25.暴走スラッカーズ 後





先日マリオ達が元の世界に戻ってきましたわ。
ピーチ姫もお戻りになられ、そしてルイージも戻ってまいりましたの。

私は柄にもなく、表には出さないものの心の中では大いに喜びました。
愛しい方の帰りを信じて待つ…、なんてヒロインらしくて素敵でしょう?

久しぶりにお会いしたあの人と私はさり気なくお茶に誘って語らいましたわ。
それはそれは幸せな一時でしたわ!もう死んでも惜しくないほどに、その時の私は幸福で一杯でした。


で す の に


あの人は帰ってきてから、ずーーーっとその口から同じ女の名前を出すばかり!

自慢ではありませんが、私は気が長い女ではありませんの!
とうとう我慢が出来なくなり、あの人が嬉しそうに愛しそうに呼ぶ女の見定めをする為、スマブラ界なる所へ行く事を決心しましたわ。

勿論、相手が私の気持ちを知ってるわけじゃありませんが…、口惜しい気持ちが心の中で渦巻きまくりましたっ

許しません事よ…。私を差し置いてあの人の心を奪い取ってっ
待っていてください!貴方の気持ちが誤っているのだと、私が証明して差し上げますわ!

覚悟しなさいな『舞』とやら。
私が徹底的にぶちのめしてあげますからね!





暴走スラッカーズ 後






食堂よりも一回り大きい客室の中、高価なソファに腰掛ける1人の女性がいた。
彼女は整えられた顔をムスッ、と不機嫌にさせて誰かを待っている素振りを見せている。…見た目こそ綺麗なのだが、その威圧なオーラには近寄り難い。


―カチャッ

「お茶が入りましたー」


…と、1人だけ勇敢に女性に難なく近づく小さな影が。間延びした喋り方が独特的な彼女に、不機嫌なオーラを漂わせているお嬢様が目を開いた。


「あら、キノピコではありませんこと?」

「はいー。デイジー様、お久しぶりですー」


お茶を出したのはピンク色のキノコ、名をキノピコ。そしてお嬢様の方がデイジーと呼ばれた。
元々お互い同じ世界に住んでいた者通し、顔は見知った事があるらしい。


「そう言えば貴方此処で働いていましたわね」

「お陰さまでー元気に働かせて頂いておりますー」

「…いい加減、その間延びした口調どうにかなりません?」

「デイジー様は本日何用があってお越しになったんですかー?」


デイジーの質問に答えずに逆に質問すると、一瞬デイジーの眉間がピクリと動いた。
またさっきと同じように不機嫌顔に戻ると、お茶を置いて眉間に皺を寄せた。


「ある方の見定めですわ。」

「見定めー?デイジー様が直々にですかー?」

「ええ、その通りです。私が満足する枠に入るかどうかを」

「はぁ…。お気に召さなかったらどうするおつもりでー?」


トレーを両手で抱え、キノピコは可愛らしく首を傾げて尋ねた。横目でちらりと見ると、デイジーは再び紅茶に口をつける。


「決まっていますわ。気に入らなかった場合―――」


…と、そこまで言いかけたその時、客室に向かってバタバタと駆けて来る足音が聞こえてきた。
デイジーもその足音に気がつき、飲んでいた紅茶を一旦離して視線を巡らせる。


「来ましたわね」

「はいー?」


――バタアァァン!!


キノピコの疑問の声も遮り、大きな音を立てて扉が開かれた。継続させるように慌しい音が続き、入ってきた人物を見てキノピコは顔をパッと明るくさせた。


「あー…!」


ぐえっほぁぁ!!げほげほっ、た…たんが、喉に詰まっ…Σぅぶおっ!!


