短編
存在理由レゾンデートル

※中也と夢主が恋人設定

隣で眠るなまえを見て、時々不安になる。
紆余曲折色々な事を乗り越えて、俺となまえは恋人同士になった。
だが、恋人になった今となっても、時折ふと考えて仕舞うのだ。

本当に、これで善かったのだろうか、と。
なまえには、別の人生を選ぶ事も出来たのではないか、と。

俺がポートマフィアの人間だとか、此奴が警察官の人間だとか、そういう『立場』の問題には何度もぶつかって来たし、その度に話し合いを重ねて来た。
だが、抑々俺は、人の皮を被った化け物なのだ。
勿論、≪荒覇吐≫については数年前に自分の中で折り合いをつけた心算ではいるものの、それが恋愛ともなれば話は別だ。
化け物の俺が、光の世界で生きているみょうじなまえという『人間』の未来を、人生を奪って仕舞って本当に善かったのか、俺には判らなかった。


「……なまえ」


俺は彼女の髪を梳き乍ら、名前を呟く。
するとなまえは、少し擽ぐったそうに眉を寄せてからゆっくりと瞼を持ち上げた。


「ん……ちゅうや?未だ起きてたの?」

「嗚呼。……悪ィな、起こしちまって」

「んーん、だいじょうぶ……」


眠たそうに小さく欠伸を零す彼女を見て、俺は思わず頬を緩ませる。
未だ寝てても善いぞ、俺がそう声を掛けようとする前に、なまえが不思議そうに首を傾げた。


「中也、如何したの?」

「如何したって……何がだ?」

「何か、一寸元気無いでしょ、今」

「!」


矢張り、此奴の目は誤魔化せないようだ。


「なァ、」


だから俺は、その言葉に甘えて仕舞いたくなったのだ。


「なまえは、俺のどこが好きなんだ?」

「はぁ?何それ、今更過ぎない?」

「善いだろ別に。減るモンじゃねェんだし」


クスクスと笑う彼女に、俺は早口でそう答える。


「うーん、そうだなァ……」


彼女は耳に髪を掛け乍ら、少しの間考え込むような素振りを見せる。


「中也の好きなとこはいっぱいあるよ。綺麗なサファイアブルーの瞳とか、猫みたいにふわふわした癖っ毛とか。嗚呼、中也は髪の色も綺麗だよね。陽の光に当たるとキラキラ輝いてて。羨ましいなァ」

「それは外見の話だろ。性格的にはどうなんだよ?」


俺がそう尋ねると、なまえは少し慌てたように両手を前に突き出した。


「勿論、中身も好きな処はいっぱいあるよ!兄貴分で男前な処とか、真面目な処とか。あ、あとね、私、中也が闘ってる姿を見てるのも好き。誰よりも格好良くて、思わず目を奪われちゃうんだ」


彼女はそう云ってから一息吐くと、「でもね、」と再び口を開く。


「1番好きなのは……中也が、何時も私の事を1番に考えて呉れている処」

「!」

「実感する度にね、『嗚呼、私こんなに中也に愛されてるんだ』って、凄く幸せな気持ちになれるんだ」


胸に手を当ててそう答えるなまえの姿を見て、俺は思わず口元に手を置いた。
そんな俺を見て小さく笑い声を零した彼女は、少しだけ表情を引き締めると、真っ直ぐに俺を見詰め乍ら再び口を開く。


「中也は、私の事で悩んだり落ち込んだりする度に『女々しい自分が情けない』って思ってるのかも知れないけどさ。私は、中也が私の事を想って悩んだり喜んだりして呉れるのが嬉しいよ。冷酷無慈悲なポートマフィアの幹部なのに、中也はマフィアの誰よりも人間らしい心を持ったステキな人なんだなって思う」


ーそんな中也だから、私は好きになったんだ。

なまえの一言に、俺の心がフッと軽くなったのを感じた。
彼女にこうして心を救われたのは、もう何度目だろう。
矢張りなまえは、俺にとっての特別な存在だ。


「ねェ、中也」


その愛おしい唇が、俺の名前を優しく唱える。


「出逢って呉れてー私の事を好きになって呉れて、有り難う」


だいすき。

少し恥ずかしそうに呟く姿を見たら、もう駄目だった。
俺は柄にも無くなまえに飛びつき、貪るようにその唇に接吻を落としていた。
目をまんまるに見開いて驚いていた彼女は、幸せそうに目を瞑って直ぐに俺を受け入れる。


「俺も、手前を愛してる」


耳元でそう囁いてやると、彼女は花が綻ぶようにふわりと微笑んだ。





2019.04.29
Happy Birthday to Chuya Nakahara!!

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