21.ギャグメタボリック
気がつけば、自分の周りを取り囲んでいた。
空とも海ともいえない不思議な青の空間が
「…――…」
何処ココ。
そう聞けども答える声はなく、地面のない空間でふわふわ浮かび上がるだけ。
―――バチチッ
不可解な電気の音が、横から聞こえた。動かない、動かせたくない体に従い、視線だけ横に流す。
周りに溶け込んでしまいそうな、それでいても存在感が何とも強い、人らしきものがそこにいた。少し丸まった背に、摩訶不思議な羽を生やせた者が
「(誰…)」
見知らない人に怪訝に眉を寄せる。
すると相手は、蒼く透き通った腕をあたしに向けて伸ばしてきた。
その腕から禍々しい紫色の『気』のようなものが浮かび上がり、泳ぐようにそれはあたしに溶け込んでくる。
ズズ…と音でもしそうな『気』は、別に痛みを感じるものでもない。
―――姉ちゃん!!
ふと、何も聞こえてこない耳に、渉の悲痛な声が響いた。
見知らぬ相手とは逆隣に視線を移せば、必死に手を伸ばしてくる渉がいた。
泣きそうな弟の顔を見て、只ならぬと感じたあたしは、動かせたくない腕を無理矢理動かした。
「――渉?」
「舞様ー?」
天井に向けて伸ばしていた手を、優しく包んでくれるキノピコが目の前にいた。
ボーっとする頭も伸ばした腕もそのままに、あたしは定まらない視線をキノピコに向ける。
「キノピコ…おはよ」
「おはようございますー。…あの、大丈夫ですかー?」
「え?何が…?」
「だって舞様…凄く魘されていましたー…キノピコ何度も起こしたんですけどー、お返事もなくてー…今もお辛そうですよー?」
昨日から専属メイドになったキノピコの心配そうに垂れた瞳があたしを見つめてくる。
大丈夫だ、と落ち着かせながら少しダルイ体をベッドから起き上がらせる。
冴えない頭を落ち着かせる為、起き上がってからそのまま数分呆けて…
「…うん、大丈夫みたい。心配かけてごめんねキノピコ。
さあ、今日はミッキーの所に行かないとね。呼ばれてるの」
ギシリ、と音を立ててベッドの上から主が身を退けた。着替えようとするあたしを見かねて、慌てて駆け寄ってきたキノピコがクローゼットから制服を取り出してくれる。
寝巻きを脱ぎ捨てながら、頭の中でさっきの渉の表情をこっそりと思い出した。
ギャグメタボリック
「――そうか…そりゃあまた妙な夢だなァ」
頭を掻きながら電子パネルに囲まれたマリオが言葉を呟いた。忙しなく傍をバタバタと、カラフルながら顔のない謎の生き物が走り回っている。
呟いた先にいる、舞も同じように頭を掻きながら
「支障があるわけじゃないけど、気持ち悪い後味が残るのよね〜。
マリオなら何か知ってるかと思ったけど…」
「悪いな、また向こうで分かったら直ぐに連絡入れるからな!」
「あ、いいの。深く考えすぎなくても大丈夫だと思うから…気遣いありがとね」
「よーしっ、準備が整ったぞ!マリオ、ピーチ姫、魔方陣に乗ってくれるか?」
部屋の隅からマスターが歩み寄ってきた。自分の少量の荷物を持ったピーチ姫も部屋の中に入ってきて、魔方陣に向かって歩き出す。
「舞ちゃん、ちょっとの間お別れね〜。寂しいわァ」
「ピーチ姫、ほんのちょっとの間ですよ!大丈夫です、直ぐ会えますから」
「…そうね…そうだものね!直ぐに帰ってくるから、心配ないものねっ
あ、そうだ舞ちゃん。もし何かしら危険が迫ったら私の部屋に行って!ボム兵軍団が直ぐ様野獣どもをぶっ飛ばすからv」
「肝に銘じておきます」
心の中で使う機会がない事を祈りながら、魔方陣に乗るマリオとピーチに向き直った。
2人が乗った途端に魔方陣が淡い光を発しマリオとピーチの体を包み込む。
「舞、あまり気にするなよ!高が夢だ、大した意味はないだろうしなっ」
「連絡をまた送るからね、後日また会いましょうv」
「お2人とも気をつけて!」
舞の言葉が届くか届かないかの辺りで、2人の姿がその場から消えた。後ろからマスターの「成功だ」という声が聞こえてくる。
さて戻ろうかと体を反転させようとしたところで、舞はあることを思い出した。
