42.キチガイさんが行く


前回、ダークの過去を垣間見たあたしは大脱走を決行する事にした。
ゼロも力を貸してくれる様で、今は変態魔王等の目を盗んで、彼をあたしに充てられた部屋に連れて行る。
勿論誰にも見られないように鍵は掛けてある、その数主に10個

鍵と一緒に『部屋に入るな。入ったらシャイニングウィザード入ります』と書いた紙も貼り付けて準備万端。これで少しは対策になるだろう、対ガノンドロフ専用の。


さあ、それは置いとくとしてだ。一番の問題は…


「先ずこの城からどうやって逃げるかが問題点よね」


意外にふかふかなベッドに腰掛ける。中央は今朝変態魔王が突っ伏したからバイ菌扱い並に避けている。
バッチリです(親指ぐっ)
…ってそうじゃない、今は逃げる方法だ。気づかれないように足元で大人しくじっとしているゼロも見上げてくるんだ、真剣に考えないと。


「ゼロの跳躍力でも、この城と地上の距離は大きすぎるから届かないだろうし…簡単な架け橋作るにもそんな技術も時間もないし」


うーん、困った。何とかして此処から逃げたいと言うのに案が全く浮かばない。
こんなに頭を使ったのはテスト以来だ、と呑気に思いながら天井を見上げた。


「は〜、どうしましょ。もう少し人手があれば話も違うけど…」


そんな人手もないし…、諦め半分口調のまま後ろ向きにベッドへ倒れ込んだ。
口調は諦め半分でも、心事態はそんな訳じゃない。絶対此処から逃げて、リンク達の所へ帰らないと。

…何より…


「この城に長居すると身も心も汚れるわ


そんな事になる前に、さっさと此処から退散するぞ、うん。足元のゼロがぶるるっ、と鳴いた。早く起きれと言ってるのだろうか。
その声に従って改たに決意した胸をそのままに、もう一回案を練る為に体を起こす。


「どっこらせー、さっ気を取り直してもう一度案を――」

「舞〜〜〜〜〜!!」

「Σのであぁぁあぁああぁぁあ!!?」


ドサァッッ!

と、体に衝撃が走ってまたもや体がベッドに逆戻りする。
い、いった…!って言うか突然すぎて気持ち悪いっ

今明らかにあたしの名前を呼んだ何かはあたしの上に乗ったまま自分だけ上半身を起こした。


「良かったー!まだ純情は守れてるよねっ」

「えぇっ?」


聞き覚えのある高い声に弾かれて、思わず気持ち悪くなった頭をフル回転させる。指令が行き届いて頭をようやく動かせるようになって、上に乗っかったものの正体を伺う。

にこにこと嬉しそうに笑う少女を見た途端、目がいっぱいに開いた。


「なっ…サリア!?」





キチガイさんが行く







まさかの奇想再会を果たしてしまいました女子高生です。あたしに飛び掛ってきたのは紛れもなく腹黒コキリ族サリア嬢。
えーと…とりあえず……

先ず…何処から聞けばいいんだろう。


「うふふっ、サリア舞にずっと会いたかったのよv」

「ようキョーダイ!久しぶりだなっ、お前も難儀なもんだ!!ガッハッハ!」

「全く、リンクはわらわとの契りを忘れたと言うのか…全くっ」

「まさかこんな早くに顔を会わせるとはな」

「あの…賢者の皆さん、何故に此処にいるんですか?」


そうだ、これから聞こう。円を描いた様な形で座っている人達に。
何故かあたしの左右前には今まで助けた4賢者が勢ぞろいしていた。まあ種族も超えた交流だこと…


「どうもこうもない、そなたが攫われたのじゃ。呑気にしておる場合ではないゾラ」


あたしの左手に座るルト姫は腕を組んで言葉を漏らす。


「でも…そうだとしても、何で敵の居城に?賢者様って何処にでも行けるの?」

「そう言うわけじゃねえ、俺らも好きでいんじゃねんだよな!」


ルト姫に続くようにその隣に座るダルニアさんが言葉を紡ぐ。


「此処から出れるもんなら出てえが…今はそうもいかねえ」

「我々の力の中心地が聖地ではなく此処に留められているのだ」

「うん?」

「つまりサリア達の力が此処に封印されてるの」

「封印…?」


右隣に座るサリア、更にその隣に座るインパさんと綺麗に言葉が繋がっていく。
あんた達何処かで打ち合わせでもしたんじゃないの?と思うほど軽やかだ。


「本来なら聖地より勇者達へ力を貸すのだが…それも出来ぬ」

「賢者の封印を解いて尚、僅かでも力を抑える為にガノンドロフが力を削り取っておったのじゃ」

「じゃあ…賢者様の封印を解いても無意味なの?」

「ううん、そうじゃないよ。6賢者が全て揃って、勇者がこの地に訪れれば…」

「俺らの力は完全に戻る!!その為にはテメェらに頑張ってもらわねえといかねんだ」

「だからサリア達、舞に手を貸しに来たの!只このお城に捕らえられてるだけなんて嫌だからねっ」

「それって…サリア達にはこの城から逃げる術があるって言うの?」


まさか、と思って全員を見渡せば、全員が口元に笑みを浮かべている。
逃げる方法があると言う無言の了解だ。でも…例え賢者様とは言っても、相手はその賢者様の力を削り取った魔王。


