9.2/18(火)《3》苛めっ子の巣窟

約束の5分を大幅に越えていて、恐る恐るドアをあけると、案の定怒った出水が突進してきた。

「唯我!遅いぞてめぇ…あれ?君誰?柚宇さんの友達?」

お約束の展開となり、正体を知っていた国近が突っ込みを入れる。

「いやいや、出水くん。唯我ちゃんだから」

「へ?… えーーーー!!」

「嘘だろ。身体のフォルムは同じだが、顔は別人にしか見えん」

国近の言葉に、出水と太刀川が驚いた表情で苗字を見つめる。

「まあ、二人の気持ちは良く分かるよ。昨日私も唯我ちゃんだって気付かなかったし」

「なんだよ、そのイメチェンは?」

「イメチェンじゃなくて、家でも身体を鍛えることにしたので、髪と化粧にかける時間がなくなって何もしていないだけです」

これも毎度となる説明を二人に行う。
知り合いには毎回しなければならない気がしてタメ息を吐きたくなる。

「化粧を落とすとギャップがあるって女の子は言うけど、マジだな」

「唯我だと思うと生意気に見えてくる」

太刀川はいいとして、出水の言葉には棘がある。
そして、行動にも棘がある。
苗字の髪が以前と変わらないくらいの強さで出水に引っ張られる。

「痛いです、出水先輩。髪を引っ張るのはやめて下さい」

「トリオン体なら痛みはないだろ」

なんと、いつもは傍観してる太刀川が乱入してきて、苗字の頬をつねってくる。

「心が痛むんです」

「そーかそーか」

まったく聞く耳を持たない男達は、手を離さない。

「やめて下さい」

「やべぇ、こいつのほっぺた餅みてぇに柔らかくて伸びる」

ビョーンと効果音がつきそうなくらいに伸ばされた苗字の頬を見ていた国近。
にやりと笑い、片方の頬を太刀川から奪った。

「国近先輩までひどいです。太刀川隊は苛めっ子の巣窟ですか!」

「いやいや、これは私達の愛情表現だよ」

ニヤニヤしながら笑って否定する国近。

「そうだぞ。お前はうちのマスカット的なやつだからな」

「太刀川さん、それをいうならマスコットですよ」

「そうとも言う」

今日も太刀川隊は平和である。

そのあとは暫くオモチャ状態となっていじられたが、飽きると宣言通り太刀川と出水の的になった。
家で一日身体を鍛えただけだったが、以前とは比べものにならないくらいスムーズに動けた。
その動きを見ていた太刀川からアタッカーの才能もあると目をつけられ、グラスホッパーとスコーピオンと拳銃を使い反撃するように二人に訓練されヘトヘトになる。
最後はトリオン切れでベイルアウトになり、先に帰ることにした苗字。
今日の訓練をやる前から精神的に疲れてしまった。