39.迷子通報100当番




探してみれば、結構方法はたくさんあるヨ。
でも全部とっても難しいものや試された事のないものばかりだカラ…迂闊には使用できないネ。

結局徹夜になっちゃッテ、今日も朝からバタバタ働いてるんだ。

でもナビィは大丈夫!昨日のダークとのお話デ、自分のやらなくチャいけない事が分かったカラ!


敵城に攫われちゃった舞も
どん底にまで落ちて苦しんでるリンクも
己の弱い所を改善しようとしてるダークも



皆、頑張ってル。



リンクが聞いてくるのを待ってチャ駄目なんダ。ナビィが、自分で教えていかなキャいけないノ!

リンク、舞、ダーク…皆大好きだヨ。

大好きな人たちの為になる事が出来るナラ
ナビィはどんな事でもやってみせるカラ





迷子通報100当番







結局の所、自分の気持ちが整理出来ないまま今日を迎えてしまった。
まだ意識が完全に覚めない朝の事、オレはまたハイリア湖をただボーっと眺めた。

あんなに急いでおいて何を呑気にしてると思うだろう。
でも今のオレは…何を信じればいいのかが分からない、全部がぐちゃぐちゃなんだ。


「…ナビィに、謝んなきゃな…」


昨日の事があってからまだ彼女とは話をしていない。まだ気まずいけど、そのままにしとくのだけは、嫌なんだ…
首を垂らしたオレの背後から、草を踏む音が聞こえた。


「おい、とれよ」

「へ?」


ゴンッ!

「Σいっ!?」


後ろからの声に見上げた瞬間、落ちてきた何かに額を強打した。
硬い物の正体に気づく気づかないの前に、あまりの痛さに涙が浮かぶ。


「って〜…!」

「何やってんだお前…馬鹿か?」

馬鹿だよどうせ!!って言うかダーク!いきなり何するんだよ!!」


さっきの声でたった予想は当たっていたようで、オレに痛い思いをさせてくれたのはダークだった。
オレの声にも答えないまま、ダークはオレの横に座った。


「取れって忠告しただろうが。ちったぁ反射神経鍛えろよ」

「う、煩いなっ。どうせオレはダークみたいに凄くないんだ、放っといてくれよ!」


さっきダークが落としてきた物を確認するのも忘れて、オレはまた吠えてしまった。これじゃ結局、昨日のナビィと一緒じゃないか…

くそっ、こんな自分もう嫌だ。遣る瀬無い思いの所為で、また『リンク』が滅茶苦茶になっていく。


「……お前、これからどうするつもりだ?」


寝転びながらダークは空を見上げた。


「…わかんない。ナビィには、今の力じゃ突入も無理だって言ったし」

「方法が見つかるまでの間は」

「何も出来ないよ。オレなんて役に立たないんだっ」


自分で言った瞬間、胸にナイフが突き立てられたように痛んだ。弱みを認めることがこんなに辛い…
でも、オレには何も出来ないんだよっ


「妖精も同じ様な事言ってたぞ。だがそれでも立ち直って今必死だ」

「ナビィは強いよ、弱くなんかない…」

「…なら見直してテメェ自身が強くなりゃ早い話だろうが」

「っ!煩いって言ってるだろ!!いい加減にしろよダーク!!」


ドンッ!!


「!?」


ダークに吠えた瞬間、頭が地面に叩きつけられた。否、今も叩きつけられている。
今のオレの視界には、真っ青な青空とダークの顔だけが映っている。それと首に感じる圧迫感…


