短編
雁字搦め

「小ーエービーちゃんっ♡」
「ぎゃあッ!?」

甘ったるい声と共に背後から抱き着いてきた巨体に、私は大袈裟なくらいビクリと肩を震わせた。
いつにも増して大きな反応を見せてしまい、ああ、やってしまったな、と後悔の波が押し寄せる。
そして、そんな私の異常な反応を見逃してくれるほど、フロイド先輩は優しくはない。

「……なーに、小エビちゃん。そんなにビクッとしてどーしたの?」
「……別に」
「……あは♡そんなに俺にギュッと締められてぇんだ?」
「なんでそうなるんですか離れてください」

私がそう遇らうと、フロイド先輩は私を抱き締める腕に力を込める。

「先輩、痛いです」
「痛くしてんだから当たり前じゃん。……で?なんでそんなにビクッとしてたワケ?」
「……」

私が尚も黙りこくっていると、フロイド先輩はふと私の視線の先を見てニタリと笑みを浮かべた。

「……ふーん?もしかして、金魚ちゃんのコト見てたんだ?」
「ち、違います!離してください!」
「あは、図星♡俺って天才じゃね?」

駄目だ、人の話聞いてない。

「金魚ちゃんかぁー。赤くて小っちゃくて可愛いもんねぇ……」

先輩の腕に更に力が篭る。
文字通りに締められ、骨が軋んで悲鳴を上げている。

「せ、んぱ……痛い、痛いです!離してっ……」
「は?だから痛くしてるっつってんじゃん何回も言わせんなよ」
「な、んで……?」

何でいきなり機嫌が急降下したんだろう。
意味が分からない。怖い。

「……ねぇ小エビちゃん。交尾しよっか」
「は……?何、言ってー」

私の言葉は最後まで紡がれることはなかった。
気付いたら、フロイド先輩の薄い唇が、私のそれを塞いでいたからだ。

「ん、ぅ!?」

先輩のオッドアイが愉しげに揺れている。
片手で顔を押さえつけられ、もう片方の手は未だに私の身体に絡みついていて、私はこの状況から逃げ出せそうになかった。

リドル先輩、気付いて。
リドル先輩、助けて……!

私は必死になってリドル先輩に腕を伸ばそうとする。
するとフロイド先輩は、顔を押さえていた手で私の両目を覆い尽くした。

「余所見すんなよ、逃がすつもりねェから」

耳元で低く囁かれ、ビクリ、と肩が震える。
助けて、助けて、助けて。
私の悲痛な叫びは、フロイド先輩の接吻で黒く塗りつぶされた。

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