚の粉と混ざると綺麗に澄んだものに変わった。


「これで、大丈夫かも…」


多分だけど、少し信頼を持って珊瑚の粉入りの水を運ぶ。入れ物の中で揺れる水を眺めながら、苦しそうにする黒馬の元に


「これ…一応、治療用の珊瑚を使って煎じたの。回復力は高いって聞いたから、飲んでみて?」


す、と警戒されないようにゆっくりと檻の中に入れる。黒馬は飛び掛ろうともせず、只じっと静かに水の入った入れ物を見つめた。自分から指したからと言っても、やっぱり警戒はあるのだろうか。

あたしは檻の前に座りながら様子を見る。飲んでくれないかな…完治はせずとも、少しばかりは楽になる筈だ。


「大丈夫よ、毒は入ってないから。」


やっぱりまだ警戒してるのか…黒馬の様子を静かに見守る事数分後。
ようやく黒馬は重たい体を引きずり、入れ物の中に入っている水を舐めた。安堵をつく間にも黒馬は水を飲み干し、一分とかからない速さで全てを飲んでしまった。


「どう?体とか、異常は?」


言葉が通じるかは分からないけど。恐る恐る黒馬の顔を覗き込むと、ある事に気がつく。
黒馬の体に刻まれた傷…それらが全て、徐々に塞いでいっていることに!


「な、治ってる…効果があったのねっ」


完治とまではいかないけど、それに近い状態には戻っている。良かった…とため息をついたあたしを、さっきよりも元気になった黒馬が見上げた。


「もう傷は大丈夫よ、あとはこの檻なんだけど…」


どうやって壊そうか?と言おうとした瞬間、黒馬が大きく唸り声を上げた。
威嚇してるのかと目を開いているあたしを他所に、黒馬は檻の中を暴れ狂った!その凄まじい威力とスピードに、拘束する鎖までもが断ち切れて行く。


――バキッ!バキンッ!!


「く、鎖が…!」


完全に鎖が彼の体から離れると、今度は口に付けられたマスクを壁に打ち付ける。思わず目を瞑ってしまったけど、どうやら黒馬は無事のようで、壊れたのはマスクだけ。

あっという間に黒馬を拘束していた物が全て取り外される。呆然と見つめていると、黒馬は檻の鍵を足で蹴り壊した。


――ガシャァァンッ!


鍵と一緒に吹き飛んだ檻の扉から、ゆっくりと黒馬は体を抜け出していく。檻を通してみていたからか、間近で見た彼の姿はとても大きく凛々しい。
す、凄…流石はダークと100人斬りをしたと噂された馬。パワーが桁違いに凄い…


「えーと…とりあえず、どうも?」


今更な挨拶だけど。少し危ないと思いながらも黒馬に挨拶。黒馬はあたしを一度見ると、嘲笑うかのように一度ぶるるっと鳴いて遠くを見た。
あ、エポナと似てる。そうか、こいつも冷たい部類か。


「ボケって無視されるのが一番つらいのよ…」


まあ、今はそんな事はどうでもいいわ
本来の目的を果たすべく、まだ遠くを見るままの黒馬に改めてもう一度声をかけてみる。


「ねェ貴方、勇者の影って呼ばれた銀髪の男の人の事知ってる?」


あたしの質問が終わると、黒馬はすぐさまこっちに顔を向けてきた。その表情は分からないけど…反応したと言う事は、ダークの事を知ってるのかも?


「あたし、彼の仲間なの!もっと彼の事を知りたくて、知り合いだって聞いた貴方の所へ来たんだけど…
お願い、ダメも承知でお願いするわ。彼の事を知ってるなら教えてくれないかしら?」


あたしの言葉が伝わっている事を祈りながら黒馬と見つめ合う。言葉は伝わらなくても、ダークに関する場所へ導いてくれるぐらいなら出来るだろう。お願いだ、自分でも出来ることをしたいの。

あたしの思いが届くのか、黒馬はゆっくりとこっちに歩いてきた。
数歩歩き、辿り着いたのは1メートルもない距離。


「…?」


来た途端、何を思ったのか、歩みを止めた黒馬はあたしの手に擦り寄ってきた。
甘えたいのかな…自分なりの予想を立てて、甘えてくる黒馬の額に手を置いて撫でた。

…その瞬間


―――ザザッ…

「!!」


あたしと黒馬の回りの空間が歪んだ。戸惑っているあたしとは反対に、黒馬は集中するように瞳を閉じている。
その様子に何とかあたしも自分を落ち着かせて、辺りの様子を見渡してみた。

すると、突然歪んだ空間に何かが浮かび上がった。目を凝らしてみると、それはハイリア湖を背にあたしとダークが言い合っている所。


―― 一人旅だなんてそんな寂しい!!行く当てがないなら、あたし達と一緒に行きましょう!

――はぁ!?ざけんなって!何言ってんだテメェは!?



「!?こ、これって…!」


間違いない、ダークが仲間入りを果たした時の光景だ。只違うのは、色がセピア色なだけで…
言い争っているあたし達に見入っていると、また空間が歪んで光景を変えた。今度はその直後、ダークとリンクがお互いの拳をぶつけ合った場面。


――よし!ダークも仲間になった事だし、早速出発しよう!!

