瞳の奥



「先輩、このカメラ使っていいんスか?」
「いいよ。私は自分のあるから」


 絶賛テニス部演劇公演準備中。
無事にフォトコンの方も終わり、今は劇の撮影準備を行っている。後輩でもう一人のテニス部マネである高橋くんには公演中の写真を撮ってもらう予定だ。


「よし!委員会に頼まれた動画用はこれで設置完了」
「それじゃ、俺は大道具手伝ってきます」
「わかった〜写真よろしくね」
「はい。先輩もステージ頑張って下さい」


 そう言って去って行く背中を見送って、私も裏に戻れば「やってやろうじゃねぇか!」と意気込む赤也を中心にレギュラー陣が準備を行っていた。


「あれ?桃城くんに越前くん」
「あー!神崎さん!」
「どもっス」
「久しぶり!来てたんだ」
「真田さんに招待していただいて!」
「そうなの。今日、手塚くんも来てるよ」


 意外だったのか声を上げて驚く二人をみて、ゲスト出演してくれることは伝えないでおいた。二人もれっきとしたお客様なのでサプライズは大切だろう。
そろそろ始まるよ、と声をかければ2人は席に向かっていった。


「赤也、頑張ってね」
「任せてくださいよぉ!先輩!」
「みんなもね」


 赤也たちの気合いも十分というところで、衣装を着た手塚くんが到着した。彼には最後に姫を攫っていくもう一人の王子役で出演してもらうことになっている。


「わお、手塚くんやっぱり似合うね」
「そう…だろうか」
「うん。よく似合っているよ、手塚。よろしく頼んだよ」
「ああ」


 そして開演のブザーが鳴り響いた。幸村のナレーションから物語は始まっていく。元のお話に付随した個性の強いキャラクター達に、観客も満足している様子だった。


「気になっていたんだが、この脚本は全て幸村が?」
「うんそうだよ。去年総合監督賞取ってて。さすがだよね」


 笑って手塚くんに問い掛ければ、納得しているようだった。全て自分でやっているとは聞いていなかったらしい。
 幸村ってそういうところテキトーだよな。


「あ。私、そろそろ行かないと」
「確かステージに立つと言っていたな」
「そそ、準備行ってくるね。手塚くんも頑張って」
「あぁ」
「幸村!後頼んだー!」
「もう時間か。…楽しみにしてるよ恵那」
「あはは。みんな期待しすぎ、、それじゃ」









 講堂を横目に演劇部員の友人が待つ部屋へ急ぐ。
最初は制服で行う予定だったが、衣装を貸してもらえることになった。本来舞台に立つ予定だった友人が、謝罪と感謝の意を込めて送ってくれたのだ。
ちなみにその友人は先日コンクール本選の出場が決定したため、今頃はロシアに着く頃だろうか。頑張れ。



「恵那!こっち!」
「はーい」
「着替えちゃって」



 待ち受けていた友人から花柄のワンピースドレスを受け取る。袖とスカートが花柄刺繍になっており、腰をベルトで絞れる仕様になっていてとても可愛い。カラーは黒で落ち着いた感じなのも私好みだった。流石わかっていらっしゃる。



「着替えたらはい、ここ座って。髪やるよ」
「そんないじるほど長くないけどね」
「アンタね、綺麗なんだからちゃんと服に合わせて髪整えないでどうすんのよ」
「そっかな…それじゃついでにコレも着けてくれる?」
「髪飾り?こんなの持ってたんだ」
 


 小ぶりの白い花と青のリボンが付いた髪飾りを手渡す。



「このステージあるって言ったらくれた人がいてさ」
「ふぅん。なかなかセンスいいじゃんこれ…くれたの彼氏とか?」
「うん?そうだよ」
「ふーん………ってえ?!?アンタ彼氏いたの?!」



 冗談で聞いたんだけど!と見開いた目と鏡越しに目があった。おっと…想像以上の反応が返ってきたな。



「そんなに驚くこと?」
「そりゃ驚くでしょ!今までアンタの色恋の話なんて聞いたことなかったし」
「まぁそうだね…話さなかったし」
「へぁーアンタに彼氏ねぇ。やっぱり仲のよろしいあの幸村?それとも仁王とか?…あー意外に風紀委員長とか!」
「いやなんでテニス部になるのさ、違う違う」
「え、違うの??他…クラスの奴とか??」
「あー外部生だから誰も知らないと思うよ」



 その時彼女の目が爛々に輝いたのが見えてしまった。



「!まさかの外部!どんなひと?!写真とかないの?」
「…まぁそう来るよね」
「勿体ぶらないで見せなさいよ〜」
「一瞬ならいい」
「一瞬ってアンタ…それじゃ、かっこいいかどうかわかんないじゃない」
「ダメ。それが最大限の譲歩なんだから」



 はい、とスマホの画面をチラッと見せる。彼女が覗き込んだのを確認して、軽く息を吐くのと同時に画面をオフにした。
ちょ、はや!!などと声が聞こえてくるが無視をする。

…そも、月光ちゃんの存在を明かしたのは彼女が親友だからという理由で、おいそれと私が、月光ちゃんの写真なんて見せるわけないのだ。



 しばらくすると頭上からクスクスという笑い声が聞こえてきた。
目だけを彼女に向ければ、呆れたように笑った顔がこちらを向いていた。



「あー、アンタがそんなになるなんてよっぽど好きなのね」
「……うるさい」
「ごめんごめん、からかうつもりじゃないのよ」
「いや絶対ウソでしょ」



 鏡越しにジト目を向ければ、また軽いノリで謝罪が返ってくる。



「でも、あんまり彼氏さんの話はしない方がいいと思うわ。特にテニス部とかでね」
「万が一にも無いと思う…けどなんで?」
「いやそれは…まぁ」
「??」
「強いて言えば目に毒だからよ。っとよし、できた」
「おーありがと。
なんかよくわかんないけど、公私混同はしない主義だから私。それにテニス部が恋バナなんてする様に見える?ないね」
「それには同意よ。ま、アンタはそのままの方がいいわ。 
今日のことは内緒にしといてあげるから」

 

 なんだかよく分からないが、月光ちゃんの話なんて限られた人としかしないので大丈夫だろう。
それに、万が一そういう話になったとしても、そこまで興味を示すとも思えない。



「なんか無駄に緊張してきた」
「あっはは、もうすぐ本番でしょリラックス!」
「誰のせいだと」
「そうだ写真撮ってあげる!送ってあげなさいよ」



 あれよあれよという間に、立たされた私はヴァイオリンを渡され、気付けばパシャという音。

人の話を聞けよ。そう言ってやりたくなったが、満面の笑みで「うん、やっぱ綺麗ね。髪飾りもすごい似合ってる!」などと言われてしまえばそれまでで。

 

「はいはいありがと、それじゃもう行く」
「!頑張ってね」
「はーい」
「写真ちゃんと彼氏さんに見せなさいよ」
「〜っああもうわかったわかった!」



 そう言うとスマホを返され、満足そうな顔で送り出された。本番前に調子が狂いそうになる出来事ではあったが、少しだけ肩の力が抜けたように感じたのは気のせいじゃない。



「よーし!やりますか」

 

 気を取り直す様にそっと髪飾りに触れた。





「恵那のあんな顔はじめて見たな〜、いや〜良いもの見れたわ」






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le fer Clair de lune