6.2/17(月)《2》誰も気付いてくれない

東隊の作戦室から出て、太刀川隊の作戦室に帰ると国近が定位置でゲームをしていた。

「お疲れ様です」

「おつかれさま〜。って…誰?もしかして出水くんの彼女?」

どうやらこの姿では国近も誰か分からなかったようだ。

「出水先輩の彼女なんて冗談止めてください。唯我です」

「え、唯我ちゃん?とうしたのその顔と髪!整形?」

確かに整形を疑われるくらいに見た目が激変している。

「いやいや1日で整形は無理ですよ。今日はノーメークなんです。というか、今までの髪型やメイクだと三時間もかかるので止めることにしたんです」

「そっか。三時間は面倒だね。私だったらゲームに時間をかけるよ。にしても可愛い」

「私も訓練に時間を取りたいので。誉めても飴くらいしかないですよ」

サイドバッグから飴を取りだし、国近に手渡す。

「ありがとう。東さんとの初訓練はどうだったの?」

「東さんが優しくて誉め上手で、説明も分かりやすくて結構上達したと思います」

笑顔で応えると、国近もにこりと笑顔を返してくれた。

「狙撃手に向いてそうなら良かった」

「はい。今から自主練習をしようと思うんですけど、狙撃手用のトレーニングモードは使えますか?」

「OK。今から準備するね」

「ありがとうございます」

部屋に入ると、東隊と同じ訓練室だった。
各部屋のトレーニングモードは同じ設定で作られているようだ。
まずは、的を中央と左右、前後に設置し、前の的は普通に撃ち、後ろの的はグラスホッパーを出してジャンプしながら撃つ。
実は苗字、機動型スナイパーを目指していた。
昨日見た映画の主人公が、空を駆けながら次々とトリオン兵を倒していく姿は格好良く、自分もそうなりたいと思ったので早速練習してみた。
普通に撃った場合、狙った黒い部分を撃ち抜いているのに対し、グラスホッパーを使い空中で撃った場合、狙った位置から外れている。
どんな体勢でも百発百中の機動型スナイパーガールを目指す為、トリオンが切れるまで練習をしたのだった。



家に帰ると先生が来ており、天井の高い部屋に案内される。
部屋には昨日着けたVR機と黒い全身黒タイツだけが置いてあり、家具が全て消えていた。

「さっそく訓練を開始しましょう。まずはこの補強スーツを服の上から着てからVR機を頭に被って下さい」

「はい。…準備出来ました」

まさか全身タイツを着るなんて、知り合いには絶対に見せたくない姿だ。

「今日は昨日の映画通り身体も動きます。無理な体勢にはならないように作られていますが、異常があればおっしゃって下さい。今回は身体を実際に動かすので、30分後に休憩を挟みます」

「へ?あんな動き出来るんですか?」

昨日観た映画の主人公は、近接が空閑遊真の動きの様で、高速かつ精密な剣技と不意を突くセンスとスキルが抜群であった。
とても同じ動きは出来そうにない。

「補強スーツがあればどんな動きでも設定された動きが出来ますのでご安心下さい。それでは開始します」

苗字の心配を余所に、昨日観た映画が始まる。
主人公視点は変わらず、確かに強制的に身体が同じ動きをさせられている感じが分かる。

「わっ」

「ひっ」

「ぐえっ」

昨日よりもリアルに感じて、思わず声が出てしまう。
30分があっという間だった。
途中休憩でVR機を外すと、全身から汗が吹き出ていて物凄い運動量だったことがうかがえる。

「お疲れ様です。お水をどうぞ。どうですか身体の調子は?」

ペットボトルの水を受け取り、一気のみをする。

「今の所何の問題もないみたいです。そんなに疲れてもないですし」

「30分後にその補強スーツを脱いだらきっとびっくりしますよ」

困った様な顔をして苗字に告げる先生。
いい辛い事なのかもしれない。

「何にですか?」

「全身運動を行って、理想の身体を作っているので疲労や倦怠感に襲われるんです。補強スーツは痛みや疲労を感じない機能があるので今は分からないと思いますが」

「それはきついですね」

確かに、あの様な動きを実際にしているのであれば身体が悲鳴をあげているに違いない。
翌日の筋肉痛を想像して大きなタメ息を吐く苗字。

「早く回復する薬もお渡しするので、明日には軽い筋肉痛程度におさまりますよ」

「はぁ。まあ、一週間で肉体改造するならそれくらいの犠牲はあって当然ですよね」

薬の存在にほっとして、やると決めたからには頑張るしかないと気持ちを奮い立たせる。

「ご理解頂き助かります。それでは続きを再開しましょう」

映画が再開され、それから30分。
訓練を終えると、先程よりも更に凄い汗の量で大変な事になっていた。
補強スーツを脱ぐと、服がびしょ濡れで大雨に打たれたような有り様。
先生はすぐに機械を持って帰ったので、
薬を飲んでお風呂に入った。
風呂から上がった後は、全身を襲う疲労と倦怠感で直ぐ様ダウンする苗字であった。