46.高齢化社会を覆す


森にいた時には絶対こんな未来、想像もつかなかったと思う。
あの頃、妖精が来るのを待ち続けて、遊んでばかりだったオレには…

世界を救う為、ガノンドロフからトライフォースを守る為
オレは仲間と一緒に賢者様を助け出した。
今回の賢者様を救うと、それで賢者様は全員救出になる。

その後はどうなるか分からないけど、全部が終わったら…
また、7年前に戻れるかな。

時を戻して、失った7年間を取り戻したい。
11歳からの自分に会いたいと思うんだ。

その時は…隣に、舞と、ダークと、ナビィも連れてさ
皆で、未来の旅の続きを過去に戻って繋げたい

消す事は絶対しない
未来を過去へ『繋げる』んだ。






高齢化社会を覆す






++in魂の神殿内部++





全てが石と砂で作られた広い空間の中には、禍々しいモンスターの気がたくさんあった。
それは倒される度に砂へと帰り、また形状を変えて襲いかかってくる。
それでも、その数多の敵に臆す事無く突き抜けていく影が3つあった。

ザシャッ
走る度に砂を蹴る音が聞こえ、それに交えて、影同士の話し声も耳に届く。


「―カカリコ村の研究者達が生き埋めにされた時、村が反乱軍を作ったのは覚えているな」

「ええ。結果は城の兵士の勝利で終えられたのよね」


なるべく涼みのある影がある場所を選び、体力温存の為に落ち着きながら走っている。


「敗れた村人は怨念になり、それからポゥに具現化する。…だが、その中にはもう一段階具現化を遂げた者もいた。」


影から姿を現すと、淡々と語るダークの褐色肌が見えた。勿論右手には剣を握っている。


「怨念の象徴となった村人は、前世の記憶も持たぬまま形を成した。
そしてモンスターの性だけが残り、人々を襲う事しか出来なくなったと言う。


―…それがあのスタルフォスの生きてきた道だとよ」


俯き加減に言った言葉は、重みを乗せて石造りの壁に跳ね返った。前方を走るリンクが、ナビィのロックオンを頼りに剣を振るった。


「全部、思い出せたの?」

「全部は知らねえが、前世ぐらいは。お前を庇った時を境に思い出したってさ」

「アナンタさん達の敵をとる村の反乱軍…。スーちゃんもその1人、だったのね」


それはきっと、アイアンナックの攻撃を避ける為に突き飛ばした時だろう。あの時何を思い出したかは知らないけど…


「お前に感謝してたぜ。お詫びにもならないが、これを納めてほしいって」


そう言ったダークは、走りながら何かを指で弾いた。手中に落ちてくるそれを見ると、金色の装飾で輝く豪華な鍵。
今までの形跡通りであれば、きっとこの神殿のボス部屋の鍵だ。


「あと伝言。『自分は敵に成りすましもう少し様子見をします。奥方様に頂いたご恩は、いつか必ず返しますので待っていて下さい』…だとよ」

「あたしは何もしてないの。只、スーちゃんが自分の力で乗り切っただけで…」

「それでも、あいつにとっては助けられたも同然だろ。厚意は有難く貰っとけ」


そう言ってダークは、鍵を見つめるあたしの頭にポン、と手を乗せた。何だか納得がいかない気もするけど…、ダークがそう言うならそうしよう。

か細い息を吐き出して、何となく先頭を走るリンクを見る。子どもの頃に比べると、本当に背中が大きく逞しくなったのが分かった。


「(…?)」


そう言えば、さっきからずっとリンク…静かなまま黙々と敵を倒して前を走っている。別に悪いわけじゃないけど…いつものリンクらしくない。って言うか…、何か、怒ってる?
とは言っても、彼が怒る原因なんてないし


「(気のせいか)」

『着いたヨ!』


…と、高い声の制止により今まで慌しく響いた砂を蹴る音が消えた。見上げるあたし達の視界には、砂の女神像に酷似した像を両脇に挟んだ、巨大な扉が映った。


「此処が…」

『とうとう来たネ…最後の試練』

「ええ。…勝てる?」

『弱気になっチャ駄目!どんな強敵でも、今までナビィ達皆で乗り越えてきたジャないっ』


励ますように、ナビィは旋廻してあたしの肩にとまった。元気をくれる光の珠に口元を綻ばせると、気を引き締めなおして、あたしは持っていた鍵を錠に差し込む。
これを捻れば、嫌でも強い敵と対偶する事に…