「…………。」

「舞様ーv」


登場と共に情けなく息切れしまくった舞に、嬉しそうにキノピコが駆け寄った。
それとは対に、デイジーは呆れたように目を点にして事の様子を見ている。と言うより呆然としている。


「あ、あらキノピコ…。キノピコが、あたしを、呼んだの…?」

「いえー、そんな恐れ多い事致しませんー!あー、じゃあデイジー様が呼んだのって、舞様だったんですかー?」


舞に引っ付いたままキノピコはデイジーに疑問を投げかける。その声でデイジーも我に返り、冷静を取り戻してソファから立ち上がった。


「貴方が舞、ですか?」

「はい?えっと、貴方は誰で…?」


此処で初めてデイジーに気がつき、舞も首を傾げる。


「今は私が聞いています、貴方は舞ですか?」

「え、ええそうですけど…」


曖昧な返事に1つ咳を零し、デイジーはスカートの裾を持ち上げた。


「私はデイジーと申します。早速ですが舞さん、貴方を見極めさせて頂きますわ」




++



「…は?」


素っ頓狂な声を思わず上げてしまった女子中学生です。どうもどうも
目の前に現れたデイジーらしき人物は、唖然とするあたしの周りを歩き回り始めた。まるで品定めしているように…


「(いや、その通りなんだろうけど)」

「ふーん……」


暫くぐるぐると人の周りを回り、デイジーは眉間に皺を寄せて考え込んだ。な、何か雰囲気が怖い…。
何か気に入らない事でもしたのかとドキドキしていると――


「駄目ですわね」

「へ」

「先ず登場の仕方も格好悪いですし、特別長けている部分があるわけでもなし」

「(そりゃ最近まで平凡中学生でしたから…)」

「見た目駄目、中身ぐだぐだ、胸もない

「Σうぐっ!!」


流石にまな板は指定されると女として辛い…!!(涙)


「全くと言っていいほど価値観などないではないですかっ」

「(悲しい…)」

「だと言うのに…何故貴方などに惹かれたんですの!?ルイージは!!


ビシィッ!と効果音でもつきそうな勢いで指を指される。突然の大声もそうだけど、今の台詞の語尾についていた言葉に思わず呆気にとられた。


「は…はい…?」

「ああ、憎たらしい!何故ですのっ、9割は確実に私の方が勝っている筈ですのに!!何がいけないと言うんですの!?」

「あのー、お言葉ですがそれは勘違いではないでしょうか…?」

「何ですって!?(ぐわっ)」


Σ怖っ!!(汗)どうやら相手は思った以上に(勘違いの)執念深いものを持っているようで、瞳をギランギランに鋭くさせている。


「る、ルイージが何を言ったかは知りませんが、彼があたしに興味を抱くなんてそんな」

「彼が間違っていると言うのですか!?」

「ぅ…」


お、怯えるなあたし!目の前にいるのは阿修羅じゃない、バーゲンセールにいるおばちゃんだと思え!!

………………。

いやいや、やばい!おばちゃん十分怖かった!!(涙)


「(落ち着け、落ち着け!)あ、あたしなんかが彼の心を射止めるような事は先ず考えられません。きっと別の人と勘違いしてるのでは…」

「とんでもありませんわ!彼は帰ってきてからずーーっと貴方の名前ばかり口にしているのです!!」

「……ホワット?

「ああもう!ですからっ、ルイージは貴方の話ばかりするのです!!それはもう至極楽しそうに!」


デイジー様怖いですー、なんてキノピコも言うからあたしも怖くなってしまうよ。


「ルイージは全て話しましたっ、貴方に出会った頃!貴方と話した時!貴方を観察した結果!!」

Σちょっと待て!!何だ最後の聞き捨てならない言葉!?」

「お聞きなさい!!!」

「すんませんした」


あれ、何であたしツッコミの権利さえ奪われてるんだ?


