06.動物=ライバル視?


まだまだトアル村を照らす陽は高い。

さあ、今日も元気に頑張ろう!!






動物=ライバル視?





皆さんこんにちは。ひょんなことから突然知らない場所へ来て、知らない美形と一つ屋根の下の生活を始めることになりました、舞です。幸せ過ぎて鼻が緩いです。
しかし、実は今はそんな幸せに浸っている暇はないのです。何故かと言うと……


ギシ ギシ…


ぜーっ…!はぁっ…!!つ、ツタ登りって…こ、こんなにハードだっけ…!?


そう、リンクたちが待つ小高い高台の上へ行く為に険しい(※地上約3メートル弱しかない)ツタを登っている最中だからである。
嗚呼、姫が遠い。いや、王子?(どっちでもいい)


「頑張れ舞!あと少しだ!」

お、おぉ…!はぁ、はぁ…っ。りっ、リンクが待つ所ならば、この私っ、ど、どこへでも行ったらぁ…!!ひぃ、はぁ…!!

「その割にはお前さん、死にそうになってるが…大丈夫か?」

「だ、大丈夫です…!はっ…、どっこいしょ!」


渾身の力を使い、おっさんみたいな掛け声と共にやっと最後のツタに手をかける。
すると、上で待っていてくれたリンクが手首を掴み、ぐいっと持ち上げて引き上げてくれた。
ストン、と足が地面に着くと、彼は力がなくなってよろけそうになった私の両手を持って、あのイケメソスマイルを


「お疲れ。よく頑張ったな!」


そう言って微笑んだリンクを見た途端、私の疲労はどっかへ吹っ飛んで行きました。
そうか…これがアロマテラピーならぬ、イケメンテラピーなのか。いい勉強になりましたよ。


「ほら、舞。あそこ見てごらんよ」

「ん?」


何とか息が整ったところで、リンクが何処かを指差した。
目で追うと、そこは今此処にいるジャガーさんの家の裏手にある小川の畔で…

よく目を凝らすと、小川に向かってかかった小さな木製の足場の近くに小さな影が見えた。
あれって…


「あれがセーラさんちの猫なんだよ。」

「え!?じゃ、じゃああれが…セーラさんをうつ病にさせた根源!?

「うつ病…?セーラ、うつになってるのか?」

「いや、まあ…うん。」


リンクは私の言ったことを否定せず、苦笑して返していた。
ジャガーさんは不思議そうに肩を竦めたが、すぐに別のことを思い出したようでポンと手を叩いた。


「お、そうだ!もう一つ教えておこうと思ったんだが…。リンク、あそこの草が見えるか?」


ジャガーさんがそう言って指したのは、今私たちがいる足場の隣にある、もう一つの小さな足場だった。
そこには、変わった形の草が生えている。私は見たことないけど…リンクは知っているのか、「あっ」と声を漏らした。


「鷹笛の草じゃないか!」

「おお!あんなところに生えてるなんて珍しいと思ってな、お前に教えといてやろうと思ってな。」

「ああ、ありがとう。最近呼んでないからな、後で吹いてみるよ」

「そうしてやりな。じゃあ、俺はちょいと家のほうに用事があるから帰るからよ。お前らも家に帰るときは気をつけろよ。最近何かと物騒だからな」

「…?(物騒?)」


こんなに長閑な村の中で出てくるには何だか可笑しい言葉に、私は首を傾げた。
でも、質問する前にジャガーさんは「じゃあな、舞ちゃん」と帰って行こうとしていたので慌てて見送った。

ひょいっと簡単にツタを降りていってしまったんだけど…。
何、この村の人たちは皆運動神経がいいわけ?
じゃあ私、この村には住めないわ。来て二日目にして権利無くすとか…


「舞は鷹笛の草、吹いたことあるかい?」

「え?うーん…、まず鷹笛の草?ってのを知らなくて」

「あ、そうなの?じゃあ、見せてあげるからこっちへおいでよ。」


リンクは隣の足場へ一足先に飛んで手招きしてきた。
折角見せてくれると言うのだから、好意に甘えないわけにはいかない。
私は軽く助走をつけてリンクのいる足場まで飛び、足元にきた草を改めて見た。


