50.陰陽師になりきれ!


道を行けば行くほど増えていくモンスターの群れ。

苦戦しつつも、リンクとダークの2人の剣戟や弓術で何とか退けていく。

走り抜けた後平原にはモンスターの屍だけが残った。

迷いのない、突っ切った暴走のまま

3人と1匹、そして2頭は、

運命の起点とも呼べる…


始まりの地、
城下町に足を踏み入れた。





陰陽師になりきれ!





―ガノン城


禍々しい気、いかにも誰も近寄り難いと言った空気が放たれていた。
バカラッ、と馬の蹄音が鳴り響くのが止まると、辺りには風の吹く乾いた音だけ


「此処がガノン城…そうなのか?」

「間違いないわ。溶岩の上に浮かぶ居城…」


怪訝そうな顔で舞は浮かぶ居城を見つめる。


「もう来る事はないと思ってたけど…」

「忌々しい感じだぜ、ちっとも変わってねえな」


ゼロをエポナの隣まで歩かせダークは改めて巨大な城を見上げた。
今から自分たちが締めをつける大きな舞台…何とも重苦しい


『ところで、あそこまでどうやって行くノ?橋、ないヨ』


光を纏った体をひらりと浮かせ、ナビィは岸の端まで飛んだ。
彼女のいる所から城までの道のりは到底人間や馬の足ではいけない距離


「そう言えば…舞は前どうやって脱出したんだ?ゼロに乗ってたけど、馬で行けるのか?」

「いいえ、確かにゼロには乗っていたけど―――」


そこまで言うと舞の声を遮るかのように大きな光が目の前を包んだ。
いきなりの事にリンクも舞もダークも驚き、思わずも一歩下がってしまった。

赤のようで青のようで…緑や黄色にも見える、白の光。


―勇者よ…勇者、リンクよ!

「! その声は、ラウル!?」

―その通りだ。よくぞこの地まで赴いてくれた、勇者達よ


舞とダークにとっては初めて会う光の賢者ラウル…
その近くでは他の賢者達も揃っていた。


―我等が力を今一度貸し与え、ガノンドロフの城へ橋をかけようぞ!


ラウルが両手を大きく広げると光の珠が浮かび上がった。
それに続くように見知った人々が顔を見せる。


「サリア!」

―サリアの力、全部注ぐよ!

―キョーダイ、これで貸し借りはなしだ!

―契りを忘れるでないぞ

―姫様を救ってくれ!

―あたいらの意思を受け継いでおくれよ!!



6つの光が全て揃い、目が開けられないほどに輝いた。
光が収まった頃ゆっくりと目を開くと、そこにはガノン城へ向かう為の七色の橋が架けられていた。


「す、凄い…!」

―いいかいボウヤ達、城の中に潜入したら先ず6賢者のメダルが刻まれたそれぞれの台座を探すんだ!

―その台座の前で聖なる歌を奏でよ。お前達ならば知っている筈だ


―ゆけリンクよ!ゼルダ姫を救い、ハイラルを守るのじゃ!!



ラウルの言葉を最後に、目の前の光がなくなってしまった。
賢者達の声も届かなくなり、残ったのは虹色の架け橋のみ


「こんな事が出来るたぁ、流石は賢者って所だな」

「台座の前で聖なる歌…って、何の事?」

『兎も角先ずは橋を渡ろウ!城のモンスター達が押し寄せてきたら大変!』

「よし、行こう皆!ガノン城へ潜入だ!!」


リンクがエポナから飛び降り、同じく舞とダークも降りる。
舞の腕を握ると全力で城の中へ駆け込んだ。上空から襲うキースは後ろを走るダークが弓で打ち落とす。





++inガノン城++




城の中では多くの螺旋階段が連なり幾つもの階が上に向かって延びていた。
警戒しながら中に入ると辺りを見渡す。


「とうとう城の中に入ったな」

『モンスターに気をつけてネ、きっとピリピリしてるから!』


まだ見えないモンスターの影に注意しながら3人と1匹は上へ続く階段に向かう。
いざ上ろう、と足を踏み出した途端…


――パキィィン!


