52.闇の始まり、そして終り



舞が死なずに済んだ…けど、その影でガノンドロフはまだ生きている。
どうすればいい……何とか、彼女も死なずに済む方法はないのか!?

…いや、今は目の前の事に集中するんだ。
そうでもしないと弱いオレは直ぐに屈しそうだから

ダーク…お前の言った作戦は無茶苦茶だけど…確かにそれが今は一番効率がいい。
オレは絶対に死なないよ。だからお前も無事に成し遂げて欲しい

2人で舞を守ろう。

皆で絶対に…生きて帰ろうな!!





闇の始まり、そして終り






――ガッ!!

瓦礫を蹴飛ばし、リンクはマスターソードを構えた。
向かってくるリンクにガノンドロフも冷静に対応し、己の剣を凪ぎ振るう。

身を低くしてそれを交わすと、下から振り上げるように剣を突き上げた。


「ふん、甘いわ小僧!」

―バキッ!!

「うぐっ!!」


ガノンドロフの豪腕がリンクを捉え腹を殴る。
拳圧で吹き飛ばされ、リンクは後ろの瓦礫に身を叩きつけられた。


ドガァッ!!

「がはっ!!くそ…!」

「何だ、剣の振りが妙に甘いな。先程の戦いで体力を消耗したか?」

「煩い…っ、まだこれからだ!!」


瓦礫の砕けた石礫を掴みガノンドロフの目に向かって投げる。
礫を避ける一瞬の隙を突いて意標を捉えると身を低くしたままに剣を向ける。


「ガノンドロフ…1つ聞きたい事がある。お前は、このハイラルを統治してどうするつもりなんだ?」

「何を言うかと思えば…。決まっているだろう、世界の征服だ!!
俺が好む闇だけの世界、暗黒界の誕生を遂げる為だ!!」


両腕を空に向かって伸ばしガノンドロフは高々と笑い声を上げた。
リンクは眉間を歪ませる。


「自分の為に?それだけの為にお前は、自分の手下でさえも都合のいい様に作ったのか!?」

「当たり前だ。所詮下僕は下僕、作られた主に付き従えるだけの存在!

そう…今となっては不要となった――ユダでさえもな!!


ユダ、その名前にリンクはピクリと肩を揺らした。


「俺の意のままに従わぬ奴なんぞ、失敗作のキメラなんぞよりも使えぬ!!
この世界を統治した後、先ずは裏切り者を殺してから世界を染めていくだけだ」

「お前は…お前の為に働く手下たちの気持ちを考えた事はないのか!?」


駆け出したリンクは強く握った剣を振るい上げた。
ガノンドロフはその攻撃を受け止めると、至近距離から睨みつけてくる蒼い瞳を見下ろす。


「あんなモノ達に何を思う?所詮俺が居ぬと存在すら出来ない負け犬下がりの存在に!」

「負け犬なんかじゃない!!血ヘド吐いて、一生懸命戦って!
それでも散っていった命に何の供養も、感情も抱かないと言うのか!?」

「俺の夢へ向かう糧となるなら、死んでいった彼奴らも本望だろう?」


ギィン!と甲高い音を立て2人の剣が離れる。
地面に尻餅をついたリンクに剣を突きつけ、ガノンドロフは口端を持ち上げた。


「俺は、俺の為になるならばどんな事だってしてみせる。
例え…涙ごいをしてまで無様に生き延びようとする命を踏み潰してでもな!!」

「ふざけるな―――!!」


体を立たせ、額に青筋を立てたリンクはマスターソードを再び向ける。
ガノンドロフの頬を掠めて尚攻撃の手を止めようとはしない。

素早い剣撃を避けながらも、ガノンドロフは舌打ちを漏らして剣を構えた。







***





――ガラガラ…


音を立てて崩壊を続ける城の中枢部。
王女は祈るように目を閉じて柵の降りた扉の前で手を組んでいた。

コォオ…!

王女の体から金色の光が溢れると、呼応するかのように柵が上がり道が開ける。


『開いタ…!凄い』

「時間も残り少ないですね…急いで逃げますよ!」


王女の声に弾かれて男の影が足を一歩出す。
しかし、上へ戦っているリンクの事が気に掛かり、どうしても心が躊躇してしまうのだ。

本当に…あの作戦でよかったのか?