ギュ、

「? リンク…?」


鍵を開けようとすると、今まで黙っていたリンクが徐に手を握ってきた。え、何。最後の最後まで来て襲い掛かって欲しいと?
全く違う邪険な勘違いを抱いていると、原因となる張本人は俯いたまま唇を動かした。


「オレ…舞の泣く顔、見たくない」

「(いきなり?)うん…?」

「絶対勝つから、仇とるから。…笑っててくれよ」

「!」


それは…もしかして、ナボールさんの事を言っているのか?そう思いながらリンクの顔を伺うと、真っ直ぐと向いた蒼い瞳が敵を定めたように扉を睨みつけていた。
間違いない、と思う…。そうか、リンクはずっと気にしてくれて、その事で怒っててくれたんだ。
リンクの思いを感じ取ると、胸の中が少しだけ温かくなった。


「(ありがとうリンク)」


届く事のない御礼を心の中で呟き、あたしは今度こそ、錠に差し込んだ鍵を時計回りに回した。


カチャンッ
――ゴォォオン…






**




『ヤケに静かだネ…』


しん…、と静まり返った部屋内は、広々とした空間の中に威圧なオーラを纏っていた。
3人の足音だけが隅々まで響き渡るほどに


「静かな分、何があっても可笑しくない。注意しろよ」

「ツインローバは奥に来いって言ってたけど、本当に此処であってたのか?」

『間違いないと思うヨ。この部屋に近づく度にモンスターが数を増やしてきたカラ』


辺りを警戒しながら、いつでも戦闘態勢に入れるようリンクとダークは剣を抜いた。
油断をして敵に教われでもしたら洒落にならない。十分に警戒しないと…


「とは言え、敵の姿が全然見つからないな〜…」

「よーし!ここは1つ敵を引きずり出しましょうよ!!」

「…あ?」


胸をドンと叩き、まるで任せろと言わんばかりの舞にダークは変な声を漏らした。
その声を気にする事無く、舞は「あー、あー」と喉の調子を整えながら、深呼吸を大きくする。

そして…―――


出てきなさいユバーバぁぁぁ!!叩きつけられた挑戦状を持ってやってきました!
見た目は大人!頭脳は子ども!その名も、時の勇者リンクーーー!!


わー聞き覚えのあるキャッチフレーズ…。唖然とするメンバーの視線を気にする事無く、舞は大声を張り上げた。


「貴方達の言う通り言われるがまま奥に来たわよー!!こっちは約束果たしたんだからそっちも早く出てきてよっ。
さもなくば今この場でリンクのタイツ脱がして生足堪能及び押し倒し襲う!!

「(オレまさかのピンチ!?)」

「さもなくばハイラル腹黒三大神!森のアイドルサリア嬢、王家の姫と言う女王様なゼルダ、一度裏に回ればお腹真っ黒裏ボスダークが成敗するぞさあどうするうぅぅぅ!!?

