49.ヘタレの告白




何で…何でなんだろう。
オレは只、舞がいなくて心配になったから様子を見に行っただけ…

それだけなのに、
彼女を見つけたと思ったら、泣いているダークと抱きしめ合っていた。

そんなの別にいいじゃないか。仲間だろ?
お互い支えあうのはいい事だ、いつもならそう思うはずだろ?

なのに…何で、何であの2人を見ると
こう…モヤモヤするって言うか、嫌な気になるんだろう。

オレだけが仲間外れだから?…餓鬼じゃ、あるまいし

ああっ、くそ。訳が分からない

この気持ちにもし名前をつけるなら
この気持ちは何て名前なんだ?

なあ、誰か教えてくれ…
これは何ていう気持ちなんだよ






ヘタレの告白





ゲルドの砂漠。一番見晴らしのいい高い丘の上で、胡坐を掻いた青年がぼーっと空を見上げていた。
定まらない視線は空しく夜の空に浮かぶ星を追いかける。


――ダーク…

――っあ``ああぁ``ぁあ``ぁぁぁぁぁっ!!!

――いっぱい泣いて。弱みを見せてくれる事があたしは――何よりも嬉しいっ



頭の中で何度もさっき見た光景が流れていく。
靄が広がっていく心が怖くなり、リンクは膝を抱えた。


「訳が分からない…」


何を戸惑うのか、何に焦っているのか。
そして何より、何を信頼した仲間に不快感を抱いているのかが


「分かるわけ、ないだろ…」

「何が分からないの?」

「!?」


不意に背中に掛けられた言葉。慌ててバッと振り返ると、そこには2つのカップを持った舞が立っていた。


「どうしたのリンク?いなくなったから心配したのよ。
コーヒー飲まない?」

「え、あ…ああ、いる」


舞から受け取るとカップから湯気とほろ苦い香りが漂った。
よく見ると彼女の目が赤く腫れている。


「隣座ってもいい?」

「う、うん。ど、どうぞ?」


いつもの本調子が出ない。どもってばかりの言葉と一緒にコーヒーを喉に流し込んだ。
隣に座る舞はさっきとは嘘とは思う程の笑顔


「いよいよ明日ね!緊張してる?」

「あ、ああ」

「あたしはよく分からないけど、リンク達と一緒なら大丈夫だと思うわ。
頑張りましょうね」


逆に不自然に見える。始終笑顔の舞がまるで無理をしているように
横目でちらりと見ると湯気で彼女の瞳が曇った気がする。

無理なんて、してほしいわけではないのに


「さあリンク、明日に寝坊しない為にも今日は…」

「なあ、舞…どうして笑うんだ?」

「え?」

「何で無理をしてまで笑う?オレは君に、無理に笑ってほしくなんてない!」


突然だったからだろう、舞の目が驚きで一杯に見開かれた。
リンクは視線をカップの中で揺れるコーヒーに向けたまま


「オレ、見たんだ。さっきの…ダークと舞の」


さっきの光景を告げるリンク言葉が震えた。


「!」

「あんな後で笑うなんて、可笑しいと思うんだ。これはオレのエゴでも嘘の優しさでも何でもないんだ!」

「リンク…」

「今回の事だけじゃない、ナボールさんの時もそうだ。
舞はあの人を、侮辱したり馬鹿にしたりして笑ってただろ?」

「それは……」


リンクの言葉に舞の眉間が歪んだ。2人の間に風に乗ったコーヒーの香りが漂った。


「シークの事は?あいつが居なくなってから哀しみなんて1つも見せないだろ。」

「…」

「どうして…オレ、分からないよ。舞のこと、全然…ッ」


まるで自分だけ籠の外に放り出された様な感覚。
寂しくなる孤独な心を吐き出すように、リンクは選んだ言葉を全て吐き出した。


「じゃああたしはどうすればいいの?」


振り返ったリンクの視界に、地面に空しく落ちた黒い液体が見えた。


「泣けるのなら泣きたいし、怒れるのなら怒りたいわ。
でも…そんな事をして、シークやナボールさんは帰ってくるの?」


