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5時間目
職員室での騒動の後、花澄はまだ日が高く昇っている時刻にも関わらず家路についていた。
あの後カルマが何処に行ったのかは解らない。
連絡しようにも、花澄はカルマの携帯の電話番号もメールアドレスも知らなかった。
クラスが違うので、自宅の電話番号も解らない。
―赤羽君、大丈夫かな……
一抹の不安を抱えながら、彼女は別の友達の顔をふと思い浮かべる。
―ごめんね、渚。
―私、約束守れなかった。
そんな少女を責めるかのように、乾いた冷たい風がひゅるりと通り抜けた。
その日、空が夕闇に染まり始めた時刻に渚が家に帰ってくると、自分の家の玄関の前に見慣れた幼馴染が立っているのに気が付いた。
平日にも関わらず私服を身に纏うその姿に、渚は若干違和感を抱く。
「……おかえり、渚」
花澄は渚を見るなり挨拶をした。
顔に浮かべられた笑顔が少し哀しげで、渚は一瞬言葉に詰まる。
「……花澄、何かあったの?」
渚は挨拶を返す代わりに少女にそう尋ねた。
「……やっぱり渚には敵わないなー、私」
「そりゃ、幼馴染だもの。ずっと一緒にいたんだから、花澄の様子がおかしい事位、見れば解るよ」
で、何があったの?
そう尋ねる渚に、花澄は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「先に謝っとく。ごめんね、渚。
私……私ね、」
3年からE組行きになっちゃった。
告げられた言葉に、渚は大きく目を見開く。
2人の間に流れる時間が一瞬止まった。
驚きの余り声も出せない渚に、花澄は更に言葉を続ける。
「うちの学校の3年生が虐められてたのを助けようとしたの。でも、私は助けられなくて……
そしたら、赤羽君が私と先輩を助けてくれたんだけど……助けた先輩が、E組の生徒だったらしくて」
「!」
「しかも、これは今日聞いた話なんだけど、赤羽君が殴った先輩は、3年のトップだったんだって。
だから、私も赤羽君も、停学且つE組行きに……なっちゃった」
ごめんね。
渚には、そう言って頭を下げる少女の瞳が潤んでいるように見えた。
「……僕、嬉しいよ」
そして渚は、ポツリと言葉を漏らす。
「花澄もカルマ君も、E組の生徒だからといって卑下なんかしない。かといって同情とか哀れみとか、そういうのも無くて、対等に接してくれるでしょ?だから、嬉しかったよ」
「渚……」
「僕は、2人のやった事は正しい事だったと思うよ。まあ、カルマ君のやり方は、ちょっと強引だったかもしれないけど……」
「……」
「だから、3年生になったら、同じクラスで頑張ろう、花澄」
渚はそう言って、花澄に向かって手を差し出す。
「……ありがとう、渚」
花澄は零れ落ちそうになった涙を拭うと、渚の手を力強くとった。
それから数週間後、彼等は3年生になった。
最も、停学の解けていない花澄とカルマは、まだ学校に通う事を許されてはいないが。
そして、始業式の日から数日後、恐ろしいニュースが世界を駆け巡る。
『月が! 爆発して7割方蒸発しました!』
『我々はもう一生三日月しか見れないのです!』
この、世界を震わすビッグニュースによって、椚ヶ丘中学校 3年E組の未来は大きく変わる事になるが……
少年少女達は、まだそれを知る由もなかった。