43.勇者一座再結成!!




――……なァ、何でダーク、いっつもオレの事『勇者』って呼ぶんだ?
舞の事は普通に呼んでるのに。



いつか言った勇者の言葉が頭を過ぎっていった。
あの時は適当に答えたが…正直、何でか自分でも分からなかった。只、ガノンドロフの野郎が舞、舞って言うから移ったんだ。

だって、そうじゃないと…あの女の事がよく分からなくなる。
いつも馬鹿な事を仕掛けてくる癖に、何で嫌がらねえんだ俺は……イラつく。
何時も人を認めない俺が、何を甘んじみた事を

…こう考えても答えが出てこない。
よくも分からねえ、


「馬鹿女…」

「ダーク!そろそろこっち戻って来いよ〜!」


渓谷の入り口から勇者が手を振りながら叫んできた。
あの顔はさっきの憂鬱なものを纏ったものではない。…吹っ切ったのか、ようやく女々しい癖を取り除いて。


「…しゃあねえな」


本当はまだ暴れ足りねえが、放っとくとまたさっきみたいにうじうじしかねねえ。
適当に剣を鞘に収めて、返り血のついた服を払う。

空しく倒れた残骸どもは少しずつ青い光に飲み込まれて消えていった。






勇者一座再結成!!








ハイラル湖が己の身を青の色から橙色に変えていく。
また太陽が、ゆっくりとその身を沈めていくのだ。それは紛れもなく、今日という一日が終わる合図


「あ〜〜…方法見つかんないな〜!」


ガシガシと頭を掻きながら、リンクは普段全然読まない本相手に唸っていた。
頭を使うのが苦手な分、本を読むのがあまり好きではない。そんな自分にとって、今日一日は心から褒め称えたい努力をした。
リンクは心の中でそうやって自分を褒めた。


「やっぱ敵陣に乗り込んだ方が早くない?」

『もウ〜、直ぐ行動ニ移そうトするんだカラ!たまには頭を使いなさイっ』


ペチッ、とあまり痛くない羽アタックをかまされた。
渋々読みかけの本へ視線を移しながら、博士の入れてくれた紅茶を飲む。


「おい勇者、お前鬱陶しいぞ。集中できないから大人しくしてろ」

「え〜〜…ダークまだ読んでんの〜?オレもう無理だよ〜、死んじゃうよ〜〜」

「それが鬱陶しいってんだよ。いいから大人しくしてろ」


一言放つと、伊達メガネをかけたダークはまた1ページ捲った。
ダークの傍には既に本の山が出来上がっている。慣れているとは言え、こんなに差が開くもんなのか…

凄いな〜、と関心しながら椅子を揺らしていると、博士がリンクに視線を移した。


「リンク、少し休憩してきてはどうじゃ?あまり詰め過ぎると体に毒じゃぞ」

「え?でも、博士たちは昨日からずっと頑張ってますし、オレだって協力しないと」

「わしは普段から読んどるからいいが、お主は慣れとらんじゃろ?あまり無理すると体によくない。
心配せずとも、そう簡単に見つかるもんじゃない。少し気晴らしに外へ散歩に行っといで」

「でも……いいのか?」

「行って来い、お前がいねえ方が大分落ち着く」


片手で薙ぎ払われ、リンクは少々カチンと来た。当の本人は片手でシッシッと言うように払いのけている。
どうやら本当に邪魔のようだ


「あーそうかよ、そうですかっ、オレはそんなに邪魔者か!
じゃあいいよーだ、行ってくるから!!ナビィっ、一緒に行こう!」

『ナビィも?うーん…まあいっか〜、いいヨ』


ふわりとランプから身を離したナビィはリンクの肩にとまった。扉から身を外に出して、ダークにべっと舌を出すとバタン!と乱暴に閉めた。
主のいなくなった椅子を見つめると、ダークは落ち着いたように溜め息をついた。


「お前さんも素直じゃないのう。素直に休めと言えばよいじゃろう」

「俺は本当に鬱陶しいと思っただけだ!」


伊達メガネを外すと、ダークはぶっきらぼうに淹れられた紅茶を飲んだ。
博士はくつくつと喉で笑いながら新しく本を取りに本棚へ向かった。





***




「あー、もう!何なんだよダークの奴っ、折角人が頑張ってたのにさ!」


まだぶつぶつと文句を呟きながらリンクは石を蹴った。
ナビィはその様子を見て博士のようにくつくつと笑う。


『ダークも素直じゃないだけだヨ〜、休めって遠回しに言ってると思うヨ』

遠回しすぎて分かんないよ!」

『じゃあもっとダークの事知らなキャね!』

「うーん、まだまだ仲を深めるのは難しい」


顎を指で撫でて眉間を歪める。変な顔だヨ、と言ってナビィは可笑しそうにクスクスと笑った。
苦笑を漏らしながら、リンクはハイラル湖を一通り見渡した。湖に少しずつ太陽が姿を隠そうとしている。もう夕暮れ時か…