中身のなくなったカップがコロコロと転がって、リンクの手にぶつかる。
舞は眉間を八の字に垂らしたまま首を持ち上げた。


「…困ると思った。泣けば、リンクもダークもナビィにも。
きっと泣いたら皆慌てだすからなるべく我慢したの。自分なりに悩みを取り払うやり方で」


あの時、魂の神殿の外でゼルダが言いかけた言葉が蘇る。
真っ直ぐな瞳を舞に向けながら確かに彼女はこう言った。

『シークは…彼はもう、この世から消え―――』

あの続きの言葉は空しくもガノンドロフによって止められたけど
けれど聞かなくとも分かっていた。あの言葉の後に続く言葉がどんなものかは…


「ねえリンク、死んだ人が自縛霊になってこの世に留まる理由がどんなものか知ってる?」

「いや、オレは…」


ふるふると首を横に振るリンクを見て舞は頷いた。


「亡くなった人は帰らない…その虚無感に支配された生者は、自然と求めてしまうの。
『消えないで』『戻ってきて』…色んな心が生まれてくるわ」

「うん…オレも、デクの樹サマの時そうだったしな」


あの頃、森の中で泣き叫んでいた自分が脳裏に蘇り思わず苦笑が漏れる。
しかしそれも次の舞の言葉でなくなってしまった


「死者は、どうしてか心を読み取ってしまうの。
泣き叫んで自分の『死』に弔う生者の姿と、読んでしまった想いに気付いて安らかに眠る事が出来なくなってしまうの。

…成仏が出来なくなるんですって」


後ろにいる舞に振り返り、リンクは大きく開いた蒼の瞳に彼女を映した。


「だから一番死者を想ってするべき事、それは泣き喚いて引き止める事じゃないの。
笑顔を浮かべて心から安らかに眠る事を祈る事、これが最良の方法なんだって」

「そう、なのか…?じゃ、じゃあオレ…デクの樹サマ…!!」


リンクの持ったカップが揺れて中のコーヒーが波紋を広げた。
その彼の様子に舞は後ろから悲しそうな視線を送る。


「あの時はその事が頭に浮かんでどうしても泣けなかったわ。
それならあたしは…どうしても笑っていたくなる」


お願い、分かってリンク。そう言った舞はリンクの隣に戻り、震える肩に手を置いた。
舞の言葉に辛うじて反応するも、それは小さく首を縦に振れただけ。

きっと怖がっているのだろう。
もしも自分が慕った相手が、自分の所為であの世へ旅立てていなかったらと思うと…


「(どうしよう…オレっ)」

「…でもあたしこんな偉そうな事言ってるけど、本当はリンクのお陰だと思うの」

「…? オレ…?」


少しだけリンクの瞳に光が戻った。
地面に転がる自分のだったカップを広い、両手でくるくると回す。


「こんなに歯の浮いたようなカッコつけた言葉とか全部。
元の世界にいた頃のあたしでは言えなかった事よ、間違いはない」

「でも、それがオレの原因でって確証は何処にも…」


不安そうな蒼の瞳に映る少女は首を左右に小さく揺らす。


「あたし今までリンクの言葉に救われたわ。臭い台詞で、真っ直ぐで、濁りのない貴方の性格そのものを現した言葉の数々。
あたしは、それに救われたの」


まるで今の舞をそのまま映したかのよう風が辺りの草を揺らした。
汚れのない、澄んでいい香りの漂う…真っ直ぐ向いて吹いていく風


「リンクの言葉や態度で救われたあたしはいつの間にかそれが身についていた。
だから、今回の件で泣かなかったのは……
リンク貴方自身の強さを反映させた証拠よ」

「舞…」

「泣かなかった事は非情に見えるかもしれないけど、リンクにだけでも知ってて欲しかったの。
あたしの泣かなかった事の答え」


そう言うと舞はいつものデタラメなテンション時に見せるものじゃなくて、優しい微笑みを浮かべた。
その笑顔を間近で見たリンクは、確かに心臓が大きく脈打ったのを感じる。