「大丈夫なんですか?」

「心配はない。作戦は練ってあるからな。」


インパさんも首を縦に頷かせ、自信に満ちた表情で真っ直ぐと見つめてくる。
…今は信じるしか他に手立てはないわね。


「分かりました」

「うしっ、そうと決まれば早い内に作戦会議しようぜ!」

「そうじゃな、急ぐに越した事はないゾラ」


威勢よく手をパンッと叩いたダルニアさんにルト姫も続く。
サリアも手伝うらしく隣から席を立つと、入れ違うようにゼロが擦り寄ってきた。そう言えば…


「あの、インパさん。この子も一緒でいいですか?」

「ああ、勿論だ。と言うよりも、その黒馬がいぬと作戦は決行出来んからな」

「そうですか…良かった!」


一緒に逃げる事が出来ると決まったゼロの背中を撫でる。これでゼロもダークと再会出来る、きっと嬉しいだろう。
再会を果たした時の2人を想像していると、ダルニアさんが声を張り上げた。


「よし!それじゃあ会議始めるぞー!!」

「では行くか…ああ、そうだ舞。この作戦ではお前にも活躍してもらうぞ」

「へ?」


ニッ、と口端をあげてカッコよく笑うインパさんに思わず変な声が漏れた。
あたしにも…?意味有りげな忠告を受けて疑問を抱く中、部屋の一室で作戦会議が行われた。


「俺ぁ説明は苦手だからな。インパさん頼むぜ」

「分かった。それでは、順に追って説明するぞ。
先ず…―――――






++








――――…っと言う事になる。分かったか?」

「あ、はい。一応は…」


小一時間に亘る作戦会議が終わりを告げ、一気に頭に詰め込んだあたしは少しだけ頭の整理をした。
成る程…そうか、でも賢者様の力を借りてもいいんだろうか…
まあ言ったら言ったで気にするなとか言われるんだろうけど。


「えーっと、この作戦の決行は今からですか?」

「いや、明日の真昼ゾラ。そなたも整理しておかねばならんだろうからな」

「そうですね、そうしてくれると有難いんですけど…
…?その間賢者の皆は?」

「各々身を隠す。気づかれんようにせぬといかんからの」

「だから舞も感づかれぬよう用心してほしい、いいか?」

「はい、勿論です!」

「決まりだねっ」

「よし…ならば今日は身を休めよ。明日に響くといかないからな」


インパさんの言葉でようやく気づいたけど、窓の外を見れば暗雲の向こうから微かに橙色が射している。
もう夕方なんだ〜…と感心していると、廊下から足音が聞こえてきた。

徐々にこの部屋に向かってきているそれに気づくと、賢者の皆はすぐさま身を起こした。


「時間だな。キョーダイ、俺らは身を隠すぞ!」

「明日、日が昇ったら落ち合おうっ」


最後にそう締めると、インパさんが煙玉を放った。
眩い閃光が散りばめられたと思えば、もう4人の姿はない。それに唖然としてると、ゼロを隠してない事気づいて慌てて部屋にある薄布のカーテンで身を隠した。

部屋にあたししかいなくなった途端、足音が部屋の前で止まる。


コンコン
―――カチャッ


【失礼シマス奥方様】

「はいぃぃぃ!?」


バッ!と慌ててカーテンから離れ、思わず敬礼。
相手もいきなり敬礼されて驚いたのか、暫くポカンとしていた。


【ア、アノ〜…オ夕食ヲオ持チシマシタ。先程ハ何モナカッタデショウカ?】

「え、ええ…………ん?あれ、もしかしてスーちゃん!?」

【ハア…一応、ソウデス】

「あ、あははーありがとね!夕食頂くわっ、丁度お腹空いてたのよ!」


笑って誤魔化し、とやかく言われる前にトレーを貰う。スープやサラダ等の色取り取りな料理に思わず意外だと思った。


【アノ…奥方様、先程オ部屋カラ閃光ガ見エタノデスガ…何カアッタンデスカ?】

「(ギクッ)え?あ、ああ〜それはね…魔王がさっきまで此処にいたのよ!」

【ガノンドロフ様が?シカシ、何故閃光ナンカガ…】

「それは〜…あ、あいつが屁をこいたから!!

