■ ■ ■


15時間目
修学旅行。
それは、中学3年生にとって最大のイベントだ。

だが、椚ヶ丘中学校3年E組の生徒達は、どうやら旅行先の京都でも暗殺の任務を課されるらしい。
とはいえ、彼等が直々に手を下す訳ではなく、当日手配されることになっている狙撃のプロが、標的(ターゲット)を殺し易いように、班毎にコースを選ぶだけであったが。


「カルマ君! 同じ班なんない?」

「ん、オッケ〜」


渚がカルマを誘ったところ、カルマはそれをあっさりと了承した。

今のところ、揃っているメンツは、赤羽業、潮田渚、杉野友人、茅野カエデ、奥田愛美、神崎有希子の6名である。


「7人班だから、あと1人女子要るんじゃね?
渚君、花澄何処にいんの?」

「あー……
前原君と岡島君に、絶賛絡まれてるよ」


カルマの問いに、渚は少し苦笑いを浮かべてそう答えた。
花澄の座席の方をチラリと見ると、彼女は困ったような笑みを浮かべて前原と岡島を交互に見つめている。


「なー若山、たまにはカルマんとこだけじゃなくて、別の班に入んねぇ?例えば1班とか」

「1班はもう女子要らないだろ。やっぱ2班に来いよ。若山が入れば俺らの班も華やかになるしよ」

「ちょっと岡島!それって私らじゃ華が無いって言いたいの!」


岡島のその言葉に、同じ2班の中村莉桜がすかさず反応を見せた。
そして莉桜は、「こんなところで油売ってないで、ほら!」と言って岡島を引っ張って連れて行く。


「岡島達も行ったし……若山、俺等の班に」「前原」


再び花澄を誘おうと口を開けた前原だったが、そこに磯貝が割って入って来た。


「俺等はもう女子4人もいるだろ。これ以上増えても困るっての」

「何でだよ〜!女子なら幾らいてもいいだろ!」


未だに納得しきっていない前原を、磯貝は「悪かったな若山」と言いながら無理矢理自分達の班へと引き戻す。

花澄は一連の出来事に口を出す暇もなかったが、取り敢えず嵐が去って行った事に安堵の溜息を漏らした。


「花澄、」


その瞬間、後ろから声を掛けられた少女は、露骨にビクリと肩を震わせ反応を見せる。
振り向くと、そこにいたのは、隣の席のあの人で。


「同じ班、なろ」

「……うん!」


カルマからの誘いに、花澄は笑顔でそう答えていた。





「1人1冊です」


そう言って殺せんせーに渡された修学旅行のしおりは、辞書並に分厚いものだった。


「渚……あのしおり、持ってく?」


花澄は思わず顔を引きつらせながら渚にそう問いかける。


「うーん……僕は一応、持って行くつもりかな」

「そっか……じゃあ、私は持って行かなくて良いや」

「えぇ!?」

「だって、いざとなったら渚に頼れば良いんでしょ?じゃあ私は必要ないじゃん」

「……花澄、何かカルマ君に似てきたんじゃない?」

「……え?」


渚の発言に、花澄は目を丸くする。

花澄、無自覚であざとい事言うようになったんだ……

幼馴染の驚く顔を見て、渚は自然と苦笑いを零していた。


「そう言えばさ!」


突然の茅野の声に、渚、花澄、そして班員の杉野はそちらを振り返る。


「修学旅行の3日目、自由行動の時間あるじゃん。
あの時間、みんなはどうするの?」

「僕は特に決めてないけど、お土産とか買うつもりだよ。
杉野は?」

「俺もお土産探しかなー。やっぱり六ツ橋とか百枚漬とかは買っておきたいし」

「花澄は?」

「……私は、まだ決めてないけど、赤羽君と回る約束してるんだ」


茅野の問いに、花澄は少し照れ臭そうに答えた。


「へー!カルマ君と回るんだ!何かデートみたいだね!」

「!? 茶化さないでよカヤちゃんッ」

「あははっ、ごめん冗談だよー!」


そして2人は顔を見合わせてふふふっと笑った。

そして、茅野と花澄がそんな会話をしているのを遠目で盗み見ていたカルマは、不意に前原に肩を叩かれる。


「カールマ」

「……何?」

「まだ、当分時間はかかりそうだな」

「……」

「ま、頑張れよ。俺も協力する」


そして、前原は再びカルマの肩をポンと叩くと、自分達の班の方へと戻って行った。

……余計なお世話だっての。

何故か無駄に楽しそうな彼の後ろ姿を見て、カルマは大きな溜息を吐いた。