「お、オレ…何か、勘違いしてたような事言った、よな…ごめん」


熱の集まる顔を隠すように俯きながら小さく囁く。
辛うじて視界に映った舞は首を左右に振って否定を表していた。


「話を聞いてくれて、ありがとう。やっぱりリンクが一番話しやすいかもね!」

「ああ…。オレも……舞が一番話しやすい相手だと思う!」


漸く笑顔を見せたリンクに安心して舞も口元を緩めた。
リンクのコーヒーが無くなる頃、2人の頭上を眩い閃光が走った。

それは1つではなく、幾つも、時間が経つに連れ数を増やしていく。


「な、何だこれ?すっごい…綺麗だ」


まるで昼と言っても可笑しくないほど辺りを照らす光の雨。
幻想的な光景に見入ったリンクは口を開けたまま空を見つめた。


「流星群…!?す、凄い凄い!闇で覆われたこの世界に、流星群が流れるなんて!」


喜びで飛び跳ねると舞はまるで捕まえるように両腕を空に向かって伸ばした。
流星群…舞が言ったその単語を呟き、リンクは空を翔る星に手を伸ばす。


「初めて見たわ…こんな綺麗な流星群、初めて」

「舞も見たことがないのか?」

「ええ。都会は空が曇っているから見えないし、ココの空気が生きてきた証拠よ」


都会…それは舞の住んでいた所だと、リンクは前に聞いた事がある。
その言葉を口にした途端、今まで明るさを保っていた舞の表情が曇った。

心配そうに名前を呼ぶリンクに視線も向けず、消えそうな声で呟きを放つ。


「この戦いが終わったら…あたし、どうなるのかな」


寂しそうな声は夜に紛れて溶け込み、その存在すら消してしまいそうだった。


「え?」

「元々あたしは、ガノンドロフの力を止める為にこの世界に連れて来られた…らしいから。
もし、もしもよ?用がなくなって必要がなくなれば……」


自分は返されそうな気がしてままならない。
以前から少しずつ気に掛けていた、この世界と元の世界の事。戻りたくて戻りたくて仕方がなかった自分に気がつき、それから舞は少しずつ考えていた。

そしてそれから、この世界の人々に触れて…少しずつ変化があったのかもしれない
彼女は今、完全にハイラルの虜にされてしまっている。


「あたし、もう…ハイラルからは消えるのよね」


いつの間にか…帰ることが怖くなっていた
そう、用がなくなれば…自分はいつか、このハイラルから強制的に


還され…「消えない」

「!!」


舞の心情を読み取ったようにリンクが心の言葉を遮った。
さっきの関係が逆転した様に、今度はリンクが穏やかに微笑んでいる。


「オレが消さないよ。もし消えても、オレがちゃんと舞を迎えに行く」

「…異世界なのよ?ハイラルとは、距離が違いすぎるの…」

「舞は、空を『2つ』見たことってある?」


突発にリンクは妙な質問をしてきた。空?それは今無数の流星群が流れている、この空の事?