「(くそ…っ、どうして肝心な時にいつも―――)」


苦虫を噛み潰したような顔をする。
…すると突然、炎の燃え上がる音が耳に届いた。

火が回ったのか?そう思い振り返った男の視界には、円を描くような炎に囲まれた王女の姿が映っていた。


「な…!!」

『ゼルダ姫!?』

「これは…!恐らくモンスターの効力です!このフロアにモンスターが!!」


王女の声が響き渡ると、惹かれる様に瓦礫からモンスターが這い出してきた。

男も自分の剣を構えるが、相手は十数体もいる。
しかも片手には少女を抱えたまま。圧倒的に不利な部分が多い


『ど、どうしよウ!?モンスターが一杯…!』


妖精が慌てふためいている間にもモンスターは迫ってきている。
攻撃をしようとしてきたモンスターを剣で薙ぎ払い、男は声を詰まらせた。


「くそ、不味い!!こんな数が相手じゃ、とてもじゃなくとも…――」


一歩下がり剣を構えなおした…その時だった。
近くにいたモンスターが、一瞬動きをピタリと止める。


「…?」


何だ?と思い、怪訝な顔でモンスターに見入る。
すると突然、動き出したモンスターが方向を変えて真後ろの敵に切りかかっていった。

そう、自分と同じ形容の仲間のモンスター達に


――ザンッ!

ギャアァッ!!

「な…!」

『モンスターが…仲間割れ、しタ…?』


驚いて思わず男も妖精も目を見開く。
モンスターがある一体を倒すと、王女の周りを囲んでいた炎が消え去る。

逃げるチャンスが生まれ、我に返った王女は弾くように走り出した。


「今です!何があったかは分かりませんが、今の内に逃げましょう!!」

『は、ハイ!』

「あ…ああ……」


まだ納得がいかないように首を傾げるも男は抱いている少女を抱えなおす。
そのままモンスターの群れを掻い潜って前を走る王女を追いかけ、間もなくフロアから姿を消した。

足止めをする相手のいなくなったフロアでは、モンスターが互いを攻撃しあっている。


―――……コレデ良し。


剣を振るい、またも一体のモンスターを倒す。
倒れていく仲間を見つめながら、突然裏切ったモンスターは3つの影が去って行った扉を見つめた。


―コレで…漸く、カリが返せタ……


瓦礫と炎が立ち込める部屋の中残ったもの、剣と盾を持つガイコツ…


【ドうカご無事デ…御武運を、お祈りしテいます……





――…奥方様】


それは間違いなく、中級モンスタースタルフォスだった。





――――−−---・



多くの螺旋階段を駆け下り、3つの影は出口までもう目と鼻の先だった。
最後の階段を駆け上がり、少し明るい外へ向かって飛び出す。


『出口だ!!』


妖精の明るい声に相応する明るい光――
まだ闇に覆われたから太陽なんてないが、それでも闇の城よりは幾分か明るかった。

外に出たが、まだ続く崩落に巻き込まれると危険な為に虹色の橋を渡った。
向こう岸に辿り着くと漸く一息をつき、後ろの居城を振り返り見上げた。


あの上でまだ…仲間の1人が戦っている。
いなくてはいけない、この旅には欠かせない存在が


「…っ」


男は逃げ出せたと言うのに全く嬉しそうな素振りは見せない。
只、右手で強い握り拳を作るだけ。只、悔しそうに…


「(早く来いよ…!舞も、此処に…!!)」


届かない声を、頂上で戦う青年―『リンク』に向かって届けながら





***




ヒュッ―――
ゴシャアァッ!!


ガノンドロフに頭を捕まれ、リンクは無残にも瓦礫に叩きつけられた。
酸素の入り難い肺に送る為大きく口を開けてヒュー…と乾いた呼吸を繰り返す。


「はぁ、はぁ…っ。くくっ、時の勇者も…これで、終りだな」


口から血を流すガノンドロフも相当なダメージを負っている。
2人の荒い呼吸は血響きの音でかき消されていくばかり…


「(もう…時間が、残り……少…)」

「そうだな…此処で貴様の、息の根を止めた後…、直ぐにあいつらを追いかけて…殺してやる。
勿論舞は、生かして捉えるがな…っ」


握っているマスターソードに血がパタリと落ちた。
リンクの血でマスターソードは赤く濡れている。


「もう呼吸もままならないだろう…?そろそろ、諦めたらどうだ!?」


グッとリンクの胸倉を掴み体を宙に持ち上げる。
リンクは胸倉を掴む手を掴み、抵抗しようと密かにもがく。


「う、ぐっ…く、そォ……!」

「ハッ、まだ抵抗、するか…。」


鼻で笑うとガノンドロフはリンクの体を放り投げた。
ズシャァッ!と体を地面にスライディングさせながら、リンクの体は地面に倒れる。


「ハッ、ハッ…!お前だけは…お前だけは、オレが…!!」

「小僧。貴様は何の為に戦う?自分の利益にもならない”友情”の為か?」

「お前なんかに…っ、答えるつもりなんて、ないっ!!」


地面に落ちた剣をガッと掴み、振り上げた剣をガノンドロフに向かって薙ぎ払う。
若干反応に遅れたガノンドロフは足を掠め、眉間を歪ませた。

よろつく体に鞭を入れて速度を加速する。


「はぁ…っ!!」

「――っ!甘いと言っておるだろう小僧!!」


ゴガッ!!