「これがその草?」

「ああ!この草から出る音は鷹が好むものだから、これを吹けばすぐに鷹が来てくれるんだよ」

「へー、だから鷹笛の草なのね!……って、ん?」

「? どうした?」


不意に耳に入ってきた高い『何か』…。
リンクの質問に答えず耳を澄ますと、確かにさっきと同じ音が聞こえる。


「何か、『キィキィ』聞こえない?」

「『キィキィ』…?そうかな」

「ほら、何だろう…。ちょっと金属音を引っ掻いたような…、例えば、猿の鳴き声のような―――」


…と、言った時、私たちが丁度同時に見た視線の先に、小川を挟んで10メートル弱くらい先に大きな高い岩が見えた。
そして、その上には…


「あれって…猿よね?」

「ああ、猿だな…?凄いな、舞。本当にいたよ!よく聞こえたな〜」


何か…あんま喜べないな。
リンクの屈託のない笑顔と拍手に失笑しつつ遠くにいる猿を見てると、それが何かを持っているのに気がついた。
あまり視力には自信がない為、猿が何を持っているのかが見えない。でも、何だか凄く嬉しそうに飛び跳ねている。


「ねえ、リンク。あの猿が何持っているか分かる?」

「ん?ああ、えーと…何か、籠っぽいものを持ってるかな?丁度、人が両手で抱えられそうなぐらいの大きさの」

「へえ、籠かぁ…。…え?籠?」


リンクから返ってきた言葉を復唱して、私はハタ、と動きを止めた。
両腕で抱えられそうなぐらいの大きさの、籠?それってもしかして…揺り籠?
そこでやっと大事なことを思い出した私は「ああ!」と大きな声を出してリンクを驚かせた。


「た、大変!あれ、ウーリさんの揺り籠だわ!」

「え?あれって、ウーリさんのなのかい?」

「ええっ、昨日置いてたのがなくなったってさっき聞いたの。あの猿、勝手に奪うなんて命知らずなことを…!よっしゃ、待ってろ!今取り返してやるからな!!

「ちょちょっ、待った!その意気込みはいいけど、どうやってあそこまで取りに行くの!?」


あ。そう言えば…方法考えてなかった。
此処からだと距離がある上に、万が一泳いで向こうまで行ったとしてもあの高い岩の上までは登れまい。

「ど、どないしょ…」と頭を抱え出した私を見て、リンクは苦笑しながら足元の草をぷちり、と抜いた。


「分かった、オレが何とかしてみるよ!要は、あの揺り籠を取り返せればいいんだな?」

「え?ええ、そうだけど…。できるの?」

「ああ、任せといてっ」


リンクは何か方法があるのか、自信満々に胸を叩いてから草に向けて息を大きく吹きかけた。
すると、簡単なメロディーが草笛から奏でられ、小さな村に響き渡った。
そして、少ししてからどこからかバサバサという音が聞こえてきて……


ゲシッ!!

おぶへっ


何故か、私の後頭部が蹴られた。
急な痛みに頭を抱えて蹲っていると、驚いたリンクが慌てて様子を窺ってきた。
その右手には、さっきまではいなかった鷹を乗せて


「だ、大丈夫か舞!?」

「あででで…だ、大丈夫だけど…。私、一体何に蹴られたの?まさかリンク?

「お、オレはそんなことしないよ!この鷹が蹴ったんだ。可笑しいなァ、こんな乱暴者じゃない筈だけど」


なあ?と問いかける先にいる鷹は、私の顔を見てからフイッと顔を逸らした。
な、なんちゅー可愛げのない鷹…!!その羽毟り取って焼き鳥にしてやろうか!
…等と思ったが、鋭い爪を持つ鷹にそんなことする勇気もなく、呆気なく断念した。


「ま、まあ私のことはいいから…。とりあえず、あの揺り籠どうしたらいい?」

「あ、それなら任せて。
よし、あれを取ってきてくれ。いいな?」


リンクが「行け!」と合図を出して腕を振った途端、まるで鷹は言葉が分かったかのように猿のほうへ向かって飛んで行った。
鷹が急に来ることで逃げるんじゃないかと思ったけど、猿は意外にも気づかず、とうとうバサッと音を立てて鷹に奪い取られた。

あ、あの鷹…なんて賢いんだ!一家に一匹は欲しいですな!
リンクの隣でそんなアホなことを考えている内に鷹は帰ってきた。
ストン、とリンクの手に置かれたのを見計らい、私は思わず歓声を上げる。


「やった!凄いわリンクっ、ありがとう!」

「いやぁ、あははっ。オレは何もしてないよ、こいつが頑張ってくれたからさ!」

「あ、そうね。あなたもありがとう。本当に助かったわ!」


伝わらないとは分かっても鷹にも感謝の意をこめてそうお礼を言った。
しかし、鷹は最初のようにそっぽを向き…そしてどこか鼻で笑ったような鳴き声を残してバサバサと羽を羽ばたかせて大自然へと帰って行った。

……。


「リンク、私…一体あの鷹に何をしたのかしら。悪どいこと?