――フンッ、精々出番を取られないように努力するこったな

――オレだって頑張るから大丈夫さ!



「まさか…これ、貴方が?」


そうだとすれば…、…そうか…これはあたし達の過去なんだ。さっきスーちゃんが言ってた事を思い出したわ、この黒馬は時を見る事が出来るって。だからこうやって、あたし達がダークの仲間だと言う証拠を…

失敗なんかじゃない、この子は時が見えたんだわ。




――エ?ダーク…見えるの?

――幾らかはな。妖精も大丈夫だな?



――あまり周りばかり見すぎてると、自分の体が侵食されていってるのを見落とすぞ

――そうかもしれないけど…相手を思うことは大切だろ?



――さっきまでこれをダークが吹いてたのよねー

――おい。人を恍惚な目で見るな、吐くぞ



――リンク!だ、大丈夫!?

――……心配すんな、気を失ってるだけだよ。
…まあ、トランス状態で暴れまわったんだ、仕方ねえな

――?…トランス状態?




いくつもの記憶が景色のように流れていく。
気づかなかった、彼との思い出がこんなにたくさん会ったなんて…情けないと思う、他の人に気づかされるとは。

暫く色んな光景が流れているのを見ていると、黒馬はあたしの手を額から下ろした。
その途端、今まで回りを流れていっていた記憶が全て消えた。


「うわ、凄い…ビックリバンショー再びね」

ブルルッ

「どう、ダークの仲間って事だけど…分かってくれる?」


完璧とは言わないけど、きっと少しは伝わってくれた筈。その考えは外れていなかった様だ、その証拠に黒馬が首を縦に振った。


「良かった、分かってくれたのね!あたしは舞って言うの、よろしくね」


さて、一方通行でありながらも挨拶も済んだ。後は彼がダークの過去の何かを知っていたらいいんだけど…挨拶と一緒に黒馬の頭を撫でながら、彼の様子を静かに見つめた。


ブルッ

「え?」


黒馬はあたしの手から離れたかと思うと、今度は背中をこっちに向けて下げてくる。
これは…エポナの場合乗れと言う合図なんだけど…この黒馬もそう言ってるのかな?迷っているあたしをじっと見つめてくる辺り多分そうだろう、解釈をしたあたしはとりあえず


「えっと、失礼します」


慣れた手つきで黒馬の背中に跨ってみた。完璧に背に乗り、取り付けられていない手綱がなくて困っていると、何と黒馬は何も掴んでいないあたしをそのままに走り出した!


Σのああぁあぁぁ!!?ちょ、ちょっと待って!あんた早すぎるーーーー!!


掴むところがない為、半ばしがみつく様に、締めすぎないよう黒馬の首に腕を巻きつけた。
黒馬は暴走を止める事なく、部屋の入り口を蹴り破って実験室をも走り抜けていく。


「ね、ねえ!ダークの事は教えてくれないの!?」


当然だが黒馬は応えるわけもなく、只ひたすら走り続けた。
グロテスクな実験室も通り過ぎお城の大通路に出てしまう。このまま外に逃げ出そうとしてるのかと思いきや、今度はそのスピードのまま階段を駆け出した。
しかも、此処は1階なのに、更に下へと続く階段を


「階段…!?」


馬の驚異的なスピードはまた更に上がり、それはもういつ扱けても可笑しくないぐらい。


「も、もっとスピード落としてよ!手綱は愚か、シートベルトなんてついてないんだからこちとら安全なんてない(ガチッ!)いてぇぇぇぇぇぇ!!!


し、舌噛んだ…!!強烈な自殺行為に顔を覆って痛みに耐えた。
人の努力空しく、どうやら黒馬は速度を落とさないらしい。
仕方なくもまた舌を噛まないように、今度は静かにしながら目的地に辿り着くのを大人しく待った。

下へ行くほど温度が下がっていく。あたしは生きて辿り着くのでしょうか




――ブルルッ

「…?あ、着いたの?」


一体どれくらい走ったのだろう、そう考えながら馬から下りると、この階の温度の低さに体が震えた。
まるで極寒の地にいるような感覚。その寒さに体の感覚がなくなっていく感じがした。


「さ、寒…!此処って一体地下何階なの…?」


きっとここまでだ、想像以上に深い場所なんだろう。
更に下へと歩いていく黒馬。遅れをとらないように、あたしも後ろを着いていった。

数段降りると、鋼鉄製の扉が見つかった。傷だらけの扉しかなくて、此処からはもう階段も道もない。


ブルッ

「此処に入ればいいの?」


扉へ寄り添う黒馬を見て、自分がそこに入らないといけないと直感した。ひんやりとした取っ手に手をかけて思いっきり開くと…薄暗くて冷たい、恐怖しか感じない小さな部屋が現れた。

目を驚愕に一杯に開きながら、部屋に入っていく黒馬に続く。
傷と血だらけの壁、拷問器具のような物も数個あり、無残に散らばった無数の本の山…蝋燭さえもない、真っ暗で冷たすぎる。


「何この部屋…どうして、こんな所に…」

ブルッ

「…?」


部屋に見入るあたしを黒馬が振り返る。そのままこっちへ向かってくると、さっきのように手に擦り寄ってきた。
もしかして、またさっきのような光景を見るつもりなのか?