【Σ屁ガ光ルンデスカ!?】


んなわけない。咄嗟についた嘘が屁だったんだもの、幾らあいつでも眩い屁なんてこかないわ。
けどスーちゃんは信じたようで真顔で驚いている。そうか、これを信じてしまうんだ。なら利用させてもらおう。


「魔王様を舐めちゃいけないわ!世界を統べる者なら屁を閃かせるくらい容易い事!!


ぐっ、と握りこぶしを作りまさかの魔王様屁こき伝説を熱弁。
…いや、幾らなんでもこれは無理があったか。流石に感づかれても可笑しくない状況にちらりと横目で確認。


【ソ、ソンナ…世界ヲ統ベルニハ屁ヲ閃カセル実力ガナイトイケナイノカ…!】


スーちゃん信じちゃった!!骨だけの手で青くなった顔を抑えてる。嫌々、そんな奴に世界統べられちゃこっちも堪んねえよ。
意外に純粋に飲み込んでしまうスーちゃんに心の中で謝罪した。


「と、兎も角用事はこれだけかしら?」


これ以上詮索されると馬鹿掘り出しかねないんだけど
あたしの問いかけにハッ、と気づくとスーちゃんは慌てて頭を下げた。


【ハ、ハイ!申シ訳アリマセンッ、コレニテ失礼シマス!!
…ア、世界統一ノイロハ有難ウ御座イマシタ】


ぺこり、と最後に付け加えるとスーちゃんは部屋を退室した。
今すぐ追いかけて間違った知識植えつけられた頭をぶん殴って忘れさせたいんだけど…!!(汗)

間違っても変な世界にしようとしないでね、と心の中で祈りながらトレーを持ってベッドに移動する。


「(さて…明日か)」


忘れかけた作戦会議の事を思い返しながら、ゼロと半分個しながら作戦を頭の中で構成して確認していった。


「えっと、先ずはあたしとゼロが動いて〜…」

「――舞」

「!」


突然部屋にあたしとゼロ以外の声が。
モンスターに聞かれたかと思って慌てて辺りを見渡すと…窓の辺りから風が吹き込んできた。風に紛れた影がふわりと地面に足をつけて目前に姿を現す。


「サリア!?ど、どうしたの?隠れてないといけないんじゃっ」

「うん、でも折角久しぶりに舞と会えたんだもん!もう少しお話したくて」


つい来ちゃった、と下をぺろりと出してサリアは笑った。
あぁっ、その悪戯っ子の笑みがまた可愛い!!と1人悶えながら、ベッドの隣に座るように促す。


「ねぇ舞、旅はどう?いい事とかあった?」

「ええ、新しいダークリンクって言う仲間も入ってね?今ナビィと合わせて4人で旅してるの」

「ダーク、リンク…?それってリンクの影の事?」

「そうよ!サリア知ってる?」

「うん、嫌って言うほどこの城にいたから。
でも…危険じゃない?」

「旅の事?そうね、確かに大変だけど、色々な出会いもあるから別に…」

「あ、ううんそうじゃないの!危険って言うのは貞操の事なの!」

「…はい?」


貞操?


「だってそうでしょ?リンクだけでも危ないのに、ダークリンクなんて言う根暗名の輩が加わったんだもの!イコール獣が増えたって事だよ!?」


すみません、その根暗名考えたの紛れもなくあたしなんです。


「で、でもダークは普通だし、リンクだって純情なんだから」

「甘いっ、甘いわ舞!!その考えはスポーツドリンクの溶けかけの部分くらい甘いわ!!」

何故にネタがス○ードワゴン。それに例えるならせめて砂糖使おうよ」

「いい?純情に振舞っても所詮は男っ、男は皆なの!


何その名言


「いつかリンクも野外プレ「わーーー!!」なんて危険行為仕掛けてくるからっ

「寧ろ今のサリアの言動が危険行為だから!!
これ見てる人の中にもピュアな方がいたらどうするの!?」

「大丈夫っ、此処に来る人は萌えを求めて来る素敵に腐った夢見るフジョシだからv」


――これ以上ボロが出る前に話を進めましょうサリア

――はーい!


「さっきの続きだけど、ダークリンクの性格ってどんなの?」

「え?そうね…クールで、少しワイルドって感じかしら。リンクとは正反対って感じね」

「クール!?それってもっと危険だよ!!」

「Σ!?」


身を乗り出してベッドをボフッと叩いたサリア。彼女のその凄まじい勢いに思わず身が仰け反る。
あの、サリアさん…目が怖いです。ギンギラギンに光ってますが


「そんなの無駄にフェロモンむんむん発生させてクールな二枚目演じてるだけで、裏では舞見てハァハァ荒い息吐いてるだけの所詮はケダモノ!!