「「「状況読み取らんか馬鹿女ーーー!!!」」」

「Σあれぇ!?何でダークにまで突っ込まれたんだあたしっ!?」


そしてホントに出て来ちゃったヨボス2人(by ナビィ)
舞の罵声に耐えかねたか、空間を歪めて現れたツインローバと仲間内のダークから鋭いツッコミが飛んだ。


「全く、この小娘はいつも奇想天外なやり方をしよるの」

「力なき者がやる姑息な手口が気にいらんですじゃ」

「のうコウメさん」

「ええ、コタケさん」

「何ですって!?」

『(あるイミ偉大な力だと思ウ)』

「ツインローバ!舞の親元、ナボールさんの敵討ちを取りに来た!!オレ達と勝負しろ!!」


待ちきれないと言わんばかりにマスターソードを構え、リンクは上空を旋廻する老婆を睨み上げた。
ツインローバはその様子を一見すると、チラリと横目でダークを盗み見る。


「勇者の影よ、貴様はまだ楯突くつもりかえ?」

「今ならガノンドロフ様も二階級の拷問だけですますと言われとるぞ?」

「下らねえおままごとに付き合う気はもうねえ。」


リンクとは対照的な紅の剣を右手で構える。肩でトントン、と叩きながら、挑発的に睨み上げながら


「言った筈だ。あんたらに仕える勇者の影はもう存在しない」

「ほう…」


ダークの言葉にゆらゆらと怪しく体を揺らし、片割れのコタケが楽しそうに口端を持ち上げた。


「ガノンドロフ様が大事を犯した名もないお前に呼び名をつけたよ。
―『ユダ』と言う名前をね!!」

「……」

「どういう事かと思ったが、これで漸くハッキリしたねぇ…。あんたにピッタリじゃないか!」

「罪深き闇の魔物め!時の勇者共々あたしらが殺してくれるよ!!」

『! 来るヨ!!』


ナビィの声を合図に、バックステップで下がったリンクとダークは盾を構える。
そして――


「骨まで焼き尽くせ!!」

「魂まで凍りな!!」


「うわっ!!」


2人が同時に炎と氷の魔法をぶつけてきた!リンクは舞の手を引っ張り、ダーク共々バックステップで上手く避ける。
さっきまでいたところに魔法がぶつかり、一瞬で地面が溶け、凍りついてしまった。


『気をつけテ!コウメは氷、コタケは炎の魔法を使ってくるヨ!!』

「炎と氷…!?」

「ケケケッ、ほらほら!休んでる暇はないよ!!」


箒で飛び交い、挟み撃ちにするとまた同じ魔法を放ってくる。今度は身を屈めてその場を凌ぐ
…だが、


――ガラガラッ!!


「! は、柱が!!」


コタケの放った炎の魔法が支柱を溶かし、柱を落としてきた。
丁度リンク達がいる所に向かって支柱が砕け、大きな欠片となり降り注ぐ。


「左右に飛べ!!」

『リンクこっち!』

「わわっ!?」


リンクはナビィの誘導に従い右へ、ダークは遅れをとる舞の腕をとって左へ飛ぶ。
転がるように地面を這い逃げ、振り落ちてくる支柱の欠片を上手く避けながら走った。


ドガァァアンッ!!

「ヒヒッ、やりおるの〜」






――ガラガラッ…

大きな騒音を立てて砕け散った支柱が全て落ちた。暫しの間空気が静かになり、ゆっくりと舞に覆い被さっていたダークが起き上がった。


「ふっ……ダークに押し倒されるとは萌えっ

「この状況でアホ抜かすな!!」


パシッ、と舞の頭を叩き、ダークは支柱を挟んだ向こう側に視線を這わす。瓦礫の所為で姿は見えないものの…


「リンクとナビィは?」

「向こう側だ。不味いな…、二手に分かれちまった」


これが敵の狙いかは分からないが、不味い状況には違いない。砂埃を払いながら立ち上がると、聞きなれた不気味の笑い声が近づいてきた。


「ほう、こちらはユダと小娘かい」

「!」


バッ、と後ろを振り返ると、見たくもない箒に跨った老婆が宙に浮かんでいた。
燃える赤髪を生やす所を見ると、どうやらこちらはコウメのようだ


「二手に分かれて潰す気か?」

「ヒヒヒッ、その通りさ。その方が早く終わるだろう?」


隠すように舞の前に立ちはだかり、もう一度剣を構えなおした。盾は地面に転がっている。


「いいのかよ、あんたらは2人で1人だろ?」

「ヒッヒッ…何だい、震えてるじゃないか。恐怖に怯えてるのかい?」

「間違いはねえな。――武者震いだよ」

「戯言を!先ずはあんたらから倒してやるよ!!」


手を掲げ、小さな火の魔法を数発打ち込んでくる。ダークは地面に落としていた盾を構え、炎の弾を受け止めた。


ジュウゥ…

「! っくしょ」

「ダーク、盾が…!」


ほんの小さな弾にも関わらず、盾の鋼鉄部分を溶かしてしまう。それでも尚打ち込もうとするコウメを見て、ダークは舌打ちを漏らした。


「ユダよ、これが最後の忠告だよ。あたしらの所に戻りな!」

「しつけえなあんたも。女とてしつけえと嫌われるぞ?」

「あくまで戻らぬと言うかっ。仕方ない、此処で消してやるさね!」

「最初からそのつもりだっ」


紅を携えた黒い影に、赤い魔法弾がぶつかる





**



++リンクside++


「凍っておしまい時の勇者!!」


ビュオオォッ!と強い冷気が走るリンクを襲う。曲がり角を見つけ、瞬時に身を隠して一時の攻撃を凌いだ。
肩で息をしながらも、後ろから追いかけてくる老婆から逃げる為にまた走り出す。