「あ、いや…舞はその、いい子だと思うから、何もしてないと思うよ?」

貴方の優しさが身に沁みわたる今日この頃


兎に角、ウーリさんの揺り籠を取り戻せたので、私たちは早速家で待っているウーリさんに届けてあげることにした。
さっき行ったばかりの道のりを戻り、家の縁側で座っているウーリさんを見つけると、丁度彼女もこちらに気がついた。


「あら、舞ちゃん。それにリンクも」

「ウーリさん、揺り籠が見つかりました!」

「えっ、本当?」

「はい。猿が持ってたんですけど、リンクが取り返してくれたんです!ツンデレ鷹と一緒に」

「つ、つん…?」


ウーリさんはツンデレの意味が分からず小首を傾げている。
その間に坂を登り終えてきたリンクがウーリさんの手元に揺り籠を置いた。


「はい、ウーリさん。生まれてくる赤ちゃん用の揺り籠ですか?」

「ええ、そうなの。ありがとう、二人とも。おかげで助かったわ。何かお礼をしないと…」

「そ、そんなお礼なんて…ねえ?」

「ああ、気にすることないよウーリさん。」

「でも…、あ!そうだわ、私からじゃなくなっちゃうけど、渡したいものがあるの」


何かを思い出したウーリさんは「ちょっと待っててね」と言って家の中に入って行った。
何だろうとリンクと顔を見合わせて首を傾げていると、すぐに扉がガチャリと開いた。

ウーリさんの手にはさっきの揺り籠はなく代わりに、細長いものが乗っていた。


「はい、これ。コリンがね、リンクに渡しておいてほしいって言ったのよ」

「コリンが?」

天使からの貢物!?

「て、天使…?それは良く分からないけど…ウーリさん、コリンは今いますか?これのお礼を言いたいんだけど」


リンクの手に渡されたのは、緑をベースに作られた釣り竿だった。
小さな子供が作っただけあって少々形が歪な部分があるものの、それも微笑ましく見えてしまう。
ウーリさんはリンクの質問に困ったような顔で頬に手を当てた。


「あら、会わなかったかしら?コリン、貴方と舞ちゃんに会いたいからって、さっき家を出て貴方の家のほうへ行ったわよ?」

「マジですか!?天使が私たちを待っているんですって、リンク!これは帰らねばっ、ターボダッシュで!!

「お、落ち着いて舞!先ずはタロ達に頼まれたパチンコを買わないと。その為にはあの猫を…」

「そっか、捕まえないといけないのね。分かったわ、じゃあ私ちょっくら捕まえに行ってくる!」

「あ、じゃあオレも一緒に…って、おーい舞!?ちょっ、待てってば!」


私は後ろから聞こえてくるリンクの声に振り返らず、「先行ってるわね〜!」という言葉を残して走って行った。

え?なんでこんなに急ぐのかって?
だって、一秒でも早くコリンに会いたいんだもの!
ええ、邪な気持ちしかありませんがそれが何か?



「ああ、舞行っちゃったか…。すぐに追いかけないと。全くっ、病み上がりだって言うのに」

「ふふ、そう言わないであげなさいな。元気そうで何よりだわ」


腰に手を当てて怒るリンクはまるで母親のよう。
それを見て可笑しそうに笑うウーリに、リンクは視線を向けた。


「舞ちゃん、元気になったみたいで良かったわ。初めて貴方が連れてきた時は、本当に死んでしまいそうな状態だったから…。」

「ああ、そうだね。あの時は本当に吃驚したよ」

「リンク、結局舞ちゃんがどうしてあんな所にいたのかは分かったの?」

「いや…」


リンクは舞が消えていった方向を見て首を横に振った。


「どうやら舞自身も覚えがないらしくて、まだ明確な理由が分からないんだ。」

「そう…それは大変ね。私たちもだけど、それより一番舞ちゃんが不安がっているでしょうね。家族に会えなくて、寂しいんじゃないかしら…」

「…。」


セーラが呟いた不安に、リンクは何も返せなかった。
昨日出会ったばかりだが、彼女はずっと明るく振舞っている。
だが…きっと心のどこかでは会えない家族への焦燥感が駆られていることだろう。


