40.桃色リメンバー

浮かぶのは、電波の悪い映像音。

まるで壊れたテレビのように、黒の横線がザー、ザーと音を立てながら引かれていく。

姿を変えた空間は、あたし達が実際今いる部屋。

只違うのは、今よりも傷跡や血が少し少ない事と、


そこに誰かが住んでいる跡が残っている痕跡





桃色リメンバー





おはようございます?女子高生です、リアリティ溢れたお化け屋敷宛らの部屋で頑張ってます。
スタルフォスのスーちゃんに紹介された黒馬と共にダークの過去を探っているわけですが…これがまた意外な萌えが勃発しておりますわけでっ
耐えるのにどんだけ必死な事か…いい意味で心臓に悪い。

……それは兎も角


「今度は何処?あたし達がいる部屋と変わらないように見えるけど」


黒馬も否定しない様子を見せない辺り、多分そうだろう。
また一段と不気味に感じる部屋内に体を震わせる。


―――ゴォン…
すると、部屋の中に重苦しい轟音が響き渡った。それが鋼鉄製の扉が開かれた音だと気づく。


「!誰か来た…?」


視線を移した入り口からは、凹凸の2人組みが姿を現していた。思わず、体の動きがピタリと止まる。

大きい方は光がない分、蝋燭の光で眩しく光るデコが眩しい。これで分かった貴方には拍手を送ります。
小さい方は…蝋燭と同じ燃える赤を宿した虚ろな瞳。
もしかしなくとも間違いない


「ダークだ」


確信を持てた人物に目をくれていると、黒馬も少し反応を見せていた。


『いいか、今日からお前は此処で隔離する。明日の訓練に備え、身を休めろ』


ドン、と背中を押され、ダークは小さく呻きながら倒れた。変態魔王は心配の様子も見せず、マントを翻して入り口へ向かう。
取っ手に手を掛けると、首だけ後ろへ振り返った。


『この部屋にある本も全て読破しろ。その何もない脳みそに知識を叩き込んでおけ』

「Σなっ!!」


流石に今の言葉は聞き捨てならない。何事もなかった様に振舞う変態魔王に口だけ迫りたてた。


待ちなさい禿げ!!ダークに脳みそないですって?おのれこそ蛆虫生えまくった脳にネジ巻いてしっかりさせないよ!!その腐りまくった脳内に埋め込んだ蛍光ピンク蛆虫払い落としてから口の聞き方を…、ってちょっと!聞きなさいってばっ、ねえ!!」


バタン!と閉められた音と奴の遠のいていく足音に血管がぶち切れた。
向こうに声が聞こえないとは知ってても、心の中で怒りが膨張。


「あの親父、帰ったら残り少ない命(髪の毛)全部刈ってやる


密かな呟いたあたしに、止めてくれと馬が言った気がした。
(テレパシー?)
重い溜め息をついて頭を掻くと、ずず…と何かを引き摺る音が近くから聞こえてきた。
見ると、重たい体を引き摺っているダークの姿がそこにあった。


「だ、ダーク!?何やってるの、休んでないと…」


駆け寄って彼に近づくと、己の目が限界まで開いた。
彼の体に刻まれた傷…それこそ、切り傷や擦り傷と色んなものがある。

きっと体に激痛が走っているのに、その小さな体を壁に寄りかからせ、震える手で本を持つ姿は痛々しい。


「ダーク…」


名前を呼ぶ事しか出来ないあたしの目の前で、本を虚ろな目で追うダーク。
思わず手を伸ばそうとすると、拒むように景色がザザッ…と音を立てて変わる。

………


「黒馬さん、恋に障害はつきものと言いたいのねいでっ!!


言い切る前にまたもや前足で蹴られた、しかも今度は腹を!
お、お腹の子が…っ(注・いません)




―――キィィン!

痛みにピクピクしていると、剣と剣がぶつかり合う甲高い音が耳に入った。
顔を上げると、姿を変えた景色が…剣をぶつからせている変態魔王とダークになっていた。


まだ幼さを残すダークには耐え切れない程、ガノンドロフは容赦なく攻撃を仕掛けていく。


『ハッ…ハッ…!』

『遅いぞ!!』


ギィンッ!と鈍く響く金属音に続き、ダークの体は地面に無残にも倒れた。


『何をしている馬鹿者が!!』


過呼吸で苦しんでいるのに、ガノンドロフは乱暴に立たせる。
体中が痙攣を起こし、瞳も虚ろに震えても、ダークはまた弱弱しく剣を握った。


『ま、だ…!』

『もっと前を見据えろ!そんな軟弱な腕で、時の勇者に敵うと思うな!!』


ガノンドロフの豪腕から繰り出される強打に、今度こそダークの剣が薙ぎ払われた。呼吸をするのも苦しそうなダークは、またもや体を地面に倒す。


『…っ!ぅ、うおぇぇっ!!』


もう流石に苦しいようで、痙攣で体を震わせ、あまりの過酷さに嘔吐した。


『…ぐっ!ぷハッ……ぅッ』

「…っ」


その光景にあたしも思わず目を逸らす。見ているこっちまで吐いてしまいそうだ。
見かねた黒馬が瞳を再度閉じて、また違う映像へと空間を歪めた。…けれど、あたしは、その黒馬の行動を止める。
ぶるっ、と鳴いた黒馬が見上げてきた。


