47.黒聖女降臨
++in賢者の間++
――トンッ
「ん…、此処は……?」
暫く見ていなかったような光景、賢者の間。オレはもう定位置となった中央に位置する場所に佇んでいた。
オレから真っ直ぐの所―橙色のメダルが描かれた盤が光っていると言う事は…
「違う賢者様だ。……って、あれ?」
ふと、腕の中に小さな重圧を感じた。辺りに這わせていた視線を少し、下げると…自分の腕の中に眠ったままの舞が飛び込んだ。
所謂、横抱きという奴で
「あ、あれ、舞?何で?」
何故此処に、というより、賢者の間に舞も入れた事に吃驚なんだけど。兎も角、あまり支障が来さないように揺らさないよう注意しないと
舞にばかり視線を移していると、前方に立つ淡い光の柱を伝って誰かが降りてきた。
間違いなく、目覚めた賢者様だと思いながらその人が地に足をつけるのを待つ。
「――…え?」
降りてきたのは、燃える様な赤を携えた人だった。
黒聖女降臨
驚いてばかりのリンクを見て、たった今降りてきた人物はクッと口端を持ち上げた。
「何間抜け面してんだいボウヤ」
カッと高いヒール音がヤケに大きく響く。余裕じみた笑みを浮かべていると言う事は、自分が賢者である事を自覚しているのだろうか
「ナボールさん…?」
「何だいその情けない声は。男ならもっとシャキッとしたらどうだい」
「な、何で!?ナボールさんが賢者って…!」
平然とする彼女とは逆に、内心焦ったリンクは声を張り上げた。ナボールの目は厳しく細まり地面に向かう。
「どうもこうもないさ。あたいがどうやら最後の賢者様らしい、只それだけさ」
「で、でも…ナボールさんが賢者になったらっ」
「ボウヤは相当あたいが賢者に就く事に不満抱えてるようだね〜」
ナボールの溜め息交じりの言葉に、リンクは慌てて首を振った。
「ち、違いますって!!オレが言いたいのはっ、貴方がいなくなると舞が――」
「う、ん…」
ぴくり、とリンクの腕の中で眠る舞が動く。リンクもハッと気づき、慌てて視線を落とした。
「舞?目が覚めたのか?」
「う、うう…っ」
「? 舞…?」
悪夢でも見ているのか、突然魘されだす舞にリンクも少なからず不安を抱く。心配そうに顔を覗き込むと…
「や、止めろ〜触れるな〜…バイオハザードの影響がお前の顔に」
「(どんな夢見てるんだよ!?)」
「止めろ…触れるな…っ!
うあぁぁぁ!助けてリンクパンマーーン!!」(ガバアッ!)
ガンッ!!
「「Σげふおあっっ!!!」」
思いっきり起き上がった事でお互いが額を強打してしまった。痛さのあまりリンクも舞を落としてしまい、2人一緒に痛そうに額を押さえた。
「い〜た〜…!!な、何ていうデストロイな目覚めっ」
「ご、ごめん舞…。オレが、覗き込んだのが悪かったんだよな…いててっ」
「え?リンクじゃない、おはよう…Σって此処は何処!?まさか楽園!?額強打のあまりの強さにポックリ逝っちゃったとかいうオチ!?」
「何やってんだいアンタ達は」
混乱する状況に只1人、ナボールだけの冷静な声がよく響く。
蹲るリンクを何とか立たせ、舞は改めて今になり漸くなボールの存在に気がついた。
