■ ■ ■


3時間目
渚、何処にいるんだろう。

花澄はキョロキョロと辺りを見回す。

教室には絶対いられないだろうし……
というか、最早こっちの校舎にはいられないんだろうから……外?


外に出てみると、遥か前方に髪を後ろで1つに束ねた小柄な後ろ姿を見つけた。


「……渚ッッ!!」


花澄は大声で名前を呼びながら走り寄るが、彼が気付く様子はない。


「渚ッ!!!」


お願い気付いて。
私に気付いて。


「……あ、れ、花澄?」


渚の元まで近づくと、流石の彼も花澄に気が付いたようで、戸惑いながらも声を掛けて来た。


「ハァッ、渚……私……ごめんね!」


少女は彼に向かって深々と頭を下げる。


「私、渚がE組行きになっちゃったのにビックリして、ショックで、現実から目を背けたくなって、思わずあの場を逃げ出してた。でも、本当に逃げ出したかったのは渚だよね。だから……ごめんなさい。それに私、渚の成績が悪いの、全然知らなかった。幼馴染なのに。渚の事、1番解ってなきゃいけない筈なのに、全然知らなくて……本当にごめんなさい」

「花澄……」


渚は頭を下げている幼馴染を暫く見つめていたが、不意に自分の手を花澄の頭に乗せた。


「大丈夫だよ花澄。僕、花澄がまだちゃんと僕の友達でいてくれる事が、凄く嬉しいから。
……クラスのみんなはさ、僕のE組行きが決まった瞬間、掌を返したように僕の事を嘲笑ったんだ。『お前とはもう友達じゃない』『アドレスなんか消してやる』って」

「!酷い……」

「仕方がないことなんだ。これがこの学校の絶対的な制度だからね。
……あのね、花澄。僕も君に、1つ謝らなくちゃいけない事があるんだ」


渚はすぅ、と息を吸い込んだ。


「……実はね、僕、今回の中間テストの直前に、大野先生に忠告されてたんだ。『今度のテストが悪かったら、お前はE組行きだぞ』って。それを花澄に言おうとしたけど、勇気が無くて全然言えなかった。だって、きっと花澄はこのまま行けば確実に特進クラスのA組入りでしょ?だから僕、余計な心配掛けたくなくて話せなかったんだ」

「ッ……馬鹿、渚の馬鹿!それ、私が渚にした相談なんかより凄く大事な事じゃんか!」

「そんな事ないよ。花澄は勉強が出来るけど、中学に入ってから人間不信みたいになっちゃって、友達作り出来なかったじゃん。それだって深刻な悩みだよ」

「で、でも……」

「そんなに気に病まないで、花澄。E組に落ちたとしても、僕は君の事をずっと友達だと思ってるし、君も僕の事を友達だと思ってくれるなら、僕は大丈夫だから。だから花澄には、ちゃんとA組に入って、やりたい事をとことんやって欲しい。
そして、できる事なら……A組のメンバーとして、E組を馬鹿にするこの校風を変える努力をして欲しいんだ」

「渚……うん、解った。解ったよ。私、頑張るから」


花澄は渚に手を差し出す。


「ね、渚、指切りしようよ」

「え!?指切り?」

「うん。ちょっと子供っぽいかもしれないけどさ、こう言うのって、大事な事だと思うから」

「……そだね。やろっか」


2人はそっと小指を絡ませ約束を交わす。

寒々しい1月の空の下、花澄は渚に無事に謝れた事に安堵していた。


「そうだ、渚」

「ん?何?」

「……やっぱり私、赤羽君の事、ちょっと誤解してたみたい。
飄々としててイマイチ掴み所は無いけどさ、渚の言う通り、良い人だった」

「そっか。じゃあ、カルマ君とは仲良くなれそう?」

「うん」


少女が笑って頷くと、渚は心底安心したような表情を見せた。


「良かった。じゃあ、本校舎に僕がいなくても、もう花澄は安心だね」

「あ、その事なんだけどね」


花澄は風でたなびく髪を耳にかけた。


「私、友達作りを頑張ってみようと思うんだ。これからは、渚だけじゃなくて、もっとみんなに誠心誠意尽くしてみようと思う。そうすれば、きっといつかは素敵な友達ができるだろうから」

「……花澄、ちょっと変わったね。何かあったの?」

「んー……渚と、赤羽君のお陰かな」

「僕と……カルマ君の?」

「うん。渚はいつも傍にいて見守ってくれたし、赤羽君がそこまで悪い人じゃないって解るきっかけをくれたからね。赤羽君は、私が変わる為の後押しをしてくれたんだ。だから、2人のお陰」

「へえ……」


ーカルマ君がそんな事するだなんて……珍しいな。

渚はまたもやカルマの行動に意外性を覚えていた。



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