「くそっ、舞とダークが…!」

『向こうにはダークがいるカラ大丈夫だヨ!今はこっちの対戦に集中しなキャッ』

「そうは言ってもどうするんだよ!?マスターソードも届かないって言うのに!」


再度打ち込まれた魔法を少し受け、リンクの帽子の先端が凍りついた。横目でその様子を見て、苦い顔をしてリンクは瓦礫を跳躍して飛び越えた。


『この神殿の何処かに、魔法を跳ね返す道具がある筈だヨ!それを見つけれバ―』

「そんな物、見つける前に止めを刺してやるよ!」


言うや否や、リンクの隠れた瓦礫を氷の魔法で砕き壊す。砕けた時の衝撃が加わり、リンクは地面に倒れた。


ドンッ!!

「ぐぁっ…!!」

『リンク!!』

「くっ、そ…」


傷と氷で塗れた体を何とか立たせ、肩を押さえながら辺りを伺った。すると、楽しそうに笑いながら、リンクの直ぐ近くまでコタケが飛んできた。


「ほほほっ、苦しそうだねェ。いい加減諦めたらどうだい?」

「…っ」


直ぐ目の前にいると言うのに、何故かリンクは剣を振るう事が出来なかった。自分の身を守るように構える事しか出来ない。


「ほう…まだやる気かい?時の勇者め、意外としぶといんだねぇ」

「煩い!ナボールさんを傷つけて、舞まで泣かしやがってっ!」

「おや…、これは驚いた。時の勇者が色恋沙汰とは面白いね、ほほほっ」

「黙れ!!」


肩に力を込め、懇親の力で剣を横振りに払う。リンクの攻撃を難なく避けると、コタケは宙で怪しく揺れ動いた。


「さて、こんな死に損ないを殺しても何の娯楽も無し…。
此処で奴を使うかのォ」

『リンク、しっかりしテ…!』

「大丈夫だよナビィ、まだ、いけるさ…っ」


ゆるゆると頼りない力で体を動かし、剣を支えにして肩で呼吸を繰り返す。その姿は、コタケの言った『死に損ない』と言う言葉が当て嵌まる程だ。
睨み上げる先にいる敵は、自分の背後に顔を向けていた。


「出番だよ―――シーク」

「…!!」


聞き覚えのある名前に反応して、肩を押さえたまま顔を上げる。
視覚の変わった蒼の瞳に映ったのは…

――ザッ


「シー、ク…!」

「……」

「名誉挽回の機会だよ。時の勇者の息の根を止めてやりな」


コタケが名指ししたのは、裏切りの疑いが掛けられたシークだった。短剣を携えた彼は、無言でリンクに歩み寄った。
数メートルしかない間隔を空けて2つの金色が対峙した。


「シーク、お前…」

「覚悟してもらうよ」

「! シーク!!」


キィンッ!と高い音が響いて、リンクは短剣をマスターソードで受け止めた。ギリギリと剣が軋み、剣を挟んだ先に見える紅眼に戸惑った。


「シーク!お前本当に裏切ったのか?舞を助けてくれたんだろ!?何でガノンドロフに従う!!」

「僕は主なき影、その前に主が現れた。それだけだ」

「っ! 信じてたのに…、一度は落胆したけどまた信じたんだ。それなのにっ」

「……」

「答えろよシーク!!こんなの、可笑しいだろ!?」



――ガギィィンッ!!


**


++ダークside++





「――!!」

「? 何だっ」


耳に手を当てて、舞は何かを聞くように耳を澄ませる。


「今…、遠くから金属音が聞こえなかった?」

「ああ!?何も聞こえねえよ!」


応答をすると、ダークは取り出した弓矢を構えた。狙いの先にコウメを定め、矢を放つ。
魔法を放とうとしていたコウメもそれに気付き、詠唱を中断して難なく避けた。


「ちぃ、やりにくいねェ…」

「はっ、歳よりは無理せずに休んでろよ!」


弓矢から剣に持ち替え、上手く瓦礫を利用して敵の背後へ走り寄る。瓦礫から跳躍した事で高度が上がり、宙に浮かぶコウメに向かって剣が振りかざされる!