「あれ、ナボールさん!?ナボールさんがいるって事はやっぱり此処は黄泉の国!?」
「何であたいは死決定になってんだよ。で、あんたは一体どんな夢見てたんだい」
「え…と、とりあえず、変態魔王は出てきました」
「(最後に聞こえたリンクパンマンってオレ…?)」
いつもなら飛んでくるナボールのツッコミビンタも今では距離がある為届かない。変わりに蔑んだ目と呆れた溜め息を貰った。
「此処は賢者の間。あんたも以前、インパさんから此処でメダルを貰っただろう?」
「あ、ああそう言えば…。ん?何でナボールさんが知ってるんですか!?」
「簡単だ、同じ賢者として情報を分け合っただけ」
さも当然と言う様にナボールは仁王立ちのまま言葉を放った。しかし、舞には予想外だったらしく目を大きく見開くばかり。
「同じ、賢者…?」
「ああ」
「それってつまり、ナボールさんが賢者って事ですか?」
「その通りだよ」
真っ直ぐと向いたまま、ナボールは迷う事無くスッパリ言葉を放った。呆然となる舞を横目で見て、リンクは居た堪れない気持ちに陥る。
「(そうだよな、ショックだよな…。折角会えたって言うのに、こんな仕打ち)」
「そんな、ナボールさん…」
「ああ」
「ま…―――全く似合ってないですね」
「…え?」
絶望に打ちひしがれると思い込んでいたリンクは思わず顔を勢いよく上げた。その視線の先に舞を収めて
「そんな神々しい地位に値するなんて、そこまで器がでかい人間じゃないのに」
「こらっ、一言多いんだよアンタは。あたいだって少なからず驚いてんだよ」
「うーん、傍若無人なナボールさんに賢者業を任せてもいいのか」
「言ったね?今度危険な目に遭ってても助けてやんないからな!」
冗談を交わしながら、2人は悲しそうな表情を見せず只笑っていた。
「(笑っ、てる…)」
思わぬ反応にリンクは呆然とその光景に見入り呆然と佇む。
そんな彼を見てナボールは可笑しそうに笑った。
「さあボウヤ、こんな所で長居するこたぁない。とっとと本題に移ろうかね」
そう言うと、ナボールは右手を大きく掲げる。掌の先で光が弾けると、光の雨の中一際輝く橙色のメダルがリンクの手の中に落ちていった。
よく見える高さに持ち上げると、視界に入った舞も嬉しそうに笑った。
「最後のメダルだ…!」
「やったわねリンク。最後のメダル獲得じゃない!」
「あ、ああ!」
「ボウヤ」
名前を呼ばれ、リンクは視線を手元のメダルから前に立つナボールに向ける。
その瞳にはお互い、真剣な眼差しを焦がれている。
「その『魂のメダル』は…あたいからあんたに宝を授ける証だよ」
「はい。ナボールさんの意思も受け継いで、オレが戦いの締めを括ってきます!」
「いや、そんなのはどうでもいい。あたいはあんたに、宝の意味をちゃんと理解しててほしいんだ」
「え?宝の、意味…?」
「そうだ」
ニッと笑うナボールの言葉の続きを待とうとリンクは口を真一文字に結んだ。
その様子に視線を逸らすと、ナボールは徐にパチンッと指を鳴らした。
その途端、
「あばよ舞、また会おうな」
「は?」
――シュンッ!
