48.裏切り者と異邦人
とうとう、最後の戦いへの準備が本格的に始まってきましタ。
嬉しいと思う反面、ナビィは心の中で不安が一杯だヨ…
1つは、決闘で皆が無事で帰ってこられるか
1つは、ナビィは上手くサポートできるのか
1つは、この旅が終わればナビィの使命が終わってしまう事が…
元々、リンクの旅のサポートとしてデクの樹サマにお願いされたんだもん。しょうがないよね
…でもナビィ、今の関係が崩れるのがどうしても怖イ
それならずっと、リンク達と皆で…旅していたいなァ…
デモ、そんな我が儘言っちゃ駄目。
リンク達は辛い旅の中、必死に頑張ってくれてるんだカラ
でもそれともう1つ、何か別の不安があるんダ
それはダークが…舞を見る時の視線が、前と大分違う事。
リンクと舞の関係が、前に比べると少しずつ変わっている事
何だか仲間の間に、
変な亀裂が入っちゃったみたいニ
裏切り者と異邦人
「リンク、このお肉食べる?」
「あ、食べる食べる!」
前回、意気込んでガノン城に乗り込む事を決意しました、女子高生ですこんにちは。
さあいざ出陣!!とは言ったものの、空の色はもうすっかり暗くなりそうで…仕方ないから、今日は一旦ゲルド族の砦で一晩泊めてもらう事になった。
で、ゲルド族の皆に食事に誘われたんだけど…。折角だし、今日は仲間水入らずで食べたいと言う事で外で食べる事になった。
「何か、こうすると旅始めた頃の感覚に戻るよな」
火を囲んで落ち着くと、何だか冒険の初心に帰ったみたいで心が落ち着く。
それを感じとったリンクがポツリと呟いた。
「そうね、森を出た時の頃は慌しくしてたし」
『リンク火傷しそうになっちゃってたモンね〜』
「うっ、そ…そうだっけ」
薪の中で火がパチリと弾ける。淡い朱色の炎が明るいリンクの金色の髪を照らした。
「でも、それもいい思い出でしょ?」
「そ、そうだよな!いい解釈していかないと駄目だもんなっ、な!ダーク!」
くるりと振り返り、リンクは明るい笑顔を隣に向けた。
すると、向けられた張本人―ダークは薪の炎をじっと見つめるだけで反応を示さなかった。
「ダーク…?」
「……」
「ねえダーク、貴方今日何か様子変じゃない?ツインローバを倒してからずっと無言だけど」
流石に心配になったあたしもそう問いかけるけど、やっぱりダークは変わらず無言のまま。
本当にどうしたんだろう…。ずっと何かを避けるみたいに顔を伏せてるばかりだし
「(ダーク…)」
「…そ、そう言えばさ!ツインローバが言ってたけど、ダークの新しい名前っ」
話題を変えようと明るく言ったリンク。すると、彼の言葉に何も反応を示さなかったダークの肩が一瞬動いた気がした。
『新しい名前?それって…もしかしてユダ、ってヤツ?』
「ああ!ガノンドロフも名前は必要だと分かったんだなっ、カッコいい名前だろ?」
「!」
「……」
『確かにカッコいい名前だネ。でも何でいきなり名前なんて付けたんだロ?』
「それは勿論、ガノンドロフがダークの実力を認めた証拠だって!」
何の違和感もなくにこにこと笑い、リンクは嬉しそうにダークの名前を褒め称えた。
けど、あたしはどうしてもその名前には喜べない…。多分、リンクは知らないんだろうけど…
「あ、リンク…」
「なっ、舞もそう思うだろ!?名前って一つ一つに意味が込められてるしっ、オレはダークにつけられた『ユダ』って名前気に入ったよ!」
―ガシャリ
「…?ダーク?」
きょとんと見上げるリンクの視線の先には、無言のまま剣を収めた鞘を持って立ち上がったダーク。
ダークはリンクの名前を呼ぶ声にも耳を傾けずに、徐に何処かに向かって歩き出した。
「ダーク!?おいっ、何処行くんだよ!?」
最後の一蹴りで岩場を飛び越えると、ダークはひらりと姿を消した。
何も言わないまま去って行ったダークに、リンクは呆然と呆けていた。
「ど、どうしたんだダークの奴?オレ、何か気に触ること言ったかなァ…」
困ったように頭を掻く彼を見ると…どうやら、本当に何も知らないらしい。森の中で育ち、7年何も触れずに成長したから、仕方ないと言えば仕方ない。
