44.迷いの国の旅人達
リンク達が再会を果たし喜び合う一方―――
舞を取り逃がしてしまったガノン城では、ガノンドロフが怒りに身を任せていた。
八つ当たりもいいところに、目に付いたモンスターが気に入らなければ片っ端からかき消していく。
…自分自身、以前舞に面白いほどあっさりと引っ掛かったと言うのにな
「ぐぬぬ…おのれ、非力だと思って気を緩めすぎたかっ!!
舞と言えど許せん!!直ちに連れ戻すのだ!」
「お怒りのようですの〜、ガノンドロフ様」
玉座に座るガノンドロフの傍に、箒に跨った老婆―ツインローバが飛び寄ってきた。
いつどんな時でも不気味に笑う様は、ガノンドロフの側近と言っても可笑しくないほど。
「ツインローバ…次は貴様らの配置場所だろう。彼奴らが向かう前に、直ちに手を打て!!」
「勿論ですとも、のうコウメさん」
「その通りじゃよコタケさん。ヒッヒッヒ…さぁて、お怒りの雷が落ちる前に、わし等も早々に向かうかの」
すいー、と飛んでいくと、ツインローバは自ら作り出したブラックホールのようなものに飛び込んだ。
2人の老婆の姿がなくなると、玉座の間には静まり返る空気しか残らなかった。
頬杖をつくと、ガノンドロフは徐に口を開く。
「舞が逃げようとした時、部下の1人が、貴様が舞を見逃したのを見たと聞いたが…
まさか貴様、本当に見て見ぬ不利をしたのか?
――シーク」
ガノンドロフの言葉に反応したのは、彼が座る玉座の右手に佇む青年だった。
それは紛れもなくハープを抱えたシークで、何処を見るわけでもない赤の瞳が少し細まった。
「答えろ」
「…確かに私は見過ごしました。その理由は、6賢者の4人が彼女に手を貸していた為、恐ろしく手が出せなかったのです。
私は怯えのあまり見逃してしまいました、それだけです。…弱者への処罰なら幾らでも受けましょう」
シークの淡々とした言葉に、ガノンドロフはちらりと横目で見た。
怯えのあまり…果たして本当かどうか。ふん、と1つ鼻で笑うとまたもや視線を正面の扉へと向ける。
「一々貴様如きに処罰などせん。汚名を晴らせたくばさっさと貴様も行け、言葉ではなく行動で証明して見せろ。
…但し、次に震え上がって逃げるような事をすれば、躊躇なくこの世から消す。分かったか」
「…承知しました」
胸に手を翳し、頭を下げるとシークは風のように身を緩やかに消してしまった。
静寂に戻った部屋の中で、ガノンドロフはシークがさっきまでいた場所を見やる。気に入らないように歪んだ眉間と共に、青筋が立った握りこぶしが、壊れそうなほど椅子を掴んだ。
迷いの国の旅人達
前回のダークとゼロの感動の再会があってから翌日、空は快晴な青空となり燦々と輝いていた!
ダークの様子が心配で大丈夫か…と心配しながら昨晩床に就いたリンク。
…だがそんな心配を微塵も残さないように、ダークは朝となると寝坊したリンクを蹴飛ばし、更には顔に往復ビンタをかまして無理矢理目を覚まさせた。
勿論「美顔が傷つく!!」と全身全霊で止めた舞によって終わったが、リンクの顔は完熟トマトのように真っ赤に腫れ上がっていた。
心の中で自分とダークの関係性が上手くいってないと痛感したリンクでした。
それからはまた朝食を博士にお世話になり、お昼を迎えるよりも早い時間帯頃に研究所を巣立つ事となった。
「博士、本当にお世話になりました」
「よいよい、また何かあった時には来なさい。くれぐれも無理はするでないぞ」
「ありがとう御座います!さっ、じゃあ皆行こうか」
笑顔で振り返るリンクに頷き、舞がエポナに、ダークはゼロの手綱を引いた。
ゼロが仲間に加わり、移動手段としてダークがゼロに乗って旅をする事になった。リンクはまだ懐かれていない為に、舞と一緒にエポナに跨る。
「やった!また馬に乗れた〜!」
「くっ、リンクは何故素でクリーンヒットする行動をするのかしらね…!!」
『(舞が何かに必死ダ)』