「2つ、なんて…分かりっこないわ。だって全部一緒に見えるし…」

「だろ?じゃあ大丈夫って事だよな?」

「え…?」

「空は繋がっている。世界を覆う空は”全て”が”1つ”だ」

「!」


摩訶不思議な言葉を放つ美青年はとんでもない事で綺麗な笑顔のまま言ってしまった。
何処にもない自信を確かに含みながら


「舞がいなくなれば山を辿る。山がなくなれば街を辿る。街がなくなれば道を辿って…
道がなくなれば、――空を辿るよ」

「そんなの、出来っこないのに…」


空を辿れば、絶対に自分の下へ辿り着く保障など、何処にもないのに…


「舞だろ」


何処にも確証のない、勝手な個人の自信1つのチッポケな予想だと言うのに……


「ずっと前…『オレの眼は空を捕まえてる』って言ったのは、舞だろ?」


どうして彼が言うとこんなに信じたくなれるんだろう
言葉に詰まるほど真っ直ぐと見つめられる視線から逃げ、舞は膝を抱えて視線を泳がせた。


「…じゃあ、1つ…聞いてもいいかしら」

「勿論!何?」


たった2人の人間が思い込んだ妄想だけど、舞の心はもう当たり前のように感じていた。
【リンクなら出来る】と。
…やはり見も心も『リンク』に汚染されていったようだ


「…旅が終わったらどうする?」


無い筈の未来に希望を抱き、少し伏せ身がちの目をリンクへ向ける。
向けた先にいた彼は何一つ変わらない一直線の目を流星群へ向けながら口を開いた。


「終わらないさ」


その言葉と、舞に向けられた視線は、まるで頭上を通る流星群のように真っ直ぐと向かっていた。


「この旅が終わっても、失った7年を歩く旅が始まる!」


だから舞、心配しないで。
そう言うとリンクは少し桃色の頬を染めながら口元を綻ばせた。


「(…リンクは、何時からこんなに人を包み込めるような笑顔を作れるようになったんだろう)」


全てを浄化する彼の笑顔を見ていると、溜め込んだものも全て搾り出されるような感じだ。
つまり、押し留めた者達が一斉に吹き出てしまう事。
…我慢を許されなくなる事だ


「舞?」


目頭を押さえ、俯いた舞は額をリンクの肩に落とした。
突然の事にリンクも若干焦り名前を呼ぶ。


「…強くなれたと思ったのになァ」


返ってきたのは掠れ声と溜め息の混じった弱気な声。
一瞬、聞こえないように鼻を啜る音が聞こえて、リンクはハッと目を開く。


「舞…」

「ごめんなさい、リンク。今はまだ…弱いままのあたしでいさせて……ッ」



『僕は君とっ、離れたくない…!!』


シークの言葉が蘇り胸を締め付けられた。
…怖がっていた。弱みも何もいつも見せなかった彼が、唯一あの時だけ

助けを求められた分救ってあげられなかったのが怖かった。
ナボールさんの悪口も言って誤魔化そうとはしたが…それでも、どうしようもない気持ちが悲鳴を上げていた。

2人への強い罪悪感が舞の心を襲い、それは押し留まらなくなり涙と共に流れ出ていた。


草原の葉に珠の様な水が落ちる。
暫く動かないままでいたが、いつの間にかリンクの右腕が舞の頭を包んでいた。


「(こういう事だったんだな…。ごめんなナビィ、君の言っていた事が漸く分かったよ)」


蚊が鳴く程の小さな啜り泣く声をBGMに、リンクはじっと静かに流星群の雨が降る夜空を見上げた。



遅すぎたかもしれない

それでも、改めて実感すると胸に広がる心地いい温もり…


嗚呼…そうだったんだ。

そうなんだね、舞………




これが…―――






***







パチッ…パチッ


真っ赤な炎が燃え盛る焚き火を静かに見つめる影。
誰も居ないテントの付近で、組んだ両手を口元辺りで結ぶと忙しそうに辺りに視線を伺わせた。

もう深夜近い夜の闇…光が映すのは、ダークだけだった。


「………」




――――−−---・



『これ、ダークにあげるわ』


そう言って舞が差し出したのは、聖三角の留め金部分。
涙を拭いながら、半ば押し付けるようにダークの掌に乗せた。


『これ…壊れた留め金か?』

『そう。元は勇気の位置にあった一部なんだけど…ダークにあげるわ』

『どうして俺に』


そう尋ねると舞は目を細めた。あの時、城にいた時に救われたようなあの笑顔を浮かべて


『あたしとダークが実は7年前から繋がっていた…その証ね。
壊れ物だけど、ダークが持ってて?これは貴方が持っているべきよ。あたしはそう思うわ』



――――−−---・




脳裏にさっきの光景が思い浮かぶ。ダークはポケットから取り出した、舞から受け取った聖三角の留め金の一部を見つめた。
自分を、会いたかった彼女に会わせてくれた…掛け替えのない宝物を