「…あれ?異界転送って呪文言わなきゃいけないんじゃなかったっけ?『大人しくしやがれ愚民ども!!』って」
「ああ、あれは舞君専用だから。他の人たちは自動的に帰るようにしたんだ」
「Σズルっ!!ちょっ、何であたしだけなの!?」
「いや〜、やっぱりあの台詞は舞君が言わなきゃ面白くないからっ!」
「超理不尽」
楽しそうに笑いながらクレイジーの元に戻るマスターに肩が悲しく落ちた。自分だけあんな呪文(と呼び難いもの)を何故言わなきゃならんのだ、と心の中でツッコミながら。
まあ今更どうこう言う気力もなく、マスターとクレイジーの元へ歩み寄った。
「さて、それじゃあこれから大企画の計画を練っていこうか!舞君も協力してくれるよね?」
「その為に呼ばれたからね、それに楽しそうだし勿論よっ」
「よーしっ、それじゃあ特別イベント・競技大会『大乱闘スマッシュブラザーズDX』の詳細から確認しよう!!」
嬉々としながら電子パネルを操作すると、テーブルに電子で作られたプログラムが現れた。
――『大乱闘スマッシュブラザーズDX』――
本来、舞の世界ではゲームの正式名称と使われたその名前は、マスター達が企画するイベントのタイトルとなった。
前回に行った大乱闘オールスターが全国放映され、圧倒的な人気を誇った後の事、マスター達に吉報が届いたのだ。
それは、オールスターが闘うところを直接見たいと言うたくさんの願望の声が上がったとの事。
神様という立場にいるマスターとクレイジーだけならず、スマブラメンバーもこの屋敷にずっといる為に同じ世界の人々との交流が途絶えていた。だから、こう言う願いが届け出た時にチャンスだと思ったのだ。
そこで今回考えたのが大乱闘大会。
多く願われた事を叶え、人々からの信頼を集めるだけでなく、スマブラメンバーと同じく自分たちの為にもなる。そうなるならばどんなに困難でもマスターは実行しようと提案した。
そして…実況中継をした舞にも意見を聞きたいとの事でこうして手を貸してもらっている。
この特別イベントの事を知っているのは、マスターとクレイジー、そして舞だけだ。
「――で、空中スタジアムが設立されるからそこで大会を行おうと思うんだ。どうかな?」
「いいと思うわよ!面白そうじゃない、素敵な企画ね」
「ありがとう!それで、この日は舞君に大乱闘の実況中継をしてほしいんだ。
今回の事も、舞君の名が広がってのお陰でもあるからね」
嬉しそうに笑うマスターはまるで夢見る子どものようだ。自分の夢を楽しそうに語る子どもと何一つ変わらない純粋な笑顔を魅せる。
「あたしで力になれる事なら手を貸すわ。何でも言って」
「助かるよっ、じゃあ司会進行役は舞君に任せて〜…―――」
「おいマスター、新参者だ。
…遅れて来た組のな」
マスターの言葉を遮り、パソコンを操作していたクレイジーがキィ、と椅子を鳴らした。
その声に気付き振り返ると、浮き上がった一枚の電子パネルに『挑戦者が現れました』という文字が浮かび上がっている。
また来たんだ…一体参戦者は全部で何人いるんだろう
「あ、到着したかな?それじゃあお出迎えに行かないとね〜!」
「今回はあたしが行かなくていいの?」
「ああ、たまには統治者自らお迎えしないとね。
舞君、今日は新参者の面倒見にかかるからまた後日付き合ってくれるかな?」
「ええいいわよ、あたしは皆の様子見でもしてくるから」
大企画の書かれた紙を揃えて横に置いて、舞は小さく音を立てて椅子から立ち上がった。忙しそうに走り回るカラフルな謎の生き物達の行く手を阻まないよう気をつけて扉に手を掛ける。
ゆっくり開くと外から眩しい光が入った。この部屋は暗い分、外の明るさがとても眩しく感じる。
「ん、それじゃあね。2人とも無理しない程度に頑張って」
「ああ、お前もな。あまり振り回されるなよ」
「クレイジー!登録ファイルって何処に置いたっけーー!?」
奥からのマスターの声に溜め息を吐きながら、クレイジーも椅子から立ち上がる。