「駄目よ…ダークが、頑張ってきた過去を見ないと…このまま続けて」


そうだ、どんなに苦しもうが、ダークの苦しみに比べれば何てことない。此処で頑張らないで、いつ頑張れと言う。
必死な思いが伝わり、黒馬は光景をそのままにしてくれた。


それからと言うもの、流れていく映像は酷かった。
黒馬が見せたのは、ダークとガノンドロフの訓練と言う名の拷問の数々…

どれだけ倒れても、出来るまでダークは立ち上がる。回数を重ねるごとに、彼の体の傷が増えていく。
あたしは必死に口を覆いながら、その彼の過去を見ていった。


『今日は終わりだ。明日も忘れるな』


訓練の終わったダークをモンスターが部屋に運び、誰もいなくなると、ダークは安心したように眠る。
傷の手当てもされないで、痛々しい痕が彼の体に残ったまま…


「ダークは…彼はこんな毎日を、過ごして来たの…?」


どれだけ苦しかったろう、幼い体に、想像できないほどの憎悪と拷問を被せられて…
痛くなる胸を押さえると、黒馬はまた瞳を閉じた。



―――ザザッ


次に映ったのは、さっき見た時より少し成長した彼がいた。
とは言っても、まだ全然幼いダークはまたも苦しそうにしながら部屋にある本を読んでいた。


「まだ言いつけを守ってるの…」


読み終わったんだろう本は、既にもう山となって積み重ねられていた。
じっ、と静かに本を読んでいるダークを、あたしも只じっ、と静かに見つめた。


『…?』


ふと何かに気づいたのか、彼は顔をほんの少し上げた。
そして視線は、鋼鉄製の扉へ。読んでいた本を地面に置くと、彼は頼りない足取りで扉へ向かった。


「(誰かいるの?)」


背伸びをして、ドアノブに手をかけてゆっくりと回す…
すると…


『……!』

「あ」


扉の先には、何と階段をよたよたと下りてきていた、ダークと同じ傷だらけの小さな影が…
苦しそうにしているのは小さな黒い馬…小さい頃の黒馬だ。銀の鬣だ、間違いない!


『お前…どうしたんだ…?』


好奇心が上乗せたのか、ダークは小さな手を伸ばす。だけど、子黒馬は今ようやく彼の気配に気づくと、動物特有の威嚇を示した。
ダークは肩を跳ね上げると、力なく腕を戻していく。


「い、今のダークじゃ考えられない行動…」


思わず口が開くあたしは、呆気とした様子で子どもダークと子黒馬を見つめた。


――カツン、カツン

すると、石造りの階段から足音が高く響いて聞こえた。その途端、黒馬は振り返り、またもや傷だらけの体を懸命に動かそうとした。
足音の持ち主から、逃げようとしてるんだ。ダークも感づいたようで、子黒馬と部屋を交互に見比べる。


『き、来て!』


ぐい、と子黒馬の体を後ろから押してダークは部屋の中に入れた。あたしも追いかけようとするけど、先ず足音の人物が気になって、今の黒馬と共に扉付近で待つことにした。

数秒と経たない内に階段を下りてきたのは…
紛れもない、変態魔王そのものだった。


「もう体が逃げようとしなくなった…慣れって恐ろしいわね」


と言っても実際の奴が来たら即刻逃走するぞ、あたしゃ。
したくもない想像に体を震わせている間にも、ガノンドロフは鋼鉄製の扉を開け放った。あたし達も一緒に入ると…


「!」

『オイ』

『ガノンドロフ様、どうしましたか?』


何と、部屋の隅に座ってさっきと同じく本を読んでるダークが。
子黒馬の姿が見当たらないけど…あれ?さっき間違いなく、一緒に入ったはずじゃ…


『此処に黒い子馬が来なかったか?』

『黒い、子馬…?いえ、見てませんけど…』

『…本当か?嘘をついてると容赦はせんぞ』

『知りません。』


きっぱりと、確かにダークは真っ直ぐな目で告げた。ガノンドロフも暫く見下ろしていたけど、鼻で笑うとまた部屋を出て行った。
ガシャンッ、と無造作に閉められた扉の音が静かな部屋に木霊する。

そして、待つこと数分間…


『…っ、ハー…』


どっと冷や汗を噴出したダークは、額の汗を拭う。完全にガノンドロフの気配が消えた事を確認してから、壁にかけられた薄布を捲る。
すると、そこに壁に凭れ掛かった弱弱しい子黒馬が確かにいた。ダークが上手く隠したんだ。


