53.暗黒世界の結末
神が使わせた使途は一体誰なのだろうか?
それは力あるが故に魔獣と化した闇の帝王か
それは世界の光を守るが為に森より生まれし子か
それは母性溢れる暖かな光に身を纏う王国の姫君か
それは裏切りを果たした末自らの命を散せた儚き闇か
それは世界を跨ぎ全てを捨てて異界の犠牲となる少女か
今三大神の決断が降ろされる時
暗黒世界の結末
落雷。轟きを来す轟音と同等の咆哮を魔獣が放っていた。
空に届きそうな程大きな体で屯する人間たちを見下ろす。その人間たちの中に、リンクはいた。
『リンク気をつけてネ。ガノンの攻撃を食らっちゃ危険だヨ!』
「ああ」
ナビィの忠告を受けた途端、まるでその通りとでも言うようにガノンは苦しそうに悶えて剣を振り回した。
【ウぅ…ッ!グアアァァアァ!!】
「! あ、危ない!!皆避けろ!!」
ガノンが振り下ろしてきた剣を受ければ一溜まりもない!
リンクの声に弾かれ、ゼルダとナビィは後ろへ避ける。
「舞っ!!」
まだ意識がハッキリとしていない舞はリンクが抱え上げ、覆うように抱くと後ろへ飛んで避けた。
「――…ぁ、」
その衝撃で腕からダークの剣が離れ、ガノンの近くに落ちてしまう。
ガランッ!
――ゴシャァァアッ!!
たった一振りで荒地にクレーターが出来上がった。
桁違いな威力に冷や汗が流れ、リンクは急いでゼルダ達と共にずっと後ろへ走った。
「ゼルダ、ナビィ!下がってて、舞を頼む!!」
『ううん…ナビィ、もう逃げないッ。リンクと一緒に戦ウ!』
さっきとは違い覚悟を決めたナビィはリンクの頭上を旋回した。
そんな彼女に「ありがとう」と言うと、リンクから舞を受け取ったゼルダがガノンを見やる。
「いいですかリンク。ガノンは今、力の暴走で我を見失っています。さっきとは違い単純な攻撃しかしてきませんが、その分威力は桁違いです」
「ああ、分かってる。」
「きっと彼を倒せば全てが終わります…気を引き締めて」
「ああ!終わらせてくる…行ってくるよ」
リンクは頷くと方向転換をしてガノンに向き直る。
そのまま駆け出そうとすると、後ろから誰かがリンクを呼び止めた。
「リンク」
それは紛れもなく舞。小さな声でも気がつき、リンクは振り返らずに駆け出そうとした足を止めた。
「何?」と聞くと、舞は少し声を震わせた。
「あ、あたし…。こんな事、今更言うのも…どうかと思うわ……。
けどっ、ずっと言いたかった!本当の事…」
「うん、どうしたの?オレはちゃんと聞くよ」
リンクの優しい声に押され、舞は一度グッと両手を強く握る。
彼らの先では苦しみ悶えるガノンが適当な岩を破壊していた。
「あた、し…っ あたし本当はっ!
――ハイラルなんて、どうでもいいって思ってる!!」
「…!」
『舞!?』
彼女の告白に驚いたのは、ゼルダとナビィだった。
「世界を救う奴が、何て事言うんだって思うかもしれない…っ。
でもあたしは、いつも違う理由で旅を続けてきたの!本当は…!」
「……」
「今回だってそう…あと少しで世界を救えるなんて、大それた事は思えないの…!
只っ、ダークの敵討ちが出来ればそれでいいっ!」
今まで何も反応しなかった瞳からまた涙が零れた。
いくら泣いても枯れない涙が、舞にとっては…不思議でしょうがなかった…
「ごめん、なさい…!でも、あたしが戦うのは、只ダークの為としか思えなくてっ。だからっ!」
「もういい。」
「!」
「もういいよ舞。言わなくても…分かった」
リンクは剣を引き抜いて前に構えた。普段とは違う静かな声…
―呆れられてしまった…。
最後の最後で最低な事を言った自分に呆れた目の前の背中に、舞は唇を噛んで地面を見つめる。
「ごめん、リンクっ。ホントに、ごめんなさい…!」
「いいよ別に。分かるから…やっぱり、共感出来るからかな」
「え…?」
頭上からかけられた言葉に舞は顔を上げた。
上げた先では…最後の戦いとは思えない程不釣合いな、穏やかな…リンクらしい笑顔が自分に向けられていた。
「戦う理由、オレも同じだ」
「――…っ、」
泣きたくなる様な笑顔で言われた言葉に舞は再び顔を覆った。
言葉に出来ない感謝が胸に一杯広がっていくばかりで言葉に出来ない
ゼルダに肩を抱かれる少女に微笑み、リンクは引き締めた顔をガノンへ向けた。
「そうだ…オレ達は何時だって目の前の事で精一杯で。
世界なんて、大きすぎて立派過ぎるものは見えもしない」
【ふごぉぉぉ…っ】
「だから…ガノンドロフ!直ぐ近くにいる仲間を守る為に、今は目の前にいるお前だけを倒す!!」
マスターソードを両手で構え、リンクはナビィと共に駆け出した。
広くも狭くもない廃墟には、魔獣のけたたましい雄叫びが響き渡った。
ゼルダと共に後ろで見守る舞は、唇と共に強く手を握り締める。
「リンク…っ」
「舞…怖いですか?」
「…ええ」
苦笑気味に笑うとゼルダは眉間を垂れて視線を前へと向ける。
「私もです、ずっと体の震えが止まりませんの。」
「ゼルダでも…?あんなに、威風堂々としていたのに」
「姫としての威厳が残っただけです。それを取り払えば、私だって只の女風情ですもの」
確かに彼女の手も震えている…肩を持つゼルダの手の震えが舞の体にも振動が伝わってきた。
お互い震える手を握り合い、不安な面持ちでリンクとガノンに目をやる。
「リンクっ。お願い、頑張って…!!」
届かない声を張り上げて舞は苦痛に眉間を歪ませた。
その彼女の隣で、ゼルダは何かを考えるように俯いていた。
*
【ブオォオォォォ!!】
ガシャァンッ!!
