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兵舎にある馬小屋に小さな影がうろつく、最近鶴見との遠征が増えた藍毬だった。
尾形が入院してから鶴見中尉は常に藍毬を連れまわすようになり徐々に拘束時間も増えていった為、日に日に藍毬の顔色は暗くなり、今も馬の手入れをしながら憂鬱な気持ちが胸の中を占める。
―早く百に会いたい…
一度尾形の意識が回復したとの報告があり、中尉と見舞いに行ったが病室には入れてもらうことができなく、姿さえ見ることはできなかった。
わざとなのか鶴見中尉は藍毬に一切尾形の情報を流さなかった。
尾形の安否を思いまた、ため息が漏れる。
「高鳥、なに暗い顔してんだ」
慣れた気配に無視をしていた3人のうちの1人が藍毬の頭を乱雑になで、ぼさぼさになった頭を抱えながら恨めしそうに3人を見上げる。
「岡田…頭ぼさぼさになった…」
「辛気臭い顔してるからだ。なぁ!野間」
「またいじめているのですか、尾形上等兵に怒られますよ」
「ほらほら、お前らさっさと準備しろ」
普段なら尾形や一部の人物にしか顔を見せない藍毬だが、このメンツには警戒心を解く、なぜならすでに藍毬は造反を企てる者の一人になっていたのだ。
秘密を共有する者の登場に影が落ちていた顔に少し光が差す。ちょっとしたおせっかいであるちょっかいが今の藍毬に響いた。
気が緩みかけるが、ふっと男たちが背負う樺太式のスキー板に藍毬は遠征があることを察する。
「玉井伍長達も遠征なのですか?」
また眉を寄せ大きな瞳で見上げるその姿に顔を見合わせる三人、すると周りを警戒し見渡した後何かを決意するように三人はうなずき野間が口を開いた。
「俺たちは尾形上等兵に何があったのか少し突き止めに行くだけだ。いいか高鳥、鶴見中尉がお前を連れまわしている今こちらにとっては好都合なんだ。俺たちのいない間の事を頼んだぞ」
「まぁ、ほどほどにな」
それでは我々は先に、と野間と岡田は馬小屋を離れていった。残った玉井は二人を見送ると藍毬の高さに合わせてしゃがみ込み言い聞かせるように顔を覗き込む。
「高鳥君、今君に尾形上等兵の話が意図的に回ってこないのは、まだ君に造反の容疑がかかっていない証拠だ。鶴見中尉はこの期に君が造反することを恐れているのだろう。
君は慌てず、今は時の流れに身を任せなさい。」
玉井は藍毬の頭を撫でる
「それとこないだ尾形上等兵が意識を戻した時、顎が割れていて話せなかったが 力を振り絞り[ふじみ]と指で書いた。やっとの思いで書いたものだ、君も何かあった時のために覚えておきなさい。」
「ふじみ…」
「ああ。後、最近我々を追う影がチラつく…大丈夫だと思うが、今一度用心しなさい。わかったか?」
「…はい」
それじゃな、と最後にそれだけ言うと玉井も岡田達を追って馬小屋から出ていく、残された藍毬は茫然と撫でられた頭に手をおき久しぶりに得た尾形の情報を何度も確認し、去る3人の後ろ姿に胸騒ぎを覚えながら見送った。