鈍い音と同時に、ガノンドロフの剣の柄がリンクの腹部を襲った。
襲われる嘔吐感に吐き気を覚えるが、その間にもガノンドロフは倒れ掛かるリンクの背中を足で蹴りつけた。

ガッ――
ガランッ!!


「かっ、は…!!」


左手に持った剣が地面に落ちる。
仰向けになって倒れ、必死に呼吸を繰り返すが上手く息が出来ない。

落ちた剣を手探りで探し彷徨わせていると見下ろしながらガノンドロフが左手を踏みつけてきた。


「ぐっ…離、せ…!」

「まさか…7年前の餓鬼が、此処まで俺の計画の妨げになるとは…思いもせんかったなっ」


踏みつけられる左手が悲鳴を上げる。
ミシッ、と音を立てて広がる痛みに眉間を歪めた。


「全てが万全だった…。だがその中で唯一の誤算は、7年前のあの日…貴様を野放しにした事だ。」

「へ、へへッ…オレが、まさか此処まで…腕を上げると、思わなかったか…?」

「ああ、そうだ…。だがしかし…、それも今日までの、問題だ」


息を吐き出し、ガノンドロフはスラリと剣を引き抜いた。
黒光りする剣は主に似て禍々しい雰囲気を放っている。


「貴様には…苦しみ悶えながら、死んでもらうとしようか…」

「…!?」


剣を回して切っ先を地面に向けると矢先をリンクの左腕に向ける。
嫌な汗が頬を伝い、リンクの顔がサッと青くなった。


「や、止めろ!!」

「腕さえなくなれば…、貴様も、抗う事など出来んだろう…?」


――ドンッ!!
ガノンドロフの突き立てた剣がリンクの左腕を貫通した。


「うああぁあぁぁぁぁあぁぁ!!!」


剣が引き抜かれると、腕に走る激痛に大声を上げるリンクは右手で左腕を押さえる。


「いッつぁ…!!くそ、このっ!」

「ふはははは!!苦しいか小僧!その腕じゃ剣は愚か、盾さえ掴めんだろう!?」


高々と笑うガノンドロフとは対に、激痛で眉間を歪めるリンクはズルリ…と体を動かす。
荒く繰り返される呼吸と共に口から血が吐き出された。

握る事も出来ない左手の代わりに右手で剣を掴むと、瓦礫の壁に背中を凭れ掛けた。


「無様だな小僧。その姿になろうと尚剣を握るか?」

「…っ(不味い…左、腕が…っ)」

「無駄な事を…貴様が右腕で剣を振るった事がないのは知っている。
慣れない腕で傷つけられる程、俺は弱くは無いぞ?」


クククッと笑いながらガノンドロフはリンクに歩み寄る。
このままでは、確実にリンクは弄ばれた後殺されてしまう――


「ふん、これ以上、壊れた人形で遊んでもつまらん…。そろそろ…止めを刺して、やろうかっ」

「壊れた人形…そう言うのは、まだ早いん…じゃないか…?」


窮地へ追いやられていると言うのに、リンクは余裕じみた言葉を吐き出した。
挑発的な言葉にガノンドロフは額に青筋を立てた。


「ならば壊れた人形だと言う事を…身を持って知らせてやるっ!!」


筋が立つほど力強く握った魔剣を振り被り、躊躇無くリンクに向かって振り下ろした!
頭に向かって落とされる直前、俯いてガノンドロフからは見えない口元がニッと笑う。



―――ギィィン!!


「…!?」


2人の間で…銀色の刃が交差する。俯いたまま、リンクはガノンドロフの振り下ろした剣を受け止めたのだ。

使ったことも無い――『右腕』で


「きっ、貴様…!?何故だっ、慣れていない腕で受け止められる程…俺の力は軟くない筈!!」

「ああ…多分、そうだろうなっ。

―慣れて、いなかったらなっ!!」


ギシギシ…と歯軋りを鳴らす刃。交差する剣の先で俯かせていた顔を上げる。
その途端、リンクの左腕から流れ落ちた血の水溜りが覆うようにリンクの体を包んでいく。

思わず驚き、ガノンドロフは身を引いてしまう。


キンッ!