無造作に振り回すガノンの剣がリンクを狙う。
風圧だけで凄まじい攻撃にリンクは一瞬目を瞑りガノンに向かって飛び掛った。
「ガノン!お前がやるって言うならこっちだって望むところだ!!」
リンクに向かって振り下ろされた剣を避け、その時に出来た隙をついて躍りかかる。
宙に浮いた剣を握り突き刺すようにガノンの腕に斬りかかる。
だが、剣はガノンの豪腕に刺さったままで止まってしまった。
「くそっ!」
【り…ンク…!!】
ガノンの意思のない声に逸早く気付いたのは…ナビィだった。
『リンク!上っ、危なイ!!』
ナビィの声にハッと頭上を見上げると、ガノンの巨大な剣が振り下ろされようとしていた。
慌てて剣を引いて盾で体を守るが、リンクの体とガノンの剣では大きさが違った。
ガアァンッ!!
「うああぁあぁぁ!!」
巨大な検圧が瓦礫と共にリンクの体を吹き飛ばす!
『リンク!!』
ナビィの悲鳴も空しくリンクの体はダンッと強い力で地面に叩きつけられる。
飛んできた瓦礫が頭をぶつけ、リンクは意識を遠くへ飛ばした。
持っていたマスターソードはクルクルと回り舞達の方へ飛んで行く。
――ザクッ!
「! リンク!!」
『リンク!起きてヨっ、ガノンが来るってバ!!』
必死にタックルをして意識を戻そうとするもリンクは無防備に倒れたまま。
標的を定め、魔獣の赤い瞳がリンクをぎょろりと睨み付けた。
『う…!』
「ナビィ!早く逃げてっ、ガノンが…!!」
その脅威の凄さにナビィは泣きそうになる。だけどこのまま放っておくとリンクがどうなるかは高が知れた事。
声を詰まらせてナビィは羽を震わせた。
『に、逃げないヨ…』
「ナビィっ!?」
『ナビィは…ナビィはっ、リンクのパートナーだもん!!』
自分に鞭を振るい、ナビィはガノンの目線状をぐるぐると飛び交って注意を逸らした。
小さくとも俊敏に飛び回る影が鬱陶しく、ガノンはナビィを狙って剣を振り回した。
「ナビィ!」
見ていられない光景に舞は目を覆いそうになった。
けどリンクだけでなくナビィまでこのままでは危険な筈
舞は辺りを見渡し、先程飛んできたリンクのマスターソードに駆け寄るとグッと腕に力を込めた。
「…っ!」
左腕に痛みが走る。さっきリンクがガノンに食らわせた攻撃が反映され、舞の左腕も剣で刺された傷跡が残っている。
血が剣の柄に流れる様を見つめながらも腕に力を込めた。
「嫌、だ…!リンク、死なないでっ!ナビィ…!!」
―ハイラルなんてどうでもいい―
そう言った、確かに自分は…
ハイラルなんて全然考えていない。今だってそんな余裕はない
でも…一緒に旅をしてきた思い出を消したくはなかった
もう仲間が消えていく恐怖は、味わいたくなかった…ダークの時の様に
只それだけを思い舞は必死に剣を抜こうとするも、その重さには今の体じゃあ耐えられない。
炎の神殿の時の様に持ち上げる事が出来ない
「最後はっ、皆で勝たなきゃいけないのよ…!お願いだから、抜けてっ!!」
悲痛に叫ぶ舞の両手に、白い手が重ねられた。
その手に視線を這わすと…綺麗に笑うゼルダが舞の手に自分の手を添えて微笑んでいた。
「ゼルダ……」
「”最後は皆で”…そうですわね舞?私だけ仲間外れは嫌ですよ」
そう言うとゼルダは舞の手ごと掴み一緒に持ち上げた。
2人の力で漸く抜けたマスターソードは流れ落ちた舞の血で赤く妖艶に光り輝く。
「さあ、一緒に投げましょう!」
「ええっ、リンク!マスターソードを!!」
ブンッ!と空気を切り、舞とゼルダによって投げられた剣がリンクの近くに落ちる。
その音に気付いたガノンがナビィから視線を逸らし、後方にいる2人に向けた。
憎悪の思念と共に巨大な双剣が振り上げられる。
「大丈夫ですわ舞っ、私が貴方を…!」
「ゼルダ、逃げないと!」
『リンク!!リンク!!』
「…ぅっ」
ナビィの大きな声と剣の落ちた音に漸くリンクの意識が戻ってくる。
まだ朦朧とする視界に舞とゼルダが危険な状況が映り手探りで武器を探した。指先に当たる感触は探していた馴染み深い剣。
「ま…待てよっ、ガノン…!お前の相手は…このオレだ!!」
駆け出したリンクに気がつき、ガノンは舞達に向けていた体を再び直す。
足元を走るリンクに向けて振り落とされた剣を何とか避けると、辺りには衝撃で瓦礫や石礫が舞い上がる。
瓦礫の嵐で視界が塞がれてしまいリンクは立つのが精一杯だった。
―その時、カンッ!と短い音を立てて落ちていたダークの剣が瓦礫の衝撃で宙を舞った。
重力に従い落ちていく折れた刃先が無防備なガノンの背後―正確には尻尾に向かって落ちる!
