■ ■ ■
14時間目
中間テストが本格的に迫って来た。
このテストに向け、殺せんせーは分身を作り、1人ずつマンツーマンでそれぞれの苦手科目を教科する事に力を入れた。
だがその数日後、その分身は更に増量する事になる。
「……どうしたの殺せんせー?
なんか気合入りすぎじゃない?」
「んん?そんな事ないですよ?」
……本当に、何もなかったのかな。
花澄は、茅野と殺せんせーの会話を横目で見ながらそう思っていた。
授業が終わると、生徒達は、疲れきっている殺せんせーの周りに群がった。
「全ては君達のテストの点を上げるためです」
何故そこまで一生懸命になるのか、と言う質問に対し、殺せんせーはそう答える。
だがー
「……いや、勉強の方はそれなりでいいよな」
「……うん。なんたって暗殺すれば賞金百億だし」
「俺達エンドのE組だぜ殺せんせー」
「テストなんかより……暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ」
次々にそう呟く3年E組の面々の言葉を聞いて、何故か殺せんせーは顔に×印を浮かべ、こう言った。
「今の君達に暗殺者の資格はない。全員校庭へ出ろ」
と。
外に出た殺せんせーは、イリーナと烏間に、『用意するプランは1つか』『ナイフ術で重要なのは第一撃だけか』と言う質問を投げかける。
「本命のプランなんて思った通り行く事の方が少ないわ。不測の事態に備えて……予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ」
「第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。
強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。その後の第二第三撃を……いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」
その答えに満足した殺せんせーは、くるくると凄まじいスピードで回転し、巨大竜巻を作りながらアドバイスを残した。
「第二の刃を持たざる者は……
暗殺者を名乗る資格なし!!」
竜巻が消えた頃には、グラウンドはすっかり綺麗になっていて。
「先生は地球を消せる超生物。
この一帯を平にすることなどたやすい事です」
「もしも君達が自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります」
その後、殺せんせーが生徒に下した条件は、『中間テストでクラス全員50位以内を取れ』という内容だった。
「自信を持ってその刃を振るって来なさい。
仕事(ミッション)を成功させ、恥じる事なく笑顔で胸を張るのです。
自分達が暗殺者(アサシン)であり……E組である事に!!」
「花澄」
その日の帰り道、珍しく1人で家路についていた花澄だったが、後ろから赤羽業に声をかけられた。
「俺との約束……覚えてるよね」
「勿論。その為に、私は此処まで頑張って来たんだから」
そして少女は立ち止まり、カルマの目を真っ直ぐ見つめ、こう告げる。
「負けないよ」
その凛とした表情に、カルマは一瞬目を奪われた。
「……そういえばね、」
再び話し始めた花澄の声で、彼はハッと我に返る。
「この前、私理事長に呼び出し食らってさ。『中間終わったらA組に行け』って言われちゃった」
「! それで、花澄はどう答えたの?」
「断ったよ。私はE組にいたいって、ハッキリ言ってきた」
「それなら良かった」
これからもまだ一緒にせんせーを殺れるね、と言い、カルマは安堵の笑みを浮かべた。
中間テストが終わった。
結論から言うと、殺せんせーの出した条件は、クリア出来なかった。
と言うのも、テストの直前に、全ての教科の出題範囲が大幅に変わったにも関わらず、E組にはその通知が来なかったからだ。
「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです。
……君達に顔向けできません」
「……」
クラスの殆ど全員が落ち込む中、カルマは殺せんせーに向かって対せんせー用ナイフを投げつけていた。
そして、自分の解答用紙と花澄の解答用紙を手に、教卓の方まで進んで行く。
「……赤羽君?」
一体、何をするつもりなんだろう。
「いいの〜?
顔向けできなかったら、俺が殺しに来んのも見えないよ」
「カルマ君!!今先生は落ち込んで……」
そう言いかけた殺せんせーに、カルマは手にしていた解答用紙をバッと投げつけた。
「それ、俺と花澄の解答用紙。
俺ら問題変わっても関係無いし」
国語ーカルマ、98点。花澄、99点。
数学ーカルマ、100点。花澄、98点。
社会ーカルマ、99点。花澄、99点。
理科ーカルマ、99点。花澄、98点。
英語ーカルマ、98点。花澄、99点。
合計ーカルマ、494点。花澄、493点。
「俺らの成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。
だけど、俺はE組(この組)出る気無いよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし。
……花澄は?」
「……私も、このクラスに残るつもりだよ」
花澄はカルマの問いにそう答えた。
その答えを聞いて、カルマは満足気な表情を浮かべる。
「……で、どーすんのそっちは?
全員50位に入んなかったって言い訳つけて、此処からシッポ巻いて逃げちゃうの?
それって結局さぁ、殺されんのが怖いだけなんじゃないの?」
カルマは殺せんせーにぐっと顔を近づけ、舌をペロッと出して挑発的にそう言った。
それをきっかけに、他の面々も殺せんせーに野次を飛ばす。
「なーんだ殺せんせー怖かったのかぁ」
「それなら正直に言えば良かったのに」
「ねー!『怖いから逃げたい』って」
それらを聞いて青筋を立てていた殺せんせーだったが、遂に怒りのボルテージが爆発する。
「にゅやーッ!
逃げるわけありません!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」
顔を真っ赤にして怒りを露わにしたそのモンスターを見て、生徒達は楽しげに笑った。
ーあの暗く淀んだ空気を、赤羽君は一瞬で変えた。
ーやっぱり凄いな、赤羽君は。
花澄は未だに悪戯っぽく微笑むカルマを、尊敬の眼差しで見つめていた。
「……で?」
その日の放課後、カルマは花澄の机に肘をつき、ニヤニヤ笑いながら座っていた。
一方花澄は、自分の机に座ったまま硬直している。
「『負けないよ』とか大口叩いてた癖に、結局勝負は俺の勝ち。
……ってことで良いんだよね?」
「……だけど、1点差だもん」
「たかが1点、されど1点。
この勝負、正真正銘俺の勝ちだね」
やった、と言ってカルマは嬉しそうに笑った。
「……まあ、約束は約束だし……何でも言うこと聞くよ。
何にするの?」
花澄はムスッとした表情でカルマにそう尋ねる。
それを聞いて、彼は待ってましたとばかりに腕を広げた。
「今度の修学旅行でさ、3日目に自由行動の時間あるっしょ?」
「うん」
「そん時にさ、花澄の自由行動の時間、俺にちょーだい」
「……え?」
「だから、一緒に回ろうってこと。自由行動」
「……良いけど……そんな命令で良いの?」
「んー……寧ろこの命令『が』良いかな」
……なんか、意外。
赤羽君のことだから、もっと意地悪な事言われるかと思ったのに。
ニコニコ笑うカルマを見つめながら、花澄はぼんやりとそう思った。