「うわわ!?」

「リンク!?」


一段目に足が乗ろうとした所でリンクの足が押し返された。
まるでそこに見えない壁があるかのように、幾ら押しても叩いてもどうにもならない。


「チッ、結界か。またややこしい」

「結界?上に上らせない為か…どうすればいいんだ?」

『結界を解くにはソレを施した魔術師を倒すカ、あるいはその源を断てばいい話だケド…』

「この辺りにそんなものある?」


きょろきょろと辺りを見渡すも、周りにはそれらしいものはない。
スイッチもなければ特に変わったものはなく…あるのは、部屋の隅にある妙な台座だけ。

………台座?


「ねえ、あれって台座よね?確か台座の前で何かしらしろって、賢者様が…」


舞の指差す方向に視線を移し、リンク達はその方向へ向かった。
向かった先には立て長い台座のようなものがある。そしてそのシンボルのように刻まれた模様…


『アレって…森のメダルの模様だ!』

「もしかすると…これが結界を守る起動源かもしれねえな」

「じゃあこの台座が?でも、聖なる歌って何だよ!?オレ、そんなの知らないよ!」


それもそうだ。聞き覚えのないものを言われてもどうする事も出来やしない


「(うーん聖なる歌…音楽、楽器…オカリナ―――…、オカリナ?)」


どうすれば…そう悩んでいると舞の脳裏に何か光景が思い浮かぶ。

それは炎の神殿でもあり、水の神殿でもあり、闇の神殿でもあった。
その光景にあたる人物が只1人存在する


「――シーク…?」

「え?」

「そうよ…シーク!彼がずっと教えてくれたじゃない、えーっとホラ、何だっけ?
炎のタンゴとか水のワルツとか闇のルンバとか!!」

『…もしかして、炎のボレロ水のセレナーデ闇のノクターン

「ああそれそれ。惜しかったわね!


一文字も合っちゃいなかったケド
舞の凄まじい名前音痴伝説に唖然としながらも、リンクは思い出したようにオカリナを取り出した。
もし、彼女の予想が当たっているのなら…


「試してみる価値、ありだよな」


頭の中でメロディーを思いだしながらリンクは息を吹き込む。
指使いで音が変わり、奏でられるのは穏やかな森の吐息。 

『森のメヌエット』


――パァッ

音が鳴り止む頃を見計らい、台座から光が放たれた。
緑の光はメダルの模様を多い、無色だったメダルの模様が緑色に染まった。


「どうやら当たりらしいな」


ダークの言葉と同時に見覚えのある人物が光に包まれて宙に浮き上がる。
台座から零れた光が形を成した


『ありがとう!森の封印は解かれたわ、さあ上へ!』

「サリア、無事だったのね!」


舞の声に気がつくとサリアは微笑んで頷いた。
脱出の際、敵陣に置いて来た彼女たちを心配していたが…どうやら顔を見ると元気そう
少なからず安堵の溜め息を漏らした。


『舞、サリアは一緒には戦えないけど…でもちゃんと貴方を守っているわ!それを忘れないで』

「ありがとうサリア、貴方が見守ってくれるだけであたしは十分よ」

『本当はサリア、それだけじゃ不満だけどね…。もっと近くで貴方を守ってあげたい』

「サリア…」

『そこの2匹の野獣もといブタや、悪の根源ツルッパゲ魔王どもをこの手で殴り殺したりと色んな切実な思いはあるけれど』

「(サリアが本場にいなくて良かったと切実に思う)」

『大丈夫だよ舞、サリアはずっと貴方を守っているわ!

ところで……

おいそこのケダモノ2匹特にリンク。舞に手を出したり守るのをミスったりしてごらんなさい?
ロープで縛り上げた後蝋垂らして鞭打って涙ごいして「止めてください」とのたまうまで大人の遊びさせるか、或いはサリアが全身全霊込めてテツ子でぬっ殺しちゃうぞ!


