気づいた時には全てが遅すぎた2

それから、ジンは度々凛華の目の前に現れるようになった。

ふらりと、家に現れるジンに、初めは驚いていた凛華だったが、段々と慣れた。
そして何度か会ううちに、この男が意外と優しいということに気づいたのだ。

――煙草を吸う時には、何気に外に向かって煙を吐いてくれる。
――貰いもんだと言いながら、海外のチョコやクッキー等、凛華が好きそうな物を持ってきてくれる。

ぶっきらぼうで不器用なジンの優しさが、何だか可愛かった。

そんな、ある日の事だ。

その日もふらりとやって来たジンを、凛華は部屋へと招き入れた。

煙草を吸わない凛華だが、いつの間にかジン用の灰皿や酒を用意するようになっていた。

「あ、ジンさんお酒飲みますか?この前美味しいって聞いて新しいお酒を――・・・」
「凛華・・・」

想像より近くから聞こえたジンの声に、凛華はびくりと体を震わせた。

「・・・・ジンさん?!」

何時の間に後ろに立っていたのか。腹部に手が回され、凛華はジンに後ろから抱き締められていた。

「・・・甘い匂いがする」
「えっ?!」

スンっ。と鼻を鳴らし呟かれたジンの言葉に、凛華はびくりと体を震わせた。甘い匂い、それはつまり――・・

「良い香りだ」
「っ――‐?!」

もしかして、抑制剤が効かず、フェロモンが出てしまった?!と焦る凛華を他所に、ジンは独り言のように呟いた。

「全く・・・俺は、αだとかΩだとか、運命何て信じてなかったんだがな・・・」

そう言うとジンは凛華の髪を掻き分け、項を露わにする。

「・・・っ・・・!」

滅多に人目に晒されぬ項を露わにされ、凛華の体がびくりと震える。
そんな凛華に気づかぬように、ジンは項の噛み痕――赤井との番である証を眺めた。

「・・・・お前の番のαは、随分力が強い奴らしい」
「・・・ふ・・・っ・・・!」

噛み痕を指でなぞられ、ピりっとした何とも言えない感覚が凛華の体に走る。
そんな凛華を見つめながら、ジンはゆっくりと言葉を続けた。

――‐だが、その強さに胡坐をかいたな

「己程の力を持ったαがそうそう居るはずないなどと・・・傲慢な事だ・・・」

幾ら強い力を持っていても、契約はいずれ薄まる。

「・・・これなら、俺でも上書きが可能だ」

凛華・・・

「っ・・・・!」
「俺の、Ωになれ・・・・」
「―――‐!!!!!」

ガリッ!!

「ひっ、・・・・っ、あ、あぁ・・・・・!!!!」

それは、突然の事だった。
思いつめた目をしたジンが、凛華の項を噛んだのだ。

その瞬間――‐まるで閃光が走ったように、凛華の体が震えた。

作り替えられていく。
赤井の為のΩで合った自分が、目の前の男の物へと作り替えられていく。それは、赤井と番契約を結んだ時以上の衝撃だった。
番相手が居なかった為、久しく放出されていなかったフェロモンが溢れだし、訪れていなかったヒートの訪れを感じる。

ヒートの訪れたΩが望むのは、一つ。

――・・・目の前のαが、欲しい・・・

嫌という程、思い知らされた。自分が、Ωであるという事。そして――目の前のαが、己の唯一であり、この存在なしでは、もう生きられないという事を――

「私の、ある、ふぁ・・・」

うっとりとした表情で伸ばされる凛華の手を、

「あぁ・・・俺の、Ω・・・」

ジンもまた、愛おし気にその手を取った。