――ザッ!!
【ギャアァアアァァァァァ!!】
「!?」
どんな攻撃にも反応しなかったガノンが突然悲鳴を上げた。
驚き戸惑っていると、真っ先に気付いたナビィがリンクの頭上を旋廻する。
『リンク、尻尾だ!ダークの剣が掠めた尻尾っ、あそこが弱点なんだヨ!!』
ハッと気付きガノンの背後に回る。そこには確かに斬られた傷跡と、近くに転がった折れたダークの紅いマスターソード。
い、今の…あれはさっきのガノンの攻撃で吹き飛んだ衝撃で吹き飛んだ偶然の産物…
けれど、リンクにはそうは思えず別の意図で捉えていた。
「ダークが…」
ダークが、最後の最後まで助けてくれた――
鼻がツンと痛くなったリンクにはそうとしか思えなかった。
「ありがとうっダーク…!!」
涙が浮かぶ目元を乱暴に払い、リンクはガノンの背後に回る事を気にかけた。
さっきの攻撃で苦しんでいるガノンはリンクに気付いていなく、それをチャンスにもう一撃攻撃を食らわせた。
【グアアァァァァァァッ!!!!】
「よし!…!(そ、そうだ。舞は!?)」
ガノンの攻撃が反映される事を忘れていたリンクは慌てて後ろに振り返る。
…けれど、振り返った先にいる舞には出血が見られない。どうやら、流石に生えてはいない尻尾のダメージが食らっていない様だ。
これは間違いなく絶好のチャンス!
「一気に行くぞナビィ!!」
『うん!』
見え隠れし出した勝利を胸に願い、リンクは再び背後に向かって走る。
尻尾に向かって振り下ろすと剣先だけが少し掠めた。小さな攻撃を幾つも加えていくリンク。
しかし相手は予想もつかない攻撃をしてくるばかり。闇雲に振り回される剣戟にリンクは地面に何度も叩きつけられる。
その度に嫌な音が響き渡った。
「リンク!!」
「舞、大丈夫、だよ…っ!」
苦しい筈なのに、血を流しながら不安がる舞にリンクは笑顔を見せた。
何も出来ず、只舞は両手を強く握り締めて額に押し付けた。そんな彼女の姿を見て、リンクは再び表情を引き締めて剣を振るう。
「ぐっ…!―はあぁっ!!」
地面を蹴って駆け出し、リンクは身を低くして尻尾に剣を突き立てる。
更に追い討ちをかける様に、バックステップで下がると遠距離から矢を放った!
ドスッ!
【ギャアァァア!!】
小さな攻撃でも弱点には痛みが響く。苦痛な表情で絶叫を上げると、ガノンは朦朧となる視界に入ったリンクに向けて剣を振り下ろした。
だがそれはリンクに届かず、リンクは地面を蹴り更に地面に突き刺さったガノンの剣を台に跳躍する。
高く宙に浮き上がると、刃先を下に向けて一直線に剣を振り下ろした。
「うおおおぉおぉぉぉぉぉ!!!」
カッ!と鳴り響いた雷が落ちるのと、リンクの剣がガノンの体に縦一線の攻撃を食らわせたのは同時だった。
斬られた軌道に沿って鮮血が吹き出ると、ガノンはズゥウゥン…ッと音を立てて地面に崩れ落ちた。
【ブフー…フヴー……ッ】
「はぁっ…!ふーっ、はーっ……!」
互いに荒い呼吸を繰り返す。反撃する力も無くなったガノンを見かねて、ゼルダと舞が駆け寄ってきた。
「リンク…」
「はぁ…っ、舞…怪我は?」
リンクの問いに舞は左腕を背中に隠して首を横に振る。その様子に安心するように微笑むが、その笑みもすぐになくなる。
そう、問題は此処からなんだ
「リンク…ガノンに止めを刺す時です。さあ、聖剣を手に」
「で、も…でもっ、ガノンを、殺すと…舞が」
ギリッと奥歯を噛み締めるリンクは痛みとは違う苦痛の表情を浮かべた。
本当にこうでしか手がないのか?彼女を自分の手で殺すような事をしなければならないのだろうか。
一番の難関が彼を最後まで追い込む…
パァアッ…!