『もう、行ったよ…出てきて、いいよ』


ダークは優しく言うと、子黒馬を見つめた。
例えかくまってもらえても馬としての警戒心は働くらしい。


「従弟関係ってまさか…黒馬の方が上だったの?(汗)」


あたしの隣に立つ黒馬が軽く足で蹴ってくる。その行動で違うと言う事は分かった。
だけど過去のこの光景を見るとどうもね……


『怖がってるのか…?怖くないよ、別に』

『………』

『……。馬って、何か、好きなものあったかな…』


懐いてくれない子黒馬にダークも困ったようで、資料探しに本の山へ向かった。
数十冊と詰まれた本に手をかけようとした彼の足に、硬いものがカツン、と当たった。


『…?――…あ』


彼が音も立てずに足に当たったものを両手で持ち上げる。
それは銀のトレーに乗せられた、彼の為に用意された精進料理だった。やっぱりちゃんと食事は摂らせてもらえるんだ。


『………人参』


一言何か呟くと、ダークはお皿に乗った野菜の中から赤いものを寄せ集めた。


『馬って…人参、好きだった…』


自分の中で解決すると、彼は黙々と人参を別のお皿に寄せた。
まるでその姿は自分の嫌いな野菜を寄せているようで、つい笑いが零れてしまう。真剣にやっている分尚更の事。


『お腹は?』


コトリ、と小さな音を立ててダークは人参入りのお皿を馬の近くに置いた。述語が抜けている辺り、彼が子黒馬の反応に期待をしてる事がなんとなく伝わる。


「(ダーク、こう見たら普通の男の子なんだけど…)」


ホント、微笑ましいと思う。
ダークが静かに待つ中、子黒馬は全く手をつけようとしない。それどころか、ふい、と顔を背けようとしている。


『食べない…』

「馬は特に警戒心が強いからねー…初対面には懐かないと思うけど」


まるで会話をしているように忠告。当然だけど聞こえていないダークはそれでも諦めようとしなかった。


『食べろよ…お前、死ぬよ?』


半ば強引にお皿を押し付けるダークに、子黒馬はまた威嚇した。
今度は彼も怯える事無く、寧ろ尚更近づこうとする。

それにしても、どうしてこうも必死なんだろう?何か特別なものでもあるように見えるけど…


「馬のこと、好きなのかな…?」


小首を傾げながら呟いた疑問は、間もなくダークによって解かれた。


『…お前、僕に似てるんだ…』

「!」


似てる…?


『何でか分かんないけど…苦しそうだし…生きてるの、辛そうだし…
…同じ、独りぼっちみたいじゃんか……、放っとけないよ…』


ぽつりぽつり、と呟くダークは少し悲しそうに俯いた。
子黒馬と自分が似ていると言うんだろうか?同じ境地に立たされている仲間に見えたのかもしれない。

そうでなくとも、彼自身その立場にいるという事を理解してるんだ。
…何て悲しい理解…










…カリッ


『――!』


何かに気づいたダークは勢いよく顔を上げた。
その先には、小さく刻まれた人参を齧っている子黒馬がいる。それは間違いなく、ダークが差し出した人参。


「す、凄い…あたしなんて、エポナと以心伝心するのに1ヶ月かかったのに…」


…何か、無性に自分たちの友情が悲しくなってきたな。
黒馬、そんな哀れみ視線をあたしに送るのは止めてくれ(切実)


『た、食べた…っ』


目を開くダークは、少し震える手をもう一度子黒馬に伸ばした。
一瞬、子黒馬も身を揺らしたけど、さっきのように威嚇する事もなく、ダークが伸ばした手をじっと見つめた。

間もなく、ダークの小さな手に顔を摺り寄せながら


『――っ!』


ダークは、思ってもいなかった事に大きく目を開いた。
擦り寄ってくる子黒馬に触れる手をそっと自分からも這わせると、血色の悪い顔に少し赤みが差した。


『やっ、た……っ』


照れて笑いながら、ダークは泣きそうな顔でぎゅっと震える両手で子黒馬に抱きしめた。拠り所を見つけた赤ん坊のような彼を、子黒馬も優しい瞳で見守る。


―――ザザッ

闇だけの居城にはない筈の暖かな光景に見入っていると、その光景もまた音を立てて消えていった。
落ち着いたあたしは一息をついた今の黒馬へ視線を戻した。


「そっか、今のは貴方とダークの出会った頃のものね…」

ぶるるっ

「あたしはてっきり、ダークの萌え顔を拝ませる為に見せてくれたのかと……
あ、すんません謝ります。だからその前足下ろしてください


今度こそ確実に仕留められてしまうから。
まだ鋭い視線のままゆっくりと前足を下ろす黒馬に少し冷や汗を流しながら空笑い。
あははー、…笑うっきゃないな(汗)