「どんなに努力しようと彼が私に向く事はなかった…っ」

「そ、そうは言ってもあたしに非があるわけではないので…」

「ルイージにあくまで罪を擦り付けるつもりですの!?」

「いや、そう言うわけじゃぁ」

「許しませんっ、もう頂けません!!私とうとう堪忍袋の尾が切れましたわ!」


バッ、と何処から取り出したか分からない扇を広げると、広げた扇あたしに向けてきた。
何をするかと思ってると、とんでもない事を言ってのけてくれた。


「今この場で貴方に決闘を申し込みます!!覚悟なさい!」

Σ何いぃいい!!?ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!!」

「何ですか、見苦しい言い逃れですの!?」

「違いますって!!あたし美女を殴るなんて出来ませんし、第一戦う事が出来ないんですって…!」

「問答無用!大人しくやられなさい!!」


地面を蹴ると、デイジーは俊敏な動きで扇を構えた。どうやら本気らしい!
うあぁぁぁ!!本当どうしよう!戦えないイコール押さえる事も止める事も出来ないという事っ


「き、キノピコ隠れて!!」

「でもでもっ、舞様がー!」


キノピコを隠そうとするよりも早くデイジーがもう直ぐ目の前までやってきた。鋭いあまり反射する扇を振るって攻撃に仕掛けようとする動きを読んで、何とか避けるだけでも!


ガギィィンッ!!


「――!!」

「…えあ?」


金装飾で飾られた扇と、銀装飾で飾られた剣がギリギリと歯軋りを鳴らせた。
勿論あたしがそんなもの扱うどころか持っているわけでもなく、必然的に扱っているのは別の人物になる。
あたしとデイジーを挟んだ間…


「な、何者ですか!?誰だか知りませんが、そこをお退きなさい!」

「それは出来ないな。初対面の相手に攻撃をするなんて、同じ貴族として頂けないよ」

「何ですって…っ!」

「――マルス!?」


庇う様に広い背中を見せるのは、ファルシオンで扇を受け止めたマルスそのもの。
やはり男と女では差が歴然で、デイジーは苦い顔をしてマルスから離れた。


――キンッ!


「無事?」

「え、うん。とりあえずは…」

「邪魔をしないで下さるっ?私は愚か者を処すのです!」

「聞き捨てならないな。これでも彼女は仲間だ、見過ごす程僕は人間腐っていないよ」


寧ろ腐ってるのはあたしだしね
…あれ?心の中で呟いた筈なのにマルスが笑顔を向けてくるのは何故!?(汗)

思わぬ邪魔が入った事にデイジーの顔が歪み、口惜しそうに握りこぶしを作った。


「何故…っ、何故ですか!!何故貴方なのですっ、私ではなく貴方が!」

「デイジー?」

「私は何年も彼に思いを馳せているのですよ!突然会った貴方なんかよりずっと…!!」


怒りか羞恥か、顔を真っ赤にして反論するデイジーは瞳にじわり、と涙を滲ませた。
その姿に思わず驚いたあたしは大きく目を見開くばかり


「どうして…、何故ルイージは貴方を…!こんなの、悲しすぎますわ…っ!!」

「デイジー…」


嗚呼、そうか。デイジーは心の底からルイージを愛してるのね…
努力をしても見てもらえない、気付いてもらえない心のもどかしさが苦しいんだ。だとしたら…


「(あたし、最低な事したかな…)」


「ねえ君、泣くほど心配する事なんてないんじゃないかい?」

「!」

「何、です…?」


涙を拭きながら、デイジーはさっきまで戦っていたマルスを睨んだ。マルスはマルスで、何を思ったかファルシオンを仕舞い、更にはゆっくりとデイジーに歩み寄った。


「ま、マルス…っ」

「大丈夫。―デイジー、だっけ。よく考えてみなよ」

「? 何をですっ」


ようやくまともに顔が見れた事に微笑み、不意にマルスは中間辺りまで来て歩みを止めた。かと思うと顔を振り返らせてあたしを見てくる。


「舞、君の好きな人の対象条件は?」

「え?萌える人なら年齢問わず

「親父系は?」

渋&クール!!(ぐっ)」

「―ってな具合で彼女には変わった趣味があるんだ」


聞き捨てならない事を言い除けながら、マルスはデイジーに向き直る。


「いつもマリオの二番手と呼ばれる挙動不審凄い運気ないはな奥手でヘタレルイージの儚い恋が果たして本当に叶うと思うかい?」

「(お、王子…)」

「ましてや、この屋敷には彼女の好み対象がわんさかいるんだから尚更の事無理。絶対無理

「(王子…っ!!)」


幾らなんでも好き勝手言いすぎだよあんた!!(汗)
あんたルイージを溺愛している人の目の前でそんな好き勝手言うと後が怖いわよ!?