「何だと…!?これは…」

「知ってるだろ?知らない訳ない筈だ……―あんた、なら」

「――!!
き、貴様…まさかっ!!」


何かに気付き、ガノンドロフは一瞬見開いた目を細めてリンクを睨んだ。
リンクは最後に余裕じみた笑みを浮かべて瞳を閉じる。瞳を閉じた彼の体を血が完全に包み込んだ。


徐々に勢いを無くしていく血は宙から落ちていき地面に戻る。
血の無くなった先にいるリンクを、ガノンドロフは睨みつけた…―――






***







――舞…舞……

「(――……誰…)」

――舞、あたしよ。貴方なら分かってくれる…

「(……ディン…?)」

――ええ、その通り。良かった…まだ死んでいなかった

「(…生憎、その所為でガノンドロフも生きているけどね…)」

――…ごめんなさい、今までずっと言わなくて。
そしてありがとう、頑張ってくれて。貴方のお陰で大分やり易くなったわ


「(…?)」

――舞、最後の戦いはまだあるわ。
でも大丈夫、貴方を死なせはしない。あたしが絶対守るから…だから、最後を……―――


「(ディン?ねえ待って、ディン…!?)」


「――……ディ、ん…っ」


ス…と開けられた少女の黒い瞳。
そう遠くない距離から地響きのようなものが聞こえてくる気がする…

弱弱しく聞こえた声に気がつき、抱えていた男がバッと顔を向けた。


「舞!!」

『舞!よ、良かったァ…ッ、もう目を開けないかと思ったヨ!大丈夫?』

「ぁ…ええ、此処は…?」

「ガノン城の外です。あの後城が崩落してしまい、巻き込まれない為に逃げ出したのですわ」

「そ、うなん…だ…」


開いた背中の傷が痛い…バッサリと切れているお腹も痛む。
それでも少女はよろよろと体を起き上がらせた。それを手助けするように男が手に添えて起き易くする。


「(そうか…ガノンドロフがどうなったかは知らないけど、一先ずは…

―――…あれ…?)」


視線の先に映していた城の崩落から辺りへと視線を移す。
きょろきょろと見渡し、何か足りない逸材に少女は戸惑った。


「どうした?」

「い、ない…あと、1人……。」


少女の言葉に男はハッと目を見開くと気まずそうに視線を逸らした。
それに気がつき少女は慌てて男の肩を揺さぶった。


「どう言う事?な、何かあったの…!?」

「…舞…」

「ねえ、どうして!?何で彼がいないの!?何処に行ったのっ、彼は…―――





――ダークは、何処に行ったの!?リンク!」





***



――ガシャァンッ!!


ガノンドロフはふるふると震える拳で近くの瓦礫を殴りつけた。
その怒りは表情からも伺える


「やはり貴様か…っ!俺を騙したと言うのか!?貴様…――ユダ!!


野太い声が張り上げられる先で、身を包んでいた血が引いていった『リンク』は目を開けた。
開けられた瞳は『リンク』の色から『ダークリンク』の色に変わっていた。


「っ、ハッ。初めて…あんたに礼を、言うぜ……。
この化身術のお陰で、時間稼ぎは、出来た事だしな…!」


深く息を吐き出しながら口元に笑みを作るダークは立ち上がる。
右手でクルクルと剣を回す彼にガノンドロフは奥歯を噛み締めた。

―水の神殿で、舞を騙す時に使ったもの
それはダークが己の属性【水】を使って身体を『リンク』に変えてしまう技。

何時かの時の為にガノンドロフに教えられた術だが……


「飼い犬に手を噛まれるとはこの事だな…。あの馬鹿勇者の台詞、真似するのは苦労したが…」

「くっ…」

「俺は利き手でなくとも…あんたを傷つけられる程の腕になった。
足元を見ないあんたはっ、俺に足元を掬われたんだ!」


クルリと最後に一回しすると、威圧と憎悪の込めた紅い瞳がガノンドロフを捉えた。


「…貴様、死に急ぐつもりかっ?」

「その死に急ぐ奴に殺されるんだよっ、あんたは!」

「小賢しいわ!!」


ガノンドロフの振り下ろした剣が地面を叩き割る。
跳躍して避けると、ダークは突きを繰り出す。それを受け止められても連続して繰り出される攻撃がガノンドロフを追い詰めていった。


「ぐぅ…っ(こいつ…何処にこんな力を…!?)」

「おぉおぉぉっ!!」


――ドガッ!!