「それにしても、ダークは子どもの頃あんなに素直だったのにどうして性格が変わったの?」


あたしが言った疑問に少し黒馬が反応した。その証拠に顔を上げてくる


「過去の事は分かったけど…貴方知ってる?」


子どもの頃傍にいれたら、あたし好みに蝶よ花よ可愛い純粋坊やに仕立て上げたのに!!
いや、今のままのツンデレも美味しいけどもっ

2つの萌えストックに苦しみ悶えていると、また回りの景色が音を立てて歪んだ。
黒馬を見ると目を瞑っている。そうか、また過去の映像を映すつもりなんだ。


―――ザッ、ザザ…


カタカタッ…

『――コンディションOK、ボディ破損ナシ。異常アリマセン』

「(今度は研究室?)」


最初にも見た研究室の中、色んなコードを取り付けられたダークがゆっくりと瞳を開いた。


『構イマセンヨ勇者ノ影様!オ部屋ニオ戻リ下サイ』

『っ、その名前で呼ぶな!!』


プレートのついた白衣を脱ぐと、ダークは何も言わずにさっさと部屋を出て行った。


バタンッ

『忌々しい…勇者なんて、僕は絶対に認めない…っ』

「!」

『絶対だ…』


子どもに似合わぬ鋭い目つきで何処かを睨むダーク。この頃からリンクの事を敵視してたんだ。
…今、あんなに仲がいい(?)のが嘘に思えるわね、今更だけど…


ダークは憎悪を込めた瞳のまま廊下を歩く。…けれど、1つの扉を見つけると一瞬だけピタリ、と止まり、途端に表情を明るくした。

ダークが嬉しそうに駆け寄って手を掛けたのは、真っ黒で何の飾りもないシンプルな扉。


――ガチャッ…


控えめに開かれた扉から、ひょっこりと顔を覗かせて中の様子を探る。
静かな何もない部屋に耳を澄ます事数秒、部屋に木霊するよう声が響いた。

ヒヒィンッ

『!あっ』


鳴き声の張本人を見つけ出すと、ダークは扉ゆっくりと閉めて部屋の中に駆け込んだ。
暫く広い部屋の中を駆け、ある地点に着くと足に力を入れてジャンプする。
狙う先には―――


『馬!!』


まんまか。嬉しそうにするのはいいけどか。
飛びつかれた子黒馬も嬉しそうに目を細めているから別にとやかく言うつもりはないけど…

さっきのダークの慣れた様子を見ると、もしかしていつも会いに来てるのか?
…………


「健気な子!!(くっ)」

『なあ、僕考えてたんだけど』


…………ツッコミ役がいないというのは辛いものですね。
ボケにとって一番辛い無視に項垂れるあたしを他所に、ダークは子黒馬に乗りながら口を開いた。


『呼ぶ時さ、呼びにくいからさ…呼び名、つけようと思うんだけど』

ぶるっ

『名前って奴なんだけど、個々の名称として表す氏名なんだ。だから何かいいのないかと思って…』


部屋をそろりと出て行く子黒馬の背に揺られながら、ダークは鬣に手を這わせた。
何にしよう…と唸っていると、何かに気づいたようで鬣に顔を近づけた。


『あ…、お前、プレート付けられてるのか…』


鬣で少し隠れた場所に、後ろに回っていたプレートの板があったんだ。それに手を掛けて、ダークは瞳を細くして文字を読み上げた。


『ゼロ…ろく、ろく、ろく…?お前の番号、これ?』


小首を傾げながら聞くダークに、子黒馬も小首を傾げた。
少しあたしも気になってダークの後ろからこっそり板を覗いてみた。


「O−666?…ぜろ?ダーク、『オー』を『ゼロ』って呼んだのね」


何て子どもらしい間違い、あのダークが…可愛いところもあるのね〜!
抑えきれない笑い声を抑えても、指の隙間から声が漏れる。


『んー……ろく、ゼロ…―――…!そうだ…っ』

ぶるっ

明るく顔を上げたダークに、また子黒馬は小首を傾げた。


『お前の名前、ゼロ−ろくろくろくからとって、ゼロって言うのにしよう!な、どう?』


覗き込む彼に、子黒馬は金色の瞳を細めてヒヒンッと短く鳴いた。
嫌がっている様子がない辺り、きっといいんだろう。ダークもその反応に嬉しそうに瞳を細めた。


『決まり、お前は今日から、ゼロな』


自分にはない名前が決まった事に少し2人の足取りは軽くなった。


「ゼロ…それが貴方の名前?」


こっちの黒馬に視線を這わせると、さっきの子黒馬と同じようにヒヒンッと短く鳴いた。
中々カッコいい名前だけど、まさか子どもの勘違いが名前になるとは…せめて六の方を使えばよかったのに(汗)


子黒馬――改め、子ゼロとダークは見張りに見つからないように慎重に部屋を回る。
子ども特有の好奇心が働いてるんだろう、その表情は悪餓鬼大将のようなものだ。近所で見かけるような普通の子どもに見えるのに、体にある多くの傷は全く違う。








『何をしている!!』

『!!』


突然、廊下に渡るほどの大声が響く。ダークの体が大きく跳ね、一瞬にして顔を青く染めた。
今の声は間違いない、あの変態魔王の声だ。けれど辺りを見渡す限り、奴の姿は見当たらない。

辺りを見渡していると、先に気づいたダークが1つの扉を見つめた。あの部屋から?