「…なあナビィ、オレ…また舞と笑えるかな」

『?』

「今こんなに行き詰ってて、まだ手がかりも方法もないけど…」


また会えるよな?
そう弱弱しく呟いたリンクは悲しそうに視線を俯かせた。肩にとまっているナビィにはその表情が伺えて、こっそりと溜め息を漏らした。


『(どうしテこんなに想ってるのニ、好きって事に気付かないんだロウ…)』


まるで弟の恋の行方を見守るお姉さんのようなナビィ。初々しいリンクの初恋に心の中で哀れ気味、少しだけ可笑しくて笑ってしまった。


『大丈夫だヨ!舞がいないとこの旅は終わんないモンね。リンクが弱気になっチャ駄目っ、頑張ろうヨ!』

「ナビィ……。うん、そうだよな。オレが頑張んなきゃ、舞助けらんないもんな!」

『その意気だヨリンク!』


再び明るさを取り戻したリンクに微笑み、ナビィは体を黄色に染めた。
橙色に染まっていくハイラル湖を静かに見つめて、目を閉じながら大きく息を吸い込んだ。少しだけ、潮の香りがしたのは、何処かの海と繋がっているのだろうか?




ヒヒィンッ


「……?」


ピクリ、とハイラル人特有の長い耳が揺れた。目を閉じた事で研ぎ澄まされた聴覚が何かを聞きつける。

馬の鳴き声…?エポナかと思えば、エポナとは違う方向から聞こえてくる。それにこの鳴き声はもっと低い。
何処からだ、ときょろきょろと辺りを見渡すと、リンクの異変に気づき、ナビィは肩から離れた。


『?どうしたノ、リンク』

「馬の鳴き声が…エポナとは違う、別の…」

『え?』


今度は鳴き声から、パカラッパカラッと音が聞こえた。馬の走る時の音だと気付いた時には、その音がどんどん近づいてこようとしてるのに気がつく。
剣に手を掛けて何時でも戦闘態勢に入れる形で辺りを見渡した。

すると――


ヒヒィィンッ


さっきよりも断然大きく、馬の鳴き声が聞こえた。
聞こえた方向は後ろ。渓谷への入り口辺りからだと気付き、リンクは瞬時に振り返った。だが丁度太陽の逆行が当たり、眩しすぎる光景に目を細めた。

渓谷の入り口には前足を高々と上げた馬がいた。その馬の背には…人のような形もある。
逆行の所為で影がシルエットになり、その正体が誰なのか全く分からない。…分からないというのに、リンクの鼓動は何故か早く波打つ。


「(何だ…?誰だ、一体?)」


ドクドク、と外にまで出そうな鼓動を耳に、リンクはその影を見入った。
影は、ゆっくりと馬を前に進ませてくる。徐々に逆行がズレて、シルエットが姿を消していく。



「―――リンク…?」


耳に届いたのは…聞ける筈のないソプラノ調の声。
目が驚愕に開くリンクに構う事無く、更に相手は歩みを進めてきた。進んでくる事で下から徐々に影は正体を現せていく。

馬は、真っ黒い毛並みに、映える様な銀色の鬣を靡かせている。顔に十字の白い模様を入れた、金色の瞳…
いや、そうじゃない。自分が気になるのはその上の人影だ。


「ねえ、リンクなの?」


不安そうな声色を発した人物が、足元から姿を現せた。
途端に心臓が今まで異常にバクバクとなった。茶色の靴、白い足、赤いスカート、白い服…
首許に巻きつけたマントが風に揺られる度にバタバタと煩くはためく。


「(嘘だろ?まさか…)」


その思いも、現実を見ろと言う様に打ち砕かれた。
シルエットを完全に取り除いた相手の顔が夕日に照らされる。黒い黒髪に黒い瞳…さっきから自分の名前を呼ぶ桜色の唇に合う白い肌。