「……」


――ザッ


すると、ずっと静かだった辺りに砂を踏む音が響く。
勿論ダークにも聞こえていた為に、邪悪でない気配に気付いた彼は視線を横に流す。


「――あれ、ダーク。まだ寝てなかったのか」


視線を向けた先には焚き火の灯りで照らされた影が映える。
布団代わりにマントを被さり、目を閉じた舞を抱えたリンクがそこにいた。


「眠れるか。明日の事でピリピリしてんだよ」

「そっか…実はオレもなんだけどな」


最終決戦を前に控えた2人は火を囲んで向かい側に座る。
その間に舞のマントを敷いてその上に寝かすように舞を降ろすと、リンクは自分の着ていたマントを脱ぎ始めた。


「ダーク」

「んだよ」

「オレ……さっきのダークと、舞の話…聞いてたんだ」


何時もなら怒り、顔を赤くして怒鳴り散らかすダーク。
だが今の彼は何時もと変わらない視線をリンクに真っ直ぐと向けたまま静かにしたままだった。


「舞は知ってるみたいだけど、オレはダークの事を良く知らないから話は全然読めなかった。

でも…」


そこで言葉を区切ると、リンクは着ていたマントを握り締め、間もなくそれを舞の体にかけた。


「2人のしていた事に――嫉妬したんだ」

「…ほう」


不快感を寄越すような言葉だと言うのに、ダークは口元を吊り上げている。
まるで暇を持て余す様なものを見つけたかのように


「でも…まだこれをハッキリ口にするのは何だか怖いんだ。だからまだ言葉には出来ない…」

「……」

「ダークは、大切な仲間だ!何をしても惜しみない…身を投げ出しても構わない大事な友達」


数分前のように強い意志の混じった2つの瞳がかち合う。


「けど舞は…命を投げ出しても構わない大切な人だ。」


唯一目を閉じた舞に一度目配せをすると、リンクは曇りない眼差しをダークへ再度向ける。


「例えダーク相手でも、これだけは譲れない」


凛とした逞しいアルト調の声が静かな空間に響いた。
男となった、中身でも成長をしたリンクをじっ…とダークは見つめるまま動かない。

焚き火がパチリと火を撥ねた頃、漸く動いたダークは頭を掻いて立ち上がった。

足を進めると邪魔くさそうにマントを脱ぎ払い、さっきのリンクのように一度強く握った。


「言っておくが…」


――バフッ

マントは…舞の上へ落ちる。


「だからと言って、俺は手加減するつもりも退く気もねえからな」


再びリンクへ振り返ったダークは妖笑を浮かべていた。まるで挑戦するように細められた瞳
それにリンクも嬉しそうに笑い力強く頷いた。

2人の穏やかに戻った笑顔は互いに向けられ、そして舞に向けられていた。




いなくなったリンクと舞を探しに出ていたナビィ
こっそりと陰から覗いて今までの事の一連を見守っていた。


『(うふふっ、おめでとうリンク!漸く自分の想いに気づけたんだネ)』


ピンク色に染まる体を揺らし、ナビィは心の中で明るい調子で笑った。
さあ戻ろう。…とするも、何を思ったかナビィは輪から外れた場所へ向かって飛んでいった。


『今はナビィが入るベキ時ジャない。
それに…ナビィはまだ安心できないワ。明日の為に…もう少し頑張ロウ!」


妖精は明るく言うと夜の砂漠を駆け抜けていった。
もう数の少なくなった流星群は、夜空だけでなく人々の心も


明るく照らしてくれた










++翌日++






ビュッ、ビュッ!


「ふぅー…」


朝の日差しを浴びながらリンクは素振りを繰り返す。
一息つくと汗を拭い、軽く汗を払った。


「…いよいよだ…」

「何だ、朝っぱらから血気盛んな奴だな」

「ダーク!おはよう」


入り口へ視線を向けると、そこには肩に剣を担いだダークがやって来ていた。
鞘から抜き出た刀身を朝日で反射させてキラキラと輝いた。


「まあいいか、丁度いい。ちょっとウォーミングアップに付き合ってくれよ」


カシャッと鳴らせると、ダークは何時もの様に頭上で構えた。
一瞬驚いて目を開いたが、リンクは楽しそうに笑って両手でマスターソードを構えた。


「よし久しぶりに再戦だ!!」

「そうこなくっちゃな。立てねえぐらいぶっ潰してやる」

「…ってそんな事されたらオレ今日戦えなくなるだろ―ってうぅわ!?」


容赦なく攻撃を仕掛けてくるダーク。それを上手く剣で受け止めながらリンクは防戦一方で戦いに励む。

ぶつかり合う剣の金属音が響いている中…
姿を見せない舞は、ゲルドの砦内にいた。


シュルシュル…


「舞、痛くないかい?」

「ええ、大丈夫です。あだだっ!!