「…?これは…」
生死の選択に戸惑っている時、辺りを輝きで照らす3色の光が神々しく光った。
驚きと戸惑いで染まるリンクの表情。だが、その彼の視界に映ったのは3人の女性…
それは紛れもなく、この世界を統治する3人の女神だった。
「ふ、フロル!?えーっと、それに…」
「そうだよリンク。よく此処まで頑張ってくれたね!それとこっちは…」
「時の勇者よ初めまして。あたしは力の女神ディン、そしてこっちは知恵の女神ネール。」
舞を守ってくれていたディン、ゼルダに助言を与えていたネールが共に会釈をする。
ほとんど初対面の形になったにも関わらずネールは優しい微笑でリンクに語り掛ける。まるで何もかも知っているように
「我等が力をお貸しします。大丈夫、彼女は死にはしませんよ」
ネールの言葉にリンクが分からないと言う様に眉間を歪めた。
その隣でディンが片腕を振るった途端、舞の体から赤い光が零れて右手の甲が金色に光り輝く。
リンクと舞がそれに驚いて見入っていると光が集まる右手のある事に気がつく
『見て!舞の手の甲に描かレたトライフォースガ…!』
徐々に光を無くし、下の手の甲が現れる。そこに描かれた二分の一トライフォースが今まで保っていた輝きを無くして只の模様となり、存在だけが証印されていた。
「これって…?」
「ガノンドロフの意志がなくなった今、私の『力』を私自身が制御するのは容易い事…。もう、舞とガノンドロフを繋ぐ呪縛は存在しないわ」
「じゃ、じゃあ…」
希望に溢れるリンク。彼が握るマスターソードがヴン…と音を立てて光りだした。
剣から放たれる光はまるで聖なる光…その光に散されるように空に広がる黒雲が薄れていきだした。
「リンク…マスターソードが言っています。今、貴方に最高の力を。
そして…――魔王に止めを刺せ、と…」
言い辛そうにゼルダは悲しく眉間を歪めた。そのまま受け継いだように眉間に皺を寄せるリンクは血の海の中倒れ伏すガノンに向き直った。
「――………。」
光り輝くマスタソードを握り、ガノンに向かって歩き出す。
何も言わずともこれが最後になるのだろうと分かると…、何故だか一歩歩く度に今までの旅での出来事が浮かび上がった。
…ザッ
『ワタシ、ナビィって言うの!今日から貴方の相棒よ、ヨロシクね!』
[妖精ナビィよ…お前に新たな任務を託す。
…リンクと……舞と共にの…]
「ああ、あたしは舞。さっき森の聖域でサリアと会ったの。宜しくね」
「舞って言うんだね!宜しく、僕はリンク!」
ザッ、
「行こう!いろんな人が待ってくれてる、一秒でも早く行かなきゃ!」
「舞、ついでにリンク…今ハイラルを守れるのは私達だけなのです!」
『リンクついでなんでスカ!?』
「寧ろ力借りるべきなのは彼の方でしょ!!」
「舞には既に名乗りましたが、私の名はゼルダ。宜しくお願いしますねリンク」
ザッ、
「…ありがとうねリンク」
「ううん、守りきれなかった僕が悪いんだから」
「リンクよ…わらわを身を呈してまで守ってくれた事、誇りに思ってよいぞ」
『キャ〜!』
「いゃぁやぁぁぁああ!!リンクぅぅぅ!助けて!!ヘルプミーーーー!!」
「お願いだ…どうか僕に、彼女を……舞を守る力を僕に…!!」
ザッ、
「(ようやく会えた彼女を、あんな奴に渡して堪るか!!)」
「照れなくてもいいのよリンク!あ、何か盛り上がるものが込みあがってきた」
「Σ笑おうとしてる!!舞、絶対笑おうとしてるだろ!?面白がってるだろ!?」
「別にいいぜ、見せてやるよ。にっくき勇者サマに、【俺】の姿をよお」
『あいつ、リンクの影だヨ!!ガノンドロフの手先で間違いナイもん!!』
「その言葉寧ろ煽ってる様に聞こえるけどそれよかエロいね」
「訳わかんねえよ。こら勇者、お前もこの状況どうにかしろ」
「お、オレ!?」
ザッ、
「貴方を選んだのは…この私」
「なっ…」
「ただいまリンク!」
「初めまして時の勇者、我が名はフロル。三大神が1人、勇気を司る女神です」
「………舞、ずっと気になってたんだけどさ…。何でモンスターと親しげなのさ」
「……ダークもスカートよね」
「舞…怖くて、不安なんだね」
「リンク…!どうしようっ…ナボールさんが、死んじゃうわ…!!」
「…ごめん」
「知ってた、ってのは否定しねえな」
「ユダって…【裏切り者】って意味なんだろ」
ザッ、
「オレが消さないよ。もし消えても、オレがちゃんと舞を迎えに行く」
「だからと言って、俺は手加減するつもりも退く気もねえからな」
「…強くなれたと思ったのになァ」
「でも勝利だけが大事じゃないわ。
…約束しましょう、皆で生きて帰ってくること。いいわね?」
「――…頼む、」
「起こしてなんかいない」
舞の事、頼むぞ。
「信じてもらう気持ちをそのまま受け継ぐだけだ!」
―――リンク
ザッ……
リンクは苦しそうに息を吐き出すガノンを見下ろした。
たくさんの人を奪ってきた元凶…元は同じ人間だった相手に、今更ながら悲しみが生まれてくるのか。
…否、悲しみなんかではない。
愚かな企みを計ったばかりに起きた悲劇の結末への…――哀れ
グッと今までで一番強く剣の柄を握る。大きく息を吸い込んで目を瞑り、もう一度開いた時にはキッと前を見据える瞳に戻った。
切っ先の軌道をガノンの額へ向けると、リンクは一直線に突き立てた!