「!? なっ、舞!?舞!!」
今までリンクの隣に立っていた舞が姿を消してしまった。いなくなった事で取り乱し、リンクは慌てて辺りを見渡す。
「安心しなボウヤ!舞はちょいと先に元の空間に戻しただけさ、あんたが戻ったらちゃんといるから」
「そ、そうなのか?でも、何で舞だけ先に…」
「何、こっからの話はあの子に聞かれたくなかったからだよ」
聞かれたくない?何の話だろう、と疑問が浮かぶリンクの先で、ナボールは回りに誰もいないかを確認した。
一通り辺りを見回すと、一度咳払いをして腕を組み直す。
「いいかい、さっきの続きだ。あたいがボウヤにそのメダルをやんのは、宝の伝承を任せる事を意味している」
ナボールの指差す魂のメダルに視線を落とす。
「宝の伝承、賢者から勇者へ世界を託すって意味だよな!」
「んー、まだ分かっちゃいないね〜。賢者についたばかりのあたいにはそんな大層な事言えないさ」
「え?」
度肝を抜かれたように、リンクは瞳を大きく開いた。
その顔を見てか、ナボールは苦笑しながら照れ臭そうに染まる頬を掻く。
「いいかいボウヤ。幾ら義賊とは言えあたいは盗賊の頭だ」
「ああ、それは知ってるけど…」
「盗賊は金目の物に目がない飢えた野獣。…だからこそ、綺麗過ぎる【宝】はあたい達だと守りきれねえ」
「?」
綺麗過ぎる、宝?首を傾げるリンクの先では、ナボールが目頭を押さえて俯いている。
「あたいらが必死こいて磨いても、その宝は磨ききれねえし守りきれねえ。専用の砥石は、別にあるんだ」
「砥石…?どう言う事?何より、その宝って――」
リンクは言葉を失った。目の前に立っていた、魂の賢者が
自分に頭を垂れるようにして膝をついている。
「な、ナボールさん!?ちょっとっ」
「頼むボウヤ」
忠誠を誓う騎士のように片肘をつき、頭を下げる。
その姿は、今ではまるで何かに祈願しているように弱弱しい
「あんたじゃないと駄目なんだよ…だからっ
あたいらを変えてくれた大事な【宝】を代わりに守ってくれ!!」
「!」
「磨いてやりたいけど、あたいは刃毀れしているから研ぐ事も出来やしないっ」
「ナボールさん…」
「でもあんたは違う、あんたの傍に置くだけで宝は輝いて見える。…あんたが、その宝の砥石なんだよっ。
頼むボウヤ、宝の伝承をあんたに任す。だから…あたいの宝を守ってやっとくれ!」
膝についている手が小刻みに震えている。握っている拳に筋が立っている。
…我慢しているんだ。賢者という位置に立った自分に出来ない、掛け替えのない宝物の守護の役目。
盗賊が宝を渡すなんて可笑しい、大切な宝ならそれはそれで持っていたいだろう。
今のナボールは、その宝を手放す事を決意した
「…分かりました」
宝、の意味が読み取れ、リンクは両手に握り拳を作った。自分に向かって頭を下げるナボールに、真っ直ぐと視線を向けたまま
「ナボールさんの宝、オレが代わりに守るよ。
…ごめんなさい」
謝罪の言葉を呟いた瞬間、ナボールの見えない顔からポタリ…と雫が落ちた。
リンクの「ごめんなさい」に込められた、色んな思い。
「ああ…――ありがとよ」
掠れる声が返ってきた。…かと思うと、リンクの足元から青い光が浮き上がる。
光が体を包む感覚に、リンクは辛そうに眉間に皺を寄せた。
「ボウヤに言えて、良かったよ…。宝そのものに聞かれちゃ照れ臭いからね」
「必ず世界を守って、【彼女】を守ります」
「当然だっ」
クリスタルに閉じ込められた途端、俯いていたナボールが顔を上げた。
辛そうに笑う瞳から重力に従った涙が零れ落ちた。何かを言おうとしても、飛んで行く意識は待ってはくれなくて…
そのまま蒼の双眼が閉じられた。
――ボウヤ、あたいの宝を泣かしたら承知しないからな!
***
――トンッ
『! リンク!!』
ナボールからの言葉に任せてと思った時には、既にリンクは神殿の外に出ていた。
燦々と照りつける太陽に細める視界に、ナビィが飛び込んできた。
『お帰り!メダル、貰えたんだネっ』
「あ、ああ!…ナビィ、舞は?」
『ア…』
途中で還された事で苦しんでいるんじゃないか。不安を駆り立てる心に従い、リンクはきょろきょろと辺りを印渡す。
反応するナビィは小さく息を吐いて羽を項垂らせた。
『舞なら…アッチで……――』
「あのおばちゃん何故に強制送還したんだーーーー!!!