「大丈夫だよセーラさん。オレが、責任を持って彼女を元の場所へ送り届けるから」

「リンク…ごめんなさい。私たちで出来ればいいんだけど、絶対に安心なのは貴方だと思うから…。でも、何かあった時には私やモイや村の皆に頼ってきなさい?いつでも力を貸すわ」

「ああ、ありがとう!それじゃあ、オレ舞を追いかけてくるよ」


気をつけてね、と心配するウーリに頷き、リンクは舞が向かったほうへ走った。
走りながら、頭の中にはたった今交わしたウーリとの会話が過る。


――私たちもだけど、それより一番舞ちゃんが不安がっているでしょうね。
――家族に会えなくて、寂しいんじゃないかしら…



「(やっぱり、そう思うんだな…)」


リンクは気づいた時には両親がいなかった。感情もまだ育っていない小さな頃だったし、モイ達が親代わりとなって育ててくれたので寂しいとは思わなかった。ただ、不思議だと思っただけで…


「(同じ家族がいないけど、オレは考えたことがなかったなァ。寂しいって)」


だけど、自分と彼女は違うだろう。やはり家族が恋しいのではないだろうか。
一刻も早く帰してあげなくては。
そう心に誓い、リンクは舞がいるであろうジャガーさん宅の裏手に回った。
すると、そこには…


フーッ!!

シャーッ!


二匹の猫(内一匹は人)がバトっていました。
ぽかーん…としながら見ていたリンクだが、舞に飛びかかった猫がバリッと音を立てて顔を引っ掻いた直後、「いてぇぇえ!!」と上がった悲鳴を聞いてハッと我に返った。


「だ、大丈夫か舞?」

「う、うん…大丈夫よ。
…何か私、今日リンクに心配されてばかりね。主に、動物が原因で

「はは…まあ気にしないで。(ほ、本当に落ち込んでるのかな…?)」


リンクは舞の顔についた傷を少し撫でると、三毛猫に向き直った。
後ろでは、リンクに撫でられて「孕む!!」と舞が悶えていた。
連れて帰ろうと猫に手を伸ばすが、猫は嫌だと言うようにリンクの手をするりと避けた。


「あれ?どうしたんだ?」

「それが、私も何度か抱こうと試したんだけど逃げちゃって…。何か、ずーっと川のほうばっかり見てるのよ」

「川…?」


舞の言葉に見てみてると、確かに猫はじっと水を見つめていた。
しかし、水が苦手な猫が何故水なんかを…。不思議に思いながら見ていると、どうやら舞が何かに気付いたらしい。
パン、と手を叩く音が響いた。


「もしかして、魚が欲しいんじゃない?ほら、セーラさんちから出て行ったのも魚を食べて怒られたからだったし」

「ああ、成る程。じゃあ魚をとったら帰るかな?」


リンクも納得したようで、さっき貰ったばかりの釣り竿を取りだした。


「早速役に立つな!」

「そうね。頑張って、リンク!」

「よーしっ」


意気込んでぐるり、と一度腕を回すとリンクは竿の先端に付いている紐を大きく振って川へ投げ入れた。
猫も何をするか気付いたのか、距離を置いて恐る恐る近づいてきた。

ちゃぷり、と水面に浮かぶ浮を見ながら獲物が掛かるのをじっと待つ。
すると、いい餌を使っているのか、数分と経たないうちに獲物が掛かった!


「よしっ、掛かった!」


くい、と竿が引っ張られた瞬間、リンクは思いっきり竿を引っ張った。
牧場でついた力は伊達じゃないらしく、魚は簡単に水面から引き上げられた。

パシャッと音と水飛沫を上げ、トアル村名物のグリーンギルが釣り上げられた。


「釣れた!これ、なんて魚?」

「グリーンギル、この村で一番よく取れるんだ!油が乗ってて美味いんだよ」

「へー、そうなんだァ…。…あっ!?」


リンクが手に持つグリーンギルをまじまじと見ていると、ずっと静かに待っていた猫が一瞬の早さで魚を奪っていった。
リンクは「早いな〜」としか見ていなかったが、舞は違っていた。