置くに行った事で2人の姿が見えなくなると、苦笑を漏らしながらも舞も扉を閉めて外に出た。
+++
――バタンッ
「うーん…ミッキーもマウスも大変なのね」
まあ、伊達に2人とも世界の統治者と管理者じゃないから。
あ、こんにちはどうも、女中学生です。今見たと思いますが、ミッキー達の手伝いをしていました。まあ、結局あまり役に立てないまま終わってしまったけど。
「もっと手伝える事があればいいんだけど、何しろ難しい話ばかりだからね」
日陰から日向に出たような感覚を、両腕を一杯に伸ばして感じながら一歩歩く。切羽詰ってるようだし、何かコーヒーでも注いでお貸しと一緒に持って行っても―――
…?
「あら?」
階段に向かって進んでいた足が、突如ピタリと止まる。足を引き止める原因となるものが聞こえてきたからだが、その原因は姿は見せない。
それもそうだろう、『原因』は見るものではなく聞こえてきたものだったのだから。
耳に入るのは綺麗に澄んだ音響
「また、弾いてる…。ハープの音色」
目を閉じると、聞こえてくるのは外からの鳥の鳴き声と案外近くから聞こえてくる弦楽器の歌声だけ。
最近、毎日と言うほど弾いているけど、きっとハープが好きなんだろう。実際、前見た時穏やかな表情をしていたから。
…それにしても、
「相変わらずプロ顔負けの腕前ね、ホント」
「―――それは僕のハープの腕の事かい?」
「Σなぉおおぉっ!?」
超至近距離からの凛とした声に思わず体が飛び退いた。後退したあたしが元いた場所には、静かに佇む青年が立っている。
相手は平然としているけど、あたしは心臓がバクバクしてしまい手で押さえてしまうほど。
「い、いつも突然現れないで頂戴よ…心臓に悪いわ」
「すまないな、穏やかにしているから、邪魔をするのもなんだと思ってね」
「まあね、穏やかになるほど上手すぎるんだもの――シークは」
「まだまだだよ」
謙遜しながらシークは顔を横に振る。とんでもなく発達されたハープの腕前を否定する者なんて誰もいないだろうにね…。
まあそこが彼のいい所かもしれない、そう思うと自然と頬が緩んだ。
―彼はシーク、最近知り合った不思議な人。トワさんとトゥーンが来た日から2日経った後、屋敷の聖堂でハープを奏でている彼を見つけたのが事の発端だった。
生真面目でミステリアスな雰囲気に包まれた彼は自身を『シーク』と名乗り、しかもあのゼルダ姫の弟だと言う事も教えてくれた。
いいですか皆さん、あのゼルダ姫の弟ですよ。ブラックホールを腹の中に飼う姫君の弟だと言うのに、シークは全く黒の気がない清純な青年なんです。
聞けば、ゼルダは母親に似てシークは父に似たと言うのだが…これを聞いた時点でハイラル王家の血族主従構成が境見えてしまったなんて言えない。
「今日はセレナーデを弾いてたでしょ?」
「分かったのか?」
「ええ、毎日と言うほど聞いてるから!ゼルダにも聞きながら覚えたの、あたしは一番プレリュードが好きだわ」
「嬉しいな、そう言ってくれると。…姉さんは今日何処にいるか知ってるかい?」
「えっと、バルコニーかテラスにいると思うわよ。用事?」
「ああ。父上から姉さんへの預かり物があってね」
余談ではあるけど、王族や貴族の人たちは皆『お父様』とか『お姉様』とか呼ぶのに、シークはそうしない。
前にその理由を聞くと、昔からゼルダも自分も市民の家族同士の気さくさに憧れを持っているらしい。だから堅苦しい呼び方はお互いの間ではあまりしたくないとか…
あたしはもう十分2人は仲がいいものだと思うけど、それでもまだまだらしい。
「とりあえず、テラスに行ってみる」
「分かったわ、後であたしもゼルダに会いにいくから、もし会ったら伝えておいてくれる?」
「ああ、承知した。それじゃあな舞」
また後で、最後にそう呟くとシークは昔の忍者さながらシュタッとその場から消えた。
彼はいつも神出鬼没に現れては消えてしまうから会える機会が少ないのよね…。今度会った時にはもう少し話をしよう
「さて、ゼルダには後で会うとして、それまで子どもたちと遊んでようかな〜」
ビタンッ!