「確定か」

「くそっ、このサリア様がいない所で着々と計画が進んでるようね…!
テメェら今度あったら覚悟しろよ!!変に盛った途端、ブタ箱と言う名の研究室に放り込んでやる!それから言ってやるんだからっ、そのまま解体されて二度とあたしと舞の前に現れんじゃねえ!!ってね。あたしがいる以上、舞に指一本触れさせないんだから!
ふふふ…ふはははははは!!!」

落ち着けサリアぁあぁあぁぁああ!!妄想のし過ぎだから!
その懐かしく見たテツ子仕舞って戻ってこーーーい!!」


って言うかあんたがその笑いしたらシャレになんないよ!!
ある意味ハイラルの危機に陥る前に暴走少女を止めなければいけない。黒の本質を無理矢理仕舞いこませて、ようやくサリアは正気に戻った。


「あれ?サリア暴走してた?」

「ええ、思いっきり」


危うくリンク達が向こうに逝かれそうになってた程。


「ごめんね舞〜、久しぶりに話せたからテンション上がっちゃって」

「それは嬉しいけど…サリア見つかっちゃいけないんだから、もう少し落ち着きましょう?」

「うん、分かった!」


笑顔で頷き、サリアは首を縦に振る。テツ子を仕舞ったのを確認して、ようやく心の底から安堵を感じた。
このまま白でいる事を心から望むしかないわね。

それから暫くサリアと他愛無い雑談をした。
旅の事、サリアが賢者になった後の事…お互いがお互いの身の回りの事を教えあった。

どうやらそこまで辛いわけでもなく、彼女の笑顔絶えなかった。久しぶりに会えた事と、拒絶と絶望しかないこのお城にいた所為か、サリアの笑顔に凄く癒された。


「もう、こんな時間なんだね」


ずっと話していた所為か、空はさっき見た時より薄暗くなっている。
もうそろそろお別れだろう、サリアの整った顔が歪んだのを見てそう感じた。


「サリア…そろそろ身を潜めるよ。舞に迷惑にならないように」

「そう…分かったわ。今日はありがとねサリア、とても楽しかったわ」

「サリアもだよ!また機会があったらまたお話してねっ」


お願いしながらサリアが飛びついてきた。服を握る力が思ったより強いのは、別れるのが辛いからか。
そう思って背中を優しく叩けば服を握る力が強くなった。

暫く堪能すると、サリアはパッと顔を上げた。吹っ切ったように笑顔を見せる。


「じゃあおやすみなさい舞!明日、頑張りましょう!」

「ええ!」


最後にパチンと手を叩くと、嬉しそうに笑ったサリアは来た時と同じように風を身に纏った。
身を風に乗せると、包まれてサリアの姿消える。
部屋には風の温もりとあたしとゼロしか残らなかった。


「…ゼロ、今日はもう寝ようか」


明日に響かないように、とインパさんに忠告された言葉を思い出した。

ゼロを簡単に隠して寝やすいようにしてからベッドへ潜る。
明日の朝は変態魔王が襲いに来る事はないだろう、鍵も張り紙もあるし

直ぐに襲い掛かる睡魔に身を任せると、数分と立たない間に部屋にあたしとゼロの寝息が静かに響く。

――明日は、頑張ろう。失敗は許されないだろうから





***




―――〜♪…


ガノン城の地下深く、残骸と化した以前あったハイラル城の廃墟。
その中で唯一残った大聖堂の中。闇に紛れたシークが指を弦の上で躍らせていた。

伏せられた瞳から哀愁が零れる姿は、彼の寂しさが伝わってくる。
ハープの音色しか響かない暗い部屋の中で、シークは驚愕に目を開いた。


――カランッ


「…っ!くっ…」


苦しそうに胸を押さえ、思わずハープを手から離してしまう。
短い息を何度も吐き出し、力ない体を支柱に寄り掛けた。整った眉間が苦しそうに歪んだ。


「不味いな……封印の力が、徐々に解けている…
残り時間もあと僅かしか…ないっ」


少しずつ落ち着いてくる鼓動を抑えて、ふらつく足でハープの許へ歩み寄る。
地面に落ちたハープを拾い、瓦礫の山に腰を落ち着かせた。


「まだ…解くわけにはいかないんだ……僕の役目はまだ、果てしていない」


ポン、と弦を1つ弾くと澄んだ音がまた響いた。
木霊する音がなくなると、部屋にはまた静寂が訪れる。


「……舞にも……」


謝りたい、と口にしようとした言葉を閉ざした。
…何を未練がましくしている。この身を闇に潜めた時から、こうなる事は予測していた事なのに。
それでも、瞳を閉じれば仲間と呼んだ時の彼女の笑顔が浮かび上がる。


――吹っ切ろうとすれば何時も君は邪魔をする。
いっそのこと…忘れられたら、一番楽なのに…

忘れる事を許さない自分が、何処かにいるから…仕方がない。


――ねェ、シークはあたし達の事見ててくれてるんでしょ?