背中越しにリンクと言う美形がいると言うことに悶えながら、舞は必死に(色々と)頑張りながら手綱を振るった。
舞に捕まりながら、後ろを振り返ったリンクは大きくみずうみ博士に向かって手を振る。みずうみ博士もそれに応え、顔の横辺りまで手を上げた。
「頑張るのじゃぞ、わしは見守る事しか出来んが、何時もお主らを応援しておる」
みずうみ博士が穏やかに微笑み手をゆっくりと下ろしていく頃には、ハイラル湖から馬の蹄の音が消えた。
***
++inハイラル平原++
太陽が真上に昇る頃、2匹の馬が平原へ飛び出した。
7年後の世界では珍しい太陽の日差しが平原と繰り出したリンク達を明るく照らす。
モンスターの姿もあまり見られない平原を見ると、此処だけだと世界が危機に晒されているなんて予想も出来ない。それほどの天候に恵まれたのだ。
「よーし、今日は調子いいかもな!この調子でがんがん進むぞ!!」
真昼に到達した時間、ハイラル平原にて順調に事が運ぶ勇者一行だが……
ここで、ダークがある大事な事に1つ気がついた。
「で。次の賢者は何処にいんだ?」
……………。
サンサンに輝く太陽とは真逆に冷たい沈黙。もうこの時点で答えも決まったようなものだが、それを打ち破ったのは舞で…キッパリと言った。
「あー…言い辛いんだけど、全くと言っていいほど検討がありませんね」
「事前に確認ぐれえしとけえぇええぇぇ!!!」
ゼロの上でダークが壊れた!!それはもう卓袱台でもあれば親父のようにひっくり返してしまいそうな勢い。
その近くでは「止めてあんたー!!」と舞が、「お父さん止めてよ〜〜!」と舞にノったリンクが叫ぶ。
まあ、その直ぐ後にダークの鉄拳が下り沈められたのだが
「ったく、よりによって魔物の巣と言われる平原で悩む事になるとはっ」
「しょうがないわよ、昨日はドタドタして落ち着く暇がなかったもの〜」
「んなの理由になんねえだろ」
「そう言うダークだって、ゼロとの再会が嬉しくて泣いてたじゃな…Σいだ!!」
「泣いてねえだろが!!勝手に話しを作んじゃねえ!!」
ダークの放った小石が、カーン!!といい音を立ててリンクにヒットした。丁度おでこに辺り、前髪が分かれている分赤くなった痕がよく見える。
眉間を歪ませ、微かに赤くした顔でダークはリンクを睨んだ。無言であれど、言いたい事は分かるだろう。
「兎も角だ!!次の賢者の当てがないとこの先進まねえぞ!」
「それもそうだ。ナビィ、次が何処か分からない?」
『う〜ん……、…!そうだっ、前にシークが言っていた事を思い出せばいいんジャないカナ?』
「シーク…?」
ナビィのシーク、と言う言葉にリンクの表情が歪んだ。
きっと、あの裏切り行為がまだ心の傷から癒えてないんだろう。それ程リンクにとっては衝撃的事件だったんだ。
「シークが言っていた事って?」
『ホラ、深き森とか、高き山とか…ッテ言ってくれてたでしょ?』
「ああ…そう言えばそれ聞いたわ。えーっと、何だっけ?
先ずは深き森でしょ?次に高き山、あと〜…」
「次って確か、水の賢者だから広き湖じゃなかったっけ?」
「その次は闇、屍の館だ。…だとすれば残る1つは…」
「「「砂漠の女神」」」
リンクと舞とダークの3人の声が重なった。
残りの賢者はあと1人…それも、砂漠の女神とくれば当然の事
「砂漠のある所?」
『砂漠カ〜…何処にあったッケ』
「…?(何か忘れてるような…砂漠の女神……?)」
リンク、ナビィが顔を見合わせて首を捻ると、舞も同じように首を捻った。
何か大事な事を忘れてる。『砂漠の女神』と言う言葉を聞くのは初めてではない…だからと言って、シークから聞いたと言う訳じゃなく、それよりもずっと前に何処かで聞いた覚えがあった。
必死に唸っていると、ゼロの手綱を操りながらダークが空を見上げた。
「砂漠って言やぁ、ゲルド族の集落がある場所じゃねえか?」
『あァ、そうダ!確かあの地には幻影の―――』
「(ゲルド族…?……!!)