…だが、それを見切った上で、コウメは箒の軌道を変える。狙いが逸れたダークの剣が空振り、苦く舌打ちを漏らした。


「がら空きだよ!!」

「――!!」


更に短縮詠唱を唱え、瞬時の内にコウメは手中から魔法を放った。


「(不味いっ!)」


宙に浮いた体では上手く避けきれず、少しでも衝撃を減らそうと腕で自らの体を抱える。

瞬間、ダークの体に炎魔法が直撃した!


ドォンッ!!

「っが!」


――ダン!!
カラァンッ

「ダーク!!」


服を焦がし地面に叩きつけられた衝撃で器官を詰めたのか、ダークは苦しそうに咳を零した。
彼の手から離れた紅いマスターソードが、乾いた音を立ててコウメの後ろ側に落ちてしまう。


「っく、は…(武器が)」

「ヒヒヒッ、これで最後だよ!」


コウメの乗った箒の先端が赤く光りだす。ダークは今だ苦しそうに倒れたまま


「(な、何かしなきゃっ。武器は敵の後ろだし何とかそれを取り返せば…)」


離れた所から見ていた舞が慌てながら辺りを見渡す。
近くにあった手ごろな岩をどっこいせと持ち上げると、岩を頭上高く掲げた。


「(Σぶほぁっ!!重っっ)」


内心噴出し、舞は女を捨てきって両足を踏ん張らせた。
ダークの方に向いているコウメは背後に近づく影に気付いていなく、それをチャンス!と言わんばかりに根性出し切って力いっぱいぶん投げーーーる!!


「どっっせぇぇぇぇぇいい!!!」

ドゴッッ!!

「Σはぎゃあぁっ!!」


巨岩は老婆の後頭部に直撃した。クリーンヒット!!(親指ぐっ)
まるで叩かれたハエのようにふらふらと地面に落ちたコウメを無視して、舞は地面に転がった紅いマスターソードを両手で抱えた。


「ダーク!これっ、武器!」


舞はダークに駆け寄りながら、証拠を見せるように上げて見せる。
一連の様子を唖然として見ていたダークは舞の声で漸く我に返った。


「くっ…、この小娘が…!」


…すると、口を開きかけた彼の視界に、舞の後ろでゆらりと動く影が目に入る。
再び宙に浮き上がるコウメが、今度は逆に気付いていない舞に背後から攻撃を仕掛けようとしていた!


「お、おい!おまっ後ろ!!」

「へ?」

「非力な小娘如きが!!真っ先に消してやるよ!!」


ダークの忠告も遅く、コウメの手中から禍々しい大きな炎の弾が撃たれた。今になり漸く振り返った舞だが、視界に映った時には既に目の前まで迫っていた。


――ドオオォォォンッ!!


大きな衝撃音が瓦礫の壁を跳ね返って響いた。腕で視界を覆ったダークは、慌てて前を見据える。
丁度同じ時に、ドンッ!と強い音を立てて舞の体が地面でバウンドした。


「舞!!」


近くにまで飛んできた自分の剣を持ち、横たわる舞に駆け寄った。
何故か怖がり、胸騒ぎをする胸を押さえて自分よりも小さな体を抱きかかえる。


「おい!おい舞っ、しっかりしろ!!」


身体を見る限り、遥かにさっきの自分よりダメージを受けている…。無理もない、自分はさっき小さな魔法であり防御だってしたが、舞のものは格段に威力が違っていた。


「ヒヒヒッ、余計な真似をするからじゃ」

「っ、テメェ…」


さっき舞から受けたダメージも見せず、宙を飛ぶコウメを睨み上げる。
不気味な笑い声を漏らす皺皺の口がゆっくりと開かれた。


「怒ってるのかい?何故そんな小娘にそこまでカッカする?」

「…それは…」


コウメの言葉にダークは言葉を引っ掛けた。何故かは分からない、元々憎んでいた時の勇者の仲間なのに…。
仲間だから?違う、そんな理由じゃない。何かが自分を、舞を守れと命令する。


「―おお、そうか。お前さん、子どもの頃に恋焦がれてたからねぇ」

「…?(恋焦がれる?)」

「ヒヒッ、可哀想じゃのォ。漸く会えたと言うにこの様じゃ」


1人納得したように怪しく揺れながらコウメは笑っていた。ダークはコウメの様子や『恋焦がれる』と言う言葉に眉間を歪めている。
どう言う事だ、と思っている彼だが、次の言葉を聞いた途端表情が一変した。