目が離せないんだよ。

――じゃあ、シークもあたし達の仲間ね。


「!」


ハッ、と我に返り、シークは頭を抑えた。ハイラル湖での彼女の笑顔と言葉がどうしても忘れられない。
僕はあの時咄嗟に言ってしまったんだ。

―――僕にとって傍にいて幸せになる存在は――もしかしたら…


「…もしかしないさ…」


自分で自分を苦しめるような事を言った所為で、こんなに彼女の事を忘れられない。
ポロン、と音を撫で響かせ、シークは顔を上げた。紅の先には、三大神を象った女神像が。



もうきっと、彼女は僕を冷たい目で見てくるだろう。それは間違いないことだ。

だが、それでいい…そうでもしなければ、いつか訪れる【存在の終わり】の時に終止符が綺麗につかない。
だから…それまででいい、



「あと少し…僕に時間を下さい…」


マスク越しに見えない口がゆるゆると動き、誰に向けたか分からない祈りを捧げた。
胸を掴む握りこぶしに、ギュッと力を込めた。





***



++翌日++






昨日とは違い清清しい目覚めを果たせた舞は、朝早くに起きてずっとそわそわしていた。
時間が経ち、今は太陽が真上にあるであろう正午。

ようやく動き出した舞は、既に待機しているゼロの体に装飾品をつけていく。ガノン城の中をさり気なく詮索し、運良く見つけたのだ。

手綱等の必須不可欠な物を全て取り付け、確認してから自分も準備を整える。
髪を手ぐしで梳き、スカートを叩き、壁に立てかかったマントに手を掛けた。バサリ、と首に巻き、留め金の部分を留めるといつもと同じ服装となった。


「よしっ、準備万端ね」

「―――舞、いいか?」


カツン、とヒール音が部屋の中に響く。驚くことなく振り返ると、壁に背を預けて腕を組みしているインパが様子を伺っていた。


「インパさん。おはよう御座います、あたしは準備出来ました!」

「うむ。…ならば参るか、用意を頼む」

「はい!」



言われるままに、舞は返事を返すと慣れた手つきでゼロに跨る。
背に乗り、ぽんぽんと撫でるとゼロがぶるるっと鼻を鳴らした。


「よいか舞、私が先導するからそのまま着いて来るのだぞ」

「分かりました!」

「よし―――行くぞ!」


タンッ、と地面を蹴るとインパは舞の先を行って扉を潜った。
それを見兼ね、舞も落ち着いた様子でゼロに手綱を振るった。


――バターーン!!

扉を蹴破り、勢いを殺さないまま前方を走るインパを追いかける。真剣な顔つきのまま、昨日行われた作戦会議の内容を軽く思い出す。




――――−−---・

「先ず、私が舞とゼロの2人を先導する。この城の構成はハイラル城の時と同じだからな、私が一番わかるだろう」

「あたし達はインパさんを追っていけばいいんですか?」

「ああ、その通りだ。」


「インパさんは瞬歩が出来るから、舞は全力でゼロと走ってね」



――――−−---・



サリアの言うとおり、インパは馬と同格、いや、それ以上の速さで前を行く。
全力で向かわないと置いていかれそうな速さに、舞はゼロを操りながら関心した溜め息をついた。


【!オ、オイ!アレ、奥方様ジャナイノカ!?】

【逃ゲヨウトシテイル!!イ、急イデ止メロ!!】


角を曲がると、見回りをしていたスタルベビーに見つかった。真正面に向かえる敵に臆する事無く、前を行くインパが一体を蹴散らした。

ドガッ!