おあーーーーーーーーーーーー!!!」
「Σ!?ど、どうしたんだ舞!?」
喉に突っかかった魚の骨が取れた様な感覚。舞はその感覚を感じた瞬間、大声を上げてしまった。
思い出したのだ、何か忘れていた大切な『何か』
「そうだ、ゲルドの砦…!ナボールさん!!」
「?何だよお前、ゲルドの事知ってんのか?」
「知ってるも何も、あたしゲルド族の一人だものっ
リンクと別れていた7年間、ずっとそこでお世話になったの!」
「そう、だったのか…?じゃあラウルが言っていたある場所で、って…ゲルド族の所だったんだ」
ポツリ、と気になる事を呟くリンクに気付く事もなく、舞は暫く離れたゲルド族の事を思い出していた。
そう言えば、まだ数日しか経っていないと言えど皆と離れていたんだ。寂しいところがある。
それに…自分を一族に迎えてくれた族長のナボールが『砂漠の女神』へ赴いてから姿を消したままなのだ。多分もう帰っているとは思うが…生憎自分はまだ確認していない。
「(ナボールさんに会いたい…)」
「次の賢者が砂漠の女神にいるとすれば、ゲルド族の集落に向かってみるといいかもな」
『ゲルドの一族は砂漠の女神様を守ってるトカ聞いた事あるケド…』
「じゃあ行ってみようよ!!舞を迎え入れてくれたって言う人達も見てみたいしねっ」
にっこり笑うと、リンクは悩む舞の背中を後ろからポンと叩いた。
それに気付いた舞もリンクへ振り返り、嬉しそうに笑った。少なからず、やはり仲間の皆に会いたい気持ちがあったんだ。嬉しい筈だろう。
話が決まり、再び舞とダークは各々の愛馬を操った。向かう先を砂漠の地へと向け、全力で走らせる。
頬を掠めていく風を感じながら、久しぶりに会える仲間の皆を思うと心が温かくなった。
「なあ舞、ゲルド族って…男の人達なのか?」
ふと突然、振り落とされないように舞に捕まっているリンクが少女の小さな背中に声をかけた。
振り返ることはしなくも、風が掠める耳では声を耳に届けいれた。
「リンク、友達を作りたいの?でも残念、ゲルド族は女だらけの種族よ」
「女の人…そっか、そうなんだっ」
「ん?」
強く吹いた風の所為で、リンクの声の後半部分がよく聞き取れなかった。聞き返そうとしたが、嬉しそうな気配が伝わってくるので、いい事でもあったんだろうと簡潔に済ませる。
「オレがいない7年間、ゲルド族の集落でどんな事があったんだ?オレ、舞の思い出とか聞きたいんだ」
「そうね、エポナに会ったり、乗り方を教えてもらったりしたわ。
……シークに初めて会ったのもね、ゲルドの砦だったのよ」
「!!……そ、そっか」
楽しそうに話していたリンクの声のトーンが下がった。表情は伺わなくても、大体の想像はつく。
正面を見据えた舞の視界に、平原の草原から乾いた土へと変わった地面が映る。
「ねェリンク、シークの事まだ気にしてる?裏切られた事、まだ傷ついてるのね?」
「…舞は、平気なのか?」
「あたしはもう気にしていないわ。
…まだ言ってなかったけど、ガノン城から脱出した時ね?逃げようとしたあたしの前にシークが現れたの」
「…」
「でも彼、持っていた短剣も仕舞ってあたしを見逃してくれたの。
助けてくれたのよ」
「!…そう、なんだ…」
「リンク…、直ぐに忘れろとは言わないわ。でも彼が完全に悪い人だとは思わないであげて。
きっとシークにも事情があるのよ。言い切れないけど…もう少し、様子見をしてあげましょうよ、ね?」
「……」
うん、ともいいえ、とも言わずに俯いた。舞もその気配が伝わったのか、小さく口から息を吐き出して手綱を握りなおした。
リンクの気持ちは分かる。自分だって、彼に会った時は喧嘩を吹っ掛ける真似をしてしまったんだから。
キッカケがなければきっと今のこの気持ちはなかっただろう、リンクにももう少し時間が必要だ。
そう自分に言い聞かせながらも、リンクとシークが一秒でも早くまた仲直りしてくれる事を祈った。
「ようやく見えてきたな」
「―あ、ホントだっ」
前方を走るダークの声が風と一緒に耳に届いた。
ゲルドの砦と平原を繋ぐ橋…間違いない、ゲルド族の領域に到達したんだ。只違うのは橋の近くに見慣れぬ青いテントが張られている事。
そして…もう1つは―――
「なっ、橋が…」
『橋が切れてるヨ〜〜!?』
遠目から見ても分かるほどバッサリと真ん中が切れた橋。何もない空間、間を走るのは冷たい風と、渓谷の下を流れる速い流れの川だけだ。