「リンク…」
「ん?」
けど、だからと言って彼をそのまま野晒しにするわけにはいかない。
純粋な蒼眼を振り向かせるリンクに、あたしはちゃんとして向き直った。
「あのね、リンク。ダークの事なんだけど……―――」
+++
「おや?影のボウヤじゃないか。何してるんだい?」
夜の砂漠は冷え込む。防寒対策にマントを首元に括りつけた見張り番のゲルド族。
彼女の先には、ゼロの頬を撫でるダークがいた。
彼の耳にゲルド族の声は勿論届いていて、ちらりと横目で後ろを確認する。
「あまりウロチョロしてると、侵入者と間違ってグサリといっちまうよ?」
「……なあ、1ついいか?」
「? あいよ、何だい」
手に持つ剣を肩に置き、無防備な体制でダークの質問を待つ。ダークは視線をゼロに戻して、鬣に沿ってゆっくりと撫でた。
「舞は、此処に何時頃から世話になった」
「あの子かい?そうだね〜…ざっと6、7年ぐらい前じゃないか?」
「その時の写し絵や資料は残ってはいないのか?」
「基本あたいらはそんなの残さないねェ。何だいボウヤ、舞の事が気になんのか?」
けらけらと可笑しそうに笑う。その笑い声を耳に入れながら、ダークは視線を更に地面に向かわせた。
「気になる…、ああ。そうかもな……」
「ん?」
「気になることが、あるんだよ」
切羽詰った様な声で呟き、ダークは己の服をぎゅっと握り締める。暗い所為で良く見えなかったゲルド族は、分からないと言う様に首を傾げた。
「ふぅん、年頃の悩みは複雑だねェ……―――お?」
「俺個人の事だ、放って置いてくれ」
ふいっと顔を背けると、掴んでいた所為で皺が出来た服を簡単に払った。
ゲルド族は突き放されたにも関わらず、その顔に笑みを貼り付けている。
「ま、そうさせてもらおうかね。
――いい所に丁度いい相談相手も来たみたいだしさ」
「…?」
丁度いい相談相手…?ゲルド族の言葉に疑問を覚え、ダークは首を振り返らせた。
ゲルド族が見ている視線の先で、その『丁度いい相談相手』がきょろきょろと辺りを見渡してた。
リンク…―――
「ダーク〜?何処行ったんだー!?」
「何であいつ俺探してんだ…」
「くっくっく、可愛いじゃないか!良かったねボウヤ、お邪魔虫は退散するから存分に愚痴っときな」
そう言ってゲルド族は砂にヒールを埋める事無く上手く向こうへ歩いていく。
途中、すれ違うリンクと何かを話し、ダークを指差すとリンクの肩を叩いて去って行った。
リンクがダークの方へ振り返ったとなると、どうやらダークが此処にいる事を教えたんだろう
「(余計な事を…)」
「ダーク!此処にいたのかっ、探したよ!」
浮かんだ汗を拭いながらリンクは大きく手を振る。相変わらずその顔に満面の笑顔を浮かべて
「何の用だよ、飯ならいらねえぞ」
「い、いや…それはちょっと、オレが謝りたい事があってさ」
「? 謝りたいだ…?」
怪訝に眉間に皺を寄せるダークに、リンクは苦笑しながら頭を掻いた。何か言い難そうに視線を泳がせたりしている。
「実は、さっきの…ダークの、ホラっ」
「さっきの…?ってまさか、名前の事か?」
「そ、そう!それの事で言いたい事があってっ」
「女じゃねんだからきょどきょどすんな鬱陶しい。言いたい事があるならさっさと言え」
ゼロから身を離すと、ダークは眉間に皺を寄せながら振り返った。
ザッザッと土を踏みながら何処かへ行こうとする彼を、慌ててリンクが追いかけてる。
「…オレ、全然何も知らない無知な奴だから…その所為で人を傷つける事も、あるんだよな」
「…何だ、意味知ってたのかよ」
「知らないよ!!知ってたら最初から、あんな事言うもんかっ」
2人の首元に巻きついたマントが風に揺られる。
「…ごめん」
砂漠とは思えない気温の中、白い吐息と一緒にリンクの口から謝罪の言葉が漏れた。
「ユダって…【裏切り者】って意味なんだろ」
空を見上げるダークは、視線の先に墨を垂らしたような夜を映した。
気まずそうに視線を泳がすリンクは、心の中で数分前の自分を呪う。