どうやらその通りのようで、ゆっくりと近づいたダークは小さく顔を覗かせた。後ろからあたしも覗くと…いた、奴が。


『余計な事をするな!馬鹿者が、さっさと終わらせろ!!』

『ス、スミマセンガノンドロフ様!』


モンスターが頭を下げている辺り、何かしでかしたんだろう。此処からは見えない何かに改めて向き直ると、変態魔王はくつくつと笑い出す。


『何に笑ってるんだろ…?』

『ふんっ、中々の出来だ…やはり、笑顔が似合うな』


だからキモいぞおっさん
不気味に笑う変態魔王は正直退く。うーん改めて見ると気味悪すぎる。


『……変態…』

「ぶっ!!」


流石に気味悪く思ったのか、ダークも冷たい目で小さく呟いた。
仕方がない、それが正しい反応よダーク。でもまさか変態と的確につくとはっ

冷めた目で見ていると変態魔王がこっちに向かってきた。多分出て行くつもりなんだろう。


『!うわっ、こっちに来る…!?』


慌てふためきながらダークは何処か隠れる所を探し出す。
でも変態魔王は止まらずに入り口へ向かってくる。ダークが大きく目を開いた瞬間!


バンッ!
――ガンッ!!



『ガフッ』

『…ん?何だ、今の音は』

『サア?』

『…ふん、まあいい…それより、部下の手配の件だが―――』


カツン、カツン…と高いヒール音を立てて変態魔王は遠ざかっていった。誰もいなくなる廊下には静寂だけが残る。
因みに、姿の見えないダークと子ゼロはというと…


キィ…
『……イタい』


扉の間に挟まれてた。


ぶはっ!!な、ナイスアクション…!!(ぐっ)」


真っ赤になった鼻を押さえてずるずると扉の間から抜け出てきた。
流石はダーク、つまらぬお城に笑いを齎してくれたのね!その姿はさしずめ笑いの神の使い!!

全力で笑いたいところだけど、震えながら頑張ってるダークと子ゼロの為に堪えてやろう。


『な、何見て笑ってたんだろ…見てみよ、ゼロ』


改めて背に乗りなおすと、誰もいなくなった部屋へ踏み入った。
ふらふらな体が入っていく様に、失礼ながらもやはり笑い零れる。



『―――え?』


突然、部屋に入った2人が止まった。視線をやれば、何かを見つめて驚いている。
何かあったのだろうか?気になったあたしは、ゼロの額に手を翳したままダーク達に続いて部屋に入った。

十歩もない距離を歩き、部屋に入った途端……あたしの視界にもダーク達と同じものが入った。


「!!な…っ」



それは大きな額に飾られた絵画。
それだけならば別にどうって事ない、只…そこに描かれているのは、真っ白な服に身を包んだ、真っ黒の髪の毛を肩までに揃えた満面の笑顔で笑う少女。

見間違いでなければ、それは紛れもなく…


「な、7年前の…あたし…?」


紛れもなく、子ども時代のあたし自身だ。な、何であたしの絵がこんな所に…
…Σハッ!?ま、まさかさっきの変態魔王、これ見て笑ってたと言うんじゃあ…!?


ッギャーーー!!気持ち悪いぃぃぃい!!」


ぞぞっ、と一瞬にして鳥肌が!そうだった、あの親父が7年前から腐れてたの忘れとったーーー!!
いつか捕まるぞおっさんっ、本当にこの時のあたしだと犯罪の域に入ると言うのに!(汗)


『これ、は…?』


ダークの声にようやく我に返る。彼は壁いっぱいの大きさで描かれたあたしの絵を只見上げた。


「ちょっ、ダーク!そんなの見たら腐るわよ色々と!!

『女の子だ…』

「話を聞け少年!?直ぐにでも目逸らさないと嘔吐するかモラトリアム起こして―」

『……綺麗…』

「……………はい?


今なんか、体がピシッッって音立てた。
恍惚な視線はそのまま、ダークは半分抜け殻状態でじっと絵画を見つめる。


「え、どうしようゼロ。ダークあたしのブ顔見て魂抜き取られていったんちゃう?


んなわけない、そう言った様に彼は首を横に振る。
そうか、それならいいけど…第一そんな事あればあたしはショックの腹いせに変態魔王ぶん殴るわよ全力で。


『これ…何だろ……見てて、気持ちが浮くような…』

「それってやっぱり魂が逝こうとしてるんじゃ」

『よく分かんないけど…気持ちいい、のかな……』

「高く評価しすぎよダーク!この笑顔はもしかしたら裏で―――…!」


あまりにも褒めるもんだからダークに一言言ってやろうと回り込む。
その時、初めて気づいた。あたしが描かれた絵画を見る彼が…見たことがないぐらいの穏やかな表情だった事に