そんなにわてが嫌いなのかぁああぁぁぁぁ!!?」
『太陽に向かって吠えてるヨ』
ナビィの羽が指す方向には、振られた男が海に向かって叫んでいる様な状態の舞がいた。
誰も止めようとしないのが不思議で仕方ない
「あ、あはは……。無駄、だったかな…」
自分の心配も空回り。引きつり笑顔を浮かべて、リンクは呆然とその光景に見入った。
すると、少し後ろに誰かの土が踏む音が聞こえる。
その音に気がつき、リンクは意識の赴くままに振り返った。
「あ、ダーク!」
「………」
「ダーク、メダル手に入れたぞ!ほらっ!」
頭上に大きく掲げて見せる…が、ダークはちらりと横目で見ると俯いてゼロの方へ行ってしまった。
様子の可笑しいダークに内心首を傾げるリンク。
「ダーク?」
「―あ、リンク!戻ってきてたの!?」
十分叫び声を上げたのか、向こうにいた舞がリンクに気付いて駆け寄ってくる。
リンクも彼女の声に気がついて、ダークから意識を逸らした。
「ああ、今さっき!なぁ、ダークどうしたんだ?」
「それが分からないのよ。戻ってきて声を掛けても避けるみたいに逃げてくし…」
「ふぅん…。どうしたんだろ、怪我でもしたのかな」
『きっと疲れが溜まってるんだヨ。今はゆっくりさせとていあげヨウ!ね?』
「うん…、やっぱそれが一番いいよなっ」
彼らの中で解決策を見出し、応えるように頷く。
ダークとゼロの方を向こうと振り返ると、突然リンク達を強い風が襲った。
「うわ!び、吃驚するなァ…」
『風向きが変わっタ…?』
突然の風向きの変更に、そこまでとは言わないけどナビィは体の色を曇らせる。
――ザッ!
「? ―あっ、シーク!!」
「……」
すると、彼らの目の前に何処からかシークが現れた。以前までなら気まずくて近寄り難かったのに、さっき打ち解けたリンクは心が明るかった。
「シーク!今まで何処にいたんだよっ」
「リンクが最後のメダルを賢者様から貰ったの!ほら、これが――」
リンクの持つ魂のメダルを指差し、舞はシークに近寄ろうと駆けた。
…舞が一歩踏み出した途端の事だった
「っ…ぐっ…!!」
ドッ!
「! し、シーク!?」
突然、苦しむように胸を押さえてシークが膝を地面に着いた。突然の出来事に思わず足が止まり、リンクも舞も目を見開いた。
「シーク!お、おい大丈夫か!?」
「…くっ、時間がない…、もう、僕の時間が…!」
「シーク…?」
『よ、様子が可笑しいヨ!』
この事態に気付き、流石に向こうにいたダークも近づいてくる。
ぎゅっ、と服を掴むと、シークは震える手を持ち上げた。
「…っ舞」
その視線の先に、舞を映して。
視線に気がつき、漸く我に返った舞は慌ててさっき止めた足を駆け出した。
「シーク!」
「舞…っ、僕は……」
眉間に皺を寄せて、苦しそうに目を細めるシークに…何か、不安なものを感じる。
口布で隠された唇が、小さく動かされた。
「僕は君とっ、離れたくない…!!」
目を閉じたシークの目元に、透明に澄んだ涙が浮かび上がった。
もう少しでシークに届きそうな距離で舞が手を伸ばすと…
ゴォッ!!
「わっ!!ま、また風が…!!」
さっきよりも強い風が強く吹き荒れた。腕で守る視界の先で、確かに舞は風に包まれていくシークの姿が見えた。
「シーク!」
大きな声で名前を呼んでも、さっきまで返ってきた声が戻ってこない。不安になる心が駆り立てていくと、丁度同じ頃にシークがいた辺りに一瞬、巨大な光が生まれた。
―キィィンッ!