そんな可愛い声で言われても言葉は恐ろしくだ!!
久しく見るほど真っ青な顔でガタブル震えるリンクと、その隣で静かに滝の様な冷や汗を流すダーク。
今まで見たことが無いくらい、2人は綺麗に仲良く揃って首を縦に頷かせた。

…可哀想に


よし、それじゃ上に行ってね。舞〜、また後で会いましょう!』


にこやかな笑顔で手を振るとサリアは風に身を包み姿を消した。
最後の最後まで来てもサリアはとうとう変わらなかった マル


「じゃあ上へ行きましょうか…元気出せー美形2人〜!エイエイオー!!

「「………」」

「不味いわナビィ!普段なら此処でノってくれるリンクも魂何処かへ成仏させてる!!(汗)」

『いい急いで上へ!最上階へ!!』


放心状態のリンクとダークの腕を掴み、舞は階段を駆け上がった。
サリアの偉大さ(と言うより脅威さ)がどれ程までに凄いかが分かった

2階へ駆け上がると、今度は台座が両脇に2つずつある。
しかいこのフロアにはモンスターが屯していた。


「ゲッ、不味い…リンク!ダーク!いい加減目を覚まして、修羅はもういないわよー!?

『ある意味この階に屯してるケドね』


普段なら躊躇う舞も今回ばかりは容赦ない。
自分の命が危機に晒され、慌てて2人の背中をバシバシと叩いた。

あまりの強さに2人とも噴出して帰還。2人が戻ってきた頃、舞の大声に気付きモンスターが向かってきた。


「あれ?オレ何して…」

『リンク!前、前ッ敵〜〜!!』

「っ!?」


前方から向かってくるファイアキースの群れに気付き、慌ててマスターソードを構える。
敵を払うリンクとダークに、舞はこのフロアには台座が2つある事を教えた。

確かに見ると両サイドに台座がそれぞれ置かれていた。


「チッ、仕方ない。敵を分断させるか…勇者!右行け、俺は左だ!」

「え?分かった、じゃあ舞…」

「お前はこっちへ来い!」

「お?」

「え、ちょっとダーク!?」


手を引こうとした瞬間舞をとられ、リンクは慌てて目を開く。
しかし敵が待ってくれる訳もなく、仕方なく言われたままに右側へ走った。


「く、くっそー取られた…」

観戦側には面白イ…それよりもリンク、急がないと!ダークはオカリナ持ってないんだシ、ね?』

「あ、そうだよな」


邪魔な敵を薙ぎ払い、リンクは直ぐに台座へ向かった。
数の残り少ない敵を一度横目で見ると急いでポケットからオカリナを取り出す。


「頼むぞ!」


大きく息を吸い、さっきと同じく息を吹き込む。
只違うのは軽快なテンポ。リズムが弾み、リンクのオカリナから『炎のボレロ』が…―――


――〜♪〜〜♪♪〜


「(え?)」


ふと、リンクの耳にもう1つ違う音が聞こえた。
音の発信源に視線を移すと、そこは対象の位置にある台座…ダークからだった


「(ダーク!?)」

『ダーク、フルート持ってたんダ!』


舞を隣に控えた彼は、何処から取り出したのか知らないフルートで向こうの台座の封印を解除している。
それは紛れもなく『水のセレナーデ』。ダークが仲間になった時の曲だ!