「そう、例えばビタンッなんて展開も…、…………はい?ビタン?」
階段に向かおうとくるり、と半回転すると、丁度回った事により正面に来る場所に何かが落ちてきた。
比喩表現でもなんでもなく、言葉通りに『落ちてきた』んだ。
数メートルに満たない先に落ちた何かは、よろよろと体を起き上がらせた。
「いってーな〜…ポータル失敗しちまったじゃねえか、くそっあの勇者の所為だ」
ぶつぶつと文句を垂れながら起き上がったそれは、どうやってなのか体を浮き上がらせた。例えるならUFO並の未確認飛行物体と言った所か。
こ、この人(って言っていいのか分からないけど)何処から今降ってきたの?それにどうやって浮いてるわけ?……Σハッ!
人間じゃない!?(超今更)
目の前に突然振ってきた謎の生物に呆然としていると、謎の生物はさっきのあたしのようにくるりと振り返った。
「…ん?誰だお前」
まあ振り返った訳だから当然後ろを向いていた体はこっちを向くわけで…当然あたしの存在に気付く。
あたしも改めて『彼女』の姿を見ることが出来たけど、その体には不思議な模様を施してある。頭にも妙な形の被り物を被っていて………
その姿はまるで
「ち、…痴女!?」
「喧嘩売ってんのかテメェ…っ」
こんな展開どこかであったな
相手が米神に青筋を立てて、頭から生えている髪の毛らしきものがグーパンチの形を作るからこれ以上の言葉を紡ぐ。そうでもしないと今にでも殴られそうな雰囲気だから
「ご、ごめんなさい!いきなりだったから吃驚したもので、ついっ」
「つい、で痴女等と呼ばれたワタシの身にもなってみろ愚か者」
「(そりゃ嫌だろうけど…)本当にごめんなさい、えっとあたし舞って言うの。貴方は?何処から来たの?もしかして迷子とか」
「そんな訳ないだろ!…ワタシはミドナ、光の勇者の付き人だな」
「ミドナね、…ん?光の勇者?それってリンク?」
リンクが勇者だと聞いた事あるけど…彼は確か『時の勇者』だって言ってた。だから、光の勇者と言うのは初耳なんだけど…
「誤解しない為にも言っておくが…リンクはリンクだが、トワの方だぞ?」
「トワさんが!?あ、あの人も勇者なの?」
「まあな、影の侵略者から光の世界を守った勇者だ。所詮田舎者にすぎねえ奴だけどな」
「そ、そうなんだ…凄いのね」
「まっ、ワタシがサポートしてやってんだからな。当然だろ」
ニッ、と高飛車に笑うミドナだけど、彼女もトワさんの旅をサポートしていたんだ。
ナビィはリンクの旅のサポートをしていたと聞いた事があるけど、彼らには必ず付き人のような人がいるのかな。
まあそうでもないと、一人旅だなんて危険だしね。
「に、しても……テメェが舞だったのか」
「?あたしの事知ってたの?」
「ああ、まあな。
(豪くリンクの野郎が惚気てたが…成る程な、こう言うのが好みだったのかあいつ)
…くくくっ、遊んでやるネタが出来たぜ。礼言うぞ舞」
「は?」
こっちをじっ、と見てきたと思ったら楽しそうに笑い出す。摩訶不思議な彼女の言動に着いていけず、思わずあたしも首を傾げた。
一通り1人楽しんで笑うと、ミドナはふわりと飛んであたしの頭に肘を乗っけて頬杖をついた。
「なあ、ちょいと付き合ってやろうか?暇だったんだ、何処に行ってんだよ?」
「え?うーん、特にないけど」
「じゃあ中庭行こうぜ。あまり此処は知らねえんだ、ワタシを案内する許可をくれてやる!」
「はァ…そうね、じゃあ中庭行ってみましょうか」
何故か館内案内の命を下されたけど…
まあ、中庭には子どもたちもいるし、様子見も兼ねて行ってみたらいいでしょう。別に行き先も決まってなかったあたしは大人しく従う事にした。