隙が出来たガノンドロフの腹部に先程自分がやられたように蹴りを食らわせた!
勢いで倒れそうになるがそれを両足で踏ん張り、何とか持ち応える。

だがよろめくガノンドロフに向かってダークが素早い動きで剣を突き出した。


ザンッ!!

「ぐあぁあぁぁぁっ!?」


悲鳴を上げるガノンドロフの肩から血が溢れ出す。
その様子に笑みを浮かべ、止めを刺そうとダークは追撃を食らわせようとした。

……だが、

「貴っ様…――図に乗るな裏切り者がぁぁぁっ!!」

「!?」


肩を押さえながらガノンドロフは足払いをかける。
思わずダークのバランスが崩れ、ダンッ!と音を立てて地面に落ちた。

足をバネにして起き上がろうとするが、それよりも早くガノンドロフの剣が視界に映る。


「――!!」

「影は影らしくっ、地に…伏していろ!!


――ドスッ!!

音を立ててダークの胸に突き刺された。


「―――っ!! あ``…っ」


衝撃で体が一瞬跳ね上がり、ダークの瞳孔が開かれる。
宙を彷徨う手が宙を彷徨い金魚のように口をパクパクさせるが、暫くすると手が地面にズルリと落ちた。

動く気配の無くなったダークから剣を引き抜くと付着した赤黒い血が怪しく光った。


「ハァ…ッ、くくく……ふっ、はははは!!死んだっ!漸く…邪魔な裏切り者が死んだわっ!!」


足元に転がる影を見て高笑いを上げる。
ダークの体から流れ出る血が、ガノンドロフの足を赤く濡らしていく。





***



『ちょ、ちょっと舞!?何処に行こうとしてるノ!』


ナビィの声も聞かず、舞は腹部を押さえながら立ち上がろうとした。
ふらふらとする体を慌ててリンクが引き止める。


「舞!」

「は、離してリンクっ。ダークを…彼を迎えに行かないと…!」

「駄目に決まってるだろ!!そんな体で行っても直ぐに倒れるだけなんだっ」

「でも、ダークが…!1人で戦っているのにっ、迎えに行かなきゃ彼が」

「舞までオレを置いていくのか!?そんなの絶対嫌だっ、絶対に…!!」


抵抗をする舞の体を抑え込み、リンクは捕まえる腕を震わせた。
出来ることなら自分も直ぐに向かいたい。けど、彼と約束した以上此処を離れるわけにはいけないんだ。


「頼むよ舞、君は此処にいなきゃ駄目なんだ!」

「嫌だ…っ、ダークが!ダークが…!!」

「大丈夫ですわっ。彼なら必ず戻ってきますから…だから舞、貴方は帰る場所を作って待ってあげて下さい」


祈るように両手を組むゼルダ。彼女の言葉にも舞は顔を上げずに押さえ込むリンクの両腕を握り締めた。
爪を立てる程の力に、リンクも腕が痛む。

それと同時に痛む胸を押さえて、只今はダークが無事に戻るのを祈る事と舞を押え込む事で精一杯だった。




***





黒い雲の隙間から光る鋭い落雷が辺りを照らす。
同時に照らされるガノンドロフは足元に転がるダークを蹴飛ばした。


「ふんっ…まあ、失敗作にしては…良くやった方か…。この俺を、此処まで追い込むとはな……」


動きもしないダークを睨み笑っていると、足元の揺れに気がついた。


「此処ももう、長くないな…。もうこいつに、用は無い…次は、時の勇者達か……っ」


次なる標的を呟き、ガノンドロフはバサリとマントを翻した。
剣に付いた剣を払い、その場を後に塔の端まで歩き出した。


――途端、


ガッ!!

「!?」


ガノンドロフの右足を何かが押さえ込む。足元に視線を這わすと…先程殺した筈のダークの左手が、ガノンドロフの足を掴んでいた。


「待ち、やが…れっ!」


ギロリと睨み上げ、ダークは懇親の力でガノンドロフの足を引っ張った。


「何だ!?貴様…まだ抵抗をっ」

「テメ…!まだっ、勝手に…行くんじゃ、ねぇッ…!!」


バランスが崩れガノンドロフもその場に倒れてしまう。ドッ!と背中に衝撃が走り、舌打ちを漏らして剣を抜こうとした。


グッ!!

