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16時間目
「へー、祇園って奥に入るとこんなに人気無いんだ」


茅野はそこに辿り着くと、あちらこちらをキョロキョロ見回しながらそう感想を述べた。


「此処、ゆっこちゃんの希望コースなんだよね?」


花澄がそう尋ねると、神崎有希子は「うん」と頷いて説明を始める。


「一見さんお断りの店ばかりだから、目的もなくフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要もない。だから私の希望コースにしてみたの。暗殺にピッタリなんじゃないかって」

「流石神崎さん、下調べカンペキ!」

「じゃ、此処で決行決めよっか」


杉野とカルマがそう同意した時だった。


「ホントうってつけだ。なんでこんな拉致りやすい場所歩くかねえ」


野太い声と共に、柄の悪そうな学生達がゾロゾロと彼らの方に集まって来た。
皆が驚く中、一歩前に出て不敵な笑みを浮かべたのは赤羽業で。


「……何お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」

「男に用はねー。女置いておうち帰んな」


不良の1人がそう挑発した瞬間、カルマは動いていた。
その男の顔を掴み、電柱に叩きつけたのだ。


「ホラね。目撃者いないとこならケンカしても問題ないっしょ」


カルマが後ろを振り向いた瞬間だった。


「赤羽君ッ!! 後ろ!」

「?」


花澄の叫び声と同時に、カルマは別の男に思い切り鉄パイプで後頭部を殴られていた。


「赤羽君!」


花澄は血相を変えてカルマの元へ駆け寄る。


「大丈夫!?ねえ、赤羽君!!大丈夫!?」


そして、必死でそう呼びかけながら彼の身体を揺すった。

しっかりして!
お願い……!

だが、それもたった一瞬の出来事で、彼女はあっという間にカルマから引き剥がされてしまった。


「やだ!やめて!離して!!」


不良達が乗っていたと思われる車に乗せられた後も、彼女は必死で窓の外を見つめる。

何も出来なかった。
呆気なく捕まった自分が情けない……!

少女は不甲斐なさに顔を顰め、唇をギュッと噛み締めた。





Side Karuma.

「み、皆!大丈夫ですか!?」


奥田さんの声で目が覚めた。

周りを見渡してみると、花澄と茅野ちゃん、神崎さんが姿を眩ませていて、ああ守りきれなかったんだ、ってすぐに悟った。
奥田さんは隠れてたから無事だったらしい。
あんまり意識がはっきりしてなかったから確かじゃないけど、俺がやられた瞬間、花澄が俺のとこに来て、必死に名前を呼んでくれてた気がする。
……こんな風に考えちゃうのって、俺にとって都合が良いだけなのかな。

でも、俺が車のナンバーを確認しようとした時、窓ガラスから俺を見つめる花澄の泣きそうな顔を見たことだけは確かだ。

あー、やべ。
花澄をあんな顔にさせたの、間違いなく俺だ。


「……俺に直接処刑させて欲しいんだけど」


そう口に出してみたはいいものの、俺は今アイツらよりも俺自身にすっげー腹が立ってる。

あの時、何で油断しちゃったんだろ。

殴られる寸前の事を思い出した俺は、苛立つ気持ちを抑えるかのように拳を握り締めた。


(絶対、助けに行くから)





両手を後ろで縛られた花澄、茅野、有希子が連れて来られたのは、今は使われていないと思われるゲームセンターのような場所だった。


「楽しもうぜ。台無しをよ」


そう言って笑うオールバックの男ーリュウキを見て、茅野と有希子の顔に恐怖の色が滲む。

……何とか、しなくちゃ。

そう思った花澄は、とある決意を固めて口を開く。


「……カヤちゃんとゆっこちゃんに、手出ししないで」

「……あん?」


リュウキが眉を顰めて花澄の傍に寄って来た。


「私はどうなってもいい。
だけど、カヤちゃんとゆっこちゃんには、手を出さないで」

「花澄!?何言ってるの!?」

「花澄ちゃん、それは駄目だよ!」


花澄のその言葉に、茅野と有希子はすぐに反応した。
そんな彼女達を見て、リュウキは怪しげな笑みを浮かべる。


「いいなあおい。コレがエリート気取りの友情ごっこって訳か。え?」

「ごっこなんかじゃないし、エリートなんか気取ってない。
第一、こんな下らない事しかできない貴方には、本当の友情なんて解らないと思うけど」

「ッ、うるせえっ!」


ドガシャアアン!

リュウキの怒声と共に、花澄は数m先まで吹っ飛ばされていた。


「ガキが偉そうな事抜かしてんじゃねえ!そこまで言うなら俺が試してやるよ、お前らの言う友情ってヤツをよぉ!」


そしてリュウキは、蹲る花澄をソファの上に放り投げる。


「お前さっき言ったよな?『私はどうなってもいい』って。
その言葉がホンモノか、今俺が確かめてやンよ」


その言葉と共に、花澄は仰向けの状態にされた。
直後、何とか起き上がろうともがく花澄にリュウキが覆い被さる。


「今からお前には10人ちょいを1人で夜まで相手してもらうが……果たして何処まで耐えられるかなあ?
お前が弱音を吐いたら……解ってんだろうな?お前のお友達にまで被害が及ぶ事になるぜ」

「!」


っやだ、怖い!
2人の為なら何でも出来るって思ってたけど……コレだけは別だ。
初めて、なのに。
やだ、やだ、絶対嫌だ!

そんな少女の思いは虚しく、リュウキは仲間を周りに呼び集め、暴れる花澄の肩を固定させると、容赦無くブレザーとカーディガンを引きちぎった。

ブチブチッと音がして、ボタンが床に弾け飛ぶ。


「花澄!!」


茅野が悲鳴に近い叫び声を上げた。
花澄も悲鳴を上げそうになったが、すんでのところで唇を噛み締める。


「……へーえ。案外強情なんだなお前。でも本番は此処からだ。
さぁて……」


リュウキは舌舐めずりをして、花澄のYシャツに手をかけた。

ー嫌っ……!

花澄はじわりと滲む涙を誤魔化すかのようにギュッと目を瞑る。

その時だった。

ギイィ……という音と共に扉が開き、ゾロゾロと何人か人が入って来る。


「お、来た来た。
うちの撮影スタッフがご到着だぜ」


それを聞いて、花澄は再びどん底に落とされたような気持ちになった。

だが、それもほんの束の間で。


「修学旅行のしおり1243ページ。班員が何者かに拉致られた時の対処法。
犯人の手がかりがない場合、まず会話の内容や訛りなとから、地元の者かそうでないかを判断しましょう」

「!」


この声、もしかして……!

花澄が声のした方向に顔を向けると、そこには見知った班員がゾロリと並んでいた。


「渚、赤羽君、杉野君、愛美ちゃん……!」


花澄は安堵の笑みを浮かべる。


それからは呆気なかった。


予め呼んでいたリュウキの仲間達は、マッハで飛んで来た殺せんせーによって手入れをされ、リュウキ含む4人の不良達は、カルマ達によって鈍器(※あくまで修学旅行のしおり)で後頭部を思い切り殴られ、今回の事件は無事幕を下ろしたのだ。



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