―昔、神の代理人とまで呼ばれた救世主を裏切った大罰を抱えた男がいた。
その男の名は『ユダ』と言われ、その後、男の名前は『裏切り者』の代名詞として活用されたと謳われている。
「舞に教えてもらったんだ…その意味が、神を裏切った男の名前なんだって」
「……」
「ダークは、知ってたんだよな?だから傷ついて、あそこから逃げたんだよな!?」
「知ってた、ってのは否定しねえな」
灯りも要らない程瞬く星がダークの銀の髪を照らす。幻想的且悲しげな光景に、リンクは眉間を八の字にした。
「…どうしてオレ、こんなに馬鹿なのかな…。嫌な意味の名前を喜んだりして」
「…」
「オレ…、もうダークの名前呼べないな」
ジャリッ、と土を踏む音が止んだ。声を掛けたわけでもないのに、2人の足が同時に止まる。
不安そうに視線だけを上げると、ダークはまるで読み取ったかのように振り向いた。
「お前、ホントに馬鹿な奴だな」
その瞳に、綺麗に輝く光を灯したまま
「それは、分かってるけど…」
「ああ、大馬鹿だ。阿呆でドジで天然記念物の絶滅危惧種な単細胞生物」
「Σうぐっ!!な、何だよ!そこまで言う事ないだろっ、馬鹿でも傷つくんだからなー!!」
涙目になりながらリンクは悔しそうに握り拳を作った。
視線の先にいるダークは口元を覆うマントを掴んでじっ、と空を見上げていた。
「…元々『ユダ』は、生みの親である親を裏切ったと言われている」
「へ?」
「生みの親に『生まれなかった方が良かった』とまで言われる始末を受け、最後には裏切り者をレッテルを貼られた…哀れな末路を辿った使途だ」
場の空気が変わる中で、ダークは白い息が吐き出される口を弧に描く。
「どうだよ。これ以上に俺に合う名があると思うか?生みの親を裏切り、最後に邪魔者扱いされるなんて俺にピッタリじゃねえか。
それに…」
「…ダーク…。」
「それだ」
「?」
「俺にはもう、『ダークリンク』の名前がある」
対となる紅の瞳が細まり、蒼と紅がぶつかり合う。
「誰が何度ユダと呼んでも、俺は俺だ。俺の中で俺はダークリンクだ、ユダなんかじゃない。
――それだけは誰にも譲る気はねんだよ」
リンクの蒼の瞳がいっぱいに開かれた。
感動と驚きで一杯な為、何も言い返せないリンクにダークは視線を泳がせた。
「…くそっ、柄にもねえ事言わせんな馬鹿勇者」
朱のかかった顔をそっぽ向かせて土の上に転がる石を乱暴に蹴飛ばした。
正直、信じられない気持ちで一杯だった。名前をつけたのは舞だったが、それに賛同したのは自分だった。
勝手な事をして憎まれる事はあっても、認められることはないと思っていたから尚更の事、
リンクは心の中を嬉しさで満たしていた。
まるで敵視されていた自分を認められたような気がした。
「ああっ、ダークはダークだ…!――ありがとう」
顔を逸らしたダークの口元に、笑みが戻っていたとはリンクは知らない。
心の中で、ダークが向こうを向いてくれて良かったと思っている。赤くなった顔を見られなくて済んだ
「ダーク、オレナビィに用があるから戻るけど…ダークはどうする?」
「俺はもう少しこの辺りを歩く。」
「そっか。じゃあ先に行っとくよ、あまり遠くに行くなよな!」
まるで子どもに言いつけるような言葉。リンクは背を向けるダークに片手を上げて、ひらりと身を返すと元来た道を戻っていった。
後ろ目でそれを確認すると、ダークはゆっくりと歩調を遅くする。
「(――穏やかな…)」
胸いっぱいに広がる感覚。それは、子どもの頃に感じる事のなかった安心できるもの
いつの間にか心を支配していく気持ちに戸惑いを抱えてしまうのは、ダークの所為ではない。
「元々敵だった勇者に、何を支配されているのか…―――?」
呟きながら歩いていると、ペースを落とす歩調がピタリと止まった。
マントに唯一隠されていない瞳で、少し先にいる人物を捕らえている。その人物は、砂漠には珍しい瑞々しい大樹の根元で座っている。
「舞……」
ダークの視線の先にいたのは、妖精ナビィと何かを楽しそうに話している舞だった。