「テメェこそいい加減にしやがれ。いい年した男が何だ、女1人いなくなってめそめそしやがって…股についてんのは只の飾りか?」

「!何、だと…っ」


ダークが、オレの首を掴んで地面に押さえつけてるんだ。


「自分が責められりゃ楽になるだろうと、その逃げ道にしがみつくな!みっともねえ!!」

「っ、ダークに…ダークなんかにオレの気持ちが分かるのか!?」


首を押さえつけるダークの腕に、爪が食い込みそうなほど強く握った。


「見てもらえない努力がどんなに頑張っても、見てもらえる才能に勝つ事なんてなかった…!」


視界に入る空は、どうしても鬱陶しく感じるほど真っ青で


「その中で必死にもがいた結果がこれだぞ!これ以上何を頑張れっていうんだ!!また頑張って、守りたかったものを自分で突き落としたら…っ!!」


視界がぼやけてきた。我慢してるつもりなのに、結局その我慢は無駄になって、オレの目から雫が落ちた。
片方は地面に、片方はダークの手の上に。


「…っオレ怖いんだよっ、また、また舞を守れなかったらって思うと、動く勇気が出ないんだよ!!」

「……」

「彼女も、ナビィも、ダークを頼りにしてる…!オレが、これ以上出る資格なんて、これ以上さぁ!!」

「俺にも守りたい人がいる」


言葉を遮ったダークの言葉に、思わず目が大きく開いた。


「その人は名前も知らねえ、餓鬼の頃に会っただけで、俺が知ってても向こうは知らねえ。
…それでも俺は、勝手な一方通行で守りたいって思ったんだ」


ぎり、と少し強くなった握力で少し咽帰った。でもダークのそれ以上に苦しそうな表情を見ると、何も言えなくなる。


「でも、ある日その人は何の前触れもなく消えやがった。…消されやがったんだ。
心の拠り所さえとられたその時の俺は、目に見えて狂いまくってたさ」

「ダーク、が…?」

「死のうとした、消えようとも。…だがその権利さえ持たせてもらえなかった俺は結局、この身を闇に宿して忘れさせられた」


オレの首を掴んでいない逆の手で、苦しそうに心臓の部分を服の上から握り締める。


「忘れさせられるんだぞ?どんなに苦しいと思う!苦しいなんかじゃ足りないくらい、どれだけその現実に悶え暴れたか…っ」


想う権利も、後悔する事も出来なかったって言うのか?それって一体…ダークは、どんな過去を持っているのか想像も出来ない。


「ダーク、どうやってそれを…」

「……殺してやる、その人を奪い取った奴を…それだけを思った。憎悪を持つ事は只許されるからな、それだけを活かして無理矢理自分を振るい立たせて」


最後にそれを言うと、ようやくオレの首から手が離れた。
それでも立つ気が起きないオレはまだ視界にぼやけた青空を映したまま


「俺を、あまり高く評価すんな。俺はテメェが思うほど、立派な生き物じゃねえんだ」

「……」

――ぶるるっ


…?ダークとオレは聞こえた鳴き声に同時に振り向いた。
ココから離れた所に浮き立つ、橋で繋がれた孤島の上。そこに何故か、舞の愛馬のエポナがいた。

惜しむように佇む巨木に擦り寄ったり、トライフォースが描かれた盤の上で項垂れたりしている。
凄く、悲しそうに


「エポナ…何を?」

「…主人の匂いを嗅いでるんだろう。あそこは以前、舞が散歩に出ていた場所だからな」

「え?」


そんな事、彼女がしていただろうか…前にココに来た時は、直ぐに神殿に行き、直ぐにカカリコ村に向かったのに


「テメェが空腹でぶっ倒れた時だよ。あの時あいつ、あそこに立ってハイリア湖を眺めていた」

「舞が?…そう、なのか…でも、それを何でエポナが?エポナは水が苦手だから、あんなに細い橋を自分から渡る事しないのに」

「馬は動物の中でも知能が高いと言われてる。だから懐くまでは警戒心が強い分、信頼した主人には忠実に従う」


ああ、だからオレも蹴られたんだ。森の前での事や、デスマウンテンでの事を思い出せば、自然と納得できる自分がいる。


「主人がいなくなって、どうしたらいいのか分からないんだろうな。
…見ろよ、何か気づかねえか」

「え?エポナの事?」


何か変わった事があるだろうか。一見何も分からないエポナに、オレは何一つ理解できずに首を傾げた。
ダークはそんなオレにため息をついて、また瞳を細めた。


「1つはあの馬がさっきから舞の行った場所ばかりうろついている事。もう1つは、あの背中に積んだ荷物の量だ」

「あれ…そう言えばエポナ、あんなに荷物積んでだっけ?誰が乗せたんだ?」

「誰も乗せてねえ、あの馬が自分で乗せたんだ。よく見てみろ…荷物がぐちゃぐちゃになってんだろ」

「!」

「いつでも主人を助けに行けるように、あの馬も何かしらしようとしてんだ」


視線の先にいるエポナは、ぐるぐると同じところを回ってばかり。止まっては悲しそうに目を瞑って俯き、突発に歩き出してはまた止まる。
じっとしてられないのが見てて伝わってくる。


「………」

「…俺はもう一暴れしてくる。暫く、渓谷の道には入ってくんなよ」


ダークは一言忠告すると、ヒュッと空を切って剣を振った。もう一暴れと言う事は、さっきまでずっと戦ってたと言うことか?