玄関口に向かうまで、頭の上に乗ったままのミドナと他愛無い話をする。旅の間での事やトワさんの事と…少しずつ彼女の態度にも慣れてくると、自然にあたしも彼女との会話を楽しんでいた。
***
++in中庭++
「―――それでは今此処に、そなたをスマブラメンバーの参戦者として任ずる」
響く声が中庭から聞こえると同時頃、淡い金色の光が小さく輝きを発した。金色の光を当てられた向かいにいる少年は怖そうにぎゅっと強く瞑った目をゆっくりと開いた。
「―…よしっ、おめでとう!これで君も正式なスマブラメンバーだ。
これからよろしく頼むよ、リュカ!!」
リュカ―そう呼んだ人物はれっきとしたマスターで、彼は煌かんばかりの笑顔を少年に向ける。
名前を呼ばれ、笑顔を向けられた男の子は縞々模様のTシャツの裾を不安そうに掴んだまま見上げた。
「はいっ…あ、あの…でも、僕…遅れて来たのに、大丈夫、なの?」
おろおろとしながら、不安そうに歪む瞳を隠すようにスケボーを口元まで上げる。その様子を見て、マスターは笑顔を保ったまま優しく頭に手を乗せる。
「関係ないさ!要は実力の問題、君は十分に備わった力を持ってるんだ。それだけで十分だよ!」
「嬉しい…!僕、頑張るよ、マスターっ」
「いい志だ、頑張ってね!
…さて、じゃあこの屋敷での事やこれからの事を説明しながら少し歩こうか?」
「う、うん!」
中に入るまでに、周辺の構築も知っておくのがいいだろう。そう思ったマスターは、リュカの小さな手を握って歩調を合わせてゆっくりと歩いた。親子のように中睦まじく
「大乱闘の大体の知識やメンバー構成は裏世界に滞在している間に覚えたかな?」
「うん、覚えたよ。まだちょっと、自信ないけど…」
「構わないさ、これから少しずつ確実に覚えて行こうね。えっと、色々規則はあるけど、今一番大事な事を教えておこうか」
噴水近くに来ると、色取り取りに咲き誇った多種多様な花が出迎えてくれた。肌を撫でる程度の緩やかな風がマスターの長い髪の毛を攫い踊る。
視界に映った綺麗な色に、リュカの顔がパァッと明るくなった。
「もう直表裏期が近づく、表と裏の世界が1つとなる期間の事だけど、その時期がもうすぐだから覚えておいてくれ!
それと、近々大きな企画を行うから皆には早々に里帰りを済ませてもらってるんだ。」
「里帰り…?」
「ああ!その日に用事が折り重ならないようにねっ、リュカも済ませておいてほしいんだ。
企画開催日は一ヵ月後、それを頭の隅に置いといてね!さて、今大事なのはこれぐらいだが、何か質問とかあるかい?」
花に触れるリュカの隣にしゃがむと、マスターは枯れた花を見つける。撫でるように触れた途端、淡い光に包み込まれて花がまた逞しく蘇った。
その様子に微笑むと、再度リュカに振り返る。
「んっと、特には…あっ!あのっ、このお屋敷にいる人たちは皆さん強いの?」
「あー…闘えるスマブラメンバーはね。彼らなら皆強いよ!でも皆気さくでいい人だから、コテンパンにはしないから安心して」
「…?『闘えるスマブラメンバー』は…?闘えない人も、いるの?」
「まあね、お手伝いさんとかもいるし。それに、1人だけメンバーの中で闘えない女の子がいて――」
そこまで言うと、マスターの声を遮るほどの大きな声が聞こえてきた。
マスターだけでなく、リュカにも聞こえた声の発信源を2人して辿る。普段なら子どもたちの声なんだが、今回は違うらしい。
因みに、その声の発信源はと言うと……――――
「貴様着いて来るな!私に関わるなっ、これ以上寄るんじゃない!!」
「何てこと言うのよ!あの日の夜、一夜を明かした仲だというのに…っ、ハッ!あれはお遊びだったのね!?」
「そのお遊びすらした覚えはないぞ私は!!気味の悪い誤解もそのへんちくりんな物体も捨てろ!!」
「へんちくりんな物体?って、まさかこれの事?