「小娘も大人しくしておれば、あの時の絵画の様に笑ったままでいられたものの」

「―――なに…?」

「…何じゃお前さん、もう覚えとらんのか?お前さんが初めてガノンドロフ様に反抗した理由じゃと言うのに」


コウメの言葉に一瞬耳を疑った。自分が覚えている記憶の中で、絵画と言う言葉に関連するものは1つ。それも、心の奥底にしまった大切な記憶…。


「絵画だと?それは、どういう…」


ピシィッ、……―パキン!


突然、耳に短い断裂音が聞こえた。音の発信源を辿ると、それは舞のマントについた聖三角の一部。
留め金である部品が壊れ、必然的に留められていたマントの両端がハラリ…、と落ちた。


「―――っ!?


マントが外れた途端、ダークの血のように赤い瞳が瞳孔を開く。驚愕に開かれた瞳には…
いつもマントで隠されていた舞の制服の襟元を写していた。

それぐらいなら彼も驚かないが…、1つ引っ掛かる事がある。


「この、服…」


ダークはこの白い制服に見覚えがあった。それは幼い頃に見た、記憶から剥がれる事のない、掛け替えのない存在である――満面の笑顔で笑っていた、壁画の少女と同じもの。
驚愕に満ちるダークの瞳に映る、舞の白い服と『黒』い髪。

そう言えば……
絵画の少女も、白い服に黒い髪だった――?


ドクンッ!!

外にまで聞こえてきそうなほどに、ダークの心臓が飛び跳ねた。徐々に早くなっていく鼓動を抑えていると、後ろでコウメが何やら話していた。


「何だいコタケさん?…ふん…ふん……――ほう、時の勇者が?
分かりました、直ぐそちらへ行きますじゃ」


通信か何かをしているのだろうか…。コウメは横目でダークと舞を盗み見、「仕方ない、先に向こうを見てくるとしよう」と呟いて旋廻して瓦礫の向こうへ飛んでいった。

ダークは1人異常なほど心臓を鳴らせていた。
ダークと舞以外がいなくなった空間に、ぎりり…と奥歯をかみ締める音が痛く響く。


―ド、ドッ
「嘘だ…」

―ドッ、ドクッ、ドクッ
「なあ…。こんなの、嘘だろ…?こんな筈ない…っ」

―ドクンッ!ドクンッ!!
「頼むっ、嘘だと言ってくれ…っ!!」


誰に向かっての言葉なのか
答えが返ってくる事のない寂しい声がダークの口から次々と漏れる。

只1人相手がいるとすれば…、それは爪が食い込みそうなほど握り締める腕の中にいる少女だけ。





**



++リンクside++



――ダンッ!!


「…っ!」

『リンク!!』


リンクの名を呼ぶナビィは、コタケに抑えられる体をジタバタと暴れさせていた。
そして…、彼女が名前を呼ぶ先では、その相手が壁に叩きつけられていた。

首に巻きつくシークの腕を弱い力で握る。


「く、そぉ…っ」

「……」

「ほほほ、もうそう続かないだろうねェ」

「ヒッヒッヒ!こりゃホントに楽しい展開じゃないかい」


ダークと舞から離れて、コウメがコタケの隣に飛んできた。その様子をちらり、と横目で見ると、ツインローバの笑い声が重なった。


「さあ、とっとと止めを刺しちまいな!」

「漸くこれでハイラルがガノンドロフ様のものに」

「シーク…っ」


か細く短い呼吸しかしていない所を見ると、どうやら呼吸器官がやられてしまったらしい。
空いた右腕で腰元の鞘から短剣を引き抜くと、それをリンクの腹部に宛がった。


「(終わり、なのか…。最後なのにっ、シーク…!!)」


苦しそうに眉間に皺を寄せ、リンクは碧眼を双方とも強く閉じた。更にリンクの腹部に短剣を突きつけたシークは…、リンクの左耳に口元を寄せる。


「―――…―」


シークがリンクの左耳に寄せた唇をぼそぼそと動かした。その言葉を聞いた途端、強く閉じられていたリンクの碧眼が一杯に開かれた。


「…え?」


――ドンッ!!