「あれェ?可笑しいわね、前あたしが通った時はちゃんと架かってたのに」
『誰かガ、切っちゃったのカナ〜…』
「まあ別に悩むこたあねえだろ。馬の跳躍力だと十分届く」
「そうなのか?じゃあ渡ってみようよ!」
橋が切断された事には驚いたが、馬が2頭いる自分たちには然程苦でない問題な為にあっさりと事がついた。
そうと決まり、橋から数十メートル遠退くと、助走をつけて切断された橋を飛び越える。こんな距離、舞とゼロがガノン城脱出の際に飛んだ距離に比べれば何て事はない。
タンッ
と軽快な音を立てて地面に足が着くと、リンクが感心したような声を漏らした。
「すっげ〜…馬ってカッコいいな!オレもいつか馴らしてみたいなっ」
『その為には先ずエポナ達に馴れなきゃネ!』
「そうだよな〜、先ずはそこからだよ」
「………。ねェリンク、ダークと一緒に先に行っててくれない?」
「え?舞は?」
「うん、ちょっと橋の切断面を近くで見てみたいの。直ぐに追いかけるから、リンクにとってもエポナとの馴れにもなるでしょ?」
軽い動作でエポナから飛び降りると、振り返らずに舞は切断された橋に向かった。
後ろから『じゃア、ナビィが舞に着いてるカラ』と言うナビィの声が聞こえてきた数秒後、2頭の馬の足音がゆっくりと聞こえた。
足音のバランスが安定している。エポナもどうやら、以前より大分リンクを認めたらしい。
心の中でリンクとエポナの関係性の成長に喜び、切れた橋の切断面の所でしゃがみ込んだ。
『どう舞〜?』
後ろから追いついてきたナビィが肩にとまる。舞はゆっくりと切断された橋に触れた。
「ロープが綺麗にバッサリ切れてる…。火で燃やし切ったら黒く焦げてるけど、この橋の場合だと鋭利なもので切られた跡がついてるわね」
『じゃア、夜盗かモンスターの所為カナ?』
「そうとも言えないわね…、このロープ、一気に切られてるのよ。
このロープは結構太くて長いから、普通の剣じゃこんな綺麗に切れないわ」
『詳しいんだネ!舞は何か分かル?』
「多分、ゲルド族の剣で切ったのよ。ゲルド族が使う剣は普通のものとは違って、鋭利の凄さも半端じゃないから、これと似て――――」
そこまで言うと、舞は突然体の動きをピタリと止めた。彼女の様子に気がついたナビィも覗き込むように体を浮かせた。
気の所為だろうか、舞の顔が真っ青に見えるのは
『どしたノ〜?』
「ちょっと待って…今、ゲルドの砦に入って行ったのはリンクとダークだけよね?」
『そうだネ〜』
「ゲルド族、で思い出したけど…ゲルド族って男の人を毛嫌いしてるのよ。そりゃもう見つけたら殺したくなるほど」
『エ』
青い顔のまま呟く舞と同じく、ナビィの体の色が普段よりももっと青いものにサッと変わる。
「しかもリンクはあたしのエポナに乗ってったわけでしょ?元々の主がいないとなると、ゲルド族から見たらリンクがあたしを殺してエポナを奪ったんじゃ、と思うかも」
『そ、それって…じゃア、まさか…』
「…この2つがプラスした状態でリンクとダークがゲルド族に会えば……―――」
「うわあぁああぁああぁぁぁあぁぁ!!!」
すると、ゲルドの砦付近から大きな悲鳴が聞こえた。その声は紛れもなく時の勇者リンクのもの。
言わんこっちゃねーーーーー!!
「た、大変ナビィ!リンクとダークがマジで殺される!!(汗)」
『急ごうヨ舞!早く助けなくっチャ!!』
ナビィにも押され、舞は慌ててしゃがませていた体を持ち上げた。女と言えど相手は女盗賊、そこらの女性、あるいは男性よりも逞しい方々が相手となるとリンク達も苦戦する。
ましてや相手は女性だから…。リンクも、そして何気にダークもフェミニストなところがあるから迂闊に手は出せないだろう。
そう見られるのが彼女達にとって一番の怒涛の原因になるんだけど
心の中でリンク達の無事を祈りながら、久しく見ていなかった『ゲルドの砦』と書かれた看板を通り過ぎる。
そして、目に付いたのが………
「アンタ達いい加減大人しく言ったらどうだい!牢屋にぶち込むよ!?」
「火に炙られる位なら牢屋にぶち込まれた方がマシだーーーー!!」
「は、話を聞いて下さい!オレ達っ、舞の…――」
「舞を知ってんだろ!?あの子の馬を持ってるんだ、舞を甚振ったんだろうさ!」
「ち、ちが…!誤解ですっ、オレ達は只」
「問答無用だ!口答えすんじゃないよっ、ほらさっさと吐きな!!」