【ギャァッ!!】

【クッ、逃ガサン――】
「ごめんよー!」


ゲシッ


【アデッ!】


そして2体目はゼロによって遠慮なく踏み潰された。顔が地面にめり込んだスタルベビーに頭を下げ、舞はまた手綱をしっかりと握った。


「やっぱり、この時間帯だと手薄ですね!」

「ああ、やはりモンスター達は夜行性だからな。夜は活発な分、昼には就寝に就く者が多いのだ」

「昼間が一番動きやすいって事ですよね」

「そう言うことだ!」


最初の頃と同じように、1階へと続く階段を見つけると迷わずそこへ向かう。
ゼロも馬と言えど簡単に階段を駆け下り、スピードを落とす事無く着いて行く。数分と経たない内に、1階へと降り立つ。


【オイ!見ツケタゾッ、増援向カエーーー!!】

「!集団か」


まるで待ち構えていたように、スタルベビーやスタルフォス、更にはキースやウルフォスまでもいる。
軍団が待ち構える中、少し冷や汗を流す舞。だけど前を行くインパは違った。


「行くぞ舞!!臆するな、私の背に続け!」

「は、はいっ」


揺るぎそうになった心を振るい立たせ、心と同じく鞭を振るった。
向かってくるモンスターの集団を睨みつけ、インパは片手を敵に向けて掲げた。インパの掌の中から黒い渦が生まれる。


「邪魔だ!退け!!
――闇よっ、視界を隔て、敵を討て!!」


インパが叫んだ途端、周りの空間が闇一色に染まった。戸惑いにモンスター達も思わず足を止める。
視界を絶たれた闇の中で時々短い悲鳴が聞こえる。モンスターが倒されてるのだろう。


「(ほ、ホントに1人で倒すなんて…)」


――――−−---・


「でも、もしモンスターが攻撃してきたらどうするんですか?絶対見過ごすわけないですし…」

「その点も心配ないゾラ!魔物の力など、賢者の力に比べれば赤子よりも容易いっ」

「私が全て敵は散らす。舞、お前は走る事だけに専念するのだ」



――――−−---・



言われた事を今更ながら思い出し、舞はゼロを走らせる事に専念した。
どうやら力の調整をしているようで、舞には普通にインパの背が見える。難なく着いて行く中、間もなく闇の空間から2人が飛び出す。




「―――…」

「!」


すると、闇の空間を抜け出て直ぐの所で、短剣を手にしたシークが待ち構えていた。
舞は慌てて向き直ると、シークはじっと静かに見つめてくる。


「シーク…っ」


こっちは何もしていない、なのにシークは剣を振るう事なく只佇んでいた。
攻撃する気がないんだろうか、そう思うと、シークは短剣を腰元の鞘に収めてしまった。


「!(えぇ…?)」


チンッ、と短い音を立てて仕舞うと、何も見ないと言うように目を伏せる。
――見逃してくれるの…?


「舞!スピードが落ちているぞ!!」

「え!?あ、ハイっ」


インパに指摘され、手綱を振るおうと掴みなおす。
が、視界に目を伏せたままのシークが映り、思わず手が止まった。

突き飛ばした事も謝ってない、悪い事をしたのに、見逃してくれるのか…?

頭の中で、ハイラル湖での出来事が浮かんだ。
自分を、幸せになれる存在だと言ってくれた、あの時のシークが。


「っ、―――シーク!」

「…!」


舞の声に反応して目を開いたシークの瞳に…自分に向かって手を伸ばす彼女が映った。
驚愕に目を開く彼を他所に、舞は懸命に腕を伸ばしている。それはまるで、一緒に逃げようと誘っているように。

目が大きく開いたシークの指先が、少し宙に浮いた。


【逃ガサンゾ!!】

「っ!」


…だが、2人の仲を裂くようにスタルベビーが攻撃を仕掛けてくる。
慌てて避け、そのまま雪崩れ込むようにモンスターが襲い掛かる。


「!―シーク!!」


モンスターの群れに姿を眩ませる彼に向かおうとする舞をインパが止め、さっきと同じく闇の空間を作った。
彼女の姿が闇の空間に閉ざされると、シークは支柱の傍で静かに佇んでいた。


「舞……君はまだ、裏切った僕に…手を差し伸べてくるのか…?」


さっき、舞に向かって伸ばし右手を見つめ、弱弱しく握った。


「…舞……」




シークが苦しそうに呟いている間に、舞とインパはまた闇の空間から身を投げ出し、取り戻したスピードで出口に駆ける。
前を行くインパが何かを見つけた途端、顔だけを後ろへ振り返らせた。


「…!舞っ、お前の出番だ!!」

「Σえぇ!?き、来たんですか!?」


ぎょっと驚く舞の質問に答えず、インパは煙玉で姿を眩ませた。
そのまま走らせていると、間もなく出口という所の境目に突然何者かが現れた。

邪魔そうな大きなマントをはためかせ、その巨体を振り返らせる。


「くくっ、逃げるつもりか舞?」

「!ガノンドロフっ」


頬に流れる冷や汗を拭わず、前をじっと見据えた。腕を組んで余裕の笑みを浮かべている、悪の魔王を睨みつけた。


「何故逃げようとする?この城にいれば、俺様とラブラブフォーチュンな毎日を送れるのだぞ!」

「(尚更逃げたい)」

「…そうか、言葉にせんと言う事は迷ってるのだな。そうだろう、こんなによい夫から離れるなど容易い事ではないっ
悩む事はないぞ舞!!我が許で永遠に幸せを築き上げる名誉を共に持とう!!」


