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「名字さん、飲んでる?」
「あ、はい…」


課長との一件で業務に戻るのが遅くなったり、仕事をしていても変に思い出して仕事が手につかなくなりそうになったけど、何とか1日を乗り越えた。
そうして始まった飲み会は、課長から大分離れた席。
そりゃそうなるよね、と飲み始めたところでさっき話しかけてきた男性が隣に座った。
もう既にお酒を飲んでいるのか、頬が赤い。


「名字さん、今年度からこの課に来たでしょ?色々話できる機会があればって思ってたんだ」
「ああ…有難うございます」


色々話しかけてくれるけれど、自分の意識はその人の向こうに居る課長に向かってしまった。
両側に女性社員が座り、困ったようにお酌を受けている。
ああ、桔平さんってモテるんだ…
分かっていたはずなのに、いざ目の当たりにするとどうにも落ち着かない。
私は課長にとって部下でしかないはずで、こんな風に、もやもやする資格なんかないって、わかっているのに。


「グラス空いてるよ?何か飲む?」
「え、あ…じゃあハイボールで」


気を遣ってくれた男性が飲み物を注文してくれる。
その間ももやもやはとれずに、悶々とする。
そもそもただの部下に、橘課長は何であんな事をしたんだろうか。
今考えればあれって壁ドンってやつだよね。
期待するとか、意識とか、なんであんな事を言ってきたんだろう…


「名字さん?大丈夫?ピッチ早いけど…」
「え?あ…」


考えすぎたせいで頼んだばかりのハイボールはもうほとんど残っていなかった。


「すみません、大丈夫です」
「おかわり、いる?」
「おねがいします」


随分と気を遣ってくれる人のお言葉に甘えてお願いした。
そうして中々頭に入ってこない会話を聞きながら、悶々と考える事をやめることは出来なかった。


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