「ダークは、それで上手くいってるのか?」

「…何とも言えねえな」


それだけ言い捨てると、肩に剣を担いでダークは渓谷へと向かう。
『何とも言えない』その言葉は頼りなさそうだけど、ダークの背中を見ると全然そんな事思わせない。


「…皆、頑張ってるのか…」


俯いた視界に、何か丸いものが入った。それはさっきダークが落としてきたもの
片手で拾い上げると、それが何なのかようやく気づいた。


「缶…?…まさか、ダーク」


落ち込んでるオレに持ってきてくれたのかな…何でだかそれを見ると、無性に泣きたくなる。
今は飲めそうにない、それを横にコトッ…と置いた。

ふらり、と立ち上がった自分は情けなくも力ない。自分だけ何もしていないと言う事実が、自然と体を動かす。


「強くならなきゃ…オレも、強く…」


ダークのお陰で立ち直れたと思った心は、只自分の不甲斐無さを思い知らされただけで、あまりしっかりしているとは言えたもんじゃない。

また、遣る瀬無い気持ちがふつふつとよみがえってきた。


「っ、どれだけ暴れれば気が済むんだ、オレは…っ」


握りこぶしを作り、それは額へと向かう。項垂れそうな頭を抑える為に



「―――!!――!」

「…え?」


すると、耳に大きな誰かの声が届いた。
オレの耳が揺れて、その人物を探し出そうと動いた。少しずつ、釣堀に近い方向に向かって歩くと、その声がだんだん大きくなっていく。

何歩進んだろう、ポツンと立ったカカシの近くに、誰かが見えた。蹲っているからか、その影はとても小さい。


「あの…大丈夫?」

「うっ…えっく…!」


どうやら泣いていた様で、オレの声に気づいた小さな影は、涙で塗れた顔を上げた。
腰元まである長い髪の毛は、サリアより色素の薄い緑色。服も、白と黄色と緑と…明るい色で彩られたスカート。

背丈はオレの腹辺りの、まだ幼い女の子だった。


「何を泣いてるの?こんな所で、何かあった?」

「ひっ…お、落としたの…」

「落とした?落し物ならオレ、探すの手伝うよ?」

「ほ、ほんとぅ…?」


不安そうに涙で潤む瞳が見上げてくる。涙が零れないよう、必死にオレは顔に笑顔を広げた。


「ああ、勿論。お兄ちゃんに任せとけ!で、何を探してるんだ?」

「ぐすっ…ハート……」

「へ?」

「ハートなの…っ、ハート、探してるのぉ…」


女の子はそれだけ言うと、また悲しそうに眉間を歪ませた。わわ、また泣かれる!?


「わ、分かったよ!えっと…ハート、だな?お兄ちゃんが探すから、泣かないで!な?」

「うっ…うぅ…」

「大丈夫だから!君は此処で待っててな?お兄ちゃん向こう探してくるから」

「ひく…う、うん…っ」


くしゃり、と思った以上に柔らかい髪を撫でて立ち上がる。不安そうに見上げてくる女の子に笑いかけて、オレは草むらの集まる場所へと足を向けた。

…それにしても、大変な事になったな…


「探し物は別にいいんだけど…ハートって何だ?」


ハートの器の事かな。それだったら分かるんだけど…
意味の分からない『ハート』探しは、どうやら熾烈な戦いになりそうだ。


「ハート、ハート…と」


生い茂る草むらの中を見渡し、手探りで探す。そんな影は1つも見当たらないけど…まさか、湖の中に落ちたんじゃないよな!?


「どの辺に落としたか最初に聞いておけば良かったなー」


後悔しても後の祭り。今更聞きに戻るのも何だし、それらしい所を直感で探すしかないか。
こんなに真剣になるんだったら、舞を探しに行く方法を探す方が………


「………舞…」


忘れかけてた、自分の弱さと脆さ。改めて思い出すと、さっきまでの自分は何処に行ったのか、またオレは落ち込んでくる。
また心が早く早くと急かすあまり、オレは目で探す事も忘れて、ただボーっと歩くだけになった。


「はァ…何やってんだろ、オレ…」


自分のやるべき事も分からないまま、こんな事してていいのか。
何だか自分がよく分からなくなってつい頭を抱える。頭の隅で探さなきゃいけない事を思い出して、頼りない視線を動かしながら……―――


「―――え?」


視界の隅に小さな黒い影が…
ハイラル湖から渓谷へと流れる谷間、そこに小さく流れる河川がある。そこに何気なく視線を移すと…見えたんだ。

慌てて体も顔も全部向けて見ると、いっぱいに開かれた視界にきっぱりと映った。


「な…舞!!?」


そう、早くと心が急かした張本人が!
足がつくほどの河川に、舞が岸に凭れ掛かる形で水に浸かっていた。とは言っても腰元辺りまでしか浸かっていないから溺死の心配はないと思う。

でも川が小さい分流れも速く、彼女は気を失ってる。このまま放っておくと、いつ流されても可笑しくないぐらい不安定なんだ。
何より、ようやく見つけた人を放って置けるわけがなく


「は、早く岸に上げないと!」


女の子の事も忘れて、只彼女の元に行きたかったオレは全力で足を動かした。
此処からだとそう距離も遠くない、まだ1日しか立っていないのに、オレの鼓動は近づくに連れて徐々に大きくなっていく。

早く、早く舞を…!


