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20時間目
長かった梅雨も明け、いよいよ本格的な夏の到来だ。
そしてこの時期に訪れる椚ヶ丘中学校のイベントは−


「クラス対抗球技大会……ですか」


トーナメント表を眺めながら、殺せんせーはそう言った。

椚ヶ丘中学校の球技大会では、3年E組は本戦にはエントリーされない事になっている。
だがその代わり、大会の締めのエキシビションマッチに出場しなければならない。
この試合では、E組の生徒は、男子は野球部の選抜メンバーと、女子はバスケットボールの選抜メンバーと戦わされるのだ。
本校舎の選抜メンバーは、大抵その部に所属する人で構成されている。
部に所属するメンバーは、本戦には出られない決まりになっているからだ。

つまりこれは、いつもの如く『見せしめ試合』と言うわけだ。

女子は片岡メグを中心として練習を行う事になり、男子は『野球部に勝ちたい』という杉野の心意気に答えて、殺せんせーが監督を務める事になった。





「それじゃあ、まずはみんなで軽く試合やってみよっか。それからみんなのポジションとか決めてこう」


片岡の一言で、女子の練習が始まった。


「花澄、パス!」

「は、はい!カヤちゃん!」


花澄の放ったボールは敵の莉桜にブロックされ、そのまま莉桜は見事にシュートを決めてしまった。


「もしかして若山さん、バスケ苦手?」


試合が終わった後、片岡は花澄にそう問いかける。
花澄がその問いにコクリと頷くと、その場にいた奥田が口を開いた。


「意外ですね。若山さん、運動得意そうなのに」

「うん、基本的には運動は得意なんだけど……バスケだけは何でかうまく出来ないんだよね。シュート決まらないし、パスも下手くそだし」

「でも若山さんは運動神経は良いから、コツさえ掴めばかなり上手くなれるよ。これから頑張ろ!」


片岡はそう言って花澄の肩をポンと叩くと、皆の方に向き直る。


「じゃあ、今から私が言う通りに2人1組を作って、その2人でシュートとかパスの練習をしてみよう!バスケが得意な方は、苦手な方にコツとか教えてあげてね」


片岡の指示で、花澄は速水凛香とペアを組む事になった。


「宜しくね、速水さん」


花澄がそう言うと、速水は黙ってコクリと頷く。
実を言うと、花澄は速水に少し苦手意識を持っていた。
速水は基本的に無口で無表情なので、何を考えているのか分からない時があるのだ。
切れ長の瞳で顔立ちが整っているとは思うのだが、少し怖くてなかなか言い出せなかった。


「取り敢えず、シュートやってみて」


速水は素っ気なくそう言うと、クルリとゴールの方に体を向ける。
花澄がゴールに向かってボールを打つと、ボールはゴールポストに当たったものの、籠の中には入らなかった。


「フォームは悪くないと思う。でも慣れてない内は正面からじゃなくて斜め45度位のとこから打った方が良いよ」


そう言って速水は手本を見せてみせる。
ボールは見事に籠の中に収まった。

このように、花澄が打ち、速水が一言アドバイスをする、と言う練習を繰り返すこと、約20回。


パシュッ。


花澄のボールは、見事にゴールポストに収まった。


「はいっ……た!」


花澄はすかさず速水の方を見る。


「凄いじゃん」


速水はそう言って軽く微笑んでいた。

−速水さんも、こんなふうに笑うんだ。

花澄は目を瞬かせる。

−私、速水さんの事誤解してた。
−速水さんって、一見冷たく見えるけど、ホントは優しい人だ。

謝らなきゃな、と思い、花澄はギュッと拳を握り締める。


「あのね、速水さん。私、今まで速水さんの事、ちょっと誤解してた。孤高でクールな人なんだと思ってたから、実は速水さんの事、ちょっと怖かったんだ。
だけど、速水さんってホントは優しくて、人が好きなんだよね。ただ、無駄に目立ったり、飾ったりするのが嫌なだけなんだって、ようやく解ったの。
今まで勝手に速水さんの事怖いなって思っててごめんなさい。これからはもっと速水さんと仲良くなりたいな」


一気にそう話してから恐る恐る速水の方を見ると、彼女は少し困惑したような目で自分の事を見つめていた。


「……そんな事で、わざわざ私に謝ってくれたの?」


暫くしてから、速水の口から出てきた言葉はそれだった。
花澄がその問いにコクリと頷くと、速水は声を上げて笑い始める。


「……?あの、速水さん?」

「あはは。若山って面白い人ね」

「えぇ!?そ、そうかな?」

「うん。変なトコで馬鹿正直」


嫌いじゃないけど、と言って速水は照れくさそうに笑う。


「……明日も一緒に練習しよっか」


小さな声でそう言う速水に、うん、と言って花澄はニコリと微笑みを浮かべた。



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