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19時間目
修学旅行が終わってから月日は流れ、6月も中旬に差し掛かった。
その間にも自律思考固定台、通称『律』という名の砲台転校生が来たり、イリーナの残留に関する騒動があったりと様々な事が起こったが、此処では割愛させて頂く事にする。

話は戻り−今日はいよいよ、2人目の転校生がE組に加入する日だ。





「今度の転校生ってさ、花澄の隣に座るんだよね?」


SHRが始まると、カルマは小声で花澄にそう囁いた。
少女がその問いにコクリと頷くと、突然ガララッと扉が開き、皆は一斉に音のした方を振り返る。


現れたのは、顔全体をフードのようなもので覆い隠した、白装束の人物。


「ごめんごめん驚かせたね。転校生は私じゃないよ」


突然現れたその人物は、手品を披露した後にそう言った。
彼は転校生の保護者のようだ。
そして彼は、自分の事は『シロ』と呼んでくれ、と皆に呼びかけた。


「初めましてシロさん。それで肝心の転校生は?」


殺せんせーの問いに、シロはようかんを手渡しながら答える。


「ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね。私が直で紹介させてもらおうと思いまして」


そしてシロは、その転校生の名を呼び出した。


「おーいイトナ!!入っておいで!!」


その、数秒後。


ゴッ!


凄まじい音と共に壁が割れ、そこから人が入ってきた。


「俺は……勝った。
この教室のカベよりも強い事が証明された。
それだけでいい……それだけでいい……」

「……」


なんかまた面倒臭いの来やがった!!

クラス全員、そう思った。

花澄は若干引いた顔つきでイトナの事を見つめている。
殺せんせーに至っては、笑顔でも真顔でもない中途半端な表情をしていた。


「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい」


皆が呆然とする中、シロが彼の名を紹介する。

そんな中でも、相変わらず飄々としている人物がいた。


「ねえイトナ君。ちょっと気になったんだけど」


その人物ー赤羽業は、イトナを見つめながらそう話し出す。


「今外から手ぶらで入って来たよね。
外どしゃ降りの雨なのに……何でイトナ君一滴たりとも濡れてないの?」


イトナは血走った目で暫くカルマを見つめていたが、不意にキョロキョロと辺りを見回してからガタリと立ち上がった。


「……お前は、多分このクラスで1番強い」


彼はそう呟きながら、カルマの席へと近づいて行く。


「けど安心しろ。
俺より弱いから……俺はお前を殺さない」


そう言いながら、イトナはクシャクシャとカルマの頭を撫でた。
そして、殺せんせーに近づき、はっきりと殺せんせーに宣戦布告をする。


「だって俺達、血を分けた兄弟なんだから」


そんな衝撃的な言葉と共に。





昼休み。
放課後にこの教室で勝負をすると言い残して一旦教室を去ったイトナだったが、昼には大量の菓子類ーしかも全て甘い物ーを持って教室に帰ってきた。


「……あの、堀部君」


誰もがイトナを静観する中、花澄は恐る恐るイトナに話し掛ける。

勇者かよ若山!?

2人で弁当を食べながらイトナの様子を伺っていた磯貝と前原は顔を見合わせた。


「堀部君、甘い物好きなんだよね?
……あの、コレ、あげる」


そう言って花澄が差し出したのは、自身の弁当に入っていたレアチーズケーキテイストのさけるチーズだった。

ー何だよレアチーズケーキテイストって!?
ーってか若山ってさけチ好きだったのかよ!?

磯貝と前原は内心そうツッコミを入れる。

一方のイトナは、差し出されたさけるチーズを暫く見つめていたが、その後黙ってそれを受け取った。


「苗字で呼ぶな。下の名前でいい」


受け取ったさけるチーズを開封しながら、イトナは礼の代わりに素っ気なくそう答える。


「……うん。解った、イトナ君」


花澄はほっとしたようにふわりと微笑んだ。


「……何アレ」


何であんなに早く馴染んじゃってんの。

そんな彼女の様子を見ていたカルマは、少し不貞腐れたようにそっぽを向いた。

てか花澄って、人見知り激しいんじゃなかったっけ?
まあ花澄の事だから、大方人見知りを克服しようとしてるってところなんだろうけど……

なーんか、変なカンジ。

カルマはつまらなそうにいちご煮オレをズズッと啜った。





時は放課後。
予告通り、イトナが暗殺を仕掛ける時がやって来た。
教室の内装は机のリングへと作り替えられた。
この試合形式の暗殺におけるルールは『リングの外に足が着いたらその場で死刑』というものだ。