「だ、ダーク…?」

『…なあゼロ…これ、誰だろ』


当然だけど子ゼロはこの頃は全く知らず、ぶるるっと鳴くだけで終わる。


『だよな…知らないよな…、でも、知りたい…』


穏やかな表情は変わらず、少しだけ残念そうに眉間に皺を寄せたダーク。
少し俯くと、何かに気づいたように勢いよく顔を上げた。その目は驚愕に開いている。


『そう言えば…ガノンドロフ様がさっき……【笑顔がよく似合う】って言ってたけど…
…笑顔?』


きっと笑顔と言うものを知らなかったんだろう、この城には全くと言うほど無関係だから。
ダークは、笑顔…ともう一度小さく呟く。


『……ゼロ、この部屋…覚えとこ』

ぶるっ

『また来たいんだ…此処に来て、また……』


そこまで言うと、まるで遮るように廊下から靴音が響く。彼らもすぐに反応して、見つからないように隠れながら部屋を退散していった。



――ガチャンッ

子ゼロと別れ、自分に充てられた部屋へと帰ると、ダークは直ぐに分厚い辞書を引っ張り出した。
パラパラッ、と捲っていき、辿り着いたのは『笑顔』の書かれたページ。


えがお【笑顔】
・うれしさを表すため表情を和らげる事。ほほえむ事。

『笑顔…嬉しさを表す……微笑み…』


忘れないようにだろうか、何度も【笑顔】を呟き返すダーク。暗くてよく分からないけど…少しだけ彼の表情が暖かく和らいだ気がする。



――ザザッ…


「ん?」

『――ゼロ、ちょっと持ち上げてくれる?』

「!」


またさっきの部屋に来ているダークが、子ゼロの背中に乗って絵に触れようとしていた。

――ザッ

『誰もいないよな…』


今度はきょろきょろと部屋を見渡して警戒しながら部屋に入っていくダークと子ゼロが。


――ザッ、ザザ…


ほんの数秒ずつでゼロは景色を次々と変えていく。でもそれは全てダークと子ゼロが絵画を見たり、時々触れたりと少しずつ違っていた。
ダークと子ゼロの毎日を流してるのか?いやそうだとしても…


「いつもダークとゼロは、あたしが描かれた絵画を見に行ってたの?」


あたしの問いにゼロは確かに、首を縦に振った。
そうなのか…それでも、自分をいつも見られるのはいい気がしないと言うか…何と言っても恥ずかしい(汗)


―――ザザッ…ザッ


『なあゼロ…この子って本当に誰なんだろ…』


次に移ったのは、只地面に座り、子ゼロの背を撫でながら絵を見上げているダーク。
少し絵画の色が褪せている…と言う事は、大分月日が経った後なんだ。


『こんなに気になるなんて事…今までなかったのに…』


ぶるるっ、と小さく鳴く子ゼロを鬣に沿って優しく撫でる。


『…いつも、ガノンドロフ様から許されるのは、憎悪と憎しみを持つ事だけだった…』


そう言えば…ゼロが見せた景色の中で、そんな事を言われてた場面があったような…


『勇者への妬みとか、主への…媚を売ってくる無能な部下への怒りとかばっかりだったのに』

「変体魔王には気味悪さ持ってたんじゃない?」

『何だろ……この笑顔を見たら、全部抜けてくんだ…。自分のやった事が馬鹿らしくなってくる。
…気持ちがふわふわ浮かび上がるんだ…』


苦笑気味に呟いたダークは両手で膝を抱えて蹲る。


『……この子はもう…闇の支配下におけるこの世界から消えたのかな…』


今でもいるよ、この頃ならゲルド族の砦に


『…消えてないなら…消えてないのなら、……僕がこの子の笑顔を、守りたい』

「!」

『隣に立って、この強さをこの子の為に使って…笑顔を教えて欲しいな。
…変、かなァ、こんな事思うのって…』


少しだけ顔を上げたダークは、耳元まで赤い色がかかっていた。夢を見るような表情に、少しばかり悲しい色も交えながら。


『話して、歩いて、お礼も言ってさ…隣を歩けるなら、それだけでもいいから……』


ぽつりぽつりと呟きながら、苦しそうにぐっ、と眉間に皺を寄せた。


『っ、…会いたい…!』


強く瞑ると、とうとう堪えきれない苦しさを言葉で噛み締めた
思わずあたしは目が大きく開いた。どうしてこんなに苦しそうにするのかが分からないからだ。
…でも、それも直ぐに明確になる。