「!!」


だがそれより早く起き上がったダークは、足から話した左手でガノンドロフの肩を押さえ込む。
右手に持った紅いマスターソードに力を込めて頭上に掲げた。


「貴様っ!!」

「あんたの、言う通り…影は影らしく、地面に伏すもんだ…っ!


俺じゃなく、あんたがなっ!!


――ドンッ!!


「ぐっ――おおぉおおぉぉおぉぉぉ!!!


体重を掛けて突き刺したダークの剣が、ガノンドロフの心臓部分を貫く。
逆転した立場。ガノンドロフは震える手をダークに向かって伸ばしたが、直ぐにそれも糸が切れてしまった。


「ぐっ…はぁ……――!」


ドッ…と小さな音を立ててガノンドロフの腕が地面に落ちた。


「…ッ、ハッ…ハッ…。」


詰まった息を吐き出しながら、ダークはガノンドロフから剣を引き抜く。
さっきの自分とは違い、ガノンドロフがやられたのは心臓だ。…もう起き上がる事はないだろう


「終わっ、た……」


ゆっくり体を起こすとズキンと胸に痛みが走った。
剣を支えにしながら先程ガノンドロフにやられた右胸を服の上から押さえ込む。

押さえた左手にはべっとりと血が付着した。


「…チッ…くそっ…思ったより、ダメージが…でかいッ…」


荒く息を吸い込むと足元が大きくぐらついた。
思わず倒れそうになる体を支えて視線だけ辺りに巡らせると城の支柱の1本が壊れたのが見えた。


本格的にもう時間が無い。
急いで逃げないと確実に……


舌打ちを零し、ダークは血を溢れ出しながらゆっくりと一歩ずつ階段へ向けて歩かせる。
血だらけの自分に嘲笑うと、頭の中でほんの少し前の光景が浮かび上がった。


「ハッ…ハ……ッ!」





――――−−---・



「頼み?頼みって何だ?」

「…お前は、そこの王女と妖精と舞を連れて先に脱出しろ…いいな」

『エ…?ダークは、どうするノ?』

「決まってる。俺は此処で…ガノンドロフの奴を倒す」


スラリ…と紅い剣を引き抜いて背中を向けるダークに、リンク達は大きく目を見開いた。


「ばっ、馬鹿言うなよ!!そんな事してる間に城が崩れたらどうするんだ!?」

「全員で逃げてもこいつは追いかけてくる。それなら誰かが此処に残って足止めした方が得策だ」

「でもっ、ガノンドロフをダーク1人で止めるなんて!」

「お前はさっきの戦いで体力は浪費しているし、妖精と王女はナビゲートに必要な存在だ。
だとしたら…まともに戦えるのは俺しかいないだろ」

「だ、だけど…っ」

「水の神殿の時みたく、油断させる為にお前に化ける。それならもっと早くケリがつく」


ダークの言葉にまだ納得のいかないリンク。人一倍人思いの強い彼なら当たり前の事だろう。
リンク達の心配そうな視線にダークが振り返る事はなかった。


「――いいか勇者。認めたくはねえが…こんなんでも、こいつは俺の親なんだ」

「え?」

「親の暴走を子が止めるのは当たり前のこと。それに…」


背中を向けていたダークが漸く振り返った。


「こいつを止めてやる事で、俺は命を授かった恩を此処で返したいんだ」

「!」


目を見開きリンクは目の前の黒い影を見つめる。
するとダークは徐に持っていたハイラルの盾をリンクに突き出してきた。


「交換しろ。」

「え、何で…」

「お前がそんなに俺が戻ってくるのを信用しないなら、物で証明してやるよ。
後で必ず返す。その為に絶対に帰る。…これでいいだろ」

「! ………わ、分かっ、た…」


完全には納得できていないものの、リンクは渋々ミラーシールドを渡した。
お互いに交換を終えると、地面の揺れが知らせるように大きくなる。


『リンク!時間ガ…っ!』

「後で追う、さあ行け!!」

「時間がありません、急ぎましょう。行きますよリンク!」

「あ、ああ…っ」


リンクは両腕で抱えた舞の体を抱えなおすと、先を走るゼルダに続いた。