「ぐおっ!?ロープ締めんじゃねえっ、違うもん吐き出すぞコラァァアァアァッ!!」
「…ナビィ………
リンクとダーク、キリスト教にでも目覚めたのかな」
『そんな訳ないでショーーー!!』
ツッコミ代わりにナビィからの羽アタックを授かった。
仕方がない、だって目の前で十数人のゲルド族に囲まれたリンクとダークが、まるでイエス・キリスト宛らに十字の板に貼り付けられているんだもの。その下には炙るように火がゴオゴオと燃えてるし…
これじゃあもうハンターと獲物ね。きっと美形だからいい味してるんでしょうけど…―――じゃなかった。
目の前のとんだ予想外な出来事に意識がどっかに飛んでいってしまっていたわっ
「ちょ、ちょっと待って!彼らは本当に何でもないんです!!」
慌てた舞はバタバタと両手を振りながらゲルド族の輪に駆け寄る。
彼女の声に気付くと、ゲルド族はすぐさま振り返ってその細く鋭い瞳を驚愕に開いた。
「なっ、舞!!あんた…無事だったのかい!?」
「は、はい。ちょっと遠出になっちゃったもので」
「あんたって子は…皆心配したんだよっ?ったく、世話の掛かる子だねー!」
「ごめんなさ…Σおぅわっ!?」
口ではそう言うも、安堵の息を吐きながら舞の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。それに続くように、他の人たちも背中を叩いたり肩を叩いたりとスキンシップをとってくれる。
口々に「お帰り」「無事でよかった」と言われ、今更になってゲルド族がどれだけ恋しかったかがふつふつと蘇ってきた。
周りの人たちと同じ笑顔になりながら、舞は耳が赤くなった事を感じた。
「舞ーーーーーーーー!!!(涙)」
「感動の再会は後にしろ後に!!俺ら蒸し焼きにされるわ阿呆ぉおおぉぉおっ!!」
「あ」
涙声のリンクと、額に青筋を立たせたダークの言葉でようやく気付いた。
あまりの嬉しさに忘れてたよリンクとダーク。
***
++inゲルドの砦++
ゲルドの砦を目下に広がる空が、橙色を体に纏いだした。
ゲルド族は皆、本日の盗品の整理をしたり警備に勤しんでいる。リンクとダークも…舞の仲間だと分かってもらえたようで、今では仕事を手伝わされている。
そして舞はと言うと…ゲルドの砦の頂上に腰掛けていた。ゲルド族の1人と一緒に
「いやー、最初は吃驚したよ。エポナを連れて来んだからな、しかも男だけだから尚更疑っちまったよ」
「まさかそこまで予想通りになるとは思いませんでした…」
失笑を漏らす舞の隣で、ゲルド族は腰に手を当てて笑っていた。自分が立てた予想とは言え、そこまで綺麗に予想がピッタリ合ってるとは思ってなかったのだ。
「まあ、でもあんたが無事に帰ってきれくれて良かったよ!
ナボール様も知ったらさぞかし喜んでくれただろうに」
鼻を擦りながら紡がれた『ナボール』という名前に舞は肩を揺らした。顔を勢いよく上げて、見上げる形になるゲルド族に視線を移す。
「あ、あのっ。ナボールさんは戻ってきたんですか?」
「!…あ、わりっ、あんたにはまだ言ってなかったっけか。
あちゃー…こりゃ失言だったかねェ」
言い辛そうに、視線を泳がしながら頭を掻く。失言と言うのは言わなかった方がいいと言う事だろうか?そうだとすれば、ナボールさんは一体…
不安そうに見上げる舞の視線を感じ、ゲルド族は失笑を漏らした。
「言い辛いんだけどね…
――実は、まだナボール様が戻られてないんだよ」
「なっ…!まだ戻ってないんですか!?だってっ、もうそろそろ帰ってきても!」
「混乱するのは分かるけど、事実なんだよ。あたいらも気になって砂漠の女神像のある神殿まで赴いたんだが…ナボール様の痕跡となる物が1つも残ってなかったんだ」
眉間に皺を寄せて話すゲルド族の言葉に、舞は混乱と呆然とした感情が渦巻いた。
以前自分が旅立つ前もそうだったが、痕跡が1つも残っていないと言うのはどう言う事だろう。
考えたくもない『まさか』という予想が立ち、振り払うように頭を振った。
「もう…帰ってきてるものかと思って…」
「……舞…」
「おーい!ちょいと手伝っておくれよ、人手が足りないんだ!!」
頭を抱える舞とその隣に立つゲルド族に、砦下から別のゲルド族が声を張り上げた。
その声に反応したのは、否、反応できたのは隣に立っているゲルド族だけ
「あぁ、分かった!