『どうして…っ、どうして僕が此処にいなきゃ…!こんな所に、いなかったら……っ、会いに行けたのにッ』

「!(そうか…ガノンドロフからの監視が続く限り、彼は1人で動く事が許されないんだわ)」


このぐらいの歳になれば、男の子でなくても飛び出して自由に動き回りたいというのに。
…可愛そう過ぎる


『何で、僕じゃなきゃいけないのさ…!!』



『それは貴様の運命がそう定められていたからだ』

『!?』


ダークの泣き声しか響かない部屋に、突然第三者の声が響く。拒絶に満ちたダークの瞳が捉えたものは、超越するようなオーラを身に纏っていた。


「(ガノンドロフ!?)」

『ぁっ…が、ガノンドロフ、様…!!』


途端にダークは絶望に満ちた表情でガタガタと体を震わせた。
冷たい目で見下ろすまま、怒りを含んだ表情で、ガノンドロフが見下ろす。


『勇者の影…貴様誰に断ってあの部屋から出たのだ?』

『う…ぁ、その……』


少しずつ距離を縮めながら、ガノンドロフは彼同様、隣にいる子ゼロを睨む。


『…やはり、貴様がこの馬を隠していたか…!!
舐めた真似を…貴様らにはそれ相応の罰を施してくれる!』

『!ま、待ってください…!こ、この馬はっ、僕が勝手に連れ出しただけでっ!!』

『問答無用だ!容赦はせんと確かに言ったぞ』


パチンッ、と指を鳴らすと、扉を潜って数名のモンスターがなだれ込んできた。
半々に分かれた片方の群れが、ダークの身柄を拘束する。


『は、離せよ!この野郎っ』


じたばたと暴れ、何体かのモンスターを拳で沈めるものの、呆気なく体の自由がとられる。
ダークは痛みに眉間を歪めるも、子ゼロの鳴き声に気づくと顔をバッと上げた。


『ぜ、ゼロ!止めろっ、ゼロに手を出すな!!』


必死に訴えても伝わらず、子ゼロは拘束器具を付けられて部屋から引きずり出されていった。

頭にきたのか、ダークも力の限り暴れて、拘束の手が緩んだ隙に飛び出した。


『ゼロ!!』


――ドンッ!!


『!!がっ…!』


飛び出す瞬間、ガノンドロフに頭を押さえつけられて地面に突っ伏した。
苦しそうに息を吐き出すにも関わらず、ガノンドロフは強く地面に押さえつける。


『ぐっ……か、は…っ!』

「ダーク!」

『今まで甘く見すぎた所為か…時の勇者が目覚めるまで時間もない、これからは徹底してやるぞ』


くっくっく…と不気味に笑うガノンドロフ。その威圧の大きさに思わず体を震わせていると、ダークが何かに向かって手を伸ばした。


『…はっ……、た、すけ…っ』


きっと無意識にだろう、彼は小さな手を必死に伸ばしていた。
向かう先にいる―笑っているあたしが描かれた絵画に向かって…

ガノンドロフも気づいたようで、ダークの手が伸びる行方を追う。見た途端、一瞬だけ目を驚愕に開いた。


『ほう…貴様、これが気に入ったか?』


他のモンスターに拘束を任せると、ガノンドロフは絵に歩み寄っていく。
ダークは押さえつけられながらもその行方を見つめる。


『気に、いる…だと』

『何だ、この女に惚れたか?くくっ』

『…っ、そんなんじゃ…ない…!』


ずず、と頑張って這い出ると、完全に見上げる事の出来た顔を絵画に真っ直ぐと向ける。


『は、初めて…大切だと思えたんだ!僕が、守ってあげたいって…!!』

『…』

『この力を……っ、あんたの為じゃない!この子の為に使うって、決めたんだ!!』


初めて反抗したダークはガノンドロフを睨んだ。まだ怯えが残るものの、彼の言葉にあたしは驚いている。
そんな事を言えば、裏切りとして罰が待ってるかもしれないのに……どうして、まだ会ってないあたしなんかの為にそこまで…

いつの間にか、見守るあたしの手も震えていた。


『…ふん、成る程。貴様の生きる糧がこれとなってしまったか』

『!』


カタン…と小さな音を立ててガノンドロフは絵画に手をかけた。
よく見ると、その手から何か禍々しいオーラのようなものが滲み出ている。


『いかんせん、見落としてしまったな。心を持つ必要のない完全なる影には必要のないものだ』

『!ま、まさか…っ!や、止めろ!!』

『最後の仕上げへの、最終段階と言ったところか…そうだろう?勇者の影』

『止めろおおおお!!』


嫌な予感がしたのか、ダークの表情がもっと悪くなる。その反応にガノンドロフの笑みも、拳から滲み出るオーラも増す。

ダークの目が限界まで開かれた。


―――途端、


バキィィンッ!!


大きな音を立て、笑顔が壊された。破片となったものがパラパラと地面に落ちて空しく色褪せていく。
小さな少年の赤い瞳は焼き付けるように大きく開かれたまま


「(そんな…!)」


ガノンドロフは手を離すとマントを翻してモンスターへ向かう。


『イ、イイノデスカガノンドロフ様?』

『構わん、直に本物を迎え入れるのだからな。
…そいつは第一拷問部屋に移せ!あの黒馬はツインローバの元へ運ぶんだ』

『ハッ!』


部下を言葉を交わす間、ダークは今まで以上に震える手を伸ばした。
もう何もない壁に、粉々になった、あたしの絵に向かって…


『っ、う…ぁあ…』


希望を無くしたかのように歪む瞳から、涙が落ちた。
今までどんなに辛い訓練を受けでも、勇者の影と言われて苦しんでも流す事のなかった涙を、たった1つの絵画の消滅に流したのだ。