目を見開いたリンクの腹部に、シークの短剣が突き刺さる音が響く。更にリンクは一瞬瞳孔を開くと、糸が切れたように目を閉じて力なくシークに凭れ掛かった。


いやぁあぁぁあっ!!リンクーーー!!』

「ヒヒヒッ!とうとう時の勇者を仕留めた!」


ナビィの悲鳴とツインローバの笑い声が壁を跳ね返って響き渡る。
その言葉の先にいるシークは、腹部からゆっくり短剣を離して片腕にリンクを支えた。


「ほほほっ。よくやったねシーク、ご苦労じゃったっ」

「………」


力なく倒れ掛かっているリンクの姿に、ツインローバは口端を上げると箒を旋廻させてシークに近づいた。
亡骸を燃やそうとコウメは魔法を唱えようとリンクに向かって手を伸ばした。

その時、2つの影が動いた。


「今だリンク!」

「!?」

「―食らえツインローバ!!」


――ガッ!バキィィンッ!!


「ぎゃぁああぁあぁぁ!!」


シークの言葉を合図に、死んだと思われたリンクが勢いよく剣を振りかざした。シークも自らの短剣を同時に振るい、見事ツインローバの額についている水晶を壊した!
苦しそうに悶え苦しむツインローバを見て、リンクは息を吐き出しながら横目でシークを伺った。


「シーク…!貴様っ、貴様まで裏切りおったのかぁぁぁっ!?」

「裏切る?僕は一度も『お前たちの味方』だと言った覚えはない」


「(シーク…)」


――刺されたフリをして。僕の合図と同時にツインローバの額の飾りを壊してくれ――


「(驚いた…。最初は何を言われたのか分からなかったけど、これで分かった。
ツインローバの魔力の源は、額の飾り!)」


闇の世界からの2人目の裏切りに、ツインローバの額に青筋が立った。解放されたナビィも慌ただしく羽を動かし、リンクの頭上を旋廻した。


『リンク!良かったァ…、ホントに良かったヨ〜〜!!』

「ごめんなナビィ、心配かけて」

『ううんッ。シークはやっぱり、ナビィ達の仲間だったんだネ!』


ナビィの嬉しそうな言葉に、久しぶりにリンクは笑ってシークを見る事が出来た。その視線に気付き、シークも瞳を横目で向けた。


「すまなかった…。敵の情報を得る為、一役買わせて貰ったよ」

「全くっ、吃驚したよホント。でもシーク、これからは一緒に戦おう!」

「ああ、及ばずながら力を貸そう」


リンクの左手とシークの右腕がぶつかる。完全な裏切り者と見做し、ツインローバは奥歯を噛み締めた。
かと思うと、天井付近まで高く舞い上がり、2人で手を合わせて禍々しい『気』の塊を作り出す!


「愚か者達が!あたしらの力、甘く見るんじゃないよ!!」

「な、何だ!?」

『もの凄い魔力の増幅だヨ!どうしテ、魔力の源はもうナイのにッ!』

「源が消えようと、体内には少なからず魔力を持つ。残り少ない魔力を2人で1つにし、最大の魔法を放とうとしているんだ!」

「不味い、あんなの食らったら一溜まりもないって…!!」


リンク達が慌てる間にも、禍々しい『気』はどんどん大きくなっていく。


「これで本当に最後だ!!」

「消えろ、時の勇者達!!」


人物大の大きさになると、ツインローバは力を振り絞って魔法を放った!
リンクの持つハイラルの盾では到底防ぎきれない。このままでは、直撃する――!!


「くそっ、どうする…!」

―――カッ!


「!? な、何だ!?」


突然、魔法の光を反射させる閃光が視界に跳び入った。眩しいそれを遮ろうと腕で目を覆うと、聞きなれない声が緊迫した空間に響いた。


「ボウヤ!こいつを使えっ、これなら魔法を跳ね返す!!」


謎の声が聞こえたと同時に、大きな物がリンクの手中に収まった。それは、太陽を表面に描かれた鏡のような盾。
魔法を跳ね返すと言う言葉を思い出し、向かってくるツインローバの魔法に向けた。


「終わりだ、ツインローバ!!」


途端、盾についた銀装飾が魔法を遮断させ、さらに旋廻してツインローバに向かう


『魔法が跳ね返っタ!!』

「ひっ…!ま、魔法があぁぁああぁぁぁ!!」

「嘘じゃっ、がっ…ガノンドロフ様ーーー!!


