41.神々の試練
…何時からだっただろう
主となる、親と言われる魔族の王を敵視しだしたのは。
大切な人を奪われたあの日からと言うのが、普通なら妥当だろう。
だけどそれは本当か?もしかしたら自分は、もっと早くから…あるいは、もっと遅くから憎みだしたのではないか?
例えば時の勇者の存在を知った日から
例えばゼロと会った日から
例えば水の神殿へ赴いた時から
数ある記憶と呼ぶものの中で、きっと俺が捜し求める答えはない…と思う。
俺は…どんな時でも『憎悪』を糧に生きる化け物。
生まれた時は生んだ研究員を
訓練の時は時の勇者を
人生の大半はあの魔族の王を
独りに戻った時には…離れ離れになったゼロと、あの人を
嗚呼、そうか…
俺はきっと………
神々の試練
――ピーチチチ
頭上を旋回する鳥は何でそんなに楽しそうに歌うのか…湖の水は何でそんなに穏やかに流れるのか。
それはまるで、オレが今出来ない思いの、代弁を果たすように
だって今のオレは…こんなにも混乱している。
「……え?」
さっき聞いたばかりの言葉に、オレは首を横に傾げた。だって、聞き間違いな筈。
この目の前の少女は何て言った、夢でも見てるんじゃないかって思うほどの…
「え、じゃなくて。も〜、しっかりしてよ時の勇者!さっきから言ってるでしょ、フロルは三大神の1人だって」
じゃあ何でオレが勇者だって事知ってるんだよ?
口を尖らせた、明らかにオレよりも幼い少女は腰元に手を置いて呆れ返っていた。彼女の意思を表すかのように吹いた生温い風が顔を掠め、ようやく我に返ってきた。
「ど、どう言う事だ…?」
「どうもこうもないよ、さっきから言ってるでしょ?フロルは…」
「そ、そうじゃなくて!君がもし女神様であってもさ、何でこんな所に神様がいるんだよ!?」
遮るように吠えれば、目の前のフロルと名乗る少女は驚く事無くじっと見据えた。
「まあそれが妥当の反応だよね。別に深い意味はないよー、フロルは只自分の今のマスターがどんなのか見たかっただけだから」
「今の、マスター?」
「そうだよ。勇気のトライフォースを持つ者は必然的にフロルを携える者。ハイラルが創られてから、何度かトライフォースを手に入れた者はいたから」
「それって…」
今までにも何度かトライフォースの封印を解かれた事があったって事か?
正直、今でも少女が女神様だとは信じられないんだけど…でもその口からポンポン出てくる言葉は、一般人じゃ分からない事ばかり。
「(信じるしかないのか…)
…そう言えば、なあフロル。さっきオレに言ったハートを探すってどう言う事?」
この時のオレは全てが混乱しすぎて、彼女を呼び捨てにしてる事なんて気にしてなかった。
それでもフロルも嫌そうにはせずに、けろりとした表情で腕を組んでる。
「そのまんまー、勇者の心がどんなものか知りたかったから!」
「心…ハートって、心って意味だったのか」
「うん!」
「………………………………………恥ずかしくないのか?」
「いつも平気でクサイ台詞言ってる人に言われたくないから」
どう言う事だよそれ!?(無意識)
彼女の言葉に頭を悩ませていると、フロルは小さく溜め息をついた。
「(気づいてないんだ…)まあそれは置いといて。本場に入るよ。
キミの心がどんなものかは分かった、ちゃんと市民の命を大事にしてるね」
「ん?誰でもそうだろ?」
「そりゃ一般人からの視点ではね。フロルが言ってるのは勇者の志だよ、キミが子どもたちの方を選んでくれてよかった!」
「…!」
太陽のような笑顔で言われた台詞に、オレの心が揺らいだ。
確かに子どもたちを選んだのはオレだ、でもフロルは…舞を見捨てて正解だ、って感じの言い方をした。
オレは、彼女を見捨てたわけじゃないのに
「それは、舞を見捨てて良かったって事か?」
「そうじゃないよ。でも、もし1人の命を救うのと2つの命を救うのなら、勇者は2つの命を救う方へいけなくちゃならない。分かるよね?」
「!1人の命は見捨てろって言うのか!?」
「…結論で言えばそうなるかな」
フロルは少しだけ視線を逸らした。きっと彼女も、命の大きさはよく理解してる筈なのに、どうしてそんな事をっ
「それって可笑しいだろ!?命の重さは数の多さじゃないっ、一つ一つがかけがえのないものなんだぞ!!」
「そんなの重々に分かってるよ」
「じゃあ分かるだろ!?命を量の多さで決めるなんて間違ってる!」
「…ねえ、説得力って言葉の意味知ってる?」
「!どう言う事だ?」
「キミがさっきから言ってる事、説得力がないって言いたいの」
オレの言葉に、説得力がない?