「た、確かにそうですわね…」


Σぅオォォォイ!!お前も納得するかーーーー!!?


「彼は恋愛下手ですから、気持ちに気付いてもらうのも一苦労な筈…」

「此処にはルイージ以外にも彼女に惹かれる者達がたくさんいるんだ。彼に勝算はないと見てもいいと思うよ?」

「(哀れルイージ…)」

「そう、ですか…。そうですわね、そう言われれば……」


怒りも納まったのか、デイジーはぶつぶつと呟きながら俯く。数秒そうしていると、徐に顔を上げて初めて見せる笑顔を浮かべながらスカートの裾を持ち上げた。


「先程は…すみませんでした。怒りが暴走したあまり、我を見失ってしまいましたわ。」

「え!?あ、こ、こちらこそ…なんか、誤解招くような事しちゃったようですみません」

「いえ、自分がした過ちを見落とした私の責任です。どうかお許し下さい」


な、何だか…深々と頭を下げられる相手がお姫様だから、無性にこっちに罪悪感が生まれてきてしまう(汗)


「き、気にしないで!えっと、デイジー姫なら近い内にでもルイージを落とせると思うから。
頑張って、応援してるわ!」

「ええ、有難う御座います。私の事はデイジーとお呼び下さって結構ですので」

「あ、うん。分かったわ」


最初の誤解も何処かへ行き、一瞬でデイジーとあたしは溶け込んでしまった。今更ながら挨拶代わりの握手を交わすと、視線を自ずとマルスへ移す。


「良かったね舞、蟠りも解けたみたいで」

「ありがとうマルス!貴方がいないとどうなってたか分からないわっ」

「うん、喜べたなら、それでいいよ……。」

「…うん?マルス?」


一瞬だけ、マルスの体がふらりと揺れた。さっきまでの笑顔も薄れ、眉間に皺を寄せて苦しそうに息を吐き出す様は何とも妖艶な空気!
萌えようとする事も忘れ、額に手を当ててふらつくマルスに首を傾げた。


「ど、どうしたの?豪くふらふらしてるけど」

「ああ、さっき起きたばかりだからじゃないかな…?」

「さっき?へぇ…マルス、いつも早起きなのに珍しいわね。こんなに遅いなんて?」

「まあ、ちょっとね。今日は、どうしても…睡魔…が……―――」


――ずっ

そこまで言うと、突然糸が切れた人形のようにマルスが力をなくした。力の入らなくなった体は自然に地面に向かって倒れようとする。


「…え?」


向かい側にあたしが立っている為に、自然とあたしに向かって倒れる形になった。


「ちょ、マルス…!?」


不自然に凭れ掛かったため、倒れそうになる体を支え直そうとすると、マルスの額に手が触れた。


「!?す、凄い熱じゃない…!
マルスっ、ねえマルス大丈夫!?おーい王子〜〜!!」


慌てて支えるも、ぐったりとして荒い呼吸を繰り返す彼は返事も返せない程弱っていた。
さっきまで俊敏に動いていたのが嘘に思えるようなまでに


「舞様ー?マルス様、いかがなさいましたー?」

「それが熱があるみたいでっ…と、とりあえず急いで寝かせないと!」

「大丈夫ですか?貸し手を呼びましょうか」

「ううん、大丈夫!王子を運ぶくらいならあたし1人でも十分――」


ぐいっ

「で!?」


気を失ったマルスを部屋に運ぶ為、背負おうと体を持ち上げた。すると、思った以上のズシリとした重みが体を襲いかかった。
一瞬体がふらついたものの、何とか足を踏ん張らせて持ちこたえる。


