それから、ジンは度々凛華の目の前に現れるようになった。
ふらりと、家に現れるジンに、初めは驚いていた凛華だったが、段々と慣れた。
そして何度か会ううちに、この男が意外と優しいということに気づいたのだ。
――煙草を吸う時には、何気に外に向かって煙を吐いてくれる。
――貰いもんだと言いながら、海外のチョコやクッキー等、凛華が好きそうな物を持ってきてくれる。
ぶっきらぼうで不器用なジンの優しさが、何だか可愛かった。
そんな、ある日の事だ。
その日もふらりとやって来たジンを、凛華は部屋へと招き入れた。
煙草を吸わない凛華だが、いつの間にかジン用の灰皿や酒を用意するようになっていた。
「あ、ジンさんお酒飲みますか?この前美味しいって聞いて新しいお酒を――・・・」
「凛華・・・」
想像より近くから聞こえたジンの声に、凛華はびくりと体を震わせた。
「・・・・ジンさん?!」
何時の間に後ろに立っていたのか。腹部に手が回され、凛華はジンに後ろから抱き締められていた。
「・・・甘い匂いがする」
「えっ?!」
スンっ。と鼻を鳴らし呟かれたジンの言葉に、凛華はびくりと体を震わせた。甘い匂い、それはつまり――・・
「良い香りだ」
「っ――‐?!」
もしかして、抑制剤が効かず、フェロモンが出てしまった?!と焦る凛華を他所に、ジンは独り言のように呟いた。
「全く・・・俺は、αだとかΩだとか、運命何て信じてなかったんだがな・・・」
そう言うとジンは凛華の髪を掻き分け、項を露わにする。
「・・・っ・・・!」
滅多に人目に晒されぬ項を露わにされ、凛華の体がびくりと震える。
そんな凛華に気づかぬように、ジンは項の噛み痕――赤井との番である証を眺めた。
「・・・・お前の番のαは、随分力が強い奴らしい」
「・・・ふ・・・っ・・・!」
噛み痕を指でなぞられ、ピりっとした何とも言えない感覚が凛華の体に走る。
そんな凛華を見つめながら、ジンはゆっくりと言葉を続けた。
――‐だが、その強さに胡坐をかいたな
「己程の力を持ったαがそうそう居るはずないなどと・・・傲慢な事だ・・・」
幾ら強い力を持っていても、契約はいずれ薄まる。
「・・・これなら、俺でも上書きが可能だ」
凛華・・・
「っ・・・・!」
「俺の、Ωになれ・・・・」
「―――‐!!!!!」
ガリッ!!
「ひっ、・・・・っ、あ、あぁ・・・・・!!!!」
それは、突然の事だった。
思いつめた目をしたジンが、凛華の項を噛んだのだ。
その瞬間――‐まるで閃光が走ったように、凛華の体が震えた。
作り替えられていく。
赤井の為のΩで合った自分が、目の前の男の物へと作り替えられていく。それは、赤井と番契約を結んだ時以上の衝撃だった。
番相手が居なかった為、久しく放出されていなかったフェロモンが溢れだし、訪れていなかったヒートの訪れを感じる。
ヒートの訪れたΩが望むのは、一つ。
――・・・目の前のαが、欲しい・・・
嫌という程、思い知らされた。自分が、Ωであるという事。そして――目の前のαが、己の唯一であり、この存在なしでは、もう生きられないという事を――
「私の、ある、ふぁ・・・」
うっとりとした表情で伸ばされる凛華の手を、
「あぁ・・・俺の、Ω・・・」
ジンもまた、愛おし気にその手を取った。