「はあぁぁぁっ!!」
―――ドンッ!!
――6賢者達よ、今です!――
ゼルダが両腕を天に向けて広げると、呼応するように一瞬空が光った。
そして続くように聞き覚えのある声が脳に直接響くように、まるで遠くから送られているように聞こえてきた。
―ハイラルを創りたまいし古代の神々よ…
今こそ封印の扉を開きて、邪悪なる闇の化身を冥府の彼方に葬りたまえ!
6賢者達から放たれた七色の彗星が地上に降り注がれる。
隕石のように振り落ちてきたそれぞれは全てガノンの体を貫く!
【ぐ、オぉ…ぉ…!!】
光の浄化で人間の姿を取り戻したガノンドロフは何かを掴み取ろうとするように手を伸ばした。
――おのれゼルダ…おのれ…賢者ども!おのれ…リンク!!
いつか封印を解いた時っ、その時は貴様らに復讐を…舞を再び我がものに……―――!!
底知れぬ光の彼方に吹き飛ばされ、ガノンドロフはとうとう姿を消してしまった。
飲み込まれるように辺りが光に包まれていく様子をリンクと舞は只魅入るままだった。
「や、…った…」
嬉しそうに笑うと、リンクは己の左手で舞の右手を包み込む。
――キィィィン…!
その瞬間、お互いの甲に描かれたトライフォースが微かに輝いた。光をなくした舞のトライフォースでさえも……
「終わったんだな…最後の戦いが、戦いが…今度こそ、全て!」
掌に感じる温もりと終わった現実を胸いっぱいに感じ、舞は口元を綻ばせた。
穏やかに微笑んで意識を飛ばす2人とは裏腹に、ゼルダは強く両手を握り締めた。
とても辛そうな 苦痛の表情で
そして意識を失くした彼女達…否、正確には舞が
――――っ、…
「(…?)」
遠くに聞こえるようなオカリナの音色と、悲痛に聞こえる叫び声を聞いた気がした。
あの声は…リン ク …?
*****
ハイラル全土を覆う暗黒の黒雲が千切れ、次第に隙間から太陽の木漏れ日が差し出した。
城下町を支配するリーデッドは太陽の光に腐敗朽ち、平原のモンスターは青い炎に包まれて消えていく。
光は戻り
草木は実り
そして人々の笑顔が取り戻される。
ハイラルは今…完全なる平和を取り戻したのだ。
「―――…、」
耳に届く小鳥の囁き声に惹かれ、一度眩しそうに眉間を歪めると舞はゆっくりと瞳を開いた。
寝た後の様な感覚に思わず両手を一杯に伸ばす。
「んー…あれ、此処は?」
『舞!』
辺りを見渡す舞の目線上に見慣れた光が飛び込んだ。
「! ナビィ!さっきの戦いで怪我は?」
『ないヨ。やったネっ、ナビィ達とうとうハイラルを守ったんだヨ!』
可愛らしい声ではしゃぐナビィを手の平に乗せて改めて景色を見渡した。
黒い雲がなくなった青空、綺麗に青く澄んだ河川…全ては7年前に見たあの清清しいハイラル
本当に終わったんだ、と実感させられる光景に息を飲み込んで魅入ってしまう。
「目が覚めましたか?」
「あ…ゼルダ!」
コツン、と響くヒール音と共に背後から女性の声が聞こえてきた。
その声に弾かれて振り返ると上品に両手を組んだゼルダが微笑んでいた。
「ゼルダ、ハイラルは平和に戻ったの?」
「ええそうです。…ありがとう舞、妖精ナビィも。貴方達の活躍のお陰で、ガノンドロフは闇の世界へ封印されました」
木漏れ日が差す鮮やかな草花に惹かれた蝶々がゼルダの周りを飛び交う。
「封印?と言う事は死んではないのね?」
「ええ…けれど神々の力で封印された彼は、もはや己の力では解放出来ません。
心が浄化された後か、賢者のお許しがない事には……」
『じゃあ悪さはもう出来ないんだネ』
「そっか…。うん、いい事よ!彼だって同じ人間だし殺生は後味が悪くなるものね!」
「ええ…本当に、事がついて良かった…」
「うんうん。それにゼルダ、忙しいのはこれからよ。滅茶苦茶になったハイラルを元に戻さなきゃいけないからね」
「!」
「骨を折る大作業になるけど、皆で頑張ればいいのよ!ねっ、ナビィ」
『うん、そうだネ。でもまた違う楽しみもアルと思うヨ!』
「そう。そう言うわけだからゼルダ、あたし達に出来る事があれば何でも言って!」
世界が救われた事もあり、明るさを取り戻した舞は久しく笑顔でゼルダに問いかけた。
きっとゼルダも微笑んでくれる…そう思った。
だが予想とは間逆に、ゼルダは何処か浮かない顔で俯いていた。
様子の可笑しいゼルダに舞は首を傾げる。
「ゼルダ…?」
「舞……あの…、」
「? あ、そう言えばリンクは?さっきから姿が見えないんだけど…――」
『きゃあ!舞ッ、こっち!コレっ見て!!』
「え…?」
ナビィに引かれ舞は少し体をよろつかせる。それでも足を踏ん張らせて持ち堪え、何とか引かれるままに振り返った。
先ず真っ先に飛び込んできたのは青い光。
「? 何、これ…?」