一瞬で舞とゼロの顔が歪んだ。凄い不満たらたらオーラが吹き出ている辺り、体全身で拒絶しているのだ。
しかし、重い溜め息をつくと、ゼロを走らせるまま何故か舞は愁いを帯びた表情をした。


「そうねガノンドロフ…確かに貴方に嫁ぐのも悪くないと思うの…私、馬鹿な事をしているって気付いたわっ

「何!?」


ガノンドロフも意外な答えだったのか、目を驚愕に開いている。だが若干キラキラしている。


「どうして愛する人を捨てようとしたのかしらっ、私間違ってたわ!
ごめんなさいガノンドロフ!私は貴方と夫婦になる未来を快く迎えるわ〜!!」


手綱を放し、バッと両手を広げてキラキラと輝く笑顔でそう放った。
普段の舞からなら有り得ない言動に、一瞬でガノンドロフの周りに花が飛び交った!


「ふふふ…ようやく分かってくれたか舞!その通りだっ、ハイラルを征服した後結婚式をあげ、子どもは男と女を1人ずつ持って何処にもやらん!!覚悟で愛でまくるのだ!!
更には孫にも「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんみたいな夫婦になりたい」夢見る目で語られるのが理想郷だな!!
今からでも遅くはない!さあ舞っ、この抱えきれない程の俺の愛受け取ってくれーーーー!!


キラキラ通り越してギランギランな目で未来を語りガノンドロフは同じく両腕を広げた。
一瞬、舞の口元がまともにひくついたがそれでも満面の笑みは崩す事ない。

片方はゼロに乗ってお互いに向かって走る。
バックに太陽が沈む夕暮れ時の海でも浮かびそうなラブロマンスドラマだ。


「舞〜〜〜!」

「うふふ、ガノンドロフ〜〜〜!
貴方なんかと…


ホントに結婚なんぞ誰がするかあぁああぁぁぁぁああ!!」


メギョオッ!!


触れるか触れないかまで駆け寄った途端、舞は綺麗なまでのシャイニングウィザードを決めた。
着地と同時にゼロに再度跨り、追い討ちをかけるように通り際に踏みつけた。
懇親の力で


「Σぐぼはぁっ!!」


短い悲鳴を上げると、ガノンドロフは微塵も動かなくなりその場で突っ伏した。
言っておきますが皆さん、決して今回が連載の最終回ではありませんので悪しからず。




――――−−---・

「キョーダイ、おめぇにも協力してもらいてえんだ。」

「協力?インパさんもさっき言いましたけど、それって…」

「おう、あの魔王の足止め!」

Σえええぇぇ!!?そそ、それはあたしに食われて来いと言うんですか!?」

「落ち着いて舞〜、そんな事になればサリアがテツ子でぶん殴…」

「落ち着くゾラ(サリアの口塞ぐ)」

「私たちだと危険だからな、お前に何とかしてもらいたいんだ。」

「(あたしも色んな意味で危険なんですけど…)
どうやって止めたらいいんですか?」

「ほれ、アレじゃ!そなたが一発惚れこんだと見せかけてぶん殴ればやつも静まるゾラ!」

「Σそんな手で上手くいくと思ってんのぉぉぉ!?」

「いいんじゃねえか?あの溺愛っぷりなら納得出来んぜ!」

「うん、ちょっと心配だけど…舞、やってみてくれる?」

「えー…あたしは構わないけど……あいつもそこまで馬鹿じゃないでしょうから、保障はしないわよ〜?」



――――−−---・



「…まさか本当にここまで馬鹿だとは……流石賢者、読み的中」


鳥肌の立った腕を擦り、再度手綱を握りなおしながら舞は出口へ向かう。
顔色の悪いままに城を飛び出すと、もはや警備は薄くなっていた。出口付近に来ると、眩い閃光が視界に飛び入る。


