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25時間目
プールでの一件も終わり、いよいよ期末テストの時期がやって来た。
若山花澄にとって、今回の期末テストはとても重要なものである。
浅野学秀との例の約束があるからだ。
球技大会のあの日以来、花澄は期末テストの勉強を始めていたものの、ここ最近では追い打ちをかけるように真剣に学習に打ち込む姿がしばしば見られるようになった。
そんな花澄を見て−赤羽業は時折不機嫌そうな表情を浮かべていた。



殺せんせーからの提案で、今回の期末テストで各教科で1位を取った人達には、殺せんせーの触手を1本破壊できるという権利が与えられることになった。
殺せんせーが触手1本につき失う運動能力は約20%。
5教科、更に総合で1位をとれた暁には、先生の触手を最大6本も破壊することが出来る。
これはE組のメンバーにとってまたとないチャンスであった。


「花澄」


ある日の放課後、花澄が教室を出ようとすると、渚が彼女の名前を呼んだ。


「これから磯貝君達と図書館で勉強するんだけど、一緒に行かない?」

「あー……ごめん渚。私、今日はパス。家で1人で勉強する方が、私の性分に合ってるから」

「そっか。じゃあ、また明日ね」

「うん、バイバイ」


渚に言った言葉は、半分嘘で半分事実である。
本当はこの後、花澄は少し本校舎に立ち寄るつもりだった。
正確には、浅野学秀の所に行くつもりだったのだ。
何故なら、彼に1つ頼みたい事があったからである。


「花澄ー、」


教室を出たところで、今度は気だるい声が後ろから飛んで来た。


「……カルマ」

「今帰りー?
一緒に帰ろーよ」

「……ごめんカルマ、私今日は一緒に帰れない」

「……何で?」

「っ、」


どうしよう。
何て言えばいいんだろう。

花澄が無言を貫いていると、ハァッとカルマは態とらしく大きな溜息を吐いた。


「花澄さぁ、最近付き合い悪くない?」

「……それは、今が期末テスト前だから」

「でも中間テストの前はこんなんじゃなかったよね?
幾ら花澄が真面目だからって、最近やけに根詰めすぎじゃね?てか花澄はそんなに必死に頑張らなくても、よゆーで良い点採れるでしょ。もっと肩の力抜いて−」


彼がそこまで言いかけた時だった。


「……カルマに、私の何が解るの?」


あまりにも楽観的思考のカルマに、花澄はとうとう堪忍袋の緒が切れた。


「……は?」


カルマは珍しく目を見開いている。


「っ、私は今回の期末テストは絶対にミスが許されないの!カルマは良いよね、努力なんかしなくたって簡単に良い点取れちゃうんだから。私はカルマとは違う、カルマと違って努力しないと点が採れないの!だから今必死にやってるのに、何でカルマはそれを解ってくれないの!?もう放っといて!」

「……へえ?」


花澄の発言を聞いて、カルマの頭にも血が登った。


「じゃあ俺からも言わせて貰うけど、最近の花澄は前よりヤな奴になったよね。俺や渚君が話しかけても素っ気ないし、さっきだって俺の質問に答えられないみたいだったし?自分では上手く振舞えてるつもりだったのかもしれないけど、俺にはバレバレだから。花澄が何隠してるのかは知らないけど、思いっきり隠し事されるのってこっちからするとスゲーイラつくんだよね。俺は花澄と友達だと思ってたけど、花澄はどーなの?そーやって俺らに隠し事してる時点で俺達のこと見下してんだろ」

「そんなことない!」

「じゃーなんで何も話してくれないの?」

「……」

「ほら、またダンマリだ」


違う、違うのに。
話したくても、話せないだけなのに。

花澄は目頭がジワリと熱くなるのを感じた。


「……もういい。花澄は俺のこと馬鹿にしてたんだって解ったから」


そう言って花澄に背を向けるカルマ。


「おいカルマ!」


磯貝悠馬が慌てて彼を追いかけていく。
花澄はカルマの後ろ姿を見ながらその場に崩れ落ちた。

悪いのは私だ。
浅野君とあんな賭けをしてるから。
私がこの教室に残りたいというただそれだけの我儘で、私はカルマや渚を無意識に傷つけてしまっていたんだ。

拭っても拭っても、花澄の目にはどんどん水が溜まっていく。
渚は何も言わずに花澄の傍に近づくと、彼女が落ち着くまで優しく背中をさすり続けた。





Side Karuma.
言い過ぎた。

花澄の泣きそうな顔を見た瞬間、俺は咄嗟にそう思った。

でも、俺はホントに花澄にムカついてたんだよね。
ココ最近、いつも花澄はピリピリしてた。
俺が話しかけても参考書から目を話すことはなかったし、目が合ってもすぐに逸らされてた。

あーコレ、絶対なんか隠してるな。

そうは思ったけど、俺は何も言わなかった。
ホントは花澄が何を隠してるか知りたかったけど、俺がそれを言ったことで花澄と気まずい関係になんかなりたくなかった。
そんな風に、思ってたのに。

花澄は自分のことを棚に上げて、俺に説教じみたことを言ってきた。

はぁ?何言っちゃってんの花澄。

初めて、本気で花澄に腹が立った。

気がついたら、俺の口からは辛辣な言葉ばかりが飛び出していた。
少し冷静さを取り戻した頃には時すでに遅し。
花澄は目に涙をいっぱい溜めていて、それがこぼれないように必死に堪(こら)えていた。

あー、やっちゃった。

でも、俺はその場で彼女に謝りはしなかった。
確かに酷い言葉ばかりを並べてしまったのは事実だが、それよりも隠し事をしてた花澄の方が悪いと思ったからだ。
それに、此処で互いに謝ったら、結局花澄の隠し事は有耶無耶になってしまうような気がした。
だから、素っ気ない物言いですぐにその場を立ち去ったのに。


「カルマ!」


磯貝がわざわざ俺のことを追いかけてきた。

出たよ、磯貝のお節介。

俺は磯貝のことは嫌いじゃないけど、コイツの世話焼きなところは少し苦手だ。
俺を呼ぶ声を無視して歩いていると、磯貝はとうとう俺の肩を掴んで揺さぶり始めた。


「カルマ!」


あーもう、めんどくさいなぁ。


「……何?磯貝」

「何、じゃねーよ!お前さっきのは流石に言い過ぎ……」

「解ってるよ。反省してる」

「ホントかよ……」


磯貝は心配そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。


「なぁカルマ、お前がイラつくのも解る。だけど、きっと若山にだって何かしらの事情があったんじゃないのか?だから若山は」「磯貝」


俺は磯貝の言葉を遮った。


「コレは俺らの問題だよ。気持ちは嬉しいけど、自分達で蒔いた種はちゃんと自分達で回収するからさ。放っておいてくれる?」


磯貝は暫く俺を見つめて何か考えていたようだったが、「解った」と言って最終的には観念した。


ホントは解ってるんだ。
磯貝が伝えたかったことも、花澄が理由もなく隠し事をするような人間じゃないってことも。

だけど、許せなかった。
あんなに一緒にいたのに、頼りにされてない気がして悔しかった。


「……ホント何なんだろーね」


いろんな意味で、こんなに俺の心を振り回すなんて。



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