短編
In the box! Feat.

事の発端は至って単純だった。


武装探偵社の一員である私は、国木田さんからの指示で、今回この高級ホテルで行われる招宴(パーティ)に護衛役として参加する事になったのだ。
そこに偶々居合わせたのが−


「あ?手前は探偵社の……何でこんなトコに」


この男−ポートマフィア幹部、中原中也である。


「何でって、そんなの仕事に決まっているでしょう。
貴方こそどうしてこんな所にいるの、重力使いの中原中也」

「手前と同じだ。仕事だよ、仕事」

「ふぅん。何でも良いけど、私の邪魔だけはしないでね」

「そりゃ此方の台詞だっての」


私と中原中也は素っ気ない会話をしながら昇降機(エレベーター)に乗り込む。
私も彼も、どうやら目的地は同じ、最上階の招宴会場のようだ。
特に会話も無いまま乗り込んでいた私達だったが、突如ガクンという大きな揺れと共に昇降機が完全に動きを止め、同時に内部の電気が消えた。


「何だ?」


中原中也は声を上げ、昇降機の釦(ボタン)を矢鱈と押し始める。
だが、昇降機は一向に動く様子が無く、それどころか釦の電気すら点く気配がない。


「……閉じ込められた?」


私がぽつりとそう云うと、顔は闇と同化していて見えなかったものの、彼が此方を振り返ったのが解った。


「あァ!?冗談じゃねェ、今直ぐ首領に連絡して−」


中原中也は携帯電話の電源を入れたが、そこに映し出された『圏外』の2文字に唖然とする。


「チッ、巫山戯んな! こんなモン、ぶっ壊して外に出りゃァ善いんだよっ!」

「は!?ちょ、一寸待って!」


この小さな男が天井に向かって思い切り打拳(パンチ)を打とうとする直前に、私は思わず声を上げた。


「貴方莫迦なの!?此処でそんな事して、若しこの昇降機を吊るしている鉄条(ワイヤー)が切れたら如何するの?この昇降機毎(ごと)地面に向かって真っ逆さまに落ちる事になるでしょう?最悪昇降機に潰されてペシャンコに成り兼ねないんだけど!」

「あァ?そン時ゃそン時だっての。第一俺の異能を使えば、そんな事にはなりゃしねえよ」

「……真逆貴方が此処迄莫迦だとは思わなかった。本当にポートマフィアの幹部なの?」

「手っ前ェ!! 俺に喧嘩売ってンのか!?」

「莫迦に莫迦って言って何が悪いの?こういう高級ホテルみたいな防御(ガード)の硬い建物では、昇降機内部では異能力が使えない仕様になってるの。そんな事も知らないの?」


私の言葉に、中原中也はハッとして目を見開いたように見えた。
そして小さな声で「……悪かったな」と呟く。


「つーか手前、先刻(さっき)から何か微妙に震えてねェか」

「!」


何で此奴は後先考えてないような阿呆なのに、厭に鋭い処(ところ)が有るのだろう。
私は昔から暗くて狭い場所に閉じ込められるのがとても苦手なのだ。
所謂(いわゆる)一種の閉所恐怖症のようなものである。
でもそんな事、敵の幹部の前では口が裂けても言えない。


「……五月蝿い。一寸黙ってて」


だから私は彼に背を向け、膝を抱えて座り込んだ。
屹度もう少し待てば助けが来る筈だ。それまでの辛抱だ。それまでの−


「なまえ」


ヤケに優しい口調で私の名前を呼んだ彼は、私の元に近付いて来て隣に座りんだ。
ふわり、と煙草と香水の匂いが鼻腔を擽る。
そして彼は、私の肩を引き寄せて、ポンポンと優しく頭を撫でた。


「手前、苦手なんだろ。こう云う暗くて狭い処に閉じ込められんのが」


俺の目は誤魔化せねえよ、と彼は続ける。

此奴は探偵社の敵なのに、だのにこの小さな男の温もりにすっかり安心してしまっている自分がいて、そんな自分が情けなくなって、私はぎゅっと唇を噛み締めた。

行き成り名前を呼ぶだなんて狡い。
行き成り優しくなるだなんて狡い。

何だか目頭が熱くなって来て、私は泪が零れないように必死だった。
だが、そんな事すら中原中也にはお見通しだったようで、まだ一滴の泪も滲んでいない私の目元を優しく拭う。


「そんな顔すんじゃねェよ」


我慢出来なくなるだろ、と彼は続ける。
その言葉の意味を理解出来ないまま彼を見つめていれば、中原中也は私の頭に唇を寄せた。


「今の、って……」

「云うな。
其れ以上は、何も」


戸惑いを隠せないまま尚彼を見つめ続けていると、中原中也は照れ臭そうに帽子を目深く被り直した。

其の後、少ししてから救助隊が駆け付け、私達は無事に出る事が出来たのだけれど、あの時以来私は中原中也に会っていない。


途中から何がしたいのかわかんなくなった\(^o^)/中原中也難しい…

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