「上手くいったようだな」

「インパさん、これでいいんですか?」

「ああ、上出来だ。さあ、仕上げに行くぞ!」

「はい!えーと、後は〜…」

「おうっ、来たかキョーダイ!待ってたぜ!!」


次の作戦を思い返していると、上からダルニアさんが降りてきた。
その背に乗せたルト姫も地面に足をつけ、笑顔を向けてくる。


「上々じゃな、あともう一息ゾラ!頑張るぞよ舞っ」

「ええ!」

【イカンゾ、ソコマデ逃ゲテイル!急ゲー!!】

「む、増援か」

「私が向かう。ルトとダルニアは橋を作ってくれ!」

「おう!」


出口を通ってまた数の多い手下たちが出てきた。対処に向かうインパさんに背を向けて、ダルニアさんはさっきのインパさんのように手を掲げた。掌から赤い光を発しながら


「腰抜かすなよ!炎よっマグマの波を打ち上げろ!!」


ダルニアさんの手がより一層輝くと、城の下層に聳える溶岩が一斉に吹き上がった!
その隙を逃さず、続くようにルト姫が両腕を広げて青い光を身に纏った。


「よっしゃー!!いけ、ルト!」

「承知の上だ!
水よっ、清き流れは熱き鼓動を止める!」


声を張り上げ周りに響くと、今度は対となる大波が何処からともなく現れる!
熱は急速に温度を下げられると固まってしまう。その性質を利用したルトの力は伊達ではなく、見事一瞬にして溶岩を固めた。

簡単な溶岩特性の橋の出来上がりだ!!


「行くのじゃ舞!あまり長くはもたんぞ!!」

「分かった!行きましょうゼロっ」


手綱とお腹を軽く蹴り、ダッシュの合図を読み取ったゼロが駆け出す!
モンスターの足止めもなく、順調に事が進む。あとは此処を通過すればお仕舞いだっ


――――−−---・


「城を抜けるとルトとダルニアが外で待機している。」

「俺の炎とルトの水で橋を作るからな、それを利用して逃げるんだぞ!」

「溶岩を利用するんですね。そんなの、全然思いつかなかった」

「うむ。…だが1つだけ欠点がある」

「え?」

「わらわもダルニアも、賢者に就いてからまだ日が浅い。力のコントロールが完全じゃないからの、橋はほんの数分しかもたんのだゾラ」



――――−−---・



―――ボロッ

ルト姫の言葉を思い返していると、橋の向こう側が崩れ落ちた。
徐々に溶岩の橋が崩れていく…まだ半分しか渡りきっていない舞は冷や汗を流した。


「崩れるの早い…!!」


文句を言ってもきかず、何とかゼロを全力で走らせた。
だがそれでも橋の崩壊は止まらず、とうとう地上と橋の距離は数十メートル開いた。

走る場もなくなり、止むを得ず腹を括り―――


ダンッ!と地を蹴って跳躍した!だけどやっぱり距離は大きく開け、ゼロの跳躍力では届かない。


「お、落ちるっ!!」


汗を握る手で手綱をぎゅっと強く掴んだ。



――――−−---・


「じゃあ、もし崩れた時にはどうしたら…?」

「心配するな、崩れた時にはすぐに助っ人が向かう。安心しろ」



――――−−---・



すると、彼女の頬を風が掠める。舞もその風に気付き隣に振り返った。そこには…


「お待たせ舞!サリアも手伝うよっ」

「サリア!」


昨日まで雑談していたサリアがそこにいた。
宙に浮くままサリアはさっとテツ子を取り出して瞳を瞑る。彼女の体を風が纏う。


「え…サリア?」

「行くよー!森よっ、一陣の風は身を寄せ合い、豪風と化す!!」


彼女が腕を振った途端、ゴォッ!と強風の風が舞達を襲った。


今…
今明らかにテツ子の風圧で風作っただろーーーーー!!?(心の叫び)


だけどその風が背中を押した所為か、舞を乗せたゼロの体が前に押し出された。そして、届かない分の距離がその分で埋められ……


ダンッ!!


ギリギリの距離で、ゼロの足が地上に届いた!
ハァ、と緊張の息を零して振り返る。振り返った先―ガノン城の前ではインパ達が戦っていた。
思わず舞は地上に届いたにも関わらず戻らないと、と身を翻してしまう。


「舞ー!サリア達なら大丈夫だからね〜!だから早く逃げて!!」


彼女を見兼ねてか、風の力で宙に浮いているサリアが大声を張り上げた。
その声に戻ろうとした体も動きを止めて、自分が今しなくてはならない事も思い出す。

本当は今すぐにでも戻って手を貸したいのだが…此処で無駄にするわけにはいかない。
戸惑いながらも方向転換をする。


「サリア……分かった!リンク達の所へ戻るわっ、あまり無茶はしないで!」


空を飛ぶキース等の飛行モンスターが向かってくるのを見て、慌てて手綱を振るった。
背にガノン城を映す舞に、サリアがもう一度声をかけた。


「舞!リンク達は今ハイリア湖にいるから!!」


リンク達の居所を耳に入れ、首だけ振り返らせて頷いた。
再度前を見据えて、ゼロにダッシュの合図を送る。頬を掠めていく風が、城の時とは違い温かいものに変わっていく。


心の中で、リンク達に会える事を祈ってガノン城から遠ざかって行った。







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