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北海道の冬、凍てつく寒さの中小樽にある第七師団の兵営
窓から外を覗く小さい影は、外套で隠れているがその体には似つかない軍服に身を包んでいた。

「高鳥くん、準備はできたかね?」
「ハイ。鶴見中尉殿」

ここ第七師団に保護され、極秘で引き取られて数年、数々の訓練の中「いかなる時でも隠密行動を」と言われ続け、もとより山賊時代の名残からの気配を殺し音もなく、少女…藍毬は鶴見中尉と言われた男についていく。



ほんの数時間前の事であった。
兵営の屋根裏部屋、知る者からは狙撃部屋と言われるそこで藍毬はいつものように兵営の警備のため銃を構えていた。

「少しいいかね?」

そこに訪れたのは鶴見中尉であった。いつもならば必要な時に使者をよこすか、日報の提出に出向いた時に指令をくだしてくる、
そんな上司が突然自身の部屋へと訪れたため動揺から「ピッ…」と息を吸い一瞬だが固まってしまった。我に返り、汚名を拭うようにすぐさま立ち上がり敬礼をした。

「(バッ)失礼いたしました。何用でございましょうか鶴見中尉殿。」
「尾形上等兵の帰りが遅いみたいでね。探しにいくので直ぐに支度をしてくれ」

そのまま出ていくと思ったが、鶴見中尉は部屋の中へ入り藍毬の頭を撫でた。

―いけすかない、一兵への連絡としたら部下を寄越せば良い内容なのに…ワザワザこんな所まで来て。造反の警戒?それとも仲間にするための擦り付け、か…

「そう固くならなくていい、今は他の兵もいないからな。ここは君の家でもあり、我々は家族なのだから。」

鶴見は子をあやすようにして藍毬に言い聞かせると満足したのか「それでは支度が出来たら、いつも通り外套を着て待っていなさい」とだけ言うと部屋から出ていった。

外套を着て…というのは彼女の存在を知らない複数人での行動になるのだろう。目立たないように動くにしろ、見慣れていない兵からは色眼鏡で見られるため、すでに気分が滅入る
…そんな面持ちで身支度を整えた




その後鶴見中尉と落ち合い現在に至る。
案の定合流した兵からは物珍しそうに見られた為迅速に鶴見の影に隠れて行動した。
兵舎から出る時はすでに日は傾き始め、夕陽が彼を照らす。

「(それにしても何故、百は帰りが遅いのだ?また単独行動でもしていたのだろうか?)」
鶴見の乗る馬の横を、夕陽を背に一抹の不安を抱きながら藍毬は進んでいった。




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