0出会い
北海道の山の奥、人を騙し殺し奪う、悪虐非道の山賊の男女が本能の赴くまま子を成した。
子は名を貰う事も愛を貰える事もなかった。
感情も知識も成長しないまま、ただただ人を欺ける事だけを覚えていき道具として生きた。
命令通りに生きる、そんな日々が10年程経った頃…
まだ雪の残る山に近隣より山賊の情報を得た第七師団が山賊狩りに動き出しす。
ただの山賊と侮っていた彼らは、山賊達からの使者に備えることはできず、次々と仲間が殺されていくのだった。
何が起きているのか、兵は日に日に減っていくばかり、原因を突き止めようとしても目撃者も生存者もいない。
イタズラに減っていく仲間達…そんな中、物は試しとマタギである一人の兵が張った獣用の罠が作動していた。
しかし獲物はいなく。血塗られた罠が手負いの使者がいることを告げる
急いで上官へ報告しようと立ち上がるマタギを何者かが制した。
「おい、谷垣一等兵…そりゃ人の血か?」
「尾形上等兵!……恐らく人かと…この血の量からして野生の獣が抜けられるとは考えにくいです。……ただ…」
歯切れの悪いマタギ、谷垣に尾形はただ黙って意見を待つ
「…罠の範囲からして…恐らく小柄な……それこそ…子供、かも…しれません」
「おい、お前が俺達を夜な夜な殺してる奴だな」
血塗れの子に銃を向け、笑いかけた。子は黒みがかった藍色の瞳で尾形を見つめ返す。
数時間前、尾形は部下が手に入れた"山賊からの贈物"の手がかりを、
師団全員で探すより個人で終わらせる方が得策であると判断し、かつ尾形のただの気まぐれから[そんな筈あるか、考えすぎだ]と一掃したのだった。
「(なんて目をしやがる…)」
見た目から10歳そこらの子供の目に映る光はなく、戦場を生きてきた兵たちと同じ闇にのまれたような死んだ目をしていた。
また罠から無理やり引き裂いたせいだろう、周りの白い雪には足から出るどす黒い色をした血がとめどなく流れていた。
「どうする?このままじゃもう長くは持たないだろ、大人しく俺についてくるか、ここで殺されるか」
隊内でもイヤな奴と呼ばれる尾形は銃口を子供に向け笑いながらせまる
緊迫した空気が流れ、視線が交差した
「チッ」
先に痺れを切らしたのは尾形だった。
銃を上げると子供に詰め寄った、子供は恐れることもなくただ事の成り行きにしたがった。
尾形は怪我をしている足を掴むと自分の外套を引きちぎり止血を始めたのだった。
尾形の行動に今まで銃口を向けても眉一つ動かさなかった子供は驚き目を見開く、あまりのも予想外の事であったのだろう、隠していた獲物のナイフを落とし、身を縮めようともがく。
「なんだよ、別に取って食おうとしてないだろ」
治療を進めていくにつれ尾形の手が止まった。軽く血をぬぐっていくと雪のように白い肌に血の赤とは別に紫色が見えたからである。
「(親か、仲間内か…どちらにしろ、こいつも被害者みたいなものか…)おい、ガキ名は?」
「……ない」
「ない?ならお前なんて呼ばれてんだ」
無言になる子に、なんとなく過去の自分を重ねていく
「…どちらにしろお前は俺たちに着いてきてもらうぜ、名が無いのは色々と厄介だからな…藍毬でどうだ、別に今だけだがな」
なら、行くか っと立ち上がろうとした時だった。
銃声が響き渡り、同時に尾形の頬に弾が走り去った。
すぐに応戦しようと銃を構えようとした尾形であったが一瞬のスキをつき、子供が銃をかすめとってしまった。
「(嵌められたか…)」
銃声が聞こえた方から笑い声と共に山賊が現れ拳銃を向けてきた。
「はっははは!闇討ちで徐々に師団を弱らせようと思ったが、こんなとこまで来るとはね!お兄さんご苦労さん。」