赤い光が点っていると言う事は、どうやらさっきの焚き火が残っているんだろう。
目を細める先で、一言二言交わすとナビィが舞から離れていく。用事があってか、何処かへ去って行くナビィを見送ると、また舞は視線を焚き火へと戻した。
「……」
舞の名前を呼ぶと、さっきまで穏やかだった心が思い出したように慌てだす。
そう、魂の神殿で起きた事件以来、彼女を視界に納めるとどうしても心が騒ぎ出すようになった。
――あの時の絵画の様に笑ったままでいられたものの
今は亡き、忌々しいツインローバの言葉が脳を占領する。
「…っ」
何かに怯えるようにダークは自分で自分を抱えた。
あの言葉の意味は分かっている…自分が『会いたい』と恋焦がれた少女を指している事など
会えるのなら手をとりたい。会えるのなら笑い合いたい
そう願っていたのに、いざとなるとダークの心は少女の存在を否定していた。
「(分かってる……俺は、自分を守ろうとしてるんだ)」
もし直ぐ目の前にいる彼女があの時の『絵画の少女』なら、嬉しい反面
――自分が情けなくなってしまう。
あんなに会いたがっていた少女を自分は…一度見ただけで気づく事が出来なかった。
そうだと思うと、今までの自分の思いが只の嘘のようになってしまう気がして怖かった。
距離を置かれる事が
(怖かった)
「だからとは言え、いつまでも見て見ぬ不利をするなんて――」
「わおあぁあぁぁぁ!!?」
「!?」
突然、前方から少女の悲鳴が上がった。バッ!とすぐさま顔を上げると…根元に座る少女を囲むように、地面からスタルベビーが這い上がって来ていた。
「なっ、しまった!!」
スタルベビーは夜に活発なモンスター。そんなの基本中の基本の知識
背中に背負った鞘に納まる紅いマスターソードに手を掛けて引き抜くと、ダークは地面を蹴って走った。
蹴り上げる砂がブーツの中に入ろうと、無我夢中で駆け寄っていく。
――無我夢中で…?
ドスッ!!
「邪魔だ!どけ!!」
「! だ、ダーク!」
道を塞ぐ一体のスタルベビーを倒すと駆け寄るように大樹の根元へ走る。
駆けつけてくれたダークに安堵感を覚えると、舞は縋るようにダークに近づいた。
「ありがとう!突然現れて…」
「馬鹿かお前は!モンスターが事前に知らせて襲ってくるか!!」
カタカタと体を揺らして爪を振り上げる。紅い刃で受け止めると、振り払うようにして敵を薙ぎ倒す。
「多いな…死にたくなかったら静かに身を潜めていろ」
「わ、分かった!」
ダークの忠告に従い、舞は素直に大樹の根元で息を潜めた。
視界の隅でそれを確認すると、遠慮がなくなったように剣を暴れさせる。
「オラッ!死にたい奴からかかって来い!!」
一番近くにいる敵を串刺しにすると放り捨てるように遠くへ投げる。
巻き込まれた数対のスタルベビーが崩れ、青い炎に纏われて消えていった。それでも敵の数はまだまだ多い。
「ちっ、こんなムキになるなんて馬鹿馬鹿しい」
遠慮なく襲い掛かってくるモンスターの群れに内心舌打ちを打つ。何とか舞の元まで敵が行かないように注意して…――
注意、して……
「(……?何で俺、こんなムキに…)」
「ダーク!前、前!!」
「!」
声に弾かれて慌てて剣を構える。丁度刃の部分に敵の爪が落ちてきてガギンッ!と鈍い音が響いた。
歯軋りが飛び交う中、ダークは戦闘とは違う思考を廻らせる。
「(思い返せば、)」
―いつも、気付けば何故か必死になっていた。
戦えない女だからとは言え、普段の自分ならどうにかしろと思って突き放していた筈なのに…
「(そう言えば…いつも気を張ってはこいつを『守れ』と命令する思考が存在していた)」
敵を萩払うと横振りに大きく剣を振る。スタルベビーの首が飛んで地面に倒れた。
「(しかもそれに素直に従う俺も存在していた。いつの間にか自然と舞を守る事が定着していた筈)」
スタルベビーの爪をバックステップで避けると、それを利用して跳躍。中に浮いた体と反して、手に持った剣を地面にいる敵に向かって突き立てる。
――ドンッ!!