ガラス製の謎の物体。只の水晶かと思ったが、どうやら目を凝らすと違うらしい。
中に何かが入っている…限りなく近づいて身を乗り出して中に入ったものに目を凝らせた。水晶の中には確かに『何か』が入っている。
「え…――」
水晶の中に入った『何か』は、その身に緑の衣を纏っていた。
まるで安らかに眠るように、いつも開かれた空を映す蒼眼は横一線に閉じられている。
「なっ、リンク!?リンク、何でこんな…!!」
『このクリスタル、ゼルダ姫が捕らわれていた結界壁と同じダよ!』
彼女の時は違い蒼く澄み渡る水晶の手をついてダンダン!と強く叩いた。
けれど何度叩こうが水晶は割れる事もなければ、中に入ったリンクも目を開ける事はない。
不穏な影に心を支配されていく舞は後ろにいるゼルダの存在に気がついて慌てて振り返る。
「ゼルダ!どうしてリンクがクリスタルに入っているのっ?彼は一体どうなるの!?」
「彼が…あるべき姿に戻る為に」
『あるべき姿…?』
「分からないわ…ゼルダっ。どうして!リンクが封印される訳でもないのに、どうして彼がこの中に入るの!」
――待っているのは皆で笑い合う時間だと信じていた――
そう信じた舞にとっては理解が出来ないが、目の前のゼルダは違っていた。
「封印…確かにそれに近いものをしますが、されるのは彼ではありません。
されるのは、舞……貴方です」
「!?」
捲くし立てていた舞は時間が止まった様に動きを止める。まるで彼女を気遣うようにナビィが名前を呼びながら肩にとまった。
「あたしが…それは、どういう意味?」
「……7年前の刻、毎夜見る悪夢に怯えた私は神に祈り解決法を見出したのです。
間もなくすると、神は『悪を断ち切れ異界の子』と謳いました」
まるで本を読むかのように淡々とした物調。それでもゼルダの表情に夢などなかった
「私は愚かです。己の不安を取り除くが為ならどんな犠牲が出ようと自分を守ろうとしました」
「仕方がない事よ、怖くなれば誰でも…周りは見えなくなるわ?」
慰めるように言ってもゼルダは首を横に振るばかり。何をそんなに追い詰めているのか、この時の舞にはまだ分からなかった。
「争いが去った今、私は賢者の7人目、時の賢者としてマスターソードを眠りにつかせ…『時の扉』を閉ざさねばなりません。けれどその時…時を旅する道も閉ざされてしまいます」
『大丈夫舞…?顔色が悪いヨ?』
言葉を返せない代わりに舞は両手を強く握った。何故だろう…リンクとも約束した、この旅が終わってもまだ続くからと。
支えになる約束もあるのに…嫌に胸騒ぎが収まらない。
『で、でもそれだけなラ舞も眠って7年前に戻ればいいんだよネ?リンクは先に眠りについただけデ』
「……」
『ゼルダ姫…?』
「神が謳われた言葉に従った時にある条件が出されました。それは、限られた時間。
『来るべき時が来る』まで、その時まで異界の子をこの世界に留める事とする…そう、神は言いました。
…そしてその来るべき時は……」
息が詰まりそうだった。心が、中の自分が「止めて!」と叫ぶ。
顔を青くする舞に気付いてか否か、ゼルダは少し視線を泳がせた。
「闇の王者が遥かなる眠りにつく時なのです」
――何処から運命を間違ってしまったのだろう
言い知れぬ絶望感に舞は口を開けたまま放心状態陥る。
この言葉を聞くのが怖かったのだ…だから、最後を迎えるのが怖かったのに…
それは無情にも現実のものと成ってしまった。
「…うそ だ……」
焦点の定まらない虚無の瞳から零れた雫が頬を伝っていった。零れていくそれを拭う気にもなれず、舞は絶望的な顔で静かにゼルダを見つめる。
まるで、還さないでほしいと言うかのように
「ごめん、なさい…」
そんな彼女の顔を見て、ゼルダも耐えられなくなったように顔を覆った。
「ご、ごめんなさい…っ、ごめんなさい舞っ、ごめんなさい!」
「ゼル、ダ……」
「わ、私はっ自分勝手な都合で貴方を…!王女だとか、そんな身分を利用して貴方を傷つけてしまった…っ!!」
「ゼルダ……止め、て」
「だ、だって!私はっ、貴方をっ!!」
「止めてゼルダ…!お願い、止めてっ」
只管悲願するゼルダを舞は倒れこむように抱きとめた。これ以上謝られると、本当にゼルダを恨んでしまいそうだった。
彼女を嫌いになるのが怖くて、舞はゼルダの肩に顔を埋めた。阿吽を漏らし、ゼルダも縋るように舞の背に両腕を回す。
誰が悪いわけでもない運命だけど…だからその分腹立だしくなる。
いっその事、誰かに怒りをぶつけられれば楽になれるのにと、耳に届く鳴き声を聞きながら舞は苦心を味わった。
「舞っ、わ、私は…!」
「うん、」