『あぁっ…うっ、うぁあぁぁあぁぁぁ!!!』


額を硬い地面に擦り付けて、涙が地面に沁みていく。その姿は見てて、こっちまで胸が痛くなる。


『ふん…愚か者め。貴様が弱い証拠だ』

『…!!お…お前、なんか…っ
お前らなんか!全部っ全部大嫌いだっ!!』


背後から聞こえたガノンドロフの声に反応すると、涙で濡れる顔を振り向かせた。
憎悪と怒りしか篭っていない瞳は今まで見たことがないぐらい鋭く、その目はガノンドロフを貫く。


殺してやる!!!今に見てろ!!いつか時の勇者を殺してっ、その次にはお前も殺してやる!!』

「…っ!」


『そうだ…貴様は憎悪だけ抱えていればいい。』


満足そうに笑うと、ガノンドロフは方向転換して入り口へ向かう。
動じない相手に苛立ちが募り、ダークは耐えられないように顔を歪め、また涙を1つ零すと天井を仰いだ。


『うああぁあああぁあぁぁぁぁあ!!!』


悲痛に歪む泣き顔を最後に、またゼロが景色を歪めた。


――ザザザッ

そこにはもう泣き叫ぶダークも、粉々に砕けた絵画の破片もなく…暗い部屋に偉そうに座るガノンドロフと、すっかり大人になったダークがいた。


『誰でもいい!早く時の勇者を殺し、舞を直ぐに我が許につれて来い!!』

『―――ガノンドロフ様。ならば次は、私が行きましょうか』


玉座の右側に立っているダークは、すっかり声変わりした低い声になっていた。


『お前か…そうだな、そろそろお前を出してもいい時期だろう。
長年鍛えに鍛えぬいてきたその剣技で、時の勇者を倒し、舞をここに連れて来るんだ!!』

『…はっ』


これは…水の神殿に行く前の事だろうか?
恭しく頭を下げ、ダークは背中に剣を吊るして入り口へと足を進める。

その顔には、まるでそのままガノンドロフから習ったような怪しい笑みを浮かべて、


『待ってろよ……時の勇者を倒し、テメェも直ぐに殺してやるからな…ガノンドロフ!!』


誰にも聞こえない小さな声で、明らかに憎しみの篭った台詞を呟く。
重苦しい巨大な扉に手を掛けてダークが開いた途端、空間がフェードアウトしていった。



―――プツッ


そして空間は最後に…テレビのように音を立てて消えてしまった。
静まり返った、最初にいた部屋にはもう…過去のダークもガノンドロフもいない。

真っ白な頭の中に思い返るのは、何よりも、泣き叫んでいた子どもの頃のダーク



ぽつ…

いつの間にか、あたしの目から涙が落ちた。
あたしが泣いていいわけではないのに、どうしても涙が落ちていく。


「…っ」


口元を覆って、流れる涙は拭わずに、さっきの光景を思い返すしかない。


「っ、そんな…こんなのって…っ」


知らなかった…ダークの過去が、こんな重苦しいものだとは
だって、ふざけあった時は楽しそうに笑うから…同じものかと思ってたのに

ゼロが心配そうに擦り寄ってくる。それでもあたしの涙は止まる事を知らなかった。


「あ、あたし…ダークの事…最低だとか、思ってた…」


今までに彼は、何度か人々の為に頑張ろうとするリンクを貶した事が多々あった。
だからダークの事、自分でも気づかない内に心の隅で冷酷だとか、最低だとか思ってた事が、何度かあった。
そんな事…


「そんな事考えていた自分が一番最低なのに…!」


子どもの頃から苦しい環境の中で生きてきた所為で、ああ言う心しか持てなかったんだ。
それはダークの所為でなく、この居城の主の所為だと言うのに


「どうしようゼロ…あたし、ダークに合わせる顔がないわ…っ」


何を言えばいいのかも分からない…彼に会ってもいいものなのかも分からない。
もしかしたらもう、あたしは会ってはいけないのかもしれない…


「……辛かったわよね、ダークも、ゼロも…」


けど…もしダークが今でも『守りたい』という思いを抱いてくれてるのだとしたら……きっと気づいてない彼に、打ち明けたい。

さっきのダークのように鬣に沿って撫でると、ゼロは瞳を細めた。
少しだけ落ち着いた涙を一度拭う。


「…逃げる事はしたくないの…ダークに会って、頑張ったって褒めてあげたい…」

ぶるっ

「好い気な奴って思われるかもしれないわ…でもあたし、ダークに謝りたい…っ」


彼の過去を馬鹿にするような事を思ったこと、彼に直接謝りたい。ダークの事を分かってあげて、それでもっと仲間に進展できれば、ダークももしかしたら楽になるのかもしれない。

そんな簡単なものじゃなくても、少しでもそれで、彼の過去の苦しみが取り除けるのなら…



「この城から逃げる理由が分かったわ…ゼロ、お願い、協力してくれる?」


首を縦に振ってくれる黒馬と共に…
冷たい部屋にまた1つ、冷たいものが静かに落ちていく





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