――ドオオォオオォォン!!


ツインローバの魔法が、ツインローバ自身に当たりその身を消滅させた。蒼い炎で包まれ、消えていくツインローバとは対に、彼女たちが乗っていた箒だけが焦がしながら地面に落ちた。

暫くすると木製の箒も燃え去り、神殿内には風の吐息だけが響き渡った。


「勝った…のか?」


実感が沸かないように、リンクは情けなくか細い声を出して膝をついた。


「勝った…最後の、強敵に、勝った…?」

「ああ、君達は勝ったんだよ」


戸惑うリンクに、シークの言葉が後押しをする。


「これで全ての賢者様を助け出す事が出来た。
賢者様救出…――ミッションコンプリートだ」


彼の言葉を耳に入れた途端、抱えきれない喜びと達成感が湧き上がり、震える握りこぶしを強く大きく掲げた。


やったぁぁあぁぁぁあ!!勝ったっ、勝ったんだ!ツインローバに勝ったーーー!!」


大声を張り上げると、リンクはナビィの羽を掴んでぐるぐると回りだした。
『り、リンク!ナビィ酔っちゃうヨ〜〜!!』と、非難の声を上げる彼女の言葉も聞こえていないようで、リンクは満面の笑顔で狂喜乱舞を表す。

子どものように喜び騒ぐ彼に思わず口元を綻ばせているシークに、1つの足音が忍び寄った。


「――あれがリンクって奴なのかい?」


謎の声はシークに問いかけ、腕を組んでリンクを見ていた。
ゲルド族特有の褐色肌に赤い髪を束ねた彼女は、先ほど助けたばかりの―ゲルド族の女首領、ナボールだった。


「ああ、そうだよ。助けてもらった事、感謝する」

「何、あたしも助けられてんだ。お相子だよ!舞の言った通りだね、綺麗に輝いているボウヤじゃないか」


ナボールは口端を上げて喉元で笑う。その仕草にシークも瞳を細めると、彼らの近くに蒼い魔方陣が浮かび上がった。


『! リンク、魔方陣だヨ!ホラっ、帰ろう!!』

「え?あ、ホントだ」


此処で漸くリンクも声を聞き、乱舞暴走を止めた。へろへろになったナビィに気付かず、リンクは何かに気づいて辺りを見渡す。


「そ、そうだ!舞、それにダーク!!」

「心配するな。あの子達なら、先にあたしが出しといたよ」

「え?な、ナボールさん!?どうして…倒れてたんじゃっ?」

「あたしゃいつまでもくたばってる様な柔な女じゃないさ!」

「じゃあこの盾をくれたのは……」

「気にするな、これで貸し借りはなしだよ。
…さ、早いところ魔方陣に乗りな。舞達が外で待ってるよ」


ナボールの言葉に後押しされ、リンクは笑顔で大きく頷いた。駆け足で蒼い魔方陣に乗ると、間もなくいつか感じた浮遊感を身に纏う。
それに伴って遠くなっていく意識を大人しく手放し、リンクは短い眠りを迎えた。



――さあ、上手く事がいきだした。

残るは最後の砦…。気を引き締めて、未来を守れ







***





++inガノン城++


【ゴ、ゴ報告致シマス…。サッ先程、ツインローバ様ガ倒サレタトノ報告ガ届キマシタ…!】


報告資料を持つ手を震わせながら、モンスターは震える言葉を漏らした。
声の先に居座る闇の帝王―ガノンドロフは、頬杖をついて何も言わずに眉間に皺を寄せていた。

暫く静寂な空気が漂うと、徐にガノンドロフは椅子から立ち上がった。


「道を開けろ。消されたくなければだ」

【ハ、ハイ!!】


威圧感の溢れる言葉にモンスターは体を震え上がらせ、慌てて敬礼をして立ち上がった。その脇を通り過ぎていくと、入り口に立てかけてあったマントを背中に羽織る。


「このまま終わると思うなよ…時の勇者ども」


いつもよりも威圧感を更に溢れ出し、憎悪と怒りしか含まない瞳で何処かを睨みつけた。
鋼鉄製の大きな扉を片手で押し開くと、重苦しい音だけが響いた。


群れのボスが動き出す
物語の歯車は少しずつ、ゆっくり止まろうとしていた…―――




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