「うわあぁあぁぁぁぁ!!!」

「!?」


だけど、そんなオレを邪魔するようにまた大声が聞こえた。今度はもっと近くからで、走りながらオレは視線だけ横に移した。

いた。大声を上げたのはまたもや小さな子どもで、でも今度は2人いる。
10歳くらいの少年少女が、渓谷へ続く道付近でスタルフォスに襲われそうになっているではないか!!


「なっ、危な―――」

ガラッ

慌てて方向転換しようとしたオレの耳に、今度は岩の崩れる音が。
聞こえた方向は舞がいる所…よく見ると、彼女の体を突っかえて進行を止めている大岩が壊れそうに!

あの岩はもう2分も持たないだろう、直ぐに助けに行かないと、岩が崩れて彼女が流れる!!


「で、でも…」


横目で見れば、泣き叫ぶ子どもたちは必死にモンスターから逃げようとしている。
でもやはりスピードは向こうの方が上で、こっちも長く持ちそうにない。


舞をとるか、子どもたちをとるか。

舞をとらないと、また自分を追い込むぞ?
子どもたちをとらないと、確実に2つも命がなくなるぞ?

両方をとる事は出来ない。選べるのはどちらか…1つ!


「…っ」


ぎりり、と無意識に握った手を無理矢理解き、決心したオレは駆け出した。
全力で走り、向かう先にいる人物へ――


「くっそおぉぉぉぉぉ!!!」


――ザンッ!!

瞬時に抜刀したマスターソードで、剣を振ろうとしたスタルフォスを突き刺した。
一撃で薙ぎ倒されたスタルフォスは蒼い炎に包まれて消える。くそっ、舞は!?


「舞!!」


直ぐに振り返った視界には、丁度完全に砕けた大岩の姿が!間に合わないっ、流される!!


「くそっ、舞!!」


―――フッ


「――っ…え?」


急いで向かおうとしたオレの目の前で、今正に流されようとした舞の姿が消えた。
彼女だけじゃない、砕けた大岩もなくなり、振り返った途端、今助けたばかりの子どもたちの姿も消えた。

残像も残す事無く、全てが『無』に帰った。


「な、何で…どういうことだ?」


「大丈夫だよ、死んだわけじゃないから」

「!!」


背後から突然現れた気配と声に体が大きく跳ねた。振り向き様に剣を構え、相手の姿を視界に捉えた。
そこにいたのは…さっき、オレに探し物の手伝いを頼んだ女の子。


「元々いなかったんだよ。ただそれだけ」

「いない?だ、だって今…」

「全部あたしが作ったの。とっても凄いでしょ?」


自慢げに、でも楽しそうにくすくす笑う子は、全然さっきの子と似ても似つかなかった。
外見はそうでも、まるで中身が…突然大人びたように。


「き、君は…一体、誰なんだ?何で、こんな事をする!?」

「言ったじゃない、ハートを探してるって。その為に必要な事だったんだよ、時の勇者」

「!!なっ、オレの事を…!?」

「勿論。だって…―――」


口元を綻ばせ、中途半端に言葉を終えた途端、回り一帯に吹く風が変わった!


「う、うわ…っ!!」


舞い上がる土や葉っぱに思わず両手で防ぎ、何故か平気そうに笑う女の子に何とか視線だけ向けた。


「貴方を選んだのは…この私」


ゴォォッ!!
音がはっきり聞こえるぐらいの豪風が一瞬吹き、徐々にその威力も弱まっていく。完全に視界を防いでいたオレは、風が完全に止むのを見計らい、ゆっくりと目を開いた。

視界には、さっきまでの女の子が入らなかった。
その代わりに……見知らぬ『少女』が、まるで風のように存在していた。


「なっ…」


突然現れた少女に今度は目が大きく開く。緑色の髪をお団子に結んだ少女は、閉じていた瞳をゆっくりと開くと、確実にその丸々とした瞳にオレの姿を映す。


「紹介くらい、仕来たりを守らなくちゃね」


唯一変わらない楽しそうな笑みを浮かべて頭を下げると、小さくその唇を動かした。


「初めまして時の勇者、我が名はフロル。三大神が1人、勇気を司る女神です」






Next Story.