「光…?」
小さなダークの呟き声が聞こえるぐらい、強く吹き荒れた風が徐々に力を弱めていった。
数秒と経たない内に風音もしなくなり、漸く視界を覆う腕をゆっくりと下ろす事が出来る。
「(うっ、目に砂が…っ)」
「――舞」
風の音がなくなった空間に響く、澄んだ鈴の様な声。
それは唯一の女性である舞やナビィでもなく、ましてやリンクとダークのものでもない。
「え?」
鈴の音色の様な声…。それは、舞がさっきまで手を伸ばした先にいた。
「――!?」
【彼】と同じ映える金色の髪、白で纏ったドレス…雪のように白い肌に浮かべた女神の微笑。
「な、何で…もしかして貴方っ」
それは、過去の記憶を辿っていけば1人だけ当て嵌まる人物…
「ゼルダ…!?」
名前を呼ばれた相手は、驚いて瞳孔を開く舞の先で柔らかい笑みを浮かべた。
唖然と立ち竦む中、我に返ったリンクが肩を揺らした。
「ぜ、ゼルダ!?何で君が此処に「ッキャーーーー!!舞会いたかったですっわぁぁぁ!!」
「Σぐほばぁああ!!」
何と、ドレスを纏ったゼルダなる人物は、猪突猛進が当て嵌まるようなタックルを舞にぶちかました。
言葉を遮られた事でリンクはまたもや我を見失ってしまう。
「ああっ、こんなに美しく超よ花よと戯れるような可憐な美少女に育って下さって!!
男どもが群がるハーレムを作れそうな容姿で、よくぞ此処までこの猛獣どもと旅をして下さいましたねっ!ゼルダ嬉しいですわ!」
「ぜっ、ゼルダさん!?此処はシリアスな空気なんだから、普通はぶち壊さずに出てくるのがセオリーなんじゃ…!?」
「私と舞の愛の境界線の前では、マイナーもセオリーもパセリも存在しませんわ!」
『流石にパセリは存在すると思ウ』
余程嬉しいのかゼルダは黄色い奇声と共にハグする力を緩めようとはしなかった。
例え、舞の体の骨が軋み音を立てようと
「…おい馬鹿勇者、いつまで呆けてんだ。あいつ死ぬぞ」
「(ハッ!)そ、そうだ!おいゼルダっ、舞が死ぬって!!」
「あら?」
リンクの声で我を取り戻し、ゼルダはパッと手を放した。漸く肺に酸素が行き届き、胸に手を当てながら舞は肩で息をする。
「ごほっ、あ…ありがとうリンク…」
『舞大丈夫?死んじゃうかと思ったヨ…(汗)』
「うん、あたしも」
その場が落ち着きを取り戻し、リンクとダークも集まって自然に輪の形が出来上がる。
一番疑問になっている事を代表してリンクが言い放った。
「それで、何でゼルダが此処にいるんだ?シークは何処に行ったんだ?」
「そ、そうよゼルダ!まさか…まさかシークがカマでしたなんてオチじゃないでしょうね!?」
「そう来るか」
「…7年前、聖地の扉が開かれた時。
燃え盛る城下町を置いて、人々を裏切り…私はインパと共に逃げ延びました」
ふざけた空気がなくなり、先程とは違って真剣な表情のゼルダが口を開く。
「時の神殿から立ち上がった光を見て、リンクが聖地の扉を開いた事は知っていました。
そして…それを知った私も何かをしないといけない事も」
「それとシークと何の関係があるんだ?そもそも、シークは何者なんだ?」
そう、ゼルダが現れた途端に姿を消したシークは一体何処へ…
その疑問を読み取り、ゼルダは瞳を伏せて淡い桃色の唇をゆっくりと開いた。
「シークは…私です」
3人の瞳が驚愕に瞳孔を開く。まるでその場に合わせる様に、間に砂埃の混じった風が吹く。
「なっ…、どう言う事だよ!?」
「幾ら逃げ延びようと、私の存在が敵に知られるのも時間の問題。
そう思った私は、身も心も男となり…シーカー族の生き残りに扮したのです」
――――−−---・
「インパ…私、このままでは駄目だと思うの。逃げてばかりではいけないのです」
「姫様…」