――舞、あたいはちょいと行って来るよ」
「あ、あたしも」
「いや、あんたは休んでなよ。旅の疲労もあるだろうし、今はゆっくり休んだ方がいいさ。
大丈夫、あたいらはちょっとした事では音を上げないよ!」
元気付けるように握り拳と笑顔を作るゲルド族に、舞は苦笑を漏らした。確かに、今日はあまり動いていなかったが疲れもあるし、何よりナボールの行方が分からないという事が精神に響いている。
この状況だと逆に足を引っ張ってしまうだけだろう。
言葉に甘えようと頭を下げ「すみません」と1つ呟くと、頭をポンッと叩いてゲルド族はひらりと降りていった。
砦の頂上には当たり前だが、影が1つしか残らなかった。
「(ナボールさん…ずっと何かを探してるの?でも、あの人は連絡を入れないほど無神経じゃないし…)」
例えようもない焦りと困惑が胸の中を渦巻き、どうする事も出来ないまま、舞は親指の爪を噛んだ。
「モンスターにやられるほど弱いわけでもないし…、何かあったんだろうけど」
答えの見つからない、親元と言える人の失踪。爪を噛んで俯く彼女を、夕日が明るく照らし出す。
「…あたしが悩んでも、どうにもなるわけじゃないし…」
叩きつける風の力で浮くマントを抑えながら、今まで降ろしていた腰を持ち上げた。
眩しすぎるぐらいに照らされる夕日を真っ直ぐとも見れないままに
―今日まで、ゲルド族の人たちが何もしなかったわけじゃないだろう。
その彼女たちでさえ分からない状況だ、自分が少し頭を使って解決できるような問題じゃない事は確か…
うーん、難しい事だらけだ。
「とりあえず、今日のところは明日の賢者様の」
――ピィィィィッ!
「居場所を……、え?」
砦中に響き渡る警笛の音が高く鳴った。この笛の音の理由は、舞には分かる。
ゲルド族の中で決めている、族内領域に侵入者及び魔物が入った時になる警告。それはどうやら、今回も間違いではないらしい
「敵襲ーーーー!!」
見張り台に上る、1人のゲルド族が声を高々と張り上げた。聞き届けた舞も頂上から見下ろすと、地面から大小それぞれのガイコツモンスターが現れた。
スタルベビーとスタルフォスのモンスター軍団!
「モンスター!?」
『舞〜〜〜!』
突然の来襲に驚いている彼女の元へ、妖精ナビィが何処からともなく現れた。
「ナビィ!リンク達はっ?」
『下で応戦してル!舞が1人だカラ傍にいて、ってリンクに言われたノッ』
「そう…、でもあたし達も行かないと。ナビィ、下に下りましょう!」
『ウン!』
7年の歳月を此処で過ごした彼女は、知り尽くした砦の構造を難なく解くことが出来る。
騒動により考える事も出来なくなったナボールの事を頭の片隅に置き、騒乱の起こる砦下にナビィと共に向かった。
**
―――ドンッ!!
「ほら、邪魔だよ!さっさと消えな!!」
双剣を巧みに操るゲルド族の周りには、モンスターの残骸が幾つも残っていた。
転がる死骸を避けながら、戦っているゲルド族の1人に駆け寄る。
「ったく、数が多いねェ…――! 舞、下りて来たのかい?」
「い、一応と思って!あの、このモンスター達って一体」
「ああ、あんたが消えたあの日から突然やって来だしたんだ。
対策として橋を切断したにも関わらず、こうも多くやってくるんだよ!」
『舞、あの橋はやっぱりゲルド族ガ…』
ナビィが言う事は分かる、さっき切断された橋を見てきたんだから。無言で視線だけ這わした。
「切断したお陰で陸上のモンスターは来なくなったがねっ」
後ろからカタカタと歯を鳴らせながらスタルベビーが襲い掛かる。それを瞬時に見切り、ゲルド族の人は振り返り様に剣で薙ぎ払った。
――ザンッ
「それでもこの有様さ!今日はまた一段と数が多い、気い引き締めなよ!」
「はい!」
『ねえ舞、リンク達の姿が見当たらないヨ?別の所にいるのカナっ』
「え?そうなの?…うーん、あたし達此処にいても邪魔だし、探しに行ってみようか?」
辺りを軽く見渡すと、確かに一際目立つ緑と黒の衣は見えない。辺りでは戦うゲルド族とモンスターの姿だけしか見えない
「あたし達仲間を探してきますね」
「構わないが、気をつけなよ。危なくなったらエポナで逃げな!」
「分かりました!ナビィ、行きましょう」
『うんっ、こっちこっち!』
先方を駆ける妖精に従い、あたし達はそこから離れた。あまり無理はしないように、と願いながら
『こんなニモンスターが1つの集落を襲うなんテ…』
「モンスターの習性でしょ?」
『そうカナ〜、スタルフォスなんて中級モンスター来ないし、スタルベビーは平原にしか出ないんだヨ?』
走っていくあたし達の視界の隅に、流れていく戦いの景色が映る。その視界の中にはまだリンク達の影は見当たらない…
「ハイラルが少しずつ変わっている現状なのかもよ?もしかしたらだけど」
『う〜ん…そうなのカナぁ』
「まあ、この件は追々調べましょう。兎も角今は、リンクとダークを」
『!! 舞、右に飛んで!!』
「え?わっ、おうわぁぁ!?」
ナビィの声を耳に聞き入れ、彼女の声のままに横に飛んだ。
――ザシュッ!