それはどう言う事だろう、そう思いながら怪訝に眉間を歪めていると、貫きそうな視線でフロルは口を開いた。
「だってそうでしょ?キミは量の多さで命を量るなって言ったけど、結局は子どもたちを選んだでしょ。
あれは何?人数が多かったからじゃないの?」
「!!そ、それは…咄嗟に、子どもたちを選んだだけで…」
「それは勇者としての心が反応してるんだよ。キミの中に眠る本能が少しずつ開花してるのね」
「…勇者、勇者って…さっきからそればっかりだろ!?勇者だと、舞を助けちゃいけないって言うのか!?」
「いけないよ」
「!!」
きっぱりとフロルは信じられない言葉を告白した。
どうして…女神は、神様は皆に平等にするもんじゃないのか?
「勘違いしないでね、さっきの場合だといけないって意味だから。
私情に流されて想う人を助けるより、さっきのような場合は子どもたちを優先しなきゃ…」
「っ、何だよそれ…勇者だと自分の思い通りにしちゃいけないって言うのか!?オレだって好きで勇者になったわけじゃないんだぞ!!」
頭に上った血がそのまま表面に出て、オレはついカッとなった。
子ども相手に何だ、と思うかもしれない。けど…けど、今はそんなプライドの問題じゃないっ
「勇者だとか、トライフォースの力とか!そんなもの、オレは望んで手に入れたわけじゃない!!」
「選ばれた者しか持てないのに…突き放すなんて初めて見た」
選ばれた者…?
「そんな…そんなのに選ばれたから全部失ったのかっ」
奥歯と一緒に強く握りこぶしをギュッと作る。
「森から出なくちゃいけなくなったのも、7年の思い出が作れなかったのも、危険な旅をしなきゃいけないのも!」
全部―こいつの所為なんだ!!
ギッ、と鋭い視線を作ると、それはフロルではなくて自分の左手の甲に向かう。悠々と光る聖三角に向かって、だ。
時の勇者なんて、凄いとか褒め称えられたりしても…オレにとっては厄自体でしかない。
人生のほとんどを奪っていったモノを、褒める事なんて出来るわけない。
左手の甲を握り締めるオレを、正面に向かえるフロルがじっと見つめていた。
「…じゃあ、代えようか?」
「!…へ?」
「勇者、代えようかって言ってるの」
「!!そ、そんな事できるのか!?」
「うん。今からでも、時の勇者に当てはめるものを探せばね」
思わず口が開いた。だって、そんな簡単にこの運命から逃げる事が出来るなんて思ってなかったから…
でも、そうか…オレの代わりに、誰かが勇者になれたら!
「まあ、何年先になるか分かんないけどね〜」
溜め息を交えながら漏らした声が前方から聞こえる。
「え?」
「簡単、ってわけじゃないんだよね。勇者なんて早々でるものじゃないし…100年先か、1000年先か…その頃までハイラルが滅びてない事を祈るしかないか」
「ちょ、ちょっと待てよ!!そんな、ガノンドロフか待つわけないだろ!?100年なんてっ」
絶対ハイラルが滅んでしまう!!オレの静止の声に振り向くことなく、フロルは顎下に手を掛けた。
「そうは言っても、ご希望があるなら答えないと。えっと、時の勇者の代理人を…
って、ああそうだ。1つ言い忘れてたけど」
本気なのか、フロルに声をかけようとするとそれよりも早くに遮られた。
ピッ、と人差し指を立てて愛らしい笑顔で彼女は言葉を放った。
「勇者じゃなくなったらキミ、舞やナビィやダークとはもうお別れだからね」
「―――え?」
凍てつくような言葉は一瞬、遠慮なく胸を切り裂いた。
真っ白になった頭の中には何も思い浮かぶ事無く、ようやく浮かんだのはまた白。
「え…どう言う、事だよ?」
「そのまんまだよ。キミの旅も終わりって事、彼女達は次の勇者と旅をするんだよ」
「!だ、駄目!!絶対駄目!!」
体で全否定しながらオレは思いっきり拒否する。頭の中に一瞬、オレ以外の皆がオレじゃない勇者と旅している様子が浮かんだ。
楽しそうに笑ってる皆の姿が、一瞬で胸を苦しめた。
「そんなのっ、だ、駄目だって!だって…」
オレじゃない誰かと笑うナビィが、ダークが…舞が凄く嫌なんだ。
舞…笑う彼女の姿が思い浮かぶ。彼女はその笑顔をオレじゃなくて、オレがいる筈の違う誰かに向けている。
――チクッ
少し忘れた不可解な痛みが胸を襲う。