「ほ、本当に大丈夫ですの…?」

「だ、大丈夫大丈夫。とりあえず部屋に運ぶわね、デイジー、悪いけど話はまた今度っ」

「分かりましたわ」

「キノピコ、後で部屋に氷水とタオルと飲む水持って来てくれる?」

「分かりましたー!」


会って間もない別れに惜しむ暇もなく、あたしはマルスを抱えたままゆっくりと歩いた。
客室から出る頃に一度振り返って、軽くお辞儀をしてから客室を退室した。


――パタンッ

「ふう、よーし部屋まで頑張ろうあたし…!!」


ずり落ちた体を背負い直して、改めて気合を入れなおす。一歩一歩歩く度に体に負担がかかると言う事は、それなりに王子の体が重いと言う事。


「マルスって以外に重いんだ…脂肪って言うより、筋肉の所為で」


華奢だと思っていた体は、やっぱり男性であるが為かそれなりに筋肉質に出来上がっている。まあ、乱闘をする以上それなりに必要なものだろうから

それでも思った以上にがっしりとした体に驚きも隠せず、けど驚くよりも先に足を進める事に専念した。



………………あ。


「あたし王子の部屋知らん


今更な問題に気がつきながら






***






++in管理室++





真っ暗い管理室の中、パソコンを前にクレイジーは誰かと話していた。その先の相手は向いてる方向―パソコンのモニターに映されている。


「そうか…それは残念だな」

『仕方ないデ。用事が終われば直ぐにでも迎えるよう努力する』

「あぁ、そうしてくれると助かる」


モニターには、青い体に赤い帽子と服に身を包んだ生き物が映し出されている。その姿は、とても人間とは言い難い不思議な生き物。


「では参戦者登録用の必要書類を後日送ろう。それで構わないか?デデデ大王

『止めてくれ。神に大王なんて恐れ多いデ』


溜め息を吐きながら言うと、クレイジーは口端を持ち上げた。どうやら相手は、デデデ大王と言うらしい


「兎に角、カービィがそっちの世界に帰る時に渡しておこう。頼むぞ」

『…カービィじゃなくメタナイトに渡してくれんか?無事に届くか分からんデ』

「会えたら、な」

『やれやれだデ。ではまた後日頼むゾイ』

「承知した」


パチリ、軽いタッチ音が聞こえると数あるモニターの1つが光を消した。
クレイジーは軽く腕を伸ばし、ディスクチェアーから立ち上がる。


「さて、登録用ファイルを…―と、そうだった。リュカが来た時に、あの馬鹿に渡しておいたままだったか」


そう呟きながら、マスターの散らかったデスクの上をガサガサと漁る。色んな紙が出てきても、自分の探す物が出てこずにクレイジーは首を傾げる。


「む、あの馬鹿…。また適当に置きおったな」


眉間に皺を寄せて、溜め息を吐きながらまたもデスクの上を細かく調べていった。


「マスター!以前渡した登録用ファイルがあっただろう。何処に置いた!?」


大声を上げながら探す手は止めようとはしない。…ところが、普段なら馬鹿煩く帰ってくるマスターの声が今日は返ってこない。
隣部屋への通路。そこへ向かってクレイジーは何度もマスターの名前を呼ぶ。


「おい、マスター!いるんだろうっ、返事をせんか!!」






「…………」


クレイジーの声が耳に届いてる、一方のマスターは…
大きなモニターパネルに広がった資料の一つに手をついて項垂れていた。


「そんな…、まさかとは思っていたが…」


驚愕に瞳孔が開かれ、流れた冷や汗が資料の上に落ちる。

舞の顔写真の載った資料の上に


「広範囲転移、強度増幅…此処まで、進むなんて…っ」


ダン!!と強くデスクを叩き、唇を強くかみ締めて額をデスクに擦り付けた。


「呪いが、確実に大きくなっている…!!」


皺が出来る資料の山には、どれも『舞』と言う字が綴られていた。その字は全て、ドクターの自筆と同一の物ばかり

世界に招かれざる客は、混沌への砂時計を傾かれだした。
世界統べる王者は逃げられぬ運命に愁いが浮かぶ―――






***







――マルス様、敵国が我が国へ押しかけてきます。

―直ぐに我らの世界へお戻りください!

―マルス様、私たちにお力を貸してください…!

―マルス様!
―マルス様!!