「ちょっ、お前ぇ!!確かにお前の為に釣ったが、そう簡単に奪っていかれたら何か腹立つ!せめてお礼言ってけー!」

「舞、猫はお礼言えないよ?」

「いや、そうだけど。でも…!(リンクという美形から貰うなんて羨ましすぎる!!…なんて言えない)」

「大丈夫、オレは気にしてないから。それより、セーラさんちに戻ってみよう!もしかしたら、家に戻って機嫌が直ってるかもしれないしさっ」


まだぶつぶつと何かを言っている舞を宥め、リンクは舞の手をとって駆け出した。
此処からセーラの家はそう遠くはなく、二人はすぐに店に辿り着いた。


――ガチャッ



「セーラさん!」


数分ぶりに訪れた雑貨屋の扉を開くと、そこにはピンク色のオーラを振りまいているセーラがカウンターで猫にミルクをあげていた。
入ってきた二人に気付くと、セーラはパッと嬉しそうな顔を置きあげる。


「おお、リンク、舞!見ておくれよ、さっき猫ちゃんが帰ってきたんだ!それも、どこからかお魚をくわえてさ!」

「あ、それはリンクが…」

「きっと、あたしに怒られたことを気にして自分でとってきたんだねッ。そうに違いないさ」

「あ、いやだから、それはリンクが」

「賢いよね〜、流石はあたしの猫ちゃんだわ〜!そうは思わないかい?」

「……思わな

何て言おうとしたんだい、舞。

り、リンク!セーラさんの鼓膜には一体どんなバリアが張られてるの!?何でこれだけ聞こえてるのッッ!?

「う、うん…きっと猫型のバリアじゃないかな?」


途端、ピンクのオーラがドス黒く染まり出したところを見かね、リンクはガタブル震える舞の前に立った。


「セーラさん、パチンコ売ってませんか?」

「パチンコ?ああ、それならまだ残ってるよ。30ルピーさ」

「良かった!じゃあ、それ一つください」

「あいよ、毎度あり!」


リンクは懐から取り出した財布から赤と黄色の宝石のようなものを二つ、セーラに手渡した。
セーラもそれを確認すると、戸棚の中からパチンコを取りだした。


「しかし、あんたがパチンコなんて…どうしたんだい?」

「いや、タロ達が遊びたいって言ってて。」

「なるほど、子供たちの為だったのかい。でも、パチンコと言えど威力は結構凄いから、あまり乱暴に扱わないようよく見ててやっておくれよ」

「ああ、ありがとう!よし、舞。それじゃあ家に戻ろうか」

「あ、うん。分かった。」


リンクはセーラにお礼を言うと、先に扉を開けて外に出た。
舞が出られるように扉を抑えて待っている。それを見て続いて出ようとした時、後ろから「ん?」と怪訝そうなセーラの声が耳に届いた。


「ちょっと待ちな、舞!」

「へ?あ、はい。何でしょう」

「あんた…その右手どうしたのさ?昨日見たときはそんな怪我してなかっただろう?」

「あ、」


舞はセーラが指しているものに気が付き、右手を顔の横まで持ち上げた。


「うーん、私もよく分からなくて…。今朝起きてたらいつの間にか火傷みたいな傷を負ってて」

「本当かい?あんた…まさか、寝ぼけながら熱湯にでも手をつけたんじゃないかい?

あの、この村の人たちはたった一日で私をどんな奴だと認識したんですか?


朝からマロにも言われた舞は、正直自分の存在価値を疑い出した。
だが、セーラはけらけらと笑って手を振った。


「あはは!冗談だよ冗談っ。本当に心配してんだからね、これでも。」

「えー…本当ですか?」

「ああ、本当さ。ほら、笑ったお詫びじゃないけど、これ持って行きな!凄い効くってわけじゃないけど、何もしないよりはマシだろうからさ」


そう言ってセーラが舞に投げ渡したのは、小瓶に入った薬だった。
何かと聞くと、どうやら傷薬らしい。有り難くそれを受け取り、舞は今度こそちゃんとした笑顔を見せた。


「ありがとうございます!」

「ああ。また無くなったら取りにおいで。またお裾分けしてあげるよ」

「はいっ」

「舞、そろそろ行けるかい?」

「あ、うん。今行くわ!じゃあセーラさん、ありがとうございました」

「こちらこそ、毎度あり!」


セーラさんの満面の笑顔と、猫の見送りの鳴き声を耳に入れて、舞とリンクは雑貨屋の扉を閉めた。
そして、リンクはパチンコを、舞は小瓶を確かに懐に入れ、お互い嬉しそうな笑顔を見せ合ってから家への帰路についた。





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