何でよ、視界が見え難いって言うからその仮面に担うピッタリな仮面必死に探してきたのよ!」
「…そのピッタリな仮面とはまさかその物体か?」
「そうよ」
「『そうよ』じゃない!どっからどう見ても明らかに骨だろうが!!
そんなもん被ったら末代まで祟られるわ!!」
「あら〜、折角ヨッシーが体張ってくれたと言うのに」
「Σ仲間使うな馬鹿者おおおぉぉおおぉおぉぉぉお!!!」
「くくくっ、からかい甲斐があるなこいつ」
中庭中に響くほどの大声、原因は舞とメタナイトでした。
元々青い体を更に真っ青にしたメタナイトに迫る、何故か片手に巨大な何かの骨を持った舞とその近くにミドナが向こう側にいる。
まあ、何とも近所迷惑な
「え、えと…誰…?」
初めて見たスマブラメンバーであり、初めての光景に驚いたリュカはビクビクしながらマスターに尋ねた。
「ああっ、スマブラメンバーの一員だよ!丸い方がメタナイト、女の子の方が舞君だ。
彼女がさっき言ったスマブラメンバーの中で闘えない子だよっ」
「あの人が…そう、なんだ」
マスターは慣れたからか、それとも楽しんでか笑顔のまま舞達を見つめている。見つめる先では手本なのか骨の仮面を被ってみせる舞と、それを見てお腹を抱えて笑うミドナ、呆れるメタナイトがいる。
その光景を見てマスターは何か閃いた。
「そうだ、顔馴染みにちょっと話してみよう!」
「えぇ!?ぼっ、僕が…!?」
「これから付き合っていく仲間だ、それに、舞君は特に良く接してくれる。運がいいと思うよ!」
人見知りな為に怯えるリュカの手を引いて、マスターは舞達の方へ近づいていった。
「いいじゃない別に仮面なんてどれでも!!
正直な気持ちは貴方の素顔が見たいだけなんだから、口に出せないその気持ちを読み取って行動するのが紳士ってもんよ!!」
「おもっくそ口に出てるぞお前」
「Σしまった!!
えーいもうっ、じゃあいいわ別に!分かったならとっとと身包み剥ぎましょう、さあ早く!!」
「や、止めろ!よさんか乱暴女!!いたたっ、貴様身まで引っ掴むんじゃない!!」
「おーい、舞君!メタナイト〜!」
「ん?あら、ミッキーじゃない。丁度いいわっ、メタナイトの仮面引っ剥がすの手伝って!!」
「面白そうだね〜!手伝いたい所だけど、今はそれ所じゃないんだ。君達に紹介したい人物がいるんだよ」
苦笑しながら頬を掻くマスターの言葉を聞いて、今までメタナイトを引っ張っていた舞が止まる。
その隙をついて彼も離れるが、今は彼女もそれに気付いていない。
「紹介したい人?もしかして、参戦者?」
「お、目の付け所が流石だね!その通り、参戦者だ。新しく来た子だよ!」
マスターはそう言うと、後ろに隠れていたリュカの背中をそっと押す。
とうとう前に出され、冷や汗を流しながら体を硬直させるリュカ。
「え、えっと…りゅ、リュカって言いますっ。あの、よろしく…お願いしますっ」
「初めましてリュカ、あたしは舞!こっちはメタナイトで、こっちはミドナ」
「礼を言うぞ、お陰でこの馬鹿女から解放された」
流れた汗を拭うと、メタナイトは舞から距離を置いた。つまらなさそうにミドナは腕を組んで横目でその様子を見ている。
「そうは言っても案外楽しんでたんじゃない?メタニャイトも
…あ、噛んだ」
「噛むな馬鹿もん!!何だそのおぞましい響きは!?」
「イヤ、意外にメタナイトの名前ってレパートリーあるわよ?
