8.2/18(火)《2》ナンパお断り

「君、見かけない子だね?」

「新しい子?」

「俺達が色々と教えて上げようか?」

狙撃手用訓練施設からの帰り道、3度目のナンパにあってしまう。

「間に合っているので結構です」

こうやって引き留められて、約束の5分を大きく過ぎている。
作戦室から作戦室までの距離であれば、使用するのはB級以上でチームを組んでいる人ばかりなのでナンパに合うこともなかったが、狙撃手用訓練施設から作戦室までの帰り道では訓練生やC級隊員が多くこうやって何度も話し掛けられていた。
次からは東と一緒に帰るか、帰る時だけでも隊服に変更しようと心に誓う。

「そう言うなよ」

「ちょっ離して」

肩に腕をのせられ、馴れ馴れしく触れてくる男。
影浦の様にトリガー使って撃退しようかと考えていると、別の方から聞いたことのある声がした。

「あっれー?君達何してるの?」

「うわっ、犬飼さん」

二宮隊の軽い人、犬飼澄晴が乱入。
ナンパ共も元A級現B級1位の人には頭が上がらないらしい。
肩に回されていた腕も解かれて、三人は壁際に逃げている。

「いや、この子が色々と教えて欲しいって言ってくるんで俺達で教えてあげようかなって」

「そーなの?」

「違います」

反抗した瞬間睨まれてしまい、反射的に一歩下がると、側にいたシャイボーイ辻新之助が苗字を庇って目の前に立ってくれた。

「困ってる顔をした女の子は放っておけないよね。この子の代わりに、俺が色々と教わろうか?」

「「「結構です」」」

逃げていく男共。
スマートに撃退してくれた二宮隊の二人は、スーツ姿だった事もあり、2割増しで格好良く見えた。

「犬飼先輩、ありがとうございました。辻先輩も背中に庇ってくれてありがとうございます」

お礼を言って頭を下げる苗字。

「いやいや、気にしないで」

「……///」

「やっぱり皆女の子にはアマイから」

先日のランク戦で、雨取を庇った絵馬と影浦に落とされた事を思い出す。

「犬飼先輩が筆頭ですよ」

確かに辻の言う通り、犬飼が一番女の子に甘い気がする。

「言うじゃん、お礼言われたくらいで照れてる辻ちゃん」

「……そっか、辻先輩は女の子NGでしたね」

自分達を知った風に話しかけてくる苗字に心当たりがなく、失礼かと思ったが名前を聞く犬飼。

「所で、君の名前を教えて貰ってもいいかな?」

「えっ?ああ…唯我ですよ」

また、この髪と顔だと苗字とは認識されていなかったのかと納得し名乗った。

「「えっ?」」

「太刀川隊の唯我苗字です」

「えーーー、唯我ちゃん?あの縦ロールとケバい化粧はどーしたの?」

ケバい化粧と思われていたのかと密かにショックを受けるが、顔に出さずに犬飼の疑問に応えた。

「セットに時間がかかるので今後しないことにしたんです」

「顔面詐欺じゃんwこれは中身を知らない奴等はつられちゃうね」

「中身が悪くて悪かったですね」

犬飼は唯我の名前に恐れず、実力がないからと蔑む事もなく、一人の後輩として苗字をからかう存在だったのでこの様な軽口をたたける。

「あれ、反応も違うね?いつもだったら、"わたくしにそんな事を言うなんてただですむと思っていて!おーほほほほ!"って感じじゃん」

悔しい事に再現率100%だった。

「辻先輩、嫌みな性格の先輩を上に持つと辛いですね。お互い頑張りましょうね」

犬飼には口で勝てる気がしないので、辻に話題をふった。
ついでに、シャイボーイをからかう為に、ギュウッと辻の片手を両手で握りしめた。

「……///」

見事に真っ赤になって固まる辻に、スッキリした苗字は少しだけSの素質があるのかもしれない。

「こらこら、優しい先輩がナンパ野郎から助けてあげたでしょう」

「そこは感謝しています…あっ」

「どうした?」

すっかり太刀川の命令を忘れていた事を思いだし、慌てる苗字。

「ヤバイ、すぐに作戦室に戻ってこいって言われていたんだった。じゃあ、今度このお礼は「ちょっと待って。作戦室まで送るよ」

お礼は必ずしますから。
そう言って走り去るつもりが、辻から口を挟まれた。
あの辻が女の子を送るなんて大胆な発言をするなんて意外だった。

「いやいや、そこまでしてもらったら悪いですよ」

「その顔で、その態度だとまたナンパに捕まっちゃうから大人しく送られなさい」

犬飼にも言われてしまい、断り続けて時間をロスするのも嫌だったし、またナンパに合うかもしれないので素直に提案を受け入れる事にした。

「うっ…ありがとうございます」

犬飼と並んで歩き、後ろを辻がついてくる。
何度か白い隊服の人とすれ違い、振り替えって見られる気配はしたが声を掛けられる事は無かった。

「ここです。ありがとうございました」

無事に作戦室について、送ってくれた二人に頭を下げる。

「お礼は手作り期待してるから」

この身体で手作りなんて挑戦した事がないので、別の形をそれとなく提案する。

「私の手作りより専門家が美味しいですよ」

「じゃあ、助けたお礼と護衛のお礼で二つ分ね」

反論は聞かないとばかりに去る犬飼とペコっと頭を下げて去っていく辻。
お菓子作りに挑戦する事が決定した。