短編
In Kagerou Daze Feat.

「ようこそ、我が胎内へ」


その声で、私は目が覚めた。

ゆっくり身体を起こして辺りを見回すと、コノハさんと良く似た、だけど似ても似つかない雰囲気を醸し出す青年が、私のすぐ隣で跪(ひざまず)いていた。
首を傾げる私を見て、その男は不気味に微笑む。


「ああ、何がなんだかさっぱり解らない、って顔をしているね。今の君に説明しても解ってもらえるかどうかは分からないけど……此処はカゲロウデイズの中。君はもう、永遠に此処から出る事は出来ないよ」

「……は?どういうこと?
カゲロウデイズって何?」

「あはは、理解出来ないならそれで良い。寧ろ好都合だ」

「答えになってない」


私は苛立ちを顕わにしてそう言った。


「じゃあ聞くけど、それを知ってどうするの?君が真実を知ったところで、君にはどうする事もできないよ」

「どうして?」

「言っただろう。君は永遠に此処から出ることはできないって」


黒いコノハさん−黒コノハ、とでも呼べばいいのだろうか、彼はそう言ってにやりと笑った。
私はそれを見て完全に頭に血が上る。


「ふ、ざけないで! 出して! 此処から出し−いやぁっ!?」


ドンドンと力任せに壁を叩いていると、不意に腕にシュルシュルと何かが巻きつき、私の指に咬みついた。
蛇だ。蛇。
真っ黒い、蛇。
蛇の数はどんどん増え、それぞれが私の脚や腰に巻きついてきて、恐怖の余り私はその場に崩れ落ちてしまった。


「馬鹿だな。そうやって足掻いて抗っても、どうせ何も出来ないのに」

「ひっ! こ、こないで!」


私の悲鳴に耳を傾ける事なく、黒い彼は私の方に近づいてきて顎を掬った。
気持ち悪い。
嫌悪感に顔を歪めると、彼は何が面白いのかクツクツと笑い始める。


「そんなあからさまに嫌そうな顔するなよ。此処から出られる方法が全くないって訳でもないんだから」

「! どういうこと?」

「どうって、そのままの意味さ。まぁ、君は絶対、この方法は選ばないと思うけど」


彼はそう言って自分の親指の腹で私の唇を撫でた。
ぶるり、と背筋が震え、私は思い切り顔を背ける。
彼はそんな私を見て満足気に微笑むと、立ち上がって私を見下ろしながら口を開く。


「方法は至って簡単だよ。君が今1番大切に思っている人の名前を呼ぶだけで良い。
但し、」


彼はそこで口元を歪めて笑みを浮かべた。


「君がこの空間を出た瞬間に、名前を呼ばれたその人物は死ぬ」

「!」


その言葉に、私は顔から血の気が失せて行くのを感じた。
つまりこの空間から私が脱出する為には、私が大切に思っている人の命を犠牲にしなければならないのだ。
なんて残酷な決まりなのだろう。
そんな事を言われたら、私は逃げようにも逃げられないじゃないか。
その場で諦めたように蹲(うずくま)る私を見て、彼は楽しそうに私に声を掛けてきた。


「なんだ、もう外に出ることは諦めたの?」

「……大切な人の命を奪ってまで外に出たいとは思わない」

「ふーん。随分と自己犠牲的だな。馬鹿馬鹿しい」


彼は心底呆れたとでも言いたげに肩を竦(すく)めた。
人の命を何とも思っていないと思しきその態度に、私は自分の中で怒りがふつふつと煮え滾るのを感じた。
と同時に、私は思う。
ああ、可哀相な人だな、と。


「何その目」


彼は私の態度が気に食わなかったのか、そう言って私の首を絞め、そのまま身体を上に持ち上げる。

「ぐっ……!!」

「細っそい首だな。一捻りすれば簡単に折れそうだ」


そう言って更に絞め上げてくるその手を私は必死に剥がそうとするが、それはびくともしない。


「君には学習能力ってものがないのかな?
さっきも言ったよね? 君が何度抗って足掻いて藻掻いたとしても、君には何も出来ないって」

「ッ、だから、と、言って、っ、諦め、たくないっ!」


私は目を赤く光らせながら彼を睨みつける。
咄嗟のことに驚いた彼は、私の首を絞める力を緩めた。
私はその場に放り投げられ、首を抑えてゲホゲホと咳き込む。


「ああ、忘れてたよ。そう言えば君、《目を消す》能力の持ち主だったっけ」


彼は自分の頭をガシガシと掻く。


「厄介な能力だよな。他の蛇の能力を無効化する能力だなんて……チート以外の何物でもない。
折角俺がコイツの身体を乗っ取って能力(ちから)を使ったところで、意味が無いじゃないか」


まあ、だから此処に連れてきたんだけど、と彼は哂(わら)う。
ゾッとするような冷たい微笑みに、またしても私の背中がぶるりと震えた。


「……貴方、何をするつもりなの?」


怯えた本心を隠すように強がって言ったつもりだったのに、口から出てきたのは情けなく震えた声だった。
そんな私の心の奥底を見透かしたかのように、彼は私と視線を合わせるようにしゃがみ込み、にやりと笑う。


「全部終わらせて、初めからやり直すんだよ。
そして繰り返すのさ。
この悲劇を。
この最高の悪夢を」


意味が、分からなかった。

ただ、解ったのは−彼が自分の目的を果たす為には、私のこの能力が邪魔なのだ、という事だけだった。


「君はずっと此処で見ていると良い。
君の大切な人達が突然俺に嬲(なぶ)り殺され、女王が泣いて依(よ)がって願いを叶え、また楽しい日々に戻ったところで、俺によってそれを全部粉々に壊される……そんな愛とエゴの繰り返しを」


この世界で、俺と一緒に、永遠にね、と付け加え、彼は固まったままの私にそっと口づける。
彼の唇は死人のように冷たかったが、下唇を舐められて耐えきれずに開けてしまった私の口に入ってきた舌は、何故か蕩けそうな程に熱を持っていた。

私は悟る。
ああ、これが私の運命だったのか、と。
私はもう、此処から逃げられやしないのだ、と。


「受け入れろよ、これが運命(さだめ)だ」


彼はそう告げると、両手を広げて狂ったように嗤(わら)った。





な ん だ こ れ。
黒コノハは凄く好きなキャラクターなのですが、公式からの供給がまだあまりにも少なすぎて凄く難しいです。
口調が迷子だよ…一人称すら解らないよキミ…
黒コノハの夢小説はもっと増えてもいいんじゃないかって切実に思って生きています。
以上独り言でした。
お粗末様でしたっ

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