「また手を乗せればいいの?」


確認をとりながらも既に手が黒馬の額に向かう。彼の頭に手が触れた途端、あの時と同じく部屋の中の空間が歪んだ。
さっきよりもセピア色が濃くなっている…もしかして、凄く昔の過去なのかもしれない。

映った景色は…たくさんのコードや機械に囲まれた部屋。
機械音が部屋を木霊して、研究員らしきモンスターたちの声と一緒に聞こえてくる。


「実験室?それも…ちゃんとした所…」

『オイ』

「!?」


直ぐ背後から聞こえた声に体が反応した。勢い良く振り返ると、視界にはあの変態魔王が!!


ギャーーーー!!お前いつの間に来たぁぁぁぁぁ!?」


思わぬ汚物の登場に身構えると、何と変態魔王はあたしの体を透けて通り過ぎた。
…あ、あれ?無視していった変態魔王は、研究員らしきモンスターの許に


「もしかして…この魔王は過去の?」

『勇者の影は完成したか?』

『ガノンドロフ様!勿論デス、イツデモ作動サセレマス』

『そうか…ならば拝見してやるか…おい、今すぐ作動しろ』

『ハイ!コードO−0089Hノ入力!』

『起動モードニ転換セヨ、実験対象ノ作動ニ応ジル!』



急がしそうにパソコンのキーボードを叩くと、モンスター達を囲むように中央に大きなカプセルが現れた。
中には緑色の水と、体中にコードをつけられた小さな影が映っている。瞳も閉じている、服も着ていないから分からない。だけどその印象の強い銀髪は、過去を辿ると思い当たる人物は1人しかいない。


「ま、まさか…ダーク…!?」


だとしたらあんたっ、すっぽんぽんじゃないですかっ!!思わず出そうになる鼻血を抑えていると、煩い音を響かせてカプセルから水が抜けていく。
カプセルの中にダークしかいなくなると、今度はカプセルが蓋を開けた。回りを取り囲むものがなくなった彼は、ゆっくりと目を開いていく。


『くくくっようやく完成したか』


不気味に笑うガノンドロフは満足そうにダークを見つめている。ダークの体からコードが抜けられると、彼は幼児の様に足をふらふらさせながらカプセルから出てきた。
…い、色んな意味で小さいっ…!!


「そうか黒馬、あたしに萌えをくれる為にこの光景を」

ゲシッ

「あいだっ」


容赦ない黒馬の蹴りは見事にクリーンヒット。それでも黒馬の額から手を離さなかったあたしって偉い


『……ココ、ハ…』


生まれたばかりのダークは、その真っ赤な瞳に光を灯していなかった。冷たいと言うか寂しい瞳…そんな彼に、傍のモンスターがプレートのついた白衣をダークに着せた。


『目覚めたか…俺がお前を作った、世界の王ガノンドロフだ』

「うわ…超自意識過剰

『貴様にはこれから俺の手足となり働いてもらうぞ。いいか、勇者の影』


あたしの台詞は無視か。変態魔王の癖に、とムカついたあたしはつい殴ってやろうと腕を上げる。
が、それを遮るように、ガノンドロフと向き合ったダークは、光のない虚ろな瞳のまま淡々と喋った。


『ハイ…私ハ、ガノンドロフ様ノ道具デスカラ』

「!!」

『ふんっ、上出来だ』


彼の言葉で止まったあたしをすり抜けていくと、ガノンドロフは靴音を響かせて入り口へと向かっていく。
振り向き様に、ダークへ乱暴に「早く着いて来い!!」と吠える。ダークも表情を変えぬまま、只「ハイ」と言ってぺたぺたと裸足の足音を鳴らし着いていく。


「(そんな…)」


彼らが扉を開けた途端、空間が歪んで消えた。最初に見た、冷たい部屋がまた元に戻る。


「ダーク…道具なんて」


正直、今のはきつかった。衝撃が強すぎて思わずあたしは頭を抱えた。自分を道具だと言った彼は、生きている様子が全くと言っていいほどない。
ダークの生まれを知ったと言うのに…なんだろう、この後味の悪さは


ブルルッ


頭を抱えたあたしを、今まで静かだった黒馬が呼んだ。また一歩近づいてくる様子から、またさっきのように額に手を乗せろと言うのだろう。


「………」


自分から頼んだ事だけど、これ以上、彼の過去を見るのが怖くて嫌。
…でも仕方がない、彼をもっと知る為だ……
無理矢理な勇気をこじつけて、意を決したあたしはゆっくりと黒馬の額に手を翳す。

ザザッ…ザッ


空間は、壊れたテレビのように古びた電子音を響かせて歪む。部屋に映る景色が、また音を立てて変わっていった。







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