「(取り得もない女を…?)」
突き刺した剣が貫くと、スタルベビーがまた一体炎に包まれて消える。
後は後方に残ったほんの数体のみ
「(そうだ、この力を『あの少女』に会うまでは何処で使うのかも分からずに。とりあえずそれで、舞を守る事に使おうと決めて…――!)」
瞬間、ダークの赤い瞳が驚愕に一杯に開かれる。それと同時に、地面にもぐって逃げようとする敵に向かって剣を縦斬りに振るう。
ザンッ!と音が砂漠に響き渡った。
「(同じだ。…舞を守ろうと思う気持ちも、『あの少女』の為にこの力を使おうと思った気持ちも)」
―同じモノ、同じ気持ち―
「(……まさか…)」
辛そうに目を細めるダークの紅い瞳に最後の一体のスタルベビーが焼きついた。
逃げようとせず、勇敢に立ち向かってきたスタルベビーは爪をダークに向けて振り下ろした。
「(やっぱり…本当に、本当なんだ……。あいつは、舞は…――)」
――ザシュッ!!
けれど、ダークの剣さばきには勝てず、とうとう最後の一体が体を突き刺された。
紅いマスターソードで絶たれたスタルベビーがとうとう、その身を青色の炎に覆われていく。
「やっ、た…やった!」
息を潜めていた舞は体を持ち上げると、嬉しそうに両手を合わせた。
「凄いわダーク、全部倒した!やっぱりダーク、凄く強い――」
笑顔を綻ばせながら駆け寄ろうと駆け出す。
…だが、徐に立ち上がり切なそうに眉間に皺を寄せてダークが立ち上がる。そのまま右手に持った剣を地面に突き刺し…
――ザンッ!
「やっぱりお前だ!!」
「え…?」
その辛そうな視線を舞に向ける。ダークの様子に怪訝に感じ、舞は思わず立ち止まってしまう。
ダークは地面に突き刺した剣の柄をギリッと握り締めた。
「お前なんだっ、絶対間違いない!」
「ダーク…?」
「ずっとその存在に焦がれていた、会いたいと願った…!」
まるで走馬灯のように城にいた頃の様子が描かれていく。初めて会った時、ゼロと何度も見に行った時、無残に…ガノンドロフに砕かれた時。
「長年追い続けたんだ…!お前をっ」
例え砕かれようと、笑顔を絶やさなかった少女の笑顔の破片さえも覚えている。
「俺の、闇の光…!!」
「――…!」
舞がハッと何かに気付いたように肩を揺らす。それにさえ気付かないぐらい動揺したダークは、震える右手を左手で押さえる。
「全然分からなかった、お前なんて気付かなかった。ツインローバに指摘されて、お前の服見て…漸く、気づいて…っ」
握り締める力が強すぎるのか、ダークの右手から血の道が一筋出来上がっていた。
「情けねえよ、自分で気づけないなんてカッコ悪いんだよ…!そんな自分認めたくねえよっ」
「ダーク…」
「でもお前なんだ!!否定しきれねえよっ、だってお前が!!!」
血の道の上に混じって、じわりと滲んだ汗が染みる。辛そうに歪む眉間は、その痛みに伴ってのものなのか
「――お前が…同じ【笑顔】で笑うから…っ!」
あの頃に覚えた笑顔という言葉に、今頃になってどんなに重みがあるのかが分かった。
気づけたと言うのに、何故か苦しくなる心情に従って首が項垂れる。
「ダーク…!」
「否定、しきれねえよ…っ、こんな…現実、でも……!」
「ダーク!!」
俯いた視界に突然、黒と白のコントラストが飛び込んだ。口元を覆うのは自分のマントではなく、細くて白いもの。
ダークは瞳孔を開いた。体を包む程よい温もりに触れている自分に
「っ、本当は!もっと、早く言ってあげたかった…っ!城に捕らわれている間、ゼロを通してダークの過去に触れてから、ずっとっ」
自分の体を全て包むには小さい腕は、懸命に自分の背中を彷徨っていた。
「…正直に話すわ。ダーク、あたしはずっと…リンクの夢を突き放す貴方を、最低だと思っていた…っ」
舞の口から紡がれた言葉がじくりとダークの胸を痛める。伴うように眉間と瞳が歪んだ。
「人の夢をどうして突き放すのか。どうしていつも寂しそうに距離を置くのか…。
それは何故か」
「ダークが、温もりも優しさも、誰にも教えてもらえなかったから…っ」
背中を掴む腕に力が篭った。まるで、引き千切られそうな力を持つ腕は、弱弱しくカタカタと震えている。
「彷徨っていたのよねダーク…自分を愛してくる人を必死に探していたのよね?子どもなんて皆そうだもの」
「…ぁ……」
「受け入れてくれる人を探しても探しても見つからない…。それどころか突き放された、それが苦しくて自分を隠して【闇】を装ったんでしょ?」
「舞……お、俺は…っ」
まるで感染されたかのように、今度はダークの肩が小さく震えた。
振動を感じ取り、背中をあやす舞の手が自分の震えを押さえつけ、ゆっくりと弾む。
(言わなきゃ…お礼を、言いたかった事。会ったら言いたかった事、全部…!)
