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今日も今日とて鶴見中尉に連れられ兵舎を離れていた藍毬
久しぶりの晴天に空を見上げながら先日鶴見に呼び出された事を思い返した。

「高鳥君知っているかい?アイヌの金塊を・・・」
先日噂では聞いていたアイヌの金塊について鶴見は直接藍毬を呼び出しその事は告げ、鶴見の野望を語った。
「君にはまだまだ分からない事も多いと思う。しかしだね、その金塊が見つかれば我々師団は…家族はいつまでも安全に一緒にいることができるんだ。」

そう言って鶴見は藍毬の頭を撫で、有無を言わせぬように話は終わった。
その時はまた鶴見側への勧誘だと適当に鶴見に合わせて流したが、今回小樽の街に来たのもこの“金塊”が関わっての事であった為鶴見の成し遂げようとしている野望に一人心の内側に波を立たせた。




情報収集のため鶴見達は私娼窟に出向くが、流石に子供の藍毬が娼館に入る事もできずはずれの飲食店などに聞き込みをした後、馬番として少し離れた所で待つことになった。  

「(そば屋のおばちゃん…すごくお勧めしてきたな。美味しそうだったし、後で食べられないかな…今度でもいいな…)」
「見ろよ洋平、あそこに置いてかれた小鳥がいる」
「ホントだ、浩平毎晩一人寂しくピーピー泣いているんだぜ」

先ほどの聞き込みをしたそば屋の事を思い返しながら馬の手入れをしているとクスクスと笑いながら近づいてくる同じ顔、二階堂の双子が玩具を見つけた子供のようにウキウキとした顔で近づいてきた。藍毬は何かと二人でひそひそと小馬鹿にしてくるこの双子が苦手であった。

―造反の…百の紹介でなければ絶対に姿すら見せなかったのに…

「別に泣いてませんし、今は仕方なくここで待っているんです。」

ぷすんとふくれながら素っ気なく返事をすると双子を無視して馬の手入れに専念する。
その反応がつまらなかったのか、双子は顔を合わせると何かを考え付いたのかニヤァと笑い二人で藍毬の両脇に回り込み双子の息の合った連携で、深くカブっていた外套を取り、ぐりぐりと頭を撫でまわしてきた。

「ぴッ!?や、やめてください!」
「いいじゃん、守護鷹さま。洋平そっち押さえろ」
「いいかげん怒る…ピッ!?やめっくすぐりはっ!!ひっ!な、なし、ふぅはははっ!」

顔をさらされ髪の毛を乱された後、調子に乗った双子が藍毬を押さえつけながらいきなり脇の下に手をいれくすぐり始めてきたのだ。

実は双子と藍毬は仕事中の接点が多いのだ、それもすぐに暴走する双子を中尉が手っ取り早く終わらせる様にっと藍毬に命じて鎮圧させる為である。近頃ではある程度の接点がある者の中では双子が暴れても守護鷹を置けば何とかなる。と言われるほどその光景はもはや日常化としていた。

そして「日頃の恨み!」などと片割れが言いながらおこなっている点からも、人通りが多く藍毬が派手に反撃できない事を逆手にしていることが見受けられた。

双子のタッグに翻弄され藍毬は成すすべもなく、油断していたとはいえ大の大人二人にくすぐられている状態では手も足も出せなく。涙で潤む目で必死に双子を睨みつけるが無意味に終わる。

こいつ等・・・本気でぶん殴ってやる・・・!と思った時あった。

「あ!軍人さん 軍人さん」

そこには情報収集の為先ほど訪れた蕎麦屋のおばあさんが小走りかけてきていた。

「なんだ?あのばばぁ…あっ!」

おばあさんに気をとられた二人のスキを見て拘束から抜け出すと藍毬はおばあさんの方へ逃げていく、後ろからチッという音がするが無視

「おばあさん、どうしたんですか?」
「あぁ、さっきの軍人さん。ちょうどいいところに!あんたが言っていた[入れ墨]の事を探る男が店に来ているよ」
「え!本当ですか、ご協力ありがとうございます。案内をお願いしてもよろしいでしょうか…」

先ほどまでのほのぼのとした空気が一気に張りつめた。



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