すると、今まで自分のいたところに古びた剣が突き立てられた。今、ナビィの指示がなければ確実に成仏していただろう。
ああっ、危な…!!この野郎っ、武器も持たないいたいけ(と思いたい)なオナゴに何て事をしくされてんのさぁぁぁぁっ!(汗)
『スタルフォスだよっ、気をつけテ!』
突き立てられた古びた剣から徐々に視線を上げれば、確かにそこには盾を持ったスタルフォスがいた。
さっきナビィが中級モンスターと言うほどの腕前の魔物だわ。
「(リンク達もゲルド族の人も回りにいないし、此処は慎重に動かないと!)
よーしっ」
【………?】
カタッ、と鳴らせて相手のスタルフォスは一瞬動きを止めた。頭蓋骨に開けられた2つの穴の奥に煌く、小さな丸い白の光が揺れた。
「うん?」
【―…奥方、様!?】
「―――え?」
スタルフォスの口から、ガノン城にいる間に嫌と言うほど聞いた言葉が紡がれた。その1つの単語に、あたしの隣を飛ぶナビィは?マークを浮かべているが…
奥方様とあたしを呼ぶ相手は、剣も盾も若干下りている。
「も、もしかして貴方…ス」
「舞危なあぁああぁぁぁぁあい!!」
ゲシィッ!!
【Σハグアァッ!】
「Σぎゃあぁぁあぁああぁぁああ!!?」
突然今まで視界に入っていたスタルフォスが吹っ飛んだ!無理もない、横から誰かしら分からない影に飛び蹴りをかまされたのだから。
そう、誰かしら分からない影………
「リぃンクぅぅぅ!?ちょっ、何しくされてんのあんた!?」
「大丈夫?姿が見えないから、急いで探したんだ!
この野郎っ、舞に手を出すと許さないぞ!!」
【コ、コノ!時ノ勇者ガ…Σガハッ!】
話を聞こうともせず、突如現れた緑の影―基リンクは、スタルフォスをガスガスと殴りだした。
あたし、まさか自分が敵のモンスターじゃなくて味方の仲間に向かって悲鳴上げるとは思わなかった。
「って冷静に判断してる場合じゃないのよ!
待て待て待て!!リンク違うの!そのスタルフォスは―」
「分かってるよ!」
「えっ!?」
「舞を脅かした悪い奴だって事だろ!!」
「Σちっとも分かってねーーー!!いや「任せて!」って言う様に爽笑で親指立ててないでっ
待ったリンクお願いだから!殴るのを止めて頂戴ぃぃぃ!!」
出なきゃスタルフォスが死ぬ!!まだ斬るどころか相手は剣さえ向けてこなかったというのにだ!!(汗)
ボカボカと殴るリンクを無理矢理止めて、何とか彼を止める。あ、スタルフォスの頭蓋骨にヒビが入ってる…
「(これじゃどっちが悪者か分かったもんじゃない)」
「舞!何するんだよ、相手はモンスターだよ!?」
「分かってるけど、兎も角少し待って!ちょっと話をさせてっ」
文句を言うリンクをナビィに任せて、あたしは頭を抱えているスタルフォスと視線を合わせる為に屈んだ。
そして――
「ねえ貴方、スーちゃんよね?そうよね!?」
『「Σスーちゃん!?」』
【ゲホッ…、ハ、ハイ。ヤハリ奥方様デシタカ】
「Σ『ハイ』ぃぃ!?」
『Σ奥方様あぁぁあぁ!?何の禁断の恋コレーー!!(汗)』
そう来るかナビィ。兎に角読みは正しかったようで、このスタルフォスは城にいた時に世話になったスーちゃんだった。
会えた事は喜ばしいのに、まさかこんな再会の仕方を果たすとは思わなかった。ごめんねホント
「どうしてスーちゃんが此処にいるの?何でこんなにモンスターが押し寄せてるの?」
【ソ、ソレハ…。スミマセンガ、幾ラ奥方様ノ頼ミデモオ教エ出来マセン】
「あ、うーん…そう言われると困るんだけど」
まあ、自分の上司に殺されるかもしれないと言う理由もあるし分からない事はないけど…。
それでもあたし達もこの状況を把握したいし、ゲルド族の人たちも困ってるし……
「あんの騒ぎだ?」
「!ダーク…」
頭を悩ませている所に、剣を肩に担いだダークがやって来た。
何故か上半身が裸なんだけど…、こ、これはあたしを萌え死させようとする陰謀?陰謀なの!?