――パァッ

『――っしゃー!!炎の封印は解かれたッ、礼を言うぜキョーダイ!』

『うむ、水の封印も解かれたの。感謝するぞよダーク!』


それぞれが赤と青の光に包まれ、ダルニアとルトが姿を現せた。
彼らの姿が浮かび上がると一瞬階段が光る。恐らく封印が解かれたんだろう


『上へ行く道は開かれた!さあリンクよ、上へ行くのじゃ!』

『ダークとやら、テメェももう俺のキョーダイなんだ。キョーダイ4人でちゃんと使命を遂げろよ!』

「よし、上へ行くぞ皆!!」


ダルニアとルトに見送られ、リンクはダークと舞と合流する。
残ったモンスターを払いながら階段を駆け上がる後姿を見て、ルトが小さく笑った。


『…ふっ、中々サマになっておるではないか、あのリンクの影』

『確かにな。最初は闇の裏切りモンってぇからどんな奴かと思えば…中々どうして、いい目をしてる小僧じゃねえか!』

『まあ、わらわが認めた最高の人と最高の友と一緒にいたのじゃ。当たり前じゃろう!』

『違いねえ。…さーてと』


ダルニアがピッと指を払うと一瞬にしてモンスターが炎を上げる。
徐々に鎮火していく炎の亡骸には、既にモンスター達の姿はなかった。


『後はあいつらの働き次第だ。俺達の仕事はこれで一先ず終いだな』

『…皆のもの、気をつけるのじゃぞ』


不安げな声を残し2人は身を消した。片方は炎を、片方は水を身に纏い。
残った空間には寂しく散るモンスターの青い炎だった













――タンッ

「っし、コレで3階だな」

『見て!このフロアは3つ台座が置いてあるヨ!』


左に1つ、中央に1つ、右に1つ…
左からそれぞれ闇・魂・光のメダルの模様を刻み込み佇んでいる。

足を踏み出しフロアに入ろうと歩く。
すると中にいるモンスターの顔ぶれを見渡したダークが目を大きく見開いた。


「…リザルフォス、スタルフォス、ホワイトウルフォスにダイナフォス。しかもアイアンナックまで…
何てこった、中級クラスのモンスターばかりじゃねえかッ」

「成る程、中ボス軍団って事ね

「(中ボス?)でも此処を切り抜けないと先へは進めないんだ。
やろう皆…先ずは、闇だ!!」


剣を構えると侵入者に気付いたホワイトウルフォスが遠吠えを吠えた。
それを合図に素早いリザルフォスとホワイトウルフォスが真っ先に来て刃を向ける。


『舞、危ないカラ下がって!』

「あ、うん。」


リザルフォスはリンクが、ホワイトウルフォスはダークが相手になると剣でお互いの武器を弾き合わせた。
舞が下がるのを確認するとリンクはバックステップで一歩下がった。


「そう言えばお前、7年前に舞に大怪我負わせた奴の仲間だよな!」


ドドンゴの洞窟での事が頭を過ぎり、リンクは柄を握りなおした。
跳躍して向かってくるリザルフォスと向き合うと突き出すように剣を振り上げた。


「食らえっ!!」

ザンッ!