ナビィも従い追いかけて飛んでいくと、ダークは『リンク』の姿になる為に水に包まれていった。


「――…頼む、」

「?」

「舞の事、頼むぞ。しっかり守れ…

―――いいな、リンク


ダークの声にリンクは目を大きく開いた。
「ダーク!!」と声を張り上げるが、崩れていく瓦礫の音でかき消され、ダークの体も水に包まれて消えた。

初めてリンクの名前を呼んだダークは、その姿を『リンク』に変えて剣を構えた。




――――−−---・




「…俺は、何時の間に、あの馬鹿共に…支配、されていた、んだ……っ」


ポツリと呟いた言葉と『リンク』と呼んだ時の自分に嘲笑う。
顔を俯かせるダークの顔からポタリと血が落ちた。

引き摺り運ぶ剣がカラカラッと小石にぶつかって乾いた音を響かせた。


…以前までの自分じゃ、こうはなかった。
只言われるがままに人を殺して、意のままに好きに行動して

自分から命を掛けてまで残る様な事…絶対に、なかった。
人を思いやる心なんて城に居た頃から習った事もなかったし、考えた事もなかったからだ。


その自分が呆気なく崩れ去ったのは…リンクと、舞と、ナビィと…色んな『ハイラル』に触れてから


「…っ。何、正義感…溢れさせて、やがんだよぉ……」


自分ではないような気がして、ダークは唇を噛んで地面を見つめた。
戸惑う気持ちに困惑していると、多量の血がダークの口から吐き出される。

苦しそうに息を吐き出しながら瓦礫の壁に手をかけた。


「く、そォ……っ」

―皆、絶対勝とうな!

「ああっ…勝っ、たさ…っ」

―でも勝利だけが大事じゃないわ。
…約束しましょう、皆で生きて帰ってくること。


「約束は…破って、ねえ……!」


このまま死んでしまうなんて出来ない。そうでもすれば仲間達が自分を怒鳴り散らかす事だろう。
その様子が安易に想像がつき、ダークは可笑しそうにクッと口端を持ち上げる。


「…こんな、汚れたのも…疲れた、のも、あいつらの…所為だッ」


いつもの調子を取り戻し、漸く階段まで辿り着いたダークは黒い空を見上げた。
仲間達と見る蒼い空とは程遠い黒――


「ああ、チクショウっ…腹が立つ、奴らだ…なァ…!」


苦笑気味に言葉を漏らしながら天を仰ぐ。


「そうだ、帰って…会ったら先ず、疲れさせた…あいつ等を…殴っ、てやるっ…」


ダークの足元が揺れて地面が崩れた。
それでもダークはいつもの笑みを浮かべたまま一歩一歩を踏み歩く。


「ちゃんと帰って…、あいつ等を一発ずつ、殴って…やらねえと、な……。
絶対、…


容赦、は……し…な………――



――――……――



暗黒の雲が広がる空の下、
ぷつりと動く糸のきれた黒い勇者が目を虚ろにさせて膝をついた。



ドッ――

カラァンッ!









ゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴッ!!


「――…!!」


ガノン城から聞こえる崩落の音が徐々に大きくなっていった。
顔を青くした舞がバッと顔を上げた途端から城を支えていた大黒柱が壊れ崩れた。支えとなるものがなくなり、城が徐々に崩れていく。


ズズ…ドドドドッ!


『し、城がッ!!』

「!!」


リンク達の叫び声は城の轟音でよってもみ消されていく。


「そ、そんな…!だって、まだ中にはダークが!」


悲痛な声を上げてリンクは思わず立ち上がった。
入ろうとすると、見上げる先の頂上が崩れ落ち、サァッと全員の顔が青くなった。


「ダぁ、ク―…っ!」


体を震わせ、糸が切れたように涙を滝のように流しながら舞は天を仰ぎ枯れる声を張り上げた。


ダーク―――――!!!


舞の涙が地面に落ちた瞬間、

ゴゴ…ガガガガ!
――ガシャァァアン!!