「どうして?勇者をやめるって事は、旅をやめるんでしょ?」
胸を押さえる事に集中していたオレは、フロルの声に我に返る。
フロルはさも当然と言う様に腕を組んでいた。
「それは…でも、舞達じゃなくても」
「勘違いしないでよ、キミ、舞が異世界から来たの知ってるでしょ?」
「知ってるけど…それが何?」
「何の為に来たのか、その理由を知ってるの?」
「舞が来た理由?…それって、ゼルダが間違えて連れ込んだんだろ?」
確か7年前、お城の中庭で初めて会った時にゼルダがそう言ったのを思い出す。彼女はゼルダの失態で呼んだんだと…
うん、それで間違いないはずだ。
「それがどうしたんだ?」
「キミ…それが本当だと思うの?間違いで異世界から呼ぶなんて、あまりにも無責任じゃない。」
「だって、ゼルダが…」
「それは幼いキミに打ち明けなかった出任せ!だからフロルが今本当の事を教えてあげる」
よく聞いて、そう呟くとフロルは一度息を吐いた。
「舞はね、キミが魔王と戦う時に魔王の力を半減させる力を授けられたの。聖三角の力を借りて、魔王の力を抑える為」
「魔王の力を…?」
「簡単に言うと、最後の戦いの時キミが戦い易いようにするって事。」
「で、でも舞は戦えないんだぞ!?何処にそんな力が…」
「彼女に与えられた力の聖三角の半身。彼女はキミが思ってるほど無力じゃないんだよ」
「!む、無力だなんてっ」
無力だなんてそんな事…思ったことない。オレが母さんの事を知った時、どれだけ助けてもらったか
きっと彼女がいないと、あのままオレは…狂ってたと思う。
彼女の存在が、どれだけオレの支えになったか…っ
「兎も角、ハイラルを存続させる為には必要な存在なの!時の勇者と共にいなきゃいけない身、だからキミがやめても彼女は戦いをやめられない」
「女の子だぞ!?」
「そんなの気にしてたら、世界が完全に壊れちゃうわ」
一般人の身を危険に晒す事はいいのか…オレは兎も角、女の子の舞にそんなにさせるなんて…
ましてや異世界から来た、無関係の人間なのにっ
「そんなの…酷すぎるだろ!!無関係の人間まで巻き込んで、世界の為って言って!」
「…ハイラルの為だもの」
「舞はいいのか!?彼女は別世界の人間だから構わないって言うのか!?
聖三角の力を借りてって…彼女が望んだ事なのかよ!?違うんだろ!!」
「それは、違うっ」
「違わない!!結局またトライフォースの所為だ!この聖三角は、人々を幸せにする象徴じゃないのか!?」
頭の中にはもう怒りしかない。左手のトライフォースに爪を立てて、思いっきりフロルを睨みあげた。
「全部勝手に決めてさァっ…何とかしろよ!!神様なんだろ!?」
「じゃあ…神様だったらどうなってもいいわけ!?」
「!」
出会ってから初めて、フロルは眉間に皺を寄せた。こっちにも感じるほどのオーラはピリピリとしてる…表情からも雰囲気からも、オレ以上に怒ってる事が分かる。
「いい加減にしてよ…全部トライフォースの所為ですって?
何よっキミはそれがなければ、今の仲間を持つ事はなかった癖に!!」
「な…っ」
「このキッカケがなければ外に出る事もなかったっ、笑い合ってる”今”はなかったんだよ!!」
「!」
森にいた時がつまらなかった訳じゃない。皆と遊んで楽しかったんだ。
……でも、外の世界に出てからは、もっともっと楽しかったんだ。
確かにフロルの言う通りかもしれない。コキリ族として悠々と過ごしていれば、オレにこんなチャンスは到来してこなかった筈だ。
「…神の力で、どうこうなる問題ならしてるっ」
フロルの声が少しだけ震えた。自分で自分を守るように腕を抱えながら、足元に視線を落としている。
「でも、神が人間と接する事は掟で罰せられるんだよ。それなら、人間の力を借りるしかないんだもの」
「…でも、オレ達は…」
でも、と言ってもその続きの言葉が思いつかない。何で「でも」なんて言いたいのかは分かる。
自分が、勇者になった事を認めるのが嫌で、何故か言い訳を見つけたくなるからなんだ。
「フロルだって…神の力を欲しいなんて思ってないわ」
「!?」
フロルの言葉にオレは思わず顔を上げた。信じられないと思った、神様という全知全能の力を持って、不満があるというのか?