「言ってる傍から痛がっとるじゃないか…ほれ、あと少しだよ!」


暫く布の擦れる音が響くと、間もなくそれも音を止める。
ゲルド族が向いているのは露出した背中を向ける舞

露出された背中には…痛々しく爛れ、赤い大きな痕を残す火傷が刻みついている。


「しかし皮肉なもんだ…こんな大きな怪我を背負って闇の魔王と戦わないといけないなんて…」

「チッ、ツインローバめ。ナボール様だけでなく、舞にまで傷を負わせやがってッ」


そう、舞が受けている治療は神殿でツインローバにやられた傷痕。
大した事のないような素振りではあったが、背中には大きな傷を残し、舞自身も痛みに耐えていた。


「(痛がればまたリンクとか特にうろたえそうだしねェ…)」

「―よぉし、こんなもんだろう!」


白い包帯で覆われた背中を見直すと、手当てをしていたゲルド族は肩を叩いた。
肩を叩かれた舞は制服を手に取ると袖に腕を通した。


「うん、ありがとう。これなら動けそうです!」

「舞…あんた本当に行くのかい?あんたは女なんだし、あのボウヤ達に任せてもいいんだよ?」


ガラスの貼られていない窓に目を向ける。
外で剣の取っ組み合いをしているリンクとダークをその瞳に映していた。


「女だから、と言う理由は一番貴方達が嫌いな言葉の筈。それを口にするんですか?」


壁に立てかけたマントを手に取ると、少し困ったように笑う。


「大丈夫。きっと無事に帰ってきますよ!」

「舞…。そうだね、あたいらが信じて待ってなきゃなんないんだ。弱気は行ってらんないな」

「うーん、それよりもあたしはこのマントをどうするべきか困ってるんですけど…」


魂の神殿以来、留め金の壊れたマントは手で押さえないと落ちてしまう。
その事で首を捻っていると、あるゲルド族が歩み寄って舞からマントを受け取った。


「ちょいと見せてくれないか」

「え?」

「これはナボール様のお守り…最後の戦いには必要だろう?貸しな」


そう言うと棚の中を手探りで探し、暫くするとそれをマントに縫い付けた。
数分待ちゲルド族が振り返るとマントを舞の手の上に戻した。

渡されたマントを手に取り留め金の部分を見ると大きく目を見開く。


「これ…」

「ナボール様…いや、あたいらゲルド族がつける髪飾り。いわば族称さ!」

「お、いいじゃないか。これなら誰が見ても、あんたの事をゲルド族の仲間だって思ちっまうな!」


ゲルド族が額につけた宝石…それが取り付けられていた。
赤いガーネットのつけられたマントを羽織り、舞は愛しそうに宝石を撫でた。


「有難う御座います…常に皆がいるみたいで、嬉しいです」

「舞、そろそろ行こうか!」


コンコン、とノック音の響いた扉の外からリンクの声がする。
どうやら向こうも終わったらしい。扉に無あって頷くと舞は立ち上がった。

入り口へ向かう舞の肩に何処からか飛んできたナビィがとまった。


「ナビィ!」

『舞おはよう!準備は整っタ?』

「ええ、勿論よ」

「気ぃつけていっといでよ舞!」
「あたいら皆、女神像にお祈り捧げてあんたの帰り待ってるからね!!」


背中を押す言葉に振り返りゲルド族の皆に手を振る。
名残惜しそうに身を外へ投げ出すと、ゆっくりと扉を閉めていった。

扉から離れ後ろを振り返ると、やはり予想していた人物が2人そこにいた。


「お別れはできた?」

『もうリンクッ、するわけないでショ?また帰ってくるんだカラ!』

「…そうだな。よし、じゃあ準備しよう」


リンクの言葉に頷くと、舞とダークは馬小屋に入った。
それぞれがエポナとゼロに跨り、勿論リンクは舞の後ろへと乗る。

もうエポナもリンクを嫌がる事無く、近寄っても威嚇も逃げもしなかった。


「皆、絶対勝とうな!」

「当たり前だ。今までの努力を泡にする気はさらさらねえよ」

「でも勝利だけが大事じゃないわ。
…約束しましょう、皆で生きて帰ってくること。いいわね?」


舞の言葉に頷くと、ゆっくりと馬を歩かせ3人は風の吹くハイラル平原に出る。
幾らから明るくなった空を見上げると、泣きたくなる様な蒼が広がっていた。





『…いよいよだネ』

「ええ」

「もう後戻りも出来ねえぞ。本当にもう何処にも寄り道しなくていいのか?」


少し前を行くダークが振り返り様に問いかける。
心残りはあるし、まだ不安は残るだろう。それでも舞もリンクも首を左右に振った。

ダークも勿論そんなものなく、口端をクッと持ち上げると手綱を握りなおした。
平原に繰り出すと、そこら中にモンスターが現れていた。まるで、リンク達の行く手を阻むように


『リンク!』

「行くぞナビィ、サポート頼む!!」

「はん、最後の最後でヘマなんてすんなよ」

「大丈夫だって、ダークが援護してくれるだろ?オレは何時もの調子で皆を守るよ!」

「そうね、でもちゃんと気を引き締めて掛かりましょう!」

「ああっ、その通りだ舞!」


一度瞑った目を開くと背中に背負った鞘からマスターソードを引き抜く。ダークもそれに続き、右手に剣を構え左手で手綱を握った。

リンクは剣を左手に持ち、太陽に視線を移すと合わせる様に大きく頭上に掲げる。


「行くぞ皆!最終決戦だ!!


リンクの声が高々と響き、それに合わせてエポナとゼロが大声で鳴き声を上げる。
綱を振るう音が鳴ると、間もなく平原を勇敢な2つの影が走り抜けていった。





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