騒音を立てて今まで立派に建たれていたガノン城が…悲しくも脆く崩れ落ちていった。






***







――ヒュゥゥゥ…


暫くして、騒音のなくなった土地に乾いた風だけが吹き荒れた。
無残に砕け果てた城の残骸…それだけしかない地に、ザッ…と音を立てて影が踏み入った。


「城が…ガノンドロフは、これでまだ生きてるのか?」


ザッザッと土を踏み、リンクは辺りの様子を伺う。
こんな崩落のあった場所で生き延びるなんて先ず不可能な筈……だが、相手が魔王となれば話は違うかもしれない。


「分かりませんが……そうだとすれば、彼も哀れな男です。
強く正しき心を持たぬが故に、神の力を制御できず…」

『人間の欲望って、怖いんだネ…たった1人でこんなコトだって出来ちゃうんだモン』

「ええ。しかし…これで終わったのですね、何もかも…戦いも」

「戦いも……」


嫌いな争いがなくなったと言うのにリンクは浮かない顔だった。
その原因はチラリと彼が向ける視線の先で、定まらない視線で瓦礫の山を見つめている。


「舞…」

「――」

「舞、終わったよ。戦いが…終わったんだ」

「―――…?」


リンクの声にも反応しなかった舞が、ふと何かに気づき身を乗り出した。
光の戻った瞳でそれを見つめ、タッと突然駆け出す。それにリンクも気づきその後を追いかけた。


「舞?どうしたんだ?」

「これ…って…」

「え?」


しゃがみ込んだ彼女の指す方向…それを見た途端、リンクはハッと目を見開いた。
それは、瓦礫に埋もれて見落としてしまいそうな程小さな影…

紛れもなく、ダークが愛用していた紅いマスターソード


「ダークの!?も、もしかして…!」

「ダーク…っ!」


小さな可能性を秘めた剣の柄を掴み、舞はグッと腕に力を込めた。
もしかしたら…。そう思い、密かに生まれた淡い希望を胸に引っ張ると、瓦礫の山から剣が引き抜けた。

ガランッ!

「ダーク…!!」


現れたのは…

――半分から刀身の折れた紅いマスターソードだけだった。


それを目に一杯に焼き付けると、再び舞の瞳から光が無くなった。
希望を、絶たれてしまった…


「…、」


見守っていたゼルダが舞の肩に手を置いた。
何も言葉が掛けられず、視線だけが折れた剣に向かう。


『舞…ッ』

「…約束が…違うじゃない……」


ポツリと呟く舞の黒い瞳に紅い剣が刻み付けられた。


「約束したのに…皆で、生きて帰って……。
ダークが欠けたら…っ、世界が救えても…何も、意味が…!」

「……舞」


「ダーク…っ!!」


どうしてこうなってしまったのだろう。
何時から未来はこんなに間違ってしまった?

どうして自分がこんな戦いを続けてきたのか

その答えは、只…笑いたかっただけなんだ。
只、落ち着いて…友と呼べる仲間達と笑い合える時間がほしかっただけに過ぎない

その為の旅だったのに、

その旅の所為で脆くも夢は崩れ散っていってしまった。


まるで…崩落したガノン城と同じ末路のように儚くも…



ポッ、と潤いの雫が枯れた地に落ちていった。




―――ガラッ…

「―?」


舞に見入っていたリンクの長い耳に瓦礫の崩れる音が聞こえた。
それは舞ではなく、自分たちより離れた場所から生まれたもの…

不穏を感じ、リンクはゼルダに舞を任せて少し奥を覗きに走った。


ある地点を越えた時、リンクの目の前の瓦礫の山から何かが飛び出した!


ズズッ――ドゴォオッ!!


「!!」

「ブハァー…ハァー…!!」

「が、ガノンドロフ!!」

「生きていたのか!?あの崩落の中で、まだ…!」


しぶとい男だっ、と心の中で呟きリンクは剣を引き抜く。
すると、ガノンドロフは意思のない瞳で震える右手の拳を掲げる。

何だか、様子が可笑しい…


「(何だ?あいつ、意思が感じられない…)」

「うぅ…っ!――うおぉぉぉぉぉ!!!


カッ!!
眩い光が立ち込め、空を覆う雲が渦巻きだした。
視界を覆うほどの闇の光の先、雷の光でガノンドロフ…だったものが姿を現せた。


「なっ…!!これは!?」


現れたガノンドロフはリンクを遥かに上回る大きな姿に変わってしまった。
しかも、頭には角が生えて鋭い牙と両手に大きな剣を持っている。その姿はまるで野獣のようだ


「これは…!力のトラーフォースが暴走したっ、ガノンドロフは己が支配した力に逆に支配されてしまったのです!!」

『魔獣ガノンだ!ガノンはリンクへの憎しみで一杯だヨ!!』


ナビィの声が聞こえず、リンクはゴクリと唾を飲み込んだ。まさか、自分の最後の相手がこんな魔獣だなんて…
ガノンは標的と定めたリンクを見た途端、ギロリと威圧のある睨みを利かせる。思わずリンクはその睨みに怯みそうになった。


「…っ、あいつは…あいつだけは倒さなきゃいけないんだ…!」


怖がる自分に言い聞かせ、リンクは強く剣を握り締めた。
強い意志を込めた蒼い瞳と、意思のなくなった暴走の紅い瞳がかち合う。

まるで終りを告げるかのような落雷が辺りを照らし落ちた。




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