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9時間目
自分の身体を使って暗殺を目論んだあの日以来、カルマからは狂気が消えた。
常に悪戯っぽい笑みを浮かべている事に変わりはないが、もう自分1人で殺そうとは思っていないようで、クラスメイトとも馴染み始めている。

そんな中でー若山花澄は未だにクラスメイトとまともな会話が出来ないでいた。





「若山、お前良い加減にビクビクすんのやめろよ」


ある日突然、昼休みに寺坂がそう告げた。
因みに殺せんせーはマッハでメキシコに外出中であり、烏間先生も職員室にいるので、現在教室内にはクラスメイトしかいない。
今迄全く花澄に不干渉だった寺坂の言葉に、クラスメイトの大半は耳を傾けた。


「他の奴等が手前に話し掛けてもどっか素っ気ねーしいつもオドオドしてやがるし、その癖渚とカルマと話す時だけはヘラヘラしやがって。見てて気持ち悪りーんだよ、そういうの。他の奴等だって口には出さねーけどそう思ってる。お前のその態度がー」

「……さい」

「あ?」

「うるさい!寺坂君に私の何が解るの!?私だって頑張ってるよ!これでも人とはだいぶ話せるようになったのに……何で何も知らないアンタにつべこべ言われなきゃいけないの!?」

「な……」

「私だって……何とかしなきゃいけないって事位、解ってるよ……
だから、知ったような口聞かないで!」


花澄の大声に、教室内がシン、となる。


「あ……」


やってしまった。

一瞬でそう悟った花澄は、弁当を抱えてその場を去ろうとした。

だが、


「ストーップ、花澄」


隣の席である赤羽業に手首を掴まれる。


「いーの?今ここで逃げ出したりなんかしちゃって。折角初めて花澄の本当の気持ちを大暴露出来たっつーのに」

「……」

「花澄が頑張ってるのは、俺も渚君もちゃんと解ってるよ。でもだからって、それを言い訳にしてこのまま逃げ続けるつもりなの?へー、花澄ってそんなに弱虫だったんだー」

「……赤羽君、私に喧嘩売ってるの?」

「買う?」

「いや買わないけど」

「ちぇっ。……まー、それはどーでもいいとして。
逃げないって決めたんだったらさ、花澄がやるべき事は1つでしょ」

「……?」


カルマの言葉に少しの間首を傾げた花澄だったが、その後彼が言いたい事が解ったようで、決意を固めたような顔つきで教卓の方に向かって進んで行く。
クラスメイト達は、一体何が始まるのだろうとお互いに顔を見合わせた。


「……私、みんなに言いたい事があります」


スゥッ、と深呼吸をして、花澄は言葉を続ける。


「……私が、どうしてこんなに人間に怯えているのか。
その理由を、聞いて貰えますか?」

「……あのさ、花澄。
僕、その話、既に何人かには教えちゃったんだ」

「渚が他の人に教えたとしても、やっぱりこういう話は自分からちゃんとした方が良いと思うから……だから、聞いた事がある人も、もう1回聞いて欲しいんです」


お願いします、と言って頭を下げる花澄。
その言葉に、クラスを代表して磯貝悠馬が「良いよ」と返事をした。


「……自慢じゃないけど、私は勉強だけはそれなりに出来て、いつも学年で5〜6位以上だったの」


そして彼女は全てを話した。

女子で1番成績が良かったせいで、周りの人間は皆自分に媚を売ってくるようになった事。
そのあからさまな態度が気に食わず、段々人との関係を絶って行った結果、友達と呼べるのは渚だけになってしまった事。
渚がE組行きになった時、悲しみに暮れていた自分を助けてくれたのがカルマだったという事。


「……だから私は、渚と赤羽君以外のクラスメイトが少し怖かったの。
本当はね、E組のみんなは私にちゃんと向き合ってくれるって解ってたよ。でも、それを受け入れる勇気が私にはなかった。逃げる道ばかり選んでたんだと思う。
みんなは全然悪く無いのに、私の下らない雑念のせいで、私はみんなの事を傷つけた。だから……ごめんなさい」


そう言って花澄は深々と頭を下げた。
教室内は相変わらずシンとしていたが、不意にガタンと言う音がした為花澄は顔を上げる。


「花澄ちゃん……こっちこそ、ごめんね」


立ち上がった生徒ー倉橋陽菜乃は花澄に駆け寄ると、ぎゅうっとその身体を抱き締めた。


「私はその話を今初めて聞いたけど、花澄ちゃんがそんなに苦しい思いをしてたなんて事、全然知らなくて……。ごめん、本当にごめんね」

「倉橋さん……」


涙ぐんでいる倉橋を見て、花澄の瞳も潤んできた。


「私からも謝る。
ごめんね、若山さん」


次に立ち上がったのは片岡メグだった。


「本校舎にいた時から若山さんの話は聞いてた。若山さんはいつもテストで五英傑に食い込む位成績が優秀だって。私にはそれが羨ましくて仕方なかった。でも、若山さんは若山さんで苦労してたんだね。……解ってあげられなくて、本当にごめん」

「片岡さん……私の方こそ、ごめんね」

「若山」

「若山さん」


倉橋、片岡に続き、クラスメイト達はどんどん花澄の元へと歩いて行く。
最終的には寺坂グループと渚、カルマ以外のクラスメイトが花澄の周りに集まっていた。


「みんな……ありがとう」


少女は彼ら全員に礼を告げた後、寺坂の方へと歩いて行く。


「寺坂君」

「……ンだよ」

「さっきはあんなに酷い事言っちゃってごめんなさい。
あと……ありがとう」

「……別に気にしてねーし、礼なんか要らねーよ。俺はただムカついたから言ってやっただけだ」

「それでも、私がみんなに心を開く為のきっかけをくれたのは寺坂君だから。本当に感謝してる。ありがとう。
……それから、赤羽君、」


そして花澄は、寺坂の隣の席の少年に話し掛ける。


「赤羽君には、また助けて貰っちゃったね。赤羽君は私のメシアだよ。本当にいつもいつもありがとう」

「いーえ」


カルマはそう言ってヒラヒラと手を振った。

その時、ガラガラと扉が開き、メキシコ帰りの殺せんせーが室内に入ってくる。


「? 皆さん、どうしたんですか?」

「若山と親睦深めてた!」

「花澄ちゃん、もう心配しなくても大丈夫みたいだよ、殺せんせー」

「にゅやッ!?もしかして先生、今回は活躍ナシでしたか!?」

「安心してよ殺せんせー。今回アンタの出番は俺と寺坂で殺っといたからさ」

「ひ、酷いですカルマ君!」


殺せんせーはハンカチで顔を吹きながらボロボロと涙を流す。


「うわっ殺せんせーすっげー顔!」


泣き続ける先生の様子を見て、生徒達は談笑し合っていた。



もうすぐ5月。
タイムリミットまで、あと11ヶ月だ。



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