間違いなく、ずっと探している


「――…##NAME2##……?」


名前を呼ぶ声が情けないほど震えてしまった。舞、と呼ばれた少女は不安そうな顔を綻ばせ、いそいそと馬から下りた。
駆け足で自分の許に寄ってくる少女を只呆然と見詰め、リンクは目を一杯に開いた。


「リンク!それに…ナビィも!」

『嘘…嘘っ、ホントに舞!?舞なんだネ!?』

「勿論よ、あたしは舞よナビィ!」


嬉しそうに名前を連呼しながら飛び回るナビィに微笑みかけて、舞は改めてリンクに向き直った。
まさか、またフロルの幻術?でも、彼女は動いてるし、喋っている。


「リンク?おーい、リンク?」


ひらひらと目の前で手を振る彼女に、ようやくリンクは我に返った。
会った途端、今までの事なんて全部忘れて、頭の中は目の前の彼女で一杯になって何も考えられなくなる。
かける言葉も見当たらないリンクは、目を強く瞑った。


「リンク?ど、どうしたの?」


心配そうに覗き込み、肩に手を置いてきた。触れられた途端、完全にフロルの幻術ではないと確信できた。女々しい自分は卒業したと思ったのに…
兎に角言葉をかけるよりも何よりも、


「舞!!」

「うわっ」


リンクは両腕を一杯に使って舞を抱きしめた。骨が軋みそうな程強く抱きしめられ、少しだけ舞が咳き込む。そんな事にも気づかないほどリンクは舞と再び会えたことが嬉しくて、只強く締め付けた。


「舞だ!舞なんだな!?」

「ど、どうしたのリンク?あたしはあたしでしょ?」

「良かった…っ、君に、やっとまた会えたんだ…!!」

「リンク?そんな、たった2日程度しか離れてないじゃ―」

「オレにとっては、その2日が何より長かったっ!!」


玩具を取り返した子どものように、幾ら慰めても離れられないようで。それどころか綺麗過ぎるほどに整えられた眉間は只頼りなく歪むばかり
どうしようもなくて、表ぶりは落ち着いていて…それでも、どうしても早く、


「会いたかった…っ!!」


苦しそうに言葉を漏らし、リンクは抱きしめる力を強めた。
最初は疑問に感じた舞も、声の様子からも少しずつリンクの気持ちを察して背中を叩いた。


「…リンク、苦しかったわね」

「ああっ、苦しすぎて、死ぬかと思った…!!」

「あたしもよ。早く貴方達に会いたくて、頑張ったもの。
心配かけてごめんなさいね、…心配してくれてありがとう」


背中を撫でて叩く舞の手が暖かすぎて、我慢している涙が零れそうになった。
少しずつリンクも落ち着いてきて、抱きしめる力が少しだけ緩むと、カチャリと後ろから音が聞こえてきた。


「おい勇者、さっきから何喚いてんだよ」


聞きなれた低音ボイス…どうやらダークがリンクの大声を聞きつけたらしい。リンクで丁度陰になっている舞が見えてないダークは、呑気に頭を掻きながら扉を閉めた。


「ダーク!舞がっ、舞が戻ってきたんだ!!」

「はァ?」


何言ってんだ、と言う感じのダークに証拠を見せるよう、彼に見えるようにリンクは体をズラした。
舞の姿が完全に見えて、ダークは元々細い目を少しだけ大きく開く。


「ダーク!」

「なっ、馬鹿女!お前、いつ戻ってきたんだ?」

「たった今よっ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから」


唖然と突っ立っていたダークも、首を横に振るとすたすたと近づいてくる。


「ったく、心配なんてしてるわけじゃないが…戻ってくるならさっさと戻って来い」

「ごめんなさいってば」

「なあ舞、話しに割り込んで悪いけど、あの黒馬…何処から連れて来たんだ?見たことないんだけど」

「あァ?黒馬だ?何馬鹿な事言ってやが―――」


リンクに振り返ったダークは、視界の隅に移った影に気付いた。
少し離れた所にいた黒馬の姿を見た途端、ダークは限界以上に目を開く。手に何かを持っていれば絶対落としてそうなほどに


「なっ…嘘、だろ……っ」

「ダーク?どうしたんだ?」


そこにいる者の存在に、信じられないと言ったような表情をするダークにリンクが問いかける。
今のダークにはその言葉も入ってないようで、パクパクと開け閉めする口から搾り出すようにようやく呟いた。