「お、俺…城で、舞に……会、え…」
だけど、いざとなると急く心の所為で混乱してしまい言葉が出てこない。言いたい事があるのに、出て来ない言葉にダークは更に混乱する。
「俺…っ、俺は…!」
「大丈夫、ダーク。伝わってるから」
震えの止まらないダークの体を、子どもをあやすかの様に一定のリズムで叩く。
緊張と恐怖で震える肺に酸素を送ろうと、短い呼吸を何度も繰り返す。
「『ありがとう』
――…これで合ってる?」
耳元で聞こえた、少し擦れた声にダークの鼓動が徐々に元のペースを取り戻そうとする。
―どうして彼女は、こんなに自分を見てくれているのだろうか。舞の声を聞くだけで自分はこんなに……泣きたくなる
「あ、ぁ…合ってる…っ!」
「良かった…あたしも同じ事と、もう1つ言いたかった事があったから」
守りたいと思っていた人はやっぱり、自分を包むように守ってくれる。
砂漠の気温など感じないほど暖かすぎる温もりが、体も心も覆ってくれた。自分はそれに――
「1人で頑張ってきてくれて、ありがとう。…今度はあたしもリンクも一緒に頑張るから」
―いつも救われる。
舞の言葉に、慰めてくれる背中に回った手に、ダークは我慢できないように涙腺を緩ませた。
止めようと思って目を瞑ると、逆に落ちてしまった涙が舞の肩に滲みこむ。
泣いた事が分かってしまうと思うと、舞の腕の力がまた強くなった。
「泣いてくれた…!やっと、弱みを見せてくれた」
「――!」
「ダークの涙が見たかったの…そうすれば、貴方を少しでも理解できると思って」
泣いた自分に舞は、呆れたり笑うどころか泣きながら喜んでくれる。この少女は全てを包み込んでくれるように、わかってくれる。
「いっぱい泣いて。弱みを見せてくれる事があたしは――何よりも嬉しいっ」
「――…っ!!」
ぎゅうっ、と瞑ったダークの瞳。見えなくなった『紅い』瞳の変わりに、綺麗な透明の『蒼』の涙がポロポロと幾つも落ちていく。
額を舞の肩に押し付け、剣を持たない左手を舞の首に回して力を全て込める。
「…ぐ、……ふぐ…っ!」
「ダーク…」
「――ヴアアあぁ``ぁあアぁァァぁぁ…っ!!!」
子どもの頃に流したものとは違い、綺麗に澄んだ涙が止め処なく流れる。
骨がギシギシと鳴る程抱きつくダークの腕の強さは、生まれて今までの時間に抱えた苦しみの重さ。
耳に響く鈍痛な泣き叫ぶ声に、舞の目からもツゥ…と雫が落ちていった。
満点の星空の下、同じ涙を流す青年と少女が互いを慰めあった。
――泣き終わったら、ちゃんと…言おう。
『ずっと支えてくれて、ありがとう』
『頑張って笑えるようになりたい』
『ずっとずっと…あんたに会いたかった』
心の苦しみが解放されるダークと、共に苦しみを拭い取ろうとする舞。
そんな2人の抱擁
―ザッ…
「―――……。」
遠くの丘から、辛そうに切なそうに、何とも言えない悲しみに眉間を歪めた…――
リンクが、見ていた。
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