女頭なのか…スキを見て反撃しようと伺うが、へらへらとこちらを笑う山賊達は別として後ろから尾形の銃で威嚇する子供のスキがなかなかうまれない。
「お頭、あのガキ怪我してますぜ!」
「あん?クッソガキ!だからこんなところまで兵がきてるんだね…クソがっ、使えないね、まったく…あれが私の子だなんて誰に似たんだか…」
少なくともお前らよりは使えるぞ…と心の中で思いながら逃げ道を探す尾形
とその時であった、別の物音が聞こえてくるではないか
「(谷垣め…結局上に伝えたな…だが、今はそれに救われたか)」
なんとか応援がくるまで耐えようと山賊達を刺激しないように時間稼ぎをする、生憎自分を捕まえたことにより盛り上がっている山賊達は兵士たちの物音に気付いていないようだ、そう思った時尾形はハッと自分に銃口を向けている子供がこの事態に気付かない訳がないと恐る恐る様子をうかがった。
子はスキを見せることなく尾形を見張ってはいるが、山賊達を横目で見ては少し顔に影を落としていた。
「(ただのガキじゃねーか…クソッ…)」
またも自分の過去の姿が重なり、尾形の顔にも影が落ちた。
応援がすぐそこまで迫り逃げ道が見え始めた時、丁度山賊達も尾形をどのように殺すのかが決まったようだ。
「まぁ〜お兄さんには悪いけど、死んでもらって首を奴らに贈るってのもいいもんだと思わないかい?あんた達やっちまい…
女頭が発砲の支持を出そうとした瞬間、茂みの裏より現れた第七師団の屈強な兵たちが威嚇射撃を撃った。
突然とあたりは戦場に変わり混乱の渦に包まれる。気に応じて尾形も身を隠そうと体制を変えたが、この混乱の中でも子供は尾形に銃口を合わせていたのか初めと同じく目と目が交差する。
しかし先ほどと少しだけ違う点、それは子供の瞳に迷いが現れた事だ
「くっそがぁぁぁぁ{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}{emj_ip_0792}その男は逃がすんじゃないよ!!!殺せぇぇぇ!」
女頭の怒鳴り声を合図に、銃声が響き渡る
先に倒れたのは 女頭であった。
尾形は目を見開き額から血を流しゆっくりと倒れていく女頭を見届けた。
―殺したのか、実の親を…
過去の姿と子供の影が完全に合わさった。
頭の死により山賊達は押し寄せる師団に勝てるわけもなく、この数日間が嘘のように事は収集され、山賊達のほとんどは抵抗し殺され残った者は口々に「女頭の命令で逆らえなかった」「殺しをしたのは全部あの女の子だ」と証言した。
子供は女頭の死後大人しく第七師団に保護され怪我の治療が行われた。
「こんばんは、具合はどうかね?」
場所は変わり第七師団が拠点を置いていた宿舎の一室になる。
谷垣の仕掛けた罠による治療を終えたと聞きつけ、山賊狩りの指揮を務めていた鶴見中尉が今回の騒動の発端である子供の様子を見にきたのだった。
「名は?」
咄嗟だった、今まで名乗れるものはなかったが、まるでその名が当然のように子供の口からある名前がこぼれた。
「藍毬」
「そう…か、性はなんという?」
「……」
「無いのか、ならば…高鳥はどうかね?ん?」
返事もなく鶴見を見つめる藍毬を、優しく撫でる
目と目が合う
その瞬間藍毬の背に氷が一筋走った、目を見開き、確信する。
―今までの比ではない。この人間は危険だ。
「我々はこれから君の"家族"だ。ようこそ高鳥くん。我々第七師団は君を歓迎しよう。」
藍毬の本能の警告は虚しく鳴り響くだけ…
この日を境に第七師団は守護鷹を手にいれ、少女--藍毬の兵として生活が始まった。