【ギャガ!!】


音が響き、一瞬でリザルフォスの首が飛ぶ。
丁度同じように隣でもダークがホワイトウルフォスの体を剣で斬りつけた。


「よし、舞行こう!!」


2人の強さに呆気を取られている舞の手を今度こそ引き、リンクとダークは中ボスの群れに突入していった。
なるべく敵を避けながら体力を補いながら左へと走る。

闇のメダルの模様が刻まれた台座に辿り着くとリンクはオカリナを取り出した。


「ダーク、大丈夫か!?」

「んな訳あるかッ。
吹いてる間は守っといてやる!吹くなら吹くで、さっさとしろっ!!」


確かに強敵をこの数1人で凌ぐのは無理がある。
リンクは台座に向き直ると舞の手を離して『闇のノクターン』を吹いた。





**





…一方、こちらは最上階に佇むガノンドロフの部屋。
水晶玉を通して事の一連を見つめる影は紛れもなくガノンドロフだった。


「ふっ、悪足掻きに済む事…何時まで持つ事か」


ガノンドロフの頭上では睨みつけるように見下ろすゼルダが浮いていた。
まだ結晶壁のクリスタルに入れられたままに


「悪足掻きは貴方です!こんな事をしていても無駄な事、直ぐに時の勇者が貴方を打ち砕きますわ!」

「ハッ!あんな小僧に何が出来る。我が野望は誰にも破れはせんわ!!」

「そんな野望こそ誰にも叶えられないもの。
…そう、無駄なのです……例え誰であろうが―――


禿げた頭をもう一度蘇らせる事など

「今何か間違った望みが聞こえたがそれは違うぞ


2人は相変わらずだった
水晶玉から視線を外し、ガノンドロフはマントを翻すとパイプオルガンへ向かって歩き出した。

何も出来ない悔しさに奥歯をギリッと噛み締め、ゼルダは瞳を閉じる。


―…大丈夫ですよゼルダ姫。彼らは、必ずこの国を守ってくれます。


突然、ゼルダの脳に直接響くような声が聞こえた。
勿論それは範囲に及ぶ音ではない為ゼルダ以外には聞こえていない


「(ネール…けれど、)」

―不安なのは分かります。けれど貴方は知恵の神子、切り抜ける策を生むのは貴方なのです。

「(……)」

―今はその案がなくとも、必ず貴方の力が必要な時がきます。
だからその時まで……


「(…はい)」


強く頷くとゼルダは祈るように手を重ねて瞳を閉じた。


「舞……」






**






パァッ!

「よし!これで光の封印も解けた筈だ!!」


闇と同じく光の台座からも光が放たれる。まだ誰も姿が現れていないが…
恐らく、全ての封印を解いた時に一度に姿を現すんだろう。

残る1つは中央の魂の台座だけだ!


「しかしっ、急がねえと不味いぞ…もう俺らの体力も、残り少ない…!」

「大丈夫ダーク?後は中央だけ、頑張りましょう!」


駆け出すと中央の台座に向かって走る。
敵も少なくはなったが、まだ強敵は幾つか残っている。急ぐに越した事はない

中央の台座に辿り着くと、確かに刻まれた模様は魂のメダルの模様


『リンク!早く魂の歌もやっちゃオウ!』

「ああ、そうだな!魂の―――…?」


オカリナを取り出しながらリンクはある事を思い出した。


「リンク?」

『リンク、どうしたノ?』

「…し、知らない…」

「あ?」

「オレ、魂の歌知らないよ!!闇のノクターンまでしか、教わってない!」


振り返るリンクに舞もダークも驚愕に目を大きく見開いた。


「(そ、そう言えば…)」


シークは魂の神殿の後にも前にも教える事無く消えてしまったんだ…
勿論、どちらとも歌なんて教わっていないままに終わったまま


「ど、どうすんだよ此処まで来て!何か当てはねえのか!?」

「わ、分からない…ナビィはッ?」

『知らないヨ〜!ど、どうしよう!?』


兎に角攻撃を仕掛けるモンスターの攻撃をかわす。
このままでは持つ時間も限られたものでしかないだろう。先に行く当てのない3人に冷や汗が流れた。


―舞、

「…?」

―舞、何をしてんだい?あんたは、ゲルド族の誇りを忘れたのか!?

「ナボールさん…?」


不意に何故か耳にナボールの声が届く。リンク達を見ると彼らには聞こえていないようだが…


―教えた筈だよ。ゲルド族に古くから伝わる伝統の守り歌
あんたなら知ってる筈だ!


「伝統の、守り歌…?」

『舞?どうしたの?』

―思い出すんだ、魂に響く我等がアマゾネスの鎮魂歌を…―――


ナボールの言葉に俯き、舞は必死に記憶の糸を辿った。
暫くしてゲルドの砦の光景が頭を過ぎると、ハッと顔を持ち上げた。

火を囲んで、まだゲルド族の仲間になって日の浅い夜。
ナボールは優しい眼差しを彼女に向けていた。


――いいかい舞、この歌はあたいらが代々守ってきた宝より大事な民族歌だ。
あんあたも覚えておくといい。名前を、『魂の―――


「――レクイエム』…魂のレクイエム

「! 舞、歌知ってるのか!?」

「な、ナボールさんのを一度聞いただけで……」

「それでも構わない!覚えている限りでいいんだ、それを奏でて!!」

「え…――」


出来るわけない。そう言いたいのに、リンクの切羽詰った表情を見ると言い返せなかった。
重要な事を任され、頭が真っ白になる。
混乱しながら台座へ向き直ると、心臓が有り得ないほどにバクバクと鳴り出した。


『舞!』

「(で、出来ない…)」


自分は、その歌を完全に覚えている自信がない。
顔を青くしてパニック状態になっていると、無防備な舞に向かってアイアンナックが斧を向けていた。

勿論頭の中が真っ白な舞はその攻撃に気付かず、呆然と佇むまま
気付いた時にはもう……――



――ガギイィィン!!