「だから…、だから私、男になりすますわ。敵を欺き、舞やリンク達に力を貸す為にも」
「……敵の懐に忍び入る事は、容易い事ではありません。それならば私が…」
「いいえ、私じゃないと意味がないの!彼らが頑張っているのに、王女としての私が易々と見ているなんて我慢なりません!」
「…」
「お願いインパ、力を貸して。私を男に……『ゼルダ』を封印してください!!」
「………分かりました。シーカー族の生き残りと扮し、来るべき時が来るまで貴方を男としましょう。
貴方の意識を眠らせ、新しき思念を宿しましょう」
――――−−---・
「そして私はインパの力を借り、シークとなりてガノンドロフの配下に着いていました。
その時が来るまで…」
「そう、だったの……」
重苦しく語るゼルダの過去に、思わず溜め息が零れた。
それはリンクも同じようで、ダークは黙ったまま腕を組んで耳を傾けている。
「そして今、その時が来た事で封印が解かれ、私はゼルダに戻ったのです」
「! ちょ、ちょっと待ってゼルダ。だとすればシークは?彼は一体、何処へ行ったの!?」
さっき収まった筈の不安が胸を駆け抜けた。思わず舞はガッとゼルダの両肩を掴んで目を合わせる。
その真っ直ぐの懸命な眼差しから一度視線を泳がせ、ゼルダは自分の肩に置かれた手に触れた。
「いいですか舞、落ち着いて私の言う事を聞いてください」
「…ええ」
「…シークは…彼はもう、この世から消え―――」
――パキィィンッ!!
「「「!!」」」
「なっ、何だ!?」
淡々と語るゼルダだったが、彼女の体を紫色の水晶が囲みこんだ。
この水晶をリンクは見覚えがある…。確か以前、自分が7年の時を越える時に閉じ込められていたモノと同じ!
「結界壁だ!!誰がこんなものを…!」
「ゼルダ!?ゼルダ!」
【舞…!!】
ドンドンッと強く叩いても、水晶は振動で揺れるだけ。
「剣で叩き割ってやる!!」そう言ってリンクがマスターソードを抜くと…まるで意思を持ったかのように水晶が宙に浮き上がった。
「!!」
「ゼルダ!!
―――っ!?」
宙に飛んだ水晶を目で追うと、追いかけた水晶の隣に黒い影が浮いていた。
片手で水晶に手をつきながらくつくつと喉で笑い、大きな黒い影はバサリとマントを翻した。
その影は間違いない、
「ガノンドロフ!!」
「ふっふっふ…軟弱な小僧如きが、よくぞ此処まで辿り着いたものだな」
「何だと!?」
【放しなさいガノンドロフ!この結界壁を直ちに解いて!】
抵抗をするゼルダを横目で見ると、ガノンドロフは鼻で笑った。
「ゼルダよ…貴様、よくもこの俺を7年もの間騙し続けたものだな」
【何ですかこのツルッパゲ!!
それは只単に貴方の脳がその頭と同じくらいツルツルだっただけに過ぎない事!】
「喧しい!!貴様永遠に水晶の中に閉じ込めて窒息死させるぞ!」
【禿げ親父の分際でこの私を監禁とは…っ!おぞましいにも程がありますわ!!】
おおい話がズレてるズレてる(by 舞)
「ふん、貴様の様なまな板女監禁しても面白くもない!それならば俺は舞を監禁してピーするわ!!」
【誰がまな板ですって!?それに舞を監禁するなら、私がピーしてピーーしますわよ!!】
「大変だ。あまりの放送禁止用語に雑音入れられたぞ」
『って言うか何で誰も突っ込まないのカナ…』
「た、大変だわ…!」
「ああ、大変だ…!!」
唯一シリアス場面を守るのか、リンクと舞は冷や汗を流しながら頭上に浮かぶ水晶に見入る。
顔を真っ青にして2人とも見上げながら…
「ゼルダ50ルピーに入れられてる!!オレなんて5ルピーだったのに!」
「このアングルだと言うのにスカートの中身が見えないわ!!嗚呼っ、腐女子の楽しみを根こそぎしちゃってくれてっ!!」
『何でココのキャラはシリアス場面をぶち壊しにするんダろう』