「だって、フロルはまだ女の子だよ?普通の女の子みたいに遊んだりしたい気持ちだってあるもんっ」
唇を噛んで、フロルは乱暴に目元を服で擦った。
声が涙ぐんでる…泣いてるのか?視線を向けるとオレの予想は当たっていた。
顔を上げたフロルの目元が赤くなっている。目尻にも涙が浮かんでいるのだ。
「(同じだ…オレと)」
――全知全能の力を持って、不満があるのか?――
それを言うならオレだって、時の勇者の力を授けられて不満があるのか?と聞かれれば文句を言う。この地位に立って、特に何かあるわけじゃない。あるのは苦しい事ばかりなんだから。
その立場にいなければ分からない、『普通』の貴重さ。…結局は、神様もオレ達と同じなんだ。
思わず地面に視線が向かうと、前の方からぐすっ、と涙を拭う音が聞こえた。
「…ごめんなさい、暴走しちゃった。」
「え、嫌…オレの、方こそ…」
…何だか無性に自分が情けない。神様と言っても、見た目はオレより幼い女の子。そんな子の方がちゃんとしっかりしてて、オレが謝られているんだ。当然の事。
勇者と言う立場にいるオレには彼女の気持ちがよく分かる。普通がどれだけ恋しいかなんて、よく……
「(…オレ、何やってんだろ…)」
自分が勇者という立場。その特別な存在だから
それが嫌だ
とか
その立場にいるから、もっとしっかりしなきゃ
とか、色んな私情も混ざってゴチャゴチャして…そのストレスを全部他人に押し付けて。押し付ける方も押し付けられた方も苦しいのに。
…ナビィやダークも、こんな気持ちだったのかな?苦しくて、どうにかしたくてもオレとは違って吐き出さない2人。
もしそうだとしたら…オレは、仲間を自分で傷つけた事になる。
「(…謝らなきゃ、2人に。今度は絶対にっ)」
今度は、さっきのような中途半端な気持ちじゃない。絶対に謝るんだ。それで、許してもらえたら…舞を助ける方法を一緒に考えよう。
今更かもしれないけど…勇者とか、舞の立場とかそんなもの関係なく、大切な仲間を助けに行くんだ。
今このお陰で掴めたなら、全力でかかってやる。自分が勇者だからこの仲間を掴めたなら、今この瞬間からオレは…『時の勇者』を認めてやるっ
この決意は自分と仲間を繋ぐための約束だ。
…こんな、簡単なものじゃないかもしれないけど、女々っちく悩むなら、いっその事振り切ってやるんだ。
「フロル…ありがとう。オレ、ようやく自分が取り戻せたよ」
ありがとう、そう言った途端、オレの心が少しずつ和らいでいく。さっきの気持ちが嘘みたいに、穏やかに緩やかに…
そうか…こんなに簡単に、自分を見つめなおせるんだ。
「もうオレは、『勇者』を呪わない。しっかり受け止めてみるよ、まだ完全にじゃないけど…
キミにばっかり苦しい思いさせてゴメンな」
何だか謝るのが照れ臭くなって赤くなる頬をポリポリと掻く。
オレを真っ直ぐと見つめるフロルは、驚いたように目を開いた後、嬉しそうにふわりと笑った。
「ううん、フロルはいいの。…キミに分かってもらえて嬉しいから」
本当に安心したように胸に手を置きながら息をつく。オレも彼女の姿を見て、口元が緩んだ。
さっきまで生暖かかった風が、眠くなるような温かい風に変わった。
一件落着、と落ち着いていると、徐に瞳を開いたフロルは地面を蹴って跳躍した。
ふわっ、て音が似合う緩やかな動きで、丁度降り立ったのはオレの目の前。
「フロルに全力でぶつけてくれたの、キミが初めてだよ。友達が出来たみたいで、嬉しかった」
「オレなんかで良かったら友達にくらいなれるよ!」
「!…ありがとうっ」
少しだけ頬をピンク色に染めて、フロルは照れ臭そうに笑ってオレの手を両手で握った。
お互いの掌を向かい合わせ、重ね合わせると、取り巻く風が変わった。
「皆、フロルに力を貸してね」