『舞!!』

「――!」


ナビィの声に弾かれて振り向くと、そこには緑と黒の背中が
疲れきった腕で剣を握り、その剣でアイアンナックの斧を2つの剣が受け止めていた。


「リンク、ダーク…!」


まるで守るように庇い立つ大きな背中
見ていて分かる。交差する2つの剣がギシギシと鳴っているのはお互いが疲れている証拠


「…っ、俺らが、こっちはすっから…は、早くしろっ!!」

「で、でもっ。あたし歌を全部は…!」

「大丈夫だよ舞。オレもダークも、本当は緊張で、震えてるんだ…ッ」


彼の言葉を聞き、舞は目を開いた。受け止めた2人は腕も足も震えている。
それは疲れも伴っているものだと思った。けれど、何よりもそれは……


「怖い気持ちは分かる、でも舞だけじゃない。オレ達だって、本当はそうなんだ」

「リンク…」

「怖いけど…ッ、でも舞を守る事は、ちゃんとするから!後ろは大丈夫だから、舞は魂のエレクトーンを早くね」

阿呆かお前は。魂のレクイエムだっつの…!」


苦笑いしながら指摘された事に言葉を詰める。
その様子を見て、舞は眉間を八の字に垂らした。いつも、戦えない代わりに何かをしたいと思っていた自分がいたと言うのに…すっかり忘れていた。


「…頑張ってみる。リンク、オカリナを貸りるわね」

『舞、頑張って!』


両手を強く握ると舞は改めて台座へ向き直る。
リンクの代わりにナビィがオカリナを受け渡し、舞にしっかりと握らせた。


「(シーク…昔、『サリアの歌』を教えてもらったのに、意外なところで役に立ったのね)」


苦笑しながら震える指を添えるとオカリナに息を吹き込んだ。

昔、ナボールがやっていた様に
昔、シークに教えてもらった音色を思い出して

――♪〜…

鎮魂歌とはよく言ったもの。静かで悲しい歌が流れていく。
泣きたくなるような歌が響き終わると、橙色の光が今度は浮かび上がった。


『舞、よく頑張ったね!』

「ナボール、さん…!?」

『上出来だ。流石は時の勇者達だな』

『我等が最後の封印を解かれた!光よ、全てを薙ぎ払うのじゃ!!


カッ!と辺りが一層強く輝く。光に飲み込まれたモンスターは悲鳴をあげて、蒸発するかのように姿を消した。
静まり返る部屋の中に、3つの光が宙を浮かぶ。


「凄い…」

『これで聖なる歌は全て…残るは最上階のみだ』

『最後の戦いだ。どうなるかはわしらにも分からんが…お前たちなら大丈夫だと信じておるぞ』

「ああ!」

「………」


ガッツポーズを作るリンクとは他所に舞はナボールを見つめた。
捨てられた子犬のような視線に気付きナボールも舞に近づく。


『こらこら、何泣きそうな顔してんだい!賢者の間では、あんなに元気ハツラツだっただろう?』

「ナボール、さん……」


ナボールの言葉に舞は表情を変えないまま


『傍若無人だとか言って馬鹿にしたのは何処のどいつだい?』

「……」

『ん?どうした、声も出せないか?まさかあんたが怖がってるんじゃないだろうね!』

「……、」

『……舞…』


よく見ると握り拳を作る舞の長い爪が手に食い込んでいた。
ナボールは悲しそうに笑いながら舞の頭に手を乗せて数度撫でた。


『ごめんな、約束していた宝探し出来なくて。
…あんたを置いて行く様な真似をして、悪かった』

「…!ナボールさんっ!!