「まさか……――ゼロ…!?」


ダークが名前を呼ぶと、ゼロと呼ばれた黒馬は俯かせていた顔を上げた。
呼んだ者に振り返ると耳をピン、と立てた。リンクの近くで見ていた舞はじっと見守っている。


「(やっと会えた…きっと、ダークもゼロも喜ぶと思ったわ)」

「舞、あの黒馬は?」


リンクもダークの反応に気になった様で、ぽつりと言葉を漏らした。


「ゼロって言ってね、ダークの友達なの。昔離れ離れになってたんだけど」

「へぇー…そうなんだ。じゃあ久しぶりなんだ」

「ええ、何年か分からないけど、数年ぶりの再会よ!」


そう教える舞は嬉しそうにゼロの様子に顔を綻ばせる。ゼロは嬉しそうに短く鳴くと、元の主の許に寄ろうと駆け出した。


…だが、


よ、寄るな!ゼロっ、来るんじゃねえ!!」

「…え?」


だが、それも主の声に遮られる。その声にゼロもピタリと足を止め、ぶるるっと鳴いた。


「ど、どうしてダーク?数年ぶりの再会でしょ?貴方の大切な友達じゃない」


それなのに何故、近づく事を拒むんだろう。小首を傾げながら疑問を浮かべる舞、対象になっているダークは顔を俯かせていた。


「ど、どうして……どうして、戻ってきたんだっ」

「え?」

「お、俺は……――っお前と会うつもりなんてなかったのにっ!!」


搾り出すように出した言葉は、予想外の答えだった。目を見開く舞の視線の先には、苦しそうに唇を噛んで何かに耐えているダークの姿があった。


「な、何でだよダーク!久しぶりに会えたのに、そんな言い方ないだろ!?」

「言うしかねえだろうが…っ、俺はゼロに、こいつに会っていい奴じゃない…!!」

「ダーク?何をそんなに抱え込んでいるの…?」

「……当たり前だ…俺はっ、…こいつを見捨てた裏切り者だぞっ!!」


腕を抱え込んだダークは、今まで見たことがないぐらい弱弱しかった。


「舞、ゼロは、城にいた時どうなっていた」

「え?えっと…処刑されそうになっていたわ、実験室に放り込まれてたけど…どうしたの?」


またもや小首を傾げる舞に、ダークはゆっくりと視線をあげた。かち合う視線は正反対の希望と絶望。


「俺は…その時悠々とここで過ごしていたんだぞ…ゼロが酷い仕打ちに合ってる時も、お前らと馬鹿騒ぎしてたかもしれねえ…っ」

「そんなのダークが悪いんじゃないだろ?深く考えすぎない方が…」

「これを深く考えんなって言うのか!?俺はそこまで無神経な男じゃねえよ!!」


リンクの言葉に反応して、ダークは吊り上げた目をキッ、と向けた。
思わずその剣幕の凄さに、リンクは息を呑んだ。


「お前分かんねえのか!?自分を信頼した奴を裏切る事が、どんなに大きな罪だと思う!!」

「裏切りなんてそんな…」

「考えてもみろっ、もしお前が大切にしてる奴らが苦しんでる間、自分がのうのうと笑っていたらそれは本当にいい事か!?テメェは笑って見過ごせるってのかよ!」

「…っ」


ダークの言葉で、リンクは頭の中で母親の事を思いだした。自分の命と引き換えに死んでしまった母親にどれだけ罪悪感を持ったか…
無神経になれるわけない、そんな無慈悲な事をするわけ……

そう考えると、確かにダークの言ってる事も分かるのだ。自分も実際そうなってた時期があるから


「こいつが拷問やら何やらで苦しんでる間、俺は放ったらかしにして笑い転げてたんだぞ!
こいつの事見放して…1人だけ悠々と生きてっ!!」

「ダーク…」

「…っ、餓鬼の頃から!俺は、一度も助けてやれなくて…っ!
こんな俺が、こいつの主になんて…なる資格はねえよ…!!」


握りこぶしを作ってまで必死に耐えている。本当は駆け寄って久しぶりの再会を味わいたいんだろうに……
優しすぎるダークの性格が彼自身を追い詰めている。だからこんなに苦しくなるんだ。



