■ ■ ■


28時間目
「起きて起きて殺せんせー!!見えてきたよ!!」

「東京から6時間!!」

「殺せんせーを殺す場所だぜ!!」


「島だーっ!!」


皆の歓声を合図に、椚ヶ丘中学校特別夏季講習の開幕だ。





殺せんせーの暗殺は夕食の後に行われる為、それまでは修学旅行の時のように班別行動で殺せんせーとレジャーを楽しむことになった。
1つの班が殺せんせーと遊んでいる間に、他の班は綿密に現地をチェックし、着々と暗殺の準備を進める。
ただ遊んでいるように見えて、彼らは至って真剣だった。





夕食の後はいよいよ暗殺だ。
3年E組の生徒達は、自分達の担任を、ホテルの離れにある水上パーティールームへと連れていく。
まずは三村が編集した動画を見た後、テストで勝った8人が触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始めるというスタンスだ。


「準備はいいですか?」


殺せんせーはギシリと音を鳴らして席につき、生徒達にそう呼びかけた。


「全力の暗殺を期待しています。君達の知恵と工夫と本気の努力、それを見るのが先生の何よりの楽しみですから」

「遠慮は無用。
ドンと来なさい」


そう言って、標的(ターゲット)は不敵に笑う。


「言われなくとも上映(はじ)めるぜ、殺せんせー」


岡島は殺せんせーにそう言葉を返すと、パチンと部屋の明かりを消した。





とどめの2人−千葉龍之介と速水凛香に全てを託し、辺りが盛大な光に包まれた中、今までとは違う、確実に殺ったという手応えが皆の周りに芽生えつつあった。


「殺ったか!?」


一同が辺りを見回して疑心暗鬼に包まれる中、プクプクと水面に泡が立ち始め、その音は次第に大きくなり始める。

そこから出てきたのは−
殺せんせーの、完全防御形態。

この形態になった殺せんせーは完全無敵。
あらゆる攻撃を跳ね返してしまうのだという。

ここに来ての、殺せんせーの隠し技。

殺せんせーは、「軍隊でも先生をここまで追い詰めたことはなかった」と言って暗殺を褒めてくれたが、皆の落胆は隠せなかった。





ホテルに戻った渚は、皆の様子を見て違和感を覚えた。
大掛かりな暗殺だったとは言え、いくら何でも皆疲れすぎではないだろうか。
そう思った直後、中村莉桜は渚のすぐ傍で倒れ、岡島大河は大量の鼻血を出し始めた。
一同が動揺する中、烏間の元に1本の電話が。
電話の主が言うには、生徒達にはウイルスを感染させたらしく、その治療薬の手持ちは電話の主のみなのだそうだ。
治療薬が欲しければ、今動ける中で1番背の低い男女−つまり、潮田渚と茅野カエデが、1時間以内に山頂にある普久間殿上ホテルに完全防御形態の殺せんせーを連れて来い、とのことだ。


「良い方法がありますよ」


烏間と動ける生徒達が悩む中、殺せんせーはこう提案した。

動ける生徒達でホテルに侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る、という内容だ。

イリーナと烏間は不可能だと言い張ったが、動ける生徒達15人は皆やる気に満ち溢れていて。

烏間惟臣は、覚悟を決めた。


19:50分。
かくして、15人の生徒達と2人の教員、そして謎の超生物との隠密作戦は開始されたのだった。





侵入早々、最大の難関。
ロビーの警備が厳しい為、烏間はどう動けば良いのかひたすら考えていた。
だが、そこで動いたのはイリーナ。
彼女の優れたハニートラップとピアノのパフォーマンスのおかげで、全員無事にロビーを通り抜けることができた。

優れた殺し屋ほど万に通じる。

改めて彼らは、プロの大人の技術の威力を思い知らされたのだった。





3階、中広間。
向かい側から来た男の異変に不破優月が気がつくも、時既に遅し。
何とか烏間がその男−スモッグを撃退したものの、烏間はスモッグのガスに浴びせられたせいで、かなりの大ダメージを食らってしまった。

標的(ターゲット)は10階にいるというのに、もう大人には頼れない。
この先には、経験も知識も豊富な大人(プロ)がまだまだ待ち構えているのだ。
それを、今度は自分達の力で打破していかなければならない。

−私達、ホントに大丈夫なのかな。

花澄がそう考えながら俯いていると、ふいにポンポンと頭を撫でられた。


「……カルマ」

「そんなに不安そうな顔してたら、クリア出来るモンも出来なくなっちゃうよ」


もっと前向きに考えなよ、と言って、カルマは再び花澄の頭を撫でた後、渚の隣へと向かって行く。

−心配、してくれたのかな。

花澄が自分の頭にそっと手を乗せると、そこにはまだカルマの温もりが残っているような気がした。





5階、展望回廊。
先頭を歩く寺坂は、狭くて見通しの良い展望通路に、1人の男が堂々と立っているのを目撃した。


「……あの雰囲気」

「ああ。いい加減見分けがつくようになったわ」

「どう見ても『殺る』側の人間だ」


全員がその場でひっそりと待機していると、突如ビシッという音と共に窓ガラスに亀裂が走った。
どうやら男が素手でガラスを割ったらしい。


「……つまらぬ」


その男は、淡々とした口調で話し出す。


「足音を聞く限り、『強い』と思える者が1人も居らぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ……だ。
どうやら''スモッグ''のガスにやられたようだぬ。半ば相討ちぬといったところか。
出てこい」


その声に従い、生徒達、そして烏間は、物陰からそろそろと正体を現す。

そ、それより……
怖くて誰も言えないけど、
なんかその……


「"ぬ"多くねおじさん?」


言った!!
良かったカルマがいて!!

全員が全員、心の底からそう思った。

その男は外国人で、『ぬ』をつけるとサムライ口調になると小耳に挟んだと言う。


「間違っているならそれでも良いぬ。
この場の全員殺してから"ぬ"を取れば恥にもならぬ」


男は手をゴキゴキと鳴らしながらそう言った。

彼の武器は素手。
身体検査にも引っかからず、その気になれば頭蓋骨さえも握りつぶしてしまうらしい。

だが男は、雑魚ばかりを1人で殺すのも面倒だと言い放ち、ボスと仲間に連絡をとろうとした。

だが、次の瞬間。

ガシャン!

派手な音と共に男の手から携帯電話が吹き飛び、そして壊れた。


「ねえ、おじさんぬ」


目を見開くその男に、今しがた鉢植えで攻撃を仕掛けた相手−赤羽業は、静かに、そして挑発的に話しかける。


「意外とプロってフツーなんだね。
頭蓋骨とかガラスなら俺でも割れるよ。
ていうか、速攻仲間呼んじゃうあたり、中坊とタイマン張るのも怖い人?」

「!!」

「よせ!!無謀……」

「ストップです烏間先生」


殺せんせーは、焦る烏間にそう声を掛けた。
殺せんせーが言うには、今のカルマは、口の悪さは変わらないものの、期末テストの敗北からきちんと学び、相手を注意深く観察できていると言う。


「カルマ……」


−お願い。負けないで。

花澄は知らず知らずのうちに両手を組んで顔の前に持ってきていた。



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