修学旅行、当日。
いつもの如く、A組からD組はグリーン車、E組は普通車と、移動手段も差別待遇だ。


「赤羽君、隣、座ってもいい?」

「ん、いーよ」


花澄はカルマの返事を聞いてホッとした笑みを浮かべると、隣の席に腰掛けた。


「楽しみだなあ、修学旅行」

「俺もー。特に3日目が楽しみかな」

「何で?」

「だって、花澄といろんなとこ回れるじゃん」

「……それ、口説いてるの?」


その答えに、カルマは思わず吹き出してしまった。


「あはは! 口説いてなんかないって。俺の本心だよ」

「だよね!私もさっきは冗談のつもりであんな事言ったけど……
本当は凄く楽しみだよ、自由行動」


そう言うと、彼女はカルマに向かってニコリと微笑む。
その笑顔を見て、カルマの頬も自然と緩んでいた。





「……い、おーい、起きてー、花澄」

「……?」


目を開けると、花澄はカルマの肩に頭を預けた状態で眠っていたことに気がついた。


「うわっ!?ご、ごごごめんッ赤羽君!私いつの間にか寝ちゃってたみたいで!」

「へーきへーき。寝顔見れて俺得だったし。
あんまりにも気持ち良さそうに寝てたから、思わず撮っちゃった」

「嘘ッ!?」

「んーん、本ト」

「け、消して!」

「あっは、消さなーい。
って言うか花澄、神崎さんの事はスルーすんの?」

「え?」


振り返ると、そこにはクラスのマドンナ、神崎有希子がニコニコと笑いながら立っていた。


「ゆっこちゃん!ごめん、気付かなくて……」

「いいよ花澄ちゃん。それより、今から飲み物買いに行くんだけど、花澄ちゃんは何飲みたい?」

「あ……えーと……炭酸飲料なら、なんでも」

「解った。買って来るね」


その後、彼女は茅野と奥田の元へと向かって行った。


「赤羽君は何飲むの?」

「俺?かぼちゃ煮オレ」

「か、かぼちゃ……!?」


この人の味覚どうなってるんだろう。

花澄はそう思ったが、本人には何も言わなかった。


「って!危うく忘れかけるとこだった!さっきの寝顔!消して!」

「ちぇっ、もう忘れたかと思ったのに」

「忘れないから!消して!」

「良いけど……もう俺のパソコンにこの画像送信しちゃったし、此処で消しても意味ないんじゃない?」

「はぁぁ!?」


どんだけ抜かりないんだ!

勝ち誇った笑みを浮かべるカルマを見て、花澄は大きな溜息を吐いた。





「え?ゆっこちゃん、日程表なくしちゃったの?」


翌日、班行動の時間。
神崎有希子が自分で纏めていた日程表をなくしたという話を聞いて、花澄は目を丸くした。


「うん……どこかで落としちゃったみたい……。ごめんね、みんな」

「気にしなくていいよ!場所は大体解ってるし、いざとなったら渚はあのしおり持って来てるし!」

「……花澄、僕の扱い雑になってない?」

「え?そんな事ないよ?でもまあ、役に立って良かったじゃん、そのしおり」

「あははは……」


花澄のあっけらかんとした態度に、渚は愛想笑いで応えるしかなかった。


「でもさぁ」


杉野がそこで口を挟んでくる。


「京都に来た時くらい、暗殺の事わすれたかったよなー。
いい景色じゃん。暗殺なんて縁のない場所でさぁ」

「そうでもないよ、杉野」


彼の愚痴に、渚が反応を見せる。
そして彼らが向かったのは、坂本龍馬暗殺、「近江屋」の跡地。


「更に、歩いてすぐの距離に本能寺もあるよ。当時と場所は少しズレてるけど」


かつて日本の中心だった京都と言う街は、暗殺の聖地でもある。


「なるほどな〜。言われてみればこりゃ立派な暗殺旅行だ」


渚の説明を聞いて、杉野は納得した顔で頷いた。


「渚、詳しいね。調べたの?」

「うん。まあね。折角の修学旅行だし、今年1年、このクラスのメンバーでいるなら、調べておこうと思って」

「へえぇ……凄いね」


幼馴染のイキイキとした表情を見て、いつの間にか花澄の顔も綻んでいた。


(次八幡神社ねー)
(えー、もーいいから休もうぜ。京都の甘ったるいコーヒー飲みたいよ)
(赤羽君、どんだけ甘党なの……)



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