―――ス、…マルスっ

「…――……ん」

「あ、気がついた!大丈夫?」


薄く開かれた視界の中に、覗き込んでくる舞が飛び込んだ。気持ち悪く揺れる頭に腕を乗せて、眉を中央に寄せる。


「舞…。此処は…」

「あたしの部屋よ。本当はマルスの部屋に運びたかったけど、生憎部屋知らないから」


首を横に向けると額から何かが落ちた。視界に入ったのは白いタオル…どうやら冷たいタオルが乗せられていたらしい。


「熱があるなら言ってくれればよかったのに」

「ごめんよ…。それさえ気付かなかったんだ…」

「マルスが大丈夫ならそれでいいわ。水は?」

「ん…貰おうかな」


いつもより弱弱しく笑うと、舞は一度笑ってコップに水を入れてくれた。
有難くそれを貰うと、寝かせていた体を枕を背凭れに起き上げる。


「……久しい夢を、見たな」

「うん?夢?」


コップに入った澄んだ水に、少し顔色の悪いマルスの顔が映る。


「祖国、アリティア国で待つ仲間達が出てきたんだ。暫く、すっかり忘れていたなァ…」

「いい事じゃない!故郷が恋しくなってるんじゃないの?」


自分の顔が映る自ら視線を外し、ベッド脇に座る舞に視線を向けた。


「丁度皆、今里帰りしているんだから。マルスも一度様子見に行ってみたら?」


笑いながら告げる言葉。その言葉に若干重みを感じ、視線を外してしまう。
まだ冷たい水を喉に流し入れると、乾いた喉に潤いが与えられた。


「……ロイが、帰った理由…知っているかい」

「え?」


ふと、視線を窓に向けながらマルスが呟いた。その言葉は間違いなく舞に中てられた言葉。


「ええ、あたし現場にいたから!確か、小さな戦争の勃発が理由で人手を求められたんでしょ?」


それがどうしたの?と聞き返すと、マルスは持っていたコップを脇のサイドテーブルに戻す。


「実は…僕も同じなんだ。同じ理由で、祖国から帰還願望が多発している」

「え?ま、マルスの国も戦争!?」

「小戦争が勃発して言うのはエレブ大陸だけでなく、同じ世界にある僕達の国、アカネイア大陸も同じ事」


そう言って顔を上げるマルスの顔は、風邪を引いている身だと言えど凛々しく前を見据えていた。


「僕は一国の王子として何としてもその事態を抑える為出向かわないといけない。

――でも…」


一瞬でさっきまで凛々しい表情が消え、眉間に皺を寄せる。不快な表情になると、後ろ向きに枕に向かってボフッと倒れてしまった。


「マルス?」

「―ている」

「え?」

「故郷へ…アリティアへ帰ることが……怖くなっているんだ」


瞬間、舞の目が驚愕に一杯に開かれた。当の本人は片腕を怠りそうに目の上に押し当てて瞳を瞑っている。


「国へ帰ることが…怖くなってる?」

「うん」

「ど、どう言う事?元々自分の国なのに、何かあったの?」

「特に何かあったわけじゃないさ…。でも、祖国へ帰り、王子としてのプレッシャーがまた降りかかると思うと…重い」

「!」


王子としてのプレッシャー。それは一国を背負うと言う過酷な運命の中生きる事だろうか?
まだ成人を迎えていないか細い体に負われた、大きすぎる重い使命


「この世界は僕の気休めになれただろうか…」

「マルス」

「分かってる。この世界は、気休め程度の世界じゃない…分かっているよ」


自分で触れた湿ったタオルは、冷たさを無くして温い温度になっていた。


「でも今の僕はどうしようもなく壊れてるからなァ…。さっきの仲間の夢を思い出しただけで、頭が痛くなるほど」

「マルスは…壊れてないわ。壊れそうな原因が故郷なら、あたしが代わって何とか頼む」