「貴方を…元の世界に送り、戻し…貴方の記憶を全て…、除去します!貴方がっ、全て忘れるように…少しでも…苦しまぬようにとっ」
「うん、」
「、舞…っ!ずっと…友達で、いたかった…!!」
「あたしもよゼルダ。貴方は…あたしを忘れないで」
ゼルダの涙が胸に滲みる。舞の涙はゼルダの肩に零れる。
どうしようもない虚無感を取り払うように暫く2人は抱き合い、暫くして名残惜しそうにゼルダが身を離した。
「ナビィ、今までありがとう。貴方にはたくさん支えられたわね…」
『ッ、う、ぅうんっ…』
「とても楽しかったわ…ナビィがいてくれて、本当に良かった。大好きよナビィ、これからもその豊富な知識を誰かの為に使ってあげて」
『ウッ…うぅっ…!舞ーー!!』
離れたくないと言う様にナビィは舞にタックルを仕掛けた。飛び込んできた小さな妖精をクロスさせた両手に閉じ込めて大切に抱きしめた。
『ナビィ、舞と出会えてッ、ホントに良かった!舞と一緒に触れ合ったハイラルを…守ってくれテ、アリガトウ…!』
「ナビィ…」
『ぜ、絶対…忘れないヨ…ッ、ナビィも、ずっとずっと舞の事大好きだヨ…!!』
ナビィを抱きとめる舞は穏やかに微笑んだ。
いつもナビィは誰かを優先させる、優しさと正義感の塊と言っても過言ではない、心優しい妖精だ。
唯一同じ女としての部分、それが旅の合間にどれだけ支えになってもらった事か……
暫くして少し治まってきたナビィから離れ、最後に指の腹で光る体を撫でるとゼルダに向き直った。
「じゃあ…お願いねゼルダ。さようなら」
「はい…」
意を決したゼルダは両手で握り締めたオカリナに口を添える。
間もなく済んだ音色で『ゼルダの子守唄』が流れた。その音色は今まで聞いた音よりもどんなに綺麗に響き渡る。
視界が真っ白になっていく中で、ゼルダとナビィの声が聞こえたような気がした。
――ありがとう舞。貴方は、この国の誇り高き旅人ですわ
――忘れないよ、ずっと…ナビィは、リンクのパートナーでもあり舞のパートナーでもあるからネ!!
周りが何もない白一色に染められる。誰もいない、自分の心臓の音も呼吸の音も聞こえない程静寂な空間
1人ポツンと残された舞は寂しさを覚えた。
「ああ、そう言えば……最初来た時もこんな感じの場所だったっけ」
最もあの時は今とは間逆に黒い空間だったのだが。
何もない空間…その中に、密かに自分以外の気配を感じた気がして舞は不意に振り返った。
「…リンク…」
振り返るった舞の後ろに、リンクが佇んでいた。クリスタルはないものの、中に入っていた時のように只静かに目を閉じて佇む彼の姿。
「リンク……約束は守れないわね」
舞は近づくと消えてしまいそうな感覚に陥ってしまう。
だがそれでも少しずつ足を進めるとリンクの直ぐ目の前まで降り立った。
「あたし、本当に貴方に会えて変われたのよ。変われた御礼をたくさん言いたかった…」
そっと触れる胸板は7年前とは違い立派に成長して逞しくなっていた。同じだった背丈も今は追い越されて、自分はもう見上げなければ届かない。
今はもう、自分を映さない蒼い瞳が無性に恋しくなった。
「…どうしよう……貴方との思い出ばかりで、元の世界とか……覚えていない」
思い返せば今まで色んな事があった。コキリの森でサリアに見つけられ、それからリンクに出会い、初めての冒険がデクの樹サマを救う事。
ガノンドロフから守る為に精霊石を集めた事。
森の神殿、炎の神殿、水の神殿、闇の神殿、魂の神殿の事。
ダークが仲間になった事
シークが消えてしまった事
全部全部、思い出の中には常にリンクが一緒に居てくれた。
「心配しないで、オレが舞を守るよ!」
どんな時も臭い台詞を言う声
「舞、大丈夫か?」
心配して慰めてくれたのは大きな手
危険になると監視でもしてるかのようにいつも助けてくれる勇姿
いつだって自分も仲間も大切にしてくれる雄大な心。
「もし消えても、オレがちゃんと舞を迎えに行く」
流星群の夜に君が言った約束。
あれって結局嘘だし無理だ、って今更思ってしまうの
「行こう舞!」
ルト姫の求婚には気づかない程の鈍感。人の良すぎる正義感
何事も信じきる純粋な天然。言葉より先に行動で示す熱血お馬鹿
「会いたかった…っ!!」
臭い台詞は言う、天然純粋熱血お馬鹿な田舎出の後先考えない大馬鹿者
「オレは、世界を――舞を守るために戦う」
…でも、そんな彼だったからこそ
「舞!!」
「――リンク…っ!」
あたしは救われた――
胸板についた手を握り唇を噛み締める。どうしよう、今更会いたくなった。
今彼は目の前にいるけど、こんなんじゃない。その瞳に自分を映し、いつも手を引きながら自分の名前を呼んでくれる…真っ直ぐなリンクに会いたくなったっ
離れたくなかった…――!!