「…また何か盛って勘違いしてるらしいから1つ言っておく。
砂漠は暑いんだ」
「左様ですか」
心情を読み取られたみたいで
「…ん?スタルフォス?…なんでお前スタルフォスと正座して向き合ってる」
「え…、れ、礼儀作法の1つとでも言いましょうか?」
「モンスターと礼儀作法守ってどうする!!そうじゃねえだろ!捕虜にしてんじゃねえのか!」
「え?捕虜?」
怒りか呆れで顔が赤くなってる彼から発せられた『捕虜』と言う言葉に若干ながらも反応した。
当の本人は自分を落ち着かせてきょとんとしているけど
「そうだろ?敵と話し合うってんなら、身柄を拘束して捕虜にしちまうのが一番手っ取り早いだろ」
「捕虜…、そうか、捕虜か!その手があったわね、流石はダークっ。真っ黒黒すけ!」
「ぶつぞ」
某アニメキャラクターをモデルにした名前にダークさん、額に青筋立てるほどお怒りの様子
ほんの冗談のつもりだったんですけど。
とりあえず彼を宥めて大人しくしているスーちゃんに向き直った。
「と言う訳で、悪いけどスーちゃん捕虜になってもらうわね?リンクとダークとを2人相手にして、賞賛は目に見えてるでしょうし」
【致シ方アリマセンネ…、分カリマシタ】
「よし、話決定!リンク、そっちに紐か何かあるー?」
『舞が…モンスターと仲良くしてル。スタルフォスをスーちゃんって呼んでル…!』
「モンスターと仲良くなれないと舞に見放されちゃう…、でもオレは勇者だからしちゃいけなくて…(ぶつぶつ)」
「Σまだあんたら悩ませていたの!?もうその話いいから!早くこっちに戻ってこーい!!」
そんなにショックだったのか、リンクに至ってはひきこもりオーラのようなものを身に纏っていた。
何時までもそれ継続させるわけにもいかず(させたくもないし)、ダークと2人何とかリンクとナビィをこっちの世界に連れ戻した。勿論、スーちゃんにはその間大人しくしてもらってて、だ。
***
黒に染められた闇の空間の中――
相も変わらず鮮やかな光の中心にいるディンは、細く長い睫を伏せて瞳を隠していた。
何かを祈るようにしている体制のままの事…
「――……。」
ふと、突発もなくゆっくりと伏せられていた瞳が開かれた。その瞳が横目で見るように流れ、視線は自ずと己の右横に向かう。
彼女が視線を向けた先ではズズ…、と空間を歪めて何かがそこから姿を現せた。それは…
「――はーいディン!」
「…!ふ、フロル!?」
緑の色を身に纏う少女が現れた途端、今まで警戒して張り詰めていた彼女の空気が変わった。
フロルは大して気にしていないようで、顔に貼り付けた笑顔を咲き誇らせた。
「貴方どうして…、一体全体何があったの?」
「特にないよ〜、ディンと顔を合わせておきたかったし、愈々時の勇者達がクライマックスを迎えるから、その事についても話しておきたくて!」
「…?」
にこやかな笑顔で言う彼女に、ディンは何かを感じて首を傾げた。
「フロル…貴方、えらくご機嫌ね。何かいい事あったの?」
ディンの意を衝く質問に一瞬目を見開くも、彼女はまたも嬉しそうに笑った。そう、ディンは何かを感じ取ったのだ。いつもとは違う、もっと元気のいいフロルの様子に何かを…
「前に言った、人間の実力テストをね、してきたの。」
「誰を対象に?」
「…フロルの、友達!」
「?」
「友達が合格したのよ、きっと託せられるわ。フロルの力はもうあげたの」
そう言うフロルは何処か思い出に浸るような表情を見せた。いつもの元気を見せる笑顔でなく、少女を超えた者の母性溢れる笑顔。
それでも何処か子どもらしい無邪気な影が残るのは、彼女の幼さを現せる象徴かもしれない。それを見て、ディンも相手が少しながらも分かり、自然と口元が綻んだ。
「そう、良かったわね」
「うん。―…それで、ディンは?」
「うん?」
「”抵抗力”を作ってるんでしょ?最後の戦いへの」
「!!」
フロルからの一言で、優しく微笑んでいたディンの表情が引き締まった。フロルもそれに習い、2人の表情は【三大神】の顔になった。
「ネールがいないから、完全なる力は手に入れられない…。あたしは、あたし自信の『力』で押さえ込むしかないわ」
「…。フロルは…」
「心配しないで、あたしは1人でも大丈夫。
フロルは貴方の”友達”の傍において『勇気』を分け与えてあげて」
「!…うん、分かった」
「信じてるわよ。それじゃあ、あたしはまた作業に戻るから」
高い位置で結んだ赤い髪を邪魔そうに払う。フロルは納得のいかない表情で目を泳がせているが、何も口に出す事はなかった。
「…ディン」
「ん?」
「……ガンバローね」
まだ少し、不安が残る表情のままフロルは呟いた。ディンは特に振り返ることもせず、一言だけ「そうね」と返すと最初の時のように祈るように瞳を閉じた。
空気が、最初の時よりも濃く深く強い緊迫感に包まれる。
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