「ありがと。その言葉だけで嬉しいよ」

「本気よ、あたし!」


真剣に声を荒げる舞を横目で盗み見た。マルスの辛そうな表情は、風邪だけでない事などとうに分かっている。
だから余計に自分も辛くなり、思わずスカートの裾を強く握る。


「あたし、全然戦いの知識もないし…戦争を止める術も知らないけどっ」

「……」

「でも、マルスが辛いと思う事なら頑張って取り除けると思うの!」

「王子としての重圧の重みがどれだけかも知らないで?」


苦しそうに咳を零し、向こうに向けていた顔を舞へ向ける。まるで敵視するように、いつもなら考えられないように睨み上げながら


「僕は…綺麗に出来た人間じゃない。気休めの言葉を聞けば「もう大丈夫」なんて言える様な奴でもない」

「マルス…」

「故郷を苦しく思い、醜く仲間を毛嫌う自分がっ」


うつ伏せになって枕に顔を埋め込む。額から落ちた温くなったタオルが顔の隣に空しく落ちた。


「…どんなに辛いか、君に…分かるのか……」


口から苦しそうに咳出る息が憎い。目を強く瞑ると額に滲み出る汗に気がいく。
気持ち悪く張り付く髪の毛に不快になり、熱いのに枕に顔を押し付ける自分が情けなく感じた。


「…ごめん、マルス…。平凡って役に立てないのね」


首筋に、冷たい感触が走る。驚いて視界だけで覗くと、汗の浮かぶ首筋に冷たく濡れたタオルが当てられていた。
さっきの温くなったタオルを、水に浸け直したもの


「馬鹿みたいに普通に暮らした報いね、多分。」


トントンと中てられるタオルが気持ち悪い汗を吸ってくれる。心地いい感覚が、広がっていた。


「無知がどれだけ頼りないか痛感したわ」

「…何、しているんだ?」


汗を拭うタオルが額に当てられる。疲れた目に冷たいタオルが当てられて、何かを吸い取られていくように肩の力が抜けた。


「汗拭いてるの」

「それは見れば分かる…」


自分が言いたいのは何でこんな事をするのか、なんだが。まともに言葉も発せないほど、今の心地よさに身を委ねてしまう。


「何も出来ないから、こういう事を頑張ろうかと思って」

「…何かをしなくちゃ落ち着けない?」

「落ち着けない。
マルスが泣いてるから、尚更落ち着けない」


舞の言葉に、マルスの目が一杯に開かれる。驚いている間にもタオルは汗を拭う。


「あたしはホント、何も役に立てないし頼りないけど…マルスの涙くらいなら拭けるでしょう?」


いつの間にか、自分の目元を拭うタオルに、目元に滲んだ水滴が吸い取られていた。
酸素を求めて鼻で大きく息を吸うと、ずず…と擦れる音が耳に響いた。


「悪夢を見た後の不快感なら、あたしにも分かるから」

「(何でだろう…)」


首に張り付く髪を見てか、舞はマルスの横髪を耳に引っ掛けた。マルスの口から熱い息が吐き出ると同時に、耳に向かって涙が落ちていった。


「(何で全部、見透かされているんだろう)」

「多分、風邪の所為で一時期精神が混乱してると思うしね!」

「(何でこんなに……、彼女の前だと…)」

「だから少し寝れば落ち着くと―――」


(泣きたくなるんだろう)
マルスがそう思うのと、耳から離れていく舞の手を掴んでしまうのはどっちが早かっただろうか。

振り切ろうと思えば振り切れる、弱弱しい力で


「マルス?」

「…舞…」

「は、はい」


幾ら弱弱しいとは言っても、所詮は男。真剣な眼差しで見られ、柄にもなく緊張する空気が漂った。


「僕は…」

「うんっ?」

「本当は最初、会った時から、君の事………――








大嫌いだったんだ」

「…………………は?