「では合図で始めようか。
暗殺……開始!」


シロの一言で、試合形式の暗殺は幕を開ける。

次の瞬間−。
皆の目は、ただ一点に釘付けになった。
切り落とされた先生の腕に……ではなく!


「……まさか」

「触手!?」


一瞬途方に暮れた殺せんせーだったが、暫くすると段々顔を真っ黒に染め始める。

ド怒りだ。
花澄はギュッと拳を握り締めた。

何故、殺せんせーはイトナの触手を見ただけでこんなにも怒りを顕(あら)わにしたのか。
先生の過去に、一体何があったのだろう。

イトナと殺せんせーの戦いを茫然と見つめながら、花澄は頭の片隅でぼんやりとそう考えた。
目の前で戦う殺せんせーはかなり窮地に立たされており、シロによって先生の弱点が次々と判明されていく。

何でだろう。
このまま行けば、もう少しで、あとほんの少しで地球が救われる筈、なのに。

何でこんなに悔しいんだろう。
何でこんなにモヤモヤするのだろう。


「……そっか」


人任せにしていたからだ。

今迄どこかで暗殺を他人任せにしている自分がいた。
きっと誰かが殺るだろうと、そんな思いで毎日を過ごしていたような気がする。

でも、それでは駄目なのだ。
自分が……いや、皆で殺らないといけないのだ。


結局、殺せんせーはピンチに陥ったものの、自らの経験を活かしてイトナをリングの外に追い出した。


「生き返りのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい」


そう言って殺せんせーはイトナを諭すものの、勉強嫌いな彼は黒い触手を揺らして暴れ始める。
これはマズい、と皆が思ったところで、イトナはドサリと崩れ落ちた。


「すいませんね殺せんせー。どうもこの子は……まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ」


イトナに麻酔薬かなにかを撃ったシロは、イトナは暫く休学にさせると言って彼を抱え上げる。


「心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。
3月まで時間はないからね」


こうして、謎の家庭教師シロと転校生イトナは、転校初日に姿を消したのであった。





その日の帰り道。
花澄は渚と茅野、杉野と共に帰路についていた。


「結局解んなかったね、殺せんせーがあの時怒った理由」


茅野の言葉に、3人はコクリと頷いた。
イトナとシロが教室を去った後、生徒達は殺せんせーに色々と問い詰めたものの、結局先生は何も答えてはくれなかった。
「答えが知りたかったら殺してみなさい」とだけ言葉を残し、殺せんせーはこの話を終わりにしてしまったのだ。


「にしてもさー、」


杉野が腕を組みながら話し始める。


「イトナの奴、俺らのクラスに来る気あるのかな。あのシロって奴もなんか胡散臭いし、保護者って言ってるのもイマイチ信用できない気がするんだけど」

「うーん、まだ何とも言えないけど、僕達のクラスの誰も殆どイトナ君とは話してないよね……。
そう言えば、花澄は?イトナ君と少し話したんだよね?」

「あ、うん。話したよ」


花澄は渚の問いにそう答えた。


「話してみて思ったけど……私は、イトナ君にはE組に入ってほしいなあ」

「え、どうして?」


花澄に茅野がそう質問する。


「だってイトナ君、触手は持ってるけど、話してみたら普通に良い人だったもん。殺せんせーだってあんな姿だけど、全然普通の先生でしょ?
それに、殺せんせーと同じ能力を持つ人がクラスメイトにいたら、今後の暗殺で凄く活躍できると思うんだよね」

「まあ、確かにそれはあるかもなー」


うんうん、と杉野は納得した面持ちになる。


「今すぐにはクラスメイトになれないかもしれないけど、なれる日が来たら良いね、花澄」

「うん!」


花澄は笑顔でそう渚に応えた。



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