途端、彼女の言葉に反応するように辺りに光が立ち込めた。草は風に揺られ、草は宙(そら)で踊りオレ達を包み込む。
眩しすぎない光に見入っていると、掌の中がより一層輝いた。
風も静まり、光も徐々に姿を無くすと…手の中に、クリスタルに似た緑の水晶が握られていた。
「何だ?これ…」
クリスタルの中に格となる緑の珠が入っている。じっと見つめると珠は存在を示すかのようにより一層強く光った。
「お守りみたいなものだよ。フロルがキミを認めた証」
「へぇ」
「フロルの力が込められた『フロルの風』よ。
…大切にして、初めて出来た友達にあげるわ。」
フロルはそう言うと、オレの手をゆっくりと離した。
そうと思うと、今度は地面から足を離して宙に小さな身を浮かす。
「人間の実力テスト、合格だよ!頑張ってね時の勇者っ、ハイラルを守って」
「ああ、分かった!」
オレの返事を境に、フロルの体を包みこむ風が強くなった。
体を丸めながら、少しだけ開けた目をオレに向けてきて呟いた。
「リンク…キミを時の勇者に選んで、本当に良かったよ。」
母性ある微笑を浮かべた彼女の声が耳に届き、オレの声が彼女に届く前に…
ふわりっ
緩やかな風が光と共に姿を完全に消し去り、はらはらと落ちていく葉っぱの上にはもう主人の姿がなかった。
耳に聞こえるのは、もうフロルの声じゃなくて、小鳥の楽しそうな鳴き声だった。もうそれを鬱陶しく感じないと言う事は、さっきの決意は消えてないらしい。
「…ありがとうフロル」
掌の中に唯一残った『フロルの風』をなくさないよう大事に握り締め、感謝の思いを口にした。
すぅ…っと大きく風を吸い込んで、熱で熱くなった体を冷ます。ゆっくりと息を吐き出すと、オレの頭の中にはナビィ達の姿が浮かび上がる。
「そう言えばナビィ…まだ研究してるのかな」
みずうみ博士の下で頑張ってるって聞いたけど。…今でもいるかな
いるなら、先ずナビィから謝りに行こうか、ちょっとまだ恥ずかしいけど…
「(そんな事、考えてる場合じゃないよな。
ナビィ達に謝るって決めたんだし、これはオレのけじめだ!)…よしっ」
『リンクーー!!』
「(ビクッ!?)」
意気込んでいざ行こう、とした矢先に…お目当ての人物が自らやって来た。
シュッ、と綺麗な曲線を描いてナビィはオレの傍でひらひらと飛んだ。
「ナビィ?」
『エ〜っと…ネ?その……』
「?」
『おッ、お昼食べナイ!?ナビィ、みずうみ博士と考えテ、休憩も、ホラっ必要かと思っテ!』
しどろもどろに喋っている…可笑しな喋り方に何故かと思ったけど、理由が分かった。
ああ、そっか。まだオレが怒ってると思ってるんだな。
一生懸命なのに悪いけど、ちょっと可笑しくなって少しだけ笑みが零れた。
『な、何で笑うノ?』
「いや!それより、ナビィ…さっきはゴメンな。
オレ、ちょっと落ち着いたからさ…また助けてくれる?」
『!う、ウン!勿論だヨ!!ナビィ全然気にしてないカラっ』
元気のなかった羽が一気にパタパタと忙しなく動き、ピンク色に染めた体をオレの肩に乗せた。
ちょっとしか経ってないのに、この光景が凄く懐かしく感じて、オレの口元はだらしなく緩んだ。
『ごめんリンク、舞を助ける方法まだ見つかっテないノ』
「ううん、昼食食べたらオレも一緒に探すの手伝うからさ!」
意気揚々となった感情をそのままに、思わず弾む足をみずうみ博士の家に向ける。
もう、きっと迷わない。頼りないオレを支えてくれる仲間が隣にいる、それで十分だ。その存在がいれば『時の勇者』なんてどうって事ない。
太陽が照らす湖が、オレの今の心を反映してくれる。自然と顔には笑顔が浮かび上がった。
さあ、フロルとの約束を裏切らない為にも…また頑張るぞ。
待っててくれよな、舞!!
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