マルスからの予想外の言葉に、思わず張り詰めた体がガクリと落ちる。


「あ、あのマルスさん…?此処は普通、いい雰囲気に飲み込まれて「君の事ずっと好きだった」とか言うのが王道じゃないんじゃ…!?」

「ふっ…、僕が王道に沿って生きる男とでも思うかい?」

「え、何でいきなり青春漫画主人公


呑気に目の前で笑いながら言ってのけるマルスに頭が上手くついていけない。
人の手を握っておいてこの男は裏切るような事をっ


「で、大嫌いだったってどうして?」

「マスターが連れて来る程の人物だから、どんなに凄い人かと思ったら…。
好き勝手暴走するし、意味不明な言動で屋敷内を暴れ回るし」


マルスの中であたしは暴れているイメージしかないのか(by 舞)


「それなのに、ロイもリンクも周りの連中も惹き込まれていく。だから最初、凄く君が気に入らなかったんだよ」

「へ、へぇ…その割には豪く親し気で」

「うん。気を乗らせておいて後から一気に突き落としてやろうかと思ったから」

Σ最悪だこの人!!人権なんかあったもんじゃない発言!(汗)」


って言うか自分は最初からこの人に騙されてたのか!?あの人のいい笑顔は嘘だったと…!
何だか無性に自分が惨めに感じ、舞は溜め息を吐いて項垂れた。


「どうせいつかボロ出すだろうと思って暫く監視しても、相変わらず馬鹿ばっかりだし」

「(あれ、何で目からしょっぱい水が出てくるんだろ)」

「でも、その馬鹿さに惹かれたんだろうな…僕達」

「あーそうかそうか、そんなにあたしは…………へ?ひ、惹かれた?」


今度は思わず、言葉の意味が取れずにきょとんと呆けてしまった。
さっきからこの人は予想を反する事ばかり言いのける。


「いつか陥れようと思っていても、いつの間にか君のペースに飲み込まれている…」

「…」

「作り物の笑顔で対応しようとしてたのに、気がつけば腹の底から笑ってる笑顔になっているしね。

…何そのハトが豆鉄砲食らったような顔」


相変わらずの笑顔を浮かべるマルス。それとは対象に、舞は目をぱちくりさせて見入っていた。


「え、いや…だってさっき言った事と全く違う事言ってるから」

「違う事…?」

「うん。だってっさっき、『大嫌い』だって…」

「あのね…、僕は『大嫌いだった』って言ったんだよ?過去形なんだから、イコール今は何とも思ってない。そうでしょ?」

「はぁ…そうなんだ。よ、良かったーっ、美形に嫌われるなんて死ぬと同じだからね!」


大袈裟に言いのけ、舞は空いた片手で頭を掻く。
マルスも笑みを小さく零し、ずっと握っている舞の手に少しだけ力を込めた。


「そうと決まれば早いところ風邪治さないとね!」

「ああ。


僕は…周りの奴らに、負ける気はない


マルスは舞の笑い声で聞こえない事をいい事に本当にか細い声で呟いた。
冷たいタオルに当てられた所為か、少しずつ睡魔が襲いかかろうとして、マルスの思考がうとうととなっていく。


「マルス?眠いの?」


耳に届くのは、笑うのを止めた少女の声。返す気力もないまま視線だけ張り巡らせると、視界の中にサイドテーブルに飾られた小瓶が目に入った。


「(あれは…)」


ほんの一瞬考え、マルスは小瓶に入った黄色の花を手に取る。
それを半ば押し付けるように自分が握る舞の掌に包み込ませた。


「花…?ひまわり?」

「ヤナギバヒマワリ。…造花だけど…今日の、お礼」

「へぇ…!」


ひまわりを握らせると力が尽き、とうとう疲れが表れた顔を枕に埋める。顔の直ぐ隣に舞の手と造花の花を添えて瞳を瞑った。


「ありがとうマルス!お休みっ」


お休み、と返す事も出来ないままに、マルスは意識を沈めていく。
最後に額に置かれた冷たいタオルと、タオル越しの温かい手の温もりに、また涙が零れそうになった。


「(いつか、きっと…――)」


本物のヤナギバヒマワリをあげる。
――きっと君はその意味に気付いてないだろうけど…

本物を上げる時は、その花言葉に気付かせてあげるから



ヤナギバヒマワリの、花言葉を







++○月●日++

本日の帰還者…
・ガノンドロフ
・C.ファルコン
・ゼルダ
・ソニック
・ナナ
・リュカ
・マルス




Next Story.

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アンケートよりゲスト出演・・
『デイジー』