例えばメタニャイトでしょ、ダメナイトでしょ、メタボリックとかあるし、あと――」
「もういい止まれ。もはやメタしかあっとらんだろうが」
「1頭身だから仕方ねえだろ〜。っと、そんな事より、この餓鬼放っておくのかよ?」
またもや始まった舞とメタナイトの漫才にツッコミ、ミドナの言葉で舞も慌てて思い出す。
因みにリュカは目の前で行われたマシンガントークにポカンとしていた。
「ご、ごめんねリュカ!メタナイト相手にすると、弄るのが楽しすぎて何でも直ぐ忘れちゃうのよ」
「聞こえてるぞ!!」
「あ、で、でも…仲がいいのは、いい事だよっ」
「リュカいい事言ってくれるわね!そうよね、仲がいいのはいい事だものね!」
ありがとう、と言いながらくしゃくしゃと頭を撫でる。満更嫌でもない様で、リュカはピンク色に頬を染めながらも嬉しそうに目を細めた。
メタナイトもその様子に何も言い返せず、溜め息を吐く事しか出来なかった。
少しは溶け込めたリュカを見届け、マスターは舞から少し距離をとった所に浮くミドナに近寄った。
「やあミドナ、君も楽しんでるようだね。どうだいスマブラ屋敷は?」
「あー、お前がマスターハンドって奴か?此処は明るすぎてワタシにはちときつい」
「ありゃ、それは気を悪くしたかな?」
「ん…だが、面白い奴に会えたしな、悪くない」
何か新しい玩具を見つけたようにミドナは口の端を持ち上げて視線を舞に向ける。
また何かからかったのだろう、今度はメタナイトに叩かれてしまい、その光景を見てくくっと笑った。
「(成る程、舞君か…)」
マスターもミドナと同じ方向へ視線を向ける。いつもそうだ、彼女はどんな人にでも気に入ってもらえる、何か魅力的なものを纏っている。
楽しそうに笑っている彼女を見て、心の中でだけでなく、マスターは微笑を浮かべた。
「(彼女は本当に凄いよ。きっと、舞君がいなければ今頃は…)」
長閑に楽しそうに見ている2人は穏やかな視線で見つめる。
…だが、ミドナは何かを思い出したように少し眉間に皺を寄せてマスターの方に肘をついて耳元に口を寄せた。
「おい、1つ聞いていいか」
「ん?何だいっ」
「…お前、舞に何をかけた?」
「?何を、って?」
「何かだよ。特別な、そうだな…呪いとでも言うもんか」
ミドナの『呪い』と言う言葉に驚き、マスターは少し顔を引き締めた。
「…何で君がそれを知ってるのかな?」
「知ってるわけじゃねえが、どうやらその様子だと当たりの様だな」
答えるわけでもなく、それだけを聞くとミドナはまたふわりと体を浮かせた。浮いた体を舞達の元に戻そうとすると、首だけを後ろに振り返らせる。
「気をつけろよ。
あいつが纏った呪い…放っとくととんでもない事になるかもしれないぞ」
忠告のように言い聞かせ、今度こそミドナは舞の元に戻ってしまった。
ミドナの言葉を受けたマスターは、寸ともうんとも言えず、只立ち尽くしたまま相変わらず笑っている舞をちらりと見た。
「そんなの、分かってるとも…」
それも直ぐに視線を地面に落とし、もはや動くのは風に揺られるまま踊る長い銀色の髪の毛だけ。
「……呪いが…――」
何かを言おうとした口をきゅっと真一文字に結んだ彼を強い風が叩きつける。ようやく持ち上げた首を空へ向かって擡げた。
雲1つない快晴な青空の筈なのに…
マスターにはその空が、何か不安を招く象徴に見えてしまった。
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