「リン…クっ、リンク…!!」
本当にこれが最後?信じられない、あの濃かった日常が全て無くなると言うのがどうしても信じられない。
舞が心の中で最後、と呟いた後、打たれたように突然眩い光が体を包み込んでいく。
それは紛れも無く、もうお別れの時間と言う意味…『さよなら』が来た合図
「―…ありがとう…っ」
離れたくない、とは言わない。言ってはいけない。
どうしようもなく言いたいのは…嗚呼、どうしてだろう。そんなの、とっくの前から…
力なく垂れた彼の左手に触れるとリンクの温もりに久しく触れた気がする。
「リンク…ありがとう…! さようなら―――」
頬を伝った涙が2人を繋ぐ手の上に落ちると、舞の体は光に包まれて粒子となって散開した。
静寂な空間は忽ち光に包み込まれ全てがなくなっていく。
リンクでさえも幻影のように姿を消され、何もなくなった空間は線のように細くなって消えてしまった。
――ハイラルを救った光がこの世から消えていった瞬間だった――
**
―――……なん だ、ここ …
オレ…そう言えば、ゼルダに眠らせられて……
…?あれ…誰かが、手を握ってる……
あれは…――舞……?何で泣いてるんだ?
泣く、なよ…オレがいるだろ?
嗚呼…参ったな、これじゃナボールさんに怒られてしまう…
泣かないで舞 オレがいるよ
だから……
―ハイラルが再び平和な時を刻み始めるとき…それが私たちの別れのときでもあります。
? 今度は…ゼルダ?
―貴方はあるべき姿に、舞は…戻るべき場所へ
「―――!!」
嫌な予感がして思わずバッと手を伸ばす。その先に掴むのは、嫌な予感がする相手…
だけど手を伸ばした先に、望んでいたものは存在していなかった。
その代わりに目に入ったのは久しぶりに見るような小さな腕…
指は短く、よく見れば視線が大分低くなっている。
これって……。
「…?」
マスターソードの刃を見ると今までの身長じゃ映らなかった全身が映っている。
それはオレが永い眠りにつく前の事…そうだ、7年前の子どもの体
「本当に、戻ったのか…オレは…」
『リンク』
オレの名前を呼ぶ高い声。ナビィだ。
もうすっかり見慣れた彼女に驚くことは無く、視界に入ってきたナビィの体を手の平に乗せる。
『リンク、ナビィは…使命が果たせたカラ森へ帰るヨ』
「そう、なの…?」
『ウン。…リンクは、まだでしょ?やる事があるんだよネ』
表向きは冷静だが、リンクの心情は穏やかではない。
ナビィの問いに躊躇無く頷くと、リンクは離れる事が寂しそうにナビィの体に頬擦りをした。
彼も例外ではなく、ナビィに世話になった身だ。それも誰よりも、何よりも
「ありがとうナビィ…用が終わって森に帰ったら、また旅に出たいと思ってるんだ。
その時は…また相棒お願いしてもいいかな…」
『ッ、うん…!待ってるヨっ』
さっき泣いたばかりのナビィはまた涙が浮かび上がるのを感じる。一番彼女が恐れていた別れの時…
だがそれも彼の優しさでほんの少し取り払われた気がする。
『リンク…きっと、彼女は貴方を待ってるヨ。ナビィもリンクになら安心して任せられるカラ、先に森に帰ってるネ』
「ああ、直ぐに帰るから」
涙のような光の粒子が彼女から零れ落ち、ナビィはリンクから離れた。
『リンク、ナビィはリンクと舞が並んだ姿が大好き。だから守ってあげて…あの人の心を守ってあげてネ。
――またねリンク…大好きだヨ』
最後にひらりとリンクの体を一回りすると、ナビィはステンドグラスの隙間から外へ飛んでいった。
寂しそうに消えていった彼女の後を目で追い、リンクはぎゅっと握り拳を作った。
台座に刺さったマスターソードを一度見やると神殿の入り口へ駆け出した。
その瞳はまだ終りを迎えてはいない、穏やかでない眼差し。
「舞……舞っ!」
まだ…、
まだ彼らの物語は終わっていない
大事なのは 此処からだ
***
―――ピッ…ピッ…
白いタイルで覆われた広い部屋に響き渡る電子音。
電子音を鳴らす機械から伸びたコードはシーツに横たわる人の体に幾つも取り付けられている。
その横たわる人の手を、ベッドの近くに引いてきた椅子に座った女性が握っていた。椅子に座った女性はベッドに突っ伏して眠っている。
「―――」
ピクリ、と横渡る少女の指が密かに動く。繋がっていた手の振動が伝わり、突っ伏して眠っていた女性は眠たそうにしながら目を開いた。
「…ん…、…舞…?」
「――…、―?」
此処は…?
「嘘…っ、舞!舞、目が覚めたのね!?」
女性はコードに繋がれた少女の顔を両手で包み込み、涙を流しながら何度も名前を呼ぶ。
女性の声に弾かれて近くを通りかかった看護士が部屋を覗き、慌てて医師の許へ知らせに走った。
少女は口につけられた酸素ボンベで苦しそうに咽返ると名前を呼ぶ女性に視線を向けた。
「お母、…さん」
ああ、そうか。自分は大型トラックに撥ねられたんだっけ…
「舞!良かった…良かった、本当に!!」
涙を流し、細い両腕を使って覆いかぶさるように少女を抱きしめる。
仕事で暫く会えなかったから?少女にとって母親の温もりに触れるのは…何だかもの凄く久しい感覚がした。
その温もりに触れてなのか、少女は閉じた瞳から涙が伝って落ちていく。
――何故か何かに胸を締め付けられ
心臓が痛いと叫ぶと共に、心が泣いた様な気がした。
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