まともなのはダークとナビィしかいない。
兎も角、このままでは話も進まないのでダークはグーでリンクの頭を殴った。それにより我に返ったリンクは慌ててガノンドロフに吠え立てる。
「が、ガノンドロフ!ゼルダを返せ!!」
「返せ、と言われて返すと思うか?待てと言われて待つ鬼ごっこがあるか!?」
「いやそんな例え要らないから。兎に角ゼルダ返しなさいよ!!」
「ならば舞、お前がウェディングドレスを着て来ると言うのなら返してやってもいいぞ?」
「あ、ごめん。あたし話から離れてるわ」
それが適切な判断だ
厳しい表情のリンクは剣を構え、切っ先をガノンドロフに向ける。その姿を見て、ガノンドロフは不気味に笑った。
「面白い…。小僧!全ての戦いを終わらせたくば、ゼルダを返して欲しくば我が城まで来い!!」
「!?」
「最高の持て成しをしてやるぞ!怯えて尻尾を巻いて逃げるも、お前の勝手だがな」
「ゼルダ!!」
――ズズズッ…
ゼルダが応えようと口を開いた途端、闇の渦が彼女を閉じ込めた水晶ごとガノンドロフの姿を覆った。
渦を巻いた禍々しい闇が立ち退くと、さっきまで浮いていた2つの影が、空中から姿を消していた。
『消えちゃっタ…!』
「ゼルダ!くそっ、ガノンドロフめ!!」
握り拳を作り、リンクは奥歯を噛み締めた。
ズキッ
「……?」
口惜しそうにゼルダの名前を叫ぶリンクの姿を見た途端、張り裂けるような胸の痛みが舞を襲った。
何故、と思う間にも肺が苦しそうに呼吸を繰り返す。
「(苦しい…どうして……)」
『リンク、どうするノ?』
「引き返すのか?」
相手がリンクなだけに、分かりきった質問を投げかける。
彼らの予想の中に浮かんだものと同じく、リンクは首を横に振って前を見据えた。
「…ナビィ、もうオレの力でも乗り込んでいいかな?」
『! うんッ!賢者様、皆助け出せたもんネッ』
肩に止まる相棒の言葉に口元を綻ばせると、今度はダークに視線を向ける。
「ダーク…大丈夫か?」
「何の心配してんだ。今さっきあいつを前にして、オレが怯えてたかよ?」
「…いや、ダークなら心配ないな!」
「当たり前だ」
口端を持ち上げ、背負った鞘をカシャリと鳴らす。
ダークの反応に首を縦に振って、リンクは抜いていたマスターソードを鞘に戻した。
そして…
「舞」
「!」
振り返ると同時に名前を呼ばれ、俯いていた舞は肩を跳ね上げた。
同時に上がった視界に映ったのは、いつもと変わらない笑顔を浮かべるリンク
「リンク…あ、あたし……」
「怖い?」
「…っ」
「…一度攫われた城に、もう一度戻るのは怖いもんな。仕方ないよ」
違う。リンクの言葉に、心の何処かで否定をしている自分に気付いた。
何に否定しているのか迷っていると、何時の間にか歩み寄ってきていたリンクに、ポンッと肩を叩かれる。
「! リンク…」
「オレ、出来れば最後の戦い…舞とも一緒に挑みたいんだ。今までみたいに、君に力を貸してもらいたい」
「…」
「大丈夫だよ。例え何があっても、オレが舞を絶対に守る!」
リンクの言葉と笑顔に触れた途端、さっきまでの黒い渦が心から晴れていった。
不安そうに騒がしくなる心を落ち着かせて、一度瞑った目をゆっくりと開いていった。
「ええ、頑張るわ」
頑張って笑顔を浮かべると、リンクも応えるように笑顔を浮かべてくれる。
肩に置かれた手に安堵を覚え、舞は心の中で強く決心をした。
「………」
その光景を見ていたダークが眉間に皺を寄せている事にも気がつかぬまま
「でもゼルダ1人ならガノンドロフを倒せると思う件について」
『スピリチュアルトーク?』
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