――ぺろっ


「!なっ」


ダークは頬に感じた生暖かい感触に顔を上げた。そこには自分の頬を舐めるゼロがすぐ近くにいる。
その様子を見たダークは慌てて身を引いた。


「く、来るんじゃねえゼロ!!人の話聞いただろ!?」


必死に近づけまいとするダークに反して、ゼロは尚も歩み寄る。どんなにしても離れようとしない様子に、ダークも慌てた。


「ゼロ!!い、いい加減にしろ!お前の主なら他を探せば幾らでもいるっ、俺なんかより、まともな奴が…!!」

「ダーク…」


少しずつ語尾が弱くなってくるダークは、擦り寄ってくるゼロの顔を抑えたまま、顔だけ俯かせた。


「…っ、分かってくれよ…! お前の苦しむ姿を見るだけで、俺は狂っちまう!
これ以上、俺を苦しめるのは止めてくれっ…!!」

ぶるるっ


強く瞳を瞑ったダークに、ゼロは鼻を鳴らせた。何かに気付いたように、体を桃色に染めたナビィは、ひらひらと舞いながらダークの肩にとまった。


『ねェダーク、あのね、ゼロがダークにも分かって欲しいって言ってるヨ』

「…何…?」

『ナビィ、森の妖精だから動物の言葉が少し分かるノ。だからゼロが言いたい事分かるヨ』


そう言うと、ナビィは体をゼロに向けた。読み取ったのか、ゼロはまた短くヒヒンッと鳴く。


『…ゼロね、ダークの事憎いって思ったことないっテ。ずっトダークに会える事を信じて今まで生きてきたんだっテ』

「俺を……?そんな訳…」

『ダークがゼロの事を憎く思ったのハ、ゼロの事を酷く信じきった証拠だカラだヨ』

「!
ち、違う!本当に醜く憎んだんだっ、あの時は…!!」

『…信じた相手がいなくなるのガ辛くて、それで憎いって感情が生まれたっテ。愛情の裏返しのようなモノで仕方なク…』

「ふざけんな!俺は…本当にテメェが思うほど綺麗なもんじゃねえ!!
猫被りの悪魔だってのに、何でそこまで俺に執着する!?いい加減鬱陶しいんだよっ!
頼むから別の主の下へ行ってくれよっ、それで両方丸く収まんだからっ!!」


突き放すように、ダークは眉間に皺を寄せて吠え掛かった。それでも、経験がつまれてるのかゼロは微動だにせず、真っ直ぐとダークに向いたまま。


…ぶるるっ

ゼロが小さく鳴いた声に、ナビィが反応した。


『主ならそこら辺に幾らでもいるケド、…でも友達は、ダークしかいらないっテ』

「!!」


度肝を抜かれたのか、ダークは大きく目を開いた。真っ直ぐと向いたゼロの言葉は、ダークの心を揺るがせるには十分過ぎた。


「だ、ダチだと…!?ふっ…ふざけた事言ってんじゃ……」


ゼロの言葉に困惑するダークは、彼とは正反対に混乱していた。言いたい事があるのに何を言えばいいのか分からず、また怒鳴り散らかそうとした表情が沈みながら俯く。


「…っ、な…何で……っ」


血が流れそうな程強く握りこぶしを作り、唇を噛んで俯く彼の頬を、ゼロはまた優しく舐めた。
突き放す事も忘れたダークは、泣きそうな子供のように眉間を歪める。


「何でっ、―何で!何でなんだよ!!……早く、逃げてくれりゃ…っ!」


自分もゼロも楽になれる。
…とは言っても本当は自分やゼロが一番になれる方法なんて考えていない。…只怖いのだ。
慈悲深い人間でもなく、完全に成りきれた魔物でもない自分自身が、この先ゼロをまた裏切ってしまわないかをダークは怖がってる。
真っ直ぐに生きていく自信なんてない自分に、ゼロが甘えてくる事を怖がっているのだ。


「ゼロ…無理して、表向きの善さを俺に向けて、何の得があるっ
結局は両方苦しいだけの結果なのに…!」

「ダーク…ゼロの喜びようは表向きだけじゃないと、思うわ」

「!なっ―テメェに何でそんな事が分かんだよ!!」

「お手本になるか分からないけど…エポナがあたしの頬を舐める時って、大抵嬉しい時だけなのよ。
あたしゼロに会ってからは、一度も舐められてないわ」

「!」


舞の言葉に振り返ると、彼女は見守る母親のような笑顔を浮かべていた。
その笑顔にドクンと何かが渦巻きながらも、直ぐにそれもゼロが擦り寄ってきた事で向き直る。


「ゼロ……」

ぶるっ


名前を呼ぶ声に素直に反応したゼロは、ダークへ向き直った。それとは対に、戸惑うようにダークは指先をどうするか迷った。
このまま触れるべきか、それともいっその事突き放してしまうか…