漸く口を開けたと思えば、突然涙をボロボロと零した。
見られないように顔を塞ぐと頭を撫でていたナボールの手が背中に回った。

包み込む砂の香りのする女性に、涙がまた零れた。


「ナボールさん!ナボール、さん…!!」

――離れたく、なかった。ずっと一緒にいたかった…

『辛かったんだろう、あの時も…あたいに心配させないように我慢してくれたんだね。
ごめんよ舞、本当にごめんな』

「舞…」


リンクは遠目で眉間を垂らした。もう疲れも忘れてしまっている。
昨晩、が泣かなかった理由は確かに聞いた。けれど、此処まで溜め込んでいたとは思わなかったのだ

でも、母親の様な人がいなくなると思うと
確かに自分も涙が零れてしまいそうになる事も感じる。


『あたいなんかの為に泣いてくれてありがとう。大丈夫さ、女は涙の多さで強さが決まる。
あんたはとことん泣いた。きっと誰にも負けないさ、あたいがいなくとも大丈夫』


ナボールは両手で舞の頬を包み込む。頬に伝わる温もりに反応するように彼女の瞳から雫が落ちた。


「(そうじゃない…どんなに強くなろうと、あたしは…ナボールさんといたかっただけなのに)」


頬を包む両手に自分の手を重ね、舞は暫しその温もりに触れ浸った。


――夢があった。いつか、ナボールさんに教わった馬術でナボールさんを後ろに乗せて…一緒にハイラル平原を走るという夢が…

今度は弓術も教わりたかったなァ
…けど、止めても一番困るのはナボールさんだと言う事は、分かってる。



「……お別れなんですね」


止める術を知っていても、それを使ってはいけないと始めから…――。
すぐ目の前で笑うナボールの笑顔はいつでも変わらなかった。


『もしかしたら、また会えるかもしれないがね』

「ケジメをつけるんです。…お別れですよね?」


視線を逸らす舞は唇を強く噛んだ。
慰めるように頬を撫でる、女性にしては大きな手。


『…ああそうだね。まあっ、一時期に過ぎないけど!』


自身満々に言い除けた言葉に大きく目を見開く。
ナボールは爽やかが似合う笑顔を満面に咲かせながら


『絶対帰ってきてやるよ。そん時は覚悟しな、あんたの馬さばきがどれだけ上がったかあたいが確かめてやるから!
…だから、生きて帰って来るんだよ舞。絶対だ、いいね?』

「っ、――は、い…!」


目を細めた為に流れた舞の大粒な涙はナボールの手を濡らした。
また1つ、生きて帰らなくてはいけない理由が出来てくれた。

懸命に涙を拭うと誰かが背中を叩いた。
まだ赤い目を向けると、それはやっぱりと言うかリンクだった。


「…行きましょう、リンク」

「ああ。早く戦いを終わらせて、皆で帰ろう!」

『頼んだぞ、時の勇者リンク。そして…神が使わす聖女と騎士よ。』

『兆しはお前たちに向いている。必ず勝利は自ずと傾くだろう』

『さあ上へ行くのじゃ!この上にお前達が相手とする敵が待ち構えておる、心してかかるのじゃ!』


ラウルが言うと彼らの体を光が包む。
紫の光をインパが、橙色の光をナボールが。最後にナボールがひらひらと手を振ると、3人の姿が消えた。

部屋には静寂だけが残る。


「…聖女と騎士、ってまさかあたしとダークの事?」

「フン、俺は只の裏切り者だっつうのに」


ダークの不満そうな声にリンクが苦笑を漏らす。
すると、全員の耳に上から音が聞こえてきた。メロディーとなって甲高い音を響かせている…


『パイプオルガンの音ダ…。』

「え、もしかしてゼルダが?」

「いや、どうせガノンドロフの野郎だろ。あいつ弾けたからな」


重苦しく流れる音楽…それぞれがこれからの戦いを想像して冷や汗を流した。
けど、此処まで来たからにはもう戻れない。


「…行こう。最後の戦いに、絶対勝つんだ!」


リンクの声に弾かれ、舞とダークも頷く。
リンクとダークは武器をそれぞれに持ち、舞は肩にナビィを止めて走る。


最後に聳える強敵は、もう直ぐそこに




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