0.5祝福
鶴見中尉に勧誘され、極秘ではあるが第七師団に迎えられた藍毬の事は、今回の事件で彼女と面識のある者にだけ伝えられた。
その一人である尾形百之助も鶴見中尉から連絡を受け、彼自身も分からないが気づけば藍毬が治療を受けている部屋に来ていた。
「久しぶりだな…どうだ、具合は」
大人しく窓の外を見ていた藍毬は尾形の姿をみると一瞬驚いたのか目を見開いく、そんな姿を無視するように尾形はベッドの淵に座り込み藍毬の方を見ずに、淡々と山賊達のその後を伝えいった。
一通り話終わり、一息つくと、聞く気はなかったがなんとなく尾形自身が思っていた疑問を口にした。
「…なんであの時、俺を助けた」
それまで流すように尾形の話を聞いていた藍毬はこの日初めて口を開く
「…分からない、今まで言われた通りにしていたし、それが全てだった。
だけど、あの日、お前に助けられて…何かが…私の中を、変えた。
何度も忘れようとした。いつもに戻ろうと、何度も何度も…!!!!」
たどたどしく、淡々としていた声が徐々に震えていった、その声に釣られ尾形は藍毬を盗み見る
―なんだ、そんな顔もできるんじゃないか。
「こんなに苦しいのに、忘れようと、したのに、けど忘れたくなかったんだ。
こんなの…知らない…こんなの、聞いてない、お前のせいだっ!」
ぽろぽろと流れる涙が藍毬の頬を伝いシーツを濡らしていく
「…子供は親を選べない、」
独り言のように尾形はつぶやく
「親に愛されない奴は、何かが欠けた人間に育つのかもしれんな、誰からも祝福されない…」
そこまで言いうと尾形は体ごと藍毬の方に向け、彼としては珍しくまじめな顔で藍毬の頭に手を置く。
窓から差し込む光が、藍毬の心を表すように尾形に当たり彼女の大きな瞳に光が映る、尾形の手から伝わる心地よい暖かさが伝わった。
「俺がお前の名づけ親だ。祝福された道がお前に来るかどうか、最後まで俺が見届けてやる。」
涙でぐしゃぐしゃになった顔をさらに歪めて初めての暖かい感情に身を任せ藍毬は疲れ寝るまで泣き、尾形は最後までその隣に居座り続けた。