「お、俺は…本当に、テメェが思うほど出来がいいわけじゃねえんだ…
またいつか…お前を突き放す時が来るかもしれないっ…そう分かっても、まだしつこくくっついてくんのか…?」


少しだけ、ギッと睨み上げる。だがゼロは怯える事もなく、視線を逸らす事もしなかった。その真っ直ぐすぎる瞳に、ダークの方が眉間を下げた。


「なァ、ゼロ……!俺は、どうしたら…っ」


悲しそうになる瞳のまま、彷徨う指先をゆっくりと宙に浮かせた。触るのを怖がる子どものように、何度か引いたりしながらも、ダークは震える指先で、真っ直ぐと見つめてくるゼロの頬に触れた。
ようやく触れられた事にゼロは、途端に嬉しそうに手に擦り寄った。その姿にダークは鼻奥がツンと痛くなったのを感じる。


「…っ!」


あんなに突き放したのに、裏切った奴だと言うのに、こんなに嬉しそうに擦り寄る相棒に一気に罪悪感が生まれた。
ゼロの体温を感じ、「ごめん」という気持ちの中に紛れて、今更になってようやく会えた事の嬉しさや喜びが心の中から溢れかえる。

―裏切って悪い。お前を見捨てたのに、またこの先何かあるかもしれないのに…
それでも、心のどこかではいつも…


どうしても“会いたかった”んだ



「っ―ゼロ!!


もう片方の腕も伸ばして高くなった相棒の首元に腕を巻きつけた。視界に入るのは顔を埋めた銀の鬣と、黒の体に分かりにくいがくっきりと残る無数の傷跡ばかり。
どれだけ頑張ったんだろう…自分に会える事を糧に生きた相棒に、かける言葉も見当たらない。
それでもゼロは…自ら頬を寄せてくれた。


「会いたかった…っ!どうしても…お前にっ!!」


自然と笑顔が広がるダークには、体一杯に感じるゼロの温もりを感じる事と擦り寄ってくる甘えた声に耳を傾ける事しか、今は出来なかった。
それからは相棒の名前しか呼べなかった



「…良かった、ダーク喜んでくれて」


空気を読み取ったナビィが戻ってきた頃、舞はダークの様子に口元を綻ばせた。


「凄いよな、あのダークが……相当大事な存在だったんだなァ」

「え?…あ、そっか…」


リンクはダークの過去を知らないんだ。自分しか見てこれなかった過去の光景を思い出して、舞は口を瞑る。
気付いていないようで、リンクは舞の隣で微笑んでいた。


「そうだ、ゼロの事でバタバタして、まだ言ってなかったよな」

「…?何を?」


身長の高くなったリンクを見上げると、夕日をバックにリンクは目を細めて見つめてきた。
一瞬だけ早くなった鼓動に気付く事無く、舞は微笑むリンクを見つめた。


「お帰り、舞。また君と笑い合えて、嬉しいよ!」


残酷な程綺麗に笑うから、暫く見入ってしまった。綺麗が似合う笑顔を作るリンクには負けるかもしれないけど…そう思いながらも舞もリンクに合わせて微笑んだ。


「ただいまリンク!」


ようやく揃った旅人の一座。
皆がそれぞれ、顔に笑顔を広げていたのを空を翔る鳥だけが見つめた。

遠目からリンクと見守る舞も優しい笑みを浮かべる。…が、少し複雑そうに困った表情も含んでいる。
その理由は目先にいる、ダークが原因なんだが。


「(ダークに会ったら、絵画の事を聞こうかと思ったけど…この様子じゃあ暫くは無理そうね)」


ガノン城での彼の過去を境見て、気になった事を聞こうと決めていたのだが…
久しぶりの親友との再会を邪魔する事も出来ず。本当は少しでも早く聞きたいと思っているが、こうなっては致し方ない。

また日を改めて聞きなおそう、と少し残念な気持ちを抱えて打ち切ることにした。
まあ今は…


「(普段見れないダークの笑顔が見れるだけでも十分よねっ)」


再び彼女の顔に笑顔が戻った。

ハイラル湖が橙色から少しずつ藍色に染まろうとする境時。
最後の名残と言うように夕日が照らし出したのは、リンク達から見えないダークの目元にうっすらと浮かんだ雫だった。

まさか泣きそうになったなんて言える筈もなく…
ダークは誰にも教えまいと涙を堪えた。





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